Comments
Description
Transcript
2014年度 「中等道徳教育論」 林 泰成
2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 2014年度 「中等道徳教育論」 §4:道徳教科化の動向 林 泰成 この講義の資料は、http://www.juen.ac.jp/lab/yasunari/に置 いてあります。 前回の感想から① 人間の力を超えたもの 私はベルギーの高校に通っていたことがあ るのですが、宗教教育があり、日本で言うと ころの道徳を受けていました。ベルギーはキ リスト教でしたが、そこで私が強く感じたの は、「人間の力を超えたもの」また「崇高な もの」は神様ではなく、人間の愛や普遍的な 営みでした。国や価値観によって大きくとら え方が異なるのだなと思いました。 1 2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 前回の感想から① 人間の力を超えたもの (林のコメント)こうした問題については、大きく とらえ方が違っていていいのだと私は思います。多 様な価値観を認めつつ、しかし、譲れない一線につ いては、普遍的な道徳にしたがう。しかし、そうす ると、意見の不一致が生じた場合どうするのか、と いう問題が生じます。そのときは、徹底した議論を するというのがベストだと思います。 ハーバーマスという哲学者は、倫理の問題は、内 容を確定できないので、討議の方法だけを確定し、 したがうべき規範の確定は、討議に委ねようという 考え方を提案しました。それを討議倫理学と言いま す。 ハーバーマス ユルゲン・ハーバーマス(Jürgen Habermas、1929 年(昭和4年) )は、ドイツの哲学者、社会哲 学者、政治哲学者である。ハバーマス、ハーバマス とも。 2 中等道徳教育論2014年度 2014/10/28 前回の感想から② 主体的学び 道徳的価値をしっかりとおさえておかないと生徒によって は「道徳の授業なの?」と疑問をもつことは、中学校に教育 実習にいって非常に感じました。オープンエンドではなく はっきりとしたまとめを行わないと小学生や中学生には「こ の授業で何を学び取ればいいの?」となってしまいます。そ れだけ、道徳的価値は大事であることが講義を聴いていてあ たらためて思いました。 講義の最後、学力のとらえ方の話がありました。今までの 受験のための教育ではなく、知識をどのように活用するか。 確かに学びの目標の変化はあります。しかし、いつの時代も 生徒が学ぶことへの主体性を持って臨まないといけないのは 同じです。どのように生徒に主体的に学びを持ってもらうか が教師の力量に関わると思いました。 前回の感想から② 主体的学び (林のコメント)私も、生徒の主体性は大事だと思います。 一方で、そうしたことが「教師の力量に関わる」というのは、 矛盾しているなとも感じます。このように私が言うのは、あ なたの意見を批判したいからではありません。教育の営みそ のものがそうした矛盾を抱え込んでいると言いたい。子ども の主体性が大事であるなら、子どもの好きなようにさせてお けばいいのに、教育は、そこに口出ししようとする。倫理学 には、「遂行的矛盾」という用語があります。言っているこ との実際の行動との間の矛盾です。教育の営みはまさにその 遂行的矛盾のオンパレードのように思います。 とくに道徳教育は押しつけ的側面が強いわけですから(子 どもの主体的な自律を目指して押しつけているわけですが)、 子どもが大きくなったときに、私たち教師は、子どもから批 判されるべき存在なのかもしれませんね。 3 2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 1.第1次安倍内閣における教科化の議論 教育再生会議 「徳育」教科化 「全ての子供たちに高い規範意識を身につけさせる」 (「第二次報告」平成19年 6月1日より) 点数による評価はしない。専門の免許を作らない。 中央教育審議会 「道徳は子供の心にかかわるもので、教科書を使って教え込むもの ではない」(平成19年9月19日読売新聞の記事より) 教育再生会議 「徳育を「教科」とし、感動を与える教科書を作る 」(「第三次報 告」平成19年12月25日より) 中央教育審議会 「道徳教育の充実 」(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特 別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」( 平成20年1 月より) →・・・教科化は事実上見送り 7 2.第2次安倍内閣における教科化の議論 ①教育再生実行会議 いじめ対策で道徳の教科化提言へ 教育再生実行会議 政府は15日、教育改革の司令塔となる「教育再生実行会議」の第2回会 合を官邸で開き、いじめ対策として、規範意識を醸成するため、小中学校の 道徳の教科化を提言することで一致。 会合後に記者会見した鎌田薫座長(早稲田大総長)は「教科にすべきだと いう意見が大勢を占めた。それを踏まえて取りまとめる」と述べた。自民党 は衆院選の公約に道徳教育の推進を掲げており、“安倍カラー”が強く打ち 出された形だ。 小中の道徳は原則週1時間の必修だが、正式な教科ではなく、第1次安倍 政権の「教育再生会議」も教科化を提言した。しかし、実現が難しいとの意 見が相次ぎ、見送られた経緯がある。 2013/02/15 21:05 【共同通信】 http://www.47news.jp/CN/201302/CN2013021501001850.htmlより 8 4 2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 ②有識者会議「道徳教育の充実に関する懇談会」 道徳、教科に格上げへ 検定教科書導入も 文科省懇談会 【岡雄一郎】文部科学省の「道徳教育の充実に関する懇談会」(座長=鳥 居泰彦・慶応義塾学事顧問)は26日、小中学校の道徳を教科に格上げする 報告書を下村博文文科相に提出した。検定教科書や子どもの評価の必要性も 指摘。「決まった価値観の押しつけにつながる」と懸念も根強いが、文科省 は2015年度からの一部実施を検討している。 報告書の主な内容は、道徳を「特別の教科(仮称)」に格上げ▽検定教科 書の導入▽数値評価は不適切だが、評価は重要▽家庭への働きかけを強化し、 意識向上を図る――など。文科省は学習指導要領などを改めるため、近く中央 教育審議会(文科相の諮問機関)に検討を諮問する。 今は教科外の「道徳の時間」として年35コマ程度、教えられている。検 定教科書ではなく副読本が使われ、子どもの評価もない。懇談会は「教師の 指導力が不十分」「他教科に振り替えられる実態がある」などとし、教科化 による指導強化の必要性を指摘した。 ( 2013年12月26日20時30分朝日新聞デジタル) 9 教科としての「道徳」 教科であるということ ①教科書がある。 ②中学校以上では、専門の教員免許状が ある。 ③(数値による)評価をする。 特別の教科「道徳」 教科書を作る → 教科書検定を受ける 10 5 2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 ③中央教育審議会「道徳に係る教育課程の改善等 について」平成26年10月21日 学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の目標について は、学習指導要領の総則に定められている現行の規定を整 理した上で、最終的には、一人一人が、生きる上で出会う 様々な場面において、主体的に判断し、道徳的行為を選択 し、実践することができるよう児童生徒の道徳性を育成す るものであることをより明確にするとともに、その育成に 当たり、特に留意すべき具体的な事項を併せて示すなど簡 潔な表現に改める必要がある。「答申」(p.8) 答申 答 申 道徳教育の要となる「特別の教科道徳」(仮称)の目標につ いては、道徳性の育成に向けて重視すべきより具体的な資質 ・能力とは何かを明確化し、発達の段階を踏まえて計画的な 指導を充実する観点から規定する必要がある。具体的には、 様々な問題や課題を主体的に解決し、よりよく生きていくため に求められる資質・能力を育成するため、様々な道徳的価値 について、自分との関わりも含めて理解し、それに基づいて内 省し、多角的に考え、判断するという認知的な能力、道徳的価 値の大切さを感じて、悪を憎み、善を喜ぶ道徳的心情、道徳 的行為を行うための意欲や態度の育成などの各側面を重視 することが必要と考えられる。その際、道徳的価値についての 自覚を深め、道徳的実践につなげていくことができるようにす ることが求められる。「答申」(p.8) 6 2014/10/28 中等道徳教育論2014年度 多様な指導法 答 申 また、指導のねらいに即し、適切と考えられる場合には、 「特別の教科道徳」(仮称)において、道徳的習慣や道徳 的行為に関する指導、問題解決的な学習や体験的な学習、 役割演技やコミュニケーションに係る具体的な動作や所作 の在り方等に関する学習などの指導を、発達の段階を踏ま えつつ取り入れることも重要である。その際には、単に活 動を行って終わるのでなく、児童生徒が活動を通じて学ん だことを振り返り、その意義などについて考えることによ り、道徳的価値の自覚を深め、様々な課題を主体的に解決 するための資質・能力の育成に資することとなるよう十分 に留意する必要がある。「答申」(pp.11-12) 本日の課題 道徳の教科化はほんとう に必要なのだろうか? 7 中等道徳教育論2014年度 2014/10/28 8