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広域アセアン天然ガスパイプライン網構想 - JOGMEC 石油・天然ガス

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広域アセアン天然ガスパイプライン網構想 - JOGMEC 石油・天然ガス
広域アセアン天然ガスパイプライン網構想
―その概要・課題・メリットの検証―
*
長谷川 徹
1990年代始め,東南アジア諸国連合(アセアン)国間で広域天然ガスパイプラインの建設構
想が打ち出された。この構想は「広域アセアン天然ガスパイプライン網」(TAGP)と呼ばれ,
アセアン各国がサミット等の場で公式に推進を掲げるプロジェクトの一つになっている。
本構想は1998年に発生したアジア経済危機によって一時遅延するとの見方もあった。しか
し,最近では東南アジアの国々で次々と2国間に跨る天然ガスパイプラインの建設が進められ
ている。この結果,現在ではアセアン域内で建設が実現したパイプラインの総延長距離が
9,000kmにまで達してきている。さらに,建設中または計画中のパイプラインの総延長距離も
5,000km程度あるが,これらについても今後数年のうちに実現していく見通しであり,TAGP構
想の中核を構成するパイプラインは完成に近づいたと言っても過言ではない。
TAGPが実現することにより,アセアンの国々には多くのメリットをもたらす。なかでも複
数の天然ガス供給源を確保して需要家に供給安定性を与える点とアセアン全体で天然ガス資
源を長期に共有できる点は,本構想を推進する原動力になっていると考えられる。今後は,東
南アジア各国においても環境問題への対応の必要性から,天然ガスの消費量がますます増加す
ると考えられる。その点で東南アジアの主要ガス田と需要地を結ぶ広域パイプライン網は様々
な意義を持つ。
一方で,今後TAGPを最終的に実現するには,なお物理的にも政策的にも克服すべき課題が
多く横たわっていることも事実である。
本稿では,TAGPについて,実例とともに,概要,これまでの経緯,メリットの検証,課題
等についてまとめた。
なお,本稿執筆に際しては,マレーシア国営石油会社Petronasの上級副社長であるDoto’
Hamzah Bakar氏やASCOPE内パイプラインタスクフォースのLead CoordinatorでもあるDr.
Mohd. Farid Mohd. Amin氏の許可を得て,両者がASCOPE主催の「Forum on TRANS-ASEAN GAS
PIPELINE & POWER GRIDS 1999」で発表した内容,および東南アジア地域に詳しいエネルギー
コンサルタントであるAl Troner氏 (Asia Pacific Energy Consulting代表)の報告書等に一部基づい
て作成したことを補足する。
1.
「広域アセアン天然ガスパイプライン網」
と
り,TAGPが,どのルートを通るパイプライン
を指すものか,どういう技術基準で設計される
は何か
ものか,どのような規則に基づき運用されるも
「広域アセアン天然ガスパイプライン網」
のか,現時点ではまだ何も決まっていない。こ
(TAGP)とは,文字どおりアセアン地域を広
のため,何らかの定義が必要であると考えられ
域に結ぶ天然ガスパイプライン網を指すが,現
る。
段階では具体的な定義はなされていない。つま
本レポートでは,アセアン加盟各国の既存パ
* 本稿は,企画調査部 課長代理 長谷川徹が担当した。E-mail:[email protected]
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 12 ―
イプラインや建設・計画中のパイプラインを可
2.広域アセアン天然ガスパイプライン網の概
要
能な限り取り上げている。それらには,幹線パ
イプラインに加え,需要地における配給用パイ
初期においては,
概ね次のようなルートが
「広
プラインやガス田からの供給用パイプライン等,
用途の異なるパイプラインが混在している場合
域アセアン天然ガスパイプライン網」(TAGP)
がある。しかしながら,これを用途に応じて分
の原型であった。
類することは難しい。
タイの首都Bangkokからタイの半島東岸を南
また,本レポートで取り上げたアセアン域内
下してマレーシア国内のパイプライン網に接
の天然ガスパイプラインの総延長距離は
続するルート
14,000km以上に達しているが,TAGP構想の実
マレーシア国内からシンガポールを通過して
現に際しては,まずこれらすでに敷設されてい
インドネシアSumatra島に至るルート
るパイプラインを活用して,展開していくこと
Sumatra島中央部の既存縦断パイプラインを
が効率的であるとPetronasの上級副社長である
起点に,Sumatra島‐Java島を結び,Java島を
Hamzah Bakar氏も考えている。
東西に縦断するルート
以上の理由から,本レポートでは便宜上,以
Java島東部からKalimantan島との最短部にて
降で取り上げる全ての天然ガスパイプラインを
Java海をわたり,Kalimantan島東岸を北上し同
TAGPの構成要素である,との前提で話を進め
島マレーシア領Sabah州の北端に至るルート
ることとする。
マレーシアSabah州北端からフィリピンの首
なお,TAGP構想の推進事務局はASCOPEと呼
都Manilaに向けてPalawan島を経由してさらに
ばれるアセアン加盟国の国営石油会社で構成さ
北上するルート
れる地域協力機構が担っており,今後ASCOPE
ただし,上記ルートはあくまでも構想のたた
がTAGPの運用や技術基準等に関する統一的な
き台として提示されたものであり,実際には以
規則を定めることでTAGPも定義されることに
降で説明するとおり,一部のTAGPは別ルート
なると考えられる。
を通過するパイプラインをもって発展すること
となる。
図2-1:広域アセアン天然ガスパイプライン網の全体像
― 13 ―
(各種資料をもとに石油公団作成)
石油/天然ガス レビュー ’01・7
始めに述べたとおり,現時点ではTAGPの定
インドネシアJava島やタイ,フィリピン等に延
義が存在しないためTAGP構想全体のパイプラ
びるパイプライン約4,000km程度が加わること
インの総延長距離がどの程度かと言うことは正
から,天然ガスパイプラインの総延長距離は
式にはできない。ただし本レポートに基づく想
18,000km程度になる。これに基づくと,現時点
定では,TAGPを構成する天然ガスパイプライ
ですでに全体計画のうち約半分が実現しており,
ンは,すでに敷設されている天然ガスパイプラ
建設・計画中のパイプラインで実現性の高いも
インが約9,000km,建設・計画中の天然ガスパイ
のを加えると4分の3程度が実現しつつあると
プラインで実現性が高いものが約5,000kmとな
いうことになる。
っている。さらに,Natuna島の巨大ガス田から
表2-1 アセアン各国の天然ガスパイプライン延伸距離
ミャンマー
タイ
タイ・マレーシア共同開発地域
マレーシア(シンガポール輸出線
及びインドネシア輸入線含む)
インドネシア(シンガポール輸出
線含む)
ベトナム
フィリピン
合計
P/L総延長距離
1,865
3,135
425
3,753
既存P/L
1,615
2,285
0
2,641
(単位:km)
建設・計画中
250
850
425
1,112
3,912
2,222
1,690
505
504
14,099
135
0
8,898
370
504
5,201
注)ペトロナスのHamzah Bakar氏によれば,既存P/Lが5,565 ,建設・計画中のP/Lが約7,000
(いずれも1999年10月時点)である。
東南アジアにおいて最も早く天然ガスパイプ
イプラインが建設されている。
ラインが発達したのはタイ,マレーシアとイン
また,現在具体的な計画が進行している2国
ドネシアにおいてであった。この3ヶ国がそれ
間パイプラインとしては,マレーシア/タイ共
ぞれ自国沖合の天然ガス田開発を進め,首都
同開発地域(MTJDA:Malaysia-Thailand Joint
(Bangkok,Kuala Lumpur,Jakarta)を中心に国
Development Area)の天然ガスを両国に向けて
内パイプライン網を整備したことにより,パイ
輸出するパイプライン,インドネシア(南
プライン網は個別に発達した。現在でも東南ア
Sumatra)からシンガポール向けのパイプライン
ジアに敷設されている天然ガスパイプラインの
がある。また,2国間ではないが,フィリピン
大半はこの3ヶ国のものである。
ではMalampayaガス田開発で,ベトナムではNam
このとおり,当初TAGPは地域ごとにガス田
Con Sonガス開発でパイプライン建設計画が進
と天然ガスの主要な消費地の間で発達していっ
展している。さらに長期的には,上記フィリピ
たものであった。その地域ごとのパイプライン
ンで建設中のパイプラインにマレーシアSabah
が“広域パイプライン網”としての意味を持つ
州のガス田を繋げる計画や,インドネシア
に至るのは,次々に計画され,または建設が進
Natuna島近くにあり域内最大の未開発ガス田で
められている2国間パイプラインのためである。
あるNatuna D-α(可採埋蔵量:46兆cf)からイ
上記3ヶ国は,2国間パイプラインにおいても
ンドネシア,シンガポール,マレーシアといっ
先導的な役割を果たしており,アセアン地域で
た周辺国はもちろん,遠くはタイ,フィリピン
初めて完成した2国間に跨るパイプラインはマ
にもパイプラインを延伸することが計画されて
レーシアからシンガポールに向けてのものであ
いる。
った。その後ミャンマー/タイ間で,続いてイ
これらの結果,上記の多国間パイプラインが
ンドネシア(西Natuna)/シンガポール間でパ
すべて完成すると,アセアン域内の最大の天然
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 14 ―
ガス消費地を抱えるタイ,マレーシア,シンガ
(Kuala Lumpur)
ポール,インドネシアの4ヶ国が,複数の天然
「アセアン VISION 2020」を採択,初めて
ガス田を間に挟みつつパイプライン網で繋がる
「広域アセアン天然ガスパイプライン網」
構想に言及。
ことになる。この4ヶ国に孤を描くよう連なる
1998年8月:アセアンエネルギー閣僚会議
パイプラインは,一本のパイプラインで貫通し
ている訳ではないが,将来におけるTAGP構想
アセアン諸国間の経済危機に対する総合的
のバックボーン的な役割を果たすものと考えら
な施策の一環として,エネルギー分野にお
れる。というのは,将来アセアン域内で天然ガ
ける一層の協力を推進することを確認。
スが発見された場合,その天然ガスは上記パイ
1998年12月:第6回アセアンサミット(Hanoi)
プラインを経由して各地に供給される可能性が
「Hanoi行動計画」を採択,
「アセアン電力
高く,それらのガス田から伸びるパイプライン
網」と「広域アセアン天然ガスパイプライ
もTAGPを構成することになると想定できるた
ン網(TAGP)
」からなる「Transアセアンエ
めである。
ネルギーネットワーク」の早期実現のため,
2004年までに政策のフレームワークおよび
実行様式を定める必要があることを確認。
3.広域アセアン天然ガスパイプライン網構想
また,TAGPに関するASCOPEのこれまでの主
のこれまでの経緯
な決定事項は次の通りである。
1998年11月:第24回ASCOPE総会
東南アジア諸国間に広域天然ガスパイプライ
ンを建設するという構想は比較的古くからある。
ASCOPEがTAGPの実施に主要な役割を担
Hamzah Bakar氏によれば,アセアンの天然ガス
っていくことを確認。ASCOPE内部にタス
開発と利用に関するマスター計画が始めて議論
クフォースを設置,マレーシアがタスクフ
されたのは1991年のことであり,その後,同計
ォースを主導することを合意。
画に関する初期の具体的検討が1994年から1996
1999年5月:ASCOPE特別委員会
「TAGPに関する行動計画」を採択。
年にかけて行われ,敷設可能なパイプラインル
1999年7月:第17回ASCOPE上級役員会議
ートの選定が行われた。
上記行動計画をASCOPEの役員レベルで承
「広域アセアン天然ガスパイプライン網」
認。
(TAGP)建設計画はその後,1997年12月にマ
レーシアで開かれた第2回アセアン非公式サミ
以上がこれまでの大まかな経緯であり,現在
ットにおいて採択された「アセアン VISION
ASCOPEを中心として参加各国が「Transアセア
2020」のなかで正式に言及され,ASCOPE内部
ンエネルギーネットワーク」
の政策策定を進め,
に各種タスクフォースが設置され実際的な検討
その成果をASCOPE主催のフォーラム等で発表
が行われるようになり,現在に至っている。
するに至っている。
このとおり,TAGP計画は,アセアンサミッ
ト等の公式な場において正式に推進することを
4.広域アセアン天然ガスパイプライン網構想
のメリットの検証
承認されたプロジェクトであり,以下は
ASCOPEのFarid Mohd Amin氏が要約したこれま
アセアン各国が「広域アセアン天然ガスパイ
での各国間パネルでの主な経緯である。
プライン網」
(TAGP)を推進する理由は何か。
1995年12月:第5回アセアンサミット
(Bangkok)
TAGPはアセアン各国にメリットをもたらすの
「Bangkok Summit Declaration」で,アセア
であろうか。また,果たしてアセアン各国は,
ンが安定的かつ持続的なエネルギーの供給
広域天然ガスパイプライン網を敷設した上で,
を確実にすることを宣言。
第3者アクセス等を導入して欧米並に効率的な
1997年12月:第2回アセアン非公式サミット
パイプラインの相互利用を本当に図ることがで
― 15 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
きるのだろうか。これだけの巨大プロジェクト
確保することが供給の安定性を高めることにつ
を推進するからには,それ相応のメリットが明
ながることについては論を待たない。タイやシ
確となっていなければならないと考えられる。
ンガポール等が複数の国と天然ガスの輸入計画
そこで,次に本構想のメリットについて考察す
を進めているのは,まさに天然ガスを安定的に
る。
調達するためである。
TAGPを実現することのメリットについて,
広域パイプライン網という視点からは,
同構想の推進主体になっているASCOPEが主催
TAGPがタイ,マレーシア,シンガポール,イ
する1999年10月のフォーラムにおいて前述の
ンドネシアの4ヶ国で実現しつつあることは
Hamzah Bakar氏は以下の3点を報告している。
TAGPの将来を考える上でも非常に重要な意味
①供給の安定性
を持っている。大消費地を結ぶパイプライン網
天然ガスの需要家は,TAGPによって複数の
が実現することによって,将来近隣で天然ガス
天然ガス供給源から供給を受けることが可能と
が発見された場合,ガス田から最も近いTAGP
なり,それによって天然ガス調達の安定性は確
上の一地点にまでパイプラインを敷設するだけ
実に高まる。
ですみ,ガス輸送にかかるインフラ投資を最小
②天然ガス資源を共有することによる相互利益
限に抑えることができる。その結果,地域にお
天然ガスは,環境への負荷が低い性質から,
ける石油上流開発が促進され,供給の安定性が
発電や輸送燃料向けの用途を中心にすでにアセ
より高まる効果が期待できる。
アン各国のエネルギー構成の中で重要な位置付
ただし,この供給安定性は天然ガスをLNG等
けを占めている。また天然ガスを原料とする石
に加工して外部に供給する生産者には当てはま
油化学産業はアセアン全域において以前よりま
るものではない。インドネシアAceh州のArun
すます活発になりつつある。TAGPが実現する
LNG基地では最近,周辺の治安の悪化が原因と
ことによって,これまで天然ガス資源に恵まれ
なってLNGプラントの操業が停止されたが,仮
て来なかった地域においても石油化学などの新
にAcehのLNG基地に広域パイプライン網が接
たな産業の育成が可能となり,域内で生じつつ
続されていたとしてもLNGプラントが停止して
ある地域間格差が広がることを防ぐことができ
しまえば域外への天然ガス供給は遮断されてし
る。
まう。したがって,パイプライン網の充実は天
③長期的な天然ガスの供給力の確保
然ガスを一旦加工して域外へ供給する部門にお
地域の天然ガス資源が不足する事態に直面し
ける安定供給を保障する訳ではない。
た際に,LNGを域外から輸入できれば長期に亘
②天然ガス資源を共有することによる相互利益
って供給の安定性を確保することができる。ま
広域パイプライン網が各地の天然ガス需要を
たLNG輸入を実施する以前に,パイプライン網
喚起し,様々な経済活動の発展の基礎となるこ
がマレーシア,ブルネイやインドネシアといっ
とは真実であろう。これは広域パイプライン網
た域内のLNG基地に接続されることで,LNG基
の社会的インフラとしての側面である。
地に地域における天然ガス備蓄の役割をもたせ
各種文献によれば,東南アジア地域の2000年
ることが可能となる。また,LNG生産者は本来
の天然ガス確認埋蔵量は約8.9~11.7兆 前後,
の供給ガス田以外の天然ガスにもアクセスでき,
生産量は約1,900億 程度と推定されており,同
パイプライン自体に言わば予備のガス貯蔵施設
地域の天然ガスの可採年数は47~62年であり,
の役割を持たせることができること等から,天
アセアン全体では天然ガスの供給が不足するこ
然ガスの供給力に柔軟性を持たせる効果も期待
とは想定されていない。しかし,天然ガスの場
できる。
合,供給インフラが整備されなければ地域によ
以下は,上記3点のメリットの検証である。
①供給の安定性
パイプライン網は,このような地域間の需給ギ
天然ガスの需要家にとって,複数の調達先を
石油/天然ガス レビュー ’01・7
っては需給ギャップが生じる恐れもある。広域
ャップを解消するためには必須である。
― 16 ―
ただし,パイプラインが社会インフラだと言
LNGの輸入を実現するに際しては,東南アジ
っても天然ガスの需要が見込まれない地域に経
アで操業中の複数のLNG液化基地のなかにはア
済性を無視してパイプラインを設置することは
ルンLNG基地のように今後数年のうちに生産が
できない。タイとマレーシアをつなぐ半島陸上
停止するプラントも有ることから,これを受入
部分のように,陸上ではパイプラインの敷設は
基地に転用するというアイデアも考えられる。
計画されず,海上ガス田を介してパイプライン
ただし,アセアンがLNGを輸入するという考
が接続される地点もある。このように,天然ガ
えには異論も多い。この理由についてAl Troner
スパイプライン網の設置には電力発電所のよう
氏は次のように説明している。
な天然ガスの大口需要家が必要であり,資源の
アセアン各国を個別に見ると,
インドネシア,
共有を優先して広域パイプライン網の設置を拡
大することはできない。この点から,パイプラ
マレーシア,ブルネイの3国が天然ガス輸出国
イン網の設置による相互利益は,天然ガスその
で,タイ,シンガポール,フィリピンとベトナ
ものの共有ではなく,電力によって達成される
ムが天然ガス輸入国という構図に分かれる。ま
といった方が正しい面もある。
ず,インドネシア,マレーシア,ブルネイの輸
一方,アセアンは域内にインドネシア等の石
出国グループだが,LNGを輸出するこの3ヶ国
油輸出国を抱えるが,過去の石油供給危機時に
がLNGを輸入することは想定できない(インド
おいては域内におけるエネルギー不足を相互協
ネシアはTangguh LNGプロジェクトのLNGを首
力によって解決することができなかった。
以来,
都Jakartaに輸送することを検討しているが,こ
アセアンでは石油輸出国が域内の石油輸入国
れは例外)
。
一方,天然ガス輸入国グループについて,タ
(フィリピン・シンガポール等)を援助する仕
組みを構築することが必要だと考えられてきた
イは以前オマーンからLNGを輸入することを検
という側面があることもエネルギーコンサルタ
討しながらも導入を中断した経緯にあり,少な
ントのAl Troner氏は指摘している。
くとも今後10数年の間にLNG輸入計画が復活す
③長期的な天然ガスの供給力の確保
ることは考えずらい。またベトナムとフィリピ
アセアンでは,2000年の天然ガス消費量は約
ンはまだ国内に充分な天然ガスの供給インフラ
690億 であったが,
天然ガス需要は環境問題の
すら有しておらず,当面はパイプラインによる
追い風もあり今後も堅調に増加すると予測され
天然ガスの供給が本命となる見通しである。こ
ており,2015年には現在の消費量の倍に近い
のように考えてくるとアセアンの中でLNGを輸
1,290億 に達するとの予測もある。豊富な天然
入する可能性があるのはシンガポールだけであ
ガス埋蔵量を抱える東南アジアではあるが,現
る。
在の天然ガス生産量と今後の需要の伸びを考慮
国内に天然ガス資源を持たないシンガポール
すれば相対的な天然ガス埋蔵量は決して大きく
にとって天然ガスの調達先を分散することは極
ない。将来の天然ガス需要の増加に対応するこ
めて重要な課題である。シンガポールは領土を
とはアセアン加盟国の使命である。
したがって,
マレーシアとインドネシアの2ヶ国に囲まれて
将来は域外から天然ガスを調達する可能性も視
いるため,パイプラインによる天然ガスの輸入
野に入れておく必要があるが,LNGはその際の
はこの2ヶ国に頼らざるを得ない。
したがって,
有効な選択肢の一つである。
シンガポールがこの2ヶ国以外からLNGを輸入
LNGを輸入することができれば,供給安定性
の増大のみならず調達価格面でも競争力を高め
できれば,政治的な緊張関係が残る両国への依
存を減少できる。
ることが可能となる。現在のような高ガス価時
しかしながら,シンガポールにはLNG基地を
代が続いた場合,パイプラインガスとLNGの価
建設する土地が限られている上に,LNGの調達
格は充分に競合することから,天然ガス調達の
先が輸送距離や価格面からパイプラインガスと
選択肢も広げることができる。
同様に隣国インドネシア・マレーシアになる可
― 17 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
能性も否定できず,この場合,導入の意味自体
タイ/ミャンマー
が薄れてしまう。アセアンがLNGを域外から調
タイとミャンマーの間では,ミャンマー海上
達する可能性が低いと考えるのは以上の理由に
のYadanaガス田とYetagunガス田から天然ガス
をタイ向けに輸出する2つの天然ガス販売契約
よる。
が締結されており,それぞれ1998年8月,2000
以上の検証から,アセアンがTAGPを導入す
年5月に供給を開始している。契約上の供給量
る本質的な目的は,天然ガス需要家に対する供
はYadanaからが525百万cf/dであり,Yetagunか
給安定性の向上と,域内の大消費地向けのガス
らが当初200百万cf/dとなっているが,Yetagun
供給力を長期的に確保することにあり,計画を
ガス田からは最終的に400百万cf/dを供給する
推進する原動力はアセアンの天然ガスの資源量
計画となっている。
と消費量の関係にあると考えられる。この本質
タイ側の引取りが遅れたため契約量に届かな
的なメリットを追求できる限りにおいて,
い時期が長く続いていたが,2002年初旬頃には
TAGP構想の推進力が失われることはないと考
当初の契約量である725百万cf/dを引取ること
えられる。
ができる見通しである。なお,この供給量は現
また,その他の背景として,Al Troner氏は一
部の国にとって天然ガスの通過料収入を得るこ
在のタイの天然ガス需要の40%程度を占める規
模となっている。
とがTAGPを実現する政治的な原動力になって
タイは,国内の天然ガスに加えて,ミャンマ
いることや,貿易市場で拡大しつつある中国製
ー,さらには後述するJDA(マレーシア/タイ
品のシェア拡大に対抗するためにはアセアンが
共同開発地域)のガスを引取るオプションを有
一枚岩にならざるを得ないといった事情がある
しており,短期的には全てのガスを引取る需要
ことを指摘している。
が見込まれない状況である。しかし,ミャンマ
ー産の天然ガスは価格面でタイ国内産の天然ガ
スより優位にあることやTake or Pay条項が課せ
5.着々と進む域内パイプラインの実例
られていること等の問題から,タイ国内の天然
これから述べる域内各地域の天然ガスパイプ
ラインは,「広域アセアン天然ガスパイプライ
ガスに優先して供給される可能性が高いとAl
Troner氏は報じている。
ン網」
(TAGP)全体計画からの要請により建設
タイ向けの輸出パイプラインの概要は表5‐1
されたと言うよりは,各地域個別の事情により
の通りである。それぞれのパイプラインは陸揚
進展した,と言ったほうが正しいものである。
げ地点からタイ/ミャンマー国境のBan-I-Tong
しかし一方で,これら個別の計画が進展したこ
までは平行して敷設されているが,タイ側では
とが,TAGP全体計画実現への大きな推進力と
42インチのパイプライン1本にまとめられ,
タイ
なっていることも事実である。ここでは,将来
最大の発電所があるRatchaburiに接続されてい
TAGPを構成することになると予想されるパイ
る。Yadana,Yetagunガス田からの輸送能力は,
プラインを地域ごとに紹介するとともに,各地
コンプレッサーによる加圧でそれぞれ1,000百
域の天然ガス供給余力も考察することとする。
万cf/d,400百万cf/dまで高めることができる。
表5-1:タイ/ミャンマー間のガスパイプライン
P/L名/敷設区間
操業者
Yadana-Ban-I-Tong TotalFinaElf
Yetagun-Ban-I-Tong PremierOil
MOGE(*)
Yadana-Yangon
P/L長
(km)
400
280
250
P/L径
(inch)
36
24
20
(*) MOGE: Myanmar Oil & Gas Enterprise
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 18 ―
費用
(mm$)
600
295
-
輸送能力
(mmcfd)
700-1,000
200-400
-
操業開始
1998年
2000年
2003年(?)
2000年末時点のYadanaとYetagun両ガス田を
あわせた埋蔵量は約10兆cfである。契約期間は
10兆cf程度になることから,両ガス田は長期的
にも充分な供給余力を有している。
それぞれ30年,15年となっているが,Yetagun
Yadanaガス田からはミャンマー国内向けのガ
ガス田も30年間に延長される見込みである。契
ス供給計画もある。以下はミャンマー国内の陸
約期間を30年とした場合でも,合計生産量は約
上パイプラインの概要である。
表5-2:ミャンマーの陸上ガスパイプライン
P/L名/敷設区間
(ミャンマー陸上)
Chauk-Sale
Ayadaw-Kyunchaung
Mann-Peppi
Schwepyitha-Prome
Prome-Yangon
Apyauk-Myangale
Yangon-Mandalay
Nyaungdon-Yangon
操業者
MOGE
MOGE
MOGE
MOGE
MOGE
MOGE
MOGE
MOGE
P/L長
(km)
15
10
30
270
340
270
-
-
P/L径
(inch)
6
6
10
10
10
10
14
10
費用
(mm$)
-
-
-
-
-
-
-
-
輸送能力
(mmcfd)
-
-
-
-
-
-
-
-
操業開始
-
-
-
-
-
-
-
-
タイ
心に東西のパイプライン網がつながった。これ
タイのパイプラインは,タイ湾内のガス田群
により,タイ湾からの天然ガスをBangkok西の
から陸上に輸送する海上幹線ライン,ミャンマ
Ratchaburi発電所に供給することも,またはその
ーから輸入するミャンマーラインの2つに分け
逆の輸送も可能となった。さらに,後述する
られる。
Trans Thai-Malaysiaパイプラインにより,タイ
タイでは2000年末に,ミャンマー産ガスで発
湾の天然ガス田を通じてマレーシアともガスパ
電するRatchaburi発電所とWangnoi間のパイプラ
イプライン網を接続する計画が進行中である。
インが完成したことにより,首都Bangkokを中
図5-1:タイ/ミャンマーガスパイプライン図
(各種資料をもとに石油公団作成)
― 19 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
タイ湾の海上幹線ラインは,1981年に生産を
ラインが敷かれている。タイ湾のその他のガス
開始したErawanガス田から首都Bangkokの南東
田はすべてErawanガス田のプラットフォームに
125kmにあるRayongのMap Ta Phutまでを繋ぐ。
接続されており,Erawanガス田を起点に国内各
この海上幹線ラインは現在では平行して2本の
地に供給されている。
表5-3:タイのガスパイプライン①
P/L名/敷設区間
(タイ湾)
Erawan-MapTaPhut(Main)
Erawan-MapTaPhut(2nd)
Bongkot-Erawan
Erawan-Khanom
Tantawan-Erawan
Pailin-Erawan
Benchmas-Tantawan
Platong-Erawan
MainTrunkline-BangSaphan
Erawan-MapTaPhut(3rd)
操業者
PTT(*)
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
P/L長
(km)
410
410
170
160
55
50
-
40
160
420
P/L径
(inch)
34
36
32
24
24
24
24
24
24
36
費用
(mm$)
480
-
-
-
-
-
-
-
-
-
輸送能力
(mmcfd)
550(850)
600(950)
1,100
400
300
400
150
250
500
1050
操業開始
1981年
1996年
1993年
1993年
1996年
1999年
1999年
2002年
-
-
(*) PTT: Petroleum Authority of Thailand
タイの2000年1月時点の天然ガス埋蔵量は,
1,740百万cf/d,2010年に2,500百万cf/d程度に増
確認ベースで約10兆cf,推定と予想埋蔵量まで
加する予測である。以上から,タイ国内の天然
含めると約30兆cfとなっている。ただし,近年
ガス埋蔵量は2010年の需要予測値を基にした場
の探鉱活動の成功により埋蔵量はまだ上昇する
合でも国内天然ガス需要約30年分をカバーする
余地がある。
ものであり,タイはガスの供給余力を今後も保
一方タイの天然ガス需要は2000年の平均で
持していくことと考えられる。
表5-4:タイのガスパイプライン②
P/L名/敷設区間
(タイ陸上)
MapTaPhut-BangPakong
MapTaPhut-BangPakong
BangPakong-SouthBangkok
BangPakong-ThaLuang
BangPakong-KaangKoi
BangPakong-WangNoi
BangkokMainRing
Ban-I-Tong-Ratchaburi
Ratchaburi-WangNoi
Khanom-Suratthani-Krabi
操業者
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
PTT
P/L長
(km)
170
170
55
35
45
100
80
240
155
210
P/L径
(inch)
28
28
24
16
18
36
20/24
42
30
20/36
費用
(mm$)
-
-
-
-
-
-
75
-
253
-
輸送能力
(mmcfd)
580
870
80
95
95
95
100
1,100
500
50/350
操業開始
1981年
1997年
1999年
2003年
2003年
2002年
2001年
1998年
2000年
2003以降
る。MTJDAからの天然ガス輸送パイプラインは
マレーシア/タイ共同開発地域(MTJDA)
マレーシア/タイの2国間に跨る共同海域と
Trans Thailand-Malaysia(TTM)というPetronas
して鉱区設定されたマレーシア/タイ共同開発
とPTTのJoint Ventureによって建設・操業される。
地域(MTJDA)からの開発は世界でも他に類を
TTMによるパイプラインの敷設は2段階で計画
見ない試みとして注目されてきた開発計画であ
されている。第1フェーズでは,JDAのガス田
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 20 ―
からパイプラインの陸揚げ地点であるタイ南部
イ国内に向けてタイ湾内の幹線パイプラインに
SongkhlaのAmphur Chanaに接続し,そこからマ
接続されることになる。JDAからのパイプライ
レーシア・タイ国境のAmphur Sadao経由でマレ
ンは,他のタイ湾のガス田同様にErawanガス田
ーシア北部Kedah州のChanglunにてマレーシア
のプラットフォームに繋ぎ込むことになる見通
国内のパイプラインシステムに接続する。
しである。JDAパイプラインの概要は以下の通
第2フェーズでは同じくJDAのガス田からタ
りである。
表5-5:JDAパイプライン①
P/L名/敷設区間
(マレーシア向け)
JDA-Chana(海上)
Chana-T/MBorder(陸上)
T/MBorder-Changlun(陸上)
操業者
TTM
TTM
TTM
P/L長
(km)
275
90
10
P/L径
(inch)
34
36
36
費用
(mm$)
550
-
輸送能力
(mmcfd)
425
-
操業開始
2002年
2002年
2002年
当初2001年第1四半期に生産開始の計画であ
生産開始予定は遅延する情勢となっている。短
ったが,マレーシア/タイ両国のガス需要の見
期的には計画に遅れが生じているものの,本プ
直し等により,1999年に締結された販売契約で
ロジェクト自体の実現性は高いと考えられる。
は2002年第2四半期の生産開始予定となった。
生産量の引取りは原則マレーシア/タイ50:50
しかし,その後もガス陸揚げ地点となるタイ南
であるが,
初期生産量は100%マレーシア側が引
部Songkhlaにおける環境保護派によるパイプラ
取り,タイ側の引取りは2007年以降になるとの
インおよびガス処理施設(GSP)建設への反対
予測もある。ただし,上記の通りタイ側のパイ
運動や環境影響評価(EIA)に関するタイ当局
プライン建設が進まないため,マレーシア側は
からの承認が得られていないこと等により,建
パイプラインルートの変更を検討し始めている
設への取組みが遅れており2002年第2四半期の
との情報もある。
表5-6:JDAパイプライン②
P/L名/敷設区間
(タイ向け)
JDA(A-18)-JDA(B-17)
操業者
TTM
P/L長
(km)
50
JDAのガス埋蔵量は確認ベースで約10兆cf弱,
P/L径
(inch)
28
費用
(mm$)
-
輸送能力
(mmcfd)
425
操業開始
2007年
2010年には2,500百万cf/d程度に増加すると予
最大15兆cf程度の規模である。生産量は第1フェ
測されており,タイとほぼ同水準の需要となっ
ーズが390百万cf/d,第2フェーズが300百万cf/d
ている。したがって,マレーシアは充分な天然
となっており,契約上の合計ガス使用量は契約
ガスの埋蔵量を有している。さらにマレーシア
期間20年間で約5兆cf程度である。したがって,
は,先述したマレーシア/タイJDAに加えてイ
JDAは長期的にも域内のガス供給源として有望
ンドネシアからも天然ガスを輸入する計画があ
なものである。
り,天然ガスの供給に関しては磐石の体制を築
きつつあると言える。以上から,マレーシアは
マレーシア(半島・Borneo島)
アセアンにおけるその戦略的な地勢と相俟って,
マレーシアは国内に80兆cf以上の天然ガス埋
天然ガスの長期的な供給力の面でTAGP計画に
蔵量を有しているが,その内40%程度が半島マ
おいて中心的な役割を果たしていくものと考え
レーシア側の資源となっている。天然ガスの消
られる。
費量は,2000年が約1,700百万cf/dであったが,
― 21 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
図5-2:マレーシアのガスパイプライン図
(各種資料をもとに石油公団作成)
マレーシアでは1984年以来Petronasが子会社
基地およびGPPと輸送基地を繋ぐ32kmの主パ
を通じて3段階の建設計画により国内パイプラ
イプラインとTerengganu州Kerteh周辺および市
イン網計画(Peninsular Gas Utilizationプロジェ
内ガスパイプライン網からなる。
クト:PGU)を実施してきた。PGUプロジェク
フェーズ2
トは,幹線パイプライン,配給パイプライン等
プロジェクトの第2段階はPGUⅡと呼ばれ,
からなり,パイプライン総延長距離は1,400km
1992年に完成した。PGUⅡは同じく250百万cf/d
以上に達している。
の追加のガス処理施設が3基(GPP 2, 3, 4)
,半
フェーズ1
島西部と南部を繋ぎシンガポールに至る714km
プロジェクトの第1段階はPGUⅠと呼ばれ,
1984年に完成した。PGU Iは250百万cf/dの天然
の半島縦貫主パイプラインと,付帯する支持設
備からなる。
ガス処理施設(Gas Processing Plant:GPP),輸送
表5-7:マレーシアのパイプライン①
P/L名/敷設区間
(半島陸上)
PGU Ⅰ
PGU Ⅱ
PGU Ⅲ
PGU Loop1
PGU Loop2
操業者
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
P/L長
(km)
32
714
450
265
227
フェーズ3
P/L径
(inch)
-
-
-
-
-
費用
(mm$)
-
-
-
-
-
輸送能力
(mmcfd)
250
250x3
500x2
-
-
操業開始
1984年
1995年
2001年
1999年
2002年
450kmの主パイプライン,500百万cfdの能力を持
プロジェクトの第3段階はPGUⅢと呼ばれ,
つ2基の新たな天然ガス処理施設(GPP 5, 6)お
1998年に完成した。PGUⅢは西部海岸からマレ
よび露天圧調整施設(Dew Point Control Unit:
ーシア北部とタイの国境近くまで伸張する
DPCU)と付帯設備からなる。
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 22 ―
図5-3:マレーシアPGUプロジェクト図
-Petronas HPより-
現在,PGUシステムをKedah州のChanglunにお
PGU Loop 1とPGU Loop 2
PGUシステムは,さらにPGU Loop 1とPGU
いてTrans-Thailand-Malaysia天然ガスパイプラ
Loop 2によって強化されている。PGU Loop 1,
インシステムに繋ぎこむ計画が進行中である。
Loop 2はPGUの既存パイプラインに平行して敷
半島マレーシアでは東側のTerengganu州沖に
豊富にある天然ガス資源がガスの供給源となっ
設されている。
PGU Loop 1はKertihとSegamatを結ぶ新たな
ている。これらのガス田からのパイプラインは
265kmのパイプラインであり,1999年第3四半
すべて東海岸の都市Kertehまで延びており,そ
期に完成した。一方,PGU Loop 2はSegamatか
こで周辺の電力等の需要家に供給されるととも
らMeruまでの227kmのパイプラインであり,
に,ガス処理が行われ,PGUシステムにて国内
2001年中に完成する見通しである。
各地に供給される。
表5-8:マレーシアのパイプライン②
P/L名/敷設区間
(半島東沖合)
Kerteh-Lawit
Kerteh-Jerneh
Kerteh-Resak
Resak-PM3
Kerteh-Angsi
Kerteh-Sotong
Sotong-Duyong
Sotong-Bekok
操業者
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
P/L長
(km)
240
230
130
310
160
150
20
70
P/L径
(inch)
30
28
26
24
32
30
24
18
― 23 ―
費用
(mm$)
-
-
-
300
-
-
-
-
輸送能力
(mmcfd)
900
750
600
-
1,200
550
300
-
操業開始
1997年
-
2000年
2004-05年
2002年
1983年
1983年
-
石油/天然ガス レビュー ’01・7
なお,参考までにBorneo島Sarawak州とSabah
Sarawak州の天然ガスパイプラインは,主に沖
州に主要なパイプラインについても記載してお
合のガス田からBintuluにあるLNG生産基地等に
く。
供給するものである。
表5-9:マレーシアのパイプライン③
P/L名/敷設区間
(Sarawak州)
D35-Bayan
Bayan-Bitulu
Baronia-E11
E11-Bintulu
M1(Jintan)-E11
操業者
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
Petronas
P/L長
(km)
60
80
130
130
160
Sabah 州 か ら は フ ィ リ ピ ン で 開 発 中 の
P/L径
(inch)
16
18
18
36x4
38
費用
(mm$)
-
-
-
-
-
輸送能力
(mmcfd)
-
-
-
-
-
操業開始
2003年
-
-
-
2003年
したと報道されている。なお,Sabah州での天然
Malampayaガス田まで1,000kmのパイプライン
ガス開発ではMalampayaガス田の開発と同様に,
を繋ぐ計画があり,最近になってPetronasとフ
Shellが中心的な役割を果たしている。
ィリピン国営石油会社PNOCが話し合いを開始
表5-10:マレーシアのパイプライン④
P/L名/敷設区間
(Sabah州)
LabuanBay-ErbWest
ErbWest-KotaKinabalu
操業者
Petronas
Petronas
P/L長
(km)
135
60
P/L径
(inch)
14
-
費用
(mm$)
-
-
輸送能力
(mmcfd)
200
100
操業開始
2003年
2005年
マレーシアはMTJDA,フィリピンや次に述べ
の利用が他の用途にも広がることから,ガス需
るインドネシアとの間で,昨今パイプライン網
要が大幅に拡大すると見込まれている。シンガ
の建設を積極的に推進しようとしている。パイ
ポールの天然ガス需要は,
2005年で545-700百万
プライン建設に応じて今後多量の天然ガスがマ
cf/d,2010年で650-1,000百万cf/dになるという
レーシアに向けて供給されることになるが,マ
予測もあり,
今後の需要の伸びに対応するため,
レーシアにそれだけの天然ガス需要があるかは
インドネシアからも天然ガスを輸入する計画を
不明である。このことから,マレーシアが昨今,
進めている。
周辺国との間で天然ガスパイプラインの設置を
進めているのは,自国の地理的な優位性をもと
インドネシア/シンガポール
に将来自国を通過する天然ガスがもたらす輸送
インドネシアからシンガポール向けのガス輸
タリフを手にするための戦略であるとAl Troner
出計画には西Natunaからのものと南Sumatraか
氏のように指摘する向きもある。
らのものの2つがある。シンガポールはこれま
で天然ガスの供給を全面的にマレーシアに頼っ
シンガポール
てきたが,インドネシアからの輸入を確保する
シンガポールは現在,天然ガスの使用が発電
ことによって供給先の分散を計ることが可能と
用に限られており,マレーシアから約150百万
なった。
cf/d程度のガスを輸入している。マレーシア-
シンガポール間パイプラインはマレーシア国内
(6-1)西Natuna (Pertamina‐SembCorp)
のPGUプロジェクトから派生して1992年に敷設
西Natunaからの天然ガス輸出は2001年1月に
されたもので,東南アジア地域では初めてでき
開始された。生産量は,当初150百万cf/d,最大
た2国間パイプラインである。今後は天然ガス
で325百万cf/dとなり,供給期間22年間の合計ガ
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 24 ―
ス使用量は2.5兆cfである。西Natunaには天然ガ
田周辺では最近の探鉱活動によって埋蔵量が追
スが発見された鉱区が3鉱区あり,ガス田の埋
加となる見通しもある。
)
蔵量は合計3.9兆cf程度だが,マレーシア向けに
も輸出する計画があるため,埋蔵量の余裕はあ
西Natunaからシンガポールまでのパイプライ
ンは海底部480km,総延長656kmである。
まりないと考えられる。
(ただし,西Natunaガス
表5-11:インドネシア/シンガポールのパイプライン①
P/L名/敷設区間
WestNatuna-Singapore
P/L長
(km)
656
操業者
Conoco/Gulf/Premier
P/L径
(inch)
28
費用
(mm$)
400
輸送能力
(mmcfd)
700-1,000
操業開始
2001年
20年間の合計ガス使用量は2.27兆cfである。
(6-2)南Sumatra (Pertamina‐Power Gas)
南Sumatraからシンガポール向けの天然ガス
南Sumatraの鉱区からシンガポールまでは,
輸出契約は2001年2月に調印された。2003年中
Batam島を経由する478kmのパイプラインが新
旬に開始される予定であり,生産量は,当初150
設される計画である。
百万cf/d,最大で350百万cf/dとなり,供給期間
表5-12:インドネシア/シンガポールのパイプライン②
P/L名/敷設区間
操業者
Grissik-Sakerman
Sakerman-Batam
Batam-Singapore
PGN(*)
PGN
PowerGas
P/L長
(km)
135
302
41
P/L径
(inch)
28
28
28
費用
(mm$)
85
260
100
輸送能力
(mmcfd)
350
350
350
操業開始
2002年
2002年
2002年
(*)PGN: Perum Gas Negara
インドネシア/マレーシア
マレーシア向けはそのうちConocoがオペレー
西Natunaのガス田からのガス輸出計画は,先
ターのWest Natuna Block Bからだけとなる。同
述したシンガポール向けが先行していたが,イ
鉱区単独での天然ガス埋蔵量は約2.4兆cfであ
ンドネシア/マレーシア両国の間でも2001年3
り,マレーシア向けの天然ガス合計使用量は1.5
月,マレーシア向けのガス輸出について正式に
兆cfである。ただし,シンガポールにも天然ガ
契約に至った。輸出契約量は,当初100百万cf/d,
スを供給するため供給余力はあまりない。
その後250百万cf/dであり,生産開始は2002年8
なお,パイプライン敷設区間はWest Natuna B
月,供給期間は20年間である。シンガポール向
鉱区から近い,インドネシア/マレーシア国境
けには西Natunaの3鉱区全てから供給されるが,
付近のマレーシアのDuyongガス田までである。
表5-13:インドネシア/マレーシアのパイプライン
P/L名/敷設区間
WestNatuna-Duyong
操業者
-
P/L長
(km)
97
P/L径
(inch)
-
費用
(mm$)
-
輸送能力
(mmcfd)
-
操業開始
2002年
さらにマレーシアは,TAGP完成後の域内エ
シンガポールをバイパスしてインドネシア南
ネルギー供給における自国の影響力の拡大と,
Sumatraからマレーシア西岸のPort Dicksonで
自国の地理的な優位性をもとに将来自国を通過
PGUに繋ぎこむ輸入パイプラインを建設するこ
する天然ガスがもたらす輸送タリフ獲得のため,
とも計画している。
― 25 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
①Java島
インドネシア
インドネシア国内の主なガスパイプラインは
Java島にはすでに敷設されているものとして
大消費地Jakartaを中心としたJava島,その隣の
Pertaminaが操業するJakartaを中心としたパイ
Sumatra島,そして両島を結ぶパイプラインから
プライン網と東部Surabaya地域と沖合天然ガス
構成される。
(Sulawesi島にもガスパイプライン
田を結ぶ東Javaパイプラインがある。
現在PGNが西Javaに追加のガス供給網を建設
があるが,これについてはTAGPと接続する計
中である。
画がないことから割愛する)
表5-14:インドネシアのパイプライン①
P/L名/敷設区間
(Java島)
Cilegon-Cilamaya
via Jakarta
Cirebon-Cilamaya
西Java
東Java
West-East
Pertamina
P/L長
(km)
-
P/L径
(inch)
24
費用
(mm$)
-
輸送能力
(mmcfd)
240-550
Pertamina
PGN
PT TransJava
PGN
200
170
430
400
14
8-16
28
20
-
120
-
-
250
250-550
600-1,000
90
操業者
操業開始
操業中
1997年
2002年
1991年
2005年?
るためのものである。現在の輸送量は300百万
②Sumatra島
Sumatra島には既に島を縦貫する全長544km,
cf/dであるが,パイプラインの輸送能力は常圧
口径28インチのパイプラインが敷設されている。
で425百万cf/d,コンプレッサーを利用すること
このパイプラインは,南SumatraでGulf社等が操
により600百万cf/dになる。さらに150百万cf/d
業するガス田からSumatra島中央部のDuri油田
のガスを追加で販売することも計画されている。
を接続し,生産が減退中の油田にガスを圧入す
表5-15:インドネシアのパイプライン②
P/L名/敷設区間
(Sumatra島)
Grissik-Duri
Grissik-Sakerman-BatamSingapore(前述)
Grissik-PagarDewa
Jambi-Lampung
操業者
PGN
PowerGas
/PGN
PGN
PGN
P/L長
(km)
544
478
P/L径
(inch)
28
28
費用
(mm$)
240-310
445
輸送能力
(mmcfd)
310/425/600
350
180
50
28
4/8
180
50
250
50
操業開始
1999年
2003年
2004年
2004年
現在PGNは,上記パイプラインに平行して
いったJava島西部沖で探鉱・生産活動を行う企
SakermanからBatam島を経由してシンガポール
業はそれぞれが保有するPS鉱区(South East
に至る28インチのパイプラインを建設中である。
Sumatra PSCとKampar/Extension PSC)からガス
を供給できるよう,パイプラインのルートの変
更を求めているとのことである。
③Sumatra-Java間PL計画
インドネシア国営ガス会社であるPGNは,南
このSumatra-Java間のパイプラインが完成
Sumatraのガスを首都Jakartaまで輸送するパイ
すると,前述したシンガポールへの輸出パイプ
プラインの建設を計画している。計画では,南
ラインを経由して,Jakarta-Singapore-Kuala
SumatraのPagar DewaからJava島西部のCilegonま
Lumpur-Bangkokという域内最大のガス消費地
で370kmの区間に36インチパイプラインを敷設
がパイプラインで接続されることになる。
するものである。なお,Repsol-YPFやExpanと
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 26 ―
(表5-16:インドネシアのパイプライン③)
P/L名/敷設区間
(Java-Sumatra島)
PagarDewa-Cilegon
操業者
PGN
P/L長
(km)
370
P/L径
(inch)
36
費用
(mm$)
460
輸送能力
(mmcfd)
250-550
操業開始
2005年?
降のガス供給を視野に入れ,同ガス田の開発に
④Natunaガス田計画
Natuna D-aは可採埋蔵量が40兆cfを越える東
関する話し合いをインドネシアPertaminaと開
南アジア最大の未開発天然ガス田である。以前
始したことが報じられている。また,タイも以
にはLNGプロジェクトが計画されたこともある
前に計画されたNatunaガス田からのガス供給に
が,そのCO2含有量の多さに起因する技術的・
ついてインドネシアとの話し合いを再開したと
商業的な問題から延期されたままになっている。
いう報道も出ている。
TAGP計画の面から言うと,Natunaガス田は,
これらの計画が全て進展するかは不明である
その埋蔵量の大きさとアセアン各国のほぼ中間
が,前述した通り,Natunaガス田から近い西
に位置する地理的な理由により,地域における
Natunaのガス田からシンガポール,マレーシア
最終的な天然ガス供給源として期待されている。
向けにガスを供給する計画が進展していること
TAGP計画が究極的に進展した場合,Natunaガス
から,これを手掛かりに開発が進展する可能性
田はTAGP構想全体のハブ的な役割を担うガス
もある。
田となり得るもので,同ガス田からはインドネ
さらにインドネシアでは,豊富なガス資源を
シア,シンガポール,マレーシアといった周辺
誇る東Kalimantan島のガス田地帯とJava島をパ
国はもちろん,遠くはタイ,フィリピン(中国・
イプラインで繋ぐ計画もある。当初はこのパイ
台湾が加わるという情報もある)までパイプラ
プラインをさらにマレーシアSabah州向けに延
インを接続する計画がある。
伸するという構想もあったが,最近ではその実
最近では,マレーシアのPetronasが2010年以
現性は低くなっている。
図5-4:インドネシアのパイプライン図
(各種資料をもとに石油公団作成)
― 27 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
ベトナム
ガスを陸上に輸送するものだけである。本パイ
現在ベトナムで稼動中の天然ガスパイプライ
プラインは1994年11月に完成し,1995年4月に
ンはVietsovpetroが操業するBach Ho油田の随伴
操業を開始している。
表5-17:ベトナムのパイプライン
P/L名/敷設区間
操業者
BachHo-PhuMy
PetroVietnam
LanTay/LanDo-DinhCo BP等
P/L長
(km)
135
370
P/L径
(inch)
16
26
費用
(mm$)
-
450
輸送能力
(mmcfd)
150
700
操業開始
1995年
2002年
ベトナムでは現在,BPを中心としたコンソー
ていると考えられる。また,パイプラインの能
シャムによる総額15億ドル超のNam Con Sonプ
力は将来のガス生産量増加に対応できるよう生
ロジェクトが進められている。本プロジェクト
産量の3倍以上の能力を持たせてある。
ただし,
向けのLan Tay/Lan Do両ガス田の推定可採埋蔵
地形的にも国内ガス需要の必要性の観点からも
量は2.1兆cfである。生産量は当初約190百万cf/d,
Nam Con Sonプロジェクトが広域アセアンガス
以降270百万cf/dにまで増加する。生産開始は
パイプライン網に接続される計画は出ておらず,
2002年の初頭を目標としており,供給期間は20
ベトナムが2国間に跨る天然ガスパイプライン
年である。BPは上記ガス田の近隣でもHai Thach
を敷設する可能性があるのは同国南部海上のマ
ガス田を発見しており,追加で1.8兆cfのガスを
レーシア,タイ国境付近で発見したガスを利用
確保していることから,充分な供給余力を有し
する場合に限られると考えられる。
図5-5:ベトナムのパイプライン図
(各種資料をもとに石油公団作成)
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 28 ―
フィリピン
フィリピンで現在進められているCamagoMalampayaガス開発プロジェクトは同国初の沖
合天然ガス開発プロジェクトである。ガス田の
埋蔵量は約3兆cfである。ガス販売契約は1997年,
1998年に電力会社2社との間でそれぞれ締結さ
れており,契約期間20年間の総使用ガス量は約
2.5兆cfである。現状では天然ガス消費量はわず
かにとどまるフィリピンだが,今後発電向けに
天然ガス消費量が増加することが予測されてい
る。しかし,国内の天然ガス資源探鉱はなかな
か進展しないことから,今後フィリピンはパイ
プラインもしくはLNGで天然ガスを輸入する必
要性が生じる可能性もある。この点について,
フィリピンは,すでにマレーシアのSabah州から
フィリピンまでを繋ぐパイプライン計画につい
て,Petronasと話し合いを行っている,と報じ
られている。なお,Camago-Malampayaガス田か
らのパイプラインは充分な供給能力を有してお
り,今後の追加需要に対応できるようになって
いる。
表5-18:フィリピンのパイプライン
P/L名/敷設区間
Camago/Malampaya-Batangas
操業者
RD/Shell
P/L長
(km)
500
P/L径
(inch)
24
費用
(mm$)
-
輸送能力
(mmcfd)
650
操業開始
2002年
図5-6:フィリピンのパイプライン図
(各種資料をもとに石油公団作成)
6.広域アセアン天然ガスパイプライン網の課
題
プライン網」(TAGP)計画だが,今後TAGP網
を実現するまでには,なお技術的にも政策的に
も様々な課題がある。そのうえ,TAGPの最終
以上の通り,物理的にはかなり全体像に近づ
的な完成には10-20年の年月を要すると考えら
いてきた感のある「広域アセアン天然ガスパイ
れており,
インフラにかかるコストも200億ドル
― 29 ―
石油/天然ガス レビュー ’01・7
規模と莫大となる見通しである。
課題について,
⑤各国政府によるパイプライン事業に対する
Petroras の Hamzah Bakar 氏 は ASCOPE 主 催 の
様々な保証,⑥LNGの輸出入と将来的なガスパ
1999年のアセアンエネルギーネットワークに関
イプラインとの繋ぎ込み計画,⑦供給の安全性
するフォーラムにおいて以下の点を報告してい
とフォースマジュール(不可抗力)
,⑧紛争解決,
る。
⑨当局による仲介,等があることもHamzah
Bakar氏は指摘している。
①ガス輸送にかかる規制とルール
②ガス価格と輸送タリフの問題
7.おわりに
③パイプラインの所有権と運営管理者
④パイプラインの技術面および輸送能力等の
現段階では定義も存在しない「広域アセアン
適合性
上記のなかでも輸送タリフや天然ガス価格の
天然ガスパイプライン網」
(TAGP)だが,実際
問題は各国の財政に直接関わる問題であり,最
にはアセアンで既に敷設された天然ガスパイプ
も合意が難しい課題の一つではないかと思われ
ラインは9,000kmに達しており,
これら既存パイ
る。例えばマレーシアは昨今,自国を中心とし
プラインの活用を前提とした域内パイプライン
たパイプライン網の建設を積極的に推進しよう
網の構築が実現性を帯びつつある。
もともとアセアンの天然ガスパイプラインは,
としており,それらの計画の中には,インドネ
シア南Sumatraからシンガポールを経由せずに
各国・地域ごとに天然ガスの大規模消費地とそ
直接マレーシア西岸までパイプラインを敷設す
の周辺のガス田とを結ぶために発達してきたも
ることも含まれている。だが,この点について
のである。TAGP構想全体の骨格は,1990年代
はAl Troner氏のように,マレーシアがシンガポ
前半に整ったと考えられていることから,アセ
ールに対抗して,アセアン南北を繋ぐ自国の地
アン域内で計画中の天然ガスパイプラインの中
理的な優位性をより強化し,将来自国を通過す
にはTAGP構想が打ち出された後に計画された
る天然ガスがもたらす輸送タリフを獲得するた
ものもある。しかし,それらのパイプラインは
めであり,天然ガスの実需要を基にしたもので
TAGP構想を実現するために計画された訳では
はない可能性があることを指摘するものもある
なく,
あくまでも個別に計画されたものである。
ほどである。このとおり,輸送タリフをめぐっ
この一つ一つのパイプラインが広域パイプラ
ては,既に将来を睨んだ各国のパイプライン建
イン網としての意味を持つことになるのは,2
設競争が激化している面があり,簡単には解決
国間に跨るパイプラインが次々に建設・計画さ
できない問題である。
れ,それらパイプラインが天然ガスの大消費地
一方,天然ガス価格の問題も大きな課題であ
る。パイプライン網が各国に繋がり同時に天然
を中心に相互につながる見通しがついたためで
ある。
ガス供給に関する規制が自由化されることで,
具体的には,まず始めにマレーシア/シンガ
天然ガスの価格はアセアン域内で最も低いとこ
ポール間にパイプラインが建設され,最近では
ろに収斂する可能性もあるが,アセアンにはイ
ミャンマー/タイ間そしてインドネシア(西
ンドネシアのように補助金により天然ガス価格
Natuna)/シンガポール間のパイプラインが完
を政策的に低く抑えている国もあり,ガス価格
成した。さらに,近い将来ではタイ/マレーシ
の問題は各国の財政状態や上流の開発事業者と
ア間のJDA開発によるパイプラインが建設され,
の契約問題にも跨る大きな課題である。
インドネシア(南Sumatra)/シンガポール間に
この他にも今後各国が相互に協力して解決を
第2のパイプラインが建設される見通しとなっ
図らなければならない問題には,①ガス市場の
た。これらのパイプラインは各国の国内パイプ
拡大促進,②パイプライン建設に対する財政支
ライン網を経由して相互に接続されることにな
援,③ガス輸送にかかる権利規定とGATTやそ
る。
の他条約等の適用,
④ 輸送にかかる関税問題,
石油/天然ガス レビュー ’01・7
― 30 ―
一般的に,
パイプラインを建設できる距離は,
採算性の観点からガス田の埋蔵量の大きさに基
フラ投資は,ガス田から最も近いTAGPの一地
づいて決まることが多く,消費地だけを繋ぐパ
点にまでパイプラインを敷設することにより最
イプラインの建設は経済性が乏しい。そのため
小限に抑えることができる。そして第2は,上
TAGPが仮に“先に全体構想ありき”で,各国
記の結果地域における石油上流開発が促進され
を結ぶ幹線パイプラインの建設から進めること
る効果が期待できることである。アジア地域で
にしていたら,建設自体が進まず実現の目処さ
活動を行う日本企業が多い点を考えれば,供給
えたっていなかったかもしれない。ところがア
インフラに利用できるガスパイプライン網がア
セアンの場合,各国の主要な天然ガス消費地と
セアン一帯に敷設されることは望ましいことで
消費地の間のガス田があたかも各国を結びつけ
ある。
将来TAGPの周辺で天然ガスを発見した場合,
るジョイントの役割を果たすかのように,パイ
プラインネットワークの建設を進めてくること
パイプライン網のさらなる延長・拡張が行われ
ができた。TAGP構想実現に向けては,天然ガ
る可能性もある。また,発見されるガス田の開
スの消費地と供給地点が比較的近接して散在す
発コスト次第では,Natuna巨大ガス田等の既発
るというアセアン地域の特性を生かし,個別の
見未開発ガス田よりも先に開発が行われるプロ
パイプラインを活用しながら延伸計画を進める
ジェクトが出現し,TAGPが現在想定するもの
形をとって広域天然ガスパイプライン網を建
とは異なる形で発展することも考えられる。
一方,全体的なパイプライン構想の大部分か
設・計画できた点が計画を推進する上で大きか
つ主要な区間ですでにパイプラインが完成した
ったのではないかと考えられる。
当初は地域ごとの個別パイプラインでしかな
とは言え,構想の実現にはまだまだ技術的にも
かったものがアセアン各国の首脳までが関与す
政策的にも高いハードルが控えていることも事
るプロジェクトとして提唱されるようになった
実である。そしてTAGP実現への課題はどれも
ことにはいくつかの理由が考えられる。とりわ
解決が難しい問題ばかりである。この点で,将
けTAGPの建設が地域の天然ガス需要家に対す
来のTAGP完成の見通しは全て,参加各国の熱
る供給安定性を高めることや域内に広がる主要
意と今後決定されるTAGPに関する政策の枠組
消費地への供給を長期にわたって可能とするこ
み次第となる。これだけの大規模プロジェクト
とが大きいと考えられる。また,アセアン各国
を制度の異なる多国家間で進めるには,参加各
にとって天然ガス資源を共有することにより相
国の並々ならぬ決意が必要になると思われるが,
互利益を得ることは,パイプラインネットワー
幸いアセアン各国政府はパイプライン網建設の
ク構築の最大の大義名分でもある。天然ガスの
ための努力を惜しまないことを誓っており,ア
利用促進は環境面からも時代に即した流れであ
セアンは複数の国家の集まりであるにも関わら
り,東南アジア地域において天然ガスの利用率
ず強い政治力と団結力を発揮しているように見
が高まることは好ましいことだと言える。
える。
アセアンの中でもタイ,マレーシア,インド
アジア全体では,
天然ガスの埋蔵量/生産量比
ネシアの3ヶ国は特に国内天然ガスパイプライ
率が60年程度あると考えられているにも関わら
ン網の整備を積極的に推し進めてきており,既
ず,すでに長期的な天然ガスの供給に関して,
存パイプラインの大半はこの3ヶ国のものであ
先手を打ちつつある点では評価できるのではな
る。広域パイプライン網という視点からは,
いか。この点に関しては,将来の調達手段とし
TAGPがこの3ヶ国を中心に実現しつつあるこ
て域外からのLNG輸入を行うといった新たなア
とはTAGPの将来を予測する上で非常に重要な
イデアもあり,日本への影響も少なからず出て
意味を持っている。第1に大消費地を結ぶパイ
くる局面も考えられる。現時点では,広域アセ
プラインが実現することによって,将来近隣で
アン天然ガスパイプライン網が真の意味で完成
天然ガスが発見された際,市場をより確保しや
するのはまだ遠い先のことになると考えられる
すくなるとともに,パイプラインにかかるイン
が,エネルギーインフラである「Transアセアン
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石油/天然ガス レビュー ’01・7
エネルギーネットワーク」(広域アセアン天然
ガスパイプライン網(TAGP)およびアセアン
電力網)を着実に築きつつあるアセアンを目の
当たりにして,エネルギー政策の観点で日本が
アセアンに学ぶ点も出ているのである。
(参考資料)
1.Doto’ Hamzah Bakar (SVP, Petronas) 発表
“Strategies Towards Regional Cooperation:
Gas And Power Interconnections”-ASCOPE
主 催 「 Forum on TRANS-ASEAN GAS
PIPELINE & POWER GRIDS 1999」から
2.Dr. Mohd. Farid Mohd. Amin (Lead Coordinator,
ASCOPE) 発表 “Review of ASEAN National
Gas Development”-同上Forumから
3.Al Troner (Asia Pacific Energy Consulting)著
「Southeast Asia Natural Gas」他,報告書
4.ASEANサミット関連ホームページ
(www.aseansec.org/summit/)
5.Petronasホームページ
(www.petronas.com.my/)
石油/天然ガス レビュー ’01・7
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