...

資料5 (3)(PDF形式:2.21MB)

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

資料5 (3)(PDF形式:2.21MB)
第3章
技術に関する事業の概要
26
第3章 技術に関する事業の概要
A.噴流床石炭ガス化発電プラント開発実証
1-A
事業の目的・政策的位置付け
1-1-A
事業の目的
石炭は、他の化石燃料に比べ供給安定性が高いが、燃焼過程における単位発熱量あた
りの CO2 発生量が大きいことから、石炭の高効率発電技術を確立することにより、長期
にわたる我が国の電力の安定供給と環境への影響に配慮した石炭の有効利用を図る。
そのため、既存の石炭発電技術(微粉炭火力技術)に比べ、飛躍的な熱効率の向上が
期待できる石炭ガス化複合発電技術(IGCC:石炭を高温高圧のガス化炉で可燃性ガスに
転換させ、ガスタービンに導入して発電し、その排熱を蒸気にて熱回収し蒸気タービン
に導入して発電する複合発電方式)の研究開発を行う。具体的には、石炭(微粉炭)を
空気により高効率にガス化する噴流床方式を用いた世界初の空気吹き石炭ガス化複合
発電技術を開発し、商用機(微粉炭火力発電 500~600MW 相当)と同型、かつ商用機の
約 1/2 規模の IGCC 実証プラント(250MW、2007 年 9 月完了)による運転試験を行うこ
とにより、商用 IGCC を導入するのに必要な信頼性、耐久性、高効率性、経済性等を検
証する。
1-2-A
政策的位置付け
2007 年 5 月に国が発表した地球温暖化に対する提案「世界全体の温室効果ガス排出量
を現状に比して 2050 年までに半減する」を受け、その達成のために現在革新的技術開
発の具体的な取組のあり方について検討を行い、2008 年 3 月に「Cool Earth -エネルギ
ー-革新技術計画」が策定された(図 5 参照)。その中で、IGCC は効率向上と低炭素化の
両面から、CO2 大幅削減を可能とする「高効率・ゼロエミッション石炭火力発電」技術の
一つとして取り上げられている。
また、2010 年 6 月に改定された「エネルギー基本計画」において、石炭は化石燃料の中
で CO2 排出は大きいものの、コスト・供給安定性の面で優れたエネルギー源であり、今
後とも不可欠なエネルギーと位置づけられており、IGCC 等地球環境と調和した石炭利用
技術を確立し、今後も適切に活用していくことの重要性が明記されている。
さらに「エネルギー技術戦略 2009」においても、石炭ガス化複合発電技術は、「総合エ
ネルギー効率の向上」と「化石燃料の安定供給確保と有効かつクリーンな利用」に寄与す
る技術と位置づけられている(図 6 参照)。
IGCC は、我が国の長期エネルギーセキュリティ確保と環境保全という課題の双方を
解決する技術の一つであるとともに、アジア諸国等の海外において技術展開できる可能
性もあり、地球規模での省エネルギー環境保全にも効果が期待され、国際的にも優れた
革新的技術といえる。
27
図 5.「Cool Earth -エネルギー革新技術計画」技術開発ロードマップ
出展:経済産業省 「Cool Earth -エネルギー革新技術計画」(2008 年 3 月)より抜粋
図 6.「技術戦略マップ 2009」開発・導入シナリオ
出展:経済産業省「技術戦略マップ 2009」(2009 年 4 月)より抜粋
28
1-3-A
国の関与の必要性
エネルギー資源の約 8 割を海外に依存している我が国は、世界的なエネルギー需給動
向により、社会・経済が大きな影響を受ける。近年、世界のエネルギー需要量は増加傾
向にあり、特に中国等アジア地域でのエネルギー需要量は著しく増加している。また、
この世界的なエネルギー需要の増加は今後も続くものと見込まれている。
その中で、石炭は、可採埋蔵量が約 120 年あり、世界各国に分布する等、他の化石燃
料に比べ供給安定性が高く、経済性にも優れていることから、今後も重要なエネルギー
と位置付けられている。他方、他の化石燃料に比べ、燃焼過程における単位発熱量あた
りの CO2 の排出量が大きいこと等、環境面での制約要因が多いという課題を抱えている。
このため、クリーン・コール・テクノロジーの開発を進め、環境負荷の低減を図ること
が重要な課題となっている。
しかし、現在の社会情勢(電力自由化等)において、民間だけではその技術開発が市
場原理によって十分に進展、実施することが困難なプロジェクトである、したがって、
本技術の実証事業は我が国を取り巻く情勢を考慮し、国が積極的に関与する必要がある。
29
2-A 研究開発目標
2-1-A 研究開発目標
a.最終目標
実証プラントプロジェクトで達成されるべき最終目標であるが、実証プラントプロジ
ェクトの後に展開されるべき商用機の目標を想定したのち、実証プラント特有の事情を
勘案して設定したものである(表 2 参照)。
表 2.実証プラントプロジェクトの最終目標
指
標
水
準
信頼性
年利用率 70%以上の見通しが得られること
熱効率
送電端効率 40.5%(HHV ベース)程度
環境性
SOx:
8ppm
NOx:
5ppm
(16%O2 換算)
(16%O2 換算)
ばいじん:4mg/m N
3
炭種適合性
(16%O2 換算)
微粉炭火力に適合しにくい灰融点の低い石炭(灰溶融温度 1400℃以下)
を使用し、安定運転ができること
経済性
発電原価が微粉炭火力と同等以下となる見通しを得ること
b.最終目標の設定根拠
(a)商用機の目標設定
最終目標の前提となった商用機へ展開した時の具体的な目標(表 3 参照)として、商
用機の目標設定のプロセスでは、まず、1997、1998 年度に FS 調査を行うに当たり、
官民委員による IGCC 準備検討委員会(資源エネルギー庁公益事業部発電課長の私
的委員会 : 1996 年 8 月~1997 年 3 月)において、今後の商用化に向けて最適な
IGCC の開発を推進するための要件(下記
<日本の事業用発電プラントとして求
められる要件> 参照。
)の整理を行った上で、商用機へ展開した時の目標を設定し
た。
30
表 3.IGCC 商用機の目標
指
標
水
準
信頼性
年利用率 70%以上
熱効率
発電端 送電端(いずれも HHV ベース)
環境性
51%
46%
1500℃級ガスタービン/湿式ガス精製の場合
53%
48%
1500℃級ガスタービン/乾式ガス精製の場合
SOx:
8ppm
NOx:
5ppm
(16%O2 換算)
(16%O2 換算)
ばいじん:4mg/m N
3
炭種適合性
(16%O2 換算)
瀝青炭に加えて、亜瀝青炭等の灰融点の低い、より低質な石炭を使用し
て安定運転ができること
経済性
発電原価が微粉炭火力と同等以下
<日本の事業用発電プラントとして求められる要件>
① 信頼性及び保全性:年利用率 70%以上(ベース火力の計画値)、計画外停止率 2%
程度(微粉炭火力の実績値)
② 環境性:SOx、NOx、ばいじん等、世界最高水準の最近の日本の微粉炭火力の諸元
を十分に満たす環境性能
③ 炭種適合性:幅広い炭種に適合すること
④ 運用性:ベース及びミドル運用での負荷追従性
⑤ 経済性:建設費、運転費、保守費を総合した経済性の確保の見通し
⑥ 安全性:可燃性でかつ有害なガスを取り扱うことに関する、安全性の確保の見通
し
商用機の目標設定の根拠については以下のとおり。
①
信頼性及び保全性
我が国における電気事業用火力発電設備の高い信頼性を確保するためには、IGCC
も従来の微粉炭火力並みの信頼性及び保全性を有することが要求されるため。
②
環境性
我が国の最近の微粉炭火力は、世界的に見ても最高水準の環境諸元を達成してお
り、少なくとも今後開発される IGCC に対しては、現在国内の微粉炭火力に対して
求められている環境諸元を十分に満たすことが必要なため。
③
炭種適合性
現在、我が国の微粉炭火力では世界各国のさまざまな石炭を焚いており、欧米の
石炭火力が主に地元の石炭を焚いているのとは状況が異なる。IGCC についても同様
に世界各国の石炭への適合性が求められるため。
31
④
運用性
現在、微粉炭火力はベース電源として主に運用されているが、将来的にはミドル
運用も期待されている。IGCC にも同様の運用特性が求められるため。
⑤
経済性
少なくとも商用機の段階では、微粉炭火力に比較して同等以上の経済性が求めら
れるため。
⑥
安全性
可燃性でかつ有害なガスを取り扱うことは、微粉炭火力にはない運用上の配慮が
必要なため。
(b)実証機の目標設定
商用機の目標(表 3 参照)を基に、実証機の目標(表 2 参照)を設定した。
実証機の目標設定の根拠については以下のとおり。
①
信頼性
実証機は、商用機並の信頼性を検証するという趣旨から、ベース電源として必要
な年利用率を確保できることとした。
②
熱効率
実証機は 250MW で、商用機の 1/2 規模と比較的小さいこと、ガスタービン性能が
商用規模のものより劣ることを勘案すると、送電端効率は 40.5%程度となる。それ
でも最新鋭の 1,000MW 級大容量微粉炭火力の送電端効率(約 40.5%)とほぼ同等で
あり、妥当な水準である。
③
環境性
SOX、NOX、ばいじん等の排出濃度が新鋭微粉炭火力と同等で、熱効率の向上によ
り発電電力量あたりの排出量が低減されることを目標とした。
④
炭種適合性
商用段階では幅広い炭種適合性が求められるが、微粉炭火力向きの炭種によるガ
ス化は、すでに 1996 年度までのパイロットプラントで検証済みである。
実証機では主として、微粉炭火力に不向きで IGCC に適していると考えられる、
低灰融点炭を使用することとする。
⑤
経済性
将来、商用機に移行したとき、少なくとも既存の超々臨界圧微粉炭火力(USC)と
同等程度の経済性が確保される見通しが得られること。
そのためには、燃料費に影響する熱効率を向上させるとともに、固定費に影響する
設備費のコストダウンの見通しを得ること。
32
3-A
成果、目標の達成度
3-1-A 成果
3-1-1-A 実証プラントプロジェクト実施状況
本プロジェクトは 1999 年度から 2009 年度までの 11 年間である。最終年度の 2009 年
度は、設備のトラブルから当初計画していた 5,000 時間耐久性確認試験が年度内に終了
できなくなったため、補助事業を 3 ヶ月延長して終了した(表 4 参照)
。
1999 年度から 2001 年度の事前検証試験では、建設の着手に先立ち、IGCC 主要構成機
器であるガス化炉設備、ガス精製設備、およびガスタービン設備について、機器の信頼
性、耐久性に特に課題が残るとされる部分について、試験装置を用いて検証試験を行っ
た。
2001 年度から 2004 年度の 3 年にわたり実証プラントの設計と環境アセスメントを行
った。
2004 年 8 月から IGCC 実証プラントの建設に着工し、2007 年 9 月 20 日のガス化炉点
火により建設が終了した。
(図 7、8 参照)
2007 年 9 月 20 日からは運転試験を開始し、途中設備のトラブルはあったものの、補
助事業を 3 ヶ月延長して 2010 年 6 月末に終了した。
表 4 実証プラントスケジュール(実績)
項目 年度
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
事前検証試験
実証試験
基本設計・詳細設計
建 設
運転試験
環境アセスメント※
※環境アセスメントは補助対象外
図 7 実証プラント概観
33
6月
ガス化炉後流
熱交換器
(S GC)
図 8 実証プラント系統図
34
3-1-2-A 運転試験
運転試験では、プラント全体の調整を目的とした石炭ガス化調整試験から始まり、そ
の後 2,000 時間連続運転試験、運転最適化試験、炭種変化試験、5,000 時間耐久性確認
試験を行った。
実施した各試験項目と主な成果を以下に記載する。
① 石炭ガス化調整試験(2007 年度)
環境規制を満足し、出力調整や負荷変化等が的確に行えることを検証した。
2007 年 9 月 20 日ガス化炉点火より石炭ガス化複合発電設備の運転試験を開始し、
定格負荷確認運転と動特性確認運転を行うガス化調整試験を行い、2008 年 3 月 7
日には定格負荷 250MW の運転を達成し、ほぼ設計どおりの性能値となったことを確
認した。
② 2,000 時間連続運転試験(2008 年度)
「信頼性」の実証を主目的に、2,000 時間の連続運転試験を実施した。
IGCC の開発要素とは関係のない補機の一部によるトラブルで、プラントを停止
したものの、延べ 2,039 時間を達成し、夏季ピーク期間(3 ヶ月)相当の安定運転
を確認した。
③ 運転最適化試験(2008~2009 年度)
効率検証(目標熱効率 40.5%(HHV ベース) 程度)ならびに商用機にて効率向上が
期待可能な項目を検証した。運転パラメータを調整することにより送電端効率
40.6%(HHV ベース)を確認した。
④ 炭種変化試験(2008~2009 年度)
亜瀝青炭 2 炭種(北米炭、インドネシア炭)について設計炭である中国炭による
信頼性確認試験に準じた検証を行うとともに、プラント特性データを取得した。
亜瀝青炭である北米炭とインドネシア炭は運転パラメータの調整により専焼で
きることを確認した。しかしガス化炉後流熱交換器(SGC)差圧の上昇によりプラ
ント停止に至っており、炭種性状に応じてトラブルの発生防止など、様々な対応を
行った。
⑤ 5,000 時間耐久性確認試験(2009~2010 年度)
商用運転に準じた高利用率の運転を想定して、延べ 5,000 時間の運転を実施した。
2009 年度から 5,000 時間耐久性確認試験を実施する中で、プラント停止につな
がる設備トラブルが複数回発生し、当初計画より 3 ヶ月遅れて終了した。
35
上記①~⑤の運転試験では実施項目を定め、段階的に試験(RUN)を設定した(表 5
参照)
。運転試験全体では 11 回の試験(RUN)を実施し、2010 年 6 月末時点で累積運転
時間は 8,309 時間(ガスタービン石炭ガス専焼運転時間)となった(表 6、図 9 参照)
。
表 5 各試験(RUN)における運転状況
2010年6月末時点
年度
2007
運転試験
実施項目
①石炭ガス化調整試験
②2,000時間連続運転試験
③運転最適化試験
④炭種変化試験
2009 ⑤5,000時間耐久性確認試験
2008
RUN No.
ガス化炉石炭投入
ガス化炉単独調整
ガスタービン燃料切替(灯油→石炭ガス) 50%負荷運転、負荷遮断
75%負荷運転、負荷遮断
100%負荷運転、負荷遮断
各負荷静特性、動特性試験、性能確認
健全性確認試験
長時間連続運転、運転最適化試験
最適化、炭種変化
耐久性確認試験、炭種変化試験
ガスタービン
石炭ガス専焼
運転時間
0.0
0.0
1.2
41.2
28.0
73.7
248.3
159.0
2039.5
704.4
5013.8
使用石炭
(※)
時期
RUN1
10/8~11/16
RUN2
11/29~30
RUN3
12/5~6
RUN4
12/18~21
RUN5
1/9~11
RUN6
3/3~7
RUN7
3/17~4/7 RUN8
5/26~6/2
RUN9
6/10~9/17
RUN10
1/6~3/17
RUN11 6/8~6/8(2010年)
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A B C
A B
※ A:中国炭(瀝青炭)
B:北米炭(亜瀝青炭)
C:インドネシア炭(亜瀝青炭)
表 6 運転試験実績
2010年6月末時点
GT石炭ガス専焼
ガス化炉石炭専焼
8,309時間03分
8,414時間55分
発電電力量(GWh)
送電電力量(GWh)
1,732 GWh
1,438 GWh
9,000
8,000
■ 各試験(RUN)ごとの運転時間
7,000
◆ 累積運転時間
6,000
※2010年6月末時点
8,309hr
5,013hr
5,000
4,000
3,295hr
3,000
2,590hr
2,000
2,039hr
704hr
1,000
36
11
RU
N
10
RU
N
9
RU
N
8
RU
N
7
RU
N
RU
N
6
5
RU
N
4
RU
N
3
RU
N
2
RU
N
1
0
RU
N
GT石炭ガス専焼運転時間(hr)
図 9 ガスタービン石炭ガス専焼運転時間推移
3-1-3-A トラブルとその内容
2007~2008 年度の運転試験は、初期トラブルは発生したものの、原因究明および対
策を実施することでほぼ計画通りに進捗した。
2009 年度の 5,000 時間耐久性確認試験中には、表 7 および図 10 に示すような様々な
トラブル事象が発生し、プラント停止を余儀なくされた。これらトラブルにより試験工
程が約 3 ヶ月遅れることになり、補助事業を 2010 年 6 月まで延長し、当初計画の 5,000
時間運転を確認した。
トラブル発生の都度、原因究明と対策を実施し、プラント運転を再開して運転試験を
継続実施したが、ガス化炉後流熱交換器(SGC)伝熱管詰まりについては、現在も原因
解明を進めているところであり、別途評価が必要である。
表7
トラブル機器
2009 年度の主なトラブル事象
発生事象
1
チャー回収装置フィルタ
チャー回収装置下部バ
下部バルブグランド部よ
ルブ
りチャーの飛散
2
ガス化炉スラグ排出コ
ンベア
原因
対策
グランドパッキンの締込量 ・グランドパッキン締込量を適正管理した
が不足していた
・パッキンを増し入れした
コンベアがスラグ堆積層に
ガス化炉スラグ排出コン 乗り上げて傾き、底板の
・底板溝を平滑化し引っ掛かりを防止した
溝に引っかかりトルクが増
ベア電流高トリップ
加した
3 微粉炭捕集装置
ミル出口微粉炭捕集装置
内部のバッフルプレート破
・漏洩早期発見用のダストモニタを設置した
煙突ばいじん濃度高警報
孔等により、ろ布が破損し
・バッフルプレートに耐磨耗対策を実施した
発生
たため、微粉炭が煙突へ
流出した
4 空気-水熱交換器
熱交換器のチューブリーク
給水中の溶存酸素濃度 により給水と抽気空気が
・チューブ材質をチタンへ変更した
上昇
接触したため、給水中の
酸素濃度が上昇した
5 チャーバーナ
チャーバーナ冷却管が粉
・チャーバーナ先端位置をエロージョンが発生
チャーバーナ冷却水の漏
体エロージョンにより減
しない位置へ変更した
洩
肉・破孔した
ガス化炉後流熱交換器 ガス化炉後流熱交換器
6
(SGC)
差圧上昇
・スートブロワ(除煤装置)の運転頻度見直し
チャーが堆積することによ 等を実施している。
り伝熱管がつまった
・現在も原因解明を進めており、別途評価が
必要である。
37
〈ガス化炉設備〉
〈ガス精製設備〉
3.微粉炭捕集装置
石炭
6.ガス化炉後流熱交換器
(SGC)
ガスガス
熱交換器
ガスガス
熱交換器
オフガス燃焼炉
チャー回収装置
H2S
吸収塔
COS 変換器
ガス洗浄塔
微粉炭ビン
ガス冷却塔
ガス化炉
微粉炭機
空気
吸収塔
石膏
微粉炭
ホッパ
1.チャー回収装置下部バルブ
チャー
ガス化剤
煙突
5.チャーバーナ
※1
※1
スラグ
蒸気タービン
2.ガス化炉
スラグ排出コンベ
空気
燃焼器
G
from 給水
ガスタービン
復水器
脱硝装置
圧縮機
From HRSG
窒素
空気
空気分離
装置
酸素
CWP
吸収液再生塔
空気昇圧機
抽気空気
〈複合発電設備〉
〈凡
例〉
石炭ガス
4.空気-水熱交換器
図 10
排熱回収ボイラ
(HRSG)
平成 21 年度の主なトラブル発生機器
38
ガス化空気ライン
水/蒸気ライン
目標の達成度
3-2-A
3-2-1-A
目標の達成度
実証プラントプロジェクトで達成されるべき最終目標に対する達成度を以下に記載
する(表 11 参照)。
実証プラントの運転試験により、設計・建設・運転・保守に関するノウハウ、商用機
の設計に必要な機器の運転・保守特性データが取得でき、当初定めた実証プロジェクト
の最終目標は概ね達成できた。ただし、運転試験の進捗に伴って新たな課題等が確認さ
れたため、将来の商用化へ向けた技術確立が今後も必要である。
(a)信頼性(目標「年利用率 70%以上の見通しが得られること」)
「2,000 時間連続運転試験」において夏季ピーク期間(3 ヶ月)相当の安定運転
を確認するとともに、
「5,000 時間耐久性確認試験」において当初計画よりも 3 ヶ
月遅れたものの延べ 5,000 時間の運転を確認することにより目標は達成した。
ただし、「5,000 時間耐久性確認試験」実施時にはプラント停止につながる設備
トラブルが複数回発生した。ガス化炉後流熱交換器(SGC)伝熱管詰まりについて
は、炭種適合性とも関連する、新たに見出された課題として今後も引き続き検討が
必要である(表 7 参照)。
また既に実施済みの対策についても、中長期的な耐久性等の検証を行い、設備点
検や経年劣化評価を行うことが望ましい。
(b)熱効率(目標「送電端効率 40.5%(HHV ベース)程度」
)
「運転最適化試験」にて設計炭である中国炭を用いて目標を上回る送電端効率
40.6%(HHV ベース)を達成した。以下に目標効率達成時の運転データを示す(表 8
参照)。
表 8 目標効率達成時の運転データ
大気温度
発電機出力
ガスタービン出力
蒸気タービン出力
送電端効率(HHV)
(※大気温度 15℃補正値)
発熱量(HHV ベース)
CO
CO2
石炭ガス性状
組成
(ガス精製設備出口)
H2
vol%
CH4
N2 他
39
設計値
15˚C
250MW
128.9MW
121.1MW
40.5%
5.18MJ/m3N
29.1%
2.7%
10.8%
0.3%
57.1%
実績値
9.9˚C
248.8 MW
130.2MW
118.6MW
40.6%※
5.97 MJ/m3N
32.1%
2.0%
10.5%
1.4%
54.0%
(c)環境性
(目標 「SOx:8ppm、NOx:5ppm、ばいじん:4mg/m3N (各16%O2 換算)
」)
環境性能値の運転実績値について、運転試験を通じてプラント定格負荷において
いずれも目標値以下であり、目標を達成した(表 9 参照)。
表 9 環境性能実績
目標値
運転実績値
SOx
8 ppm
0~4.1 ppm
NOx
5 ppm
3.4~4.8 ppm
ばいじん
4 mg/m3N
0.3~0.6mg/m3N
(16%O2 換算)
(d)炭種適合性(目標「微粉炭火力に適合しにくい灰融点の低い石炭(1400℃以下)を
使用し、安定運転ができること」
)
「石炭ガス化調整試験」において、微粉炭火力に適合しにくい灰融点の低い中国
炭(設計炭)での安定運転を確認した。また「炭種変化試験」では設計炭以外で灰
融点の低い複数の炭種についても運転パラメータの調整を行い専焼運転が可能な
ことを確認し、目標は達成した。
本事業で使用した石炭燃料の灰融点を示す(表 10 参照)。
ただし「炭種変化試験」においてガス化炉後流熱交換器(SGC)伝熱管詰まりが
発生したため、炭種性状に応じてトラブルの発生防止など、様々な対応が必要なこ
とが判明した。新たに見出された課題として今後も引き続き検討が必要である。
表 10 試験炭種の灰融点
炭種
中国炭
灰融点
< 1,300℃
北米炭
インドネシア炭
(亜瀝青炭)
(亜瀝青炭)
< 1,400℃
< 1,300℃
(e)経済性(目標「発電原価が微粉炭火力と同等以下となる見通しを得ること」
)
「5,000 時間耐久性確認試験」後の設備点検したところ、大規模な設備改造を要
する様な致命的な機器損傷はなく、実証設備の IGCC 構成が妥当であることが確認
された。
現状では IGCC 実証プラントの建設費と微粉炭火力の建設費は差があるが、実証
40
試験結果によるコストダウン、実証試験地点特有の事情による費用増分、海外も含
めて IGCC の導入が進むことによる設備の量産化、およびスケールメリットによる
価格低減効果により、商用量産段階では微粉炭火力の2割程度増の建設費と見込ま
れる。
熱効率については、目標効率の達成により、実証プラントと同じ湿式ガス精製設
備と、現在実用化されている 1500℃級 GT とを組み合わせると 46%(送電端効率:
HHV ベース)が期待できる。
修繕費については、IGCC 実証機は機器点数が多いなど微粉炭火力に比べて高い
と想定される。
炭種については、微粉炭火力には適さない灰融点の低い石炭を使用できるため、
燃料(石炭)を微粉炭火力より安く調達することが可能と想定され、更に近年のエ
ネルギー需要量の著しい増加に伴い今後も石炭価格は上昇傾向が見込まれる。
これらより発電原価として微粉炭火力と同等以下となる見通しは得られる可能
性がある。
また、1600℃級 GT の採用により熱効率および経済性の向上が期待できる。更に
中長期的に開発が進められている 1700℃級 GT の採用や乾式ガス精製と組み合わせ
れば更なる向上が想定される。
一方、設備の修繕費用については、定期検査未実施であることや設備点検サンプ
ル数が少ないため、今後の精度向上が望まれる。
41
表 11
目標・指標
研究開発の目標に対する達成度
成果
達成度
信頼性
・ 夏季ピーク期間(3 ヶ月)
年利用率 70%
相当の安定運転を確認
以上の見通し
・ 5,000 時間耐久性確認試験
が得られるこ
において延べ 5,000 時間の
と
運転を確認
熱効率
送電端効率
40.5%(HHV ベ
ース)程度
環境性
・SOx: 8ppm
(16%O2 換算)
・NOx: 5ppm
(16%O2 換算)
・ばいじん:
4mg/m3N
(16%O2 換算)
・ ガス化炉後流熱交換器(SGC)
伝熱管詰まりについては、炭
種適合性とも関連する課題と
達成
して今後も引き続き検討が必
(課題あ
要
り)
・ 既に実施済みの対策について
も、中長期的な耐久性等の検
証が必要
送電端効率 40.6%(HHV)を達
成
達成
-
・SOx: 0~4.1ppm
(16%O2 換算)
・NOx: 3.4~4.8ppm
(16%O2 換算)
・ばいじん:
0.3~0.6mg/m3N
(16%O2 換算)
達成
-
炭種適合性
微粉炭火力に
適合しにくい ・ 瀝青炭(設計炭:融点
灰融点の低い
1300℃未満)での安定運転
石炭(灰溶融
を確認
温度 1400℃以 ・ 亜瀝青炭 2 炭種(北米炭、イ
下)を使用し、 ンドネシア炭)での専焼が
安定運転がで
可能であることを確認
きること
経済性
発電原価が微
粉炭火力と同
等以下となる
見通しを得る
こと
新たに見出された課題
・ 建設費は商用量産段階では
微粉炭火力の 2 割程度増の
見込み
・ 熱効率は微粉炭火力より向
上の見込み
・ 今後も石炭価格は上昇傾向
が見込まれ、発電原価とし
て微粉炭火力と同等以下と
なる見通しは得られる可能
性あり
42
・ ガス化炉後流熱交換器(SGC)
伝熱管詰まりが発生しプラン
達成
ト停止に至っており、炭種性
(課題あ
状に応じてトラブルの発生防
り)
止など、様々な対応が必要な
ことが判明
達成
(課題あ
り)
・ 修繕費については、定期検査
未実施であることや設備点検
サンプル数が少ないため、コ
スト低減に向けて今後の精度
向上が望まれる
3-2-2-A 特許出願状況等
本事業による論文、投稿、発表、特許の実績を以下に示す(表 12 参照)。また、2007
年度以降に発生した論文、投稿、発表、特許の実績を示す(表 13 参照)。
表 12
論文、投稿、発表、特許の件数
論文
投稿
発表
特許
5件
40 件
96 件
11 件
43
表 13
論文、投稿、発表、特許(※本表は 2007 年度以降の実績を記載)
題名・メディア等
論文
時期
日本エネルギー学会誌 総説特集「石炭火力発電技術の最新動向」「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証
プラントの開発-200トン/日石炭ガス化パイロットプラントから250MW実証プラントへ-」
2007.5
日本機械学会誌 トピックス欄「IGCC実証機プロジェクトについて」
2007.7
電力マンスリー 「シリーズ 省エネルギー・CO2削減へのチャレンジ」「IGCC実証機開発プロジェクトにつ
投稿
2007.5
いて」
火力原子力発電協会誌 平成19年度特集号
2007.10
「新エネルギー・新発電」「第V章1-1節 石炭ガス化複合発電」
福島県ボイラー協会会報「IGCC実証機プロジェクトについて」
2007.11
電気協会誌 解説「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証機プロジェクト」
2007.12
(株)環境コミュニケーションズ 月刊誌「資源環境対策」6月号:シリーズ特集/低炭素社会をつくる技
2008.6
術「石炭ガス化複合発電(IGCC)」
(社)産業環境管理協会 「環境管理10月号/特集:Cool Earth-エネルギー革新技術計画」「空気吹
2008.10
き石炭ガス化複合発電(IGCC)実証機開発状況」
日本混相流学会誌「混相流12月号」「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発について」
(財)エネルギー総合工学研究所「季報エネルギー総合工学 第31巻第4号」「石炭ガス化複合発電(IG
CC)実証試験の進捗状況」
公明党機関紙「公明 2月号」「我が国独自の高効率な石炭火力発電技術の開発「石炭ガス化複合発
電(IGCC)実証試験の進捗状況」」
(社)日本ガスタービン学会誌2009年3月号特集「火力プラントにおける高効率化技術とCO2削減の取
り組み」「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発について」
2008.12
2009.1
2009.1
2009.3
㈱ オーム社「OHM」2009年 3月号「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発状況」
2009.3
火力原子力発電技術協会九州支部 支部ニュース「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発について」
2009.3
(社)日本動力協会「エネルギーと動力」(第272号 平成21年・春季号)「次世代火力IGCC技術開発の現
2009.5
場」
(株)電気評論社「電気評論7月号」「クリーンコール技術開発-空気吹きIGCCの開発状況」
2009.7
(社)火力原子力発電技術協会「火力原子力発電(8月「エネルギー多様化と新発電技術」」「石炭ガス化複
2009.8
合発電(IGCC)の開発について」
日本経団連機関誌「経済Trend」(10月号)「クリーンコールパワーの推進に向けて」
2009.10
(社)火力原子力発電技術協会「火力原子力発電(10月「CO2削減」特集号」「石炭ガス化発電」
2009.10
発表 電中研 火力・環境部門研究発表会「石炭ガス化複合発電実証試験について」
(財)エネルギー総合研究所 第265回月例研究会「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証試験の進捗状
況」
持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)国際ランドテーブル(講演)「Advanced coal
technologies including IGCC」
世界エネルギー会議(WEC)アジア地域シンポジウム「アジア地域石炭火力熱効率向上対策」「勿来I
GCCの設備と実証機試験結果」
Gasification Technologies Conference 2008「First Year Operation Results of CCP’s Nakoso 250MW
Air-blown IGCC Demonstration Plant」
(財)電力中央研究所「4th International Conference on Clean Coal Technology and Fuel Cells]
「Update of Nakoso IGCC Demonstration Project」
(社)日本ガスタービン学会「第36回ガスタービン学会定期講演会」(講演)「石炭ガス化複合発電(IG
CC)の開発について」
第2回電力エネルギー未来技術シンポジウム(講演)「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証機の開発につ
いて」
日本エネルギー学会 三部会 合同シンポジウム(講演)「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証試験の進
捗状況」
(財)電力中央研究所 火力・環境部門研究発表会(講演)「IGCC実証機の運転状況」
題名・メディア等
発表
時期
IEA(国際エネルギー機関) WPFF(化石燃料ワーキング WORKING PARTY ON FOSSIL FUELS)(講
2008.12
演)「First Results from Nakoso IGCC operation」
(社)日本ガスタービン学会「第37回ガスタービンセミナー」パネルディスカッション(講演)「石炭ガス化複
2009.1
合発電(IGCC)の開発について」
(社)火力原子力発電技術協会九州支部「平成20年度 第4回【福岡地区】講演会」「石炭ガス化複合発
2009.1
電(IGCC)の技術について 」
廃棄物学会東北支部福島地区講演会「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発について」
電力技術懇談会「第5回日韓シンポジウム」「Operation Results of Nakoso 250MW Air-Brown IGCC
Demonstration Plant」
日本機械学会「第14回動力・エネルギー技術シンポジウム」「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証プロ
ジェクトの進捗状況」
2009.3
2009.4
2009.6
日本学術振興会「第10回日中石炭・C1化学シンポジウム」「IGCC development in Japan」
2009.7
日本学術振興会「第10回日中石炭・C1化学シンポジウム」「Nakoso IGCC demonstration project」
2009.7
(社)火力原子力発電技術協会九州支部「第2回大分地区講演会」「空気吹き石炭ガス化複合発電
(IGCC)実証機開発状況」
米国ガス化会議 Gasification Technologies Conference「Second Year Operation Results of CCP’s
Nakoso 250MW Air-blown IGCC Demonstration Plant」
Gasification Users Associations「CCP’s Nakoso 250MW Air-blown IGCC Demonstration Plant
(Second Year Operation) ,(Staffing, training and planning for operation in off design conditions )」
(社)日本機械学会関西支部「第10回秋季技術交流フォーラム」「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証プロ
ジェクトの進捗状況」
(社)火力原子力発電技術協会中部支部講演会(北陸電力)「空気吹き石炭ガス化複合発電(IGCC)実
証機開発状況
(社)火力原子力発電技術協会中部支部講演会(中部電力)「空気吹き石炭ガス化複合発電(IGCC)実
証機開発状況
The Ninth IERE GM / Central & East Europe Forum「Clean coal technology required for the future
and development of IGCC technology.」
ICOPE-09(動力エネルギー国際会議 神戸大会)(講演)「Operation Results of Nakoso 250MW AirBrown IGCC Demonstration Plant」
(社)火力原子力発電技術協会東北支部研究発表会「250MW空気吹きIGCC実証プラント試験状況につ
いて」
(社)日本機械学会動力エネルギーシステム部門「講習会(石炭の有効利用について)」「石炭ガス化複
合発電(IGCC)実証プロジェクトの進捗状況」
(社)火力原子力発電技術協会北海道支部研究発表会「空気吹き石炭ガス化複合発電(IGCC)実証機
開発状況」
2009.9
2009.10
2009.10
2009.10
2009.10
2009.10
2009.11
2009.11
2009.11
2009.12
2010.1
The 6th Clean Energy Forum 2010 in China「Japanese Air-Blown IGCC Project Progress」
2010.1
2008.2
IGCC Outlool China 2010(講演)「Jpanese Air Blow IGCC Project Progress」
2010.4
2008.7
日本機械学会「第15回動力・エネルギー技術シンポジウム」(講演)「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証
プロジェクトの進捗状況」
2010.6
2007.11
2008.9
特許 特許 第4107869号 「石炭ガス化システムに組み込まれた脱硫設備運転装置とその運転方法」
2008.4
2008.5
2008.10
特許 第4126218号 「石炭ガス複合発電プロセスにおける固体状ハイドロカーボンの処理方法」
2008.10
特許 第4436068号 「石炭ガス化プラント、および石炭ガス化方法、および石炭ガス化発電プラント、並
びに石炭ガス化プラントの増設設備」
2010.1
2008.10
特許 第4494946号 「石炭ガス化プラントおよびその運転方法」
2010.4
2008.11
特願 2008-261946 「スラグ溶融バーナー装置」
2008.10
2008.11
特願 2008-335055 「グランドフレア」
2008.12
2008.11
特願 2009-216050 「石炭ガス化炉のスラグ監視装置及び石炭ガス化炉」
2009.9
(社)火力原子力発電技術協会関東支部「第35回新技術発表会」「石炭ガス化複合発電(IGCC)の開
2008.12
発について」
44
4-A 事業化、波及効果
4-1-A 事業化の見通し
(1)実用化可能性と市場規模
実証機の運転試験により、設計・建設・運転・保守に関するノウハウ、商用機の設
計に必要な機器の運転・保守特性データが取得でき、当初定めた実証プロジェクトの
最終目標は概ね達成できた。ただし、実証試験の進捗に伴って商用機への新たに見出
された課題等が出てきたため、将来の商用化へ向けた技術確立が今後も必要である。
総合資源エネルギー調査会需給部会(経済産業省審議会)にて作成された「長期エ
ネルギー需給見通し(2008年5月)
」には、「エネルギー技術マップ」から、2030年ま
でに実用化が見込まれるIGCCを含めた主要なエネルギー技術の導入シナリオが記載
されている。しかし、IGCC単独での将来的な導入規模については明記されていない。
また、2005年3月に同部会にて作成された「2030年のエネルギー需給展望」の中で
は、2030年度におけるIGCC導入規模は、2015年度以降運開する石炭火力発電設備のう
ち、40%と想定されており、期待できる導入量は、約3,700MWとしている。
(2)海外への展開
本事業は、我が国の電力の安定供給を目的として「空気吹き IGCC」を開発している
ものであるが、
「空気吹き IGCC」は、世界最高の送電端効率を達成することを特徴とす
るものであり、欧米で開発されている「酸素吹き IGCC」技術に優るものである(表 14
参照)。
従って、副次的に、国内はもとより、海外への幅広い普及が期待される。
海外市場は、国内市場に比べはるかに規模が大きい。
例えば、豪州クイーンズランド州政府が出資するゼロ・ジェンプロジェクト(IGCC+
CCS)において、三菱重工業は商用規模 IGCC の建設を行う予定である。商用規模プラン
トの建設・運用ノウハウを積んで技術向上が図られることにより、石炭火力発電所の依
存度が高い国への市場拡大が見込まれる。
米国一国だけでも、2009 年から 2035 年までの 27 年間で 31GW の石炭火力市場がある
という数値が公表されている。
(米国エネルギー省エネルギー情報局 EIA「Annual Energy Outlook 2010」より)
中国では、2006 年の石炭火力発電設備容量は 449GW であったが、2030 年には 1,332GW
年間平均 4.6%の増加が見込まれている。
(国際エネルギー機関 IEA
「World Energy
となり、
Outlook 2008」より)
本技術の世界への普及は、地球レベルで資源の保全、環境改善、地球温暖化防止に貢
献するのみならず、国内に与える経済効果も莫大である。さらに、「エネルギー基本計
画」に定められた「エネルギー国際展開の推進」にも沿ったものであると言える。
45
表 14
空気吹き IGCC と酸素吹き IGCC の比較
空気吹き IGCC
(本実証プラント)
(商用プラント)
酸素吹き IGCC
(欧米)
発電機出力
250MW
(1200℃級 GT)
500MW 級
(1500℃級 GT)
300MW 級
(1100、1300℃級 GT)
送電端効率
(HHV ベース)
40.6%
(実績値)
46%
(設計値)
約 38~42%
4-2-A 波及効果
エネルギー基本計画(2010年6月)において、石炭の高度利用の目指すべき姿として
「我が国が有する世界有数の石炭火力発電等石炭利用技術の競争力を将来にわたって
維持するため、我が国の高効率石炭火力の海外展開を進めつつ、国内での高効率石炭火
力発電技術の開発・実証・運転を官民挙げて推進する。」とされている。具体的には「IGCC
等の高効率化とCCSの技術開発を推進するとともに、これらの技術を合わせ、石炭火力
発電等からのCO2を分離・回収・輸送・貯留するゼロエミッション石炭火力発電の実現
を目指す。
」とある。
早期商用化の為の技術開発の加速が待たれている CCS への安定的な CO2 供給元として
IGCC は選択肢の一つであり、IGCC+CCS の組み合わせによるさらなる CO2 削減効果が期
待されているところである。
IGCC に用いられている石炭ガス化技術は多岐にわたる技術への波及が期待されてい
る。具体的には、石炭ガス化技術に、燃料電池技術を付加した石炭ガス化燃料電池複合
発電技術 (IGFC)、燃料転換技術等を付加した電力と化学原料(DME、GTL)等とのコプ
ロダクションや水素製造等がある。また、石炭とバイオマス・廃プラスチック等とのハ
イブリッドガス化技術がある。これらの技術は、基本形である石炭ガス化技術が商用発
電技術として定着することが大前提となっているため、IGCC が今後、関連分野へもた
らす波及効果は大きい。
46
5-A 研究開発マネジメント・体制等
5-1-A 研究開発計画
実証プラントプロジェクトは、1999 年度から 2009 年度までであり、
「事前検証試験」
と「実証試験」の 2 つの工程に大別される。総事業費は約 896 億円となり、そのうち環
境アセスメント費等一部を除き国から 30%の補助を受けた。
(図 11 参照。)
当初総事業費は 980 億円であったが、建設費のコストダウン等により約 896 億円で抑
えることができた。
図 11
年 度
実証プラントプロジェクトの工程及び事業費(実績)
(単位:百万円)
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
2010
事前検証
試験
基本設計・詳細設計
実証試験
建 設
運転試験
6月
環境※
アセスメント
事業費※※
総額89,640
百万円
590
1,910
870
1,678
2,659
14,668
28,151
22,395
5,639
6,496
4,589
-
補助金※※
総額25,213
百万円
177
559
218
367
1,428
4,221
7,552
6,604
1,476
1,595
1,015
-
※
環境アセスメントは補助対象外であるが事業費総額には含まれている。
※※ 2009 年度は補助事業の 3 ヶ月延長に伴い 2010 年 6 月までの実績額を記載
している。
47
5-2-A 研究開発実施者の実施体制・運営
IGCC 開発は、パイロット試験段階(国補助 9/10)
、FS 段階(国補助 5/10)を経て、
IGCC 開発の最終段階(国補助 3/10)に進展しており、今回の実証プラントプロジェク
トは、早期実用化を図るためにも民間主導で行うこととなった。
第1回中間評価を受け、機動性の確保、責任体制の明確化等の観点から、実証プラン
トプロジェクトを専門に運営するための新会社が、既存の電力会社とは独立して設立さ
れた。
(株式会社クリーンコールパワー研究所、2001 年 6 月 15 日設立、9 電力会社と電
源開発株式会社が出資。
)
クリーンコールパワー研究所は、9 電力会社と電源開発株式会社及び財団法人電力中
央研究所(総称して 「十一法人」という。
)との間で共同研究契約を結んでおり、十一
法人は研究開発費の分担を、クリーンコールパワー研究所は研究成果を出すことをそれ
ぞれ負っている。
商用機につながる IGCC の開発体制とするため、当該技術のエンドユーザとなるべき
9 電力会社と電源開発株式会社は、事業用発電プラントの運転、保守、建設に従事して
きた経歴を有する人材を中心に、クリーンコールパワー研究所に研究員として出向させ
ている他、ガス化炉の専門知識を有する財団法人電力中央研究所も同様に研究員を提供
している。
(図 12 参照。
)
資源エネルギー庁
補助金
3/10
共同研究契約
分担金
(株)クリーン
7/10
電力 9 社
コールパワー
研究員
電源開発
電力中央研究所
研究所
図 12
実証プラントプロジェクトの推進体制
クリーンコールパワー研究所は、プロジェクト計画に大幅な変更(資金、大工程等)
を生じるような場合を除き、プロジェクトの日常の運営について十一法人から委任され
ているため、迅速な意思決定が確保されている。
また、実証プラントの建設や設備点検、運転試験はクリーンコールパワー研究所から
メーカに対して発注されるが、メーカのみに信頼性・安全性を依存することはできない。
よって、常にユーザの視点とメーカの視点の両面からレビュー等を行い信頼性の向上に
努めている他、日常的に協働して緊密な連携体制で事業を推進している。
48
5-3-A 費用対効果
IGCC 導入により得られる社会的効果は、主として次のものが挙げられる。
・ 「CO2 の排出削減効果」
:
高効率のため、CO2 排出を低減しつつ、最も豊富な化石燃料である石炭の利用が
可能である。
・ 「エネルギー価格の牽制効果」
:
LNG に対する価格牽制力、微粉炭火力向け高灰融点炭に対する価格牽制力として
有効である。
・ 「安価な低灰融点炭利用」
:
微粉炭火力では使用し難い灰融点の低い石炭が適しており、我が国全体の利用炭
種の拡大に寄与できる。
以下に、この 3 点の効果の試算を示す。
i)CO2 の排出削減効果の試算
上記の IGCC 導入による CO2 の削減効果の試算を以下に示す。
a.試算の前提
【比較ケース】
IGCC が開発されない場合。(増設又はリプレース需要に対して微粉炭火力(USC)
にて対応する場合、ただし、効率の低い老朽石炭火力を IGCC、USC に更新することに
よる CO2 の削減効果は含まれない)
・
導入規模
IGCC 設備容量:発電端 3,700MW / 送電端 3,352MW
(商用機の所内率を 9.4%と想定して送電端容量を算出した。
)
・
年利用率:70%
表 15
IGCC と微粉炭火力(USC)プラントの前提条件
IGCC
(1500℃級 GT
+湿式ガス精製)
送電端効率
(設計値、HHV ベース)
CO2 排出原単位
微粉炭火力
(USC)
46%
40%
709g- CO2/kWh
815g- CO2/ kWh
※ 特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令
別表第一に掲げる係数より
49
一般炭 0.0247t-C/GJ
0.0247×(106)×(44/12)×(3600×10-6)=326
(t-C/GJ)
(g/t)
(CO2/C)
(GJ/kWh)
(g-CO2/kWh)
b.CO2 排出原単位
IGCC の CO2 排出原単位は、最新鋭微粉炭火力(USC)に比べ
106g- CO2/kWh(106×10-6t- CO2/kWh)少ない(表 14 参照)。
c.IGCC 採用による CO2 排出削減効果
3,352×103×0.7×24×365×106×10-6 =2.18×106
(MW)(kW/MW)(利用率)(h/d)
(d/y)
(t-CO2/kWh)
(t- CO2/y)
よって、年間 218 万tの CO2 の排出削減と想定される。
これは、電気事業により年間に排出される CO2(3.95 億 t、2008 年度実績、出典: 電
気事業連合会「電気事業のデータベース」
)の約 0.6%となる。
ⅱ)エネルギー価格の牽制効果の試算
IGCC 開発により、新たに安価な低灰融点炭の利用が可能となることで、LNG 価格並
びに高灰融点炭価格に対し牽制が可能となる。
①LNG 価格牽制
上記の IGCC 導入による LNG 価格牽制効果の試算を以下に示す。
a.試算の前提
・ 電気事業者の LNG 消費量:4,211 万 t(「電力需給の概要(2008 年度版)
」より)
・ LNG 価格実績:43,798 円/t(財務省貿易統計 LNG 価格 2009 年実績より)
・ IGCC 開発による未利用石炭の利用拡大の、LNG 価格牽制力を 6%、と仮定(※2000
~2009 年の 10 年間で、LNG 価格は 479 円/GJ~1230 円/GJ で推移しており、最高
値を基準にして約 6 割の変動幅がある。ここでは、石炭の利用拡大による LNG の
価格牽制効果をその 10 分の 1 と仮定し、6%とした)
b.LNG に対する牽制効果額
4,211×104×43,798×6%=1,107×108
(t/y)
(円/t)
よって、1,107 億円/年
(円/y)
の牽制力となる。
②微粉炭火力向き高灰融点炭価格牽制
上記の IGCC 導入による微粉炭火力向き高灰融点炭価格牽制効果の試算を以下に示
す。
50
a.試算の前提
・
微粉炭火力向き高灰融点炭消費量: 7,519 万t/y (電気事業者石炭消費量 8,421
万 t/y、石炭火力設備容量 34,528MW(「電力需給の概要(2008 年度版)
」より)の
うち、3,700MW が 2030 年度末までに IGCC に置換され(4-1-A 章(1)参照)、微粉
炭火力設備容量は 30,828MW に減少、高灰融点炭消費量は、
設備容量見合いで 7,519
万 t/y に減少すると仮定した。)
・ 微粉炭火力向き石炭価格実績: 10,144 円/t (財務省貿易統計 石炭(一般炭)
価格 2009 年実績より)
・ IGCC 開発による未利用石炭の利用拡大の高灰融点炭価格牽制力を 7%と仮定(※
2000~2009 年の 10 年間で、石炭価格は 145 円/GJ~503 円/GJ で推移しており、
最高値を基準にして約 7 割の変動幅がある。ここでは、石炭の利用拡大による高
灰融点炭価格牽制効果をその 10 分の 1 と仮定し、7%とした)
b.微粉炭火力向き高灰融点炭に対する牽制効果額
7,519×104×10,144×7%=533.9×108
(t/y)
(円/t)
よって、533.9 億円/年
(円/y)
の牽制力となる。
ⅲ)安価な低灰融点炭利用の試算
導入された IGCC には、安価な低灰融点炭が利用可能となるため、燃料調達費が低
減される。その効果の試算を以下に示す。
a.試算の前提
・ IGCC 導入規模:3,352MW(2030 年度末、送電端、4-1-A 章(2)i参照。
)
・ IGCC 送電端熱効率:46%(HHV ベース、1500℃級 GT+湿式ガス精製)
・ 発熱量:25.7GJ/t(特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に
関する省令別表第一より)
・ 微粉炭火力向き高灰融点炭平均価格実績: 10,144 円/t(財務省貿易統計 石炭(一
般炭)価格 2009 年実績より)
・ 低灰融点炭価格は高灰融点炭比 14%減と仮定(高灰融点炭への価格牽制効果を 7%
と仮定したので、低灰融点炭の現物価格はそれ以上に割安と考えられることから、
2 倍の 14%減と仮定した。
)
51
b.燃料調達費低減効果額
3,352×103×8,760×70%/46%×3600
(MW) (kW/MW) (h/y)
(利用率)
(熱効率)
(kJ/kWh)
/(25.7×103)×10,144×14%=88.9×108
(kJ/t)
(円/t)
よって、88.9 億円/年
(円/y)
の低減効果額となる。
よって、IGCC 導入によるメリットは、
ⅱ①+ⅱ②+ⅲの合計で年間約 1,750 億円と想定される。
ライフサイクル(火力発電所の法定耐用年数=15 年)にわたって毎年このメリ
ットが継続するとすれば、1,750 億円/年×15 年=2.6 兆円の効果が期待される。
52
5-4-A 情勢変化の対応
2008 年度の運転試験開始後に、次のような情勢変化があり、IGCC の開発の重要性が
一層強くなったと考えられる。
① 燃料の需給逼迫と価格の高騰
中国の急激な経済成長の影響を受け、近年エネルギー資源を含む輸入原材料が急激に
高騰し始めている。
このような中にあって、IGCC の開発によりこれまで未利用だった炭種も適用可能に
なるという炭種拡大効果(1-A 章事業の目的・政策的位置付け参照。)は、まさにエネ
ルギーセキュリティに寄与するものである。
また、IGCC の高効率性のメリットは、燃料費の低減効果をもたらすが、燃料価格が
高騰するほど、その燃料費低減額が大きくなり、IGCC の有効性が増す。
② 「エネルギー基本計画」の見直し
2010 年 6 月には、
「エネルギー基本計画(資源エネルギー庁)」が見直され、その中
で、石炭の高度利用への目指すべき姿として、国内での高効率石炭火力発電技術の開
発・実証・運転を官民挙げて推進するとなっている。
具体的には、IGCC 等の高効率化と CCS(二酸化炭素回収・貯留:Carbon dioxide Capture
and Storage)の技術開発を推進するとともに、これらの技術を合わせ、石炭火力発電
等からの CO2 を分離・回収・輸送・貯留するゼロエミッション石炭火力発電の実現を目
指すとなっている。これに先立って、CCS 事業化の調査を行う会社「日本 CCS 調査㈱」が
設立され、CCS の実証試験に向けて現在調査が進められている。
③ 海外でのゼロエミッション石炭火力技術開発
豪州では 2008 年から Zero Gen プロジェクトが、中国では 2006 年から Green
Gen プ
ロジェクトがそれぞれ開始され、IGCC と CCS(二酸化炭素回収・貯留)を組み合わせた
計画が進められている。
53
高効率ガスタービン実用化技術開発
B
B1
1700℃級ガスタービンの実用化技術開発
1-B1 事業の目的・政策的位置付け
1-1-B1
事業目的
本事業は、我が国の電源構成の約 6 割を占める火力発電の高効率化を図り、エネルギ
ーセキュリティの確保及び地球環境問題双方に対応すべく、世界をリードする高効率ガ
スタービンの実用化に向けた技術開発を実施する。
高効率天然ガス火力発電は、他の化石燃料に比べて環境負荷が少ない天然ガスを燃料
とし、ガスタービンと蒸気タービンの双方を利用する複合発電技術に代表される。 ガ
スタービン技術の性能向上により、発電効率が現行の 52%(送電端、HHV 基準。)から
56%まで向上すれば、二酸化炭素排出量は約 8%の削減が可能である。
(1)事業の科学的・技術的意義
本事業は、複合発電の熱サイクル温度を現状の 1500℃級から世界初の 1700℃級に高
める。これにより、高温化で世界のガスタービン技術をリードしている我が国の優位を
確保し、発展させることができる。本事業は、前例がない未知の領域での技術開発とな
るため、燃焼技術、冷却技術、遮熱コーティング、空力技術などで、独創性の高い新技
術の開発が必要となる。
また、排熱再循環システムを用いた燃焼器については、排ガス中の CO2 濃度が約 8%
となり、CO2 回収が効率的に実施可能な濃度レベルとなる。これが可能となれば、元々
CO2 排出原単位が一般の火力発電の中で最も小さい複合発電の CO2 排出量(発電効率 52%
で、0.34kgCO2/kWh)
を約 0.03kgCO2/kWh と現状比の約 1/10 以下に出来る可能性がある。
さらに 1700℃級ガスタービンが実現できれば、石炭ガス化発電 IGCC にも応用可能で
あり、1700℃級 IGCC が実現可能となる。このほかに、燃料電池とガスタービンの組合
せによるハイブリッドサイクルや、原子力発電の夜間電力を利用し手製造した水素燃料
を用いた複合発電も可能となる。これらは、エネルギーセキュリティ上重要な将来技術
であるが、多様な燃料を使用可能な高温ガスタービンは、これらの革新的な技術に実用
化において中核となる技術である。
(2)社会的・科学的意義
( CO2 削減効果)
地球温暖化問題に対応する CO2 削減効果は、前述のとおりである。
( 高温化技術の波及効果)
超高温・1 万 G を超える高遠心力の厳しい条件下で 1 年以上の連続運用が求められる
54
発電用ガスタービンは、ロケットエンジンなどと同様、あらゆる機械製品の中でも最も
技術の裾野が広く、且つ、先進性の高い機械のうちのひとつであり、高い完成度が求め
られる。従って、燃焼、伝熱、材料、空力など複数の分野に跨る本プロジェクトの波及
効果は非常に大きい。特に高温化技術は科学技術的に、その実用的な目標を与えるとい
う観点でも重要である。
1-2-B1 政策的位置付け
世界の温室効果ガスの排出を 2050 年までに半減するという長期目標を達成するため、
革新的な技術開発の重要性が掲げられており、2008 年 7 月に閣議決定された「低炭素
社会づくり行動計画」において、2050 年までに二酸化炭素の排出を現状から 60~80%
削減するという目標が掲げられている。このような 2050 年に向けた削減努力に対して、
経済産業省では「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」を設定し、「高効率天然ガス火
力発電」を含む 21 分野の技術の開発による目標達成を目指している。これを受け、本
計画では、技術開発ロードマップの着実な実施が必要とされている。
また、エネルギー基本計画(2010 年 6 月 18 日閣議決定)において、
「その他の火力発
電については、新増設・更新の際には、原則としてその時点における最先端の効率を有
する設備の導入を目指す。」と謳われており、1700℃級ガスタービンに代表される超高
温高効率ガスタ-ビンは、現状最も高効率の火力発電技術として、リプレースにおける
大容量機のエネルギー効率向上に寄与できる技術である。
55
1-3-B1
国の関与の必要性
火力発電の高効率化のためには、燃焼、材料等の革新的な技術開発が必要であるが、
研究開発成果の商業性や投資回収可能性に係るリスクが大きく、民間企業のみでは対応
できない研究開発分野である。実用化まで長期のリードタイムと多大な研究開発投資を
必要とする技術開発を推進するには、官民がその方向性を共有する事が不可欠である。
(1)国家エネルギー戦略における位置づけと開発競争のスピード
各国家において、エネルギーセキュリティ・経済性・環境問題の解決の全てに深く関
係するため、その先進性・困難性にかかわらず、ガスタービンの高温化はスピードが非
常に速く、国家間の開発競争は熾烈を極める。発電用ガスタービンは、1980 年代初頭
の複合発電システムの導入以降、年間約 20℃という早いペースで燃焼温度の高温化が
進み、熱効率が改善してきた。熾烈な開発競争の中、高温化に対して技術的に開発が可
能な国は、米・独・日の 3 カ国に絞られつつある(図 13 参照)。
(2)本技術分野における我が国の優位性
我が国は、世界に先駆けて 1500℃級のガスタービンを実用化し、発電効率 52%を達成
しており、本分野をリードしている。しかし、世界市場でのシェアで我が国は 10%程度
であり、欧米メーカが大きくシェアを有するとともに積極的な技術開発を進めている中
で、我が国の優位性は予断を許さない状況にある(図 14 参照)。
したがって、厳しい国際競争の中でわが国のリードを保つためには、一刻も早く革新
的な技術を実用化して実機に展開する必要がある。このため、1700℃級ガスタービンの
開発に取り組むことにより、発電効率 56%の実用化を目指し、革新的な技術開発を推進
する必要がある。
56
●わが国は、世界に先駆けて1500℃級ガスタービンを実用化し、本分野をリードしています。
●欧米は、多額の研究開発費を投じており、日本は手を緩めるとすぐに競争力を失ってしまいます。
●優位性を維持するため、1700℃級に必要な革新的技術開発に取り組み、早期に実用化する事が必要です。
1700
1700℃級 56%超
タービン入口温度(℃)
1600℃級 54%超
1500℃級 52%(HHV)
1500
日:三菱重工業
米:GE
独:Siemens
仏:Alstom
日
仏
米
日
1300
独
米
仏
1700℃
1700℃級国プロ
独
1500~1700℃の間に、信頼性の壁があり、
技術のブレークスルーが必要
日
米DOE
独
米
日
ATS
EU
NGT
HEET
(800億円) (500億円) (1000億円)
1100
ATS:Advanced Turbine Systems、’92-’99
NGT:Next Generation Turbine、’00-’05
HEET:High Efficiency Engines and Turbines、’03-’15
ムーンライトPJ
ムーンライトPJ
(260億円)
1980
図 13
CAME-GT
(200億円)’00-’05
1990
2000
2010
年
各国のガスタービン技術に関する国家プロジェクトと各国の高温化のトレンド
比較
(3)米国 DOE 支援による技術開発
1700℃級ガスタービンの開発は、石炭ガス化複合発電等、他の発電技術にも適用可能
な重要技術であり、米国においてもエネルギー省(DOE)の High Efficiency Engines and
Turbines Programs により国家的な支援の下で技術開発が進められている(図 14 参照)。
我が国においても、産学官の連携の下、着実な技術開発により早期の実用化、実証運転
による信頼性の確立等を図ることが必要である。
図 14
ガスタービン技術に関する各国家プロジェクトとシェアの実績の推移
57
(4)省庁間連携
なお、1700℃級ガスタービンの実現の為に不可欠な耐熱材料の開発は、基礎的材質の
研究が必要となるため、文部科学省の事業として取り組んでおり、省庁間で連携をとっ
て技術開発を進めている。
ムーンライト
‘78~’87 260億の予算で実施。
●高温化技術の遅れを挽回した。
●開発技術を活用して、
’90 1350℃級 実用化
’97 1500℃級 実用化
以降高温化で世界をリード
●大型ガスタービンの高温化は、
日本が世界をリードしてきた。
●海外にも先例が無い。
超高温ガスタービン
プロジェクト
1700
タービン入口温度(℃)
したがって、未知の事象が想定さ
れ開発リスクが高い。
1500
ムーンライト
(260億円)
HEET
NGT (1000億)
ATS
(800億) (500億)
1300
産学共同で、最新の基礎技術を投
入しつつ進める為に、是非とも国
の関与と支援が必要である。
米国DOE ファンド
( ) プロジェクト費用
1100
1980
1990
2000
2010
年
ガスタービンのタービン入口温度の上昇
図 15
(*)
ガスタービンの高温化と国家の関与の必要性
大型ガスタービンの高温化
1987 年終了の国家プロジェクト“ムーンライトプロジェクト(1350℃級)
”の技術を
活かして 1990 年度に 1,350℃級が実用化し、1997 年以降の 1500℃級の実用化につなが
った(図 15 参照)。国家プロジェクトをきっかけに、我が国は大容量ガスタービンの高
温化技術、すなわち、
・ 高温での安定燃焼技術と低エミッション技術
・ 高温条件下でのタービン・燃焼器の高性能冷却技術
(冷却空気量を低減し、熱サイクル性能を向上する技術)
・ 高温条件下でのタービン・燃焼器の高信頼性・高耐久性設計技術
・ 高温条件下での高負荷空力技術
・ 高温時の大型ロータ・大型車室の高耐久性設計技術
などの点で世界に追いつき、リードしてきた。
58
2-B1 研究開発目標
2-1-B1 研究開発目標
電力産業の保守高度化とリプレース需要にあった大容量機(コンバインド出力 40 万k
W)の高効率化を目指し、目標送電端効率 56%以上、CO2 排出量 8%削減(現状同容量
機比)を達成するために必要な、1700℃級ガスタービンの実用化を図る。そのため、
1700℃級ガスタービンの実用化に必要な以下の要素技術開発を行い、システムの成立性
をシミュレーションにより確認する。
・排ガス再循環システム/低 NOx 燃焼器の開発
・高性能冷却システムの開発
・低熱伝導率遮熱コーティング(TBC)の開発
・高負荷・高性能タービンの開発
・高圧力比高性能圧縮機の開発
・超耐熱材料の開発(文部科学所事業)
2-2-B1 全体の目標設定
表 16
全体の目標
目標・指標
目標・指標
(事後評価時点)
(中間評価時点)
設定理由・根拠等
1.実機を設計するために必要な要
より実機に近い条件で新
56%以上(HHV)を達 素技術を、より実機に近い条件で評
技術を評価することによ
成する 1700℃級ガス 価・検証する。
り、技術課題を明確にす
タービンに適用可能 2.新開発の要素技術を適用した場
る。新たに判明した課題
な実用化技術を開発 合に送電端効率 56%以上(HHV)を達
に対して、改良案を立案
送電端効率
する。
成可能であることの目処を得る。
し、速やかに改良効果を
3.H23 年度に実施する高圧高温試
確認することにより、実
験用の装置の製作を進める。
機開発のリスクを低減す
る。
59
2-3-B1 個別要素技術の目標設定
表 17
要素技術
個別要素技術の目標
目標・指標
目標・指標
(事後評価時点)
(中間評価時点)
排 ガ ス 再 1700℃低酸素燃焼及
中圧燃焼試験にて実機圧
設定理由・根拠等
NOx レベルを維持
循 環 シ ス び実機換算で NOx 排 力換算で 50ppm 以下を実現す し つ つ 材 料 温 度 低
テ ム / 低 出量 50ppm 以下の実 る。
NOx 燃 焼 現可能性を確認する。
器の開発
減など完成度を高
高圧燃焼試験装置の製作 めていく。
に着手する。
高 性 能 冷 冷却空気量 30%低減
冷却要素に対する回転、乱
実機相当流れ場
却 シ ス テ (従来比)の実現可能 れなどの影響を評価し、実機 で の 冷 却 性 能 の 評
ムの開発
性を確認する。
で冷却空気量を 30%低減でき 価を行ない、実機設
る目処を得る。
低熱伝導 熱 伝 導 率 を 現 状 材
計に繋げる。
遮熱効果を 20%向上可能な ・実機相当条件での
率 TBC の (YSZ)より 20%低減し、 候補材を選定し、実翼への最 遮 熱 性 と 信 頼 性 を
開発
且つ実機で耐久性を 適な成膜条件を求める。実機 確保する為に、素材
確保できる目処を得 相当熱サイクル疲労試験に 候補を絞込み、実翼
る。
て耐久性を確認する。
への製造プロセス
を検討する。
高 負 荷 ・ 1500℃級に比べ 30%
モデルタービンを用いて 3 次元設計コンセプ
高 性 能 タ 高い負荷条件におい 効率を計測し、実機で 91%以 トに対して、超高温
ー ビ ン の て、1軸タービン、段 上の実現が可能である事を 化 で 流 動 条 件 の 予
開発
数従来並みで、効率 確認する。
91%以上の実現が可
能か確認する。
3 次元設計について、空 る。
力・伝熱への影響を把握す 後方段・排気のコン
セプトを検討する
る。
高 圧 力 比 圧力比 30 以上におい
測と課題を抽出す
モデル圧縮機で効率レベ
設計点での高効
高 性 能 圧 て、1軸圧縮機、段数 ルを計測し、実機で 89%以上 率と、起動時・部分
効率 89% となる事を確認する。
縮 機 の 開 従来並みで、
発
以上の実現が可能か
確認する。
負荷条件での作動
起動特性や抽気室の空力 安 定 性 を 両 立 す る
特性への影響を評価する。
軸流圧縮機を開発
する。
60
3-B1 成果、目標の達成度
3-1-B1 成果
3-1-1-B1 全体成果
2008 年度から 2010 年度にかけ、これまで計画どおりに実用化技術の開発を進め、
表 3-2 で示した要素技術について(表 18 参照)、それぞれ新コンセプトの効果をより
実機に近い条件で実用化技術試験を実施し、引続き基礎データを取得するとともに、
・ 実際の設計適用に当たっての副作用の有無の確認
・ 定格条件以外の作動条件における各技術の効果確認
・ 製作上の制約などを考慮した条件での形状検討
・ 実機形状への製造・施工プロセスの検討
を実施し、研究室レベルの基礎技術からより設計適用可能な実用的な技術の開発を進
めた。
上記の最新の研究成果を反映したシミュレーションにより送電端効率 56%以上、
CO2 排出量 8%削減(現状同容量機比)の実現可能性を確認し、実証機開発の足がか
りを得た。
さらに、1500℃級ガスタービンの運用経験の基づき、上記の革新的な新技術のうち
実用化レベルに達したと判断された技術を活用することにより、世界初の 1600℃級ガ
スタービンの開発に着手し、設計を完了した。
本技術開発における、要素技術開発項目ごとの主な成果を以下の表 19 に示す。
表 18
全体の成果
目標・指標
目標・指標
(事後評価時点)
(中間評価時点)
コンバインド効率
目標の達成状況
1.実機を設計するために必要な要 1.各要素で実機に近い
56%以上(HHV)を達 素技術を、より実機に近い条件で評 条件で新技術を評価した
。
成する 1700℃級ガス 価・検証する。
タービンに適用可能 2.新開発の要素技術を適用した場 2.最新の要素技術を適
(HHV) 用した場合の予想効率は
な実用化技術を開発 合にコンバインド効率 56%以上
する。
を達成可能であることの目処を得 約 57%である。
3.高温高圧試験装置を
る。
3.H23 年度に実施する高圧高温試 予定通り製作中である。
験用の装置の製作を進める。
61
表 19
項目
排ガス再
要素技術開発項目ごとの主な成果
目標・指標(中間評価時点)
目標の達成状況
中圧燃焼試験にて実機圧 排ガス再循環を模擬した中圧燃焼試験によ
循 環 シ ス 力換算で 50ppm 以下を実現 り 1700℃低酸素燃焼の燃焼特性を把握し、
テ ム / 低 する。
実機換算で NOx 排出量 48ppm である事を確
NOx 燃焼器 高圧燃焼試験装置の製作に 認した。高圧燃焼試験装置の製作に着手し、
の開発
着手する。
予定通り推進中である。
高 性 能 冷 冷却要素に対する回転、乱 高性能フィルム冷却、微細冷却構造などの新コ
却 シ ス テ れなどの影響を評価し、実 ンセプト冷却要素試験を実施し、いずれも
ムの開発
機で冷却空気量を 30%低減 冷却効率 20%以上向上を確認した。これらを
できる目処を得る。
組み合わせた冷却翼を考案し、冷却空気量
30%低減の実現可能性に目途を得た。
低熱伝導
遮熱効果を 20%向上可能 従来とはまったく異なる第一原理計算を用
率 TBC の な候補材を選定し、実翼へ いた材料探索手法などにより選定した候補
開発
の 最 適 な 成 膜 条 件 を 求 め 材を複数選定した。溶射皮膜での実機相当
る。実機相当熱サイクル疲 試熱サイクル試験により、遮熱効果を 20%
労試験にて耐久性を確認す 低減しつつ、従来材並の寿命を確保できる
る。
高負荷・高
ことを確認した。
モデルタービンを用いて 新開発の高性能プロファイルと、翼・端壁
性 能 タ ー 効率を計測し、実機で 91% 一体設計新コンセプト 3 次元翼型を組み込
ビ ン の 開 以上達成可能である事を確 んだ回転翼列要素試験を実施し、1500℃級
発
認する。
ガスタービンに比べ 30%高い負荷条件にお
3 次元設計について、空 いて、実機換算で 91.3%の効率を達成可能で
力・伝熱への影響を把握す あることを確認した。
る。
高圧力比
モデル圧縮機で効率レベ 大型ガスタービンで要求される一軸圧縮機
高 性 能 圧 ルを計測し、実機で 89%以 を想定したモデル圧縮機を用いて、の回転
縮 機 の 開 上となる事を確認する。
発
翼列要素試験を実施し、新コンセプトの 3
起動特性や抽気室の空力特 次元設計翼により、実機換算で 89.3%の効率
性への影響を評価する。
を達成可能であることを確認した。また、
安全に起動可能であることと、抽気室の空
力への影響を把握した。
62
3-1-2-B1 個別要素技術成果
(1)排ガス再循環システム/低 NOx 燃焼器の開発
新コンセプト燃焼器により、NOx は、実機換算で48PPM @ 15%O2(<目標
50ppm以下)を達成する見込みを得た。
低酸素燃焼による局所の燃焼温度の低減
新コンセプト試作燃焼器
EGR無し (O2=21%)
EGR有り (O2=15%)
保炎器
NOxの計測値
スワラー
燃焼試験装置
燃焼状況
plant
pressure) 2 )
NOx(
ppm、15%O
1000
Design O2 condition
(EGR ratio=35%)
100
Target NOx=50ppm
48ppm
10
26ppm
1
0
1
2
3
4
5
O2 concentration at combustor
6
排気酸素濃度(vol%dry)
(2)高性能冷却システムの開発
先進冷却要素の開発により、目標を満足する従来比30%の冷却空気削減を可能とし
た。さらに、実機の速度三角形などを模擬した相似条件において、三次元かつ動静
翼間翼列干渉などの影響下で、翼面上のフィルム冷却効率を把握した。
先進冷却要素の開発
1700℃級冷却コンセプト
回転試験での冷却効率
赤:冷却効率
が高い
青:冷却効率
が低い
63
(3)低熱伝導率 TBC の開発
遮熱コーティング
(TBC:Thermal Barrier Coating)
のイメージ図
遮熱効果を20%向上したセラミクス材(目標を満足)を開発し、実機ガスタービン
遮熱効果を
20%向上したセラミクス材(目標を満足)を開発し、実機ガスタービンと
と同様に温度勾配を付与するため、CO2レーザを用いた熱サイクル試験を実施した。
同様に温度勾配を付与するため、CO2 レーザを用いた熱サイクル試験を実施した。
先進セラミクスを用いたTBCの耐久性は通常のYSZと同等以上であることを確認した。
先進セラミクスを用いた TBC の耐久性は従来材料と同等以上であることを確認した。
CO2レーザ発振装置
ランタノイド
候補材
添加ZrO2
TBC-B
セラミックス
候補材
TBC-A
冷却空気
テストピース
(a)レーザ熱サイクル試験装置
はく離回数(YSZを1として)
複雑化合物セラミックス
5
4
3
2
1
0
(c)熱サイクル試験結果(最高TBC表面温度:1400℃
TBC内温度差:500℃)
(b)熱サイクル試験状況
開発したセラミクス材を用いて、実翼への施工を想定した溶射条件の最適化を実施した。
プラズマ溶射施工条件の最適化
センサーヘッド
実翼へのプラズマ溶射施工状況
溶射ガン
粒子の流れ
粒子の数
少ない
多い
プラズマ中のパウダーの温度分布
低い
64
温度(℃)
高い
(4)高負荷・高性能タービンの開発
実機流れを模擬した回転試験に加え、実レイノルズ
数での高速翼列試験を実施し、先進3次元設計コンセ
プトを検証した。その結果、実機相当で効率91.3%
(>目標91%)を達成可能である目処を得た。
高速回転翼列試験装置
先進3次元設計コンセプト
燃焼器とタービンの配置最適化
燃焼器の側壁
前縁
端壁を凸
凹にする。
タービン効率
+側
軸方向にスムー
ズに流れる。
従来形状
第一段静翼
0
-側
非対称端壁
形状
0%
100%
燃焼器に対する第一段静翼の相対位置
(5)高圧力比高性能圧縮機の開発
先進3次元空力設計技術により、遷音速段では衝撃波を制御、亜音速段では2次流
れを制御視することにより、いずれも性能を約1%以上向上した。実機での効率は
89.3%(>目標89%)を達成可能である事を確認した。さらに、高速回転翼列試験
により、起動条件も含めた運用性の確認も行なった。
従来翼
先進3次元翼
高速回転翼列試験設備
衝撃波を弱めて性能向上
65
3-1-3-B1 特許出願状況等
本実用化技術開発の開始から申請を行った特許・論文等の総件数(表 20 参照)及
びそれぞれの内容について、リスト化したものを以下に示す(表 21 参照)。
表 20
論文数
特許・論文等件数
特許等件数
投稿
発表
(出願を含む)
4
24
表 21
国内電力の
視察回数
10
25
149
論文、投稿、発表、特許リスト
(論文)
論文
題目・メディア等
時期
三菱重工技報 VOL.45NO.1「火力プラントの高効率化への取り組
2008.1
み」
三菱重工技報 VOL.46NO.1「高性能ガスタービンの最新空力設計技
2009.1
術」
三菱重工技報 VOL.47NO.1「超高温ガスタービンの要素技術の開
2010.1
発」
三菱重工技報 VOL.47NO.1「CO2 回収型 IGCC クリーンコール技術
の商用化」(第 2 章
2010.1
IGCC の現状と今後の課題)
(投稿)
題目・メディア等
投稿
月刊「ターボ機械」
35 周年記念特集「地球温暖化対策とガスター
時期
2008.7
ビン」
電気評論「高効率天然ガス火力発電
2008.7
<高効率複合発電の実績と 1700℃級ガスタービンの要素技術開
発>」
火力原子力協会特集号「今後のコンバインドサイクル発電設備の
2008.7
動向」
日本ガスタービン学会誌 9 月号「1700℃級ガスタービンの空力技
2008.9
術」
日本ガスタービン学会第 36 回定期公演会「高負荷タービンへの 3
66
2008.10
次元エンドウォールの適用」
月刊「ターボ機械」11 月号
「次世代コンバインドサイクルシステ
2008.11
配管技術「ガスタービンコンバインドサイクルプラントへの取り
2009.5
ム実用化の進展と課題」
組み」
日本ガスタービン学会誌 3 月号「ガスタービン高温化技術の開発」
2009.3
エネルギー・資源学会「低炭素社会への挑戦」
2009.1
「天然ガスを燃料とする火力発電
エネルギー・資源学会 Vol.31
コンバインドサイクル」
NO.2(2010)特集
大型火力発電の
2010.3
革新技術「1700℃級ガスタービンの技術開発」
(発表)
題目・メディア等
発表
時期
大阪大学第 2 回 FD セミナー「 1700℃超高温ガスタービン
2008.1
要素技術開発(国プロ)への取組み状況について」
第 20 回 翼列研究会「タービン非対称エンドウォールに関する研
2008.3
究」
(社)火力原子力発電技術協会
エネルギー・新発電技術に関す
2008.4
る講演会「次世代高温ガスタービン開発への取り組み」・・・・
中部電力セミナー「1700℃級ガスタービンの技術開発」
2008.5
日本機会学会年次大会「1700℃級ガスタービン高性能フィルム冷
2008.6
却の開発」
動力シンポジウム 2008「1700℃級ガスタービン燃焼器の LES 解
2008.6
析」
「The Pathway Forward
2008.6
「 Development of Combustor with Exhaust
2008.6
ASME Turbo Expo 2008 Panel Discussion
Future Products and Technology」
ASME Turbo Expo 2008
Gas Recirculation System for the Next Generation Gas Turbine
Combined Cycle」
日本ガスタービン学会第 36 回定期公演会「高負荷タービンへの 3
2008.10
次元エンドウォールの適用」
The 4th International Gas Turbine Conference「Introduction of
the Next Generation 1700℃ Class Gas Turbine Engine
67
2008.10
Development Project」
岩手大学システム理工学系シンポジウム「エネルギー環境問題へ
2009.1
の重工・重電メーカの取り組み」において、「ガスタービンプラン
トの高効率化」
社)火力原子力発電技術協会講演会「次世代高温ガスタービン要
2009.1
素技術開発」
日本内燃機関「Development of Combustor with Exhaust Gas
2009.3
Recirculation System for the Next Generation Gas Turbine
Combined Cycle」
ASME Turbo Expo 2009 基調講演
「Long Term Perspectives &
2009.6
Sustained R&D Efforts are the Keys to Success」
ASME Turbo Expo 2009 Panel Discussion
「The Pathway Forward
2009.6
Future Technology」
Proceedings of the ASME Turbo Expo 2009, GT2009-59783,
2009.6
「 DEVELOPMENT OF KEY TECHNOLOGIES
FOR THE NEXT GENERATION 1700C-CLASS GAS TURBINE」
ACGT2009「Large Frame Gas Turbines Latest Development for High
2009.9
Efficiency」
日本ガスタービン学会第 37 回定期公演会「回転動翼プラットホー
2009.10
ムにおけるフィルム冷却に関する研究」
International Conference on Power Engineering-09
2009.11
「 DEVELOPMENT OF ADVANCED TECHNOLOGIES FOR
THE NEXT GENERATION GAS TURBINE」
International Conference on Power Engineering-09
2009.11
「 DEVELOPMENT OF COMBUSTOR WITH EXHAUST GAS RECIRCULATION
SYSTEM FOR THE NEXT GENERATION GAS TURBINE」
東大生産技研講演会
「1700℃ガスタービンの開発状況―要素技
2010.1
「 Development of a New 1,600ºC
2010.5
術開発について―」
PowerGen Europe Amsterdam
Turbine Inlet Temperature Large Frame Gas Turbine for High
Combined Cycle Efficiency」
東京大学先端エネルギー変換工学寄付研究部門第3回技術フォ
2010.6
ーラム「高効率発電におけるガスタービン技術の進捗」
ASME Turbo Expo 2010 Panel Discussion
「The Pathway Forward
2010.6
Future Technology」
Proceedings of the ASME Turbo Expo 2009, GT2009-59783,
68
2010.6
「 DEVELOPMENT OF KEY TECHNOLOGIES
FOR THE NEXT GENERATION 1700C-CLASS GAS TURBINE」
ASME Turbo Expo 2009 基調講演
「Long Term Perspectives &
2009.6
Sustained R&D Efforts are the Keys to Success」
ASME Turbo Expo 2009 Panel Discussion
「The Pathway Forward
2009.6
Future Technology」
Proceedings of the ASME Turbo Expo 2009, GT2009-59783,
2009.6
「 DEVELOPMENT OF KEY TECHNOLOGIES
FOR THE NEXT GENERATION 1700C-CLASS GAS TURBINE」
ACGT2009「Large Frame Gas Turbines Latest Development for High
2009.9
Efficiency」
(特許)
題目・メディア等
時期
特許
特願 2008-324353 号
ガスタービン翼、及びガスタービン
2010.7
審査中
特願 2008-328621 号
1段静翼の冷却構造、及びガスタービン
審査中
特願 2009-026064 号
燃焼器及びガスタービン
審査中
特願 2009-026516 号
ガスタービン翼、及びガスタービン
審査中
特願 2009-039688 号
燃焼器及びガスタービン
審査中
特願 2009-042659 号
燃焼器及びガスタービン
審査中
特願 2009-043879 号
タービン翼及びガスタービン
審査中
特願 2009-047161 号
ガスタービン翼
審査中
特願 2009-047162 号
熱流束計測方法及び熱流束計測装置
審査中
特願 2009-077204 号
遮熱コーティング用材料、遮熱コーティン 審査中
グ、タービン部材及びガスタービン
特願 2009-078509 号
高靭性遮熱コーティング材料
審査中
特願 2009-083362 号
遮熱コーティング用材料、遮熱コーティン 審査中
グ、タービン部材及びガスタービン
特願 2009-085575 号
縦割れコーティングの試験片採取方法
特願 2009-087503 号
遮熱コーティング用材料、遮熱コーティン 審査中
グ、タービン部材及びガスタービン
69
審査中
特願 2009-087509 号
タービン用翼
審査中
特願 2009-162701 号
翼体および回転機械
審査中
特願 2009-178282 号
流路構造及びガスタービン排気ディフュー 審査中
ザ
特願 2009-232512 号
燃焼器及びガスタービン
審査中
特願 2009-257360 号
ガスタービン燃焼器及びガスタービン
審査中
特願 2009-267716 号
翼体及びこの翼体を備えたガスタービン
審査中
特願 2009-267717 号
翼体及びこの翼体を備えたガスタービン
審査中
特願 2009-268737 号
ガスタービン燃焼器
審査中
特願 2009-278744 号
動翼固定構造およびこれを備えた回転機械 審査中
ならびに動翼着脱方法
特願 2009-284253 号
遮熱コーティング、タービン部材、及びガ 審査中
スタービン
70
3-2-B1 目標の達成度
研究開発の目標に対する達成度を以下に示す(表 22 参照)。現時点での中間目標は全て
達成した。
表 22
要素技術
全体の目標
目標に対する成果・達成度の一覧表
目標・指標
成果
(中間評価時点)
(中間評価時点)
コ ン バ イ ン ド 効 率 56% 以 上
最新のデータを反映した予
(HHV)
達成
度
達成
想値は 57%(HHV)
排 ガ ス 再 循 環 NOx 排出量 50ppm 以下
燃焼試験で他による実機推 達成
システム/低
定値は NOx 排出量 48ppm で
NOx 燃焼器の開
ある。
発
高 性 能 冷 却 シ 冷却空気量 30%低減(従来比) 冷却空気量 30%低減(従来 達成
ステムの開発
比)の目処を得た。
低熱伝導率 TBC 遮 熱 効 果 を 現 状 材 (YSZ) よ り 遮熱効果を現状材(YSZ)よ 達成
の開発
り 20%向上低減した。
20%向上
高負荷・高性能 1500℃級ガスタービンに比べ 回転翼列試験により 91.3% 達成
タ ー ビ ン の 開 30%高い負荷条件において、1 の効率達成の目処が得られ
軸タービン、段数従来並みで、 た。
発
効率 91%以上
高 圧 力 比 高 性 圧力比 30 以上において、1軸 回転翼列試験により、89.3% 達成
能 圧 縮 機 の 開 圧縮機、段数従来並みで、効率 の効率達成の目処が得られ
発
た。
89%以上
総合評価
-
中間評価時点での目標を全 達成
て満足している。
71
4-B1 事業化、波及効果について
4-1-B1 事業化の見通し
1700℃級ガスタービン実用化に当たっては、1500℃級ガスタービンの開発で得られた
知見の延長線上での開発が困難であり、全く未知の領域での開発が必要となることから、
以下の実用化までのロードマップに示すように(図 16 参照)、段階を踏んで開発を進め
ることによりリスク低減を図り確実に技術開発を進めることとしている。
図 16
1700℃級ガスタービン実用化のロードマップ
(出典:三菱重工業社内資料より)
2000
先端要素技術開発
○1500℃→1700℃
○効率(HHV)
53%→56%(→58%)
○CO2( kg-CO2/kwh)
2005
2010
2015~
○(1)
◎(2)
◎(3)
◎(4)
○(5)
要素技術開発
(’04~’07)
実用化技術開発
(’08~’11)
低NOx燃焼システム
高性能冷却システム
低熱伝導率遮熱コーティング
高負荷・高性能タービン
高圧力比高性能圧縮機
◎成果を適用
○成果の一部を適用
0.34→0.31~0.32
要素技術の実用化
既存機の性能向上
○効率 +2%
世界初1600℃級の開発
1600℃級J形
試運転
○1600℃級開発
1700℃級
実証機開発
実証機開発設計
1600℃級複合発電
国内電力会社との調整・合意
実証運転
1700℃級複合発電
1600℃級で検証
1700℃級IGCC
文部科学省
超耐熱材料開発
超耐熱材料実用化(’04~’10)
(独立行政法人 物質・材料研究機構)
実用化研究
これまでの検討を通じて、1700℃級ガスタービンの実現の為に必要となる燃焼、材
料等の革新的な要素技術の完成度を、各要素試験や解析検討、より実機に近いモジュー
ル試験(H23 年度に実施予定)を通じて、実用可能なレベル、すなわち、実機ガスター
ビンの設計に着手可能なレベルに引き上げる予定である。
前述のように、各国家において、エネルギーセキュリティ、経済性、環境問題の解決
の全てに深く関係するため、その先進性・困難性にかかわらず、ガスタービンの高温化
はスピードが非常に速く、国家間の開発競争は熾烈を極める。従って、厳しい国際競争
の中でわが国のリードを保つためには、一刻も早く当該技術を実用化して実機に展開す
る必要がある。
72
一方で、およそ 700℃~900℃の高温・1 万 G を超える高遠心力の厳しい条件下で 1 年
以上の連続運用が求められる発電用ガスタービンは、あらゆる機械製品の中でも最も技
術の裾野が広く、かつ先進性の高い機械のうちのひとつであり高い完成度が求められる。
したがって、1500℃級から 1700℃級に、一足飛びに 200℃高温化することは大きなリス
クを伴うことも事実である。そこで、ガスタービンの高温化における我が国のリードを
保ち、かつ、1700℃級ガスタービンの実現の足掛かりとするために、本プロジェクトと
並行して、1600℃級ガスタービンの開発を実施した。
すなわち、我が国の 1500℃級の経験を基礎としつつ、本プロジェクトの要素試験・
解析・モジュール試験を経てその有効性や信頼性が確認できた革新的要素技術を活用し
て、世界で初めてとなる 1600℃級 J 形ガスタービンを開発した。
(本施策と並行して、
革新的技術を即時実用化することにより、三菱重工業㈱にて設計を完了した。現在、初
号機を製作中である。
)
本プロジェクトの成果を活用・実用化した 1600℃級 J 形ガスタービンを用いて、現
状の 1500℃級から 100℃高温化した未知の世界での運用実績を蓄積すると共に、実運用
を通じてしか知ることの出来ない技術課題の抽出を行なう。(本施策と並行して、三菱
重工業㈱にて、2011 年に試運転を開始する予定である。
)
また、文部科学省にて開発中の耐熱材料が、鋳造性やコスト面で実用化レベルに到達
した時点で、前述の試運転により温度や圧力などのデータを入手済みの 1600℃級ガス
タービンに装着し、1 年~2 年程度の試運転を実施する。
・ 1600℃級での運用実績を蓄積しつつ 1700℃級の実証機の開発を行い、1700℃級での
実証試験を行なう。
【アウトカム】
・
1700℃級ガスタービンを実用化することにより、送電端効率 56%(HHV)を実現す
る。
4-1-1-B1 要素技術開発成果の既存機種への適用、実用化について
高性能冷却システムと、低熱伝導率遮熱コーティングなどについては、既存機
へ適用する場合の改良範囲が比較的少ないため、1500℃級ガスタービン(*)の性
能向上を目的にタービン翼の準備を進めている。具体的には、三菱重工業(株)
高砂製作所内の 1500℃級ガスタービンにて、2007 年 6 月より試験適用し、実績
を評価した上で量産機に展開予定である。
(*)
1500℃級は、現在世界トップの高温レベルであるが、既に 10 年間の実績
73
があり、高温部のガス温度分布やメタル温度などのデータが揃っているた
め、新技術を適用可能と判断した。
他の要素についても、複数の既存機種への適用を予定しており、1700℃級の実
用化に先立ち、以下の大きな効果を期待している。
● 国プロ技術導入効果により、効率向上が加速

1400℃~1500℃級ガスタービンへ新技術を展開することにより、H18
年度からの 10 年間で平均約 2%発電効率を向上する。

世界初の 1600 度級ガスタービンの開発により、
発電効率を 54%
(HHV)
以上へ向上する。
● CO2 削減効果(国内)

ガスタービン効率向上分

微粉炭焚火力からガスタービンコンバインドへ置換
約 450 万トン(10 年間)
約 1500 万トン
(10 年間で 5 プラントと仮定した場合)
● 経済効果

上記効率向上により、技術開発競争が熾烈な市場において、大型ガ
スタービン 20 台/年から 30~40 台/年に競争力向上

3000 億円~5000 億円の経済効果が期待できる。
4-1-2-B1 1700℃級ガスタービンの事業化の見通しについて
(市場規模)
先進国および途上国のいずれも、電力需要が伸びており、ここ数年で、ガスタ
ービンの市場規模は 40GW から 45GW に拡大した。特に、燃料価格の高騰と高止ま
り、環境問題の深刻化により、高効率ガスタービンの需要が伸びている。
日本、米国、EU、アジアの一部を中心に、1400℃級→1500℃級へ主力機が移行
している。引き続き、超高性能機へ移行していくことは確実であり、大型ガスタ
ービンの台数で年間 200 台程度の市場規模は十分期待できる。したがって、現在
高温化で世界をリードしているわが国が、先行開発をしていくことは需要側から
の期待も大きい。
(環境問題)
ここ数年、地球温暖化に対するニーズが高まっており、CO2 排出原単位で比較
すると、
1500℃級複合発電は 0.34 kg-CO2/kWh に対して、
1700℃級複合発電では、
0.31 ~ 0.32kg-CO2/kWh であり、既存複合発電の CO2 排出原単位を下回る初の
74
火力発電システムとなる。
さらに、1700℃級で検討している EGR(排ガス再循環システム)を用いること
により、排ガス中の CO2 濃度を高くすることができるため、CO2 回収を他のどの
火力発電システムより、安価に実現することが可能となる。
(信頼性確保)
現状の 1500℃級と比較して、1700℃級複合発電設備の実用化に対しての懸念
事項として、信頼性確保が挙げられる。
信頼性確保については、通常のガスタービンと同様、要素技術開発に引き続き、
実用化技術開発を実施することにより、実設計に入る前のリスク低減を図る。ま
た、上述のように 1500℃級ガスタービンの経験を活かし、また、1600℃級 J 形
ガスタービンに先行適用することにより、総合的な信頼性向上を行うことが可能
となる。
(経済性)
現状の 1500℃級と比較して、1700℃級複合発電設備を実用化する場合、設備
のコストアップが懸念事項としてある。これについては、プラント全体に占める
ガスタービンのコスト割合が、約 15%程度と少ないため、性能向上(現状の約 53%
→56%)による燃料消費量低減効果と比較することにより、十分な経済性がある
と判断される。
(Gas Turbine World 2006 Handbook より概算)
複合発電のプラント初期設備費を 100 とした場合の金額の概略比較を示す。
・複合発電のプラント初期設備
100
・ガスタービン本体
約 15
・1700℃級によるコストアップ(仮に 10%~20%とする)
約+1.5~3.0
(A)
・1 年間の燃料代(ベースロード運用)
200~300
・1700℃級導入による燃料代低減(+3/53)
Δ11~Δ17
(B)
コストアップ額(A)よりも、燃料代低減額(B)のほうが圧倒的に大きく、経済的
には、性能向上のメリットが大きい。
1700℃級ガスタービンの要素技術開発には、国内外の電力会社から高い関心を
寄せられており、これまでに多くの電力会社の要求により、延べ約 150 回の視
察・報告会を開いている。
開発事業化には、立地も含め、これらの電力会社の協力が不可欠であり、将来
の事業化について交渉を進めている段階である。
75
4-2-B1 波及効果
本技術開発により、世界最高効率の 1700℃級ガスタービン技術確立の目処を得た。
本技術により、既成ガスタービンより化石燃料単位の発電電力量を高めることが可能と
なり、限られた化石燃料の有効利用、発生 CO2 量の削減に貢献することが出来る。
上述のように、開発した革新的な技術のうち、実記適用可能と判断されたものは、世
界初の 1600℃級 J 形ガスタービンの開発に適用された。これにより、我国のコンバイ
ンド発電技術の優位性を保つことが出来る。また、1500℃級をはじめとする既存のガス
タービンへの技術的適用も進められており、大型の発電用ガスタービン全体の競争力強
化の点で波及効果は大きい。
さらに、高効率高温ガスタービンは、石炭ガス化発電 IGCC の主機の一つとして、そ
のまま適用可能である。1700℃級の IGCC が実現すれば、燃料の多様化によるエネルギ
ーセキュリティ上のメリットに加え、発生 CO2 量の大幅な削減が期待できる。
・ 高効率ガスタービンの開発により、国家的に補助されて伸長している欧米のメー
カに対して、高い競争力を有する高性能ガスタービンの製造が可能になり、国内・
海外の新規プラントに対して国産機の受注増大、外貨獲得が見込めるので、国内関
連産業への波及効果も含めて国益になる。
(米国エネルギー省(DOE)の国家プロジェ
クトでは米国ガスタービンメーカ、大学に 1992 年から 10 年間で約 800 億円を投資。
また、EUでも、要素技術開発を実施中。
)
・ 現在急拡大する中国市場への進出の代償として、中国メーカへの技術移転を要求
される。将来中国との競争で生き残るためには、ガスタービンに適用される高度総
合機械技術のエッセンスである要素技術を次のステップに進化させる国家プロジ
ェクトが、日本産業界にとっても重要な意味を持つ。
・ 本プロジェクトで開発される超高温ガスタービン技術は、本技術は、LNG 複合発
電以外に、
・IGCC 用ガスタービンの高効率化
・将来の水素(*)燃焼ガスタービン
(*)IGCC からの水素製造、原子力夜間電力による水素製造
に展開可能である。いずれに対しても総合効率を決めるキーテクノロジーであり、
今後の燃料多様化、エネルギーのベストミックスに対して有効な技術となるため、
日本産業界の競争力強化のために非常に価値がある(図 17 参照)。
76
1700℃級ガスタービンは、次世代発電の基盤を担う共通キー技術。
・エネルギーの安定供給
燃料多様化---LNG、石炭IGCC、水素(原子力夜間電力で製造)
のいずれにも適用可能
・環境にやさしい
火力発電システムの中で最も安価にCO2回収が可能
・卓越した経済性
●LNG
・負荷調整能力
超高効率58%複合発電
排ガス再循CO2回収システム
●石炭
1700℃級ガスタービン
次世代高効率IGCC
●水素ガスタービン
原子力夜間電力による水素製造
図 17
次世代発電技術の基盤を担う共通技術
77
5-B1 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
5-1-B1 研究開発計画
本事業の研究開発計画について、以下のとおり示す(図 18 参照)
。
図 18
研究開発計画
*:補助金ベース
**:概算要求額
78
5-2-B1 研究開発実施者の実施体制・運営
本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、三菱重工業(株)が経済産業省資源
エネルギー庁より補助金を受けて実施した。また、再委託先として大阪大学、九州大学、
北海道大学、大阪工業大学が参加した(図 19 参照)。
また、研究開発の実施に当たっては、研究開発を統括するためのプロジェクトリーダ
ー(三菱重工業(株))を任命した。
さらに、超耐熱材料の開発にあたっては、他の要素技術に比べてより基礎的な研究か
らスタートする必要があること、技術開発に時間がかかることなどの理由により、省庁
間連携として文部科学省と(独)物質・材料研究機構が、委託先である三菱重工業(株)
と研究を実施した。
○
プロジェクトリーダー: 三菱重工業(株) 伊藤栄作
資源エネルギー庁
経済産業省
三菱重工業(株)
委託・共研
大阪大学
(伝熱技術)
阪大(伝熱技術)
九州大学
(圧縮機計測技術)
九大(圧縮機計測技術)
補助:2/3
補助率:2/3
北海道大学(東京大学)
(燃焼シミュレーション)
北大(東大)
(燃焼シミュレーション)
連携
大工大(タービン空力)
大阪工業大学
(タービン空力)
連携
文部科学省
物質・材料研究機構
(独)物質・材料研究機構
(高温耐熱材料)
(高温耐熱材料)
図 19
研究開発実施体制
79
京大(高温耐熱材料)
5-3-B1 資金配分
本事業における各技術開発の資金配分を以下に示す(表 23 参照)
。
表 23
資金度配分(事業費ベース)
2008
2009
2010
2011
合計
(単位:百万円)年
度(西暦)
高圧力比高性能圧
61
83
93
106
343
59
90
84
97
330
56
77
84
108
325
70
224
260
263
817
78
85
94
115
372
324
559
615
689
2187
縮機の開発
高負荷・高性能ター
ビンの開発
高性能冷却システ
ムの開発
排ガス再循環シス
テム/低 NOx 燃焼
器の開発
低熱伝導率遮熱コ
ーティングの開発
合計
80
5-4-B1 費用対効果
本事業には 3 年間で約 15 億円の補助金が投じられ、ガスタービンを用いたコンバイ
ンドサイクルとしては世界最高の発電効率である 56%(HHV)を達成する目処をつける
などの成果をあげた。
さらに、老朽化した石炭、石油、LNG 火力発電設備の高効率コンバインドサイクル発
電設備へのリプレース需要が高まっており、この場合は、効率の向上量が大きくなるた
め、さらに大きな燃料削減効果が期待できる。
1700℃級の高効率ガスタ-ビンを開発した場合、既設の石炭、石油、LNG 火力発電の
30%~50%の発電出力を 1700℃級複合発電に置き換えると、発電所から発生する CO2 発
生量の 10~17%(*)が削減可能である(表 24、図 20 参照)
。
(*)我が国の電気事業全体からの CO2 排出量約 4 億トンとの比較。なお、ベース
は、
(財)電力中央研究所出典の「わが国における電源構成の推移(後出)」に
基づいている(図 21 参照)
。
また、排ガス再循環システムでは CO2 回収が、他のシステムより低コストで実現可
能となる可能性がある。この場合は、CO2 排出原単位は 0.03kg-CO2/kWh 程度と
できる。
・
既設の火力発電所の 30%~50%を 1700℃級ガスタービン高効率コンバインドプラ
ントに置き換えると、原油換算で 1300 万~2200 万トン/年の省エネ効果がある。
表 24
1700℃級複合発電による CO2 削減効果及び省エネルギー効果
置きかえる既存発電
全 発 電 所 の 排 出 省エネルギー効果
CO2削減量
所の割合
量に占める割合
(原油換算)
1300万トン
30%
4000万ton/年
10%
50%
6700万ton/年
17%
81
2200万トン
0
石油・石炭のLNG
への換装による
CO2削減
CO2低減量(万ton)
-2000
現状のLNG・石油・石炭の
30%を高効率LNGコンバインド化
-4000万ton
-4000
-6000
-6700万ton
-8000
現状のLNG・石油・石炭の
50%を高効率LNGコンバインド化
現状のプラント
平均効率
-10000
-12000
40
45%
56%
50
60
70
火力発電効率(HHV%)
80
1700℃級ガスタービンCO2低減効果
図 20
1700℃級ガスタービン導入による CO2 低減効果
18,000
3600
万kW
発電端出力 (万kW)
16,000
14,000
6600
万kW
8200
万kW
LNG新増設
LNG
リプレース
12,000
10,000
LNG既設
石炭新増設
8,000
4,000
石油
リプレース
石油既設
2,000
0
1970
図 21
石炭リプレース
石炭既設
6,000
1980
1990
2000
2010 2020
年 度
2030
2040
2050
わが国における電源構成の推移(プラント寿命 40 年)
出典:電力中央研究所「第 18 回エネルギー未来技術フォーラム」(1999.11.2)
82
5-5-B1 変化への対応
(環境問題への対応)
環境問題の高まりにより、温室効果ガスの排出量低減に対する要求が高まっている。
このため、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーの普及に拍車がかかっている。
天候に左右される自然エネルギーの普及とともに、負荷吸収能力の高い大容量の電源が
必要となるが、この点でガスタービンは最適である。また、化石燃料を使用する火力発
電についても、より CO2 排出原単位の小さいクリーンな燃料として LNG が選択されるこ
とが多くなっている。本プロジェクトで開発中の技術により可能となる、超高温高効率
ガスタービンを用いたコンバインド発電は、このような市場のニーズ・トレンドに沿っ
ており、有効な技術開発である。
(国内リプレース需要への対応)
一方、このような環境負荷の小さい発電設備に対する要求と並行して、先進国では導
入後 30 年以上を経た老朽火力のリプレース需要が急速に高まりつつある。このような
発電設備では、経済性が重要視されるため、発電効率の高い最新鋭のガスタービンを用
いたコンバインド発電が選択される場合が多い。このようなニーズにいち早く応えるた
めに、本事業で開発した革新的な要素技術のうち、実機適用可能と判断された技術を活
用して、世界初の 1600℃級 J 形ガスタービンの開発を行い、高効率を前提とした発電
設備が計画されている(図 22 参照)。
1600℃級ガスタービンの高効率を前提とした発電設備が計画されている。
関西電力姫路第二発電所(2013年運用開始、292万KW、M501J×6台)
公開された環境アセス資料より抜粋
●最新鋭の1,600℃級ガスタービンを採用した世界最高水準の高効率コンバイン
ドサイクル発電方式に設備更新することで、発電端熱効率(低位発熱量基準※)が
約42%から約60%に向上します。
●発電電力量あたりの燃料費とCO2排出量を共に約30%低減することができます。
東京電力
川崎発電所
(2016年度、142万KW、2台)
五井発電所
(2020年度以降、213万KW、3台)
公開された環境アセス資料より抜粋。
(機種などは未定)
図 22
1600℃級ガスタービンの高効率を前提とした国内発電設備の計画
(出典:公開された環境アセス資料より)
83
(急速な円高の影響と対応)
我が国は、大型電力事業用ガスタービンの導入に関して徐々にシェアを伸ばしてきた
が、2009 年以降は、リーマンショックに伴う急速な円高のため世界市場で苦戦を強い
られている。しかし、国プロで開発した技術を反映した 1,600℃級 J 形ガスタービンの
市場投入(国内電力向け)により 2010 年はシェアが躍進した(図 23 参照)。
大型事業用ガスタービン(170MW以上)のメーカ別シェアの推移
ユーロ安により、ドイツメー
カーが躍進しました。
100%
90%
フランス
80%
シェア(%)
70%
ドイツ
60%
50%
40%
アメリカ
30%
20%
日本
10%
0%
2004
2005
2006
2004年に1700℃級の国プロ開始後、我が国
は、徐々にシェアを伸ばしてきました。
図 23
2007
国プロ技術を反映し
2008
2009
2010上期 たJ形ガスタービンの
市場投入(国内電力
向け)により2010年
2009年以降、急激な円
はシェアが増加しま
高により苦戦しています。
した。
本プロジェクト開始後の大型事業用ガスタービンの国別シェアの推移と、国プ
ロ技術の実機適用の効果(出典:三菱重工業社内資料より)
84
B2 高湿分空気利用ガスタービン実用化技術開発
1-B2 事業の目的・政策的位置付け
1-1-B2
事業目的
現在、我が国の電源構成の約 6 割は火力発電所が占めており、その発電効率は 40.9%
(2005 年度一般電気事業者の平均送電端効率)と既に世界最高レベルに達している。
しかし、資源の乏しい我が国のエネルギーセキュリティの確保に関する問題及び近年の
地球環境問題双方への対応から火力発電所は、環境に配慮した更なる発電効率向上への
取組が求められている。
エネルギー資源の中で天然ガスは、東南アジアを中心に世界各国に幅広く分布してお
り、我が国のエネルギーセキュリティを確保する上で極めて重要な燃料である。また、
他の化石燃料に比べ、燃焼時における二酸化炭素排出量が少ないため、環境負荷の少な
いクリーンなエネルギーと言える。そのため、火力発電所における天然ガスの利用拡大
を図るため、既設火力発電所に比べて二酸化炭素排出量の削減が多く見込まれる高効率
ガスタービンの技術開発を推進していくことが強く求められている。
本事業で研究開発する高湿分空気利用ガスタービン(AHAT*1。以下、「本技術」)はこ
のような必要性に応える高効率ガスタービン技術であり、中小容量機(10 万kW 程度)
の高効率化(45%(HHV)既設複圧 CC*2→51%(HHV)以上)を目標としている。AHAT サイク
ルは 1980 年に日本で考案されたHAT*3 サイクルが基礎になっており、電力事業用に
改良を加えた日本オリジナルの技術である。
世界初となる AHAT サイクルの実用化に必要な技術開発を行い、世界をリードしてい
くことが本事業の目的である。
*1 アドバンスト高湿分空気利用ガスタービン:Advanced Humid Air Gas Turbine
*2 コンバインドサイクル:Combined Cycle
*3 高湿分空気利用ガスタービン: Humid Air Gas Turbine
補足:中小容量機市場について
AHAT がターゲットにしている中小容量機とおおよそ合致する出力帯(5~18 万 kW)
の国内外の需要で見ると(図 24 参照)、2004~2008 年の 5 年間に運用開始した 5~18
万 kW のガスタービン 816 台のうち、北米と中東がそれぞれ 30%程度を占めており、次
いでアジアが 22%となっている。日本は 0.4%にとどまる。
2004~2008 年の 5 年間に運用開始した 5~18 万 kW のガスタービン 816 台を国別メ
ーカに分類すると、米国メーカは 73%、ヨーロッパメーカは 26%であり欧米メーカに
独占されている。しかし、この出力帯のガスタービンは、高効率化されておらず、CO2 排
出削減の観点からも高効率機を投入する必要がある。また、1980 年から 1990 年代に
かけて国内外に導入されたこの出力帯の機種が老朽化しており、リプレースが必要にな
85
ると考えられるため、本事業により高効率な中小容量機の技術開発することで、我が国
のメーカがこの分野でのシェアを獲得する機会を高められると考える。
LATIN AMERICA
3%
NORTH AFRICA
1%
EUROPE
8%
AFRICA
7%
アフリカ
8%
INDIAN SC
3%
不明
0.5%
NORTH AMERICA
30%
中
欧州 南
8% 米
3%
北米
30%
50~180MW
2004~2008年
運開816台数
SOUTH ASIA
5%
アジア
22%
CENTRAL ASIA
7%
NORTH ASIA
8%
中国:6%
韓国:0.9%
日本:0.4%
中東
29%
AFRICA/EAST
MEDITERRANEAN
4%
SAUDI/GULF STREAM
25%
図 24 地域別 GT 運開台数
(出典データ:McCoy Report 2004-2008)
86
政策的位置付け
1-2-B2
「技術戦略マップ(経済産業省)
」において、AHAT システムは中小容量機の新設およ
びリプレースによるエネルギー効率向上できることから「総合エネルギー効率の向上」
、
天然ガスの有効利用の観点から「化石燃料の安定供給とクリーン・有効利用」に寄与す
る技術の一つとして位置付けられている。
また、2004 年 6 月にとりまとめられた、
(財)エネルギー総合工学研究所の「電力分
野産業技術戦略」に関わる動向調査報告書において(図 25 参照)、AHAT サイクルはガ
スタービンサイクルを改良したシステムであり、比較的早期に実用化が期待できる高効
率発電システムである。また、次世代高効率発電システムである石炭ガス化と組み合わ
せた IGHAT サイクルへ展開できる技術であると位置づけられている。
さらに、エネルギー基本計画(2010 年 6 月閣議決定)において、
「その他の火力発電に
ついては、新増設・更新の際には、原則としてその時点における最先端の効率を有する
設備の導入を目指す。」と謳われており、AHAT はリプレースにおける中小容量機のエネ
ルギー効率向上に努めることができる技術である。
USC
GT
USC
USC
(700℃級)
(800℃級)
ACC
ACC
(1500℃級)
(1700℃級)
クローズド
GTCC
AHAT
水素・酸素
燃焼タービン
低発熱量ガス焚きGT
IGCC
ガス化炉
(空気吹き)
ガス精製
H2分離
IGHAT
IGCC/IGHAT
(コプロダクト化対応)
IGCC
O2分離
(O2吹き)
PFBC
IGCC
1700℃級GT
との組合せ
地球環境問題へ
の対応、エネル
ギーセキュリティ
を確保した高効
率発電システム
高度ガス精製
IGFC
A-PFBC
燃料電池
コンバインド
燃料電池
分離技術
:発電システム
:要素技術
図 25
:目的
網掛:調査対象技術
出典:「電力分野産業技術戦略」に関わる動向調査
報告書 平成16年6月 (財)エネ総工研
各種発電システムにおける AHAT システムの位置づけ
87
1-3-B2
国の関与の必要性
AHAT サイクルは、世界初、新型ガスタービン発電システムである。増湿装置、再生
熱交換器など新たな機器を統合した全体システム特性や、高湿分圧縮機、高湿分燃焼器、
高湿分冷却翼などで構成される AHAT に適合したガスタービンは、未知なところが多く
世界初の難度が高い技術である。民間企業だけでは開発リスクを伴うため、国の関与の
もとで実用化技術開発を推進することで民間企業だけでは達成し得ない世界をリード
する技術を確立することができる。
本技術を実用化することで、天然ガス利用促進によるエネルギーセキュリティの確保
と高効率化による CO2 削減を実現できるため社会的意義が高い。一方で、開発リスクの
大きい技術であることから、国の主導・支援による事業とし、民間はそれぞれ優位技術
をもつ複数社で構成している。
88
2-B2 研究開発目標
全体の目標設定
2-1-B2
(1)AHAT の概要
AHAT サイクルは、圧力比、燃焼温度を上げずに、サイクルと冷却方式の改良で高効
率を達成する新型ガスタービン発電システムであり(図 26 左図参照)
、排熱によって暖
められた高湿分空気を燃焼空気として利用することにより燃料の量を低減させ、効率向
上に貢献できる。本システムでは、ガスタービン圧縮機に吸気噴霧システムを採用して
いる。吸気冷却による吸込み空気量の増加、圧縮機内部で液滴蒸発させることにより圧
縮機動力低減の効果を狙っており、夏場の出力低下も抑制できる。圧縮機で加圧された
空気は、増湿塔にて温水と直接接触することによりコンバインドサイクルにおける蒸気
タービン蒸気量に匹敵する量が加湿される。再生熱交換器で熱回収した高湿分空気は燃
焼空気として燃焼器に供給される。このとき、燃焼空気は加湿されたことにより比熱が
増大してタービン出力が増加し、再生サイクルにより排ガスの熱を回収し熱効率が向上
する。この高湿分空気は NOx 低減に大きな効果が期待できる。また、排ガス中の湿分と
凝縮潜熱の一部を回収して再利用する水回収装置を有しており、水の消費量を抑制して
いる。回収した水は、増湿塔に供給するとともにその一部を冷却して水回収器に再循環
させている。
また、各機器の効率寄与度について、コンバインドサイクルでは、ガスタービンと蒸
気タービンの 2 台で動力を発生し高効率化している。AHAT では①噴霧器、②増湿塔、
③再生熱交換器を設置し、ガスタービン 1 台で動力を発生し高効率化を図っている(図
26 右図参照)。
蒸気タービン
④水回収器
燃料
燃焼器
圧縮機
水
タービン
②増湿塔:
出力増大
熱効率寄与度
③高湿分再生熱交換器:
高湿分空気 排熱回収
①噴霧器
②増湿塔
③高湿分
再生熱交換器
ガスタービン
水
①噴霧器:圧縮機動力低減
空気
コンバインド AHAT
サイクル
AHATサイクル
図 26
AHAT サイクルの概略系統と各機器の熱効率への寄与
89
AHAT サイクルは中小容量ガスタービンの効率向上を目的に、中小容量のコンバイン
ドサイクル(複圧サイクル)を上回る効率目標 51%(送電端 HHV)を設定している。AHAT
が高効率となる重要な機構として、以下二点が挙げられる(図 27 参照)
。
①吸気噴霧冷却(WAC)を利用した中間冷却効果による圧縮機動力低減
圧縮器の中間冷却効果により、高圧圧縮機へ流入する空気が低温となり、空気の
比体積(密度の逆数)が小さくなるため、圧縮に必要になる動力が低減される。ガス
タービンの軸端出力は、タービン出力から圧縮機動力を差し引いたものなので、ガ
スタービンの熱効率が向上する。
また、WAC により蒸発した湿分は、作動流体の流量増加となり、タービン仕事を増
加することに利用され、熱効率向上に寄与する。
一方、コンバインドサイクルに吸気噴霧冷却(WAC)もしくは中間冷却器を設置した
場合には、圧縮機動力は低減されるが、燃焼器入口空気温度が低下することから、
燃焼器で燃料が余分に必要となり、熱効率が低下する因子となる。
②ピンチポイント制限の無い排熱回収による回収熱量の増加
系統図とエネルギーフローで AHAT の排熱回収機構を説明する(図 27 参照)。コン
バインドサイクル特有のピンチポイント制限が無いため、より低温まで排ガスから
熱回収することができ、高効率になる。
AHAT のガスタービンの排熱は B:REC(再生熱交換器)回収熱量 + C:ECO(エコノマ
イザ)回収熱量 +D:水回収装置での外部への放熱となる。これら排ガスのエネルギ
ーのうち、B は REC 回収エネルギーとして、燃焼用空気を加熱することで、ガスター
ビンの入熱になる。C は、エコノマイザで回収した熱エネルギーで、増湿塔で水を蒸
発させ、圧縮機出口空気の熱量を増加させ、やはりガスタービンへの入熱になる。D
は、水回収装置で排ガスを冷却して凝縮させる際の外部放熱と、排気筒から系外に
排出する排ガスの熱エネルギーで、システムの損失となる。なお、E:AC(空気冷却
器)回収熱量は、圧縮機出口空気の排熱を回収するが、下流側の増湿塔で水を蒸発さ
せる熱エネルギーとして、圧縮空気の熱量を増加させるので、ガスタービンに対す
る熱の出入は相殺される。
これらの結果により、ガスタービンには、A:燃料入熱+B:REC 回収熱量 + C:ECO 回
収熱量が入熱となり、これらの入熱(A+B+C)から、前記の排ガス熱量(B+C+D)を差し
引くと、タービン仕事 F=A-D となる。すると、熱効率は、タービン仕事/燃料入熱
=(A-D)/A となり、D を小さくすることが効率を高めることになる。
D を小さくするためには、エコノマイザ出口の排ガスの熱量を小さくする必要があ
るが、AHAT では、増湿塔循環水により排ガスから排熱回収しており、エコノマイザ
出口排ガス温度を 110℃程度まで下げることが出来るため、複圧の HRSG を備えたコ
ンバインドサイクルと同等以上の発電効率を得ることができる。
90
A:燃料入熱
WAC
B: REC回収熱
空気を排ガスで加熱
→燃料削減、効率向上
C: ECO回収熱
増湿塔での熱量増加
燃焼器
水回収装置
圧縮機
100%
タービン
F: 軸出力
= A-D
増湿塔
E: AC回収熱
増湿塔での熱量増加
D: 冷却水、排ガス排熱
AHATの外部放熱ロス
図 27
AHAT のエネルギーフロー
AHAT の排熱回収機構
補足:ピンチポイント制限について
排ガスの熱により、加圧水または圧縮空気を加熱して熱回収する場合、排熱回収熱交
換器(HRSG または再生熱交換器、給水加熱器(エコノマイザ))の温度分布を、排ガスの
流れ方向に見ると、図 28 のようになる。この図では、簡単のため、単圧式 HRSG で比較
している。
700
排ガス温度〔℃)
600
AHAT:加湿空気温度(℃)
C/C:蒸気系温度(℃)
温度 (℃)
500
400
過熱器
300
ピンチポイント
AHAT:再生
熱交換器
C/C AHAT
C/C:蒸発器
78.6% 84.2%
200
給水加熱器
100
給水加熱器
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
排熱回収効率(%) (=回収熱量/GT排ガス熱量x100)
図 28
HRSG と再生熱交換器、給水加熱器(エコノマイザ)の、排ガス流れ方向の温度分
布
91
これらの曲線の傾きは、各流体の流量比で決まる。AHAT サイクルでは、空気流量と
排ガスが殆ど同じ流量のため、これらの温度変化曲線はほぼ平行となり、低温まで排熱
回収できる。
一方、コンバインドサイクルの HRSG では、水が蒸発するのに必要な潜熱が非常に大
きいため、温度曲線は、沸点のまま(飽和温度)の水平な領域が大部分を占める。(水色
の線の、中央の水平な部分)
水の流量は、水平部分の長さから自動的に決まるので、
水平部分の前後の部分の温度勾配は必ず空気よりも急になり、排ガスからの熱を回収し
きれないため、AHAT サイクルの場合よりも熱回収量が減少する。
ここで各種発電システムの出力―効率特性を以下に示す(図 29 参照)。コンバインド
サイクルの蒸気構成が複圧程度である 10 万 kW 級以下の中小容量クラスで他発電システ
ムよりも高い効率を得ることができる。送電端効率 51%HHV を想定した場合、エネルギ
ーフローは次のとおりとなる(図 30 参照)。
出典:Gas Turbine World Handbook
2004
60
実用化
実用化 (送電端 51% HHV)
実用化技術開発:30MW級
送電端効率 (%HHV)
50
要素技術開発
3MW級検証機
三重圧 C/C
三重圧C/C
AHAT
複圧 C/C
復圧C/C
AHAT
40
単圧 C/C
単圧C/C
航転型 GT
航転型GT
30
シンプルサイクル GT
シンプルサイクルGT
20
出典:Gas Turbine World Handbook
1
10
100
発電端出力 (MW)
図 29
各種発電システムの出力―効率特性
92
1000
*C/C : Combined Cycle
機械損失
(風損、減速機損失)
減速機(出力側)軸端出力
52.7%
(再生熱交換器+給水加熱器)
回収エネルギー
55.3%
発電端出力
52.0% (HHV)
ガスタービン
155.3%
燃料
(HHV)
GT排気
100.0%
101.3%
発電機損失
(再生熱交換器)
放熱
放熱
(再生熱交換器)
回収エネルギー
40.2%
再生熱交換器
101.1%
加湿エネルギー
15.1%
回収水冷却器損失(余剰水含む)
33.7%
給水加熱器
60.7%
排ガス損失
11.9%
給水加熱器
放熱
図 30
AHAT サイクルのエネルギーフロー
コンバインドサイクルとの特徴比較を以下に示す(表 25 参照)。
まず、運用性に関して、蒸気タービンや排熱回収ボイラの暖機運転が不要のため起動
時間が短くできる。高湿分燃焼により NOx 低減できるため、低負荷で加湿開始すること
で運用負荷帯を広くすることができる。吸気噴霧冷却により高気温時の出力低下を抑制
し大気温度特性が改善し、制御もガスタービン制御が主でシンプルである。
環境性については、高湿分燃焼により低 NOx を図り、脱硝のためのアンモニア消費を
なくす、もしくは消費を抑制できる。また、AHAT サイクルは 60℃程度の比較的高い温
度の回収水を 30℃程度に冷却するので、冷却方式に空冷のクーリングタワーを使用す
ることができる。コンバインドサイクルでは蒸気タービン出口で 30℃程度と低温であ
り空冷では設備が大規模になるため、海水を用いた復水器を使用している。AHAT サイ
クルでは復水器がないので沿岸でなければならないなどの設置場所の制約がなく、内陸
部にも設置可能である。
経済性については、蒸気タービン系統が無いので構成がシンプルで工期も短く、メン
テナンス費用も少なくできる。配管、水質管理、ユーティリティ消費がコンバインドサ
イクルと同等とみなしたとしても、AHAT は運用性、環境性、経済性に優れたシステム
であるといえる。
93
表 25
AHAT サイクルとコンバインドサイクルとの特徴比較
◎:特に優位 ○:優位 -:同等
項目
◎
ST系なく、起動時間短い
ST HRSG暖機要
負荷即応性
◎
GT単特運転並み
独
ベース
◎ 高湿分燃焼により低負荷で運転可能
吸気噴霧冷却:高気温時の出力低下小
大気温度特性
○
制御
○ GT 制御が主でシンプル
NO x対策
○ GT:高湿分空気燃焼、GT排気:必要に応じ
脱硝装置
立地制約
◎
機器構成、工期
低 NO x安定燃焼の制限
GTおよびST出力低下
GT 、 ST 制御あり
GT:低NOx燃焼器、又は、水噴射、
又は蒸気噴射、GT排気:脱硝装置
水回収水温60℃程度:冷却塔冷却
ST出口温30℃程度:復水器冷却
内陸部にも設置可能
沿岸(海水への温排水)
◎ ST系なく、構成シンプルで工期も短い
ベース
-
GT 圧縮機吐出圧力低く、薄肉
ただし、再生サイクル配管径大
HRSG 高圧系圧力高く、肉厚
ただし、主蒸気配管径小
水質管理
-
水処理装置(イオン交換樹脂等)設置
薬注による pH 調整
ユーティリティ消費
-
純水(圧縮機吸気噴霧冷却用),アンモニア(脱消
用)、冷却水(冷却塔補給用)
純水(HRSGブロー補給用)、
アンモニア(脱消用)、冷却水(補給用)
メンテナンス費用
○ 構成機器少ない(排熱回収系、水回収系)
配管
経済性
コンバインドサイクル
起動時間
運用性 最低負荷
環境性
AHAT
排熱回収系、ST系、復水器系
GT:ガスタービン、ST:蒸気タービン、HRSG:排熱回収ボイラ
(2)開発目標の設定
AHAT サイクルの最終目標は、天然ガスを燃料とした 10 万 kW 級中容量高湿分空気利
用ガスタービンシステムにおいて、送電端効率 51%(HHV)、NOx 排出濃度 10ppm 以下
(16%O2)を達成することにある。
これを達成するための本事業における研究課題を以下に示す(図 31 参照)。①~④は
高湿分空気に関係した実用化技術課題であり、⑤は 3MW 級検証機を活用して検討を進め
る課題である。また、⑥にて実用化技術(①~④)を組合せた総合試験装置による機器
の相互作用確認し、⑦にてユーザ視点に立ったシステム評価を実施する。
94
③-2高湿分燃焼器
・圧縮機から全量抽気し
燃焼器へ導入
・多缶燃焼器に対する低圧損構造
③-1高湿分燃焼器
・構造変更(単缶→多缶)
・更なる低NOx化
②高湿分再生熱交換器
・高温・高圧・高湿分対応の高効率
熱交換器
・伝熱コアの大型化
・構造最適化(圧損低減/偏流防止)
排出ガス
①-2高湿分軸流圧縮機
・方式 : 遠心型→軸流型
・中間冷却効果 & 圧縮特性
燃料
⑤3MW級検証機
・様々な運転条件による
性能検証
・水回収技術
・信頼性・耐久性評価
⑥実用化技術総合試験
・(①~④)を組合せた
相互作用確認
発電機
⑦AHAT特性解析
・ユーザー視点に立った
システム評価
タービン
動/静翼冷却用
①-1高湿分軸流圧縮機
・噴霧液滴の微粒化
・噴霧量の増大
冷却空気
冷却器
増湿器
④高湿分冷却翼
・高温高湿分主流ガス条件での
高性能冷却構造
水処理
装置
熱交換器
水タンク
図 31
AHAT の研究課題
最終目標を達成するために開発すべき革新的技術の内容とその具体的数値目標、及び
中間評価時点の目標を以下に示す(表 26 参照)。
①高湿分軸流圧縮機
○目標値:噴霧量 3.5wt%以上
圧縮機に 2%以上の噴霧をした例は無く、それ以上の量の噴霧では、圧縮機内部で
の蒸発により中間冷却の効果が得られるが、従来には無い、圧縮機のサージング、
圧縮器の翼段毎の負荷分布の変化を考慮した設計が必要となる。また、圧縮器内部
で液滴を蒸発促進させるため、液滴微粒化技術も開発する必要がある。
○中間評価時点の目標
解析にて噴霧量 3.5wt%としたときの成立性を確認する。
②高湿分再生熱交換器
○目標値:温度効率 90%以上、伝熱面密度 1000m2/m3 以上
再生熱交換器には、高温、高圧かつ高湿度の環境で、ガスタービンの起動停止、
負荷変動に伴う温度・応力が変動する条件で充分な耐久性と高い温度効率が必要。
小型ガスタービンでは実用化されているが、それ以上のサイズでは実用化の例は僅
かで(軍事用 WR-21(約 20MW)が最大)、更なる大容量にむけては伝熱面密度を上げ、
コンパクトにする必要がある。高温、高圧かつ高湿度条件下で、充分な耐久性を持
つ再生熱交換器を開発する必要がある。
○中間評価時点の目標
解析にて温度効率 90%以上、伝熱面密度 1000m2/m3 以上を確認する。
95
③高湿分多缶燃焼器
○目標値: NOx 10ppm 以下
再生熱交換器の作用により、燃焼用空気が高温となる条件下では、燃焼器内の空
間的温度分布が高温となり、低 NOx 化が難しくなる。さらに、高湿分空気の燃焼で
は、湿分の影響により、着火性、燃焼安定性の確保が難しくなる。高温、高湿分条
件下で、
燃焼安定性と低 NOx 化を両立する高湿分多缶燃焼器を開発する必要がある。
○中間評価時点の目標
要素試験にて NOx 10ppm 以下を確認する。
④高湿分冷却翼の開発
○目標値:冷却効率静翼:70%以上、動翼:60%以上
AHAT では、タービンの作動流体である主流ガスが約 20~25vol%の湿分を含んでお
り、タービン翼との熱伝達率が大きいことと、比熱比γが小さいことからタービン
排ガス温度が従来ガスタービンよりも高温となる傾向がある。したがってタービン
翼の熱負荷が大きい状況で、冷却空気の使用量を低減するために増湿塔出口の低温
の高湿分空気を用い、必要な温度まで翼材料を冷却する高湿分冷却翼の開発する必
要がある。
○中間評価時点の目標
冷却効率静翼:70%以上、動翼:60%以上を達成可能な冷却構造を設計する。
⑤3MW 級検証機
○目標:プラント側の特性把握
3MW 機試験を実施し、AHAT システム特性、機器の性能向上、主要機器の経年変化
を確認する必要がある。
○中間評価時点の目標
AHAT プラント側の特性把握。
⑥実用化技術総合試験装置
○目標:電力産業用ガスタービンに AHAT を適用
開発した要素技術を組合せ、高圧高湿分環境における高湿分軸流圧縮機、高湿分
再生熱交換器、高湿分多缶燃焼器、高湿分冷却翼の相互作用を確認する必要がある。
○中間評価時点の目標
総合試験装置の設計完了。
⑦AHAT 特性解析
○目標:ユーザ視点からのシステム評価
技術開発においては、開発側のみならず、ユーザの視点に立って客観的に特性を
評価することが重要。
○中間評価時点の目標
3MW 級検証機評価。
96
表 26
実用化技術
①高湿分
軸流圧縮機
目標・指標(事後評価)
・吸気噴霧量:3.5%以上
AHAT の研究目標・指標
目標・指標(中間評価)
・解析により、
妥当性・設定理由・根拠等
圧縮機内部での水滴蒸発効果を積極的に活
吸気噴霧量:3.5%時の特性確認 用できる噴霧量を設定した。
②高湿分
・温度効率:90%以上
・解析により、温度効率:90%以上、 熱交換器のコアの大型化(コスト)と性能を勘
再生熱交換器 ・伝熱面密度:1000m2/m3以上 伝熱面密度:1000m2/m3以上を 案して設定した。温度効率90%は高温で作動
する再生器にとって極めて高い値に相当する。
確認
③高湿分
多缶燃焼器
④高湿分
冷却翼
・NOx:10ppm以下
・要素試験により、高湿分燃焼で
NOx:10ppm以下を確認
・冷却効率 静翼:70%以上
動翼:60%以上
高湿分空気による燃焼では燃焼の不安定化
が懸念される、低NOxと燃焼安定性の両立を
勘案し設定した。
・目標冷却効率(静翼70%動翼60%) 高湿分により主流ガス側の熱伝達率が大き
を達成可能なハイブリッド冷却翼の くなり熱負荷が増大することを勘案し設定した。
設計
⑤3MW級
検証機
・AHATプラント側の特性把握
⑥実用化技術 ・発電用ヘビーデューティー
総合試験
ガスタービンにAHATを適用
⑦AHAT特性
解析
・ユーザ視点からの
システム評価
・AHATプラント側の特性把握
3MW機試験を実施し、AHATシステム特性、
機器性能の向上、主要機器の経時変化を確
認する。
・総合試験装置の設計
開発した要素技術を組合せ、高圧、高湿分
環境における高湿分軸流圧縮機、高湿分再生
熱交換器、高湿分多缶燃焼器、高湿分冷却翼
の相互作用を確認する。
・3MW級検証機評価
技術開発においては、開発側のみならず、
ユーザの視点に立って客観的に特性を評価す
ることが重要。
97
3-B2 成果、目標の達成度
3-1-B2
成果
3-1-1-B2
全体成果
3MW 級検証試験および 3MW 級検証機評価は、2009 年度で完了している。3MW 級検証
機では大気温度特性、起動、部分負荷性能、水回収性能などの運転特性を取得し性能
評価した。また耐久性、信頼性にかかわる機器の経時変化を取得し、試験期間中、正
常な状態を維持できていることを確認した。
技術開発要素である高湿分圧縮機、高湿分再生熱交換器、高湿分多缶燃焼器、高湿
分翼冷却については 2010 年度に完了し、2011 年度に実施する実用化技術総合試験で
各要素の相互作用を確認する予定である。実用化技術総合試験装置は設計を完了し、
現在製作中である。
3-1-2-B2
個別要素技術成果
(1)高湿分圧縮機(図 32 参照)
軸流圧縮機噴霧冷却性能予測アルゴリズムとタービン性能予測アルゴリズムを連
携させたガスタービンヒートバランス予測ツールを開発し、実用化技術総合試験装置
設計に適用した。吸気部の蒸発や圧縮機内での液滴の捕集、および液滴径分布(多分
散性)を考慮したモデルをアルゴリズムに組み込むことで高度化し、より詳細な圧縮
機内部蒸発特性の予測を可能にした。
高度化した蒸発予測アルゴリズムを実装
計算開始
特徴
初期条件入力
(圧力比,IGV開度)
(1) 吸気ダクト蒸発による流量増加を考慮
(2) 翼面での液滴捕集を模擬
(3) 液滴径分布を考慮
圧力比
更新
ケーシング
圧縮機~タービン間性能計算
・加湿器
・再生熱交換器
・燃焼器
IGV 動翼 静翼
ロータ
実装時の計算時間短縮のため
圧縮機特性をデータベース化
データベース
圧縮機/タービンのマッチング判定
圧力比 π
IGV開度 ξigv
OK
Pout = f1 (π , ξ igv )
Gout = f 2 (π , ξ igv )
・・・
計算終了
図 32
・・・
ベルマウス
タービン性能計算
NG
吸気ダクト
流れ
圧縮機性能計算
高湿分圧縮機評価モデルの高度化
98
出口圧力 Pout
出口流量 Gout
・・・
ツール
概要
本予測手法は、従来の圧縮機性能予測ツールに液滴の蒸発モデルを組み込んでいる
が、圧縮機性能予測ツール(従来モデル)は、既存のガスタービンによる検証で十分
な予測精度があることを確認している。一方、液滴の蒸発モデルについては、先行研
究[1]の蒸発モデルを用いる。この蒸発モデルは単一液滴の蒸発計算をベースとし、2
種類の単一液滴の蒸発計算結果(20μm、50μm)を比較している(図 33 参照)が、
液滴径に関わらず、実線で示した本予測手法のモデルの計算結果が、点で示した先行
研究のモデルの計算結果と良く一致することが確認できた。このモデルを拡張し、蒸
発計算を複数の液滴径に対して実施して重ね合わせることで、吸気ダクトから軸流圧
縮機にかけての液滴の蒸発を模擬できると考え、本予測手法を開発した。吸気ダクト
までの蒸発については 3MW 級 AHAT サイクルの試験結果と比較しており(表 27 参照)、
モデルが実測値と±1℃の精度で一致することを確認している。圧縮機内部の蒸発に
ついては、3MW 級 AHAT では圧縮機に遠心圧縮機を用いており、中小容量機で採用して
いる軸流圧縮機とは異なっている。このため、2011 年度の総合試験時に検証データを
採取し、軸流圧縮機内部の蒸発特性と液滴挙動を確認することにしている。
図 33
先行研究の蒸発モデルとの計算結果比較
出典:ASME GT-2002-30562
(左:液滴径 50μm、右:液滴径 20μm)
表 27
No
1
2
3
4
5
PHASEⅠ試験結果との予測精度比較
項目
圧縮機入口温度
(噴霧なし,試験結果)
絶対湿度
(噴霧なし,試験結果)
液滴噴霧量
WAC時圧縮機入口温度
(噴霧あり,試験結果)
WAC時圧縮機入口温度
(噴霧あり,予測結果)
単位
Run37
(2009/07/15)
Run43
(2009/12/17)
℃
33.4
9.0
kg/kgD.A
0.0166
0.0035
t%
2.5
1.3
℃
24.6
4.6
℃
25.0
4.7
99
参考文献
[1] Chaker, M. 他 2 名
thermodynamics,
heat
Inlet fogging of gas turbine engines - Part A : Fog droplet
transfer
and
practical
considerations,
ASME
GT-2002-30562(2002).
通常の圧縮機と高湿分圧縮機に吸気噴霧冷却を実施した場合、後段側の翼負荷が増
加する傾向にある。通常の圧縮機に比べて、蒸発完了段より後段側の静翼の取付角(ス
タッガ角)を 1deg から 4deg 増加させ、後段の翼負荷を減少させことで、性能および
信頼性を確保した。(図 34 参照)
高湿分
圧縮機
通常の
圧縮機
スタッガ角
(1~4deg増加)
βd
βw
図 34
噴霧によって流入角増加
後段静翼取付角増加の概念図
(2)高湿分再生熱交換器(図 35 参照)
熱交換器本体のヘッダータンク形状の改良、流路構成の見直しにより、タービンの
起動停止時に発生する熱応力を低減して 3MW 級 AHAT サイクル用に開発した熱交換器
本体から耐久性を約 20 倍高くすることが出来た。しかし、商用機の仕様には 3MW 級
AHAT システムで使用した高性能フィンでは耐圧強度が不足する。そこで、耐圧強度が
高く、かつ伝熱面密度の減少も約 10%と最小限とした肉厚高密度な新型高性能フィン
を新たに開発することで長期耐久性を確保しつつ、開発目標値である 1000m2/m3 以上
の伝熱面密度を達成した。更に熱交換器本体を約 70%大型化して熱交換器本体の数を
100
最小とした。また、材料は高性能かつ低コスト、耐水蒸気酸化性を考慮してステンレ
スを選定した。
ヘッダー端部形状の改良
空気
排ガス
排ガス
1000m2/m3 以上の伝熱面密度を達成
空気
(両伝熱面合計:1180m2/m3)
再生熱交換器本体の構造を見直して耐久性を向上 (寿
命予測:約 100→2000 回)
30mm
空気出口開口位置の変更
図 35
再生熱交換器
101
(3)高湿分多缶燃焼器
(3-1)要素バーナ試験
試験結果を以下に示す(図 36 参照)。高温・高湿分条件での低 NOx 化と安定燃焼の
両立を達成するため、多孔同軸クラスターバーナ考案し、AHAT に適用する。3MW 級 AHAT
には、単孔ノズルを適用しているが、今回の実用化技術開発では、更に高圧力比とな
るため、低 NOx を実現するため側方 4 孔ノズルに構造改良した。単孔ノズルでは、ノ
ズル後流に形成される空気循環流によって燃料噴流がせき止められ,燃料が循環流中
に停滞している。側方 4 孔ノズルでは、循環流に取り込まれる前の空気流中に燃料が
拡散後,循環流中でさらに混合が進行しており、NOx 生成が抑制されている。
燃料ノズル
空気孔
燃料混合解析結果
燃料ノズル後流に形成される
空気循環流によって燃料噴流が
せき止められ,燃料が循環流中
に停滞し拡散する。
単孔ノズル(3MW)
供試バーナ
3MW(ドライ)
NOx
中容量 (ドライ)
側方4孔ノズル
中容量(加湿)
3MW(加湿)
循環流に取り込まれる前の
空気流中に燃料が拡散後,
循環流中でさらに混合促進する。
燃空比
図 36
要素バーナ燃焼試験結果
また、図 36 から加湿条件での単孔ノズル(3MW)と側方 4 孔ノズル(中容量)のデ
ータを抽出したものを以下に示す(図 37 参照)。3MW 級 AHAT サイクルおよび中容量
AHAT サイクルで定格燃空比が異なるため、このグラフでは、それぞれの定格燃空比で
データを規格化して比較している。横軸の燃空比において、1.0 は 3MW、中容量の定
格燃空比を示している。中容量(加湿)の結果から、3MW(加湿)の結果と同水準の
燃焼性能を保持することが確認できた。
102
1.0
定格点
NOx(arb. unit)
0.8
0.6
0.4
0.2
中容量(加湿)
3MW(加湿)
0.0
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
燃空比:F/A(arb. unit)
図 37
3MW 級 AHAT サイクル(加湿)と中容量 AHAT サイクル(加湿)の試験データ
補足:試験装置について
試験装置を図 38 に示す。AHAT 実寸大の燃焼器1缶の試験ができる燃焼試験装置で
あり、別置ボイラからの蒸気を添加することで、ドライ空気条件と加湿空気条件を切
り替えることができる。ことで、ドライとは、本試験装置で蒸気添加しない場合に得
られる空気湿度条件であり、加湿とは、蒸気添加により調整した 3MW 検証機および実
用化技術総合試験装置(中容量)それぞれの空気湿度条件である。
LNG
燃料
LNG
630℃
高温・
高湿空気
触媒
希釈域
排気
空気
トランジションピース
蒸気,酸素 380℃
F4
F3
計測ダクト
T
P
接続ダクト
P
排ガスサンプリングプローブ
水冷ダミーノズル
F2
背圧制御弁
F1
ライナ
減温器
燃焼器
T
P
空気の流れ
P T
燃焼試験スタンド
ガス分析
クーリング
タワー
排気
空気流量 : 7.0kg/s
空気圧力 : 0.52MPa
空気温度 : 900K
空気予熱用
熱交換器
空気予熱用燃焼器
空気圧縮機
図 38
試験装置概要
103
排気
サイレンサ
(3-2)実寸単缶燃焼試験(図 39 参照)
点火,昇速および燃料切替えの観点から、多缶燃焼器のクラスターバーナ構造を検
討し(Case4 採用)、実寸単缶燃焼試験部品を設計・製作した。
高湿分燃焼試験装置での燃焼試験により NOx 排出量が 10ppm 未満であることを確認
した。
対象
F2列数 F5列数
F3+F4 点火温度高
Case①
F1+F2+F5
2
F2~F4
Case②
F1
F5
F5
F3+F4
Case③
1
F2
F3
F4
点火
×
F2~F4
Case④
○
昇速 切替 判定
○
問題
なし
F1+F5
△
F1+F2+F5
○
F1+F5
×
○
○
◎ 問題
燃料 なし △
系統
◎
変更
採用
対応
実寸単缶燃焼試験部品
100
⑥実用化技術総合試験条件
NOx
(ppm)
10
1
湿分
高湿分燃焼試験装置
図 39
実寸単缶燃焼試験結果
実用化技術総合試験を実施するためには、定格負荷条件の NOx 性能に加えて、ガス
タービンが定格負荷条件にいたるまでの、起動、部分負荷時の燃焼安定性およびライ
ナの信頼性を確保することが課題であり、今年度中に単缶燃焼試験で燃焼安定性およ
びライナの信頼性を評価する。
実寸単缶燃焼試験における評価項目は、燃焼安定性の指標となる燃焼振動と信頼性
を確認するためのライナメタル温度である。評価基準値となる数値については実績値
とし、上記燃焼振動とライナメタル温度が基準値以下であることを確認する。なお、
定格条件においては、燃焼振動が基準値よりも約 10kPa 低いこと、ライナメタル温度
が基準値よりも約 90℃低いことを確認している。
今年度の試験で、起動時や部分負荷時に燃焼振動が基準値を超え、燃焼不安定とな
る場合は、バーナの運転条件などを調整しそれ以下となるように改良する。また、起
動時や部分負荷時にライナメタル温度が基準値を超えると、ライナが変形する場合が
あるため、ライナの冷却を強化し、それ以下となるように改良する。
104
(4)高湿分冷却翼(図 40 参照)
作動ガス中に水蒸気が含まれるためにタービン翼の受ける熱負荷が高くなり、必要
な冷却空気流量は増加する。そこで、サイクルの利点を生かして増湿系統から抽気し
た低温の高湿分空気を併用して冷却するハイブリット冷却翼を考案し、設計した。メ
タル温度は、目標上限温度よりも約 50℃低いことを確認した。
圧縮機
出口より
加湿管
出口より
加湿管
出口より
翼面主流ガス温度
メタル温度(℃)
インピンジメント
冷却
前縁
背側
冷却面温度
腹側
後縁
腹側
後縁ピンフィン
メタル表面温度
目標上限温度
後縁
背側
後縁
翼面位置
圧縮機
出口より
図 40
前縁
ハイブリッド冷却翼の設計
(5)3MW 級検証機試験、AHAT 特性解析
2004 年度から 2006 年度にかけて実施した要素技術開発では、3MW 級検証機(図 41
参照)にて定格出力 3600kW 以上の 3990kW を達成し、AHAT システムの成立性を確認し
た。本事業では、3MW 級検証機を活用してシステム特性、機器性能の向上、主要機器
の経時変化を確認した。
増湿塔
高さ:11.5m
水回収器
噴霧器
ガスタービン
(圧縮機、燃焼器、タービン)
:26m
全長
高湿分再生熱交換器
AHATシステム検証機設置場所(茨城県ひたちなか市)
図 41 3MW級システム検証機
105
(5-1)大気温度特性(図 42 参照)
システムヒートバランス計算で求めた大気温度特性(実線:予測値)を併記している。
出力、効率ともに、ヒートバランス計算による結果と同様な傾向を示し、気温が低い
ほど高出力、高効率になっている。
発電端出力 [kW]
発電出力相対値
発電効率相対値
発電端効率 [%LHV]
4200
48%
1.0
4000
46%
予測値
3800
44%
0.95
3600
42%
0.9 出力
1.0
3400
40%
0.85
3200
38%
0.8
0.95
3000
36%
0.9
効率
2800
34%
0 5 10 15 20 25 30 35 40
大気温度 [℃]
図 42
大気温度特性
(5-2)起動時間
完全停止状態からコールド起動したときのタービン入口温度、発電端出力、加湿量、
給水加熱器入口ガス温度変化を以下に示す(図 43 参照)。約 60 分で定格出力に達し
ている。再生熱交換器や給水加熱器などの各機器熱容量により給水温度上昇、加湿量
に遅れが生じることが負荷上昇の制約になることがわかった。
1500
5
4
温度 [℃]
発電端出力
900
3
600
2
加湿量
300
1
給水加熱器入口ガス温度
0
0
0
30
60
起動開始後の時間 [分]
図 43
コールド起動特性
106
90
出力[MW] or 加湿量 [kg/s]
タービン入口ガス温度
1200
(5-3)起動評価(表 28 参照)
コールドスタート約 60 分で定格負荷を達成することができた。これは既存のコン
バインドサイクル 180 分に対して大幅に短縮でき、コンバインドサイクルのホットス
タートと同程度である。加湿前の燃焼による負荷上昇は自動化により最大 15%/分を
達成した。加湿による負荷上昇(加湿後)は手動で操作し 3.3%/分であった。
表 28
運用性評価
項 目
検証機実績(第 1 フェーズ)
検証機実績(第 2 フェーズ)
既存一軸型 GTCC 発電
起動時間
-
-
約 60 分
約 60 分
約 180 分
(復水器真空保持の場合)
水系統の自動化
5.0%/分
加湿による負荷
変化率向上
IGV 開度制御
燃焼温度制御
IGV の設置
低負荷での水噴霧
ホットスタート
〃
コールドスタート
負荷変化率
負荷制御
約 2 時間 40 分
(静定、データ採取時間
含む)
燃焼による負荷変化
3.3%/分
加湿による負荷変化
2.3%/分
(水系統起動時の場合)
燃焼による負荷変化
15%/分 (自動化)
加湿による負荷変化
3.3%/分(手動操作)
燃焼温度制御
増湿塔加湿量
WAC 流量
燃焼温度制御
増湿塔加湿量あり、なし
WAC あり、なし
課 題
(5-6)水回収器での水回収性能
水回収器断面を以下に示す(図 44 参照)。スプレイ液滴による気液直接接触で排ガ
ス中の湿分を凝縮させ水分を回収している。また、水回収量の推移を以下に示す(図
45 参照)。液滴空間分布の均一化を目的に、スプレイノズル配置を工夫することによ
り回収率が改善されている(WR9、WR10)。これにより、増湿塔での加湿量はほぼ全量
回収可能となった。
スプレイノズル
33
排ガス再加熱器
排ガス
T
A
給水加熱器
排ガス
流れ
L
補給水
回収水(増湿塔へ)
図 44
水回収器
107
加湿量 または 水回収量 [kg/s]
WAC
増湿塔
水回収
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
試験ケース名
WR1 WR2
排ガス整流板
従来
機器
スプレイノズル
従来
状態
ミストエリミネーター
図 45
WR3
WR4
従来
WR5 WR6 WR7 WR8 WR9 WR10
GT側に100mm移動
微細化
分布均等Ⅰ 分布均等Ⅱ
微細化
水回収器での回収量
(5-5)機器の経時変化(図 46 参照)
AHAT サイクルの主要機器で、起動停止時に発生する熱応力に対する信頼性確保が要
求される再生熱交換器について、各試験の温度効率、圧力損失をプロットした。運転
試験の間、熱交換性能および圧力損失の経年劣化は特になく、温度効率 90%以上、許
容圧損以下で、維持正常な状態を維持できていることを確認した。
1.00
0.98
空気圧損上限
15
温度効率下限
0.96
0.94
0.92
0.90
0.88
0.86
10
排ガス圧損上限
5
0
0.84
0.82
0.80
RUN27-14:00
RUN28-14:30
RUN28-15:30
RUN29-12:30
RUN29-13:00
RUN29-13:40
RUN29-15:40
RUN29-15:50
RUN34-14:20
RUN34-15:10
RUN34-16:20
RUN35-14:00
RUN35-16:20
RUN35-17:50
RUN35-19:00
RUN36-13:00
RUN36-14:40
RUN36-18:00
RUN37-12:00
RUN37-13:33
RUN37-16:00
RUN37-18:00
RUN38-12:05
RUN38-13:14
RUN38-14:00
RUN38-14:57
RUN40-12:00
RUN40-13:00
RUN40-14:00
RUN40-15:00
RUN43-14:40
RUN44-13:00
RUN44-15:00
圧 力 損 失 (kPa)
20
温度効率
25
図 46
再生熱交換器の温度効率、圧力損失変化
108
実線:測定値
破線:設計値
(5-6)実用化技術総合試験装置
高圧・高湿分環境における、高湿分軸流圧縮機、高湿分再生熱交換器、高湿分多缶
燃焼器、高湿分冷却翼の相互作用を確認するために 40MW 級総合試験装置を設計し、
製作を開始した。系統構成と主な計測項目を以下に示す(図 47 参照)。この試験装置
は AHAT を電力産業用ガスタービンに適用するための技術開発であり、増湿装置は部分
加湿の加湿管、水回収器は非設置とするなど、プラント機器構成を簡略化している。
本装置は試験装置であるため、ガスタービンで得られる動力は発電して系統につなげ
ることはせず、動力を負荷圧縮機で吸収することにしている。
燃焼器
H-002
H
9-TE-271
TE
9-TE-031~ 270
TE TE TE
F1
燃料
F2
9-FIT-004
F
F3
F4
9-PDIT-003
吸気噴霧器
煙突
再生熱交換器
DP
DP
9-PDIT-001
圧縮機
負荷
圧縮機
タービン
大気
DP
9-PDIT-002
H
H H-004
D
H-003
吸気
噴霧冷却
(WAC)
H-001
H
9-FIT-001
F
高湿分
翼冷却
9-FIT-003
F
9-TE-030
TE
CO2
CO2
冷却器
9-TE-002~ 026
TE TE TE TE TE
放風
加湿管
ドレン
F
F
2-FIT-001
F
3-FIT-002
液滴噴霧ヘッダ
TE:温度
1-FIT-001
F
3-FIT-001
補給水タンク
F:流量
H:湿度
補給水
(純水)
DP:差圧
圧縮機
・各部温度・圧力
・壁圧変動
・静翼振動
・動翼先端間隙
タービン
・翼メタル温度
(熱電対、放射温度計併用)
・翼冷却空気温度
・動翼先端間隙
・各部温度、圧力
燃焼器
・排ガス組成
・各部メタル温度、圧力
・燃焼振動
・各部圧損(差圧)
回転体
・圧縮機/タービン
動翼振動
・ロータメタル温度
(テレメータ使用)
軸受・ケーシング
・スラスト軸受荷重
・各部圧力・温度
加湿水ポンプ
図 47
実用化技術総合試験装置の系統構成と主な計測項目
109
3-1-3-B2
特許出願状況等
本技術開発(2008 年から 2010 年)から通算した件数を以下に示す(表 29 参照)。
AHAT は、国内外の学会等で高い評価を得ており、海外発表で 4 回、国内発表で 2 回表
彰されている。その中で、2010 年 6 月にはアメリカ機械学会(ASME)から年間最優秀論
文として J.P. Davis 賞を与えられた。
表 29
論文数
特許・論文等件数
特許等件数
投稿
発表
3
11
(出願を含む)
3
19
表 30
区分
論文
特許・論文等リスト
題目・メディア等
時期
ASME Journal of Engineering for Gas Turbines and Power,
「Development of elemental technologies for advanced humid air
turbine system」
2008.5
日本ガスタービン学会誌, 「AHAT-高湿分空気利用サイクル」
2009.5
エネルギー・資源学会 「エネルギー・資源」通巻第180号(2
010/3月号), 「アドバンスト高湿分ガスタービン AHAT の開
発」
投稿
2010.3
電力中央研究所報告, 「アドバンスト高湿分空気利用ガスタービン
(AHAT)システムの研究開発
-3MW 級 AHAT 検証機の開発と
システム成立性の検証-」
2008.9
日本動力協会「エネルギーと動力」 H20 年秋期号, 「高湿分空気
利用ガスタービンの開発」
日本ガスタービン学会
2008.11
ガスタービンセミナー(第38回), 「高
湿分空気利用ガスタービン(AHAT)の開発状況」
特許(公
開)
2010.1
特開 2008-175098, 「高湿分空気利用ガスタ-ビン及びその運転方
法」
2008.7
特開 2008-190335, 「ガスタ-ビンシステムの改造方法」
2008.8
特開 2008-196399, 「高湿分利用ガスタ-ビン」
2008.8
特開 2008-231963, 「高湿分空気利用ガスタ-ビン,高湿分空気利
用ガスタ-ビンの制御装置及び高湿分空気利用ガスタ-ビンの制
御」
2008.10
110
特開 2008-240712, 「ガスタ-ビン設備」
2008.10
特開 2008-291829, 「ガスタ-ビン設備」
2008.12
特開 2009-041383, 「高湿分利用ガスタ-ビン設備」
2009.2
特開 2009-052474, 「ガスタ-ビン設備およびガスタ-ビン設備の
運転方法」
2009.3
特開 2009-133318, 「複数の中間冷却器を備えた圧縮機を有するシ
ステム,冷却方法」
2009.6
特開 2009-144551, 「再生型ガスタ-ビン及び再生型ガスタ-ビン
の燃料制御方法」
2009.7
特開 2009-162100, 「高湿分空気利用ガスタ-ビン及び高湿分空気
利用ガスタ-ビンの運転方法」
2009.7
特開 2009-174542, 「高湿分ガスタ-ビン設備」
2009.8
PWO2009/096028, 「プラント用動力供給システム、その運転方法及
び改造方法」
2009.8
特開 2009-221994, 「ガスタ-ビンの吸気冷却装置」
2009.10
特開 2009-222306, 「プレートフィン型熱交換器の単位コアとそれ
を用いる熱交換器の組み立て構造並びに熱交換器の製造方法」
2009.10
特開 2009-264348, 「高湿分空気利用ガスタ-ビンシステム」
2009.11
特開 2010-001740, 「ガスタ-ビン静翼の冷却構造および冷媒供給
発表
構造」
2010.1
特開 2010-048213, 「圧縮機」
2010.3
特開 2010-053690, 「吸気に水を噴霧する圧縮機を有する設備」
2010.3
ASME Turbo EXPO 2008, Berlin (GT2008-51072), 「Test Results
from the Advanced Humid Air Turbine System Pilot Plant - Part
1: Overall Performance」
2008.6
ASME Turbo EXPO 2008, Berlin (GT2008-51089), 「Test Results
from the Advanced Humid Air Turbine System Pilot Plant - Part
2: Humidification, Water Recovery and Water Quality」
2008.6
ASME Turbo EXPO 2008, Berlin (GT2008-50893), 「Inlet Air
Cooling With Overspray Applied to a Two-Stage Centrifugal
Compressor」
2008.6
POWER-GEN International 2008, Florida, 「Development of
Advanced Humid Air Turbine system」
2008.12
Asian Congress on Gas Turbines 2009, 「Experimental Study on
Cycle Performance of Advanced Humid Air Turbine」
111
2009.8
日本機械学会
第 13 回動力・エネルギー技術シンポジウム, 「ガ
スタービン翼の高湿分冷却試験」
火力原子力協会
2008.6
四国支部講演会, 「高湿分空気利用ガスタービン
(A-HAT)の開発」
2008.7
日本機械学会 2008 年度年次大会、横浜, 「高湿分空気利用ガスタ
ービンにおける熱流動」
2008.8
日本ガスタービン学会、第 36 回ガスタービン定期講演会、日立,
「燃料-空気混合不均一を考慮した NOx 生成量予測」
2008.10
日本ガスタービン学会、第 36 回ガスタービン定期講演会、日立,
「AHAT システムの検証試験結果」
日本機械学会
2008.10
第 14 回動力・エネルギー技術シンポジウム, 「3MW
級高湿分空気ガスタービンAHATのシステム検証試験」
112
2009.6
3-2-B2
目標の達成度
各項目の成果を以下に示す(表 31 参照)。
①高湿分軸流圧縮機
噴霧量 3.5%時には圧縮機後段側の負荷が高くなったため、圧縮機後段側静翼の取
付角を増加させて翼負荷を減少させることにより、全段で十分な性能・強度を確認
した。
②高湿分再生熱交換器
従来フィンより耐圧強度が高く、かつ伝熱面密度も極力大きくした新型高性能フィ
ンを新たに開発することで、温度効率:90%以上、1000m2/m3 以上の伝熱面密度を達
成した。
③高湿分多缶燃焼器
側方 4 方ノズルを開発し、バーナ要素試験で効果を確認しました。さらに実寸の
単缶燃焼試験により、総合試験条件で 10ppm 以下を確認した。
④高湿分冷却翼の開発
目標冷却効率を達成可能なハイブリッド冷却翼で、翼前部を圧縮機吐出空気で冷
却、翼後部を高湿分空気で冷却することにより、成立した。
⑤3MW 級検証機
5~35℃の範囲で大気温度特性を取得した。増湿量のほぼ 100%を水回収できた。再
生熱交換器の温度効率 90%以上を維持できていることを確認した。
⑥実用化技術総合試験装置
総合試験装置の設計を完了し、製作を開始した。
⑦AHAT 特性解析
3MW 試験でコールド起動時間 60 分を達成し、コンバンドサイクルと比較し起動特性で優位で
あることを確認した。
113
表 31
要素技術
目標の達成度一覧
目標・指標(中間評価)
成果
達成度
①高湿分
軸流圧縮機
・解析により、
吸気噴霧量:3.5%時の特性確認
噴霧量3.5%時には圧縮機後段側の負荷が高くなる。こ
のため圧縮機後段側静翼の取付角を増加させて翼負
荷を減少させることにより、全段で成立した。
達成
②高湿分
再生熱交換器
・解析により、温度効率:90%以上、
伝熱面密度:1000m2/m3以上を
確認
従来フィンより耐圧強度が高く、かつ伝熱面密度も極
力大きくした新型高性能 フィンを新たに開発すること
で、温度効率:90%以上、1000m2/m3以上の伝熱面密
度を達成した。
達成
③高湿分
多缶燃焼器
・要素試験により、高湿分燃焼で
NOx:10ppm以下を確認
側方4方ノズルを開発し、バーナ要素試験で効果を確
認した。さらに実寸の単缶燃焼試験により、総合試験
条件で10ppm以下を確認した。
達成
④高湿分冷却翼
・目標冷却効率(静翼70%動翼60%)
を達成可能なハイブリッド冷却翼の
設計
目標冷却効率を達成可能なハイブリッド冷却翼で、翼前
部を圧縮機吐出空気で冷却、翼後部を高湿分空気で
冷却することにより、許容メタル温度以下を達成した。
達成
⑤3MW級検証機
・AHATプラント側の特性把握
5~35℃の範囲で大気温度特性を取得した。増湿量の
ほぼ100%を水回収できた。再生熱交換器の温度効率
90%以上を維持できていることを確認した。
達成
⑥実用化技術
総合試験
・総合試験装置の設計
総合試験装置の設計を完了し、製作を開始した。
達成
・3MW級検証機評価
3MW試験でコールド起動時間60分を達成し、コンバンドサ
イクルと比較し起動特性で優位であることを確認した。
達成
⑦AHAT特性解析
114
4-B2 事業化、波及効果について
4-1-B2
事業化の見通し
高湿分空気利用ガスタービンの実用化に当たっては、世界で初めて実用化されるシス
テムであり、開発リスクが大きいことから、商用機までの研究開発ロードマップ(図
48 参照)に示すように、段階を踏んで開発を進めることによりリスク低減を図り、確
実に技術開発を進めることが必要である。
図 48
項目
年度 2000
技術開発
AHAT サイクルの研究開発ロードマップ
2005
要素技術開発
(’ 04~’ 06年)
実用化技術開発
(’ 08~’ 11年)
1/30規模の装置で
原理的なAHATシス
1/3規模の装置で中容量
AHATシステムを実現す
るためのガスタービンに
関わる要素技術を開発。
テム成立性を確認。
技術開発の
成果、波及
2020 ~
2010
実証機
(’ 12~’ 16年)
(実規模)で、
熱、環境、運転
性能、長期
信頼性を評価。
・高湿分翼冷却翼技術
・リプレース
・高湿分燃焼器技術
・系統調整電源
→日立ガスタービンに適用
次世代
商用機
(’ 17年~)
・海外分散電源
CO2回収型クローズドサイクルAHAT
発電技術への
展開
CO2回収型IGHAT
(1)技術開発について
2004 年から 2006 年まで 3 年間の要素技術開発を予定通り実施し目標を達成できた。
3MW 級の検証機を建設し、ガスタービンと吸気噴霧冷却、増湿塔、再生熱交換器、水回
収装置等を組み合わせた AHAT システムが原理的に成立することを確認した。効率は小
容量クラスのガスタービンシステムで最高レベルの 36.4%(HHV)(40%(LHV))以上を達
成した。また、シミュレーションにより中容量 AHAT システムで従来の同出力機より高
い発電効率が得られることを確認した。3MW 級検証機は高湿分空気を利用した再生型ガ
スタービンとして世界初のシステムであるため、要素技術開発ではシステムの成立性確
認を最優先項目とし、ガスタービンはシステムを原理的に検証するために必要最小規模
の小容量クラスで実施した。
実用化技術開発については、2011 年度末までの 4 年間とし、現在予定通り実施して
いる。現在、商用機の AHAT システムは出力 100MW 級の中容量の電力産業用ガスタービ
115
ンを想定しているが、ガスタービンは小容量機に比べて圧力が高く、多段軸流圧縮機、
多缶燃焼器、冷却タービンの構成となるため、小容量機に用いられるガスタービンとは
異なる。よって、中容量機のガスタービンで AHAT システムを実現するため、各ガスタ
ービン要素の実用化技術開発とそれらの技術を組合せた商用機の 1/3 スケールの総合
試験装置によりガスタービンにかかわる技術を開発中である。
実証機では、商用機と実規模とし実際に発電することにより、運用性、環境性、経済
性の観点から AHAT を評価するとともに長期信頼性を確認する(表 25 参照)。長期信頼
性を確認するには電力系統に接続する必要があり、ユーザの協力が必須である。
なお、高湿分空気を利用したガスタービンシステムは、システム改良に主眼をおいた
高効率化技術であり、1980 年に日本で考案された航空機転用型ガスタービンを利用す
る日本生まれの技術である HAT システムが基礎になっている。その後、米国でシステム
研究が行われ多くの派生システムが提案された後、1990 年代から電力事業用に使用さ
れている電力産業用ガスタービンに適用するように日本で再検討され、3MW 級の AHAT
システム検証機によりシステム成立を世界に先駆け確認したことで日本が再び世界を
リードしている。
AHAT システムは、夏季の出力低下が少ない(吸気噴霧冷却の効果)
、部分負荷効率が
高い(再生システムの効果)、起動時間が短い(蒸気タービン系が不要)
、水回収により
補給水が不要、設備費が低い、等の環境や電力需要への即応性が高いという点で好まし
い特性を有しているが、日本独自の技術であるため前例がなく、商用機にいたるまでの
技術課題が多い。産業界のみで本技術開発を進めていくにはリスクが高く、引き続き国
の関与と支援が必要である。
(2)技術開発の成果、波及について
要素技術開発で開発した高湿分翼冷却技術については、対流冷却での伝熱促進技術を
日立ガスタービンの冷却翼に適用しており、冷却空気量削減による高効率化、CO2 削減
に寄与している。また、要素技術開発で開発した高湿分燃焼技術についても、多孔同軸
噴流技術を日立ガスタービンの燃焼器に適用しており、低 NOx 化による環境負荷低減に
寄与している。
わが国の電源構成推移を以下のように想定した(図 49 参照)とき、電力需要の増加
に伴う LNG および石炭火力の新設、増設に加え、2010 年頃からは 40 年を寿命と考えた
場合、寿命を迎えるプラントが急増しリプレース市場が活発化すると考えられる。ピー
ク・ミドル運用に適した中容量 AHAT システムは、新増設需要に加え、次のようなリプ
レース市場への導入も見込まれる。
・LNG 火力リプレース市場
・石油火力リプレース市場(燃料転換にも対応、LNG、石油火力)
116
18,000
50
リプレース需要
14,000
2010年 3,000万
kW
12,000
2015年 6,000万
kW
LNG新増設
(想定)
45
40
LNGリプレー ス
LNG既設
10,000
8,000
石炭新増設
(想定)
6,000
石炭リプレー ス
石炭既設
4,000
石油リプレー ス
石油既設
2,000
発電設備量 [百万kW]
発電端出力 (万kW)
16,000
1990
2000
2010
年 度
2020
2030
2040
2050
日本における電源構成の推移推定例(寿命40年)
8.3
30
25
25.8
20
15
10年以下
11~20年
21~30年
31~40年
41年以上
25.4
10
0
1980
0.5
35
5
0
1970
8.4
10.3
9.2
0.9
2000年度末
2010年度末
国内油焚き火力リプレース市場
出典:電力中央研究所「第18回エネルギ未来フォーラム」(1999)
図 49
わが国の電源構成推移
また、世界全体のガスタービン発電市場は国内発電市場の 10 倍以上の規模があり、
世界に先駆け、中容量の高効率発電システムが日本で実用化できれば海外展開として市
場が開ける。100MW 級以下の高効率中小容量発電システムは送電網系統のインフラ整備
が不充分な地域、特にエネルギー需要が急増している中国等アジア地域において、分散
電源として地域の電源供給に貢献できる。また、分散電源としての海外への市場展開を
図ることにより、外貨獲得および国内産業への波及効果が期待できる。
(環境問題)
AHAT システムはこれまで高効率化が難しかった小中容量機の高効率化が図れる技術
であり、実用化されれば国内のみならず海外におけるエネルギーの有効活用及び CO2 削
減に寄与することが期待される。
(経済性)
AHAT システムは高圧の蒸気タービン系機器、
復水器起動に必要な真空系が無いため、
コンバインドサイクルに比べ起動・停止時間が短く、DSS 運転(夜間のみ発電を停止す
る運転)等のミドルロード運転やピーク運転にも適している。また、蒸気タービン系及
び高圧機器系がなく系統が単純なため物量が少なく設備コストは低くなる見通しであ
り、建設期間も短縮できる。高効率であるため発電原価も低くなることが期待されてい
る。
(燃料多様化)
電力需要の変化に迅速に対応でき発電効率が高く環境負荷の小さい 100MW 級の中容
量 AHAT システムが実用化できれば、負荷変動に細やかに対応しやすく、比較的規模の
小さな一般電気事業者の導入にも好都合となるためニーズが大きいと思われる。また、
117
燃料価格の高騰を背景にエネルギーセキュリティの観点からも燃料多様化のニーズが
高まっており、燃料の種類は発電システム選定の重要な因子になるため、多様な燃料に
対応できれば、より広いユーザに利用が広がると考えられる。CO2 排出を実質ゼロとみ
なすことができるバイオ燃料は今後導入が進むと予想されるが、現状大量確保は難しい
段階である。AHAT のような中規模発電であれば、燃料調達も比較的容易であり、バイ
オ燃料の利用促進を図ることができる。
また、国内の電力会社から 3 万 kW 検証機を視察しており、関心を持たれている。事
業化には、国内電力の協力が不可欠であり、将来の事業化について交渉を進めている段
階である。
(3)次世代発電技術への展開
高湿分空気利用ガスタービン技術は下記次世代システムの基盤技術になり、開発を推
進していくことは重要である。
・ IGCC と高湿分空気利用ガスタービン技術の融合
石炭ガス化複合発電 IGCC と高湿分空気利用ガスタービン技術を組み合わせた IGHAT
が提案されている。IGHAT は石炭ガス製造時の排熱を水蒸気としてガスタービンに取り
込むことができるため IGCC よりも効率が高く、単位出力あたりの設備コストも安くな
ると評価されている。
CO2 をガス化剤とする酸素吹きガス化炉とクローズド AHAT サイクルを組合せること
で AHAT の作動流体は CO2 と水蒸気が主成分となり、水回収装置で水を除去すれば、CO2
分離動力を必要とすることなく低温度の CO2 を回収することができ、高効率 CO2 回収シ
ステムが実現できる。また、ガス化ガスの代わりに天然ガスとすることで CO2 回収型ク
ローズド AHAT サイクルを実現できる。
・水素燃焼ガスタービン
水素は高い燃焼温度が得られ、燃焼生成物は水蒸気である。水素燃焼ガスタービ
ンの実現には超高温ガスタービンの技術とともに、高湿分空気利用ガスタービン技
術も有効な基盤技術となることが期待される。
以上示したように、AHAT サイクルは極めて重要な技術開発といえる。
4-2-B2
波及効果
(太陽光発電導入に伴う電力系統安定化対策)
2020 年までに温室効果ガスを 1990 年比 25%削減する目標が掲げられており、これ
に伴い、2020 年には 2800 万kW(2005 年の 20 倍)太陽光導入の目標が設定されている。
118
経済産業省が 2009 年 7 月に開催した「低炭素電力供給システムに関する研究会」
(図
50 参照)では、太陽光発電を火力発電によりバックアップする必要性が報告されてい
る。
図 50
火力発電によるバックアップの必要性について
(出典:経済産業省「低炭素電力供給システムに関する研究会」より)
太陽光発電をバックアップするに際し、火力発電に要求される性能として、「低炭素
電力供給システムに関する研究会」で以下の項目が指摘されている。
○発電開始までの立ち上げ時間が短いこと
○急激な需要変動に対応可能な出力変化速度(kW/分)が大きいこと
○最低負荷の小さいこと(いわゆる「下げ代」が大きい)
○十分なガバナフリー容量及び LFC 容量の確保
○低負荷運転時に効率の低下が小さいこと
○多様な燃料種への対応
これらの指標を中容量クラスのほかの火力発電と比較する(表 32 参照)と、AHAT シ
ステムは出力変動対策に最適な発電システムであることがわかる。AHAT システムを新
設、もしくは現状のミドル、またはピーク発電をリプレースすることで、系統安定化に
寄与できる。
将来の火力発電は、ベースロード電源に適したシステムが多くなると予想される中、
AHAT システムはピーク・ミドルロードの負荷調整用電源にも対応可能な電力基盤を支
119
えるシステムであるといえる。
表 32
太陽光出力変動に要求される性能比較
○:ベース、◎:優、△:劣
太陽光出力変動に要求される性能
出典 経済産業省HP
「低炭素電力供給システムに関する研究会資料」
○発電開始までの立ち上げ時間が短
いこと
発電方式(100MW級ガス焚で比較)
AHAT(目標値) GTCC
◎
30分(ホット)
60分(コールド)
従来汽力
○
△
60分
180分
180分以上
△
○
◎
8.3~10%/分 5%/分
3~5%/分
◎
△
◎
○最低負荷の小さいこと(いわゆる
50%負荷
20%負荷
25%負荷
「下げ代」が大きい)
◎
○
○
○十分なガバナフリー容量及びLFC容
量の確保
LFC対応
LFC対応 GF&LFC対応
○急激な需要変動に対応可能な出力
変化速度(kW/分)が大きいこと
○低負荷運転時に効率の低下が小さ
いこと(50~100%負荷時効率、HHV)
◎
43~51%
○
40~50%
△
38~40%
GTCC:Gas Turbine Combined Cycle
LFC:Load Frequency Control
GF:Governor Free
120
5-B2 研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等
5-1-B2
研究開発計画
本事業の研究開発計画を以下に示す(図 51 参照)。
図 51
AHAT の研究開発計画
計画
実績
項目(主担当)
技術開発要素
高湿分圧縮機
(日立)
高湿分再生熱交換器
(住友精密)
高湿分多缶燃焼器
(日立)
高湿分翼冷却
(日立)
試験
3MW級検証機
(日立、住友精密、電中研)
実用化技術総合試験
解析
(日立、住友精密、電中研)
ATAH特性解析
(電中研)
予算
(補助金ベース、百万円)
5-2-B2
平成20年度
2008 年度
平成21年度
2009 年度
平成22年度
2010 年度
平成23年度
2011 年度
評価モデル高度化、微粒化技術
総合試験評価
材料試験・小型試験、コアの大型化
総合試験評価
バーナー要素試験・単缶燃焼試験
総合試験評価
ハイブリッド冷却翼、高性能冷却試験
試験
設計
中
間
評
価
製作
3MW級検証機評価
216
1085
他システム評価
2465
総合試験評価
総合試験
総合試験評価
1032
研究開発実施者の実施体制・運営
円滑な推進と最大限の成果を達成するため、開発体制に示す 3 事業者で分担し開発を
推進した(図 52 参照)
。ガスタービンシステム及び全体取りまとめを(株)日立製作所が
担当し、高温熱交換器の専門メーカである住友精密工業(株)がガスタービン用再生熱交
換器を担当した。また新型システムの実用化にあたって重要な、電力等のユーザの視点
に基づくシステム評価を(財)電力中央研究所が実施した。3MW 級検証機による試験は 3
事業者が協力して実施した。最終年度の実用化技術総合試験についても 3 事業者が協力
して実施し、研究の加速と事業の適正な推進を図る。
121
プロジェクトリーダー:
○
(株)日立製作所
井上洋
㈱日立製作所
(プロジェクトリーダー)
資源エネルギー庁
経済産業省
項目(1),(3),(4),(5),(6)を担当
補助:2/3
補助率:2/3
実施項目
(1) 高湿分圧縮機
(2) 高湿分再生熱交換器
(3) 高湿分多缶燃焼器
(4) 高湿分冷却翼
(5) 3MW級検証機
(6) 実用化技術総合試験
(7) AHAT特性解析
(財)電力中央研究所
項目(7)を担当、(5),(6)に参加
住友精密工業㈱
項目(2)を担当、(5),(6)に参加
図 52
5-3-B2
AHAT 研究開発体制
資金配分
技術開発要素、総合試験装置、特性解析の各段階において適切に資金を配分し(表
33 参照)、事業の円滑な推進に努めている。各機器の総合作用を確認する総合試験装置
に全体の 89%を使用する。
表 33
資金度配分(事業費ベース)
(単位:百万円)
年度
(西暦)
2008
2009
2010
合計
2011
高湿分圧縮機
12
37
17
21
87
高湿分再生熱交換器
78
56
33
33
200
高湿分多缶燃焼器
32
103
27
25
187
高湿分翼冷却
15
55
37
14
121
3MW級検証機
90
114
0
0
204
実用化技術総合試験
93
1259
3582
1452
6386
4
4
2
3
13
324
1628
3698
1548
7198
ATAH特性解析
合計
122
5-4-B2
費用対効果
本事業には、4年間で48億円の補助金が投じられる予定であり、これまでにAHATシス
テムの有効性を確認しシステムの成立性の目処をつけるなどの成果をあげてきている。
AHATシステムは世界初の高湿分再生型ガスタービンシステムとして国内外の学会で
は高い関心を寄せられており、2008年日本ガスタービン学会から技術賞を受賞した。2
009年米国機械学会ASME Turbo EXPOのCycle Innovation 部門からBest Paper Awardを
受賞し、さらに2010年米国機械学会ASME Turbo EXPOでは、全部門の中から唯一与えら
れるJ.P. Davis賞を受賞した。これらを含め、海外では4回、国内では2回の表彰を受
けている。
(CO2削減効果)
中容量AHATサイクルのCO2排出原単位は
0.35kg-CO2/kWhとなり、この値はリプレ
ース対象と想定される既存の中容量コンバインドサイクル(CC)、石油火力に対し大き
なCO2削減率が期待できる(表34参照)。
表 34
各発電サイクルによる CO2 排出原単位の比較
燃料
送電端効率 CO2 排出原単位
AHAT 導入時の
(%HHV)
CO2 削減率
(kg-CO2/kWh)
中容量 AHAT サイクル
LNG
51
0.35
-
既存中容量 CC
LNG
44
0.405
15%
石油火力
油
39
0.70
50%
また、年間CO2削減量として、2020年までのAHAT導入量を820万kWとし、年間稼働時
間を3000時間/年・台とした場合、年間CO2削減量は530万ton/年となる。これは我が
国の電気事業全体が年間に発生するCO2量の1.4%に相当する。
5-5-B2
変化への対応
燃料価格の高騰、電力の安定供給を背景に燃料多様化へのニーズが拡大しており、ピ
ーク運用に関し、燃料を LNG だけでなく石油まで対象を拡大し、石油焚き AHAT システ
ムを開発しておくことが有効である。
太陽光発電の大量導入計画により、火力発電には運用性の見直しがもとめられてきて
おり、運用性に優れた AHAT は調整用電源として有効である。
さらに火力発電には CO2 排出抑制が強く求められており、CCS(Carbon Dioxide
Capture and Storage) Ready の要求が将来的には広がってくると予想される。AHAT は
クローズドサイクルにすることで CO2 分離動力なしに高効率に CO2 を回収できる特長を
備えている。
123
Fly UP