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提言 - デジタル医用画像の「色」シンポジウム

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提言 - デジタル医用画像の「色」シンポジウム
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[ Document Identification Number : DIN01061401 ]
Digital Biocolor Journal, No.1, 1.1-1.4, 2001.06.14 (received: 2000.04.07)
<http://biocolor.umin.ac.jp/journal/din01061401.pdf>
提言;皮膚科医はデジタル画像に実物と同じ診断精度を要求する
沼原 利彦*1 ([email protected])、窪田 泰夫*1
*1
香川医科大学皮膚科学
Proposal ; Digital Images Should be Equivalently Used as Real Objects
in Dermatological Diagnosis
Toshihiko NUMAHARA*1 ([email protected]), Yasuo KUBOTA*1
*1
Department of Dermatology, Kagawa Medical University
Abstract
Because skin color directly reflects every pathological change of skin that causes modification of its
optical characteristics, it constitutes a vital piece of information in dermatological diagnosis. Photographs
have played a substantial role for a long time in recording skin lesions, and recently digital imaging has
been introduced for this purpose. But the quality of skin color images reproduced by any currently
available imaging system does not meet the requirement for dermatological diagnosis; therefore, they are
not yet considered a substitute for the observation of the real objects and only subsidiary roles are given
to them.
However, if advanced digital imaging technologies including multispectral imaging are in a position to
reproduce images which can be equally used as real objects, revolutionary changes are expected in
dermatological practice as well as in dermatological education. If, on the other hand, the technology of
digital imaging fails to achieve a higher quality as mentioned above, a huge investment in electronic
patient records and tele-medicine would run the risk of having been made in vain in the field of
dermatology.
1. はじめに
皮膚疾患は、誰でも病変を直接見ることができる。すなわち、皮膚疾患の診断は、皮膚病変
(皮疹)=マクロの病理の形態診断が柱となり、皮膚科専門医は直接観察できる病変の、色、
タイプ、形、配列、分布等によって日常の診断を行っている。さて、皮膚の病理学的学的変化
により、皮膚の光学的性質も変化し、その結果、皮膚病変(皮疹)は特有の色やパターンを呈
する。診断に際して、皮膚の色は重要な生体情報であり、病変の特徴や深さの情報を読み取る
際に、色が鍵となることが多い。このため、皮膚病変の色の記述法も繊細である。
参考までに、一般的な皮膚疾患の診断の正確さが、皮膚科専門医と一般医でどれだけ違うのか
という報告が、文献[2]にあげられている。それこの文献によると、Primary care physiciansでは
高々60%まで、皮膚科専門医では少なくとも90%となっている。
2. 皮膚科と画像記録
皮膚病変の記載は、綿密な文章によるのみならず、画像による情報も欠かせない。「皮膚病変
の画像記録の歴史」をみると、その原点は忠実かつ精巧なスケッチである。独特のものとして
は、ムラージュという皮疹を型どりして精巧な彩色をした立体模型がさかんに作成された時代
もあった。
写真記録の歴史も古く百年以上前に、写真による皮膚病アトラスが作成されている。写真技術
の発展と低価格化によって、皮膚病変の写真記録が一般化し、ここ数十年は、35mmフィルム
による写真記録が皮膚病変記録のゴールド・スタンダードとされてきた。ここ数年の間には、
デジタルカメラによる記録をとりいれる施設も増加してきている。
ところで、エックス線写真のように、診断に用いた医療画像には絶対的保存義務が生じ、通常
保険診療においても検査料が認められている。しかし、皮膚科の診断は基本的に皮膚病変を直
接見ることによって行われるため、皮膚科臨床写真は補助的な記録と考えられ、絶対的な保存
義務があるわけではない。「皮膚科臨床写真実費を保険診療で認めてほしい」という皮膚科サ
イドからの長年の要求も未だ認められていないため、皮膚科臨床写真記録にコストをさくこと
ができないという一面もある。
皮膚科臨床写真が補助的な記録に留まってきたのは、銀塩写真にせよデジタル写真にせよ、
「今までは皮疹の状態を正確に記録・再現することができなかった」という技術的な問題が大
きい。長い歴史を持つ銀塩写真においても、フィルム、カメラ、照明、現像の違い等で、色は
変化し、また、でき上がったフィルムが年月とともに劣化していくことがさけられない。デジ
タル写真では、年月による劣化は生じないが、今までの技術では、カメラ、コンピュータシス
テム、ディスプレイの違い等によって銀塩写真以上に色の再現性が悪いという現実があった。
そのため、内科的診療と異なり、直接病変を観察できる皮膚科診療ゆえに、画像記録は重要だ
が補助的なもので、最終的な皮膚科の診療や教育は、直接皮疹を見て行う以外にないと信じら
れてきたのである。
3. 皮膚科にとって画像記録の色再現性は命
皮膚の病理学的変化により、皮膚の光学的性質も変化し、その結果、皮膚病変(皮疹)は特有
の色やパターンを呈する。皮膚科専門医は、観察される皮疹の微妙な色あいも含めて、背後に
ある皮膚の病理学的変化を想像し、病気の種類や重症度、治療効果の判定を行っている。言い
換えると、再現される色がちがえば、診断や重症度、治療効果の判定が異なってくる危険性が
常に存在するわけである。特に、炎症性疾患や膠原病の皮疹などでは、微妙な淡い赤の調子が
正確に再現されないと、正確な診断が難しい。この、ごく淡い赤や、わずかに紫をおびる、と
いった色は、現在の35mmフィルムによる撮影でも、なかなか再現が難しい。
ところで、皮膚病変の画像記録技術の開発の上で忘れてはならない「皮膚の色」の問題がもう
一つ存在する。それは、正常の「はだ色」は個体によって全く異なることである。白人∼黄色
人種∼黒人といわれるように、正常の「はだ色」は人種や個体によって極端に異なる。皮膚病
変の画像記録技術は、ごく淡い赤の再現性を実現しつつ、白∼黄∼茶∼黒という極めて幅の広
い正常の「はだ色」の再現を同時に実現しなくてはならないのである。
4. 皮膚科領域におけるデジタル画像の利用(現在)
デジタル画像技術やインターネット技術のめざましい発展で、皮膚科領域でのデジタル画像の
利用や、それに関する論文も増えてきている。1999年11月号のJournal of American Academy of
Dermatologyでは、レビュー記事 "The uses of digital photography in dermatology" が掲載され、その
中には、デジタルカメラの基礎的な記述から、デジタルカメラの比較、遠隔皮膚科医療、教育
などへの活用などがまとめられている。この中では、"Digital photography is a powerful tool ・・・
will be helpful in improving patient outcomes and reducing costs in our current managed health care
environment." といった、ポジティブな表現ばかりがめだっている。しかしながら、この記事に
は、このシンポジウムが取り組んでいるデジタル画像の「色」の問題は全く言及がない。
カメラさえあれば皮膚の写真撮影は誰でも行えるため、「遠隔医療で皮膚疾患のコンサルテー
ション」ということ、すなわち遠隔皮膚科医療(TELEDERMATOLOGY)が既に様々に考えら
れている。現在のデジタル画像技術を利用しても、一般内科医などが、皮膚科専門医にコンサ
ルテーションを行う場面では、確かにある程度の有用性があるのは確かである。ところが、現
在のデジタル画像技術では、「再現された皮膚病変画像の微妙な色あいの差を礎に、皮膚科専
門医同志がディスカッションできる」レベルには達していないのである。例えば、皮膚筋炎患
者の眼瞼にみられる淡い独特な色の紅斑は、皮膚科専門医が直接患者をみればすぐに皮膚筋炎
を考える程に特徴的なものであるが、現在のデジタル画像で「その色」を再現するのは極めて
困難である。
皮膚科専門医の間でも画像の微妙な色あいをもとにディスカッションできるような、実物によ
る診断に匹敵するだけのデジタル生体医用画像技術の開発を伴わずに、電子カルテや遠隔医療
の整備に多額のコストをかけたとしても、記録転送されたデジタル画像が皮膚科専門医の診断
に必要な水準を満たしていないのなら、電子カルテや遠隔医療は、ある所で壁にぶつかり無意
味なものになるのではないかと危惧している。
5. 革新的な色再現性を持つデジタル画像技術への期待
しかし、デジタル生体医用画像技術が進歩し、皮膚科においても実物による診断に匹敵するだ
けの再現性が実現できるような画像を簡単に得られるようになった時には状況が一変する。皮
疹を正確に記録、伝達、再現することができれば、皮膚科診療において、患者の転居等の際に
正確な診療記録を紹介することができるようになるし、電子カルテや遠隔医療を通じて専門医
が不在の地域の患者も皮膚科専門医の意見を求めることが可能になり、患者にとってのメリッ
トははかりしれない。診断可能な皮膚科臨床画像記録ということで、皮膚科領域での画像の取
り扱い方も変わってくるだろう。加えて、皮膚科教育も革新的なものになるだろう。
このシンポジウムの開催趣旨にもあるように、表示装置等における色の再現性の問題が表面化
しつつある一方で、従来とは一線を画する色再現精度を持つマルチスペクトル・イメージング
技術が実用化されつつある。このシンポジウムが、真に診療現場の必要性をみたすデジタル生
体医用画像技術の発展に、果たす役割は大きい。
皮膚科診断にとって必要な色情報の重みは、白黒写真でも十分診断できる疾患から、ごく淡い
色が再現されなければ診断できない疾患まであり、疾患によって大きく異なる。また、診断に
際しては特に重要な色というのが存在する。今後このシンポジウムを通じて、皮膚科専門医と
技術を開発される工学分野の研究者との共同研究が発展していくことを期待している。
なお、今回のシンポジウム全体の成果と設立されたデジタルバイオカラー研究会の紹介を、第
99回日本皮膚科学会総会(2000年5月26-28日、仙台市)の中で開催される「皮膚科コンピュー
タ利用研究会」で、田中 博先生、西堀眞弘先生、沼原利彦の連名で、沼原が発表予定であ
る。デジタルバイオカラー研究会と皮膚科学会との橋渡しになればと願っている。
文献
[1] 沼原利彦:皮膚科領域から.第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム抄録集、3840、1999
[2] Desiree Ranter, Craig O Thomas and David Bickers; The Uses of Digital Photography in Dermatology,
J Am Acad Dermatol 1999;41:749-756
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