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第3章 - 早稲田大学
認知発達理論分科会第 35 回例会 早稲田大学教育研究科 王暁曦 9 月 18 日 Chapter 3 The structural development of the human brain as measured longitudinally with magnetic resonance imaging(MRI)(pp50-74) MRI は、健康な子どもや若者を安全にスキャンするだけではなく、同じ被験者の各発達過程の縦断的な 画像が獲得できる。 縦断的研究の支え:2 から 4 週間おきに画像を取っても、安定した画像が取れる。この安定性があるか らこそ、縦断的なスキャンにおける量的な差が、脳構造の真の変化を反映するといえる。 MRI の分類とその単位 MRI は、機能的、拡散テンソル、磁化転移と分類できる。 医学上の分類:解剖学的 MRI と構造的 MRI Voxel:解剖学的 MRI の出力の最小構成要素は“voxel”ⅰ(ボクセル)と呼ばれる。ボクセルの大き さはほぼ 1-2ml であるが、個々ボクセルは数百万個のニューロンと数千億のシナプス連結 を含む。 灰白質と白質の定義 灰白質(gray matter):検死の脳の皮質や皮質下核の色は濃いため、灰白質と呼ばれる。 白質(white matter):脳の異なる部位の間に広がる軸索のかたまりであり、検死の際色は比較的に薄い。 灰白質、白質と脳脊髄液(CSF)で脳構造の境界を限定するために、解剖学的 MRI は最大限でこの3つの 部分を区別する。 本章の概要 胎児と周産期のイメージング研究、4 歳から 25 歳までのイメージング研究に分けて紹介する。 研究の目的:①解剖学的な脳発達の軌跡(trajectory)を詳細に描き出すこと。 ②それらの軌跡への影響を見分けること。 ③治療介入を導くために、または健全な発達を最適化するために、それらの影響の知識 を利用すること。 妊娠から 3 歳までの脳発達のイメージング(pp52-55) 早期脳発達の主要プロセス 早期脳発達に影響を及ぼすプロセスについて(figure 3.1) 一次神経胚化(primary neurulation)は中枢神経系(CNS)の源となる神経管(neural tube)の発達の ことである。神経胚化は妊娠 3-4 週までにほぼ完成する。 前脳発達(prosencephalic development)と呼ばれる前脳や顔の構成の発達は、妊娠の 1 期の後半に起 こる。 増殖(proliferation):ニューロンの増殖は妊娠の 3-4 ヶ月でおこる。グリア細胞ⅱは生後 1 年間生じる。 移動(migration):3 から 5 ヶ月の間で生じる。増殖したニューロンはグリア細胞の足場に沿って増殖源 から皮質まで移動する。 アポトーシス(apoptosis):妊娠 6 ヶ月から生後 1 ヶ月の間でおよそ 50%のニューロンが除去される。 1 それ以外の脳発達:増殖、シナプスの組織化と軸索ⅲの髄鞘形成(myelination) これらのプロセスは出生前から始まり出生後まで続く。 シナプス結合の密度は、出生後急速に増加し、 2 歳までに成人より 50%以上の高密度になる (Huttenlocher,1979) この成長期の後に、脳の異なる領域で異なる割合で喪失の段階が続く。 髄鞘形成のプロセス 髄鞘形成は 29 週に脳幹ではじまり、生後 1 年間で最も増殖し、尐なくとも 10 代まで続く。 髄鞘形成の起こる順番原理(Volpe,2000):末端の前に近位、運動の前に知覚、連合(association)の前 に投射(projection)、中枢部(central loci)から前頭(frontal)と大脳後頭極(occipital poles)へ,そして、 後頭極は最初に成熟する。 Benes(1989)の比較研究 対象児:生後から 9 歳までの子ども、10 歳から 19 歳までのより年長の子ども 課題:海馬表面の髄鞘形成の比較 結果:全体脳容積の増加のための補正後、年齢の増加と共に、髄鞘形成は 92%の増加が見られた。 脳発達の一要因 シナプスの発達や髄鞘形成は、生後 2 年間脳の急速成長の一因となった。 脳の重さ:2 歳まで、成人の 80%に達している。5 歳まで、成人の 90%、10 歳まで、成人とほぼ同じ になる。 胎児と周産期脳発達のイメージング研究 生後 2 年間の灰白質や白質 大人と異なる幼児期のコントラストパターン:T1 で現像した皮質は基本的な軸索領域より明るかった。 灰白質と白質は分化されていない等強度パターン(isointense pattern)を示すクロスオーバー期間 (crossover period)が存在している。 このコントラスは生後 12 ヶ月で大人のパターンに転換する。 クロスオーバは異なる脳領域で異なる時間で生じる。 MRI の制限と可能性 妊娠初期発育中の胎児への潜在的危険は胎児の MR の使用が制限されているけれども、明確に有害であ るという証拠は見つかっていなかったため、今後一般的に MRI を使用する可能性はますます増える。 現在できるだけ早期に軌跡(trajectory)で発達障害を突き止める試みに対する興味や、ノーマルと アブノーマルの個体によって、脳の指標を得る価値はますます注目されている。 早期発達の MRI 研究の例 Huppi, Warfield, and colleagres(1998) ・ 対象児:早産児と妊娠 29 週から 41 週の胎児 ・ 方法:オードメーション方法 ・ 課題:灰白質、無髄の白質、髄鞘形成された白質と脳脊髄液(CFS)を数量化した。 ・ 結果:脳の組織容量は毎週 22ml ずつ増加する。 皮質灰白質は直線的 4 倍増加する。 髄鞘形成の白質の容量は 35 週から増加する。 脳脊髄液(CSF)の明確な変化は見られなかった。 2 脳発達の側面である脳回化 髄鞘形成と脳回化は二つとも超音波で容易に確認できない脳発達の側面であった。 脳回化は妊娠成熟の指数と見なされている。 後頭葉を除く主な溝は妊娠 28 週で出現、誕生まで、二次や三次脳回は出現、出生後、脳回はより 複雑になる。 出生後、溝と脳回のより複雑に増加になっていくパターンは、細胞密度や皮下質面積の変化と関係があ りそう。 興味深いことで、溝の折り曲げるパターンは個人間で非常に変数的で、一卵性双生児でさえ相対的に似 ていないことを示す。それは、非遺伝的要因は、脳溝の形態を決定する重大な役割を果たしている。 4-25 歳までの脳発達のイメージング(pp55-65) 最初の健常な発達についての MRI 研究は、横断的なものであり、臨床的な診断の一部として子どもから 収集されたデータに基づくものであり、後に正常であると判断されたものである。 全体的な脳の体積は時間を経てもそれほど変わらないが、それにもかかわらず、灰白質、白質、CSF の 相対的な変化を反映された。再構造化(remodeling)が発生していた。 1989 年、CPB/NIMH は健常・健常でない脳の発達に関する大規模な縦断研究をはじめ、現在も進行中で ある。 次のような仮説を確かめるために計画された。 もっとも深刻な神経心理学的な障害は、健常な脳の発達からの逸脱により生じるものである。 これらの逸脱の解剖学的物質的基礎は MRI により検知可能である。 研究は双子・双子でない健常な統制群と、様々な診断症の被験者を含む。 参加者は約 2 年に 1 回でスキャンをうけ、多くの者は 2,3 回以上のスキャンを受けたので、個人の変 化の軌跡を評価することが可能になった。 データは 1800 人の被験者からの 3600 のスキャンデータを含み、半数は健常な発達を示し、半数は ADHD や小児発症統合失調症を含む様々な診断症群である。 対象者 健常な統制群は地域社会から集められ、身体的・神経学的な検査。臨床的面接を受け、家族健康歴の査定 を行い、拡張的な神経心理学的テストバッテリを実施した。 MRI データの取得 使われていた機械:NIH 臨床センターの General Electric 1.5 Tesla Signa Scanner 方法:灰白質、白質、CSF の区別が最適化されるようにデザインされた。安定したシークエンスでの 3DSPGR が用いられ、軸平面において、124 の隣接した 1.5mm 厚の断面画像が得られた。 イメージングのパラメーター:エコータイム:5msec、繰り返し時間:24msec、フリップ角:45 度、 画像サイズ:256×192、励磁回数:1、視野:24CM、撮影時間:9 分 52 秒 イメージ分析 取得された画像は手作業のトレーシング技術によって分析された。 3 イメージ分析の難しさ:絶対的な基準の欠如 著者の主張 検死データと MRI イメージを比較することは、決して理想的なこととは言えない ・頭蓋内腔と脳脊髄液から取り除かれることにより、脳は重みによって崩れ、生体内の形態がゆがんでし まう。 ・固定と乾燥のプロセスが、異なる脳の構造に様々な程度の影響を与え、灰白質と白質は異なる割合で縮む。 ・年齢の要因もあり、年尐者の脳は多くの水分を含み、固定のプロセスにより異なった影響を受ける。 人間の脳に特徴的な形や組織をまねた人工的モデルを用いた研究も有用でありうる。しかし、妥当なモデ ルの構築は困難である。 多くの構造の量化のためのオートメーション化された尺度の妥当性の標準は、熟練した評価者による手作 業のトレーシングにより得られた結果との比較のままである。 組織の異なるタイプに分類することは、イメージの中のすべてのボクセルの強度のヒストグラムを作成し、 その強度が組織の種類と一致する確率を推測するためにガウス関数の分布に当てはめるコンピューター アルゴリズムを伴う。 この情報は確率的アトラス(probabilistic atlases)で補われることがある。 一旦ボクセルが分類されると、ある領域のボクセルの数が体積の見積もりとして計算されうる 脳葉の体積が最も一般的に報告されるが、解剖学的特定がなされるにつれ、より小さい下位領域が正確に 量化されるようになるであろう。 各グループの「平均的」脳を作る:脳や脳の下部構造の幾何学的モデルが構築され、統計分析が可能になる。 脳標準化の困難さ ある脳イメージのボクセルが有意味にほかの脳イメージのボクセルと対応付けられるように、異なる脳 を標準化された方法で記録することは難しい。 皮質溝や脳回の折り曲げるパターンの個人差があるため、一対一対応が困難 脳体積の総計 脳体積の総計は、男性で 14.5 歳、女性で 11.5 歳がピークである。 6 歳までにこのピークの約 95%に達している。 脳の体積の差 男性の脳は女性の脳より 9%大きく、身長や体重を統制しても有意な差である。 その差は機能的な利点や不利を与えるものとして解釈されるべきではない 全体的な構造尺度は、ニューロンの結合と受容体の密度のように、機能的に対応する要因における同質 二形の(dimorphic)性差を反映していないかもしれない。 健常で同年齢の子どもの脳はその体積において 50%程度異なりうる。 脳のサイズが機能に与える影響についての結論について慎重でなければならない。 皮質灰白質 皮質灰白質の体積は、逆 U 字型の発達になる傾向にあり、体積のピークは脳葉の種類により異なった時期と なる。 前頭葉の灰白質は女性 11.0 歳、男性 12.1 歳の時に最大 側頭葉の皮質灰白質は女性 16.7 歳、男性 16.2 歳でピーク 4 頭頂葉の皮質灰白質は女性 10.2 歳、男性 11.8 歳でピーク より狭い範囲で皮質灰白質の変化を調べるために、2 年おきに 4 回スキャンを受けた 13 名の被験者につい て、ボクセルレベルで灰白質の密度を調べた。 皮質灰白質の損失が、初期には第一次運動野で、後に背外側前頭前野や上側頭回で生じる。 一時的な機能に従属する領域、たとえば運動・感覚システムなどはより早く成熟し、一方でこれらの一 時的な機能を統合するより高次な連合領域はより遅く成熟する。 例:側頭葉の中でも最も遅れて成人レベルに到達するのは側頭葉の上部、前頭葉全部や下頭頂葉皮質と 合わせて記憶や視聴覚のインプット、対象の認識機能を統合する部分である。 衝動のコントロール、判断、意思決定を含まれる DLPFC(前頭前野背外側部)の発達は比較的に遅い。 未成年者が死刑に値するに充分なほど認知的に成熟しているかどうかという問題から、10 代の青年が 運転を許可されるべきかどうかという問題まで、教育的、社会的、政治的、司法てきな言説の中で取 り入れられている。 この年齢で起こる灰白質の密度の変化は、検死の研究においてこの年齢範囲で起こっているシナプスの増殖 と刈込と関連しているかもしれない。 この時期にまた髄鞘形成がおこり、おそらくボクセルの分類が灰白質から白質に変化し、灰白質の明らかな 損失に結びついていると思われる。 大脳皮質下部の灰白質 大脳基底核ⅳ 大脳基底核の構成:尾状核、被穀、淡蒼球、視床下核、黒質 尾状核のみ確実に量化することが可能である。 大脳基底核は、動きのコントロールや筋肉の緊張をコントロールする役割を知られていたが、近年は高次の認知 機能、注意、情意的な状態を媒介する回路の中に含まれることが示されてきた。 皮質灰白質と同様、尾状核は、逆 U 字型の発達の軌跡をたどり、女性 7.5 歳、男性 10.0 歳でピークになる。 扁桃体と海馬 側頭葉、扁桃状部、海馬は 4-18 歳の間に顕著に変化する。感情、言語、記憶の機能にかかわる。 縦断研究による量化はまだ進行中である。 縦断研究の一部:扁桃状部の体積は、男性のみ年齢に応じに有意に増加。海馬の体積は、女性のみ年齢 に応じに有意に増加。 人間以外の霊長類の研究と一致する。 考えられる理由:扁桃状部に比較的に男性ホルモン(アンドロゲン)受容体が多い、海馬には比較的に 女性ホルモン(エストロゲン)受容体が多い。 白質 白質の発達 灰白質の逆 U 字型の発達と違って、白質の増大の割合は年齢とともに変わるが、脳における白質の総量 は、子どもから成人になるにつれて一般的に増大する。 白質の量は、30 代まで減り始めることがない。 白質のスロープは、前頭葉、側頭葉、頭頂葉で類似している。 5 灰白質と白質の発達の軌跡の違いによって、ニューロン、グリア細胞、髄鞘の間に非分離の関係というのが偽 りであることが示される。 ニューロンの活動は、髄鞘の生成や稀突起グリア細胞の増殖・生存に影響を及ぼす。一方、稀突起グリ ア細胞(oligodendrocytes)ⅴ、ニューロンの成長要因のセクションを媒介してニューロンに影響を及ぼし、 軸索の成長やイオンチャンネルⅵのクラスター化に影響を及ぼす。 近接した刺激伝達経路は、末梢の前に有髄化、運動の前に感覚、連合の前に投射という傾向がある。後 に成熟する髄鞘は、より細くなる傾向があり、稀突起グリア細胞に対してより大きな軸索の負荷をもち、 環境や老化に関連した要因に対して脆弱になる可能性がある。 白質の最も重要な構造は脳梁である。 脳梁は、約 2 億の有髄繊維からなり、その大半は、左右の皮質の相当野を連結している。 脳梁は一般的に、左右の大脳半球の活動を統合する機能を持っている。 脳梁の発達は、青年期を通して進展し続けると指摘する研究がある。こうした構造的発達が子ども期や 青年期の間に見られる認知的能力の向上に関係するものであるのかという問いが提起される。 脳梁の発達に対する性差の影響:性差の影響を認めるはと認めないはなどさまざまである。 約 2 歳より後の典型的な T1 イメージと T2 イメージの白質の見かけ上が同質であるというのは、白質が非常に 複雑な構造をもっており、出生後に大規模に発達するということを意味する。 MRI の技術は、白質の非体積測定的な特徴を明らかにするうえで特に有用な可能性がある。 髄鞘形成のプロセスや白質構造の成熟を測るニューロンイメージングの研究によって入手可能な検死データと 一貫した結果が見だされた。 常用な T1 と T2 の強調スキャンによって、視覚的な検査に基づいて量的に記述されうる。生後約 2 年 間の顕著な変化が示される。 出生時の T1 強調イメージの細胞タイプ間のコントラストは、成人に見られるものと概ね逆である。 こうしたコントラストは、生後 6 ヶ月にわたって変化し、約 6 ヶ月ころまでに T1 の強調スキャンは、 成人と類似するようになる。 T2 強調スキャンにおけるコントラストは、もっと後に変化し、18 ヶ月ころまでは成人と同じ見かけにならな い。 灰白質と白質の等強度コントラストが失われる。可変的なクロスオーバー期間が存在する。 こうした観察することによって、発達に伴う T1 シグナルと T2 シグナルにおける変化が量的にマッピ ングされた。 Hassink et al.(1992)の調査 ・ 対象者:子ども 9 名、成人 8 名 ・ 方法:T2 の軽減値を比較 ・ 結果:前頭葉の T2 の値が年齢と伴って減尐すること、最も大きな減尐は、外側前頭皮質、 後前頭皮質、脳梁、尾状核における減尐は、より小さい Steen et al.(1997)の調査 ・ 対象者:子ども 19 名、青年:31 名、成人 20 名 ・ 方法:T1 の軽減マップを作成した。 ・ 結果:① 白質における T1 は、前頭を除くすべての領域で 8 歳までに成人の平均水準に到達 した。 (前頭は 25 歳になるまで成人の平均水準に到達しなかった。)一方、皮質灰 白質では、20 歳になるまで成人の水準に到達しなかった。 6 ② 灰白質における子どもと成人の間の T1 の軽減の違いは、白質の場合のほぼ 2 倍で あった。 上記の論文の著者は、軽減値の変化に、水分の含有量が減尐すること、髄鞘が増加すること、また構造 的な変化があることなど、複数の要因が寄与している可能性を提起している。 MTI は緩和時間測定法の 1 タイプであり、尐なくとも白質においては、主に髄鞘の影響を受けているようであ る(Barkovich,2000)。 MT(magnetization transfer)測定に対する健常発達の影響を調べたいくつかの研究は、成熟するにつれ て MT レベルが増加することを示している。 Engelbrecht et al. (1998) の研究による発見:髄鞘形成されていない状態から髄鞘形成された状態へと 変化することで、白質における MTR (magnetic transfer ratio,)が 3 倍になる。同時期の灰白質におけ る MTR も増加したが、約 25%だけであった。 Rademacher et al. (1999) の研究:1,3,6,30 ヶ月の子どもの特定の線維路内での MT 測定が行われ た。大人の脳図譜と検死データと比較した結果は、年齢とともに全領域で MT が増加するが、連合より も投射路と交連線維路においてより高くなる。 Van Buchem et al. (2001) の研究:脳の各組織のボクセルにおける MTR のヒストグラムを作成し、脳 全体の MTR を反映するピークを得た。彼らは、そのピークが年齢とともに減尐し、広がることを発見 した。この発見は、脳の異なる部位における成熟に伴う髄鞘形成の状態の不均質性を反映している。ま た、この不均質性は、誕生時の相対的に均質な状態とは対照的である。 DTI(拡散テンソル画像)を用いた研究の発見:脳の異なる部位が、異なる割合で成熟する。 Huppi et al. (1998) の研究:妊娠 26~40 週で生まれた新生児における DTI 測定を行った。結果は、 新生児は臨月の時期に近づくにつれて、新生児の白質の中心領域が、組織の構造化や髄鞘形成と一致 する特徴を示される。 McGraw et al.(2002)の白質に関する研究 ・ 目的:白質の「稠密的」(compact)と「非稠密」(non compact)部分における成熟を比較する。 稠密的な白質は、脳梁、内包ⅶ、大脳脚(cerebral peduncle)ⅷを該当する。非稠密的な白質は、 前頭-頭頂の白質と放射冠(corona radiate)を該当する。 ・ 対象児:平均 16 ヶ月の乳児 66 名 ・ 課題:平均異方性の測定。 ・ 結果:全年齢において、稠密的な領域の平均異方性が寄り高かったが、非稠密的な領域で、異方性の値は 誕生後急速に増加する。 誕生後初期における拡散性の特徴の研究は、異方性が髄鞘形成以外の要因からどれだけ影響をうけるのかを示 した。 Mckinstry et al.(2002)の研究:妊娠 26~31 週に当たる時期に、皮質灰白質において、異方性が一時 的に増加する時期がある。樹状分枝化(dendriticarborization)の方向性が見えなくなる前に、皮質にお いて放射性グリア化過程が出現する時期に対応すると考えられている。 Morriss et al.(1999)の研究:生後 1 日から 17 歳までの子どもをみて、生後数ヶ月で ADC(apparent diffusion coefficient,見かけの拡散係数)が減尐し、異方性が急激に増加する。 これらの変化が「前髄鞘形成」の時期であると考えられている。個に時期、稀突起グリア細胞が軸策 突起の周囲を包み始め、髄生成の準備のために巨大分子の集中が増加している (Prayer et al, 2003;Wimberger et al.,1995)。 7 より年長の子どもにおける DTI 研究は、より複雑な発見を示しているが、白質構造と髄鞘形成の連続的成熟の 存在も支持している。 Lovblad et al.(2003)の発見:前頭部と側頭部の白質における ADC(見かけの拡散係数)の拡大的変化 が見出された。 Olesen et al.(2003)の研究 ・ 目的:一定の経路における髄鞘形成の成熟過程が、関連する皮質領域における血中酸素濃度に依存 した反応と相関するかを決定するために、DTI と fMRI を結びつけた。 ・ 対象児:平均年齢 11.9 歳の子ども 23 名 ・ 課題:作動記憶課題 ・ 結果:前頭―頭頂領域における異方性度が、上位の前頭溝と頭頂葉における皮質活動と正の相関に ある。 異方性度測定は、脳のたいていの領域において、2 歳までに大人レベルに到達するが、これらの測定 は、もっとも年長の子どもの白質構造の深層部において、変化し続けている。 まとめ 脳の全重量は、6 歳までに最大量の 95%になる。灰白質の量は、子どものころに逆 U 字型の発達曲線を描き、 領域固有である一方、白質の量の変化はより直線的で領域間であまり違いがない。脳構造のサイズと発達の軌跡 の両方は、非常に多様であり、性別によって異なる。 考察および将来の方向(pp65-67) これからの方向として 神経解剖学においてますます細分されたものの量化 神経細胞の組織の異なった側面を特徴づける。 サンプルを増やすために多様な場所からのデータを結合する。 新たな画像取得技術の使用 増加する非常に複雑な画像分析と統計的モデル化の方法を適用する。 次の主要な段階は発達に影響する重要な要素をより解明して、理解すること。 先天的なものか後天的なものかを研究するひとつの方法は、双子を縦断研究すること。 性差の研究。 精神神経学的障害におけるイメージングの役割 組織の大きさと発達の軌跡が大きく変異するため、MRI は精神疾患の診断には有用ではない。 解剖画像のより直接な利用の 1 つは、典型的、もしくは非典型的母集団における内在表現型を提供することで ある。 さらに効果的な治療処置につながる発達経緯のもう 1 つの事象は異時性化である。 将来の方向 典型的な発達における発達的な軌跡を追跡することは次の段階の基礎となる。 次の段階は、①それらの軌跡に対する影響を探ること ②最大限でその知識を生かして、健康な人と治療が必要な人の両方における脳発達を最適化する。 8