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博士論文審査報告書

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博士論文審査報告書
早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論
文
題
目
視覚障害者のための情報支援シス
テムに関する研究
A Study on Information Support System for
Visually Impaired
申
請
者
宮本
修
Miyamoto
Osamu
電気・情報生命専攻
学習型信号・情報処理システム研究
2012 年
7月
視覚障害者は, 眼疾患によって視力, 視野, 色覚, 光覚等の視機能障害が発
生し, その結果として読み書き, 歩行, 日常生活上に能力障害が起こってい
る 人 々 で あ る . こ れ ら は , し ば し ば 社 会 的 な 不 利 と し て , 就 労 面・経 済 的 自 立
で の 制 約 に 結 び つ く . 平 成 1 8 年 身 体 障 害 児・者 実 態 調 査 結 果 に よ る と , 身 体
障 害 者 全 体 (総 数 3,483,000 人 ), 及 び 身 体 障 害 児 (総 数 93,100 人 ) の う ち ,
視 覚 障 害 者 数 は 総 数 310,000 人 で あ り , 視 覚 障 害 児 総 数 は 4,900 人 で あ る .
視覚障害者が遭遇している困難は, 主に
「移動に伴う困難」, 「情報入手・発信に伴う困難」
がある. 前者は道路・交通機関・公共建築物等の利用時において, また後者
は書籍や新聞などを読む時のみならず災害時や緊急時の情報入手・発信, そ
して避難誘導時において現れる. これらの側面に対する視覚障害者への配慮
は, たとえば次のようなものがある:
・各地の点字図書館, 視覚障害者にさまざまな情報を点字, 音声データで提
供するネットワーク.
・駅における手すりや券売機に設置された点字による説明.
・歩道や鉄道駅などにおける突起のついた「視覚障害者誘導ブロック」, い
わゆる「点字ブロック」.
・横断歩道や駅の階段における音声・音楽による誘導.
・視覚障害者用の腕時計. ふたを開けて針の位置を指で確認できる. また時
間合わせを自動でしてくれる電波時計は, 視覚障害者にも便がよく, 音声読
み上げタイプは日常生活用品として用いられる.
・パソコンやネットワーク関係では, マウス等による場所指定操作が困難な
人々のための音声読み上げソフトによるツール.
これらを含め, 視覚障害者の生活の質の向上を目指す多くの試みや整備が
行われているが, 改善の余地を残すものも少なくない. これらを整理すると
視覚障害者が抱える課題はいくつかに類別され, たとえば
(a) 日 常 生 活 で の 移 動 に 関 す る 必 須 の 課 題
(b) 社 会 が 必 要 と す る 課 題
(c) 情 報 化 時 代 に 必 須 の 課 題
がある.
これらに関して本論文の著者はいくつかの体験をもった.
一 つ は , 駅 構 内 に 設 置 さ れ て い る 手 す り 上 の 点 字 案 内 の 誤 り で あ り , 2000
年に鉄道の点字運賃表の間違いが相次いで発見されたにもかかわらず, その
後も点字運賃表の誤りは発見され続けている. このことは, 現場の点字確認
作業がかなり困難であることを示している.
二つ目は点字翻訳作業の困難と点訳者数の少なさである. 一冊の書籍, 大
量の重要書類などの点訳作業をスムースに行うには多大の点訳訓練が必要で
あり, 需要に対して点訳者の数は圧倒的に少ないのが現状である. したがっ
ていわゆるベストセラーとなった書籍は比較的速やかに点訳されるものの,
1
一般にはまだまだ読みたい本が点訳されている率は低いと言わざるを得ず,
点訳本, 点訳者の増加は視覚障害者の切望するところとなっている.
コンピュータによる自動点訳の試みはいくつかある. そのような自動点訳
は, もとの媒体から電子化された情報に基づき, いわゆる「分かち書き」な
どを自動的に行おうとするものである. 一方, 目的の印刷物から視覚障害者
が実際に使える点訳物にする過程を遂行するには人間の力が必要であり, そ
ういったものはボランティアに依存している部分が多い. そして, そのよう
なボランティアは, 目の見えない人々に関心がある人々である. 従って視覚
障害者に関心のある人間を増やすことは自動点訳を行うことと同じくらい大
切である.
三 つ 目 は , 視 覚 障 害 者 の た め の 特 殊 WEB ブ ラ ウ ザ で あ り , 視 覚 障 害 者 が ,
これからの情報化社会で活躍するためにも改善の余地があると考えられる.
こ れ ら を 改 善 す る た め , 本 論 文 の 著 者 は 上 述 の (a), (b), (c)か ら 次 の 三 つ の
具体的課題に取り組んだ:
(i)
点字デジタルカメラ画像の自動誤り訂正システム
(ii)
コーパスへの検索による点訳の分かち書き誤り修正システム
(iii)
視 覚 障 害 者 の た め の 特 殊 WEB ブ ラ ウ ザ
本 論 文 は そ の よ う な「 視 覚 障 害 者 の た め の 情 報 支 援 シ ス テ ム 」に 対 す る ア ル
ゴリズムを構築したうえ, それを実装してそのシステムの性能を検証してい
る. 本論文は, これらの成果を学術雑誌, 国内外の学会などで発表した論文
を踏まえて博士論文としてまとめたものである.
本論文は5章から構成されている. 以下に各章の概要を述べ, 評価を与え
る.
第1章「序論」では研究背景及び本論文の目的が述べられている. 本論文に
述べられる研究を遂行するに至った動機を説明し, 問題点を指摘している.
また関連する先行研究を概観している.
第 2 章 「点字デジタルカメラ画像の自動誤り訂正システム」では, まずデ
ジタルカメラで撮影したステンレス製の点字を認識する際, イメージスキャ
ナを使った点字認識のアルゴリズムをそのまま適用できないことを指摘して
いる. 理由の一つは, 光線条件により, 陰影のパターンは一定しないことで
あり, もう一つは主としてレンズの収差が影響することである. 提案するシ
ステムは, 以下の方法でこれらの問題を解決した.
(i)
点の存在の検出については, ストロボを発光させて撮影し, ストロボ
の光が点に反射したパターンを認識した.
(ii)
点の位置検出については, 動的計画法を用いたマッチングを行うこと
に よ り , レ ン ズ の 収 差 を 吸 収 し た . わ い 曲 収 差 の あ る サ ン プ ル 5102 マ
スに対して検証実験を行ったところ変動吸収なしの場合認識率
81.24 %で あ っ た の に た い し , 提 案 シ ス テ ム で は 98.73 %で あ っ た .
2
第 3 章
「コーパスへの検索による点訳の分かち書き誤り修正システム」
では, 点訳された文から, その分かち書きの誤りを判別し, 修正するアルゴ
リズムを提案している. 提案システムで修正を行う直接の対象は, 点訳ファ
イルであり, 点字の文字コードによって記述されている. 提案システムは,
修 正 対 象 の あ る 一 部 分 を 取 り 出 し , そ れ が 大 量 の 点 訳 フ ァ イ ル (「 点 訳 コ ー パ
ス」と呼ぶ) の中に何件含まれているかを調べる. この含まれた件数を「ヒ
ット件数」と呼び, そのヒット件数から分かち書きの誤りを判別する. 検証
実 験 を 行 い , 修 正 前 の 平 均 誤 り 率 が 11 . 5 2 % で あ っ た の に 対 し て 提 案 シ ス テ
ム に よ る 修 正 後 の 平 均 誤 り 率 は 2.12% に 改 善 さ れ て お り , 著 者 が 述 べ て い る
ように, このシステムにより点訳初心者の訓練に用いる事ができると考えら
れる.
第 4 章 「 視 覚 障 害 者 の た め の 特 殊 W E B ブ ラ ウ ザ 」で は , 視 覚 障 害 者 が W E B
アクセスをするのは依然として困難が多いという問題に対して, 視覚障害者
用 の 特 殊 WEB ブ ラ ウ ザ を 簡 単 に 構 築 す る た め の ツ ー ル キ ッ ト が 有 用 で あ る
と述べている. 実際にそのようなツールキットを作成し, 検証実験として視
覚障害者が書籍通販サイトの商品を実際に注文する場面に使用可能な特殊
WEB ブ ラ ウ ザ を 開 発 し , 提 案 シ ス テ ム の 有 効 性 を 示 し た .
第 5 章
「結論」では本論文の成果をまとめ, これからの方向性について述
べている.
本論文を通じて著者は, 提案システムの性能を調べるため, 実データを用
いて検証を行い, 機能していることを確認している. 本論文で述べられた諸
システム構築は多くの時間とエネルギーそして根気を必要とする一方, 特に
華々しい部分はないが, 明示的には見えない部分で社会を支えていくと考え
られる. 本研究の成果は視覚障害者のための情報支援システム技術の進歩に
貢献するところが大きい. よって本論文は博士(工学)の学位論文として価
値あるものと認める.
2012年7月
審査員 主査
早稲田大学教授
工学博士
(早稲田大学)
松本
早稲田大学教授
工学博士
(早稲田大学)
内田健康
早稲田大学教授
博士(工学)東京大学
村田
昇
早稲田大学教授
博士(工学)早稲田大学
渡辺
亮
早稲田大学准教授
博士(医学)京都大学
井上真郷
静岡県立大学教授
社会学博士
石川
3
(東京大学)
隆
准
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