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1 はじめに 自動車の誕生以来、一貫して高いエネルギー

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1 はじめに 自動車の誕生以来、一貫して高いエネルギー
はじめに
自動車の誕生以来、一貫して高いエネルギー密度と取り扱い容易な石油起源のガ
ソリン、軽油という炭化水素系の液体燃料を用いており、それに対応した自動車技術
を発展させてきた。しかし、近年の環境・エネルギー問題の制約ゆえに、自動車産業
は、自動車燃料と技術におけるパラダイム・シフトに直面している。
世界主要国において、燃費、排ガス等の環境規制は厳しくなる一途を辿っており、
世界の自動車メーカーがそれに対応した取り組みを加速させている。具体的には、日
本においては、燃費改善のための燃焼技術や車体軽量化等の技術開発が図られるとと
もに、ハイブリッド技術等で世界をリードしており、他方、欧州においては、環境に
対応したディーゼル技術で世界をリードしている。また、車種別に見た場合、乗用車
については、世界の自動車メーカーは将来的に燃料電池を念頭において開発競争を続
けている一方、商用車・大型車(トラック・バス等)は、暫くは経済性の観点から引
きつづき軽油ディーゼルが主力と考えられるが、排ガスの問題が払拭されず、また、
一部に天然ガスやLPガス等を燃料とした自動車が普及している。
他方、自動車の燃料選択については、環境への負荷の程度や、供給の安定性と
いった様々な制約要因とともに、GTL等新たな燃料に代表される様々な選択肢が提
示されているが、これらを客観的で共通の尺度で評価したものは無いため、選択肢を
絞り込む議論が本格化していない。
また、世界的な規模で生産、供給を担当するこれからの自動車産業を考えるに当
たって、欧米における議論の動向や、アジアの動向も適切に視野に入れた検討を行う
ことが必要不可欠である。
上記のような状況を踏まえ、利用可能な燃料と技術開発の帰趨の両面から、今後
の道筋を示していくことが日本の自動車産業の競争力向上に極めて重要である。
こうしたことから、今後の国際的な環境・エネルギー問題の方向性を十分に踏ま
えながら、利用可能なエネルギーの供給可能性について大きく俯瞰した上で、自動車
の使用用途等のカテゴリーを整理しつつ、自動車燃料・技術に関する長期的な見通し
の検討を目的として、平成 14 年 10 月から、経済産業省において「次世代低公害車
の燃料及び技術の方向性に関する検討会」を開催した。
検討会においては、国内・海外の関連企業、有識者等、自動車燃料・技術に係る
幅広い関係者からのプレゼンテーションとそれを踏まえた議論を行いつつ、9回の会
合を開催し、今般、報告を取りまとめることとなった。
なお、本報告をとりまとめるに当たり、平成 15 年5月から6月に、大気環境問題
への対応に向けたディーゼルトラック・バス等の燃料・技術の評価及び方向性につい
ては、学識経験者で構成される検討会ワーキンググループを5回開催し、有識者等か
らヒアリングを実施した上で、ワーキンググループ報告をとりまとめている。
1
第1章 自動車燃料と技術の方向性
1.検討の視点
自動車を巡る環境・エネルギー問題への対応については、これまで、大気環境対
策、地球温暖化対策、エネルギーの供給多様性の確保等個別の政策課題毎に、自動
車の燃料あるいは技術に関する検討がなされ、必要な選択・措置が講じられてきた。
21世紀は「環境の世紀」とされ、あらゆる環境・エネルギー問題への対応が求めら
れている中、関連する政策課題のタイムフレーム、要請等を総合的に踏まえながら、
共通の客観的な尺度でこれからの自動車の燃料と技術の選択肢を比較検討すること
が求められている。
このような中、自動車の燃料・技術の変革は、そもそもその技術革新には時間が
かかるものであることに加え、7000万台を越える走行段階にある自動車を新しい燃
料・技術体系に置き換えていく上で燃料インフラ面も含め長い移行期間がかかるこ
とから、経済社会全体による数十年単位の長期的な取組みであり、関係者のコンセ
ンサスを広く得ながら、新しい自動車の燃料・技術に関する長期的な見通しを検討
していくことが必要である。
個別の環境・エネルギーに係る政策課題として、第一に、大気環境問題の改善に
関する社会的要請が高まる中、ディーゼルトラック・バス等の分野において、
ディーゼル関連の技術の進展、軽油の低硫黄化、CNG自動車、LPG自動車の普及に
向けた取組み、DME、GTLといった新燃料と対応する自動車技術の開発等、燃料と
自動車技術に関する様々な選択肢が提示されている。本課題の緊要性に鑑みれば、
こうした様々な選択肢の中から望ましい方向性について、絞り込んでいく必要があ
る。
第二に、地球温暖化問題について、今後運輸部門におけるCO2排出削減のために
一層の対策を求められる可能性がある中、燃料と自動車技術の双方を睨んだ温暖化
対策について検討するべきである。例えば、欧州では排ガス技術の進展と燃料品質
の向上等によりディーゼル乗用車の急速な普及が見られるところであり、日本にお
けるディーゼル乗用車の普及可能性について、排ガス技術、燃料品質等に係る動向
を踏まえ検討する必要がある。また、バイオマス起源の燃料のガソリン、軽油への
混合形態での利用については、自動車燃料としての利用可能性について検討する必
要がある。
第三として、長期的にはエネルギーの需給構造が大きく変革していく可能性が高
い中、水素を燃料とする燃料電池自動車の普及について、他の政策課題との整合性
を図りつつ、それまでの間の自動車側の技術、燃料の選択や燃料インフラの整備等
に関する長期的な見通しを策定すべきである。
なお、今後の自動車燃料については、自動車が世界のエネルギー需要の約2割を
2
占めていることに鑑みれば、今後の世界のエネルギー情勢の動向を踏まえてその将
来の動向を検討する必要がある。具体的には、今後の石油や天然ガスの供給の見通
し、GTLやDMEといった新しい燃料に関する取組みの動向等のエネルギーの供給面
と、アジアにおけるエネルギー需要の拡大等のエネルギー需要面の双方の検討が必
要である。
なお、今後自動車が大量に普及する潜在力を有する東アジアにおいて、エネル
ギー・環境問題が域内の共通課題となっていく可能性が高いことから、燃料と自動
車技術に関する共通の基盤を形成することの必要性に留意する必要がある。
2.制約条件の展望
(1)大気環境
①大気環境問題の前提
我が国においては、大都市地域を中心に、二酸化窒素(NO2)
、浮遊粒子状物質
(SPM)等による大気環境は依然として厳しい状況にある。特に、沿道における
SPM、NO2についてはディーゼルトラック・バス等から排出される窒素酸化物
(NOx)
、粒子状物質(PM)の寄与度が高く、これらのNOx、PMの排出抑制の社
会的要請が強い。
このため、政府としては、2010年までに、NO2については概ね環境基準を達成す
ること、SPMについては自動車排出粒子状物質を相当程度削減することを目指し、
自動車排出ガス総合対策を強力に推進1している。具体的には、①自動車単体対策の
強化等、②車種規制の実施等、③低公害車の普及促進、④交通需要の調整・低減、
⑤交通流対策の推進、⑥局地汚染対策の推進及び⑦普及啓発活動の推進 を実施す
ることによって、目標を達成することとしている。
特に、大気環境への負荷が大きいディーゼルトラック・バス等を中心とした自動
車単体対策の強化措置としての自動車排出ガス規制(新車)については、2005年時
点で世界で最も厳しい規制水準となる新長期規制2の導入が決定されている。
1
「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」
(自
動車 NOx・PM 法)に基づく「自動車排出窒素酸化物及び自動車排出粒子状物質の総量の削減に関する基本方
針」
(平成 14 年4月)
2
2005 年、重量車の規制値は NOx:2.0g/kWh, PM:0.027g/kWh。この規制レベルは、昭和 48 年の排出ガスレベル
に比べて、NOx で 1/1000、PM で 1/100 という厳しい水準。
3
PM(
g/kWh)
0.13
●
0.03
0.027
●
2.0
米国
● 欧州
日本
3.2
3.5
NOx(g/kWh)
図1−1 日欧米各国の排ガス規制の規制値(ディーゼル重量車、2005年時点)
また、大都市地域の大気環境を改善するため、新車段階での排出ガス規制だけで
なく、使用過程車に対する排出ガス対策を進めており、国レベルの規制として、
NOxとPMの削減のために自動車NOx・PM法に基づく車種規制3を実施している。
なお、首都圏の地方公共団体では、PM削減を目的としたディーゼル車の運行規制
4
を本年10月より施行する予定である。
低公害車の普及促進策については、平成13年7月に、経済産業省、国土交通省及
び環境省は、
「低公害車開発普及アクションプラン」を策定し、天然ガス自動車
(CNG自動車)
、電気自動車、ハイブリッド自動車、メタノール自動車及び低燃費
かつ低排出ガス認定車5を低公害車として定義するとともに、低公害車の開発普及に
関する措置をそれぞれ整合性を図りつつ進めることとしている。
②今後の大気環境問題解決の見通し
大気環境問題の解決の見通しとしては、新長期規制に対応した車両の普及によっ
て、自動車排出ガスの大気汚染への寄与度は大幅に減少すると見込まれる。例えば、
中央環境審議会の第5次報告6によれば、平成22年度(2010年度)における自動車か
らの総排出量は、平成12年度(2000年度)との比較において、PMで約67%(約6.4
万t→約2.1万t)
、NOxで約44%(約64万t→約36万t)削減される見込みである
3
基準に適合しない車について、一定の猶予期間の後、規制地域内に使用の本拠地をおくことができなくする規
制
4
東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県では、条例によりディーゼルトラック・バスを対象として PM の排出基
準を設け、基準に適合しない車については一定の猶予期間後に規制地域内の走行を禁止。
5
「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)
」に基づく燃費基準(トップランナー基準、下記脚注9
参照)を上回る車で、かつ「低排出ガス車認定実施要領」に基づく低排出ガス認定車。
6
「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」平成14 年3月
4
7
。またJCAP8 の試算では、全発生源に占め自動車の排出ガス寄与率は、2000年と
2015年時点で、NOxについては60%から30%に、PM(自動車テールパイプ分)は
約35%から約10%に低減する見通しである。すなわち、2010年時点では、現在予定
されている排出ガス対策等により、NOx、PMの排出における自動車の寄与度は相
対的に低くなり、大気環境汚染の主要因とならなくなることから、固定排出源等の
自動車以外のNOx、PM削減対策の必要性が高まっていくことが予想される。
しかしながら、都市部の局地的な沿道での大気環境については、2010年時点でも
依然として改善されない地域があるとの指摘もある。このような地域については、
著しい渋滞等の通常想定される使用形態を超えた交通問題により大気環境が悪化し
ているものであり、交通流対策等により対処を行うことが本質的な解決策である。
同時に、低公害車の開発・普及を引き続き推進していくとともに、新長期規制以
降の規制についても、必要性の是非も含めた検討が開始されている。
(2)地球温暖化
①地球温暖化問題の前提
地球温暖化問題は、人の活動によって発生する温室効果ガスが大気環境中の温室
効果ガスの濃度を増加させることにより、地表及び大気の温度が追加的に上昇し、
自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすものであり、その予想される影響の大きさ
や深刻さから、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つである。
我が国は、1994年に発効した「気候変動に関する国際連合枠組条約」や、その締
約国により1997年に開催された気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3)にお
いて採択された「京都議定書」
(我が国は2002年の6月に受諾)により、1990年を
基準年として、2008年から2012年の平均値として6%の温室効果ガス削減に義務を
負うことになっている。これを受けて、地球温暖化対策推進大綱(平成14年3月閣議
決定)では、2010年におけるエネルギー起源のCO2排出量を1990年レベルに抑制す
るための方策として、運輸部門については1995年レベルの250百万t-CO2(1990
年度比17%増)に抑制することが目標とされている。
我が国運輸部門におけるCO2排出量は、1990年の212.3百万t-CO2から、2000
年256.1百万t-CO2と約20%増加しており、上記目標を達成するために、自動車の
燃費の改善の強化措置(省エネ法に基づくトップランナーの考え方による燃費基準9
7
対象となる自動車がすべてディーゼル新長期目標及びガソリン新長期目標に基づく規制適合車に代替した場合
(自動車交通量等は平成12年度と同じと仮定)
8
Japan Clean Air Program:自動車排出ガスのゼロエミッション化(有害物質等の極小化)と燃費向上を目指し
た自動車技術に必要な燃料技術を明らかにし、低公害化のポテンシャルを見極めることを目的とした産官学による
共同研究。大気モデル専門委員会において大気環境予測のためのシミュレーションモデルを開発している。
9
1998 年の省エネ法の一部改正において、自動車の燃費基準等について、商品化されている製品のうち、最高の
省エネルギー性能以上の水準を目指すトップランナー方式の考え方を導入。燃費について 2010 年度までに 1995
5
の導入)等の自動車単体対策、クリーンエネルギー自動車10 の普及促進及び総合自
動車交通対策等の推進によって、約50百万t-CO2(1990年の約1/4相当)と大幅に
削減することとなっている。
図1−2 運輸部門排出 CO2量推移及び 2010 年度見通し
②今後の地球環境問題解決の見通し
IPCC(気候変動政府間パネル)の第三次評価報告書(2001年報告書)によると、
地球全体でCO2排出量を1990年レベルに抑えた場合でも、そのレベルのCO2を排出
し続ければ、平均気温上昇および平均海面の上昇は続くとしている。仮に平均気温
の上昇を2℃程度に抑えようとする場合には、大気中の二酸化炭素濃度を450ppm程
度に保つ必要があることが示されているが、この達成目標のためには、先進国以外
の国も含めて全世界で2020年には1990年以下のレベルまで排出量を引き下げる必要
があり、2050年には5Gt-C程度(1990年レベルの20%減)
、2100年には2.4Gt-C程
度(1990年レベルの60%減)まで引き下げる必要がある。
このようなことから、京都議定書の目標達成後も更なる削減努力が必要になると
考えられる。
年度比約 13%乃至約 20%の向上を目指す。
10
天然ガス自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、メタノール自動車及びディーゼル代替 LP ガス自動車。
「低公害車開発普及アクションプラン」の「低公害車」の定義とは異なることに留意が必要。
6
(3)エネルギーに係る資源制約
世界のエネルギー需要は、IEA の予測(IEA World Energy Outlook 2002)に
よれば、アジアを中心とする発展途上地域におけるエネルギー需要の急速な伸び
により、2030 年には 2000 年比で 66%増加すると見込まれている。また、世界の
エネルギー需要に占めるアジア地域(日本、中国含む)のシェアは、2000 年の
28%から 2030 年には 34%に拡大すると予想されている。
石油換算百万トン
16000
15,267
14000
13,16
7
12000
11,132
10000
9,179
8000
17%
6000
11%
11%
4%
3%
4%
4%
3%
5%
5%
4%
5%
5%
5%
6%
中東
アフリカ
中南米
20%
アジア
(日韓含む)
14%
中国
10%
旧ソ連等
19%
19%
13%
12%
11%
11%
4000
2000
51%
47%
2000
2010
43%
40%
OECD
(日本、韓国を除く)
0
2020
2030
(出所)IEA/World Energy Outlook 2002
図1−3 世界の地域別エネルギー需要の推移と見通し
一方、世界の燃料別の供給構造は、長期的には、天然ガスのシェアが 2000 年
の 23%から 2030 年には 28%に増大することが見込まれるものの、石油が引き続
きエネルギー供給の中心を占める基本構造に変化はないと予想されている。石油
は、可採年数が少ない(参考:石油 40 年、天然ガス 62 年、石炭 216 年11)こと
が懸念の材料となるが、2030 年までに石油を含む化石燃料の供給制約が生じる可
能性は高くないと考えられる。
2030 年以降のエネルギーの需給見通しを示した信頼できるレポートは見当たら
ないが、地球温暖化問題に対処するために必要とされるエネルギー供給構造につ
いて各種シナリオによるモデル分析の結果が IPCC により報告されている。これ
によれば、モデルの前提条件によって大きな幅があるものの、概ね 2050 年頃にお
いて化石燃料の比率が減少し始める試算結果が示されている。化石燃料の内訳を
見ると、天然ガスの構成比は 2050 年頃までは増加傾向であるものの、2100 年で
は 2050 年よりも減少することとなっており、天然ガスの供給に制約が生じる可能
性が示唆されている。一方、石炭の構成比は 2050 年以降増加傾向を示している。
11
BP 統計等から計算
7
なお、アジア地域については、エネルギー需要の高い伸びに伴い、エネルギーの
域外依存度が高まることが予想されている。特に石油については、その賦存が中東
に集中しているため、長期的には中東の石油供給比率が更に高まることが予想され
ている(アジア地域の石油の域外依存度は、IEAによると、60%(1997年)から
84%(2020年)に高まると予想されている)
。また、アジア地域の経済発展、自動
車の普及等に伴い、石油の油種別の需要構造が、現在の重油を中心としたものから、
ガソリン、軽油等の白油を中心としたものへとシフトしていくことが予想される
(例えば、石油需要における重油需要の構成比について、2000年には23.4%であっ
たものが、2010年には18.8%に減少するとの予測がある12。
)
(なお、世界のエネルギー需給見通しに関する代表的なレポート13について、参考
資料1に示す。
)
3.自動車燃料及び技術の動向
今後自動車を取り巻く環境・エネルギー制約へ対応するための燃料・技術として
は、(1)動力伝達機構を中心とした自動車技術の高度化、(2)燃料の改善・多様化、
(3)(1)以外の自動車システム技術の高度化といった方策、更には(4)水素・燃料電池関
連技術が挙げられる。
具体的には、(1)については、既存エンジンの高度化とともに、ハイブリッド技術
や、HCCI燃焼技術といった新たな技術を導入することにより、今後の大気環境制約
や地球温暖化制約に対応していくことが可能になると期待される。また、尿素SCR、
DeNOx触媒やPM・NOx同時削減触媒等の開発・導入により、大気環境制約に対応
していくことが求められる。
(2)は、石油系燃料の10ppm以下への低硫黄化等を図ることにより、大気環境制
約等に対応していくとともに、天然ガス系燃料やバイオマスといった石油代替燃料
の導入によって、より一層の大気環境・地球温暖化性能の向上を図るといった対応
が進められている。後者は同時に、資源制約への対応としても期待されている。
(3)については、車両の軽量化及び低転がり抵抗タイヤの利用等による燃費の向上、
またITSによる大気環境、CO2排出量の改善が期待されている。
(4)については、水素製造・輸送・貯蔵方法、水素利用動力源としての燃料電池自
動車等が挙げられているが、未だ研究開発途上であり、実現までの課題が山積して
いる。
個別燃料及び技術の詳細にについては、以下のとおりである。
12
鵜木、田代(2003)
:「アジア地域を中心とする世界の石油製品需給分析」 「エネルギー経済」第 29 巻第3号
13
World Energy Outlook 2002(IEA)、International Energy Outlook 2003(DOE)、IPCC Special Report on Emissions
Scenarios(IPCC)、APEC Energy Demand and Supply Outlook 2002(APERC)、石油製品需給動向等計量分析モデ
8
(1)動力伝達機構等の自動車技術の高度化
①パワートレイン技術
1)ガソリンエンジンの高度化
ガソリンエンジンは、電子制御式燃料噴射装置と三元触媒システム(②参照)
の組み合わせによって、排出ガスの低公害化が進んでいる。燃費性能については、
改善の余地がまだある。ガソリンエンジンの燃費性能向上策としては、直接ガソ
リン噴射方式(直噴技術)や動弁系の改良(各種バルブ可変機構)が挙げられて
いる。直噴技術は、NOxの排出量が多くなるといった課題もあるため、後処理技
術と組み合わせた低燃費化技術の開発が必要である。
2)ディーゼルエンジンの高度化
ディーゼルエンジンは90年代に噴射装置が改善され、大幅に性能が向上した14。
現在も性能は向上しているが、さらに今後、熱効率の向上、燃焼方式の改善、燃
焼による排出ガス対策開発といったディーゼルエンジンの高度化が期待されてい
る。熱効率を向上するためには、噴射系の高圧化、過給や、噴射形態の多様化
(ピエゾインジェクタ等)
、動弁系の改良(可変バルブタイミング)が挙げられ
ている。燃焼方式の改善は後述するHCCI技術が挙げられている。燃焼による排
出ガス対策としてはEGR(排気再循環)の改良が期待されている。
3)ハイブリッド技術
ハイブリッド技術とは、同一の車体に二つのエネルギー源又は動力源を搭載し
て双方の利点を活かして効率よく走行する技術である。内燃機関の効率が低下す
る負荷域において電動モーターで補うハイブリッド電気自動車が、国内ではすで
に13万台以上普及している。
ハイブリッド自動車の特長として、発進停止、加減速の頻度が高い都市内走行
において燃費改善効果が大きくなる。一方、2種類の動力源を搭載するので、従
来車両に比べて車両コストが増加するため、車両コストの低減が課題である。
なお、ハイブリッド車に導入されている技術の一部を活用し、通常の車種の燃
費向上を図る技術として、アイドリングストップ機能がある15 。アイドリングス
ル調査(資源エネルギー庁/エネルギー経済研究所受託)
)
14
それまでのディーゼルエンジンの燃料噴射システムは、噴射のタイミングや回数の自由度が少なく、黒煙等の
排出低減を優先するためにエンジンの出力を下げねばならなかった。しかし、コモンレール式の電子制御方式噴射
装置の登場により、噴射制御が可能となり、エンジンの出力を下げることなく排出ガス対策が可能となったことか
ら、走行性が向上した。
15
アイドリングストップ機能を、ハイブリッド技術の応用で、制動エネルギーの回収とアイドリング停止を行う機
能と定義する場合がある。アイドリングストップ機能にモータアシストの機能を備えたものを「マイルドハイブ
リッド」
、さらにモーターだけで走行できる機能を備えたものを「ストロングハイブリッド」と分類する場合もあ
る。
9
トップ機能は、停車時に自動的若しくは半自動的にエンジンを停止するものであ
り、実走行時の燃費低減に資する技術で、既に商品化が進んでいる。
本検討では、特に燃費向上率の高い高出力モータによるアシスト機能のあるハ
イブリッドを対象にしている。
4)HCCI燃焼技術
HCCI(予混合圧縮自己着火:Homogeneous-Charge Compression-Ignition
combustion)燃焼は、従来のガソリンエンジンとディーゼルエンジンの双方の優
れた特徴を活かした新型の燃焼技術であり、燃料経済性と排出ガスの大幅な低公
害化を実現する可能性がある技術である。主にディーゼル車のNOx、PMの抑制
の観点から期待される技術であるが、熱効率も改善できるポテンシャルも指摘さ
れている。しかし現時点では、全負荷域での燃焼は困難で、低負荷領域でしか燃
焼できない。今後は、高負荷域への運転領域拡大が必要であるとともに、着火の
最適制御による熱効率の向上が課題である。
②後処理技術
1)三元触媒システム
三元触媒は、ガソリンエンジン車の排ガス浄化装置として実用化が進んでいる
触媒であり、排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)・炭化水素(HC)・窒素酸化物
(NOx)を、同時に酸化又は還元して除去する。ただし、排ガス中の炭素・水素・
酸素の量的バランスがとれていないと機能しないことから、エンジンの空燃比を
常に理論空燃比近くに保つ必要があり、機構上空燃比が理論空燃比より高くなる
ディーゼルエンジンや直噴リーンバーンエンジンへの適用は不可能である。
2)尿素SCRシステム
尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)は、排気ガスに尿素水を吹きかけ
てアンモニアを生成し、NOxの排出を低減する技術で、現在、大型ディーゼル車
向けの装置が開発されている。課題としては、未反応アンモニアの除去と、定期
的な尿素の補充が必要なことが指摘されている。また渋滞時の都市内走行のよう
に触媒温度が上昇しない低負荷走行時におけるNOx低減率の向上が望まれている。
3)DeNOx触媒システム
DeNOx触媒はリーンNOx触媒とも呼ばれ、空燃比リーン時に、NOxを酸化し
て硝酸塩として吸蔵し、リッチ時に吸蔵されたNOxをHCやCOとの反応により
還元浄化するメカニズムで、希薄燃焼時のNOxを浄化する。
ガソリン直噴エンジン用が実用化されており、現在、ディーゼル車向けが開発
されている。
10
4)PM・NOx同時削減触媒
PM・NOx同時削減触媒とは、ディーゼルエンジン向けの後処理技術で、NOx
吸蔵還元型触媒の技術を応用し多孔質セラミックスフィルターを用いてPMと
NOxを同時に連続的に低減する技術である。現在欧州と国内で、小型車での実証
試験を実施中である。なお、触媒の能力を十分に発揮するには、軽油の硫黄分が
10ppm以下であることが必要とされている。また、今後、大型車への適用可能性
の検証が必要である。
(2)燃料の改善・多様化
①ガソリン
ガソリンは炭素数4∼10の炭化水素の混合物である。ガソリンエンジンは三元
触媒システムを用いることで優れた走行時環境特性を発揮する。現在、平成12年
排気ガス規制値の75%低減レベルを達成したガソリン乗用車も多数市販されてい
る。
燃料の低硫黄化により、大気環境性能を更に向上させることが可能となること
から、低硫黄化に向けた取り組みが進んでおり、我が国においては2008年には硫
黄分を10ppm以下とすることが決定している。
なお、燃焼方式の制約からガソリンエンジンの大型化には限界があり、大型ト
ラックへの適用は困難である。
②軽油
軽油は自己着火性に優れ、ディーゼルサイクルへの利用に適している。
低硫黄化により、自動車排ガス後処理触媒の硫黄被毒が大幅に軽減される。ま
た、後処理技術(尿素SCR、DPF、De-NOx触媒、NOx・PM同時低減触媒等)
、
新燃焼技術(HCCI等)により、現状のガソリン車の排出ガスと同程度の清浄さ
を達成できる可能性がある。
車両の製造コストは、上記の排ガス後処理対策を実施した場合には上昇する可
能性がある。
燃料価格16は、CIF価格実績(輸入価格)は0.64円/MJ、小売税抜価格実績は
1.22∼1.35円/MJである。また、10ppm以下への対応による燃料製造コストの上
昇は1リットル当たり1円未満との指摘があり、利用者にとってコストの負担増
が過大となることはないものと予想される。燃料供給インフラは、現状の設備が
そのまま適用可能である。
総合エネルギー効率、CO2排出量は製油所における軽油の深度脱硫及び排ガ
16
燃料価格については、すべての燃料について高位発熱量基準で算出している。また、見込み価格は各燃料供給
事業者が提示した見込み価格をそのまま熱量換算した価格である。また、税抜き価格で記載している。
11
ス後処理により現状と比較して若干悪化する。
なお、資源の偏在性は解消されないものの、2030年時点では資源制約は問題
とならないと考えられる。
③天然ガス
天然ガスは、メタンが主成分で、高オクタン価のためオットーサイクルエンジ
ンに適した燃料である。現在自動車用に利用されているCNGについては、気体
燃料であるため、高圧化してもエネルギー可搬量が少なく、液体燃料と比較して
一充填走行距離が短い。しかしながら、燃料供給インフラが整備されている都市
内に限れば、域内交通手段としての適性はある。また、車両総重量25tクラスま
で実績があり、車両総重量6t程度が限界であるガソリンエンジン車と比べて大
型化が可能である。
燃料タンクを含む燃料供給系に特別な仕様が必要となるため現時点で車両価格
は高い(1.4∼1.8倍程度)
。燃料価格は、0.50円/MJ(CIF価格実績)で輸入価格
は軽油より約2割安いのが現状である。2003年3月末現在、三大都市圏で128箇
所のCNGスタンドが整備されるなど、大都市圏を中心にインフラが整いつつあ
る。
PMの排出は極めて少なく、また理論混合比燃焼では三元触媒システムの使用
によりNOxの排出もガソリンと同等まで低くなるなど走行時大気環境性能は非常
に優れている。エンジンの熱効率はディーゼルエンジンに比べ劣るため、その改
善のためにはリーンバーン方式への移行が課題である。なお、その場合には三元
触媒システムが使用できないことから、三元触媒と同等の低減性能を発揮する
NOx低減技術が期待される。
総合エネルギー効率では、ディーゼル車に劣る(石谷教授試算によればディー
ゼル車16.3%に対しCNG車13.4%)が、CO2排出量では軽油と比較してH/C比が
高い事から、同等か多少劣る程度と考えられる。
④LPG
LPGは、原油・天然ガスの採掘時の随伴ガスとして得られる他、石油精製時
にも生産される。高オクタン価の燃料性状から、オットーサイクルエンジンに適
した燃料である。体積当り発熱量が低い(軽油:約38.3MJ/lに対し、LPG:約
24.7MJ/l(20℃の液密度より試算))ことから一充填走行距離に課題がある。ま
た、エンジンの大型化については、ガソリン車と同様に、ノッキング等の問題か
ら困難である。
車両価格については、他の低公害車と比較してコストの上昇は低く抑えられる
(実績で既存ディーゼル車1に対して1.04)。輸入価格は、0.71円/MJ(CIF価格実
績)で軽油の約25%増しである。燃料インフラについては、現在全国1,900箇所
の既設スタンドがある。なお、簡易スタンド(設置費用1,000万円程度)も開発
12
されている。
PMの排出は極めて少なく、また理論混合比燃焼では三元触媒システムの使用
によりNOxの排出もガソリンと同等まで低くなるなど走行時大気環境性能は非常
に優れている。エンジンの熱効率はディーゼルエンジンに比べ劣るため、その改
善のためにはリーンバーン方式への移行が課題である。なお、三元触媒と同等の
低減性能を発揮するNOx低減技術が期待される。
総合エネルギー効率、CO2排出量では、ディーゼル車に劣る。
現在の中東からの輸入が大半を占める状況では、エネルギーセキュリティの改
善には寄与しないが、現在の生産状況は石油精製過程由来39%、石油油田由来
27%、天然ガス田由来34%と、天然ガス田のガス処理プラントからの生産も増加
しており分散化の可能性はある。
⑤DME(ジメチルエーテル)
DMEは、天然ガス、石炭等から合成され、セタン価が高くディーゼルサイク
ルエンジンに適した燃料である。体積当り発熱量が低い(軽油:約38.3MJ/lに対
し、DME:21.4MJ/l(20℃の液密度より試算)
)ことから、現状では一充填走行
距離が課題であり、軽油ディーゼル車と同等の航続距離は確保するため燃料タン
クの容量増が必要である。
経済性の面では、噴射系・燃料供給系統の改造による車両価格上昇、DME専
用供給インフラ整備にかかるコスト増などの問題が指摘されているが、一方、排
出ガス後処理対策を実施した軽油ディーゼル車と同等の上昇幅、あるいはLPG車
と同等程度であるという見方もある。(なお、燃料価格は、0.32∼0.43円/MJ
(CIF価格見込み)で、輸入軽油の約5割∼7割で供給できるとの見通しがあ
る。
)
エンジン特性については、噴射特性の最適化や高速高負荷域での出力性能の確
保が技術課題であり、車両性能として高速高負荷域を多用する長距離都市間ト
ラック・バス用としてはディーゼルエンジンより劣るのが現状である。実用化の
ため、主に噴射系システムにおいて、新たな技術の開発が進められている。
PMはほとんど排出されず、大量EGRの可能性を考えてNOxも低く抑えられ
るなど走行時大気環境性能は非常に優れているとの指摘もある。また、天然ガ
ス・石炭・バイオマス等多様な燃料から転換できる二次燃料であり、エネルギー
源の多様化に資する。
総合エネルギー効率、CO2排出量は、どういったパスで製造するかにもよる
が、燃料製造時の効率が低下する(DME合成プラントの転換効率:天然ガスか
らの場合71%、石炭からの場合64.3%)ことから、軽油より低いと考えられる。
⑥GTL(Gas To Liquid)
GTL は、天然ガス、石炭等から合成され、セタン価が高くディーゼルサイ
13
クルエンジンに適した燃料である。特に、合成軽油である FT(Fisher-Tropsch)
軽油については、軽油と同じ範疇に入る炭化水素であるが、FT 軽油単体では、
軽油に比し、硫黄分及びアロマ分がゼロという特徴があり、セタン価が高く、
容積あたりの発熱量はやや低い。
GTL(以下、FT 軽油を「GTL」とする)の使用にあたっては、ニート
(GTL100%)での使用、軽油混和での使用が考えられるが、ニート使用では
エンジンの大幅な改造が必要となること、2010 年時点で 30 万バレル/日という
世界供給量予測を考えると、2010 年時点での全国規模でのニート使用は考えら
れない。なお、軽油への混和の場合、製油所において軽油の基材として GTL
を混和することが想定され、軽油の品質規格に適合する範囲での利用が好まし
い。
【ニート(100%)の場合】
軽油に比べてセタン価がかなり高いため、車両性能は、既存エンジンの特性
を充分引き出せない可能性がある。
(軽油に比べて若干出力が落ちるが、エンジ
ンチューニングにより同等とすることは可能との指摘もある。
)また、高セタン
価のメリットをどう生かすか、あるいはセタン価を軽油に近づけるような精製
が可能かどうかの検討も課題である。
車両価格は、エンジンチューニングによるコストアップが見込まれる。燃料
インフラについては、燃料タンク新設等インフラ整備が課題である。
(燃料価格
は、0.70 円/MJ(CIF 価格見込み)で軽油の約一割増しで供給できるとされて
いる。
)
走行時大気環境性能は、ゼロ硫黄、ゼロアロマの特性を活かして後処理技術
による排ガス削減効果を補完できる。
【軽油混和使用の場合】
車両性能は、使用過程車での利用が前提となるので、低濃度の場合には軽油
車と同等と見られ、車両価格のコストアップ要因はない。燃料価格は軽油との
混和比率に応じて、ニートの GTL の価格と軽油の価格との間になる。燃料イ
ンフラは、既存インフラの流用が可能である。
走行時大気環境性能については、製油所において軽油の基材として GTL を
混和することが想定され、その場合の硫黄分は 10ppm となるように調整され
るため、軽油と同様となる。
総合エネルギー効率、CO2排出量は、どういったパスで製造するかにもよる
が、燃料製造時の効率が低下する(GTL 合成プラントの熱効率:天然ガスから
の場合 66%)ことから、軽油より低いと考えられる。
これもDME等と同様に、天然ガス・石炭・バイオマス等多様な燃料から転換
14
できる二次燃料でありエネルギー源の多様化に資すると評価される。
⑦バイオマス燃料
バイオマス起源の燃料については、石油代替燃料及び再生可能資源としての
一定の意義を有する一方、大気汚染等環境への影響、供給の安定性等の懸念も
指摘されており、議論が尽くされていない。導入可否の判断の前に適切な評価
を行うことが必要である。
バイオマス燃料については、バイオエタノールのガソリン混和、バイオエタ
ノールのエマルジョン化による軽油混和、バイオディーゼルの軽油混和等が想
定される。
植物油及び廃食油をエステル化したバイオディーゼル(脂肪酸メチルエステ
ル)は、セタン価が高くディーゼルサイクルエンジンに適した燃料である。燃
料の特性から冬場並びに寒冷地での使用の際には、流動性が悪化するためニー
ト(100%)での利用は課題があり、軽油との混和使用とする必要がある。
【ニート(100%)の場合】
車両性能面では、ニートで利用する場合には、軽油の場合に比べて若干出力
が下がる。
燃料価格は、1.87∼2.02 円/MJ(CIF 価格見込み)で軽油の約3倍である。
車両価格は、既存車両を改造する場合にガスケットや燃料供給ラインの補強
が必要で、専用キットがドイツでは 1 万円強で販売されている。燃料インフラ
面では、専用の燃料タンクが必要になるなど追加投資が必要となる。
【軽油混和使用の場合】
車両性能面では、低濃度で軽油と混和して使用する分には軽油並との指摘が
ある。燃料価格は、軽油との混和比率に応じて、ニートのバイオディーゼルの
価格と軽油の価格との間になる。
低濃度での軽油混和使用の場合には、大きな改造の必要がないとの指摘があ
り、車両価格のアップはほとんどないと考えてよい。燃料インフラ面でも、軽
油混和の場合には、バイオディーゼル分の品質を管理できれば、既存のインフ
ラの流用が可能であるが、排出ガス特性への影響を明確にした上で普及させる
べきとの指摘がある。
総合エネルギー効率については、国内での検討事例が少なく、定義自体の見
解も分かれている。CO2排出量は、IPCC のガイドラインでは、バイオマス燃
料の燃焼に伴う CO2排出について持続可能な形で行われる場合には、計上され
ないこととされており、この意義について検討する必要がある。
エネルギーセキュリティの点でも見解が分かれ、国内の資源量は限られるので
15
供給面で十分に対応できないこと、小規模資源量で天候等の影響を受けやすいこ
とから安定供給の面で懸念があるとの指摘もある。
(3)(1)以外の自動車技術の高度化
①車両の軽量化等
車両の軽量化は、燃費向上に直接的に繋がり、軽質材料への置換と設計及び製
造工程の見直しにより達成される。現時点でも、先行開発的な車両においては、
例えばボディ材料にアルミニウムを使用した車両が導入されている。しかし、通
常の材料に比べてコスト高となることともに、場合によっては、軽質材料の製造
段階におけるCO2排出量が大きく、ライフサイクル全体としてCO2排出量が低減
されたかどうかといったLCA評価を行う必要がある。なお、この場合には、アル
ミニウムのリサイクル体制の構築が必要となると考えられる。
また、車両自体の軽量化のみならず、車両設計等による空気抵抗の低減によっ
て、燃費を大きく向上させることが可能である。
②低転がり抵抗タイヤの利用
タイヤの転がり抵抗は、接触回転中における繰り返し変形によるエネルギー損
失であり、自動車のエネルギー消費全体のうち、乗用車で約1/8、トラックで約
1/5を占めるとの指摘もある。タイヤの転がり抵抗低減のために、タイヤメー
カーでは材料、構造を含めたトータルな観点による研究、開発がなされている。
③ITSの利用
ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)とは、最先端
の情報通信技術等を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する
ことにより、安全運転の支援、交通管理の最適化等を図るものである。ITS を
推進することにより、渋滞の軽減や交通流動あるいは交通量の適正化が図られ、
自動車の排気ガスの削減、道路交通におけるエネルギー利用の効率化が期待さ
れている。具体的には、カーナビを活用した混雑情報の提供(VICS)により、
渋滞回避を可能とすることや、ETC(ノンストップ自動料金収受システム)に
より高速道路の料金所渋滞を解消することが可能になり、その結果、通過箇所
全体の燃費の向上と大気環境の改善をもたらす。また、交通流に応じて信号を
制御するシステムの順次導入とともに、環境データを信号制御に反映させるシ
ステムの開発等が進められている。
16
(4)水素関連技術
①水素製造方法
現在工業用途に用いられる水素は、化石燃料の改質又は水電解によって製造さ
れているが、これらの方法により製造された水素は100円/Nm3前後で流通(圧
縮水素の場合)しており、これに自動車への水素供給設備のコストなど加味する
と、現状の水素の価格は熱量換算でガソリン価格(税込み)の3倍以上となる。
したがって、水素をエネルギーの主体としていくためには、効率よく安価な水素
を製造する技術の開発が必要である。
水素を製造するには、①化石燃料の改質、②水の分解(水電解、熱化学法、直
接熱分解、光分解)、③バイオマスから製造(熱分解、水素発生バクテリア等)
といった方法がある。
しかしながら、いずれの方法も第1章付表1に示すとおり、技術的に解決すべ
き課題が多い。
当面は、現在水素の特性を有効に利用することなく消費されている副生水素
(食塩電解、コークス炉ガス)を利用していくとしても、水素をエネルギー媒体
として本格的に使用するためには抜本的なブレークスルーが必要とされる。
②水素輸送・貯蔵方法
水素は常温・常圧では気体であり、単位体積当たりのエネルギー密度が極めて
小さいことに起因し、実用的なレベルで水素を車両に輸送・貯蔵することは難度
の高い課題である。水素輸送・貯蔵には、現在、圧縮、液化が用いられているが、
水素を主たるエネルギー媒体とするには圧縮、液化に伴うエネルギー損失が大き
い点(液化の場合、約30%のエネルギーロス)で問題がある。将来的な水素輸
送・貯蔵技術として、第1章付表2に示すように、水素吸蔵合金、炭素材料
(カーボンナノチューブ等)
、ケミカルハイドライドといった新しい技術が研究
開発されている。しかし現状では、エネルギー損失、安全性、貯蔵速度、一充填
走行距離、経済性の観点から、解決すべき課題が多く、革新的な水素輸送・貯蔵
技術の開発が期待されている。
一方、水素輸送・貯蔵技術が実用化できない場合は、高エネルギー密度の水素
キャリア(炭化水素系燃料等)を車上で改質し、車上で水素を製造しつつ走行す
ることが必要となる。ただし、車上改質も技術的課題は多く、自動車用動力源と
しての課題(耐久性、起動性、負荷追従性等)のみならず、小型化・軽量化、熱
効率について、技術的な解決が必要とされている。
③水素利用の自動車動力源
1)燃料電池自動車
燃料電池自動車用の動力源となる燃料電池の技術課題としては、第1章付表3
17
に示すように、燃料電池スタックの発電効率、出力密度の向上、耐久性の向上、
コストの低減がある。これら課題の解決のためには、電解質膜、電極触媒、ガス
拡散基材、MEA(膜-電極接合体)
、セパレーター、その他スタック技術の研究開
発が必要である。
また、車上改質する場合には、改質器の小型化、改質効率の向上、コストの低
減、起動時間の短縮、負荷応答性の向上等の課題がある。GM、トヨタ自動車等
は燃料電池自動車用のクリーンハイドロカーボンフュエル(CHF)の車上改質技
術を開発しており、自動車に搭載して技術を検証している。米国では国立研究所
を中心に、起動時間の短縮の可能性を検討している。欧州では、ダイムラークラ
イスラーがメタノールの車上改質技術を開発し、実証試験を行っている。
2)内燃機関自動車
オットーサイクルの水素エンジンについては、BMWやFordが開発しているが、
エンジンの出力向上対策と高負荷域での安定した燃焼が課題となっている。我が
国では武蔵工業大学が液体水素をエンジンに高圧噴射することで高負荷域での燃
焼の安定性を確保する見通しを得ている。
ディーゼルサイクルの水素エンジンは、我が国のWe-NETプログラム17で研究
が行われていたが、安定着火、熱効率の向上等が課題として挙げられている。
水素内燃機関は、熱効率に限界があり、燃料電池に劣る。また、水素の燃焼に
伴いNOxが発生するという問題がある(自動車用に研究開発が進んでいる固体高
分子型燃料電池は、水素を燃料とする限り、化学反応によるエネルギー変換によ
るためNOxは発生しない)
。
4.諸外国の状況等
(1)欧米
①欧米の現状(規制動向)
欧米の規制動向として、米国では、2007年から、排出ガス規制として’’US07’’が施
行されることとなっている。現時点で提示されている規制レベルでは、ディーゼル
車にもガソリン車並みの規制水準を求めているが、今後、技術レビューを行うこと
となっており、それによって規制水準が変更される可能性がある。
欧州の排ガス規制は、EURO418の導入が決定しているとともに、今後、欧州では
17
「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術」研究開発(1993 年∼2002 年)
。通商産業省工業技術院の
ニューサンシャイン計画の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施。地球上に広くかつ豊富に存
在する水力、太陽光、風力等の再生可能エネルギーを水素等の輸送可能な形に転換し、世界の需要地に輸送し、発
電、輸送用燃料、都市ガス等の広範な分野で利用するネットワークの導入を可能とすることを目的としていた。
18
2005 年、重量車の規制値は NOx:3.5g/kWh, PM:0.03g/kWh
18
EURO519、更に厳しいEURO620と、厳しい排気ガス規制が予定されている。
また、温暖化対応としての自動車燃費規制について、米国では、エネルギー政
策・保存法に基づき、各メーカーの販売車両の平均燃費に対する規制(CAFE規
制)が実施されている。現時点での規制レベルは厳しいとは言えないが、近年、規
制強化に向けた議論等が行われている。
欧州では、欧州自工会、日本自工会及び韓国自工会が自主規制を行い、欧州委員
会がそれを承認している。この自主規制は、燃料種や重量区分に関わらず、2008又
は9年の時点でCO2排出量を一台平均140g/kmとするものである。メーカー毎の販売
車種構成にもよるが、厳しい基準と受け止められている。なお、2012年には
120g/kmまで低減すべく検討が行われている。
②今後の技術開発の方向性
欧米においては、環境・エネルギー制約への対応の観点から、自動車燃料・技術
の方向性を示す様々な取り組みが進められている。
米国においては、大型車(トラック・バス)の大気環境性能及び省エネルギー性
能の向上を目指した取り組みとともに、資源の外国依存度低下の観点等から、水素
製造、利用に係るプログラムが実施されている。欧州においては、ドイツ連邦政府
において運輸部門における石油代替燃料の導入を目指し、官民合同での検討が行わ
れるとともに、EU全体でも石油代替燃料の目標を設定している。なお、欧州自工
会においても、石油代替燃料の導入を目指したシナリオを作成している。
(具体的内
容については、表1−4、1−5及び1−6に示す。
)
個別の検討結果については、環境・エネルギー問題は、時期、地域又は車種に
よって重視すべき政策課題は異なるため、各々の検討結果も大きく異なっている。
19
20
2008 年、我が国のディーゼル新長期規制並み
規制年度や規制値は未定であるが、ガソリン車と同等の規制レベルになるという話がある。
19
表1−4 欧米の対応 −米国
表1−5 欧米の対応 −欧州
20
表1−6 EU における石油代替燃料の導入目標
(2)アジア地域
①アジアの現状(規制動向)
アジア地域の排出ガス規制は、多くの国で、欧州の規制をベースに排出ガス規
制が策定されている。
アジア地域の場合は、ガソリンにオクタン価向上剤として鉛の混入が許容され
ている場合があり、早期の脱鉛化の実行が必要とされている。有鉛ガソリンは人
体への悪影響とともに、触媒が被毒を受けるため排出ガス浄化装置の機能を損な
う点で問題である。また、各国は大気環境問題の状況等のそれぞれの国内事情に
基づき、独自に燃料性状に関する規制値を定めている。このことにより、各国毎
の燃料規制の状況に応じた車両の開発が必要となり、結果的に車両価格の上昇を
もたらし、また消費者の選択を狭めることとなっている。
なお、CNG 自動車については、大気環境汚染対策や石油代替エネルギー促進
の観点から、中国、インド等のように、その導入に力を入れている国が多い。
②今後の方向と課題
現在は各国によって導入される規制体系は異なっているが、今後、アジアの自
動車市場の拡大に伴い、エネルギー・環境問題が域内の共通課題になっていく可
能性が高いと考えられる。
このような中、今後、1)域内における燃料性状の改善・調和、2)CNG 車の導入
拡大、3)自動車用燃料の需給動向に留意していく必要があると考えられる。
1)については、まず、ガソリンの無鉛化、軽油の低硫黄化等の燃料性状の改善
を図っていく必要がある。また、アジア域内での車両価格の低減等を図る観点か
らは、各国毎に燃料性状が異なることは望ましくないため、今後、燃料性状の調
和に向けた取り組みを活発化していく必要がある。
2)については、アジア地域において CNG 自動車の普及拡大の動きも見られる
ため、我が国における CNG 自動車の開発を検討する際には、アジア市場の動向
をも視野に入れて考えることが必要になる。
21
3)について、モータリゼーションの進展に伴い石油の需要構造が白油化するだ
けでなく、自動車の普及の状況に応じては、特定油種の需要が増加する可能性が
ある。例えば、現在ディーゼル車の導入が急速に拡大している欧州においては、
既に軽油が不足傾向にあり、域外(米国)からの輸入が必要な状況となっている。
アジア地域においても、将来的にディーゼル比率が高まっていった場合には、現
在の欧州と同じように、域内で軽油が不足する事態が生じることも考えられる。
こうした需要構造の変化は、我が国及び世界の石油の需給構造に影響を及ぼす可
能性もあるため、今後、域内の油種の需給バランス等を注視しておくことも必要
である。
22
第1章付表1
付表1 水素製造技術の利点と課題
水素製造技術
特長
課題
水電解
・ 商業化済みで実績のある技術
(アルカリ型の場合)
・ 電力コストが水素製造コストに
・ 高濃度の水素製造が可能
大きく影響する。
・ 再生可能電力からの水素製造 ・ 総合エネルギー効率
に最適
・ 再生可能電力を直接電力として
・ 断続的に発生する再生可能エ
利用する場合と比べた場合の優
ネルギーを水素を貯蔵するこ
位性
とで補償することが可能
熱化学法
(原子力あるい
は太陽光といっ
た安価な高温熱
を利用)
・ 運輸分野あるいは産業分野向
・ 商業化されていない。
けに、水素を低コストで温室
・ 材料・化学分野で10年以上の
効果ガス(GHG)を排出せず
研究開発が必要
に大量製造できるポテンシャ
・ 熱化学法は高温原子炉(HTR)
ル有
の開発が必要
・ 高効率
化石燃料からの
・ 大型プラントでの実績が豊富 ・ 水素の精製が必要
水素製造
・ 大型プラントであれば CO2回 ・ CO2の回収(小型プラントで
(水蒸気改質
収が可能
は困難)
等)
化石燃料からの
・ 大型プラントでの実績が豊富 ・ 小型装置はほとんどない。
水素製造
・ 固体燃料、液体燃料の利用が ・ 水素の精製が必要
(ガス化、部分
可能
酸化等)
バイオマスから
・ バイオマスのガス化は研究中
の水素製造
・ 固体燃料、液体燃料の利用が ・ 水素の精製が必要
(ガス化、部分
可能
酸化等)
生物学的方法
・ 潜在的には大きな資源量
(バクテリア等
が水素を製造)
・ 水素製造速度が遅い
・ 大きな土地が必要
・ 適当な有機体が未発見
(注)EU、
「Hydrogen Energy and Fuel Cells – A Vision of our future」をもとに作成
23
第1章付表2
付表2 水素貯蔵の技術開発の方向性と課題
①圧縮水素
技術開発の方向性
課題
目標時期
耐圧容器の開発
高圧化、安全性の確保
周辺機器(電磁バルブ、付属
高圧化、安全性の確保
品)の開発
新素材の開発
軽量化、低コスト化、高圧化
②液体水素
技術開発の方向性
課題
課題
高効率化、貯蔵速度向上、小型・軽量
化
貯蔵密度の向上、貯蔵速度向上、耐久
新規材料の開発
性向上、被毒耐性向上、低コスト化、
水素放出温度の低減
④水素貯蔵化学物質(ケミカル・ハイドライト)
課題
反応速度・反応制御性向上、反応温度
の低減、システム化
⑤炭素材料(カーボンナノチューブ等)
技術開発の方向性
課題
吸蔵・放出メカニズムの解明
計測法の確立
吸蔵・放出技術の確立
吸蔵量の確認
貯蔵密度の向上、材料精製技術の確
立、特性制御技術の確立
実用化、低コスト化
大量生産技術の開発
短期
短期
短期
中期
目標時期
触媒・システムの開発
合成技術の開発
中期
目標時期
熱交換技術の最適化
技術開発の方向性
短期
目標時期
断熱容器・断熱材の開発
ボイルオフガスの損失低減
耐低温溶接技術の開発
低温脆化・水素脆化対策
③水素吸蔵合金(メタル・ハイドライト)
技術開発の方向性
短期
短期
目標時期
短期
短期
中期
中期
(注)目標時期:短期は概ね 2005 年頃まで、中期は概ね 2010 年頃まで、長期は概ね 2010 年以降
を示す。
出所)固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用技術開発戦略、燃料電池実用化戦略研究会(2001)
24
第1章付表3
付表3 燃料電池技術の開発の方向性と課題
①燃料電池スタック
技術開発の方向性
既存膜(パーフルオロ系)の改良
補強膜の開発
新規膜材料の開発
(非パーフルオロ系等)
プロトン伝導機構の解明/劣化機構の解明
量産化技術の開発
廃棄処分対応
②電極触媒:
対応する課題
目標時期
耐久性向上、温度サイクル耐性向上、耐熱
短期
性向上、低加湿膜、低コスト化
機械強度向上、耐熱性向上
短期
耐久性向上、温度サイクル耐性向上、耐熱
中期
性向上、化学的安定性向上、低・無加湿
化、高イオン伝導率化、低コスト化
基礎的知見の集積
短期
低コスト化
短期
フッ素化合物の処理
中期
技術開発の方向性
対応する課題
白金担持量低減技術の開発
低コスト化
新規触媒材料の開発
低コスト化、白金代替
耐 CO 被毒性アノード触媒の開発
耐久性向上
高活性カソード触媒の開発
セル特性向上、耐久性向上
劣化機構解明
基礎的知見の集積、耐久性向上
③ガス拡散基材
技術開発の方向性
対応する課題
量産化生産技術の開発
低コスト化
基材形態の改良(連続したロール状形態) 作業性の向上、低コスト化
④MEA(膜-電極接合体、Membrane-Electrode Assembly)
技術開発の方向性
対応する課題
MEA内現象の解析
基礎的知見の集積
MEAの新しい製造技術開発
信頼性向上、低コスト化
リサイクル技術の開発
廃棄物処理対応、白金回収
⑤セパレーター
技術開発の方向性
対応する課題
新規材料の開発
低コスト化、薄型化、耐腐食性向上
金属セパレーターの被覆技術の開発
低コスト化、耐腐食性向上、接触抵抗低減
樹脂系セパレーターの量産化技術開発(射
低コスト化、高強度化、電気伝導度向上
出成形、押出し成形等)
溝形状・流路パターンの最適化を含む成形
水管理技術の容易化
加工技術の開発
⑥スタック技術
技術開発の方向性
加湿方法、冷却、ガス配流等の管理技術の
開発
シール材・シール構造の開発
劣化診断方法の確立
対応する課題
目標時期
短期
中期
短期
中期
短期
目標時期
短期
短期
目標時期
短期
短期
中期
目標時期
中期
短期
短期
短期
目標時期
高効率化、耐久性向上、信頼性向上
短期
耐久性向上、信頼性向上
信頼性向上
短期
短期
(注)目標時期:短期は概ね 2005 年頃まで、中期は概ね 2010年頃まで、長期は概ね2010 年以降を示す。
出所)
「固体高分子形燃料電池/水素エネルギー利用技術開発戦略」
、燃料電池実用化戦略研究会(2001)
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