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フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・ 全りん自動

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フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・ 全りん自動
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・
全りん自動測定装置の開発
Development of Total Nitorogen and Total Phosphor On-line Monitor Using
Flow Injection Analysis
駒 沢 健 司 *1
青 山 佳 司 *2
安 江 知 明 *3
KOMAZAWA Kenji
AOYAMA Yoshiji
YASUE Tomoaki
キャピラリ加熱加圧−フロ−インジェクション分析法
(FIA:Flow Injection Analysis)
を適用した全窒素・全り
ん自動測定装置を開発した。全窒素及び全りんの測定法を次に示す。最初に,定量採取されたサンプルは,キャ
リア液の流れの中へと注入される。全窒素については,このサンプルを含んだキャリア流に水酸化ナトリウム
−ペルオキソ二硫酸カリウム溶液が添加され,加熱されたキャピラリコイルへ導入される。このキャピラリコ
イルの中で,サンプル中の窒素化合物を,加熱分解し,生成した硝酸イオンを紫外吸光光度法で測定する方法
を用いた。全りんについては,引き続き,紫外吸光検出器から出てきたサンプルに硫酸−ペルオキソ二硫酸カ
リウム溶液を添加し,再び,加熱キャピラリコイルの中で,サンプル中のりん化合物を加熱分解し,生成した
りん酸イオンをモリブデン青吸光光度法により発色させ,可視吸光検出器で測定する方法を用いた。
これらの測定法を組み合わせて,幅広いレンジに渡りサンプルを希釈すること無く,全窒素と全りんを短時
間で測定する事が可能となった。下水処理水への応用試験について紹介する。
We have developed total nitrogen and total phosphorus on-line monitor using capillary heating and
pressurizing with Flow Injection Analysis (FIA). Total nitrogen and total phosphorus are measured
with following method. First, the sample is injected into flow of carrier solution. And flow of Potassium
peroxodisulfate/Sodium hydride solution is added to the carrier flow. And the flow introduced to capillary heating coil. The nitrogen compounds in the sample are changed into nitric ion through the coil.
The nitric ion is determined by UV absorption detector. Continuously the flow after UV absorption
detector is added by the flow of Potassium peroxodisulfate/Sulfuric acid solution, and introduced to
the other capillary heating coil again. Phosphorus compounds in the sample are changed into phosphoric ion in the coil. The phosphoric ion is colored by molybdenum blue method, and it is determined
by VIS absorption detector. As the combined method leads to short analysis time, wide range analysis
without sample dilution. And application of sewage plant was performed.
1.
は じ め に
工場排水や生活排水等に含まれる窒素やりんを含む化
合物は,富栄養化による赤潮等の発生を引き起こし,自
然環境破壊の原因の一つとなっている。また,排水基準
の強化に伴い,総量規制項目として全窒素・全りんが,
新たに追加される可能性が高い。このため,民間企業の
排水プラントや下水道プラント等において,現状より,
きめ細かいプロセス・排水管理が必要不可欠になると想
定される。現状の全窒素と全りんの測定はJIS K0102工場
排水試験法
(手分析)によるため,現場でサンプルを採取
*1 IA環境機器事業部 技術部
*2 IA環境機器事業部 営業部
*3 IA環境システム営業本部 技術部
19
図1 全窒素・全りん自動測定装置の外観
横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
143
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
反応槽
キャピラリチューブ
りん酸イオン
の検出
880 nm
可視吸光検出器
(VIS)
サンプル
自動切換バルブ
サンプルループ
排水
(キャリア液)
硝酸イオン
の検出
A
C
D
B
220 nm
紫外吸光
検出器
(UV)
反応液1
ベルオキソニ硫酸
カリウム溶液(アルカリ性)
反応液2
ベルオキソニ硫酸
カリウム溶液(酸性)
反応液3
モリブデン酸
アンモニウム溶液
反応液4
アスコルピン酸溶液
恒温槽
(50℃)
図2 全窒素・全りん自動測定装置の測定フロ−
してから分析室へ運ぶ手間,さらに分析操作自体に1時間
度法を用いており,JIS法に準拠している。図1に全窒
程度かかる。このような理由から,プロセス制御に用い
素・全りん自動測定装置の外観を示す。
ることも困難であった。
今回,開発の計器は,全窒素と全りんを15分で一挙に
測定するオンライン自動測定装置であり,先に挙げた問
題点を解消し得るものである。本計器は,測定原理とし
2.
測 定 原 理
キャピラリ加熱加圧−フロ−インジェクション分析を
適用した,測定フロ−を図2に示す。
てJIS K0102工場排水試験法の中の紫外吸光光度法,及び
サンプルは,最初に粗大な濁質分を砂ろ過(前処理装
ペルオキソ二硫酸カリウム分解法とモリブデン青吸光光
置)
によって除去され,試料注入バルブへ送られる。サン
サンプル前処理部
ろ過装置
アナライザ部
装置制御・デ−タ処理部
試料注入バルブ
操作表示パネル
反 応 槽 1
逆洗浄
制御演算器
濃度信号
(4∼20 mA)
濃度記録計
アラ−ム
紫外吸光検出器
反 応 槽 2
可視吸光検出器
ユニット
サンプルの流れ
制御信号
排水ピット
電気信号
図3 装置構成ブロック図
144
横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
20
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
表1 使用した標準液
標準液No.
全窒素濃度(mg/ᐍ)
全りん濃度(mg/ᐍ)
1
0
0
2
1
0.5
3
5
1
4
10
1.5
5
16
2
6
20
0
全りんのピーク
P:2 mg/ᐍ
(880 nmで測定)
全窒素のピーク
40
N:16 mg/ᐍ
(220 nmで測定)
20
プルル−プ内に採取された,数十μᐍのサンプルは,分析
周期毎にキャリア液の流れに乗せられる。
A点で,反応液1の水酸化ナトリウム−ペルオキソ二硫
酸カリウム溶液と合流し,160℃に加熱されたキャピラリ
チュ−ブへ送られる。窒素化合物は,ここで加熱分解さ
れ,硝酸イオンに変わる。その後,紫外吸光検出器
(波長
図4 標準液No. 5のピーク信号
220 nm)
で硝酸イオンのピ−クとして検出され,全窒素濃
度に換算される。引き続き,サンプルは,全窒素測定後
に,B点において反応液2の硫酸−ペルオキソ二硫酸カ
リウム溶液と合流し,180℃に加熱されたキャピラリ−
(1)サンプル前処理部
チュ−ブへと送らる。りん化合物はここで加熱分解さ
サンプルを砂ろ過装置にてろ過し,ろ液をアナライ
れ,オルトりん酸イオンとなる。次に,生成したこのり
ザ部へ供給する。また,砂ろ過装置は,分析周期毎
ん酸イオンに,C点において反応液3のモリブデン酸ア
ンモニウム溶液,D点において反応液4のアスコルビン
に浄水で逆洗浄される。
(2)アナライザ部
酸溶液を合流させ,発色させた後,可視吸光検出器
(波長
キャピラリ加熱加圧−フロ−インジェクション分析
880 nm)
でモリブドりん錯体のピ−クとして検出され,全
法により,サンプルを加熱分解,発色反応させ,吸
りん濃度に換算される。
3.
光検出器により,ピ−ク信号として出力する。
(3)装置の制御とデ−タ処理部
装 置 構 成
検出器から得られた,ピ−ク信号を演算し,全窒素
濃度,全りん濃度への換算を行う。また装置全体の
本計器は,次の3つのユニットから構成される。
制御と状態表示も行う。
22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
全窒素
y=1.0128x
相関係数=
0.999
計器値(mg/ᐍ)
計器値(mg/ᐍ)
図3に装置構成の概略を示す。
0
2
4
6 8 10 12 14 16 18 20 22
標準液(mg/ᐍ)
全りん
2.2
y=1.002x
2
相関係数=
0.999
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2
標準液(mg/ᐍ)
図5 直線性試験結果
21
横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
145
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
表2 窒素化合物の回収率
表3 りん化合物の回収率
全窒素N
全りんP
化合物
硝酸ナトリウム
測定値
mg/ᐍ
回収率
%
化合物
回収率
%
10.00
100.0
10.00
100.0
亜硝酸ナトリウム
9.95
99.5
ピロりん酸ナトリウム
9.29
92.9
硫酸アンモニウム
9.33
93.3
トリポリりん酸ナトリウム
8.94
89.4
L―グルタミン酸ナトリウム
9.64
96.4
グリセロりん酸ナトリウム
8.48
84.8
尿素
9.01
90.1
フェニルりん酸
9.59
95.9
スルファニルアミド
8.76
87.6
AMP
アデノシン-5’
– 一りん酸二ナトリウム
9.59
95.9
ADP
アデノシン-5’
– 二りん酸二ナトリウム
10.00
100.0
9.61
96.1
りん酸二水素ナトリウム
りん酸ジエチル
4.
測定値
mg/ᐍ
計器の性能
4.1 直 線 性
4.3 回 収 率
全窒素0から20 mg/ᐍと全りん0から2mg/ᐍを含む標
全窒素,全りん共に10 mg/ᐍ相当含まれる各種化合物の
水溶液を測定し,標準液に対する各種化合物の回収率を
準液を測定した。
なお,全窒素の標準液は,硝酸カリウムより,全りん
求めた。結果を表2と表3に示す。
の標準液は,りん酸二水素カリウムより調製した。使用
全窒素においては,87.6%から99.5%の回収率が得ら
れ,全りんにおいては,84.8%から96.1%が得られ,共に
した標準液を,表1に示す。
また,標準液No.5を測定した時のピ−ク信号を図4に
示す。
良好な回収率を示した。
5.
標準液の測定結果を図5に示す。
これらの図より,全窒素,全りん共に測定範囲内で良
フィ−ルド試験
本計器をA市B下水処理場に設置し,下水処理水をオン
好な直線性が得られていることが確認された。
ラインで測定した結果を紹介する。
4.2 繰り返し性
5.1 JIS法との相関
全窒素として16 mg/ᐍ相当の硝酸カリウム,全りんとし
本計器のオンライン測定中に,計器によるサンプル採
て1.6 mg/ᐍ相当のりん酸二水素カリウムを含む標準液を
取のタイミングに合わせて,手分析用のサンプルを採取
10回繰り返し測定した。この結果,変動係数にして,全
し,JIS法で測定した。この時の手分析値との相関を図6
窒素で0.56%,全りんで1.37%と良好であった。
に示す。
全窒素
20
18
1.6
計器値(mg/ᐍ)
計器値(mg/ᐍ)
y=0.9691x−0.0295
相関係数=0.996
1.8
16
14
12
10
8
6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
4
0.4
2
0.2
0
全りん
2
y=1.0619x−0.0263
相関係数=0.997
0
2
4
6 8 10 12 14 16 18 20
手分析値(mg/ᐍ)
0
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2
手分析値(mg/ᐍ)
図6 手分析値との相関
146
横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
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全窒素
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
4/25
全りん
4
計器値(mg/ᐍ)
計器値(mg/ᐍ)
フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
3
2
1
5/25
6/24
7/24
8/23
9/22
0
5/25
10/22 11/21
6/24
7/24
8/23
9/22
10/22
11/21
日 付
日 付
0時00分
12時00分
0時00分
12時00分
0時00分
時 刻
時 刻
図9 全りんの濃度変動
図8 全窒素の濃度変動
相関係数
(r)
は,全窒素で r = 0.997,全りんで r = 0.996
12時00分
0時19分
5時49分
11時19分
16時49分
22時19分
3時49分
9時19分
14時49分
20時19分
1時49分
7時19分
12時50分
20時45分
2時15分
7時45分
13時15分
18時45分
0時15分
5時45分
11時15分
16時45分
22時15分
3時45分
9時15分
14時45分
20時15分
1時45分
7時15分
12時45分
18時15分
23時45分
0
0時00分
2
12時00分
4
0時00分
6
12時00分
8
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0時00分
計器値(mg/ᐍ)
計器値(mg/ᐍ)
10
0時00分
12
12時00分
図7 計器の長期安定性
図8は,高度処理水の全窒素の濃度変動を見たもので
となり,共にJIS法との間に高い相関が認められた。
ある。
5.2 長期安定性
ることが分かる。また,日ごとに,最高濃度又は,最低
全窒素濃度は,一日を周期として,濃度が変動してい
図7に,計器の指示値の長期安定性を示す。図7は,計
濃度自体に差はあるものの,その日の最高濃度に達する
器による実サンプル連続測定期間中,同一濃度の標準液を
時間帯と,その日の最低濃度に達する時間帯は,どの日
測定し,計器の指示値の安定性を確認したものである。
をとってもほぼ一致している。
全窒素,全りん測定共に,計器値スパン感度の変化
は,測定レンジの±5%以内に収まっており,4ヶ月以
上に渡って計器の校正は不要であった。
図9は,全窒素と同じサンプリングポイントにおい
て,全りんの濃度変動を見たものである。
全りんの測定結果は,全窒素測定時のような,周期的
な濃度変動は見られなかった。
5.3 高度処理水の連続測定結果
本計器のB下水処理場における,オンライン連続測定
の結果を図8と図9に示した。
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横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
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フローインジェクション分析法を適用した 全窒素・全りん自動測定装置の開発
6.
お わ り に
キャピラリ加熱加圧−フロ−インジェクション分析法
参 考 文 献
(1)並木 博 編)
,詳解 工場排水試験方法,改訂2版,東京,財)
日本規格協会,1993, 250p.
を適用した,全窒素・全りん自動測定装置の開発を行
(2)JIS K0102「工場排水試験方法」日本規格協会
なった。
(3)本水 昌二,フロ−インジェクション分析法による水中の窒素・
本計器は,標準的な化合物の測定及び,フィ−ルドで
りん・洗剤等の分析,環境技術,vol. 15, no. 7, 1986, p. 525 - 530.
の実サンプル測定共に,実用に十分な結果が得られた。
(4)環技協ニュ−ス
(臨時増刊)
,第28号
(vol. 7,no. 5)
,東京,日本
長期のフィ−ルド試験においても,感度ドリフトが見
られず,安定稼動する事が実証された。
また,この間,吸光検出器のランプ,試料注入バルブ
及び試薬ポンプのシ−ル材等の保守部品の交換は無く,
メンテナンス性が高いことも確認された。
実サンプルを用いた,JIS法との相関性試験において
も,計器値とJIS法とに高い相関が得られ,本計器は,手
環境技術協会,1986, p. 31.
(5)PAUL R.FREEMAN et al., "Flow-injection technique for the determination of low levels of phosphours in natural waters", Analytica
Chimica Acta, 234(1990), p. 409 - 416.
(6)I.D.Mckelvie, M.Mitri et al., "Analysis of total dissolvad nitrogen
in natural waters by on-line photooxidation and flow injection",
Analytica Chimica Acta, 293(1994), p. 155 - 162.
分析の代替として使用可能である事が確認できた。
今回,フィ−ルドでは下水処理水のみの測定であった
が,本計器は2流路測定も可能であり,今後は,流入水
と下水処理水とを,自動的に切換ながら測定を行い,必
要量に応じた曝気風量等を制御するなど,オンラインプ
ロセス制御への適用も期待される。
148
横河技報 Vol.42 No.4 (1998)
24
Fly UP