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中東欧における太陽光発電の現状(その2)
情報報告 ウィーン ●中東欧における太陽光発電の現状(その2) 先月に引き続き、2010 年 7 月 2 日にチェコ・プラハ市内で開催された CEE Solar 2010 の講 演について報告する。内容としては、中東欧(Central- Eastern- Europe:CEE)における太陽 光発電の現状を報告するもので、主催は EastEuro Link 社である。 3.中東欧の新興太陽光発電市場 Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社(ポーランド) 3.1 EU 新加盟国における太陽光発電市場 EU 新加盟国などの中東欧で、2009 年以来に起こった太陽光発電に関する変化として、下記 項目を挙げることができる。 ・再生可能エネルギー源に関する義務を達成するために、政治家が認識し、本気で取り 組むようになった。 ・新しい太陽光発電製造工場が、中東欧地域でできたこと。 ・地域調査センターや、質の高い労働力の開発が進んだこと。 最近の市場動向として、新加盟国における太陽光発電の全設置容量について、2003 年から 2009 年までの推移を図 3-1 に、2009 年の国別実績を図 3-2 に、それぞれ示す。 500 480 送電網から独立 460 送電網接続 440 合計 (MW) 420 100 80 60 40 20 0 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 図 3-1 EU 新規加盟国における太陽光発電設置容量の推移 ― 43 ― 情報報告 ウィーン 465 464 463 462 460 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 送電網から独立 送電網接続 ラトヴィア リトアニア スロヴァキア ルーマニア ハンガリー ポーランド マルタ キプロス ブルガリア チェコ スロヴェニア 合計 エストニア (MW) 461 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 図 3-2 EU 新規加盟各国における太陽光発電設置容量の 2009 年実績 EU 新加盟国およびその周辺国における太陽光発電への優遇制度について表 3-1 に、また EU 新規加盟国の管理体制について表 3-2 に、それぞれまとめる。 表 3-1 国名 EU 新加盟国およびその周辺国における太陽光発電への優遇制度 投資への 補助金 ブルガリア キプロス 有利なクレ ジット条件 税制優遇策 固定価格 買取制度 ○ ○ チェコ ネット メータリング 費用便益 分析 ○ ○ ○ クォータ制 ○ ○ ○ ○ エストニア ○ ハンガリー ○ ラトヴィア ○ リトアニア ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ マルタ ○ ○ ○ ポーランド ○ ○ ○ ○ ルーマニア ○ スロヴァキア ○ ○ ○ スロヴェニア ○ ○ ○ クロアチア ○ ○ トルコ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 注) クォータ制(Quota system) :発電事業者に一定の再生可能エネルギーによる発電割合を課す制度 ネットメータリング(Net metering) :余剰電力を送電網に戻す場合、一定の価格が保証される制度 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 ― 44 ― 情報報告 表 3-2 ブルガリア キプロス EU 新規加盟国の太陽光発電に関する管理体制 送電網への 簡素化された 承認調整 優先接続権 手続の有無 機関数 ○ × 6 ○ ○ 手続の複雑性 困難だが改善 されている 2~8 困難だが改善 されている 全体手続に 発電施設製造者の 必要な時間 送電網接続コスト負担 6~12 ヶ月 割当あり 20kW 未満 20kW 未満:負担なし、 それ以上:割当あり 1~5 ヶ月 20kW 以上 6~12 ヶ月 接続方式と 電圧レベルによる × 全額負担 ○ × エストニア × 4~7 困難だが改善 されている 送電網拡張コストは 常に割当あり 6 ヶ月 チェコ ハンガリー × ○ 1~23 理性的 1~6 ヶ月 16A×3 系列以下の 場合、負担なし ラトヴィア × × 3~6 困難だが改善 されている 3~6 ヶ月 全額負担 リトアニア × × 1 理性的 1~6 ヶ月 割当あり (製造側 40%負担) マルタ ○ ○ 1~3 理性的 1~6 ヶ月 全額負担 ポーランド × × 10 以上 困難 1 年以上 割当あり (製造側 50%負担) ルーマニア ○ × 3~6 6 ヶ月 10MW 以上:割当あり それ未満:負担なし スロヴァキア ○ × 10 以上 スロヴェニア ○ ウィーン × 3~5 困難だが改善 されている 困難 困難だが改善 されている 1 年以上 全額負担 6~12 ヶ月 割当あり 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 本節最後に、新規加盟国の市場の最新情報を示す。 ・ルーマニア Renovatio グループ(ルーマニア)が、総容量 50MW の太陽光パネル製造を開始した。 ・ブルガリア(1) Basic Solar USA 社(アメリカ)が地方企業と提携して、容量 10MW の Apex Solar Bulgaria 施設を開発した。 ・ブルガリア(2) SolarPro ホールディング社(ブルガリア)が、容量 27.5MW の太陽光発電施設の建設を計画 している。 ・スロヴェニア Day4 Energy Inc.社(本社アメリカ)が、容量 25MW のターンキー式製造技術ソリューショ ンに、Enersis 社(チリ)との提携に合意した。 ・スロヴァキア Mage Solar 社(ドイツ)が、スロヴァキアに販売拠点を構えた。 ― 45 ― 情報報告 ウィーン 3.2 太陽光発電開発を目指す中東欧の新市場 欧州における太陽光発電市場の状況のイメージを、図 3-3 に示す。 現在「注目される」 市場 「リーダー」 「新」市場 イタリア ドイツ スペイン チェコ チェコ 「近い将来」の市場 ブルガリア スロヴェニア ウクライナ ルーマニア マケドニア トルコ 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 図 3-3 欧州の太陽光発電市場の状況のイメージ 投資家にとっては、 「新市場」で高額の固定価格買取制度が導入されていることが魅力とな っている。一般的には、固定価格買取制度を導入する国は、先導的市場国と比べて歴史は浅い。 しかしながら、高額な固定価格または将来的なコストの削減は、相殺可能である。 もし固定価格買取制度が頓挫する、または設置容量上限が市場に導入されたとしても、安定 した資金源を持つ開発計画は、電力会社やリスクの少ない施設を模索する投資家にとって、魅 力的なものとなるであろう。 次に東欧諸国における太陽光発電施設建設に対する平均的な補助金額について図 3-4 に、補 助金を受けられる期間および市場の状況を付け加えたものを表 3-3 にそれぞれ示す。主要 EU 市場 6 ヶ所での平均額は 1MWh 当たり 327 ユーロとなるが、 新しく注目を集める市場の優遇策は、 その平均に近付く傾向にある。 出典:GMX 図 3-4 東欧諸国の太陽光発電施設建設に対する補助金額の現状 ― 46 ― スロヴァキア ブルガリア マケドニア セルビア ウクライナ クロアチア ハンガリー スロヴェニア(最小) スロヴェニア(最大) ルーマニア(最大) ルーマニア(最小) 補助金額(ユーロ/MWh) 情報報告 ウィーン 表 3-3 東欧諸国の太陽光発電施設建設への補助金額、その期間、市場状況 大規模太陽光発電施設 に対する補助金 グリーン電力証書(GC)6 単位 ルーマニア GC1 単位当たり 27~55 ユーロ 期間 市場状況 15 年 今後成長 スロヴェニア 250 ユーロ MWh 15 年 今後成長 ハンガリー 100 ユーロ MWh 投資元本回収期間 未熟 クロアチア 323 ユーロ MWh 12 年 未熟 ウクライナ 465 ユーロ MWh 2030 年まで 今後成長 セルビア 230 ユーロ MWh 12 年 未熟 マケドニア 410 ユーロ MWh 20 年 要注目市場 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 本件に関連するニュースを以下にまとめる。 ・マケドニア(1) Sun Power 社(アメリカ) 、Fronius 社(オーストリア) 、Würth 社(ドイツ)と、Petro M. 社(マケドニア)が、国内初の太陽光発電施設建設の提携に合意した。 ・マケドニア(2) ドイツの 6 企業とドイツ経済省の代表が、マケドニアにおける太陽光発電施設および太陽電 池への投資の可能性の調査を実施する予定である。 ・ウクライナ BudaSolar Technologies 社(ハンガリー)は、薄膜フィルム型電池の補助金を受ける計画で あるが、タンデム型薄膜シリコンソーラーモジュールの生産ラインを、年間 18MW の生産容量と する計画である。 ・クロアチア 「ソーラー・クラスター」と呼ばれる環境協会が、ダルマチア地方(南部のアドリア海沿岸 地方)における太陽光エネルギー促進を達成するために設立された。 ― 47 ― 情報報告 ウィーン 3.3 中東欧各国の現状詳細 (1)ウクライナ 南部では 1,400kWh ウクライナの日照状況を図3-5 に示すが、 北部では平均して 1,070kWh/m2、 2 /m である。 太陽光発電の技術的ポテンシャルは 16TWh/年、 2009 年時点での設置容量は 3.2MW、 2015 年までの設置予定容量は 157MW である。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-5 ウクライナの日照状況 ウクライナの支援制度の概要を以下に示す。 ・太陽光発電への補助金は、基本は 465.3 ユーロ/MWh である。 ・外国為替リスクを軽減するために、固定価格買取制度は 2009 年 1 月 1 日の交換レートでユー ロ換算したものとする。 ・本システムは 2030 年 1 月 1 日まで有効である。 ・本制度は 2014 年から始まり、グリーン・タリフ係数は廃止されることになる。 ・固定価格買取制度の構造を、以下に示す。 (2009 年 1 月現在の小売価格)×(ピーク時間に対する価格係数=1.8)×(グリーン・タリフ係数) ウクライナへの参入に対する障害として、以下の要素が挙げられる。 ・固定価格が有効となるプロジェクトとなるためには、以下の条件を満たす必要がある。 -2011 年以降:ソーラーモジュールの 30%がウクライナ産であること -2012 年以降:原材料、固定資産、作業、サービスの 30%がウクライナ産であること -2014 年以降:上記を基準を 50%に引き上げ ― 48 ― 情報報告 ウィーン (2)ルーマニア ルーマニアの日照状況を図 3-6 に示すが、日照量は平均して 1,300~1,500kWh/m2 である。太陽 光発電の技術的ポテンシャルは 1,200GWh/年、2020 年までの設置予定容量は 500MW である。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-6 ルーマニアの日照状況 ルーマニアの支援制度の概要を以下に示す。 ・2010 年 6 月、政府は再生可能エネルギー源法の改正を承認した。 ・太陽光発電に対する支援は、 -15 年間、1MWh の発電ごとに、グリーン電力証書 6 単位を保証する。 -グリーン電力証書 1 単位は、27~55 ユーロ/MWh の間で取引される。 ルーマニア国内における太陽光発電設置容量の推移を、表 3-4 に示す。 表 3-4 ルーマニア国内における太陽光発電設置容量の推移 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 50kW 86kW 101kW 190kW 300kW 450kW 2009 年 2010 年 送電網接続 送電網独立型 230kW 410kW 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 ルーマニアへの参入に対する障害として、関連法律がいまだに発効されていないこと、送電 網接続手続が複雑であることが挙げられる。 ― 49 ― 情報報告 ウィーン (3)スロヴェニア スロヴェニアの日照状況を図 3-7 に示すが、 日照量は平均して 1,200~1,300kWh/m2 である。 太陽光発電の技術的ポテンシャルは1,000GWh/年、 2020年までの設置予定容量は890MWである。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-7 スロヴェニアの日照状況 スロヴェニアの支援制度の概要を以下に示す。 ・電力参照価格(設置や操業等にかかる総コストから収入分を差し引いた電力価格)は、 支援制度に依存することになるが、2009~2013 年の間に設定される。 ・新施設に対しては、年当たり 7%の補助金削減が計画されている。 ・設置容量 5MW 以下の施設:買取保証価格が設定される。 ・設置容量 5MW 以上の施設:操業保証が設定される 具体的な支援額について表 3-5 に示す。またスロヴェニア国内における太陽光発電設置容量 の推移を表 3-6 に示す。 表 3-5 スロヴェニアでの設置容量当たりの補助金額 2010 年 50kW 以下 1MW 以下 10MW 以下 125MW 以下 363 ユーロ/MWh 334 ユーロ/MWh 270 ユーロ/MWh 250 ユーロ/MWh 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 表 3-6 スロヴェニア国内における太陽光発電設置容量の推移 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 51kW 96kW 200kW 405kW 1,025kW 2,146kW 8,000kW 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 スロヴェニアへの参入に対する障害として、送電網接続までに冗長な手続が必要であること、 GPP(グリーン公共調達)の資格を持つプロジェクトの年当たりの上限が 5MW であることなどが 挙げられる。 ― 50 ― 情報報告 ウィーン (4)クロアチア クロアチアの日照状況を図 3-8 に示すが、日照量は平均して 1,200~1,600kWh/m2 である。 太陽光発電の技術的ポテンシャルは 800GWh/年、2020 年までの設置予定容量は 45MW である。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-8 クロアチアの日照状況 クロアチアの規制条件を以下に示す。 ・複雑で時間のかかる手続が必要である。 -送電網接続承認 -「有能な電力生産者」の認証取得 ・1MW 以下の太陽光発電施設に対してのみ、固定価格買取制度を適用する。 ・固定価格買取制度は 12 年間保証する。 固定価格買取制度について、表 3-7 に示す。 表 3-7 クロアチアの固定価格買取制度概要 施設規模 10kW 以下 30kW 以下 1MW 以下 買取価格 524 ユーロ/MWh 462 ユーロ/MWh 323 ユーロ/MWh 出典:CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 設置容量については、2009 年時点での総設置容量は、送電網接続分が 120kW、送電網から独 立した設備が 500kW に達している。登録済みの総容量は、24MW 分を有している。 ― 51 ― 情報報告 ウィーン (5)セルビア セルビアの日照状況を図 3-9 に示すが、日照量は平均して 1,400kWh/m2 である。太陽光発電 の固定価格買取制度では、プロジェクト当たり 5MW を上限として 230 ユーロ/MWh を設定して おり、その保証期間は 12 年間である。固定価格買取制度の履行法令は、2012 年 12 月まで有効 である。また管理手続が複雑であることも特徴として残っている。さらには、承認を得るため の確立した手続体制も、いまだ不十分なままである。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-9 セルビアの日照状況 ― 52 ― 情報報告 ウィーン (6)マケドニア マケドニアの日照状況を図 3-10 に示すが、日照量は平均して 1,600~1,800kWh/m2 である。 年間の太陽光発電量のポテンシャルは 10GWh、実施されている太陽光発電の固定価格買取制度 では、410 ユーロ/MWh が設定されている。固定価格買取制度に対する国家予算の不確実性があ り、施設容量の上限値も不確定なまま残った状態となっている。 年間合計日照量(kWh/m2) 年間電力生産可能量(システム効率を 0.75 とした場合) 出典:European Commission Joint Research Centre 図 3-10 マケドニアの日照状況 1.4 まとめ 中東欧諸国における良好な兆候を 4 項目示す。 ①太陽光エネルギー支援への政治家の高い関心と認識 ②投資家の利益を確保するための法体系が改善 ③再生可能エネルギー技術促進のための地域センターの開発 ④通貨リスクの軽減 また改善が必要な点を 3 項目示す。 ①地域プロジェクトへの融資の不確実性 ②送電網接続手続の簡素化 ③国家予算からの支援の現実化 (参考資料) ・CEE Solar 2010 講演資料、Joanna Kozak 氏、GreenMax Capital Advisor 社 ― 53 ―