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ネギ タマネギのカルス誘導と再分化
ネギ タマネギのカルス誘導と再分化 相馬早苗 約3 0 0種 の ネ ギ 属 の う ち , ネ ギ (Al 1ium 5分間浸して滅菌したあ ナトリウム水溶液に 1 A l l i u mc e p a ),ニン f i s t u l o s u m ), タ マ ネ ギ ( と,滅菌水で 3回ゆすぎ,その後無菌的に成 ニク (Alliumsativum) など数種が食用に栽 長点をとり出した. 培されている.これらのものがウィルスに感 成長点はまずカルス誘導用培地に植えた. 染した場合に,ウィルスフリー株を得るため ニンジンのカルス誘導用培地(竹内正幸他, に,まだウイルスに感染していない茎の成長 1 9 8 3 )で , MS培地に 1m g /R , の 2. 4D を添加 点を切り出して培養を行い,ウイルスフリー . 8,0.8%の寒天を加えたもので し , pHは5 を確認したあと大量培養する方法がとられて ある.カルスの継代培養にも同じ培地を用い いる.高山(19 9 0 ) がニンニク,ラッキョウ, た.カルス誘導したものから,再分化を誘導 ネギについてその方法を解説している.また するためには,高山 ( 1 9 9 0 ) の結果を参考に 3種類の培地を試みた. ニンニクについては, AboE I N i lが茎の成長 して 点や,リン片葉などからカルスを誘導し,さ ① MS培地で全く植物ホルモンを添加してい らにカルスからのシュート形成について 1 9 7 7 ないもの. pHは5 . 8,寒天は 0.8% ② MS培地に 0.2mg/,R NAAと 2m g /,R Kine- に詳しく観察している. 1 9 9 2年に偶然,深谷ネギの宏太郎の成長点 . 8, 寒 天 は t i n を添加したもの. pH は 5 0.8% ③ MS培地に 0 . 5 m g /,R NAAと 2m g /,R Kine- 培養をすることになった.茎の成長点からの カルスの誘導,カルスからのシュートや根の 再分化を試みた.日本ではネギが一般によく t i n を添加したもの. pH は 5 . 8, 寒 天 は 利用されているが,解剖学や形態学では,も 0.8% っぱらタマネギが取扱われている.培養の比 カルス誘導中は暗所で, 1 8C-28Cの範囲 0 較,文献で調べるときの容易さなどからタマ 0 で培養した. 5 0ルクスに照明 再分化誘導中は蛍光灯で 2 ネギの培養も行った. し,照明時間は午前 6時から午後 6時までの 材料と方法 1 2時間とした.培養温度は 1 8C-28Cである. 0 0 ネギ (Al 1iumf i s t u l o s u mv a r .BigF e l l o w ) 顕微鏡による観察は,材料を 0.1%グルタ は宏太郎ネギとよばれているもので,深谷で ルアルデヒドで固定し.水洗いしたあとエタ ノール,第 3ブチルアルコールで脱水置換し, 育てられたものを用いた. タ マ ネ ギ (Alliumcepav a r .Red) は Red Onionとして市販されているものを用いた. 材料は根を切りとり,周囲の葉や,リン片 葉を若干とり除いたあと, 1%の次亜塩素酸 パラフィンに包埋した. 8μ の厚さの連続切 片を 0.1%のトルイジンブルー 0の水溶液で 染色した.この染色法はパルサムに封入する と全体が一様に青くなり染め分けがなくなる -149- 『教育学部紀要J文 教 大 学 教 育 学 部 第 2 8 号 1 9 9 4年 相 馬 早 苗 よぶ. ので,水で封入したものを写真撮影した. 不定匪が成長すると,多くの場合,シュー 実験結果と考察 ト部分はリン片葉状の扇平なものになった ( 図1 1, 1 2 ) . この条件での再分化は非常に ( 1 ) カルスの誘導 速くまた緑色の葉をもったシュートを形成す ネギでは,成長点を切り出して培養したも ることなく直接リン片葉が形成された. 2月に入って花芽形成が見られた茎 のでも, 1 ③ O.5mg/~ NAAと 2mg/~ Kinetin添加の 頂でも,カルスの誘導は確実に起こった. タマネギの場合も良好なカルスの形成が起 場合.高山 ( 1 9 9 0 ) によればこの条件の植物 こった.高山 ( 1 9 9 0 ) によればy 2MS培地が 2MS培地で,能率よくシュ ホルモン添加で y g 良いとのことであったが,本実験では 1m ートが分化するとのことであったが,今回の 4D添加の MS培地で,カルス誘導もカ /~ 2. 実験では,根だけが分化したもの,或は根が ルスの成長も非常に良かったので,継代培養 長く伸ぴるがシュート部分が小さいものが多 にもこれを用いた.図 1は培養後 1ヶ月のネ く生じた. 以上の 3種の培地の場合,いずれも根の再 ギのカルスである. ( 2 ) 再分化の誘導 分化には非常に効果的であったが,シュート の再分化は良くなかった. Kinetinをもっと ①の植物ホルモン無添加の培地に移植した 場合,成長速度は非常にゆっくりであるが, 多く添加する方が,シュート部分の再分化に 脹のような小植物体(図 2) を経て芽生えの 良かったのではないかと考え,今後試みたい. ような緑色の葉をもったシュートが見られる ( 3 ) 再分化した植物体 ). しかし再分化の割合は ようになる(図 7 ネギの場合は,はじめ一見扇平な葉のよう 小さかった.同じカルスからとり出されたも なものが再分化してくるが(図 2),まもな のからは,ほぼ同じような再分化が行なわれ く縦方向に伸長し非常に長い管状の葉になる. る. しかし培養容器によって発芽中の芽生え .8cm,短い方が3 . 5 c mにな 図 7では長い方が6 のような形に発達する場合と,根様の構造の っていた.この例で 2つの長い葉をもったシ ものが多く形成される場合(図 3)があった. ュートが隣接して再分化しているが,同じよ また同じ光照射条件でも,全く緑色化.せず うな構造をもった植物体がグループをなして 分化する傾向がある. 黄色みがかったままのものや,根以外は緑色 根様のものがグループになっている場合 になるものなど様々であった. g/~ Kinetinを添加 ② 0.2mg/~ NAAと 2m ),これを根と考えると,根は下へ伸 ( 図3 した培地の場合.この場合はカルスからの再 ぴず,むしろ横や上方へと伸ぴている.この 分化.再分化した植物体の成長とも非常に速 根様のものの縦断面を観察すると,先端部は い.ネギはカルス誘導培地に植えてから 9ヶ 図 4のように根端と同じような形態を示して 月経過したものを再分化実験に用いたためか, いる.空気中に存在していたためか,根冠部 図 7のようなシュートになる割合は低かった 分の外側の細胞はかなりしなびたようになっ が,シュートが再分化したものでは 1ヶ月に ている.葉の外表皮の細胞では空気中にあっ 6c m以上の長さになったものもあった. てもしなぴていることはないので,外側の細 タマネギの場合には再分化が確実に行なわ 胞壁の構造に違いがあるのではないかと思わ I N i lがニンニクで Embryoid とよ れ. AboE れる.切片がやや斜めではあるが,根端分裂 んだものに類似した小植物体が多数見られた 1 9 6 5 ) によれば,タマ 組織が分る. Esau ( 0 ) . この小植物体を不定脹と ( 図 8, 9, 1 ネギの場合,根端分裂組織の始原細胞群が目 υ ﹁ F ハV ネギ タマネギのカルス誘導と再分化 X X 124 τlよ h 戸J 『教育学部紀要』文教大学教育学部第 2 8 号 1 9 9 4年 相 馬 早 苗 図 1~7 ネギ ( A l l i u mf i stulosumv a r .B i gF e l l o w ) 図 1 培養後 1ヵ月のカルス組織 図 2 再分化した幼植物体 ( x 6) 図 4 根の先端部分の縦断面 Mは分裂組織 ( X3 0 0 ) く >5 5) 中央の大きいものには左右 2つの維管東がある ( 要素,細胞壁には特徴的な模様がある ( X3 0 0 ) 図 8~14 タマネギ ( A l l i u mcepav a r.Red) 図 8 根が長くシュー卜部分の短い不定匪( く > 6) 図 7 芽生え状に再分化したもの ( XO . 8 5 ) 図9 シュ 一卜部分がやや扇平にな った不定匪 ( X 6) 図1 1 扇平 なタマネギのリン 片葉状のものが再 図1 2 リン片葉状のものがグループにな って再分化しているもの ( X 3) 図1 3 緑色の葉をも ったシュー卜が分化したもの 1つの維管束, X 木部 図 6 図 5の口部分の維管束を拡大したもの, 図1 0 シュートと根の境界附近にふくらみをもっ不定怪 ( X3 ) 分化したもの 図 3 再分化した根のグループ (x6) 図 5 根の集りの横断面.小さいものには 図1 4 リン片葉中央部分の横断面 ( X 30 ) 山 つにtEdi ネギ タマネギのカルス誘導と再分化 立たないと述べている.ネギでも同じような 束の配列に類似している.この図は中央部分 小さな分裂組織が見られた(図 4の M). の厚みのあるところであるが,辺に近い薄く 根のグループ状になったものの横断面を観 伸びた部分では,外表皮に縞の模様も見られ 察すると(図 5),中央部分に維管束が存在 た.切片の方向がやや斜めであったため,今 する.図 5の下側の根のように先端部分に近 回は写真撮影はしなかった.縦縞の濃淡の模 いところでは,中央に維管束があるが,図の 様は図 11からも分る. 中央の太い根では維管束が複数存在している. タマネギの隣りあう 2つのリン片葉の肢の このやや太い根の右側の維管束を拡大したの 部分を培養して,葉の伸びたシュートを得る が図 6である.木部要素に特有の細胞壁の模 方向を Hussey ( 1977) が行っているが,今 様が観察される.連続切片で観察すると,別 回の実験では,図 13のようなシュートになら 々の根端をもっ根がいくつか集っていて,各 ず直接,リン片葉が再分化した場合の方が多 根の維管束が,それぞれ並んでいるように見 かった.緑色のシュートを育ててタマネギを えるが,太くグループになっているものの細 得るのではなく,ガラス容器中でリン片葉が 胞聞には融合したような形態は見られなかっ 生産できるかもしれない. た.それゆえカルス化した細胞の集りから, 参考文献 再分化するとき,ほぽ同時に複数の根が分化 し,元のカルスにも維管束系が発達したのか 1 ) Abo E I N i l, M. M: , O r g a n o g e n e s i s and もしれない. Embryogenesis i nC a l l u sC u l t u r e so fG a r l i c タマネギの再分化は非常に良かったが,こ . ) ( A l l i u ms a t i v u mL れはカルス誘導をしてから 2ヶ月のものを実 P l a n tS c. iL e t t .9,256-264, 1 9 7 7 験に用いたためかもしれない.不定目玉は種子 .P l a n tAnatomy3r d .E d .J o h nWiley 2 ) Esau,K 中の佐のような形であるが,それよりも大き &S o n s .N .Y.1965 いものもかなり見られた.図 10の不定脹では .P .P l a n tAnatomy,2ndE d .P e r g a・ 3 ) Farn,A シュートと根の境界附近が丸くふくれていて, monP r e s s,Oxford,1 9 8 2 小型ながらタマネギのリン茎化を示すように .& A .F a l a v i g n a :O r i g i nandP r o 4 ) Hussey,G 見える.タマネギの脹にこのようなふくらみ d u c t i o no fi nv i t r oA d v e n t i t i o u sS h o o t si nt h e 1 9 8 2 ) が図示している. のあるのを FARN ( Onion,Al 1 iumCepaL . J o u r .E x p .Bo t .3 1,1675~ 1 6 8 6,1 9 8 0 この形の佐が種子中の怪に最も近い形態なの かもしれない.また,いかにもタマネギのリ .P .& M.E .M c C u l l y :TheStudyo f 5 ) O ' B r i e n,T ン片葉といった厚手の扇平なものが再分化す P l a n t S t r u c t u r e : P r i n c i p l e s and S e l e c t e d 1 ).またリン片葉が重なって存在し, る(図 1 Methods,TermarcarphiPTY .Melbourne,1 9 8 1 初生根から細い根が分枝しているものもあっ 6 ) 高山覚 2 ) . タマネギの場合は,種子からの た(図 1 図解バイオテクノロジー 4版. 農業図書, 1990 脹発生のように,緑色の葉が成長したあと, 7 ) 竹内正幸,中島哲夫,古谷力:植物組織培 その基部にリン茎が形成されるのではなく, 養の技術.朝倉書店 直接リン片葉状のものが再分化してきた.緑 3 ) 色の発芽中の芽生えのようなものも(図 1 存在したが少なかった.リン片葉状に再分化 4 ) 維管 したものの横断面を観察すると(図 1 束の配列は Esau (1965) の示した葉の維管 1 9 8 3 h 戸 d 噌Eム ο q