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ドイツの手作り福祉地区探訪記
ドイツの手作り福祉地区探訪記 埼玉県大里福祉保健総合センター 飯島 久香 のボランティアにより作られたばかりとの ○はじめに ことでした。家の中は、白漆喰で内装され、 事例・取組紹介 夏期休暇を利用して、ミュンヘンで開か 左側が食堂、右の扉の中が事務室になって れた国際ソーシャル・ワーカー協会の 50 いるとのことでした。我々用の椅子とテー 周年記念大会(2006 年7月 30 日㈰)~8 ブルで一杯の食堂で、コーヒーとこの地方 月3日㈭)へ行ってきました。 の名物プレッツェル(細く練ったパン生地 8月2日は、種々の福祉現場への訪問日 をハート形に焼き上げる)などで昼食をす でしたので、アルプス山麓の小都市ローゼ ませ、ガブリエレ・バウアー市長をお迎え ンハイム市の福祉地区見学コースを選びま しました。彼女は歓迎の言葉と共に、千葉 した。ドイツ・ソーシャルワーカー協会の 県の市川市とは、姉妹都市協定を結んでお ミヒャエル・リヒター氏に御案内いただい り、高校生の交流も行っていると述べられ て 17 名程の参加者と共に、日本と同じよ ました。 うな地方鉄道に乗り、明るい陽光の中、刈 その後、シンドラー氏から、福祉地区に り取りの済んだばかりの小麦畑や緑濃い岡 ついて、次のような説明がありました。 を見ながら、山々に近づいて、1時間半ほ どで着きました。 1 福祉地区の沿革 ローゼンハイム駅には、福祉地区のワゴ 1999 年、ドイツ政府(建設省)が、都 ン車が2台迎えに来てくれていました。 市計画の一環として、トルコ系移民のドイ 到着すると、クラウス・シンドラー氏に ツ文化への統合を支援するために、ドイツ 案内されて、地区運営の中心となる「市民 南部、バイエルン地方のアルプス山麓にあ の家」まで歩きました。「市民の家」は、 る人口5万ほどのローゼンハイム市に福祉 白壁で赤い屋根の可愛い建物で、農家を改 造したとのことでした。家の前には、花や 手をつなぐ人々などのタイルを埋め込んだ 白いベンチがありましたが、いろいろな国 48 家の内部とバウアー市長 市民の家 地区を発足させた。まず、トルコ系若者の る。 就労支援から始まり、現在は、ベトナム、 例:車のない住民が共同で使用する車 アンゴラ等の難民もいる。 の購入(迎えに来てくれたワゴン 人口は、現在、約 4,600 人である。 車もこの補助金で購入とのこと)、 ローゼンハイム市には、選挙により選ば 住民の家の修理等。 れる市長と理事会(住宅開発会社等を含む) があるが、福祉地区には、市の行政組織に 位置づけられた、運営委員会がある。 3 今年の運営目標 ⅰ ボランティアの関与を促進する。特に、 事例・取組紹介 児童と教育部門。 2 運営委員会 ・現在の活動ネットワークを拡大する。 説明者シンドラー氏は、20 歳台のソー ・全員が集まれる場をつくる。 シャルワーカーであるが、市の理事会に参 ・遊ぶ場所の確保(整地と遊具設置) 加している住宅開発会社に雇用されて、福 ⅱ 住宅事情の改善 祉地区の運営責任者となっている。彼と協 ・狭小・老朽住宅の改修・新築。 力しつつ、他のソーシャルワーカー(各団 ⅲ 税の軽減 体・各国から派遣、ボランティア等)20 ⅳ ゴミの回収、公共下水などの都市的 ~ 301 人が入れ替わりながら運営に参加 し、各種支援活動の担当者となっている。 サービスの充実。 ⅴ 地区イメージをよくするための活動。 シンドラー氏の後ろの壁には、ここを使用 地方メディアへの宣伝、自分たちの新 する各種グループの時間割が貼ってある 聞発行、議会へのロビイスト活動。 (詳細は後述) 。 ・主な事業は、①就労支援 ②高齢者支援 ③教育支援 の3つである。 ・運営資金 4 地区内見学 ・「市民の家」事務室。パソコンが3台程 ある小部屋。時間を限って住民に貸し出 ⅰ 福祉区住民のための補助金 され、後述するインターネット・カフェ 年 35,000 ユーロ などの会場となるとのこと。 ①ドイツ政府補助金 年 25,000 ユーロ 約 70% (約 3,625,000 円:1ユーロ 145 円) ②ローゼンハイム市補助金 年 10,000 ユーロ 約 30% ・「市民の家」の外は、木々の間に民家が 点在し、2階建ての近代的なアパートが 建設中であるほかは、普通の村のたたず まいである。 ・道のそばに、ネットで囲われた小さなグ (約 1,450,000 円) ラウンドがあり、サッカーゴールをボラ ⅱ 社会目的のための地方基金(LOS) ンティアと造ったところとのこと。遊び 種々のプログラム実施のための資 金。その都度申請する。 場として整備していきたいとのこと。 ・小道の辺に、「食卓」という小さな家が 住民のための補助金は、基本的には ある。以前は、ここで給食をしていたが、 住民の申請により運営委員会で検討す 現在は、自立意識を育てるため、運営委 49 員が市内の八百屋や食料品店で貰った売 いないため、全てのゴミを入れた袋が回 れ残り品をごく安い価格で売る所となっ 収容器からはみだしている状態。ゴミの ている(1バスケット50セント等)。 問題を考えるため「市民の家」や幼稚園 ・市立幼稚園。ガラス窓に花や動物を貼っ にこのような回収容器をボランティアと てある2階建ての建物であり、日本と同 じ様である。幼稚園は、就学1年前の幼 児が対象だが、空きがあれば、他の年齢 創ったとのこと。 5 生活支援活動の実際 事例・取組紹介 でも入れるとのことで地区外の子も入 運営委員が担当者となり、ボランティア る。リヒター氏によれば、子どもは母親 や住民グループと協力して様々な生活支援 が見るという意識が強いので幼稚園や保 活動を実施しているので日程表にそってや 育園は少なく、働く母親は、他の女性に や詳しく見てみると次のようである。 子を預けてパートで働くことが多いとの ①月曜朝食会(8:30 ~ 10:00)参加費2ユー こと。養育の質の問題で幼稚園や保育園 ロ(約 300 円)。誰でも参加できる。 を求める声も強くなっているとのこと。 ②火曜トルコ婦人のコーラン読誦会(9:00 幼稚園の費用は、下記のとおり ~ 12:00) (1ユーロ:145 円として) ③高齢者茶話会 第1火曜(14:00 ~) 国立 80 ~ 120 ユーロ ④ユーゴスラビア難民のための相談会 火 約 11,600 ~ 17,400 円 (両親の収入によって料金が異なる場合もある) 民間 150 ~ 200 ユーロ 曜(14:00 ~ 16:00)事務室 ⑤ 住 民 相 談 火 曜(18:00 ~ 19:00) 事 務室 約 21,750 ~ 29,000 円 ・遊園地。シーソーなどのある遊園地が団 ⑥女性喫茶 水曜(9:00 ~ 11:00)。母子 で参加。 地の中にある所を通りかかると、「ここ ⑦子供映画会 水曜(16:00 ~ 17:30) は、他の住宅開発会社の団地なので、福 ⑧インターネット・カフェ 水曜に時々 祉地区の子ども達が入るのを断られたり もするので、遊び場を、地区内に整備し (18:30 ~ 22:00)事務室 ⑨女性親睦会 水曜(19:00 ~ 24:00)女 たいのだ」とのこと。 ・「市民の家」の裏手に戻ってくると壁に 可愛い犬の飾り物があるので何かと聞く と、ゴミ箱とのこと。分別収集ができて 50 市立幼稚園 ゴミ箱 性だけの集まり、チェスや運動などを楽 れるものではなく自分達で創っていくのだ しむ ということが、自然に納得できる体験でし ⑩高齢者買い物サービス 第 2 木曜(9:00 た。 ~)片道 0.5 ユーロ。ボランティア夫妻 このように貴重な体験を与えてくださっ による遠くまで買い物に行けない人々の た皆々様、特にバウアー市長を始め福祉地 ための移送サービス。 「市民の家」広場発。 区の皆々様、ドイツ・ソーシャルワーカー ⑪教会相談 第 1 木曜(15:30 ~ 18:30) 協会のミヒャエル・リヒター氏、丁寧に御 事務室 説明くださったクラウス・シンドラー氏、 事後の質問に事細かくお答えくださった 24:00)誰でも参加できる親睦会。パー ジュディス・クリンガー氏に心からお礼を ティ等の開催。コアメンバー 4 人。 申し上げます。 事例・取組紹介 ⑫「あなたが主役」 木・金曜(17:00 ~ ⑬トルコ茶話会 金曜(9:30 ~ 12:30) ⑭ ト ル コ 系 住 民 の た め の 相 談 会・ ド イ ツ 語 学 習 会 月 1 回・ 金 曜(19:00 ~ 22:00) ⑮ ロ シ ア 系 ド イ ツ 人 茶 話 会 第 3 日 曜 (16:00 ~) ⑯コソボ難民の親睦会 第1日曜(13:00 ~) ⑰若者の就労支援のための友だち活動(親 しい友として就労活動につきあう)随時 その他、適宜、仕事グループの交流会、 夏休みの子ども達のグループ活動、地区祭 り、新聞発行、地区の歴史編纂など多彩な 活動がおこなわれている。 ○おわりに 午後3時頃、夕日の中、地区の皆さんの 暖かい見送りを受け、ミュンヘンへ戻りま した。 若いワーカーを中心に多様な年齢層の 人々が、公的な資金援助を手掛かりに、自 分達の頭と手と資材を使って、自分達の地 区をよくしていこうと、こつこつと地道な 活動をしていらっしゃるのを見せていただ いた思いがします。自分達の生活は与えら 51