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ファシリティマネジメント

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ファシリティマネジメント
ファシリティマネジメント特集
経営戦略の中でFMを推進できる組織に
変わっていくことが日本企業の課題
いち早くファシリティマネジメント(FM)の手法を導入し、経営体質の強化を進めてきた米国と、オフィス戦
略そのものが欠如している日本企業。両国の差は、どこから生じてしまったのでしょうか。企業の経営戦略コ
ンサルティングの一環としてF
M
の推進に力を注いできた松岡利昌氏に、
日米の企業組織の違いと日本のオフィ
ス担当者の課題、
そして今後の具体的な取り組みへのアドバイスを伺いました。
株式会社松岡総合研究所(http://www.fmnet.co.jp/MRI)
代表取締役
経営コンサルタント
米国マサチューセッツ工科大学 国際ファシリティエグゼクティブ学会(ISFE)アドバイザー
社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会(JFMA)企画運営委員
米国IFMA
(国際ファシリティマネジメント協会)会員
松岡利昌氏
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。ハーバード大学EFL
プログラム修了。青山監査法人、プライスウォーターハウスコンサルタ
ント株式会社を経て、
1
9
9
1
年に株式会社松岡総合研究所
(M
R
I
)
を設立。
オフィスづくりには文化を含めた
幅広い知識と教養が欠かせない
「日本のメーカーは生産設備である工場の効率化には早くから
熱心でしたが、その一方でオフィスには手つかずで、ファシリ
ティに対する方針が一貫していません。しかしメルセデスでは
……松岡さんは、コンサルタント会社を経て、今のオフィスを設立
本社も工場も、すべてのファシリティを有効に活用するという
されたのですね。ファシリティマネジメント(FM)に関心を持たれ
経営思想がそのころからしっかり根付いていました」
たのはコンサルティングの仕事を始められてからですか?
……そういった経験から、多くの日本企業に対してFMの必要性
「欧米の企業について調べていけば、FMが経営戦略の重要な要素の
を訴えられてきたのですね。
一つであることはわかります。80年代後半からFMに関心を持ちは
「ファシリティは、人、モノ、カネ、情報と並ぶ重要な経営資源の
じめていましたが、
特に強く意識したのは、
1
9
9
5
年に
『メイド・バイ・
一つですから、その管理がちゃんとできなければ組織の体質は
メルセデス』
(ダイヤモンド社)という本を書いたときかもしれま
改善されません。コンサルティングを行ううえで、FMについて
せん。当時のメルセデス・ベンツの経営戦略についてトップなどへ
言及するのは当然ですよ」
の取材を交えながらまとめたのですが、その中の1章を『生産性革
……今ではJFMAでも企画運営委員を務め、FMの専門家だと思っ
命―ファシリティマネジメント戦略』という形でFMにあてていま
す」
……メルセデス社ではそのころからF
M
に力を入れていたのですね。
ている人も多いのでは。
「JFMAの海外視察旅行の団長までやってますからね(笑)。日本
では経営とFMの関係をわかっている人が少ないので、両方に関
わってきた私みたいなのが重宝されるのかもしれません」
トップが社外からスカウトされる米国と
スパイラル昇進制度で誕生する日本企業
て経営に大きく関わるのです」
……日本企業ではその辺があいまいになっているのですね。
「そうなんですよ。
社長はスパイラル昇進制度の中で経理や財務、
……今日、
教えていただきたいのは、
まさにF
M
と経営の関係です。
総務といった部門も経験していることが多いですし、個人的な
米国ではファシリティマネジャー(以下FM'er)が経営戦略その
社内人脈を使っても簡単に情報を集められる。このためファシ
ものに大きく関わっているのに、日本企業ではオフィス担当者
リティマネジャーの専門性が評価しにくくなってしまうのです」
の仕事の領域が非常に限定されている。この差はどこにあるの
……たしかに米国では、FM'erは企業に欠かせないスペシャリ
ストとして評価されていますね。
でしょうか?
「それはこの図を見ていただければわかると思います。日本企
「経営者が外部からスカウトされると同じように、財務や人事、
業では就職すると基本的に終身雇用で、しかも異動によって多
ファシリティの専門家も中途採用されるケースは多いですね。
くの業務部門を経験しながら出世していく。これを私は『スパ
米国IFMA
(国際ファシリティマネジメント協会)は個人会員を
イラル昇進制度』と呼んでいます。そして幹部候補生のうち、
18,000人も組織し、一種の人材供給センターみたいな役割を果
1
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人に1人ぐらいが社長にまで昇りつめるのです」
たしています。そしてそこで人材交流や研究会などが催されて
きたことで、FMの手法が大きく進歩していったという経緯があ
ります」
●従来の日本のFM実施環境
トップマネジメント
スパイラル昇進制度
「総務」
担当というあいまいな分類が
日本企業のオフィス戦略を見えなくする
……日本企業の多くでは、ファシリティ戦略を担当する専門部
門がなく、総務部がオフィス全般を見るといった形になってい
ますが、これも日米の組織の成り立ちの違いに起因しているん
ですね。
「総務というのは、実にあいまいな概念ですよね。ちなみに英語
では、庶務や受付業務を担当する部門を示すアドミニストレー
ション(administration)という単語はありますが、日本企業の
総務を表すような言葉は正確にはない。強いていえばジェネラ
ル・アフェアーズ
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になるのでしょうが、
これ
は『なんでも屋』といった意味で、オフィスサービスから株式業
務、法務業務まですべて含んでしまう。これだとますますあい
総務
財務
コア・
コンピタンス
まいになってしまうんです」
生産
マーケティング
企業内部を渡り歩いてきた経営者が同僚から情報を収集する
「インフォーマルF
M
情報収集」
……「総務」という括りの中にオフィス関連の業務を押し込め
てしまったことで、日本企業のオフィスづくりは遅れてしまっ
たのかもしれませんね。
はもっと効率的な組織が必要です。
そしてその象徴ともいえる
のが、
F
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の地位向上なのです」
……それはオフィス担当者自身が意識しなければならないと
は思いますが、
かなり難しい課題になりますね。
「向こうでも内部昇進で経営者になるケースはありますが、多
くの場合、CEOは外部からスカウトされ、いきなりトップに据え
られます。この違いは大きいですね。つまり日本企業の社長は
長い戦いを勝ち抜いてきた名誉職的な意味合いがあるのに対
し、米国ではCEOは『経営判断をする人』という職能の一つにす
ぎない。したがって、成果をあげなければ、すぐにクビになって
しまうのです」
……日本と米国の人事制度の違いがF
M
にもたらす影響とは?
「米国の場合から説明すれば、経営トップは外部から来るので、
社内のことをあまり知りません。したがって、財務については
フィナンシャルマネジャーから、不動産やオフィスについては
ファシリティマネジャーから報告や提言を受け、それらの情報
をもとに経営判断を下すのです。その結果、ファシリティマネ
ジャーはオフィスや生産設備に関する全社的な情報センター
としての役割を持つとともに、ファシリティ戦略の立案者とし
……FM'erとして実績をあげていくために、何かアドバイスは
「それはわかります。なにしろ日本企業の組織形態は戦後50年
かかって完成されたものですから、簡単には変えられない。し
かし不可能ではないのです。
たとえばある医薬品メーカーのフ
ァシリティマネジャーは大きな実績をあげられ、
今では役員を
務められています。まず、できる範囲でFMの手法を導入して具
体的な成果をあげ、それがトップに認められれば、経営戦略の
一環としてのファシリティ戦略の担い手として活躍できるの
ではないでしょうか」
トップマネジメント
経営専門家登用制度
担当は人事戦略を練るのに、なぜか『総務戦略』という言い方は
あらゆる情報を把握することで、自然に『オフィスや不動産の
ことなら○○に聞けばいい』という評価につながります。次に
第二段階として、その情報をもとに業務内容とプロセスを見
加価値が高まり、FM'erとしての存在感が強まります。そして
第三段階では数字で表れるような具体的な成果をあげる。ス
事と同じような重要な業務であると認識されるはずです」
……最近は、一部の日本企業でFM部門を分社化するケースが
させ、中長期的視点で見ていかないと、いつまでたっても、そこ
ありますが、
これはF
M
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にとってはいいことなのでしょうか?
に戦略は生まれないのです」
「人員削減のための計算上の人数合わせや、従属関係のある子
……そういう意味では、FMを本格的に進めるには企業の構造改
会社化といったケースでは単なるリストラの対象になってし
革が必要になりますね。
まいますが、ソニーグループなどのようにしっかりした事業
横断的知識を持つ
目的をもったFM専門会社をつくるのであれば、評価していい
「ファシリティマネジャー」
でしょうね。グループ会社のソニーファシリティマネジメン
れる日本企業の組織形態は、高度成長期にはそれなりに有効で
トは、すでにグループ会社以外のFM業務も受注しており、今後
した。社員の帰属意識は強く、そこから生まれる高いモチベー
の活躍が期待されます。今はまだ、FMをアウトソーシングする
ションが世界に冠たる日本経済を支えてきた。
しかし、
今はもう、
のが外資系企業に限られていますが、これからは日本企業で
そんな時代ではありません。このスパイラルは途切れはじめ、
人材は社外に流出し、従来の社内コミュニケーションは崩れは
じめています。低成長時代においても勝ち抜ける企業にするに
があると思います。第一段階は社内の情報を集めることでし
ょう。
ファシリティに関するデータや社内のワーカーの声など、
ど、トップにFMの効果を理解させることができれば、財務や人
して戦略的視点で位置付けてこなかった。業務内容をはっきり
由も、まさにそこにあるんです。スパイラル昇進制度に代表さ
「組織の中でFM'erの地位が向上していくには3つのステップ
ペースの標準化等を通じて全社的な賃料コストを削減するな
しない。つまり総務の業務は、事後処理的な意味合いが強く、決
「私が経営コンサルティングとFMの推進の両方を行っている理
ありますか?
直し戦略的な提案を行っていくことです。そうすることで付
●米国のFM実施環境
「そうでしょうね。日本でも財務担当は財務戦略を司るし、人事
……米国では違うのですか?
F
M
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r
自ら成果をアピールすることで
社内における存在価値を高めていける
総務
財務
コア・
コンピタンス
もそういうケースは増えるはず。分社化してFM'erとしての専
生産
マーケティング
門性を発揮できるなら、
これは一つのチャンスです」
ファシリティマネジメント
(F
M
)
コンサルティング
●ファシリティマネジャーの地位向上のためのステップ
第1
段階:社内の情報を集める
第2
段階:情報をもとに戦略的な提案を行う
経営戦略コンサルティングの一環としてFMの導入を進める
●F
M
コンサルティングの内容
場合、最も重視するのは、トップマネジメントの企業理念や方
・オフィスコスト調査分析
(財務分析を含む)
針と、 オフィスを利用するスタッフの意見が有機的に結びつ
オフィスコスト削減の手法 くようにすることです。具体的には、中長期事業戦略を中心に
・ファシリティマップの開発支援
「3E」の領域、すなわち、情報システム系(Electronics)、人間環
第3
段階:数字で表れるような具体的な成果をあげる
施設
(営業所、
工場、
研究所等)
の管理
境系(Ergonomics)、経済効率系(Economics)の3分野を対象領
オフィス利用計画策定
域にします。さらに、これらに関わるセミナーを行うことで、
・社内情報システムの見直し調査分析
F
M
導入の有効性を社内に徹底させます。
・ファシリティマネジメントセミナー
環境対策の及ぼす経済効果など
●M
R
I松岡総研のFMサービス
……社内に経営トップと直結したF
M
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がいて、
さらに必要に応
ような仕組みづくりのお手伝いをします。つまり、企業理念や
じて外部の専門スタッフに業務を委託するという形式は、これ
経営方針に沿ってオフィス全体が最適に利用できるような業
から多くなるのでしょうか?
務改革の提言を行うのです。と同時に、企業価値を高める戦略
「増えるでしょうね。FM業務はかなり煩雑ですから、すべてを社
内で行うよりも、専門家にアウトソーシングするほうが効率的
な場合は多いのです。
このため、
私のところでもF
M
コンサルティ
ングのサービスをメニューの一つにしています」
調査対象
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的なオフィスのあり方や運用組織体制を示していきます」
コンサルティング領域
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……日本企業にとっては非常に重要なテーマですね。
「国際マーケットを相手にビジネスを行うには、日本企業であ
っても米国と同じような効率的な組織が欠かせません。
先ほど
……FMコンサルティングは、どのような形で進められるのです
説明したように、
F
M
'
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r
が専門性を発揮し、
経営に深く関わるよ
か?
うな組織でなければ生き残りは難しい。それだけに、これから
「基本的には、
その会社が経営戦略の一環としてF
M
を推進できる
企業理念
も私なりの方法で、
日本のF
M
のレベルをあげていきたいですね」
企業戦略
トップ
マネジメント
●機能戦略とFM戦略との関係
経営戦略
トップダウンの方針
事業戦略
・中長期経営計画
・ファシリティマップ策定
ボトムアップの意見
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戦略
生産
戦略
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戦略
マーケティング
戦略
財務
戦略
組織
戦略
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セミナー
・ 経済効果認識
・ 全社的なコンセンサス
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戦略
各部門ミドルマネジメント
及び現場レベルのスタッフ
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(情報システム系)
・社内情報システム見直し
・データベース
・ネット
・ワーク
・システム調査
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ベンチマーキング
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(人間環境系)
・業務分析
・コミュニケーション分析
・組織デザイン
・スペース評価
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(経済効率系)
・オフィスコスト分析
・生産効率評価
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追加情報
『プロのファシリティマネジャー養成講座』
のお知らせ
ファシリティ・マネジメントコース第2
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期アーク都市塾
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年1
0
月3
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日開講)
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コース指導:松岡利昌 株式会社松岡総合研究所代表取締役/経営コンサルタント
21世紀、知識社会で生き残りをかける企業にとって、経営資源を
どう構えるかは重要な戦略的意思決定要因に違いありません。
ナレ
ッジを創出するインフラとしての土地、
建物、
オフィス、
ワークプレ
イスという経営資源は、
ファシリティとしてこれまで以上に適切な
あり方が求められています。
経営戦略と一体化したファシリティの
管理手法、
それが
「ファシリティ・マネジメント」
という考え方です。
実は、このファシリティは、企業の中で人件費に次ぐ最大のコスト
を生み出しているのです。
戦略的ファシリティマネジメントの考え
方を理解することで、企業経営におけるファシリティを活性化し、
キャッシュフローに貢献することができます。
本コースでは、
企業経営に積極的にアプローチできるプロフェッ
ショナルとしてのファシリティマネジャーを養成していくことを
狙いとしています。自社資産か賃貸借か、自社管理かアウトソーシ
ングか、IT戦略との融合性は、オフィスデザインが業務改革にもた
らす影響等々、
ファシリティの最適管理方法を、
事例研究、
先進のフ
ァシリティマネジャーとのコラボレーション、
ワークショップ等を
通して学んでいきます。
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