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リポイド肺炎を契機とした急性呼吸促迫症候群(ARDS)の 1 例 ―肺血管

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リポイド肺炎を契機とした急性呼吸促迫症候群(ARDS)の 1 例 ―肺血管
470
日呼吸会誌
46(6)
,2008.
●症 例
リポイド肺炎を契機とした急性呼吸促迫症候群(ARDS)の 1 例
―肺血管外水分係数の動向を指標として―
吉田 健史
林下 浩士
鍜冶 有登
要旨:症例は 66 歳,女性.2007 年 7 月 16 日,飲食店に勤務中に足を滑らせ油を廃棄している汚物槽に溺
水した.すぐに救出されたが,呼吸困難感が持続するため,当救命救急センターへ搬送となった.来院時,
FiO2 比(P!
F 比)109mmHg と重度の低酸素血症を示しており胸部 CT では両側に consolidation と
PaO2!
すりガラス陰影の混在を認め,気管支肺胞洗浄液中に,脂肪滴を確認した.リポイド肺炎及び急性呼吸促迫
症候群(ARDS)と診断し,人工呼吸管理を開始すると同時に,連続心拍出量測定装置である PiCCO(Pulsion Medical Systems,Germany)により測定される肺血管外水分係数(EVLWI),心係数(CI)及び胸腔
内血液係数(ITBVI)を指標に厳格な水分管理を行った.また PiCCO による評価で,リポイド肺炎の特徴
として,他の疾患に比べて遷延する肺血管透過性の亢進が示唆された.リポイド肺炎から ARDS に発展す
る症例は非常にまれであり,その病態及び治療効果を本症例ではじめて,直接的に EVLWI で評価したので
報告する.
キーワード:リポイド肺炎,肺血管外水分係数,PiCCO,ARDS,気管支肺胞洗浄液
Lipoid pneumonia,EVLWI,PiCCO,ARDS,BALF
緒
言
外因性リポイド肺炎は,動物性油脂,植物性油脂や鉱
飲酒歴:無し.
家族歴:無し.
現病歴:2007 年 7 月 16 日,飲食店に勤務中に足を滑
物油の吸入及び誤嚥により引き起こされる疾患である1).
らせ植物油を廃棄している汚物槽に溺水した.汚物槽か
発症は軽症であることが多く,本症例のように重症型で
らすぐに救出されたが,救急隊到着時,リザーバマスク
ARDS にまで進展する症例は非常にまれであり,有効
酸素 10L!
min 投与下で酸素飽和度 92% と低値であり,
な治療法は確立されていない1).今回,我々は飲食店で
呼吸困難感が持続するため,当救命救急センターへ搬送
使用した油を廃棄する汚物槽に溺水,その植物油を誤嚥
となった.
し発症したリポイド肺炎の症例を経験した.入院時より
入院時現症:意識 GCS 3-5-6 で不穏状態,血圧 166!
104
ARDS を呈し,その後経過を通して,肺血管外水分係
mmHg,心拍数 111 回!
分
数(Extravascular Lung Water Index:EVLWI)が異
かつ努力様,酸素飽和度 95%(リザーバマスク酸素 10
常高値を示していた.ARDS を呈する重症リポイド肺
L!
min)であった.身体所見では,上半身は溺水した時
炎の病態及び治療効果を EVLWI で評価したので報告す
の油で濡れていた,全肺野両側に湿性ラ音及び狭窄音を
る.
聴取,心雑音(−)
,腹部に異常所見無し,その他骨折
症
例
整,呼吸数 32 回!
分であり
を含め異常所見は認めなかった.
検査所見:入院時血液検査では,WBC 15,660!
mm3,
66 歳,女性.
K 3.2mEq!
l,LDH 271IU!
l 以外異常所見は認めなかっ
主訴:呼吸困難.
た.また,リザーバマスク酸素 10L!
min 投与下の動脈
既往歴:無し.
血ガス分析では,pH 7.095,PaCO2 43.8torr,PaO2 109torr,
喫煙歴:無し.
Base Excess −16.6mmol!
l,乳酸 84mg!
dl と 重 度 の 低
酸素血症及び代謝性アシドーシスを認めていた(Table
〒534―0021 大阪府大阪市都島区本通 2―13―22
大阪市立総合医療センター救命救急センター
(受付日平成 19 年 10 月 3 日)
1)
.
心臓超音波検査では,IVS!
PW 10.4mm!
10.4mm Dd!
Ds 32.0mm!
23.7mm EF!
FS 52.4%!
26.0% 左心室壁運
リポイド肺炎と肺血管外水分係数
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動は diffuse mild hypokinesis と心機能低下を認めてい
た.
胸部レントゲンでは両側全肺野に透過性の低下を認
め,
胸部 CT では,
両側全肺野に肺門部を中心とした濃い
浸潤影及びすりガラス陰影を認めていた
(Fig. 1a,1b)
.
入院時,気管支鏡検査を行い,左 B4 より気管支肺胞
洗浄(BAL)を行った.気管支粘膜は発赤が強く,血
管の怒張も認められた.粘膜発赤は,特に気管分岐部か
ら右上幹及び底幹にかけてと左上区支,舌区支及び底幹
にかけて著明であった.また,溺水時に誤嚥したと思わ
れる細かな異物を認めた.気管支肺胞洗浄液(BALF)
の回収率は 63%(63!
100ml)で性状は淡血性,細胞数
ml で,組織球比率 2% と低下し好中球比
は 12.2×105!
率 67%,リンパ球比率 29% と増加していた.oil-red-O
染色により,BALF に脂肪滴を確認した.また BALF
の細菌培養では,Klebsiella pneumoniae 3+と Bacillus
cereus 3+であった(Table 1)
.以上の結果より,溺水
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を契機としたリポイド肺炎,誤嚥性肺炎による ARDS
及び心機能低下と診断した.
人工呼吸のモードとしては,自発呼吸下に Airway
治療経過:直ちに気管挿管,人工呼吸管理を開始する
Pressure Release Ventilation(APRV)で Phigh 20cmH2O
と同時に,肺炎に対して,抗生剤としてメロペネムを投
Plow 0cmH2O Thigh 2.5sec Tlow 0.3sec を初期設定として開
与,またメチルプレドニゾロン 2g!
日×3 日間を開始し
始した.
た.
FiO2 比(P!
F 比)54.9mmHg ときわめて
挿管時 PaO2!
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低値を示していたが,人工呼吸開始 4 時間後には P!
F
留置カテーテルのみで計測が可能であるが,キャリブ
比 304mmHg と酸素化能は著明に改善を認めた.その
レーションに熱希釈法を用いた測定が必要である.その
後も酸素化能の低下を認めず,第 3 病日に抜管した.
ため我々の施設では,1 日 2 回(7 時と 20 時)定期的に
同日の胸部 CT では,入院時に比べて改善傾向である
キャリブレーションを行っている.
が,依然濃い浸潤影が残存していた(Fig. 2)
.第 17 病
入院数時間後より,収縮期血圧が 70mmHg とショッ
日の胸部 CT では,依然気管支壁に沿って濃い浸潤影,
ク状態となり,輸液負荷に反応せず,ノルアドレナリン
結節影から粒状影が全肺野に認められた(Fig. 3)
.画像
(NAD)の持続投与を必要とした.呼吸循環動態評価の
所見の改善は非常に遅いにもかかわらず,酸素化能は抜
ため入院 12 時間後に PiCCO 測定を開始した.測定開始
管後も一貫して安定しており,室内気にて酸素飽和度
時,NAD 0.18µg!
Kg!
min 下で血圧 100!
70mmHg,CI 2.51
98% 前後と安定していたため,第 17 病日に転院とした.
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min!
m2 と心機能低下を認めていた.その後,呼吸状
循環動態及び肺血管外水分係数の経過:連続心拍出量
態の改善に伴い,血圧,CI とも上昇し,第 2 病日には
測定装置である PiCCO(Pulsion Medical Systems,Ger-
NAD を中止したが CI 3.71l!
min!
m2 と心機能の改善を
many)は,温度センサーのついている中心静脈カテー
認めた.その後の経過中も CI 3.01l!
min!
m2 前後を推移
テルと,圧トランスデューサーと熱希釈カテーテルが一
した.
体となった動脈内留置カテーテルにより心係数(CI)
,
また PiCCO 測定開始時,P!
F 比は 439mmHg と改善
肺外血管水分係数(EVLWI 正常値 5∼7ml!
kg)及び胸
を認めていたが,EVLWI は 39ml!
kg と高値であった
腔内血 液 係 数(ITBVI 正 常 値 850∼1,000ml!
m2)な ど
(Fig. 4)
.その後も肺血管透過性は異常に亢進している
を測定するモニタリング装置である.PiCCO は動脈圧
にもかかわらず,経過を通して酸素化能は良好であった
波形解析による心拍出量計であり,連続測定時には動脈
(Fig. 4)
.この異常な肺血管透過性亢進を抑制するため
リポイド肺炎と肺血管外水分係数
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に,ステロイドパルスやループ利尿剤を用いた厳格な水
リポイド肺炎の診断は,胸部画像所見の異常と肺内の
分管理を行った.カテコラミン中止後は水分バランス
脂質の証明である3).具体的には,脂質貪食マクロファー
も−500∼1,000ml!
日を維持し,その結果,血管内容量
ジの存在,油滴の存在の証明で,そのためには気管支鏡
を示す ITBVI は順調に低下しているが,経過を通して
検査による BALF の回収,分析が低侵襲であり,その
肺血管透過性亢進を示す EVLWI は抑制できなかった
診断に有用性が高い4).今回我々も,救急搬送時に気管
支鏡検査を行い,油滴の存在を確認し,現病歴,画像所
(Fig. 5)
.
考
察
見及び BALF 中の油滴の存在からリポイド肺炎と診断
した.今回の症例では,BALF 中の油滴の存在は確認
リポイド肺炎は,特に老人による鉱物油由来の緩下剤
したにもかかわらず,脂質貪食マクロファージの存在を
の誤嚥,ファイヤーイーターによる鉱物油の吸入,飛行
確認できなかったが,その理由としては溺水後 1 時間以
士による石油燃料の吸引などが報告されている.その多
内に気管支鏡検査を施行しており,超急性期であったた
くは慢性の経過をたどり,今回のように溺水による重症
めにまだマクロファージが脂質を貪食していなかったの
リポイド肺炎は,非常にまれであり,致死的である.我々
かもしれない.
の知る限りでは,溺水によるリポイド肺炎は Segev ら
2)
また Lauque ら4)によると,リポイド肺炎患者 4 人を
の報告 のみで,生存率 50% と非常に予後不良の疾患で
対象にした BALF 解析で,組織球比率の低下,好中球
ある.
比率の増加,リンパ球比率の増加及び好酸球比率の増加
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,2008.
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を報告しており,これらの細胞を介した炎症反応がリポ
できていないことを意味しており,上述の活性化好中球
イド肺炎の進展に重要な役割を果たしていると考えられ
及びリンパ球による炎症を抑えるために,厳格な水分管
2)
る.さらに Segev ら によると,組織球比率の低下とリ
理及びステロイドパルスを行った.しかし,ITBVI を
ポイド肺炎の重症度に相関があると報告しており,本症
指標にループ利尿剤を用いて積極的に水分バランスをマ
例では,BALF 中組織球比率 2% と著明な低下,好中
イナスにしたが,EVLWI は低下せず,またステロイド
球比率及びリンパ球比率の増加を認めていた.すなわち
パルスを行っても,EVLWI は低下しなかった.
本症例のリポイド肺炎は極めて重症であり,その病態の
これらの事実は以下の可能性を示唆する.1)リポイ
主体は活性化好中球及びリンパ球性の炎症であったと考
ド肺炎では,他の疾患に比べて EVLWI の高値が遷延す
えられる.従って,今回の ARDS の進展に関与したと
る.2)リポイド肺炎では,酸素化能は EVLWI の改善
思われるこうした活性化好中球及びリンパ球による炎症
と相関しない.3)リポイド肺炎に対するステロイドパ
を抑えることが治療の主軸になると考えられる.
ルスの効果は明らかではない.
PiCCO により測定される EVLWI は肺血管透過性亢
進の程度を直接的に評価する指標として用いられ,
5)
6)
EVLWI は酸素化能と負の相関関係を示す ことから,
7)
ARDS の管理においてその有用性は吉田ら ,Davey8)
9)
従来から酸素化能と EVLWI に負の相関関係を示す報
5)
6)
告 が多いが,本症例では EVLWI の高値が遷延したに
もかかわらず,酸素化能は良好であった.Proetz ら10)は,
兎の鼻粘膜で油が粘液の輸送を阻害することを示してい
Quinn ら ,Mitchell ら によって報告されている.我々
る.また,King ら11)は,蛙の口蓋の線毛上皮細胞で,
は,肺血管透過性亢進を起こす病態―ARDS や敗血症
油のような粘性の高い物質は輸送されにくいことを示し
など―の患者で人工呼吸管理下にある場合は積極的に
ている.従って,油が一旦気管支に入るとその粘性の高
PiCCOの適応と考え,PiCCOにより測定されるCI,
さから気管支粘膜の線毛運動が阻害されると考えられ
ITBVI 及び EVLWI を指標に,肺血管外水分量を減少
る.さらに,肺胞内に入ると,一部は肺胞マクロファー
させ,かつ全身の臓器循環を保つ最適の水分量を決定し,
ジに貪食され肺門リンパ節へ輸送されるが,多くは肺胞
さらに治療の効果判定に応用できると考えている.
内に残り,粘膜線毛運動が阻害される12)ため,咽頭へは
本症例では,入院 12 時間後より PiCCO 測定を開始し
戻りにくいと考えられる.また,肺胞内の油はサーファ
た.入院時,P!
F 比 54.9mmHg と著明な低酸素血症を
クタントの機能を阻害するとの報告13)もあり,以上の理
認めていたが,4 時間後には P!
F 比 304mmHg,PiCCO
由からリポイド肺炎では,炎症が持続しやすく肺血管透
測定開始以降も常に P!
F 比 300mmHg 以上は維持して
過性の亢進が遷延すると考えられる.
いた.この酸素化能の劇的な改善に反して,EVLWI は
経過を通して 30ml!
Kg 以上と高値を示していた.
EVLWI の持続する高値は,肺血管透過性亢進を抑制
また,酸素化能と EVLWI の解離に関しては,いくつ
かの理由が考えられる.肺損傷が発生した当初は,換気!
血流比が不均一となり酸素化能も低下するが,時間とと
リポイド肺炎と肺血管外水分係数
もに換気のない肺胞に対する血流も乏しくなり,全体と
475
1999 ; 27 : 1437―1440.
しての換気!
血流比,酸素化能は改善するのかもしれな
3)Slverman JF, Turner RC, West RL, et al. Bronchoal-
い.従って,EVLWI が高値を示し,画像所見での改善
veolar lavage in the diagnosis of lipoid pneumonia.
が乏しい状態でも,酸素化能は良好となる可能性は考え
Diagnostic Cytopathology 1989 ; 5 : 3―8.
られる.また,The ARDS Network の ARDS に対する
4)Lauque D, Dongay G, Levade T, et al. Bronchoalveo-
低換気量の有用性を示した報告14)でも,生存率には有意
lar lavage in Liquid Paraffin Pneumonitis. Chest
な差を示しているにもかかわらず,酸素化能に関しては
1990 ; 98 : 1149―1155.
有意な差を認めていなかった.このことから,
酸素化能―
5)Martin GS, Eaton S, Mealer M, et al. Extravascular
P!
F 比―は肺への損傷や改善の程度を正確に反映する
lung water in patients with severe sepsis : a pro-
指標ではないのかもしれない.また,胸部 CT 所見でも
気管支壁肥厚が著明であり,遷延する気管支の炎症を
EVLWI の高値としてとらえている可能性もある.
急性の重症リポイド肺炎に対しての治療は,呼吸循環
管理以外,有効性が示されたものはない.慣習的にステ
ロイド剤が使用されており15),我々も入院 6 時間後から
spective cohort study. Critical Care 2005 ; 9 : R74―
R82.
6)Szakmany T, Heigl P, Molner Z. Correlation Between Extravascular Lung Water and Oxygenation
in ALI!
ARDS Patients in Septic Shock : Possible
Role in the Development of Atelectasis. Anaesth Intensive Care 2004 ; 32 : 196―201.
メチルプレドニゾロン 2g!
日 3 日間のパルス療法を行っ
7)吉田健史,林下浩士,鍜冶有登.好中球エラスター
た.ステロイド開始時,酸素化能はすでに改善をしてい
ゼ阻害薬と水分管理で軽快した原因不明の急性呼吸
たので,その効果は明らかではない.また,ステロイド
促迫症候群の 1 例―肺血管外水分係数の動向を指標
パルス療法下でも EVLWI は改善せず,肺血管透過性の
として―.日呼吸会誌 2006 ; 44 : 973―979.
亢進は抑制されなかった.本症例の BALF 中では好中
8)Davey-Quinn A, Gedney JA, Whiteley SM, et al. Ex-
球優位の上昇を認めていたことを考慮すると,ステロイ
travascular lung water and acute respiratory dis-
ド剤による炎症の抑制は困難である可能性は考えられ
tress syndrome―oxygenation and outcome―. An-
る.本症例では,酸素化能の改善及び肺血管透過性亢進
の抑制などのステロイド剤のリポイド肺炎に対する効果
は確認できなかった.入院時,第 3 病日及び第 17 病日
に測定し た KL-6 は そ れ ぞ れ 412,562,414U!
ml と 線
aesth Intensive Care 1999 ; 27 : 357―362.
9)Mitchell JP, Schuller D, Calandrino FS, et al. Improved outcome based on fluid management in critically ill patients requiring pulmonary artery catheterization. Am Rev Respir Dis 1992 ; 145 : 990―998.
維化の進行を示唆する所見はなかったこと,経過中にス
10)Proetz AH. The effects of certain drugs up on living
テロイド剤の効果も確認できなかったことから,ステロ
nasal ciliated epithelium. Ann Otol Rhin Laryngol
イド維持療法は行わなかった.
1934 ; 43 : 450―463.
今回,我々は溺水を契機にしたリポイド肺炎の症例を
11)King M, Gilboa A, Meyer FA, et al. On the transport
経験した.病態は極めて重症であり ARDS に進展した
of mucus and its rheologic stimulants in ciliated sys-
が,救命に成功した.また,リポイド肺炎を契機にした
tems. Am Rev Respir Dis 1974 ; 110 : 740―745.
ARDS の特徴として,油脂という粘性の高さにより,
他の ARDS に比べ遷延する肺血管透過性の亢進が確認
できた.治療に関しては,慣習的にステロイド剤を用い
たが,明らかな臨床的効果は確認できなかった.
引用文献
1)Sundberg RH, Kirschner KE, Brown MJ. Evaluation
of Lipoid Pneumonia. Dis Chest 1959 ; 36 : 594―601.
2)Segev D, Szold O, Fireman E, et al. Keroseneinduced severe acute respiratory failure in near
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日呼吸会誌
46(6)
,2008.
Abstract
Vegetable oil-induced acute respiratory distress syndrome (ARDS) in near drowning :
Evaluation based on extravascular lung water index
Takeshi Yoshida, Hiroshi Rinka and Arito Kaji
Emergency and Critical Care Medical Center, Osaka City General Hospital
Lipoid pneumonia usually presents after chronic recurrent ingestion of oily substances or accidental aspiration during fire-eating demonstrations. Massive exposure by near drowning extremely rare and potentially fatal.
We present here a case of survival after total immersion in oil in her workplace. A 66-year-old woman who nearly
drowned in a vat of vegetable oil was admitted as an emergency case with severe hypoxia after rescue. Chest
computed tomography (CT) findings showed bilateral ground-glass opacity, consolidation, and the case fulfilled the
criteria for acute respiratory distress syndrome (ARDS). Bronchoscopy and bronchoalveolar lavage performed on
admission indicated oil droplets and marked neutrophilia (67%), which made us diagnose ARDS induced by lipoid
pneumonia. We commenced treatment with pulsed steroids and strictly managed fluid balance under mechanical
ventilation. Despite immediate improvement in oxygenation, the value of extravascular lung water index
(EVLWI) measured by the PiCCO system consistently remained over 30ml!
Kg through her clinical course. We
concluded that lipoid pneumonia is characterized by prolonged elevatation of pulmonary vascular permeability.
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