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性の多様性に配慮したソーシャルワーク 性の多様性とは 人間の性

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性の多様性に配慮したソーシャルワーク 性の多様性とは 人間の性
性の多様性に配慮したソーシャルワーク
性の多様性とは
人間の性(セクシュアリティ)は、さまざまな要素を含みます。性別は身体的な性(カラダの性)に加
え、気持ちを表す性的なアイデンティティ(ココロの性)、そして着る服装や言葉遣いなどのような社会
的な行動を意味するジェンダー表現(フルマイの性)に分かれます。また、恋愛の相手を示す性的指向
(スキになる性)と性交渉の相手を表す性行動(セックスする性)の要素もあります。これらの要素の多
様な組み合わせの人々がいます。
セクシュアル・マジョリティとマイノリティ
組み合わせの中で最も多いのは、異性愛(ヘテロセクシュアル)の女性と男性です。大多数のヘテロセ
クシュアル女性は、カラダ・ココロ・フルマイの性も女性で、そして異性愛という文字通りスキになる性
もセックスする性も異性つまり男性です。同じく、ほとんどのヘテロセクシュアル男性は、カラダ・ココ
ロ・フルマイの性と三種類の性別も男性で、恋愛と性交渉の対象とも異性ですからスキになるとセック
スする性は女性になります。セクシュアリティはデリケートな問題であり、アンケートなどで正確なデ
ータをとるのは難しいですが、このような異性愛の女性と男性が全人口の 9 割以上を占めていて、セク
シュアル・マジョリティ(性的多数者)と呼ばれています。
以上の組み合わせとは違うセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の人口比は 3%~10%で、
LGBTQIA 等の言葉に示されるように、さまざまな組み合わせの人がいます。L はレズビアン、同性愛
(ホモセクシュアル)女性の略です。レズビアンの人々の多くはカラダ・ココロ・フルマイの性は女性で
すが、スキになる性もセックスする性も同じ女性です。G はゲイの略で、同性愛の男性を指しています。
ゲイ男性は、カラダ・ココロ・フルマイの性とも男性でありながら、スキになる性とセックスする性も男
性です。B はバイセクシュアル(両性愛)の略で、いずれの性の人に対しても性的欲求を抱くような性的
指向を意味します。T はトランスジェンダーまたはトランスセクシュアルの略で、カラダの性とココロと
フルマイの性が違う人々です。トランスジェンダーは例えば身、体的には女性として生まれたが気持ち
は男性で男性として生きたい人たち、逆にカラダは男性ですがココロもフルマイも女性の方が楽な人た
ち、あるいは生まれた性別は女性であっても男性であっても、どれも生きづらく第三の道を選ぶいわゆ
るⅩジェンダーの人たちを含みます。ホルモン治療や性適合手術で、カラダも気持ちに近づけようとす
る人たちをトランスセクシュアルといいます。Q は性のそれぞれの要素について模索中の人々を指して
いてクエスチョニングの略です。I はインターセックスを意味し生まれながらカラダが女性でも男性でも
ない、あるいはその両方の身体的な特徴をもつ人々です。A はアセクシュアル(無性愛)の略で、カラ
ダ・ココロ・フルマイの性に関わらず恋愛と性交渉に関心のない人々のことです。
セクシュアル・マイノリティが抱える特有の問題とそれへの対応
社会の中でセクシュアル・マジョリティとセクシュアル・マイノリティの比率は多くても 9 対 1 で、
セクシュアル・マイノリティの人は実質的に 10 人に 1 人、少ない推定では 30 人に 1 人しかいません。
そのため、社会はセクシュアル・マジョリティを前提に作られており、セクシュアル・マイノリティに対
する配慮が欠けている場合が多いです。あらゆる仕組みは、世の中に異性愛の女性と男性しかいないと
いう二元論できています。また、このようなセクシュアル・マジョリティ以外の人々が劣っているという
偏見も存在します。このような社会的な実態を異性愛中心主義(ヘテロセクシズム)と呼んでいます。ま
た、LGBT の人々に対する差別意識をホモフォビア(同性愛嫌悪)、バイフォビア(両性愛嫌悪)
、トラン
スフォビア(ジェンダー越境嫌悪)といいます。このように、自分の存在を想定していない社会あるいは
自分に対して偏見や差別に満ちた社会の中で、多くのセクシュアル・マイノリティが生きづらさを感じ
ており生活課題を抱えています。例えば家族に自分の性を認めてもらえない、学校でいじめやからかい
の対象になるなどのようなことが若い頃から本人に精神的な苦痛を与えており、ストレスの要因になっ
ています。また一般的に、社会の中にある否定的なメッセージによって自己肯定感が低くなる人たちが
います(自分自身に対する差別の内在化という現象)。セクシュアル・マイノリティはセクシュアル・マ
ジョリティよりも高く、場合によって、何倍もの割合でこれらに起因する自傷行為や自殺願望・希死念慮
と未遂の問題を抱えています。なお、各種社会サービスもセクシュアル・マイノリティを無視しているこ
とがあります。例えば医療や福祉の現場では、入院する病院や入所する施設(児童養護施設、老人ホーム
など)の多くは建物の構造もそして受けるケアも男女の二元論で成り立っていて(男女別の部屋割、同性
介護等々)
、T の入院・入所者は特に困ります。さらに、LGB の患者や利用者が直面する制度上の問題も
あります。例えば、いくら長く家族同様に愛し合って一緒に家庭を築いてきた同性パートナーでも法律
上の家族として認められず、お見舞い時の面会権、相続権などの家族としての権利を断られてしまうこ
とがあります。
性の多様性に配慮したソーシャルワークは、異性愛中心主義、ホモフォビア、バイフォビア、トランス
フォビアの社会的な実態を踏まえ、それに対するセクシュアル・マイノリティの人々の権利擁護と代弁
に取り組み、生きづらさと生活課題に一緒に取り組みます。そのため、利用者だけでなく、その利用者を
取り巻く環境にも働きかけます。具体的には、個人や家族のミクロ・レベルでは、個別相談に丁寧に対応
しながら組織や地域のメゾ・レベルで必要な環境調整を行います。そしてマクロ・レベルでは、各種差別
をなくすように声を上げ、セクシュアル・マイノリティによりやさしくフレンドリーな福祉現場、法制
度、社会の実現を目指します。
ホームレス支援
A 市の駅前の地下街に、仕事や住居をなくした路上生活者が増えていました。朝夕ともなると、通
勤通学に急ぐサラリーマンや高校生のかたわら、通路の片側に段ボールを敷き占拠する人が 80 名ほど
この事件を新聞報道で知った住民は、関係者は被害者の無事を知って安堵した一方、路上生活者の不安
いて、異様な雰囲気に包まれる状態が続き、商店会の住民や通行人との小さなトラブルが起きていま
感と、住民の「路上生活者は我々とは別の社会の人」
「怠けている人」という意識に愕然として、ホーム
した。そしてある夜、塾帰りの生徒が遊び半分で段ボールにくるまって寝ている人に蹴とばしたり、
レス問題の理解促進の対策の必要性を感じたのでした。
火をつけたりする事件が起きました。
(市民の支援活動)
A 市には、路上生活者に心を痛めた市民団体が夜回りを 15 年以上前から続けていました。「一人も路
上死を出さない」を合言葉に、路上生活者に対する巡回訪問、安否確認、食べ物や衣類等の配布、さらに
は路上生活をしないで済むようにする支援活動を毎月行っていました。A 市の社会福祉士会(※1)は、
この市民団体に合流して夜回りを始めました。さらには、その専門性を活かして、入浴サービス、生活相
談、シェルター(※2)
、仕事に就くことを支援する活動、さらには、市民の理解促進を図るためのボラン
ティア講座などを行っていました。
事件を受けて、活動を続けてきた市民は、被害者の無事を知って安堵しましたが、路上生活者の不安感
がくぜん
と、住民の「路上生活者は我々とは別の社会の人」
「怠けている人」という意識に愕然として、ホームレ
ス問題の理解促進の対策の必要性を感じました。
そのようななか、ある高校の先生から「生徒が 3,4 人夜回りに参加したい」という申し入れがあり、
高校の先生が付き添いながら高校生も夜回り体験を何度かすることになりました。活動に参加した後、
「今までは、怖い人、自分たちとは違う人と思っていました。でも言葉を交わすと普通の人でした。失業
して今は路上生活をしているだけで、自分たちと何ら変わらない人だった」と高校生たちは話しました。
現在の A 市では、人間の尊厳を損なう路上生活からシェルター利用を促すことしたり、生活保護(※
3)を申請して住居に移り住むことを支援したりする「ハウジング・ファースト(まず路上から住宅へ)
」
を目標に掲げたコミュニティづくりが進められています。さらには、生活保護を受給しながら就職活動
を行うこと、年金の受給を申請すること、病気を治すこと、借金を整理すること、障がい者手帳を申請す
ることなど、市民と行政が力を結集するかたちで、社会からの孤立をなくすためさまざまな取り組みが
展開されています。
社会にはさまざまな困難をもつ人がいます。そうした人に支援をするのは行政や公的な制度だけでは
ありません。それらの助けが行き届きにくい場合、市民団体や社会福祉士会などがサービス・事業を開発
する活動を行いつつ個別支援を行っているのです。つまり、公的な仕組みの充実と併せ、地域で起きてい
る課題を他人事にしない市民の意識と力の結集が求められているのです。
(※1)社会福祉士会 ソーシャルワーカーの国家資格である社会福祉士資格を持つ人たちの団体。
(※2)シェルター
さまざまな困難から逃れるための避難場所。
(※3)生活保護
失業や病気などで収入が少なく生活に困っている人に健康で文化的な最低限度の
生活を保障するために、必要な資金や物品などを支給する公的な制度のこと。
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