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インド 〜報酬設計からみる現地役職者の採用・リテンションと駐在員処遇
インド 〜報酬設計からみる現地役職者の採用・リテンションと駐在員処遇 マーサージャパン株式会社 インフォメーション・ソリューションズ プリンシパル 工藤 純子氏/シニアコンサルタント 片岡 匠氏 在インド日本国大使館およびJETROが2015年1月に発表した 『インド 1は各国の経理マネージャー職の報酬構成についての比較だが、 インド 進出日系企業リスト』 によると、 インドの日系企業数は1,209社と2012年 だけ、 Allowance (手当て) の割合が突出して高い。 これはインドでは、基 時点と比べて137社、 13%の増加であった。 本給に税金が発生する税制となっていることから、 節税のためAllowance インドの経済成長は、 12億人という人口が牽引している。今後さらに人 の割合を意図的に高めるような報酬体系を従業員側が要望しているため 口増加が見込まれ、 巨大な内需の勃興への期待から、 日本企業の進出も だ。 増加の一途をたどっている。 こうした現地の人事プラクティスに精通し、 日本人の幹部層と現地ス 一方で、 現地の従業員とのコミュニケーション、 異なるインフラの整備状 タッフとの架け橋となって人事業務を取り仕切る人事マネージャーの存在 況、 言語や文化への対応、 日本独自のビジネスモデルの展開の難しさなど は必要不可欠だといえる。 から、 インドマーケッ トの開拓の困難さを挙げる企業も多い。特にインドにお 第2・第3の人事諸情報の整備と人材獲得競争を勝ち抜くための報酬 ける人材の採用・リテンション (引き留め) は他の新興国と同等かそれ以上 水準の引き上げだが、 これらは現地の市場データを入手し、 実態と比較す の難しさがあるといっても過言ではない。結論から述べると、 インドにおける ることが第一歩である。 たとえば、 人事諸情報の整備を行う際には、 グロー 人材の採用・ リテンションのポイントは以下の3点だ。 バルな人事コンサルティング会社が実施している各種人事調査などの ・優秀な人事リーダーの確保 マーケットデータを入手するケースが多い。表2は弊社で実施している報 ・人事諸情報の整備 酬調査のデータを基に2013~2015年のアジア各国の昇給率を比較し ・人材獲得競争を勝ち抜くための報酬水準の引き上げ たものだ。 1つ目の優秀な人事リーダーの確保は、 日本人駐在員の社長や管理部 ご覧いただくと日本が約2%前後の昇給率に対して、 他のアジアではそ 長と現地スタッフの間に入って、 人事業務全般を取り仕切る人事リーダー れ以上となっていることがわかる。特にインドでは3年間でいずれも昇給率 を想定している。 10%となっており、 他のアジアの国と同等かそれ以上に給与の上昇率は インドでは、 日本国内の多くの企業とは異なるように職能主義ではなく、 高い。 もちろん、 実際に支払っている金額はまだまだ日本が高いケースが 職務主義が徹底されており、 取り組む仕事も欧米のようにジョブディスクリ 多いが、 中国やシンガポール、 タイなどにおいて、 すでに幹部層の報酬にお プション (職務記述書) で明示されていることが一般的だ。 そのため、 比較 いては日本以上に高い報酬を払っているケースも出てきている。今後はイ 的欧米型に近い人事体系であるといえる。 ンド現地採用者の中で、 日本本社の同じ役職以上の報酬を得るケースも また、 たとえば、 インド独特の人事プラクティスというようなものもある。表 出てくるであろう。 表1. 各国の経理マネージャー職の報酬構成 日本企業が海外に進出した際に、 こうした報酬水準の本社と海外子会 オーストラリア バングラデシュ 北京 上海 香港 インド インドネシア 日本 マレーシア ニュージーランド パキスタン フィリピン シンガポール 韓国 スリランカ 台湾 タイ ベトナム Base salary 80 35 19 10 78 82 84 36 46 65 82 82 89 66 80 81 81 65 85 74 78 Allowances 1 5 1 14 36 3 12 2 5 3 12 3 1 11 4 7 11 4 14 1 16 2 11 6 1 10 1 6 5 6 3 9 23 3 6 12 1 15 12 5 9 5 10 7 18 13 2 2 14 9 2 9 11 Variable pay (出典) Mercer Structure of Salary Around The World (2013) 14 mizuho global news | 2015 SEP&OCT vol.81 LTI Benefits 社との逆転現象を良しとせず、 低い水準に留め置くことで、 人材獲得競争 で負けるケースが散見される。 インドの退職率は12%と他のアジアの国と 比べても高く、 特に優秀な人材ほど転職することが一般的だ。一律に報酬 を高く設定する必要はないが、 特に幹部層や主要ポジションにおいては、 表2. 2013〜2015年 アジア各国昇給率(2015年は昇給率予想値) 12 2013年 10 2014年 2015年 8 6 4 2 0 中国 香港 インド 日本 マレーシア フィリピン (出典) Mercer 2014 Total Remuneration Survery 台湾 タイ ベトナム 表3. 生活環境の評価 (例) 政治・社会環境 犯罪 文化環境 メディア、検閲 医療・衛生事情 病院、医療施設 大気汚染 教育施設 学校 公共サービスおよび交通機関 電気 道路の渋滞 レクリエーション コンサート・演劇 スポーツ・レジャー 消費財の調達 日用品 アルコール飲料 住環境 住宅 自然環境 気候 サーベイでは年間約150万円から180万円程度を支給している企業が バンガロール チェンナイ ムンバイ ニューデリー 6 7 4 5 7 7 7 7 5 3 6 3 6 2 6 1 6 5 7 8 <その他の費用> 3 3 4 3 5 3 4 3 その他、 住宅は発電機完備の物件を確保しその家賃を会社が負担す 3 4 3 4 4 5 4 5 8 6 7 6 9 6 9 6 5 4 4 4 6 3 4 2 出所:Mercer International Quality of Living Reportより一部抜粋 10:優良、1:劣悪 多い) 。 ハードシップ手当設定に際しては、 まずは現地の生活環境について正 確に状況を把握し、 これを他都市も含め共通指標で測り、 そのうえで相対 的にインド各都市の生活環境の厳しさ等を評価することになる (表3) 。 る、 子女教育については帰国後の進級等に支障のない機関の費用を会 社が負担する等の配慮は欠かせない (たとえばムンバイでは日本人学校で も授業料が年間約200万円かかる) 。 加えて買い物や健康診断等の目的で近隣の第三国に渡航できる特 別休暇や、 医療設備の整った都市への緊急時搬送サービスなど、 セイフ ティネッ ト整備についても考慮する必要がある。 <公租公課> 競争力のある報酬水準を実現すべきである。 インドとは社会保障協定について署名は済んでいるものの、 いまだ発効 またインドビジネスの拡大に伴い海外からインドに派遣される海外駐在 されていないため、 現時点では同国の従業員積立基金および従業員年 員人数も増加している。外務省の海外在留邦人数調査によると、 民間企 金基金への加入が義務付られている。 このような海外勤務中に発生する 業からのインドへの派遣者は10年前の2005年時点で約850人であった 公租公課についても一般的には会社が負担することになる。 が、 2014年には5倍以上の4,300人超となっている。 そこでインドへの派 このようにインドという一般には低コストと考えられがちな国への派遣に 遣者に対する処遇について、 主要考察ポイントを少し整理してみたい。 ついても、 実際にはまだ先進国ではないが故に配慮しなくてはならない点 <物価> も多く、 海外駐在員の人件費は他都市への派遣者に比べても低いもの 一般にインドの物価は安いというイメージがあると思うが、 実態としては ではない。 日本人に限らず海外からインドの各地に派遣される場合、 日々の生活物 インドのビジネス拡大は今後も継続するものと思われるが、 駐在員処遇 資について輸入品に依存する傾向が強く、 また本国や近隣のシンガポー について上記ポイントに配慮しながらご検討いただくことと同時に、 日本か ル、 バンコクなどでも調達している。 そのため実は生活物資を買い揃えるた らの派遣者、 第三国からの派遣者、 現地雇用の社員の最適な活用を検 めの費用は必ずしも安くはない。 討することも重要である。 マーサーが提供している世界各地の物価指数でも、 日常物資の一部 本国・第三国調達を想定した場合、 最近の円安基調の下ではコストは日 本よりも高くなるという状況にある。 <生活環境・ハードシップ手当> 物価差に加え、 会社として考慮しなくてはならないのが現地の生活環境 の厳しさである。 たとえば微小粒子状物質PM2.5は、 WHOの調査で世界 1,600都市中、 最も濃度が高かったのはインドのデリーであり、 ワースト20 の半数をインドの都市が占めていた。 またインドはまだインフラ整備が十分 工藤純子氏 プロフィール 海外派遣者の給与・処遇全般についての制度設計やグローバルに統 一した海外派遣者処遇制度の構築等の各種コンサルティングに従事。 総合商社、横河オーガニゼーション・リソース・カウンセラーズを経て現 職。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒、 コーネル大学Graduate School of Industrial and Labor Relations修了 (MILR) 。 ではないので停電も少なくない。 このような環境下では会社の費用で空 気清浄機や発電機を設置する等、 生活環境の緩和をまず検討する必要 がある。 こうした現物給付に加え、 インドにおいてはハードシップ手当を支給する ことも一般的である。支給水準は企業により異なるが、 ハードシップ手当 支給対象都市の中でも高いランキングに位置することが多い (マーサーの 片岡匠氏 プロフィール 各国の役職員の報酬、福利厚生、人事諸制度の構築や水準把握等を 支援。特に日本企業のグローバル展開や産業別のフォーラム活動の開 催などに注力している。総合情報サービス企業、 日系コンサルティング 会社の営業責任者を経て、現職。早稲田大学社会科学部卒。 mizuho global news | 2015 SEP&OCT vol.81 1 5