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昆 虫 展 - 山形県立博物館

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昆 虫 展 - 山形県立博物館
4、 東洋区とオーストラリア区の顕著な共通分布種群
ことに蝶類研究家に多用される、 インド・オー ストラリア区
の呼称の因りどころとなっている共通分布蝶群について述べて
みたし、。
このことについては、 既にふれているが、 更にまずトリパネ
昆
チョウ類をあげてみよう。
この見事な大蝶は、 現在キシタアゲハ、 アカエリトリパネア
ゲハ、 トリパネアゲハの8属に分けられている。 トリバネアゲ
ハ類はインド・オーストラリア区に固有の蝶で、 この区の呼称
虫
展
ーフィリピンとニューギニアのチョウー
の重要分子である。 しかし、 先に述べたように、 これを分ける
と、 アカエリトリパネアゲハ属は東洋区に、 トリパネアゲハ属
はオーストラリア区に特有であり、 キシタアゲハ属は前区に強
4月21日(土)'"'-' 5月20日(日)
く発達しており、共通性をもっとともに、 分区性を示している。
雄大なオオゴマダラ類も共通分布群であるが、 オー ストラリ
ア区に達しているのはオオコ・マダラl種 (この地方の本種はク
ロオピオオゴマダラなる別種とされてきたが、 現在では同種の
亜種とされている)である。
シロチョウ科でもっとも顕著な ツマベニチョウ属も両区共通
開催にあた って
群であるが、 ツマベ ニチョウは東洋区にのみ分布し、 他の1種
ヒイロツマベニチョウは、 オーストラリア区に入るそ ルッカ諸
美しいチョウを求めて、 山野を走りまわった体験が、 はじめ
島に分布するだけである。
ルリマダラ属は5 2種とされ、 ア オスジアゲハ属のアオスジ
アゲハ亜属は2 6種からなる熱帯の代表的種群で、 これらは両
区に均等的に分布し、
「インド・オーストラリア区」の呼称に
ての自然 との交わりであり、 出合いであった方も多いことでし
ょう。このような体験は鮮烈な思い出として、 いつまでも心の
ふるさととして生き続けていくものです。
山形市の大石道明氏もチョウの美しさ、 神秘さに、 とりつか
ふさわしい蝶類である。 ただ ルリマダラ属の若干の種類が、 例
れてから久しし、。 チョウを介しての自然との交わり、 出合いが
外的に、 アフリカ区に入るインド洋上の小島に産する。
強烈であったことが、 いまでもチョウを求めて、 世界各地に収
集にでかけさせているのでしょう。
付
記
本展は、 大石氏が所蔵する膨大な昆虫資料のうちからフィリ
今回の展示は蝶類を主としたものであるが、 特別に東洋区の セ
ピンとニューキ.ニアのチョウを中心に展示します。 日本のチョ
ミとカワト ン ボ類 ( カワトン ボ科とハナダカトン ボ 科)を展示し
ウとのかかわりあいや分類、 分布上の問題を探ろうとするもの
た。 ともに東洋区でよく繁栄している昆虫群である。 熱帯の カワ
です。
ト ン ボ類はまことに優美華麗 な種が多く、 熱帯が生んだ芸術品と
山形県立博物館
もいうべき昆虫である。
(白畑
記)
東洋区とオーストラリア区の蝶
1、 東洋区とオーストラリア区
東洋区とは生物地理学上の生物分布区分の地域呼称で、 いわ
ゆる東南アジアを主地域としている。これにつづく東 方のニュ
ーギニア及びオーストラリアとその属島、 更に東南太平洋の島
々をオーストラリア区(豪州、|区) とし、し、区分する。しかし、 近
年両区を合して、 インド・オー ストラリア区と称されることが
多く、 ことに蝶の生物地理研究上多用されているが、 これは妥
ラ、 マレ一等に分布し、 世界に誇る蝶である。世界最大最美 のシロ
よる種群の分化の強調を、 その標徴とみることができるようで
チョウと讃えられるツマベニチョウもこの区特有の種で、 東洋区な
ある。ワモンチョウ科のメダマチョウ類の発達、 ルリマダラ属
らではの種類である。ジャワの外側にニアス島とし、う小列島があり、
の白化型の出現や、 カラスアゲハ類 のもう一つのグルー プであ
ここの蝶はことごとく特異な地方型 (亜種) を形成していることで
るオピクジャクアゲハーオオルリアゲハ群は、 この区で分化発
知られている。この島のツマベニチョウは、 週の白地が鮮黄色にな
達している。これらの蝶もさることながら、 この区特有の真正
っていることで有名であるが、 この島のもつ進化性の極限を示すも
トリパネアゲハ類こそ、 オーストラリア区の蝶の代表である。
のだろう。また燃えるような赤さのベニシロチョウも、 この区を代
緑、 青、 金、 金緑、 赤褐色と、 種それぞれの特有の色彩に輝く
表する蝶の一つである。光り と緑 の満ち溢れる東洋区の本土と島々、
この美大なト リバネアゲハ類は、 世界の蝶の最高ともてはやさ
マレ一、 スマトラ、 ジャワ、 フィリッピンと、 どの地をとっても興
れているが、 本区の中でも、 ソロモン群島で、 もっとも分化し
当なことでなし、。後で述べるように両区に共通の蝶群が多いが、
味津々の地で、 甲乙つけがたいが、 わけてもセレベスとその属島の
ている。
世界の生物分布区は、 あらゆる生物 の分布から、 最大公約数的
蝶相は素晴らしし、。 由来オーストラリア区との関係で、 しばしば両
シロチョウ科のカザリシロチョウ属も、 この区で特に発達し
なみちびきによって設定されているもので、 単にある一群の生
区のいずれに入れるか論争されてきたが、 現今では東洋区に属させ
物の分布態様から、 世界の生物分布区の呼称を変えるべきでな
ている。 この島に特産の蝶が多く、 オオオナガタイマイ 、 ドロクス
日本では高山蝶とされているミヤ マシロチョウや、 本邦では北
し、。インド・オーストラリア区なるものは、 アフリカ区や旧北
オオオナガタイマイ 、 オオルリオピアゲハ、 セレベスアゲハ等は、
海道にのみ見られるエゾシロチョウなどが含まれる。エゾシロ
区と同等的な単位呼称ではなく、 あくまで、 便法的あるいは複
ており、 ニューキ・ニアが分化の中心となっている。この類は、
世界の蝶の華といってよし、。また共通分布種でも、 亜種化が強い。
チョウ属に近縁であるが、 これが熱帯に進出し、 大分化を起し
合呼称で、 旧北区 (アジア北部と欧州) と新北区 (北アメリカ)
しかも類録の遠近にかかわらず、 いわゆるセレベス型になることで、
たものと考えられる。エゾシロチョウ属の諸種が、 白と黒の 2
を合して全北区と称することに当る。
それは大型化、 暗化、 前週の尖突化等の諸形質の平行現象表現 の亜
色からなる姐色なのに、 カザリシロチョウの仲間は、殊に後麹
種分化で、 セレベスはまことに生物進化の聖地である。
裏面にあらゆる色といってよいくらいの、 多彩な紋様を現わし
2、 東洋区の蝶
ており、 とてもエゾシロチョウ属の近縁群とは思えないほどで
東洋区の蝶といってもその構成は複雑多岐であるが、 その主
ある。約160種で、 東洋区とオーストラリア区の特有属であ
源流は、 熱帯アジア大陸にあると考えられている。この区の蝶
り、 インド、 オーストラリア区と呼称させる有力分子であるが
は、 南アメリカ区と並ぶ世界における大発展地を形成している。
この中ニューギニアだけに約7 0種が分布している。
わけでも、アゲハ民殊に真正アゲハ類が、 発達を遂げてL 、る。
オーストラリアは、制模地帯が多いため、 大陸といわれる広
マダラチョウ科や、 ワモンチョウ科もよく発達し、 雄大なオオ
面積の割り合いには蝶の種類が少なし、。しかし、 タスキシジミ
マダラ類はほとんどこの区に集中し、 大形蝶で有名なワモンチ
その他特有のシジミチョウ科が発達し、 この地区の蝶を代表し
ョウ属はこの区の特産である。
ている。またムカシオナガタイマイ
美大なカ ラスアゲハ類は、 蝶の収集家をとりこにするが、 こ
もこの大陸特有の蝶である。オーストラリア の東 ニュージーラン
れはおよそ2群に分かれ、 真正カラスアゲハ群(カラスアゲハ
ドは極めて蝶類が少なく、 僅か1 8種が分布するだけである。
ールリモンアゲハグループ) はこの区特有で、 オーストラリア
しかしこの中に、 かつて旧北区を代表する蝶の一つペニヒカゲ
区には分布しなし、。
オオクジャクアゲハ、 カルナルモンアゲハ、 ルリモンアゲハ
等が顧著な種で、 熱帯の陽光の下で光り輝く姿は、 筆舌につく
ウスパジャコウアゲハ等
属とされていたミナミベエヒカ ゲと、 同じく同区で発達してい
メガネトリパネアゲハ
5、 オーストラリア区の蝶
しがたいものという。またアカエリトリバネアゲハは、 この区
東洋区の東に展開するオーストラリア区の蝶相 は、 東洋区に劣
特有のトリバネアゲハの1種で、 パラワン、 ボルネオ、 スマト
らず興味深L、。この区の蝶の源流は、 東洋区系群だ、 この東進に
るベニシジミ属が3種産する。これらの仲間は東洋区及び他の
オーストラリア区に分布せず、 まことに不思議な存在の蝶とな
っている。
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