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清酒酵母の遺伝子機能解析による新規酵母選別法の開発
群 馬 県 立 群 馬 産 業 技 術 セ ン タ ー 研 究 報 告 ( 2013) 清 酒 酵 母 の遺 伝 子 機 能 解 析 による新 規 酵 母 選 別 法 の開 発 ---第 2 報 --- 増 渕 隆 ・ 日 向 弘 和 * ・ 上 田 涼 史 郎 * ・ 林 秀 謙 * ・ 池 永 裕 * ・ 佐 藤 勝 也 ** Development of a new sake yeast screening method by Gene function analysis -the Second ReportTakashi MASUBUCHI, Hirokazu HYUGA, Ryoushiro Ueda,Hidenori HAYASHI, Yutaka IKENAGA and Katsuya SATOH 新規酵母選別法の開発を目的に、イオンビーム変異により取得した清酒酵母の遺伝子機 能 解 析 を 行 っ た 。 パ イ ロ シ ー ク エ ン ス 法 に よ り イ オ ン ビ ー ム 変 異 酵 母 の 全 ゲ ノ ム DNA 塩 基 配 列 を 解 読 し 、発 酵 特 性 等 の 機 能 と ゲ ノ ム 情 報 が 既 に 明 ら か と な っ て い る 酵 母 と 比 較 し た 。 清 酒 酵 母 間( No.227 及 び き ょ う か い 7 号 )に お い て 、4 種 の PDC 、6 種 の ADH 、2 種 の BIO 遺 伝 子 群 、 及 び CTS1 に は 全 く 相 違 が み ら れ な か っ た 。 キーワード:清酒酵母、イオンビーム育種、カプロン酸エチル高生産変異株、アルコール 発 酵 能 、 PDC, ADH, BIO, CTS1 , FAS2 We analyzed genome sequence of the high ethyl caproate producing sake yeast mutant (No.227) generated by ion beam breeding in order to develop a new method for yeast screening and find factors contributing the reduced ability to alcohol fermentation . In the high ethyl caproate producing sake yeast, four pyruvate decarboxylase genes ( PDC ), six alcohol dehydrogenase genes ( ADH ), two biotin synthesis genes ( BIO ) and chitinase gene ( CTS1 ) might be involved in the reduced ability to alcohol fermentation. The genome sequence of the strain No.227 was determined by a whole-genome shotgun strategy using p yrosequencing method and compared with the whole-genome sequence of the sake yeast strain Kyokai 7, which is characterized by the fermentation property, as a reference sequence . For the PDC , ADH , BIO and CTS1 loci, no mutation was found in the strain No.227, suggesting that these genes did not involved in the reduced ability to alcohol fermentation . Keyword: Sake yeast, Ion beam breeding, the high ethyl caproate producing mutant, Alcohol fermentation ability, PDC, ADH, BIO, CTS1, FAS2 1 は じ め に た変異株の選抜・機能評価には多大な手数と 時間を必要とし、研究の遂行を困難にする一 群馬県では長年にわたり県独自の吟醸用酵 因となっている。本研究はイオンビーム変異 母の開発・普及に取り組んでおり、近年では新 により得られた酵母の全ゲノム DNA 塩基配列 しい変異誘発方法(イオンビーム)による酵 を解読し、発酵特性等の機能とゲノム情報が 母を開発したところである。しかし、こうし 既に明らかとなっている酵母と比較すること バイオ・食品係 で、酵母選抜のメルクマールとなる香気生成 * 前 橋工 科大 学 工 学 部 生 物 工 学 科 ** 日 本 原 子 力 研 究 開 発 機 構 量 子 ビ ー ム 応 用 研 究 セ ン タ 能・発酵能に関する遺伝子群を特定すること ー を目的として行った。 医 療 ・ バ イ オ 応 用 量 子ビー ム 技 術 研 究 ユ ニ ッ ト 2 試 験 方 法 また、アルコール発酵能の低下の要因を明 らかにするために、アルコール発酵経路に関 2.1 ゲノム DNA の抽出・精製 わるピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)及 イオンビーム変異育種により作出したカプ びアルコールデヒドロゲナーゼ (ADH)をコ ロン酸エチル高生産酵母 No.227 株の凍結保 ードする遺伝子群に着目し、GENETYX-MAC ソ 存菌液グリセロ−ルストック 100 µL を YPD 液 フトウェア(Genetyx 社)による DNA 塩基配 体培地に植菌し、30℃で 19 時間振とう培養 列解析を行った。更に、富澤 ( 100 rpm) し た 。 培 養 後 、 菌 体 は 遠 心 分 離 ン前駆体取り組みに関与する BIO2 及び BIO5 ( 15,000× g 、 30 秒 、 4℃ ) に よ り 集 菌 し 、 や細胞質分裂に関与する CTS1 などをコード YeaStar Genomic DNA Kit(Zymo Research 社) する遺伝子群がアルコール発酵能低下への関 を用いてゲノム DNA を抽出した。抽出したゲ 連を示唆していたことから、これら遺伝子群 ノム DNA は、波長 260 及び 280 nm における吸 についても併せて解析を行った。 3) によりビオチ 光 度 を NanoDrop Lite ( Thermo Scientific 社)を用いて測定し、DNA 濃度及び純度を算 3 試 験 結 果 出した。抽出したゲノム DNA は、アガロース 電気泳動によりサイズ及び RNA 夾雑の有無等 3.1 を確認した。 2.2 No.227 のシークエンス 及びゲノムの再構築 DNA ライブラリの調製 GS Titanium Rapid Library Preparation 結果を表 1 に示す。No.227 について 361 個 の Contig が得られ、ゲノムサイズが 14.6 Mb Kit(Roche 社)を使用し、DNA の断片化、DNA と推定された。S288C 及び Ky7 のゲノムサイ 末端の修飾と標識及びサイズによる分画の操 ズが約 12 Mb と推定されているのに比べ約 作を行った。 2.6 Mb 大きい値である。これは平均冗長度が 2.3 エマルジョン PCR による 15 と低く、Contig 間にギャップを多く含むた DNA ライブラリの増幅 めと推測する。 GS Junior Titanium emPCR Kit ( Lib-L ) 表1 No.227 の シ ー ク エ ン ス及 び ゲ ノ ム 再 構 築 状 況 (Roche 社)を使用して DNA ライブラリを増 総リード数 幅し、パイロシークエンスの基質とした。 総塩基数(bp) 2.4 497,772 218,401,406 パイロシークエンス法による 平均リード長( bp) 439 DNA 塩基配列の決定 総 Contig 数 361 パイロシークエンスは、GS Junior Titanium GC 含有量(%) Sequencing Kit 及 び GS Junior Titanium 平均冗長度 PicoTiterPlate Kit(いずれも Roche 社)に 推定ゲノムサイ ズ( Mb) 38.11 15 14.6 より試料を調製し、次世代シークエンサーGS 3.2 Junior システム(Roche 社)を用いてゲノム 結果を表2に示す。清酒酵母はヘテロ 2 倍 DNA の塩基配列を決定した。 2.5 ゲノム DNA の比較 体であり、相同染色体間で塩基配列に相違が DNA 塩基配列解析 あるヘテロザイゴシティーが存在すると考え 得 ら れ た 塩 基 配 列 解 析 は GS de novo られる。従って、リファレンス配列と本研究 Assembler ソフトウェア(Roche 社)による で得られた No.227 の DNA 塩基配列が 50%以 ゲ ノ ム の 再 構 築 を 行 っ た 。 さ ら に 、 GS 上異なっている部位を相違点(塩基置換、小 Reference Mapper ソフトウェア(Roche 社) 規模の挿入及び欠失を含む)とした。No.227 を用いて、ゲノム情報が公開されている実験 との相違点は、S288 において 68,853 ヶ所で 室酵母 Saccharomyces cerevisiae S288C 1) 及 あったのに対し、Ky7 では 1,254 ヶ所であっ び清酒酵母きょうかい 7 号 2) (以下、ky7 とす た。清酒酵母間(No.227 及び Ky7)では、実 る)をリファレンス配列として DNA 塩基配列 験室酵母に比べゲノム DNA に大きな差異は見 の比較を行った。 られなかった。また、Ky7 をはじめとする清 が欠失している可能性が考えられる。しかし、 酒酵母のヘテロザイゴシティーは染色体上に No.227 の親株であるきょうかい 901 号のゲ 不均一に分布している 4) 。同様に、No.227 の ノム DNA はまだ明らかにされていないため、 ヘテロザイゴシティーの分布は不均一である 今後、きょうかい 901 号のゲノム DNA の比較 ことが推定され、ホモ 2 倍体である S288C と を行うことでこれらの可能性を明らかにする のゲノム比較では、清酒酵母に比べ多くの相 ことができると考えられる。 違点が見出されたと考えられる。Ky7 と S288C さらに、ミトコンドリア DNA に関しては、 における相違点は 88,378 ヶ所であるが、塩基 No.227 と S288C 間でのみ相違点が確認され 配 列 レ ベ ル で は 96.2% の 高 い 相 同 性 を 有 し た 。酵母はグルコースが豊富で酸素が少ない ており、残りのわずかな相違の中に清酒酵母 ときにはミトコンドリアの発達を抑えて、ア の特徴を見出すことができる可能性がある 4) 。 ルコール発酵を優先する 8) 。No.227 のミトコ No.227 と S288C のゲノム DNA の比較におい ンドリア DNA において、ミトコンドリアの発 て、第 II~XVI 番染色体までは 90%以上のカ 達の抑制に関連する遺伝子群に変異が生じて バー率を示したが、第 I 番染色体においては いれば、清酒酵母と実験室酵母間のアルコー 80.00%と低い値であった。同様に Ky7 の第 I ル発酵能の相違の要因となる可能性があり、 番染色体に対して 90.38%と他の染色体より 今後詳細に解析する必要がある。 も低いカバー率を示した。DNA の断片化ある 3.3 いは DNA ライブラリの調製の際に、第 I 染色 アルコール発酵に関与する 遺伝子群の変異解析 体の領域のリード数が少なかった可能性を否 解析の結果を表4に示す。アルコール発酵 定することはできないが、No.227 の染色体が 経路に関与する遺伝子群として、S288C 及び S288C 及び Ky7 よりも小さい可能性があり、 Ky7 は、いずれも 4 種のピルビン酸デカルボ この領域を DNA マーカーとすることで酵母株 キシラーゼ(PDC1、PDC2、PDC5 及び PDC6)及 間を識別することができるかもしれない。ま び 6 種のアルコールデヒドロゲナーゼ (ADH1 た、イオンビーム変異育種は、欠失や転移、 ~6)をコードする遺伝子を有する。S288C 株 挿入など大規模な構造変化を高頻度に起こす においては、ADH6 遺伝子を除く 9 種の遺伝子 ことが特徴であるため 6) 、イオンビーム変異 群に相違点がみられたが、清酒酵母間(No.227 育種により作出された No.227 株の第 I 染色体 及び Ky 7)においては、10 種の遺伝子群全て は、大規模な欠失があるのかもしれない。Ky7 で相遺はみられなかった。清酒酵母間に相違 の第Ⅰ染色体(213 kb)との比較において、 がみられないことから、No.227 のアルコール 決定した No.227 株のゲノム DNA が 500 bp 以 発酵能低下の要因が PDC 及び ADH に生じた突 上の範囲でカバーできていない領域は、7 ヶ 然変異に起因する訳ではないことを明らかに 所で合計約 20 kb であった(図 1)。このカバ した。しかし、アルコール発酵時におけるこ ーできていない領域内には、3 つの遺伝子 れら遺伝子群の発現量については明らかにさ ( EHL1 、 PAU8-1 及び YAL067W-A )が存在して れていないことから、各遺伝子群の発現抑制 いた。EHL1 遺伝子は、エポキシド加水分解酵 に関わるプロモーター領域についても今後さ 素をコードしているが、清酒酵母においてど らなる解析が必要である。 のような機能を持っているかは明らかとなっ ていない。また、 EHL1 遺伝子は、S288C は持 っていないが 4) 3.4 アルコール発酵能低下に関連が 示唆される遺伝子群の変異解析 、代表的な清酒酵母であるき これまでに、富澤により、No.227 を含む ょうかい 6、7、9 及び 10 号が持つことから、 カプロン酸エチル高生産清酒酵母におけるア 清酒酵母に特有の遺伝子である 7) 。また、 ルコール発酵能低下の原因はビオチン前駆体 PAU8-1 及び YAL067W-A 遺伝子は、S288C にも 取り込み、ビオチン生合成に関与する BIO2 コードされているが、いずれも機能未知遺伝 及び BIO5 や細胞質分裂に関与するキチナー 子である。このように、No.227 ではイオンビ ゼ CTS1 をコードする遺伝子群の発現抑制に ーム照射によって、3 つの遺伝子を含む領域 よると示唆されている 3) 。BIO2 及び BIO5 タ ンパク質は、脱炭酸酵素の補酵素であるビオ これまでにイオンビーム変異育種によって チンの生合成に関連しており、これらの遺伝 作出した優良清酒酵母 No.227 は、カプロン酸 子群の発現抑制による酵母代謝の低下を引き 生合成において、変異型 FAS2 タンパク質を有 起こす。また、CTS1 タンパク質は細胞壁の主 することでカプロン酸エチルの生産量が向上 成分であるキチンを加水分解するが、CTS1 タ し、カプロン酸エチル高生産性に繋がってい ンパク質の不足による細胞質分裂不全が起こ ると考えられてきた ると考えられている。表5に示した解析にお いてパイロシークエンス法により決定した いて PDC 及び ADH 遺伝子群と同様に No.227 FAS2 遺伝子領域の DNA 塩基配列と従来のサン における BIO2 、 BIO5 及び CTS1 遺伝子群は、 ガ ー 法 で 決 定 し た DNA 塩 基 配 列 を 比 較 し 、 S288C との各遺伝子群とは幾つかの相違点が No.227 の有する 3 ヶ所の変異部位を変異部位 みられたが、清酒酵母間では相違点がみられ の再確認を行った結果を表6に示す。FAS2 遺 なかった。このことから、富澤が示唆するよ 伝子領域の DNA 塩基配列は、パイロシ−クエン うに、カプロン酸エチル高生産酵母における ス法とは異なる原理であるサンガー法で決定 アルコール発酵能低下の要因の一つとして、 した配列と同一であった。特に、FAS2 遺伝子 突然変異による BIO2、BIO5 及び CTS1 タンパ の 3,748 番目の塩基 G/G が G/A にヘテロ変異 ク質の機能低下ではなく、 BIO2 、 BIO5 及び し て お り 、 こ れ に よ り FAS2 タ ン パ ク 質 の CTS1 遺伝子群の発現抑制に起因する増殖不 1,250 番 目 の ア ミ ノ 酸 が Gly/Gly か ら 良による可能性が考えられる。 Gly/Ser に変化していることが推察され、こ 5) 。そこで、本研究にお れまでの研究結果を支持するものである。 3.5 FAS2 遺伝子領域の変異部位の再確認 表3 No.227 と S288C 及び Ky7 のゲノム DNA 比較 リファレンス配 列 染色体番号 S288C 塩 基 数 (bp) ORF 数 Ⅰ 230,218 94 80.00 Ⅱ 813,184 406 Ⅲ 316,620 Ⅳ Ky7 カ バ ー 率 (%) 相違点 ※2 ORF 数 1,754 213,441 92 90.38 10 96.50 3,335 789,713 401 98.44 108 160 93.95 2,262 327,122 156 91.71 138 1,531,933 754 94.32 9,490 1,471,808 746 97.87 153 Ⅴ 576,874 277 95.98 3,490 599,781 264 92.94 5 Ⅵ 270,161 126 94.52 1,398 269,827 123 97.44 17 Ⅶ 1,090,940 527 95.89 6,608 1,079,709 522 97.62 79 Ⅷ 562,643 281 92.13 3,581 535,830 275 96.83 117 Ⅸ 439,888 207 94.60 2,730 443.705 218 97.21 7 Ⅹ 745,751 357 94.20 3,597 709,813 355 96.60 110 ⅩⅠ 666,816 312 99.23 3,434 667,686 316 98.48 21 ⅩⅠ 1,078,177 508 92.61 5,047 1,026,537 488 97.18 41 ⅩⅢ 924,431 460 96.99 4,698 915,388 463 97.62 114 ⅩⅣ 784,333 393 95.73 4,895 779,329 394 96.34 177 ⅩⅤ 1,091,291 536 95.21 5,891 1,054,388 529 98.50 59 ⅩⅥ 948,066 464 95.00 5,912 902,266 452 97.90 71 ミトコンドリア 85.779 19 91.46 731 82,005 21 99.10 0 - - その他 計 12,157,105 5,881 94.02 ※1 68,853 11,868,348 5,815 カ バ ー 率 (%) 相違点 ※2 塩 基 数 (bp) 27 96.59 ※2 1,254 ※1 ゲ ノ ム DNA(16 本 の 染 色体 と ミ ト コ ン ド リ ア を 含 む )の平 均 値 ※2 清 酒 酵 母 が ヘ テ ロ 2倍体 で あ る こ と を 考 慮 し 、 リファ レ ン ス 配 列 と の 塩 基 配列 50%以 上 異 な っ て い る 箇 所 を 計数。 ま た 、 塩 基 置 換 、 欠 失 、 挿入を 含 む 。 Ky7 Choromosome Ⅰ 図1 Ky7 及び No.227 の第Ⅰ染色体の比較 白 ボ ッ ク ス は 、Ky7 の 第 Ⅰ 染 色体 を 、黒 ボ ッ ク ス は、No.227 が カ バ ー で き て い な い 領 域を、矢 印 は 、カ バ ーで き て い ない 領域内の遺伝子を示す。 表4 アルコール発酵経路に関与する遺伝子群の相違点 S288C 遺伝子 表5 Ky7 染色体番号 塩 基 数( bp) 相違点 塩 基 数( bp) 相違点 PDC1 ⅩⅡ 1,692 2 1,692 0 PDC2 Ⅳ 2,778 23 2,778 0 PDC5 ⅩⅢ 1,692 10 1,692 0 PDC6 Ⅶ 1,692 23 1,692 - PDC6a Ⅶ 321 - 321 0 PDC6b Ⅶ 1,311 - 1,311 0 ADH1 ⅩⅤ 1,047 12 1,047 0 ADH2 ⅩⅢ 1,047 4 1,047 0 ADH3 ⅩⅢ 1,128 1 1,128 0 ADH4 Ⅶ 1,149 4 1,398 0 ADH5 Ⅱ 1,056 1 1,056 0 ADH6 ⅩⅢ 1,083 0 1,083 0 アルコール発酵能低下に関連が示唆される遺伝子群 の相違点 S288C 遺伝子 Ky7 染色体番号 塩 基 数( bp) 相違点 塩 基 数( bp) 相違点 BIO2 ⅤⅡ 1,128 1 1,128 0 BIO5 ⅩⅣ 1,686 16 1,596 0 CTS1 ⅩⅡ 1,689 6 1,689 0 FAS2 遺伝子領域の変異部位の再確認 表6 配列番号※1 Ky7 ※ 2 No.227 サンガー法※3 パイロシークエンス法 ( 塩 基 の 割 合 (% )) 塩基 -61 C C/C C/C(100/100) 塩基 1,542 A A/A A/A(100/100) アミノ酸 514 Glu Glu/Glu Glu/Glu 塩基 3,748 G G / A G/A(47 / 53) アミノ酸 1,250 Gly Gly/Ser Gly/Ser ※1 塩 基 配 列 は 開 始 コ ドンの ATG の A を 、 ア ミ ノ 酸 配 列 は 開 始 ア ミ ノ 酸 の Met を 1 と し た と き の 番 号 を 示 す 。 ※2 Ky7 の 塩 基 配 列 は Sake Yeast Genome Database 2) 参 照 ※3 No.227 の サ ン ガ ー 法 によ る 塩 基 配 列 は 上 田 5) の報告参照 4 CTS1 及び BIO2 の発現がイオンビーム変異に ま と め より得られた他の清酒酵母(No. 1333)にお 次世代シークエンサーを用いた No.227 の いて有意に抑制されていることがわかってい 3) ゲノム DNA の塩基配列を解読し、ゲノムサイ る 。イオンビーム変異酵母ではもろみ中の ズが 14.6Mb と推測された。しかし平均冗長度 酵母の大きさが有意に大きくなっていたこと が 15 と低く、これは Contig 間にギャップを と併せて考えると、CTS1 にコードされたキチ 多く含む為であると考えられ、 更なるシーク ナーゼの不足による細胞質分裂不全、もしく エンスを行う事で精度は向上すると思われた。 は BIO2 にコードされたビオチン合成酵素の 決定した No.227 の DNA 塩基配列について、 不足による代謝不良に起因する増殖不良ひい 塩基置換、小規模の挿入及び欠失を含む相違 ては発酵能低下が起こった可能性が推測され 箇所は、S288C との比較は 68,853 箇所であっ る。 たのに対し、同じ清酒酵母である Ky7 との比 較では 1,254 箇所にとどまった。また、Ky7 今後はこれらの遺伝子をコードする遺伝子 と No.227 では、PDC、ADH、BIO5、CTS1 をコ 領域を次世代シークエンサーで詳細に解析し、 ードする遺伝子群には相違箇所は見られなか 遺伝子構造の変化を解明すると共に、それら っ た 。 既 に 別 の 方 法 で 解 析 を 行 っ た No.227 の変異を効率よく検出できる方法を検討して の FAS2 遺伝子領域に関して、本研究でも同じ いきたい。 点突然変異が確認されていることから、本研 究でのシークエンスは一定の精度は確保でき 文 献 ているものと推測される。DNA マイクロアレ イ お よ び リ ア ル タ イ ム RT-PCT の 解 析 か ら No.227 の BIO5 、 CTS1 の発現が低下している 結果が得られていることを考慮すると、これ ら の 遺 伝 子 本 体 で は な く 、そ の 上 流 領 域 に 何 らかの変異が起きている可能性がある。 今後は、更にシークエンスを行うことで解 読精度を向上させると共に、今回解析を行わ なかった領域についても精査しなければなら ない。また、本研究ではゲノムデータが公開 されている S288C および Ky7 との比較しか行 わなかったが、今後は No.227 の親株であるき ょうかい 901 号のゲノム DNA 塩基配列を決定 し、比較する必要があると考える。FAS2 領域 の解析から、群馬 KAZE-2 号酵母 5) 、イオンビ ーム酵母とも 1250 番目のアミノ酸に既知の 変異が存在し、著量のカプロン酸エチル生産 性はこれに起因すると推測された。 一方、リアルタイム RT-PCR の結果から、 1) Saccharomyces GENOME DATABASE (http://www.yeastgenome.org/). 2) Sake Yeast Genome Database (http://nribf1.nrib.go.jp/SYGD/) 3) 富澤佑貴:前橋工科大学 平成 24 年度修士論文(2013) 4) Akao, T., et al.: DNA Research 18, 423—432(2011) 5) 上田涼史郎:前橋工科大学 平成 24 年度卒業論文(2013) 6) Toyoshima, Y., et al.: Mutation Research 740, 43—39(2012) 7) 下飯 仁, 藤田 信之 : 化学と生物 45, 539—543(2007) 8) 北垣 浩志 : 生物工学 87, 66—71(2009)