...

5ZB-1204 終了成果報告書

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

5ZB-1204 終了成果報告書
5ZB-1204-i
課題名
5ZB-1204 空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いた放 射 性 セシウム汚 染 土 壌 の減 容 化 方 法 の
開発
課題代表者名
西 嶋 茂 宏 (大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 環 境 ・エネルギー工 学 専 攻 教 授 )
研究実施期間
平 成 24~25年 度
累計予算額
本 研 究 のキー
ワード
45,673千 円 (うち25年 度 16,797千 円 )
予 算 額 は、間 接 経 費 を含 む。
土 壌 洗 浄 、減 容 化 、放 射 性 セシウム、磁 気 分 離 、凝 集 沈 殿 、脱 水 、サイクロン分 級
研究体制
(1)
空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いた放 射 性 セシウム汚 染 土 壌 の減 容 化 方 法 の開 発
(大 阪 大 学 )
研究概要
1. はじめに(研 究 背 景 等 )
福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 の周 辺 土 壌 は、放 射 性 物 質 によって汚 染 されている。土 壌 粒 子 は粒 径 が2.0 mm以
上 の礫 、2~0.075 mmの砂 、0.075~0.005 mmのシルト、0.005~0.001 mmの粘 土 に分 類 され、地 表 面 に降 り注 い
だ放 射 性 セシウムは、水 に溶 けて土 壌 中 に浸 透 し、岩 盤 や岩 には直 接 吸 着 せずに主 に粘 土 に吸 着 している。粘
土 の有 するイオン交 換 などの吸 着 能 がその主 な原 因 とされている。汚 染 土 壌 を含 めた除 染 の基 本 方 針 は、「平
成 二 十 三 年 三 月 十 一 日 に発 生 した東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 に伴 う原 子 力 発 電 所 の事 故 により放 出 された放 射
性 物 質 による環 境 の汚 染 への対 処 に関 する特 別 措 置 法 」(特 措 法 )に定 められている。除 染 は 2つの段 階 に分 け
られ、ここでは一 次 除 染 と二 次 除 染 と定 義 する。一 次 除 染 は線 量 の高 い汚 染 地 域 で表 土 剥 ぎ取 りや天 地 返 しを
行 い、汚 染 地 域 の空 間 線 量 を低 減 することを目 的 としている。回 収 した汚 染 土 壌 は適 切 な安 全 管 理 のも とで保
管 する必 要 がある。二 次 除 染 は、汚 染 土 壌 の保 管 に至 るまで間 に、セシウムを主 とする放 射 性 物 質 の濃 縮 によ
る低 線 量 土 壌 の埋 戻 しと汚 染 土 壌 の減 容 化 を行 うことを目 的 としている。除 染 計 画 が策 定 された地 域 において
は、すでに一 次 除 染 が行 われている。学 校 を初 めとする公 共 施 設 やインフラ設 備 などについては先 行 的 な除 染
が行 われてきたことから、既 に90%以 上 の除 染 が完 了 している。一 方 、個 人 の住 宅 や農 地 等 については未 だ除 染
の完 了 していない地 域 が多 くみられる。また、一 次 除 染 により集 められた土 壌 やその他 の放 射 性 廃 棄 物 の一 時
的 な保 管 場 所 となる仮 置 き場 は十 分 に確 保 されておらず、二 次 除 染 の具 体 的 な手 法 やその後 の管 理 施 設 とな
る中 間 貯 蔵 施 設 の建 設 の具 体 的 な工 程 も、ようやく定 まりはじめたところである。
現 在 の除 染 における問 題 の一 つは、仮 置 き場 の確 保 が困 難 であることである。除 染 に伴 い発 生 する放 射 性 廃
棄 物 および土 壌 が大 量 であり、それに見 合 った保 管 スペースも広 大 となるためである。環 境 省 は市 町 村 又 はコミ
ュニティ毎 に仮 置 き場 を持 つことが現 実 的 であるとの見 解 を示 している。実 際 の除 染 においては、除 染 現 場 での
保 管 と市 町 村 又 はコミュニティ毎 に設 けられた仮 置 場 での保 管 の2つの手 法 がとられている。現 場 保 管 はコミュニ
ティ内 の仮 置 き場 の確 保 までの一 時 的 な保 管 場 所 として考 えられているが、未 だコミュニティ内 に仮 置 き場 を確
保 できている地 域 は少 なく、現 場 保 管 の期 間 の延 長 が生 じるなど、住 民 からの反 発 が多 い。
また汚 染 土 壌 から放 射 性 セシウムを取 り除 き、線 量 を下 げようとしても、粘 土 鉱 物 からセシウムを脱 離 すること
が困 難 であるという問 題 がある。これは、表 土 剥 ぎ取 り等 の簡 易 除 染 により集 められた汚 染 土 壌 を対 象 とした二
次 除 染 の際 に問 題 となっている。粘 土 鉱 物 のセシウム固 定 作 用 が強 力 であり、セシウムの脱 離 には大 量 のエネ
ルギーの投 資 が不 可 欠 となっている。現 段 階 において、コスト、安 全 性 、環 境 負 荷 などの観 点 からみて、十 分 に
条 件 を満 たした除 染 方 法 は確 立 されていないといえる。このような問 題 点 の解 決 を図 るためには、土 壌 中 の放 射
性 セシウムの存 在 状 態 を把 握 し、対 象 となる土 壌 に適 した手 法 を用 いて、汚 染 土 壌 のさらなる減 容 化 を図 る必
要 がある。
5ZB-1204-ii
2.研 究 開 発 目 的
本 研 究 では、効 率 的 な粘 土 分 と砂 れき分 の分 離 のため、小 型 でモーバイルな汚 染 土 壌 の減 容 化 装 置 の開
発 を目 的 とした。開 発 した空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 は、トラックで搬 送 可 能 である利 点 を生 かし、オンサイトで土
壌 を減 容 化 することができる。本 装 置 の特 徴 は、ブロワーによって空 気 を吹 き込 み、エアーリフトの原 理 で土 壌 を
二 重 構 造 の揚 土 管 に吸 引 しながら、洗 浄 ボールと空 気 と水 による撹 拌 洗 浄 を行 い、 低 線 量 の砂 れきと高 線 量 の
粘 土 に分 離 することが可 能 とすることである。洗 浄 ボール・空 気 ・水 で沈 砂 を撹 拌 洗 浄 し、混 在 している比 重 の小
さな粒 子 を上 部 より分 離 ・排 出 し、比 重 の重 い固 形 物 を装 置 下 部 より沈 殿 排 出 できる。 すなわち、放 射 性 セシウ
ムを高 濃 度 に含 む少 量 の粘 土 粒 子 のみを管 理 対 象 とし、洗 浄 した砂 礫 は放 射 線 量 が低 いことを確 認 した上 で、
客 土 として埋 め戻 すことや、セメントの骨 材 などに利 用 することが現 実 的 である。本 装 置 は容 量 約 100Lであり、カ
バーを設 置 することで閉 鎖 性 を維 持 しやすく、可 動 部 や消 耗 部 品 も少 ないため、メンテナンスも容 易 である。また、
燃 焼 法 などの乾 式 に比 べると、放 射 能 を含 む排 ガスを出 さす、重 油 などの燃 料 も消 費 しない利 点 があり、技 術 的
な独 創 性 を有 する。本 目 的 の達 成 のため、(1)土 壌 からの粘 土 ・セシウムの効 率 的 な分 離 条 件 の解 明 、(2)空
気 揚 砂 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いた汚 染 土 壌 の洗 浄 方 法 の開 発 、(3)水 相 からのセシウムの回 収 方 法 の開 発 を
行 った。
3.研 究 開 発 の方 法
(1)土 壌 からの粘 土 ・セシウムの効 率 的 な分 離 条 件 の解 明
土 壌 中 の粘 土 画 分 の分 離 には、空 気 揚 土 式 洗 浄 装 置 がそのまま適 用 できる土 壌 と 、適 用 できない土 壌 があ
るのではないかと考 えられる。そこで、より移 動 の容 易 な 容 量 10 Lの小 型 装 置 を用 い、土 壌 の種 類 による粘 土 の
分 離 率 の違 いを調 べた。試 験 土 壌 には、福 島 県 の川 内 村 鍋 倉 ダム付 近 で採 取 した山 土 、および飯 舘 村 長 泥 地
区 入 口 付 近 の道 路 脇 で採 取 した庭 土 を用 いた。試 験 土 壌 に3Lの洗 浄 水 を加 えて、水 面 に浮 上 する落 ち葉 を排
除 した。洗 浄 水 1回 の試 験 には、1.0 kgまたは1.2 kgの試 験 土 壌 を用 い、洗 浄 水 の量 は合 計 10 Lとした。ブロワー
を用 いて毎 分 約 26~28 Lの揚 土 管 空 気 を送 風 した。装 置 を30分 間 運 転 し、ブロワーを停 止 して20秒 間 静 止 後 、
粘 土 懸 濁 水 を採 取 した。装 置 下 部 から排 出 した土 砂 を洗 浄 排 出 土 壌 とした。処 理 水 中 の土 壌 固 形 分 、排 出 土
砂 、および排 出 土 砂 の上 澄 み液 のγ線 量 をCsIシンチレーション検 出 器 で測 定 した。また、排 出 土 壌 からのセシ
ウムの溶 出 を1 mol/Lの炭 酸 カリウム溶 液 を用 いて試 みた。
(2)空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いた汚 染 土 壌 の洗 浄 方 法 の開 発
約 100Lの空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を開 発 し、福 島 県 飯 舘 村 の某 事 業 所 の車 庫 に設 置 して、2013年 1~2月
に汚 染 土 壌 の洗 浄 実 験 を行 った。事 業 所 敷 地 内 の笹 薮 および駐 車 場 前 から採 取 した表 層 10 cmまでの土 壌 を
処 理 対 象 とした。1バッチ当 たり湿 重 量 10~30kgの土 壌 を投 入 し、約 100 Lの洗 浄 水 で洗 浄 を行 った。30分 の洗
浄 後 、約 90 Lの処 理 水 を処 理 水 槽 に移 した。装 置 下 部 から排 出 した土 砂 を約 30Lの洗 浄 水 でさらに洗 浄 した。
処 理 水 槽 には、細 かな土 壌 粒 子 が懸 濁 した処 理 水 が130~140 L貯 留 された。
飯 舘 村 での実 験 後 、土 壌 洗 浄 装 置 を川 内 村 に移 動 させ、2013年 5月 に汚 染 土 壌 の減 容 化 実 験 を行 った。除
染 作 業 によって農 道 および道 路 側 溝 から回 収 された土 壌 を処 理 対 象 とした。 飯 舘 村 と同 様 の方 法 で土 壌 を処
理 し、処 理 水 に懸 濁 させた土 壌 粒 子 を凝 集 剤 100 mg/L、助 剤 1 mg/Lとした凝 集 沈 殿 によって濃 縮 し、乾 燥 脱 水
機 によって土 壌 の脱 水 ケーキを回 収 した。また、凝 集 沈 殿 前 にサイクロン分 級 装 置 によって、懸 濁 土 壌 を分 級 す
る実 験 も行 った。半 減 期 が30.2年 と長 いセシウム137の土 壌 中 の濃 度 をゲルマニウム半 導 体 検 出 器 で測 定 した.
飯 舘 村 と川 内 村 の空 間 線 量 は、環 境 モニタリングシステムによって測 定 した。
(3)水 相 からのセシウムの回 収 方 法 の開 発
土 壌 洗 浄 によって、セシウムが水 相 に放 出 された場 合 は、吸 着 剤 によってそれを除 去 することが必 要 となる。
そこで、水 相 にセシウムが放 出 された際 に有 効 な吸 着 剤 を調 べるとともに、砂 礫 分 、粘 土 分 のモデル物 質 を用 い
て、それらの物 質 のセシウム吸 着 特 性 を調 査 した。吸 着 材 としては、シリカゲル、ポーラスシリカ、ゼオライト、磁
化 ゼオライト、磁 化 プルシアンブルー、バーミキュライト、石 英 、長 石 を用 いた。100 mg/Lの塩 化 セシウム溶 液 50
mLに0.05 gの吸 着 材 を加 え、2時 間 振 盪 した後 、孔 径 0.2μmのフィルターでろ過 した。溶 液 中 のセシウムイオン濃
度 を、イオンクロマトグラフィーを用 いて分 析 を行 った。
また、サイクロン分 級 後 に回 収 される粘 土 微 粒 子 は、放 射 性 物 質 を多 く含 むが、その粘 土 微 粒 子 の中 でもセ
シウムの吸 着 性 は種 類 により異 なる。セシウムを強 く吸 着 する粘 土 粒 子 は常 磁 性 であり、その他 の粘 土 粒 子 は
反 磁 性 である。そのため、磁 化 率 の違 いを利 用 した分 離 手 法 の一 つである、磁 気 アルキメデス法 を サイクロン分
級 の後 処 理 として導 入 し、土 壌 洗 浄 →サイクロン分 級 →磁 気 アルキメデス法 という順 で粘 土 粒 子 を分 離 すること
5ZB-1204-iii
を想 定 した。実 験 に用 いた粘 土 粒 子 懸 濁 液 は1 Lで、固 液 比 が1:200であった。強 磁 性 線 として線 径 0.2 mmの
SUS430のワイヤーをハルバッハ磁 石 の最 も磁 場 の強 い部 分 に設 置 し、そこに流 速 2cm/sで懸 粘 土 粒 子 懸 濁 液
を流 した。ハルバッハ磁 石 の最 大 磁 束 密 度 は1.4Tであった。
4.結 果 及 び考 察
(1)土 壌 からの粘 土 ・セシウムの効 率 的 な分 離 条 件 の解 明
小 型 空 気 揚 土 式 洗 浄 装 置 を用 い、飯 舘 村 と川 内 村 の土 壌 の洗 浄 実 験 を実 施 した。 飯 舘 村 の土 壌 は、10~
14%が懸 濁 土 壌 として分 離 され、この土 壌 からは洗 浄 前 の土 壌 の2倍 近 いγ線 が検 出 された。一 方 、67~81%
が大 きな粒 子 で構 成 される排 出 土 壌 となり、この土 壌 からは洗 浄 前 の土 壌 の 60%前 後 のγ線 しか検 出 されなか
った。川 内 村 の土 壌 も、12%が懸 濁 土 壌 として分 離 され、この土 壌 からは洗 浄 前 の土 壌 の2.7倍 ものγ線 が検 出
された。一 方 、70%が排 出 土 壌 となり、この土 壌 からは洗 浄 前 の土 壌 の70%前 後 のγ線 しか検 出 されなかった。
この結 果 は、放 射 性 セシウムが、粘 土 やシルトなどの細 かな粒 子 に付 着 しやすい性 質 を表 している。しかし、 本
法 による洗 浄 によって、砂 礫 分 (排 出 土 壌 )の放 射 線 量 が、期 待 していたほど低 下 し ておらず、放 射 性 セシウム
の大 半 は、懸 濁 土 壌 よりも、排 出 土 壌 に残 存 している結 果 となった。
川 内 村 の洗 浄 前 の土 壌 の2mm以 下 の粒 子 は、放 射 線 濃 度 83,000 Bq/kg-dry以 上 を示 し、それ以 上 の粒 径
のものは、40,000 Bq/kg-dryを下 回 った。洗 浄 排 出 土 壌 は、いずれの粒 径 でも洗 浄 前 よりも放 射 線 濃 度 が低 下
しており、2mm以 下 の大 きさの粒 子 はいずれも60,000 Bq/kg-dry以 上 を示 した一 方 、それ以 上 の粒 径 のものは
20,000 Bq/kg-dryを下 回 った。そこで礫 分 に弱 く吸 着 しているセシウムの存 在 を想 定 し、排 出 土 壌 をK 2 CO 3 水 溶
液 で洗 浄 したところ、セシウムは殆 ど除 去 されなかった。そのため、特 にセシウムを強 く吸 着 するとされている粘 土
成 分 が、団 粒 構 造 中 の有 機 物 に強 く吸 着 していると推 定 された。排 出 土 壌 中 には、少 量 ではあるが、75μm以
下 の粒 子 も含 まれていたことから、今 回 用 いた小 型 分 級 装 置 の性 能 が不 十 分 であったため、砂 礫 中 には本 来 は
混 入 しないはずの粘 土 粒 子 が混 入 していたことも考 えられる。これらの結 果 から、今 回 の川 内 村 鍋 倉 土 壌 によう
に、団 粒 構 造 を形 成 しやすい土 壌 では、空 気 揚 土 式 土 壌 洗 浄 のみでは、土 壌 中 の放 射 性 セシウムを分 離 する
ことは困 難 であるといえる。
(2)空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いた汚 染 土 壌 の洗 浄 方 法 の開 発
装 置 を福 島 県 飯 舘 村 に設 置 し、セシウム汚 染 土 壌 の洗 浄 実 験 を実 施 した。笹 薮 から採 取 した土 壌 は、投 入
量 を20kgにまで増 加 させたが、元 の重 量 の45~47%に相 当 する洗 浄 処 理 土 壌 が得 られた。洗 浄 処 理 土 壌 の粒
径 は、75μm以 下 のものが大 幅 に減 少 し、粘 土 ・シルト分 の大 半 が懸 濁 成 分 となり、約 50%相 当 の土 壌 が処 理
水 槽 に移 動 したと考 えられた。セシウム137濃 度 は、洗 浄 前 は18,800 Bq/kgと高 濃 度 であったこともあり、洗 浄 処
理 した土 壌 の濃 度 は低 下 したものの、4,800~5,220 Bq/kgであった。一 方 、処 理 水 槽 の懸 濁 土 壌 は35,900~
49,500 Bq/kgと極 めて高 濃 度 であった。洗 浄 前 の土 壌 に含 まれていた量 を100%とした物 質 収 支 では、セシウム
137は、洗 浄 処 理 土 壌 に12~13%しか残 らず、90%弱 が懸 濁 土 壌 とともに水 相 に移 行 したと考 えられた。
一 方 、駐 車 場 から採 取 した土 壌 は、投 入 量 を30 kgにまで増 加 させても、装 置 内 における土 壌 の撹 拌 状 況 は良
好 であり、投 入 した土 壌 の71~86%が洗 浄 処 理 土 壌 として回 収 され、10~30%が処 理 水 槽 に懸 濁 土 壌 として分
離 された。洗 浄 処 理 土 壌 の粒 径 は、75μm以 下 のものがやはり減 少 しており、粘 土 ・シルト分 の大 半 が懸 濁 成 分
となったと思 われる。土 壌 中 のセシウム137濃 度 は、洗 浄 前 は6,160 Bq/kgであったが、洗 浄 処 理 した土 壌 は期
待 通 りに1,100~2,200 Bq/kgにまで濃 度 が低 下 し、処 理 水 槽 の懸 濁 土 壌 は28,300~70,300 Bq/kgと極 めて高 濃
度 であった。セシウム137は、洗 浄 処 理 土 壌 に14~26%しかセシウムが残 留 していないことが明 らかとなった。一
方 、処 理 水 槽 の懸 濁 土 壌 には、63~78%に相 当 するセシウム137が含 まれている結 果 となった。
飯 舘 村 での実 証 実 験 後 、土 壌 洗 浄 装 置 を川 内 村 に移 設 した。農 道 から回 収 された土 壌 にはセシウム137が
1,000 Bq/kg-dry含 まれていた。この土 壌 中 で75μm以 下 の粒 子 は1.8%を占 めており、この微 小 粒 子 にセシウム
137は3,400 Bq/kg-dryと高 濃 度 に含 まれていた。86%が重 力 沈 降 によって洗 浄 処 理 土 壌 として回 収 され、計 算
によると、この土 壌 のセシウム137濃 度 は570 Bq/kg-dryと低 いことが示 唆 された。一 方 、処 理 水 に移 行 した懸 濁
粒 子 を凝 集 沈 殿 させた後 、乾 燥 脱 水 機 による処 理 によって得 られた脱 水 ケーキには、元 の土 壌 の43%のセシウ
ム137(7,800Bq/kg-dry)が含 まれており、元 の土 壌 の10%の重 量 に減 量 化 することができた。脱 水 ケーキの含
水 率 はわずか12%であった。なお、洗 浄 処 理 後 の土 壌 には、洗 浄 前 よりも75μm以 下 の粒 子 の比 率 がわずかな
がら増 加 した。この一 因 として、農 道 から採 取 したこの土 壌 に含 まれる団 粒 構 造 の一 部 が、洗 浄 過 程 において細
かく砕 かれたことが、考 えられる。また、凝 集 沈 殿 をする前 にサイクロン分 級 を行 った。大 きな懸 濁 粒 子 はアンダ
ー水 に、細 かな粒 子 はオーバー水 に分 離 され、オーバー水 に分 離 された土 壌 粒 子 のセシウム137濃 度 は、アンダ
ー水 に配 分 されたものよりも、わずかではあるが、やはり高 かった。オーバー水 中 の土 壌 粒 子 を凝 集 沈 殿 後 、 回
収 された脱 水 ケーキ(含 水 率 13%)は、元 の土 壌 の重 量 の10%に相 当 し、元 の土 壌 の30%のセシウム137(5,400
Bq/kg-dry)が含 まれていた。しかしながら、アンダー水 に分 離 された土 壌 粒 子 にも、元 の土 壌 の 21%のセシウム
5ZB-1204-iv
137(3,800 Bq/kg-dry)が含 まれていた。
川 内 村 の道 路 側 溝 から回 収 された土 壌 を洗 浄 装 置 に湿 重 量 20 kg投 入 した。この土 壌 にはセシウム137が
7,300 Bq/kg-dryと高 濃 度 に含 まれていた。この土 壌 中 で75μm以 下 の粒 子 は4.2%を占 め、この微 小 粒 子 にセ
シウム137は17,000 Bq/kg-dryも含 まれていた。洗 浄 処 理 土 壌 は元 の土 壌 80%の重 量 に相 当 し、セシウム137の
45%が残 存 した。一 方 、処 理 水 に移 行 した懸 濁 土 壌 を凝 集 沈 殿 させ、乾 燥 脱 水 によって得 られた脱 水 ケーキ
(含 水 率 12%)には、元 の土 壌 の46%のセシウム137(24,000Bq/kg-dry)が含 まれており、元 の土 壌 の14%の重
量 に減 量 化 することができた。洗 浄 処 理 後 の土 壌 には、洗 浄 前 よりも75μm以 下 の粒 子 (粘 土 ・シルト)の比 率
がわずかながら減 少 していた。また、凝 集 沈 殿 の上 澄 水 と脱 水 ろ液 のセシウム137濃 度 は、それぞれ4.3 Bq/L、
15 Bq/Lと低 濃 度 であり、付 近 の河 川 水 (5 Bq/L)と同 程 度 であった。このことからも、土 壌 粒 子 から水 中 へのセ
シウム137の脱 着 量 は、極 めて少 量 であることが示 唆 された。また、凝 集 沈 殿 の前 にサイクロン分 級 を行 ったとこ
ろ、やはりアンダー水 に分 離 された土 壌 粒 子 のセシウム137濃 度 はオーバー水 に配 分 されたものよりも低 く、元 の
土 壌 の29%に相 当 するセシウム137が回 収 された。回 収 された脱 水 ケーキ(含 水 率 13%)は、元 の土 壌 の重 量 の
5%に相 当 し、元 の土 壌 の21%のセシウム137(31,000Bq/kg-dry)が含 まれていた。
以 上 のように小 型 の洗 浄 装 置 を用 いてセシウムが高 濃 度 に含 まれている粘 土 成 分 を回 収 し、管 理 対 象 とする
土 壌 を減 容 化 することが実 証 できた。さらに川 内 村 では、サイクロン分 級 によって、セシウム137濃 度 の極 めて高
濃 度 な微 粒 子 を回 収 できることが示 された。しかしながら、土 壌 の種 類 によっては、その減 容 化 の効 率 は高 くない
場 合 があるといえる。小 型 実 験 装 置 で洗 浄 した土 壌 と異 なり、本 実 験 に用 いた飯 舘 村 の 土 壌 は駐 車 場 のもので
あり、有 機 物 含 有 量 が少 なかったと考 えることができる。このような場 合 は土 壌 粒 子 が団 粒 構 造 を形 成 しにくく、
粘 土 粒 子 と砂 礫 ・シルト粒 子 を比 較 的 高 精 度 に分 級 することができ、その結 果 、線 量 低 減 と減 容 化 に成 功 したと
考 えられる。
(3)水 相 からのセシウムの回 収 方 法 の開 発
各 種 の吸 着 材 へのセシウムの飽 和 吸 着 量 を測 定 した。塩 化 セシウムの溶 液 pH は約 7(~6.8)程 度 であった。
吸 着 材 として広 く利 用 されているアルミノケイ酸 塩 の 1 種 であるゼオライトに加 え、磁 化 ゼオライトや磁 化 プルシア
ンブルーも、水 相 のセシウムをよく吸 着 した。これらの吸 着 剤 の飽 和 吸 着 量 は、実 際 のセシウム濃 度 ( ppt レベ
ル)を想 定 すれば十 分 な吸 着 量 と言 える。比 表 面 積 は通 常 のシリカゲルが最 も大 きく、ゼオライトや磁 化 ゼオライ
トはその約 1/50 であった。ゼオライトは、表 面 積 がシリカゲルより小 さいにもかかわらずセシウムを多 く吸 着 する
性 質 を持 っていることが分 かった。また、面 積 は最 も少 ない石 英 が、単 位 表 面 積 当 たりの吸 着 量 が最 も多 かっ
た。粘 土 鉱 物 以 外 で土 壌 中 で大 きな割 合 を占 め、特 に砂 れきの主 成 分 となっている石 英 、長 石 のセシウム吸 着
量 は低 く、吸 着 したものも弱 い相 互 作 用 で吸 着 しており、容 易 に脱 離 しやすいことから、本 手 法 によって粘 土 分 を
分 級 することはセシウム分 離 のために有 効 であることが示 された。
磁 気 アルキメデス法 を用 いたさらなる汚 染 土 壌 の減 容 化 実 験 を実 施 した。試 料 回 収 率 は88%、放 射 線 バラン
スが104%であった。投 入 試 料 に対 し、磁 性 細 線 に捕 捉 された粒 子 は、2倍 以 上 の線 量 を示 し、捕 捉 された粒 子
に放 射 性 物 質 が濃 縮 された。一 方 、通 過 物 はセシウムを強 く吸 着 しない粘 土 粒 子 を多 く含 むと考 えられるが、実
際 には10%程 度 線 量 が低 減 したのみであった。この理 由 としては、粘 土 鉱 物 は表 面 積 が大 きいため、セシウムを
吸 着 しにくい反 磁 性 の粒 子 にも、セシウムが弱 く吸 着 されているのではないかと考 えられる。また、有 機 成 分 によ
る土 壌 粒 子 の凝 集 も、もう一 つの要 因 として考 えられる。また、本 手 法 での減 容 化 率 は 30%強 程 度 にとどまった。
これは、それぞれの土 壌 中 の粘 土 鉱 物 の構 成 比 に依 存 するため、空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 による 洗 浄 、およ
びその後 のサイクロン分 級 と合 わせての一 連 の処 理 による減 容 化 率 が十 分 なものであれば問 題 はないと考 えら
れる。実 用 化 に向 けて、より分 離 精 度 を高 め、通 過 分 の線 量 を埋 戻 しできるレベルにまで低 減 させるには、土 壌
中 でのセシウムの詳 細 な動 態 を調 査 し、前 処 理 や分 離 方 法 などを工 夫 していく必 要 がある。
5.本 研 究 により得 られた主 な成 果
(1)科 学 的 意 義
土 壌 中 の放 射 性 セシウムの多 くが粘 土 に強 く吸 着 していることを利 用 して、湿 式 分 離 による高 精 度 な土 壌 分
級 を飯 舘 村 と川 内 村 で行 い、大 幅 な線 量 の低 減 と、汚 染 土 壌 の減 容 化 が行 えることを明 らかにした。このことは、
空 気 揚 土 撹 拌 装 置 を用 いて物 理 的 な剪 断 力 を与 えることによって、砂 礫 表 面 に付 着 した粘 土 も取 り除 くことが
可 能 であることを示 しており、また従 来 の分 級 手 法 よりもコンパクトな装 置 で、土 壌 分 級 、凝 集 沈 殿 、脱 水 までの
一 連 の作 業 が可 能 であることが示 され、工 学 の観 点 からも意 義 のある成 果 が得 られた。一 方 、団 粒 構 造 が発 達
した土 壌 には、排 出 土 壌 に粘 土 が残 ってしまい、酸 洗 浄 によっても十 分 なセシウムの溶 出 効 果 が得 られず、本 手
法 の適 用 が困 難 であることも示 唆 された。このことは除 染 プロセスをより簡 易 にするための基 礎 技 術 として実 用
的 なシステム構 築 に貢 献 できると考 えられる。また、セシウムを強 く吸 着 する粘 土 粒 子 は常 磁 性 であり、その他 の
5ZB-1204-v
粘 土 粒 子 は反 磁 性 であることを利 用 し、磁 気 アルキメデス法 によるセシウムの濃 縮 と減 容 化 の可 能 性 が示 され
た。また、一 般 的 にはセシウムの吸 着 剤 の吸 着 能 は、セシウムの脱 離 に有 効 であると考 えられている酸 性 溶 液
や塩 溶 液 中 で著 しく低 下 することが分 かっているが、固 液 比 や酸 濃 度 を調 整 することで、吸 着 能 の低 下 を最 小
限 に抑 えることができた。さらに、脱 離 溶 液 に土 壌 を分 散 した状 態 に強 磁 性 を付 与 した吸 着 剤 を添 加 し、セシウ
ムの脱 離 と吸 着 を同 時 に行 うことを試 み、その結 果 、土 壌 と強 磁 性 吸 着 剤 の共 存 条 件 下 でも、土 壌 から吸 着 剤
へとセシウムが移 行 することが確 認 された。このことは除 染 プロセスをより簡 易 にするための基 礎 技 術 として実 用
的 なシステム構 築 に貢 献 できると考 えられる。
(2)環 境 政 策 への貢 献
<行 政 が既 に活 用 した成 果 >
特 に記 載 すべき事 項 はない。
<行 政 が活 用 することが見 込 まれる成 果 >
モーバイルでコンパクトな装 置 であることを活 かし、大 阪 大 学 、福 島 県 飯 舘 村 、川 内 村 にて、除 染 ・減 容 化 のた
めのパイロットシステムを構 築 し、実 際 の汚 染 土 壌 を対 象 として稼 働 を行 い、土 壌 の性 質 に依 存 するものの、実
用 に耐 え得 る除 染 と減 容 化 の効 果 を定 量 的 に確 認 することができた。このように、恒 久 的 な施 設 を建 設 するので
はなく、除 染 が終 了 すると次 の地 点 に移 動 できるような除 染 システムの開 発 が、迅 速 で、効 率 的 、経 済 的 な除 染
が可 能 になると期 待 される。このような手 法 を用 いて 被 曝 線 量 をさらに低 減 (1mSv/年 に近 づける)することを目
指 している。高 度 化 したシステムが完 成 すれば、地 域 の安 全 確 保 が可 能 となり、復 興 支 援 につながる。さらには、
福 島 県 に設 置 される中 間 貯 蔵 施 設 での減 容 化 技 術 へとも発 展 させることが可 能 である。
6.研 究 成 果 の主 な発 表 状
(1)主 な誌 上 発 表
<査 読 付 き論 文 >
1) S. IGARASHI, F. MISHIMA, Y. AKIYAMA, and S. NISHIJIMA: Physica C, 494, 221–224 (2014)
“Fundamental study of cesium decontamination from soil by superconducting magnet ”
2) 西 嶋 茂 宏 :応 用 物 理 , 82, 575-578 (2013)
「磁 気 分 離 による環 境 浄 化 超 電 導 磁 気 分 離 による汚 染 土 壌 減 容 化 の試 み」
(2)主 な口 頭 発 表 (学 会 等 )
1) 西 嶋 茂 宏 :第 13回 全 国 市 町 村 土 壌 浄 化 法 連 絡 協 議 会 第 13回 全 国 大 会 (2012)
「下 水 道 の放 射 能 汚 染 の考 え方 -下 水 道 の役 割 -」
2) 関 谷 一 輝 、吉 田 有 輝 、桑 原 裕 紀 、五 十 嵐 亨 、野 村 直 希 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、西 嶋 茂 宏 :第 11回 磁 気 力
制 御 ・磁 場 応 用 夏 の学 校 (2012)
「磁 気 分 離 法 を用 いた土 壌 中 のセシウム除 染 に関 する研 究 」
3) 西 嶋 茂 宏 、秋 山 庸 子 、三 島 史 人 :第 86回 秋 季 低 温 工 学 ・超 電 導 学 会 (2012)
「磁 気 分 離 法 を用 いた放 射 性 物 質 の土 壌 からの除 去 に関 する研 究 」
4) S. IGARASHI、 N. NOMURA、 F. MISHIMA、 Y. AKIYAMA、 S. NISHIJMA:(ISS2012) 25th International
Symposium on Superconductivity 、 Tokyo、 Japan (2012)
“Fundamental study on cesium decontamination from soil by using superconducting magnet”
5) 桑 原 裕 紀 、関 谷 一 輝 、吉 田 有 輝 、五 十 嵐 亨 、野 村 直 希 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、原 田 和 生 、平 田 収 正 、西 嶋
茂 宏 :日 本 放 射 線 安 全 管 理 学 会 第 11回 学 術 大 会 (2012)
「土 壌 中 のセシウムの挙 動 に関 する研 究 -その1:セシウムの脱 離 -」
6) 吉 田 有 輝 、桑 原 裕 紀 、関 谷 一 輝 、五 十 嵐 亨 、野 村 直 希 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、原 田 和 生 、平 田 収 正 、西 嶋
茂 宏 :日 本 放 射 線 安 全 管 理 学 会 第 11回 学 術 大 会 (2012)
「土 壌 中 のセシウムの挙 動 に関 する研 究 -その2:セシウムの吸 着 -」
7) S. NISHIJIMA、 M. IKE、 S. SODA、 Y. AKIYAMA、 Y. YASAKA、 T. HIGASHI、 The 16 t h SANKEN
International Symposium 2013、 The 11th SANKEN Nanotechnology Symposium、 Sustainable Society
- After the Nuclear Power Plant Accident (2013)
“Study of volume reduction for cesium contaminated soil”
8) 西 嶋 茂 宏 :第 10回 智 の木 協 会 イヴニングトーク(2013)
5ZB-1204-vi
「東 北 大 震 災 の爪 痕 -放 射 能 汚 染 を考 える-」
9) 西 嶋 茂 宏 :超 伝 導 送 電 システム研 究 会 第 7回 研 究 会 (2013)
「磁 気 力 制 御 技 術 による新 展 開 -資 源 リサイクル、MDDS、除 染 -」
10) 西 嶋 茂 宏 :平 成 25年 (創 立 125周 年 記 念 )電 気 学 会 全 国 大 会 (2013)
「超 電 導 磁 気 分 離 を用 いた除 染 の可 能 性 」
11) 野 村 直 希 、五 十 嵐 亨 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、西 嶋 茂 宏 :第 87回 2013年 度 春 季 低 温 工 学 ・超 電 導 学 会
(2013)
「磁 気 力 制 御 を用 いた土 壌 の除 染 に関 する研 究 」
12) 野 村 直 希 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、西 嶋 茂 宏 :第 2回 環 境 放 射 能 除 染 研 究 発 表 会 (2013)
「磁 気 力 制 御 を用 いた土 壌 の除 染 に関 する研 究 」
13) 西 嶋 茂 宏 :第 1回 電 気 学 会 「超 電 導 磁 気 分 離 システムを利 用 した除 染 技 術 」調 査 専 門 委 員 会 除 染 と磁 気
分 離 ・超 電 導 技 術 シンポジウム(2013)
「超 電 導 を利 用 した土 壌 除 染 の可 能 性 」
14) 惣 田 訓 、池 道 彦 、西 嶋 茂 宏 、東 利 保 、舟 橋 彌 典 :第 50回 下 水 道 研 究 発 表 会 (2013)
「沈 砂 洗 浄 装 置 を応 用 したセシウム汚 染 土 壌 の減 容 化 装 置 の基 礎 開 発 」
15) 西 嶋 茂 宏 :低 温 工 学 ・超 電 導 学 会 東 北 ・北 海 道 支 部 第 18回 超 電 導 ・低 温 若 手 セミナー(2013)
「超 電 導 磁 石 を利 用 したDDSと除 染 の研 究 」
16) 野 村 直 希 、桑 原 裕 紀 、三 島 史 人 、秋 山 庸 子 、西 嶋 茂 宏 :第 12回 2013年 度 磁 気 力 制 御 ・磁 場 応 用 夏 の学
校 (2013)
「磁 気 分 離 法 による汚 染 土 壌 の線 量 低 減 に向 けた研 究 」
17) S. NISHIJIMA: The 4th International Forum on Magnetic Force Control 、 Osaka、 JAPAN (2013)
“The superconducting magnetic force control technologies for industrial applications”
18) N. NOMURA, F. MISHIMA, Y. AKIYAMA, and S. NISHIJIMA: The 4th International Forum on Magnetic Force
Control、 Osaka、 JAPAN (2013)
“Study on decontamination of contaminated soil by Magnetic separation”
19) 西 嶋 茂 宏 :日 本 技 術 士 会 近 畿 本 部 主 催 講 演 会 (2013)
「磁 場 を用 いた福 島 汚 染 土 壌 の除 染 に関 する研 究 」
20) 西 嶋 茂 宏 :日 本 リスクマネジャネットワーク主 催 セミナ- 日 本 における『環 境 問 題 』に対 する取 り組 み方 と
は?-「放 射 能 汚 染 」の現 状 と今 後 のあり方 -(2013)
「土 壌 汚 染 に関 する「除 染 」についての現 況 」
21) 惣 田 訓 、森 本 成 樹 、池 道 彦 、東 利 保 、西 嶋 茂 宏 :第 50回 環 境 工 学 研 究 フォーラム(2013)
「飯 舘 村 における空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いたセシウム汚 染 土 壌 の減 容 化 の実 証 試 験 」
22) 惣 田 訓 、森 本 成 樹 、大 槻 宗 司 、堀 出 文 男 、橋 本 卓 典 、池 道 彦 、山 下 学 、東 利 保 、西 嶋 茂 宏 :第 48回 日 本
水 環 境 学 会 年 会 (2014)
「福 島 県 における空 気 揚 土 撹 拌 式 洗 浄 装 置 を用 いたセシウム汚 染 土 壌 の減 容 化 の実 証 試 験 」
23) S.SODA, S. MORIMOITO, M. IKE, T. HIGASHI, and S. NISHIJIMA: 3R International Scientific Conference
on Material Cycles and Waste Management (2014 )
“Volume reduction of radiocesiu m-contaminated soil by air-lift soil washing process: A feasibility study in
Iitate village 2013”
7.研 究 者 略 歴
課 題 代 表 者 :西 嶋 茂 宏
大 阪 大 学 工 学 部 卒 業 、工 学 博 士 、現 在 、大 阪 大 学 工 学 研 究 科 教 授
研究分担者
1) 池 道 彦
大 阪 大 学 工 学 部 卒 業 、現 在 、大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 教 授
2) 矢 坂 裕 太
室 蘭 工 業 大 学 工 業 化 学 科 卒 業 、現 在 、大 阪 大 学 環 境 安 全 研 究 管 理 センター講 師
3) 惣 田 訓
大 阪 大 学 工 学 部 卒 業 、現 在 、大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 准 教 授
5ZB-1204-vii
4) 秋 山 庸 子
岡 山 大 学 工 学 部 卒 業 、現 在 、大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 講 師
5ZB-1204-1
5ZB-1204
空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた放射性セシウム汚染土壌の減容化方法の開発
(1)空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた放射性セシウム汚染土壌の減容化方法の開発
大阪大学
大学院工学研究科
西嶋
池
環境安全研究管理センター
茂宏
道彦
惣田
訓
秋山
庸子
矢坂
裕太
平成24~25年度累計予算額:45,673千円
(うち、平成25年度予算額:16,797千円)
予算額は、間接経費を含む。
[要旨]
放射性セシウムによる汚染土壌の減容化を目的とし、小型でモーバイルな特徴を有する空気揚土
撹拌式洗浄装置を開発した。放射性セシウムは、主に土壌表面の粘土に吸着しているため、 水と
ともに撹拌し、微小粒子を分離することが汚染土壌の減容化の理想的な方法である。 水中に懸濁
させた放射性セシウムを高濃度に含む粒子は、凝集沈殿法や磁気分離法などによって回収する。
洗浄後の土壌は、放射線量が十分に低いことを確認し、原位置に埋め戻す。本方法の開発のため、
3つのテーマを設定した。(1)土壌からの粘土・セシウムの効率的な分離条件の解明では、 10 L
の小型洗浄装置を用い、福島県飯舘村の庭土と川内村の山土を対象とし、汚染土壌の 減容化の基
礎実験を行った。その結果、汚染土壌の減容化の原理が確認された一方、大きな土壌粒子にも放
射性セシウムが付着していることも明らかとなった。 (2)空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた汚
染土壌の洗浄方法の開発では、100 Lの洗浄装置を飯舘村に設置し、笹薮と駐車場のセシウム汚染
土壌を対象とし、湿重量10~30kgの土壌を30分間洗浄することによって、 放射性セシウムを高濃
度に含む微小粒子と低濃度に含む大粒子に土壌を分離できた。その後、装置を川内村に搬送した。
農道と側溝から回収した汚染土壌を対象とし、土壌洗浄、サイクロン分級、凝集沈殿、脱水まで
の一連の処理によって、放射性セシウムを高濃度に含む微小粒子を回収できることを示した。
(3)
水相からのセシウムの回収方法の開発では、 硝酸やヨウ化カリウムによって粘土からセシウムを
溶出させ、磁化ゼオライトや磁化プルシアンブルーによって吸着できることを 示した。また、磁
気アルキメデス法により、放射性セシウムを吸着した常磁性粘土を回収できることを明らかとし
た。以上のようにパイロットシステムを構築し、土壌の性質に依存するものの、 汚染土壌の減容
化の効果を確認することができた。
[キーワード]
土壌洗浄、減容化、放射性セシウム、磁気分離、凝集沈殿、脱水、サイクロン分級
5ZB-1204-2
1. はじめに
(1) 放射性物質による土壌汚染の現状
東京電力福島第一原子力発電所の周辺の土壌は,2011年3月11日の事故によって飛散した放射性
物質によって汚染されている 1) 。国際放射線防護委員会(ICRP: International Commission on
Radiological Protection)により定められている一般公衆の線量限度は 1 mSv/yearであり 2) 、空間線量
率が20~50 mSv/yearの地域が居住制限区域、50 mSv/year以上が帰宅困難区域となっている 3) 。震災
3ヶ月後時点の放射性物質で汚染された土地の推定面積から発生する汚染土壌の量を概算したも
のを表(1)-1に示す 4) 。除染作業にともなって発生する汚染土壌の量は、 8000 Bq/kg以上の土地につ
いて除染を行い、表土5 cmの剥ぎ取り処理を行った場合、約1.2億m3 となる。これは、一般廃棄物
の最終処分場に今後埋め立て可能な量を表している残余容量に相当する量である。現在の国の除
染方針では森林の除染については明確にされておらず、除染作業者の被曝の観点からも森林の除
染は行われない可能性が高い。しかし、農地だけが除染対象となる場合でも 1000万m3 を超える大
量の汚染土壌が発生することになる。そのため、汚染土壌の減容化技術が必要とされている。
汚染土壌を含めた除染の基本方針は、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖
地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する
特別措置法」(特措法)に定められている。土壌の除染計画の具体的な目標は、この特措法に従
って定められている 5) 。 環境省は特措法に定められた基本方針に基づき、年間追加 被曝線量が20
mSvを超える地域を除染特別区域、年間追加 被曝線量が1~20 mSvの地域を汚染状況重点調査区域
と定めている。平成25年1月時点で、福島県内の東京電力福島第一原子力発電所周辺の地域は、除
染特別区域に、福島県、宮城県、岩手県などの東北地方の一部が汚染状況重点調査区域に指定さ
れている 6) 。除染特別区域は国が主体となって除染を行い、汚染状況重点調査区域は国の指導の下、
地方自治体が除染を行う地域とされている。汚染状況重点調査区域は平成 25年1月時点で101の市
町村が指定されており、そのうち92の市町村は除染計画の策定がなされ、残りの 9市町村では除染
計画の策定が完了していない。
除染は2つの段階に分けられ、ここでは一次除染と二次除染と定義する。一次除染は線量の高い
汚染地域で表土剥ぎ取りや天地返しを行い、汚染地域の空間線量を低減することを目的としてい
る。回収した汚染土壌は適切な安全管理のもとで保管する必要がある。二次除染は、汚染土壌の
保管に至るまで間に、セシウムを主とする放射性物質の濃縮による低線量土壌の埋戻しと汚染土
壌の減容化を行うことを目的としている。除染計画が策定された地域においては、すでに一次除
染が行われている。学校を初めとする公共施設やインフラ設備などについては 先行的な除染が行
われてきたことから、既に90%以上の除染が完了している。一方、個人の住宅や農地等については
未だ除染の完了していない地域が多くみられる。また、一次除染により集められた土壌やその他
の放射性廃棄物の一時的な保管場所となる仮置き場は十分に確保されておらず、二次除染の具体
的な手法やその後の管理施設となる中間貯蔵施設の建設の具体的な工程も 、ようやく定まりはじ
めたところである。
現在の除染において、いくつか問題点が存在しており、そのため除染作業は計画通りに進んで
いない。その問題の一つは、仮置き場の確保が困 難であることである。除染に伴い発生する放射
性廃棄物および土壌が大量であり、それに見合った保管スペースも広大となるためである。環境
省は市町村又はコミュニティ毎に仮置き場を持つことが現実的であるとの見解を示している。実
5ZB-1204-3
際の除染においては、除染現場での保管と市町村 またはコミュニティ毎に設けられた仮置場での
保管の2つの手法がとられている。現場保管はコミュニティ内の仮置き場の確保までの一時的な保
管場所として考えられているが、いまだコミュニティ内に仮置き場を確保できている地域は少な
く、現場保管の期間の延長が生じるなど、住民からの反発が多い。
また汚染土壌から放射性セシウムを取り除き、線量を下げようとしても、粘土鉱物から セシウ
ムを脱離することが困難であるという問題がある。これは、表土剥ぎ取り等の簡易除染により集
められた汚染土壌を対象とした二次除染の際に問題となっている。粘土鉱物のセシウム固定作用
が強力であり、セシウムの脱離には大量のエネルギーの投資が不可欠となっている。現段階にお
いて、コスト、安全性、環境負荷などの観点からみて、十分に条件を満たした除染方法は確立さ
れていないといえる。さらに、個々の除染・保管技術が効率的に連 携できていないということも
問題となっている。これは、除染を実行する団体、除染方法や保管方法の開発を行う研究機関、 除
染に関する指導や除染技術のとりまとめを行う行政の間で、現在進行型の情報共有が十分でない
ために生じた問題であるといえる。このような問題点の解決を図るためには、土壌中の 放射性セ
シウムの存在状態を把握し、対象となる土壌に適した手法を用いて、汚染土壌のさらなる減容化
を図る必要がある。
表(1)-1
震災3か月後時点の汚染された土地面積 3)
土壌の放射線濃度 [Bq/kg]
8000 ~ 96000
96000 ~
面積 [km2 ]
2373 km 2
(農地26.5%、森林62.6%)
490 km2
(農地20.4 %、森林68.5 %)
5ZB-1204-4
(2)土壌中での放射性セシウムの存在状態
除染を行うに当たり、まず必要な情報は土壌中での放射性セシウムの存在状態である。土壌は,
粒径の大きい順に砂礫(粒径 2~0.02mm)、シルト(0.02 ~0.002mm)、および粘土(0.002mm
以下)に分けられる。粒径の小さいシルト・粘土分では、セシウムを固定できる表面積が大きい
7)
。実際に、福島県内の土壌ではシルト・粘土分に放射線量で 80%程度の放射性セシウムが吸着
していることが報告されている 8) 。福島県内の土壌中のシルトおよび粘土の割合は共に 10%程度
であるため 9) 、それらを選択的に取り除くことで、大幅な線量低減が可能である。シルトは主に
石英、長石、雲母、その他の造岩鉱物であり 、粘土の大部分は粘土鉱物、含水酸化鉱物である。
シルト・粘土に吸着された放射性セシウムは移行性が小さく、95%は表層 0~2.5 cm に保持され
ているため
10)
、2.5 cm 以上の表土剥ぎ取りによる除染が有効であ るといえる。
特にセシウムを強く吸着するのは、粘土鉱物である。粘土鉱物とは層状ケイ酸塩鉱物を意味し、
その構造に依存して、図(1)-1 に示すように 1:1 型と 2:1 型に分類される。1:1 型層状ケイ酸塩鉱物
は、主にケイ素と酸素からなる四面体シートと主にアルミニウムと酸素からなる八面体シートに
より単位層が構成される。四面体シート表面には酸素原子、八面体シート表面には水酸基が存在
するため、単位層同士の層間は水素結合によって結合している
11)
。一方、2:1 型層状ケイ酸塩鉱
物の単位層は図(1
)-1 に示すように 1 枚の八面体シートを 2 枚の四面体シートが挟み込むようにして構成される。
この場合、単位層同士の層間は四面体シート表面の酸素原子 同士が接しているため、水素結合は
生じず、層間はファンデルワールス力により結合している
12)
。土壌に存在するセシウムイオンの
多くは土壌中で負電荷を有する粘土鉱物に吸着される。粘土鉱物において、セシウムイオンを吸
着する負電荷は、pH 変化により粘土鉱物表面に発現する変異電荷と、 2:1 型粘土鉱物の構造に由
来し、層間に生じる永久電荷の 2 種類がある。それぞれの負電荷で吸着されたセシウムの一部は、
カリウムイオンやナトリウムイオンとのイオン交換によって抽出することができる
13)
。しかし、
セシウムの吸着形態によっては、粘土鉱物からセシウムを抽出することは難しい。セシ ウムの抽
出が困難な吸着形態は、層間に生じる永久電荷により生じ、粘土 鉱物の層間への閉じ込めと、風
化に伴い層の端部が膨潤することよって生じるセシウム固定サイトへの固定の 2 種類に分類でき
る。一般に固定されたセシウムをイオン交換によって抽出するのは、吸着されたセシウムを抽出
する場合と比べて困難である。
粘土鉱物によるセシウム吸着形態の分類を図(1
)-2 に示す。まず変異電荷による粘土鉱物表面へのセシウムイオンの吸着について述べる。粘土
鉱物の構造末端、すなわち粘土鉱物表面では 、酸素はケイ素と結合せず負の原子価を 1 つ有して
いる。したがって粘土鉱物は溶液中で、負の原子価が水素イオンを引き付け、水酸基を生成する
ことになる。この水酸基は酸性溶液中ではプロトン化し て正に帯電し、塩基性溶液中では脱プロ
トン化して負に帯電する。溶液 pH によって正負が変化するこの電荷を変異電荷と呼び、セシウ
ムイオンは陽イオンであるため、負の変異電荷に吸着される。次に、永久電荷による吸着につい
て述べる。2:1 型層状ケイ酸塩鉱物はその生成過程において、四面体シートのケイ素( Si 4 + )の一
部が Al 3 + 、Fe 3 + 等のイオン、八面体シートのアルミニウム( Al 3 + )の一部が、Fe 2 + 、Mg 2 + 等の
イオンに置き換わる。この反応を同形置換と呼び、その結果 、各シートの正電荷が不足し、層間
5ZB-1204-5
に永久電荷が生じることにより、負に帯電するため、陽イオンであるセシウムイオンが吸着され
る。
永久電荷による吸着は、同形置換による正電荷の不足が、四面体シートと八面体 シートのどち
らにおいて、主として生じるかによって、さらに分類できる。主として四面体シートで不足して
いる場合と主として八面体シートで不足している場合では、セシウムイオンの吸着強度が異なる。
まず主として八面体シートで正電荷が不足している場合、図 (1
)-1 に示すように四面体シートで不足している場合に比べ、負電荷の発現部位が層間から離れて
いる。したがってセシウムイオンは、層間に弱く吸着される。このときセシウムイオンはイオン
半径が大きく、水和エネルギーが小さいため、主に脱水和した状態で吸着される
14)
。
一方、主として四面体シートで正電荷が不足している場合、図 (1)-1 に示すように八面体シート
で不足している場合に比べ負電荷の発現部位が層間に近い。したがってセシウムイオンは、層間
に強く吸着される。このときセシウムイオンは主に脱水和した状態で吸着される
14)
。ここでさら
に多くのセシウムイオンが層間に吸着すると、セシウムを介して静電気力 によって四面体シート
同士が引き寄せられ、さらに四面体シートの 持つ形状的な特徴がセシウムイオンの吸着強度に寄
与するようになる。図(1)-1 に示すように四面体シートには半径約 0.13 nm の空孔が存在しており、
セシウムイオンを介して閉じることで、上下の空孔が合わさった空孔ができる。セシウムイオン
はイオン半径が約 0.19 nm 15) であるため、層間においてセシウムイオンを介して、この空孔に固定
される。以上、変異電荷による粘土鉱物表面へのセシウムイオンの吸着、 2:1 型層状ケイ酸塩鉱
物の層間へのセシウムイオンの吸着・固定の形態について述べたが、 1:1 型層状ケイ酸塩鉱物の
層間へのセシウムの吸着・固定は、シートの電荷不足が少ないため、ほとんど生じないと報告さ
れている
16)
。
次に固定サイトへのセシウムの固定について述べる。負電荷の発現部位が四面体シートにある
2:1 型層状ケイ酸塩鉱物の一部は、図(1)-3 に示すように、層間の空孔にもともとカリウムイオン
を固定しており層間が開かないため、セシウムイオンが吸着されない。しかし、このカリウムイ
オンは鉱物の風化により層間から放出されるため、図(1)-3 に示すように風化に伴い層の端部が膨
潤する。セシウム固定サイトとは、この閉じた層間と膨潤した層間の間にある領域を指す。この
領域は Frayed edge site(FES)と呼ばれ、セシウムイオンが FES に到達した場合、図(1)-3 に示す
ように、セシウムイオンは脱水和した状態で空孔に固定され、膨潤しかけた層間が再び閉じる。
これによってセシウムイオンは固定されるため、土壌成分に強く吸着したセシウムイオンは、FES
を有する鉱物に集中することになる。通常の農地土壌はセシウムを最大で 0.1~1.0 mol/kg 吸着で
き、このうち FES が占める吸着量は 2 %以下である
17)
。しかしながら、8000 Bq/kg の放射能汚染
土壌におけるセシウム存在量は 10~11 mol/kg であるため、FES がセシウムの固定に占める割合
は高いと考えられる。
最後に層間への閉じ込めにより固定されたセシウムと、FED に固定されたセシウムの抽出に関
して述べる。どちらのセシウムも半径約 0.13 nm の空孔に脱水和した状態で固定されているが、
イオン半径が約 0.15 nm のカリウムイオンとアンモニウムイオンもこの空孔に入ることが可能で
あるため、セシウムは一度空孔に固定されても、固定された量の 1000 倍量のカリウムイオン、500
倍量のアンモニウムイオンを添加することにより、抽出可能とされている
18)
。しかし、高濃度の
5ZB-1204-6
カリウムイオンやアンモニウムイオンを添加すると層間が崩壊し、セシウムイオンを抽出できな
くなるという報告も存在する
19)
。
以上のことから,土壌中では粘土鉱物,特に 2:1 型粘土鉱物にはセシウムが強固に吸着する性
質がある。わが国の低地土壌における粘土組成 を図(1)-4 に示す
20)
。カオリン鉱物は 1:1 型であ
り,それ以外の鉱物は,比較的セシウムを吸着しやすい 2:1 型である。福島県のほか東北地方の
グラフから,粘土鉱物のうち 6 割以上が 2:1 型粘土鉱物となっているため,粘土鉱物にセシウム
が強く吸着していることが予想される。ただし,実際の土壌においては, 砂礫表面には微細な粘
土鉱物が付着していることが実汚染土壌の顕微鏡観察結果より確かめられている。
図(1)-1
1:1 型層状ケイ酸塩鉱物と 2:1 型層状ケイ酸塩鉱物の模式図 .
5ZB-1204-7
図(1)-2 土壌のセシウム吸着形態の分類.
図(1)-3
Frayed edge site の模式図.
5ZB-1204-8
図(1)-4
わが国の低地土壌における粘土鉱物組成.
5ZB-1204-9
(3)分級によるセシウム汚染土壌の減容化理論
図(1)-5に示すように土壌から粘土を分離し、回収することができれば、汚染土壌の減容化が可
能となる 21,22) 。すなわち、放射性セシウムを高濃度に含む少量の粘土粒子のみを管理対象とし、洗
浄した砂礫は、放射線量が低いことを確認した上で、元の場所に戻したり、セメントの骨材など
に利用することが現実的である。日本原子力研究開発機構が実施した「福島第一原子力発電所事
故に係る避難区域等における除染実証業務」の「除染技術実証試験」においても、大手ゼネコン
やプラントメーカーによって、据付型の大型の土壌分級装置による汚染土壌の減容化が試みられ
ている 23) 。
土壌へのセシウムの吸着の主な傾向として、比表面積の大きい細粒分ほど多くのセシウムを吸
着し、粘土鉱物による吸着は強固で安定であることが知られている。同一の吸着機構においては、
吸着可能なサイトを多く有する物質ほど、多くの セシウムを吸着できる。したがって、土壌を構
成する物質のうち、シルトや粘土などの細粒分へセシウムが濃縮されやすい。
各粒子は完全球形であり、かつ密度が同じと仮定した場合の 礫(2mm~)、砂(0.02~2mm)、
シルト(0.002~0.02mm)、粘土(~0.002mm)の比表面積の関係を、代表粒子半径を用いて表 2
に示す。ここで、r は代表粒子半径(mm)、 S は表面積(mm 2 )、ρ は密度(g/mm 3 )、V は体積(mm 3 )と
し、礫を 1 とした場合の単位重量あたりの表面積を表 3 に示す。シルト・粘土分の比表面積が大
きく、これらにセシウムが多く吸着されることが予想される。実際の土壌においては、粒径の大
きい砂礫が地層表層部に多く、シルト・粘土分が下層部に多いため、土壌中の礫、砂、シルト、
粘土の重量比を加味すると、比表面積の比率以上に砂礫に吸着されるセシウムは存在すると考え
られる。
一方、多くの場合、粘土鉱物は層状のケイ酸塩化合物であり、シリカ四面体シートとアルミナ
八面体シートから構成される。粘土鉱物を構成する ケイ素やアルミニウムは鉄やマグネシウムな
どの価数の異なる他のイオンとしばしば置換される。これにより粘土鉱物の構造内部の電荷バラ
ンスが崩れ、不足した電荷を補うために土壌環境中の陽イオン(主に カリウムなど)を層間に取
り込む。この層間の陽イオンとセシウムが置換されることで、セシウムが粘土鉱物に強固に取り
込まれる。さらに粘土鉱物の中でも、雲母系の鉱物は セシウムに対し高い選択性を持つ吸着サイ
トである FES を有する。この高い選択性は、粘土鉱物中の負電荷の発現部位が層間から近く、吸
着されたセシウムとの静電的相互作用により層間が閉じることに起因するとされている。
これらの特徴から、土壌に沈着したセシウムの多くはシルト・粘土分にその多くが存在してい
ると予想され、砂礫分とシルト粘土分を分級することによる効果が期待される。さらに、砂礫分
は粘土鉱物のような高い選択性を有したセシウム吸着サイトを有していないことから、砂礫に吸
着したセシウムは、他の陽イオンにより置換可能な形態である可能性が高い。本研究では、基本
的には分級のみで減容化することを想定しているが、分級後の砂礫分に残留したセシウムは容易
に溶出可能であると考えられるため、場合によっては分級と洗浄を組み合わせることで土壌の再
利用や埋め戻しにむけた効果的な除染が可能であると考えられる。
目標とする放射能濃度は、クリアランスレベルである 100 Bq/kg 以下とするのが適切と考えら
れる。しかし、実際に化学処理や熱処理を用いずに 100 Bq/kg 以下を達成することは困難が予想
される。そこで、埋め戻し等を行なう際には 、事故由来の放射性物質を含まない土壌を混合する
ことで 2 倍に希釈することによってクリアランスレベルを達成することを想定し 、200 Bq/kg を目
5ZB-1204-10
標値とした。分級による減容化効果は土壌の質に大きく影響される。日本では細粒分 、砂分、砂
礫分の質量割合及び液性限界、塑性限界によって土壌の分類がなされており、図(1)-6 に示すよう
に礫粒土、砂粒土、細粒土および高有機質土に大別される。そこで、それぞれ の土壌構成成分の
放射能濃度と計算に用いた比表面積比をそれぞれ表 (1)-2 にまとめた。原土の放射能濃度は 8,000
Bq/kg と仮定した。
ここでは、簡単のためにすべての粒子のセシウム吸着機構は同じであり、粒子の表面積に比例
して均一に吸着すると仮定した。単位重量あたりの表面積は、礫の最大粒径を 10 mm、粘土の最
小粒径を 1 μm と設定し、礫分においては 1 mm 毎に粒径の異なる粒子が等比率で存在し、砂 、シ
ルト、粘土分においては各成分中に、1μm 毎に粒径の異なる粒子が等比率で存在すると仮定した。
具体的には、砂の場合では,75~2000 μm の範囲を 1 μm 間隔で 1926 分割し、それぞれの単位重
量あたりの表面積を計算し、平均値を取ったものを表(1)-3 に示した。
次に、代表的な 3 種の土質を例に、それぞれの場合の分級効果を求めた。具体的には、まず表
(1)-2 で示した単位重量あたりの表面積から各成分の表面積を求めた。各成分の表面積 S 礫 、S
S
シル ト
、S
粘土
砂
、
を求めた。例えば、礫分の放射能濃度は、下記の計算により仮定した。
礫
礫
砂
シルト
粘土
同様に各土質の分級効果を求め、結果を表(1)-4 に示した。放射能濃度の目標値を満たす分級時
の境界となる粒径は、土質によって異なる。目標値を達成する分級境界とその条件での減容率を
表(1)-5 に示した。今回の条件においては、分級後の低線量土壌を 200 Bq/kg 以下にするための分
級境界は、礫粒土、砂粒土の場合、境界は砂の領域となり、細粒土の場合シルトの領域となった。
礫粒土は 500μm、砂粒土は 350μm、細粒土は 70μm を境界として分級を行なった場合、除染目標
とした 200 Bq/kg 以下を満たした。そして、それぞれの減容率は礫粒土が 85%、砂粒土が 80%、
細粒土が 35%となる。ここで減容率とは、200 Bq/kg 以下と想定される低線量土壌の元の土壌に
対する重量割合を示す。以上のように、汚染原土の土質と放射能濃度に応じて分級の境界を設定
し適切な分級を行うことで、効率的な除染および減容化が可能であると考えられる。
5ZB-1204-11
砂・シルトには、セシウム
が少ないので除染土壌と
して埋め戻し
Cs+
Cs+
Cs+
シ ルト
粘土
粘土
シルト
粘土
シ ルト
洗浄
粘土
脱着したセシウムが多い場
合は、ゼオライト等の吸着
剤で回収し、粘土とともに凝
集沈殿することも検討
Cs+
礫・砂
礫・砂
粘土 Cs+
礫・砂
礫・砂
+
シ ルト Cs
Cs+
Cs+
粘土
シ ルト
Cs+
シ ルト
礫・砂
Cs+
粘土
シ ルト
粘土
粘土
粘土
礫・砂
シ ルト
粘土
Cs+
Cs+
Cs+
Cs+
粘土
Cs+
吸脱着
セシウム汚染土壌
粘土
Cs+
+
粘土 Cs
粘土
Cs+
粘土
粘土
セシウムを吸着している
粘土は、静置分離、ろ過、
遠心分離、凝集沈殿、
磁気分離によって回収
粘土
Cs+
粘土
Cs+
セシウムは粘土に吸着・結合している
ケイ素四面体
2:1型粘土鉱物
四面体層
Si
O
四面体層
Na+、 K+、Ca 2+などが
層の負電荷を中和
アルミ八面体
-
八面体層
-
-
Na+
K+
Ca2+
-
O
Cs +はNa+、 K+、Ca 2+ Cs+
より結合しやすい
-
Cs+
-
-
土壌中でのセシウムの挙動と汚染土壌の減容化機構.
表(1)-2
土壌構成成分毎の単位重量あたりの表面積
代表粒子半径r(mm)
礫
砂
シルト
粘土
Cs+
-
-
Al
図(1)-5
-
-
1
0.1
0.01
0.001
単位質量あたりの表面積
(礫を1とした場合)
1
10
100
1000
5ZB-1204-12
図(1)-6
表(1)-3
表(1)-4
日本における土質分類 24) .
各土壌構成成成分の単位重量あたりの表面積
土質に応じて想定される分級効果(原土:8000Bq/kg)
表(1)-5
分級境界と減容率
5ZB-1204-13
2.研究開発目的
本研究では、下水道分野で用いられている沈砂洗浄装置
25)
を応用し、効率的な粘土分と砂れき
分の分離のため、小型でモーバイルな汚染土壌の減容化装置の開発を目的とした 。本装置は、ト
ラックで搬送可能である利点を生かし、オンサイトで土壌を減容化することができる 。また、本
研究開発の中核は、空気揚土撹拌式洗浄装置である。 本装置の特徴は、撹拌ブロアによって送気
することで土壌懸濁液を強力に混合撹拌をすることに加え、洗浄ボールによって砂れきに付着し
た粘土分の剪断力による剥離を行うことによって、乾式分級や他の湿式分級の手法に比較して、
低線量の砂れきと高線量の粘土に高精度に土壌を分離することである。
この装置は、もともとは下水処理場 ・ポンプ場に流入する沈砂の洗浄のために開発されたもの
であり、1 基で 0.8~1.2m3(沈砂と水の混合物)/バッチの処理能力を持つ(1 バッチは約 1 時間)。
洗浄ボール・空気・水で沈砂を撹拌洗浄し、混在している比重の小さな粒子を上部より分離・排
出し、比重の重い固形物を装置下部より沈殿排出できる。粒径 0.2mm 以上、比重 2.5 以上の固形
物回収率は 95%と高く、各地のポンプ場にこれまでに 18 基の導入実績があり、2011 年には下水
道新技術推進機構から建設技術審査証明を受けている。本装置は小さく( W 1400mm、D 800mm、
H 4100mm)、カバーを設置することで閉鎖性を維持しやすく、可動部や消耗部品も少ないため、
メンテナンスも容易である。また、燃焼法などの乾式に比べると、放射能を含む排ガスを出さす、
重油などの燃料も消費しない利点があり、技術的な独創性を有する。この空気揚砂(土)撹拌式
洗浄装置を土壌洗浄に応用し、土壌から粘土を効率的に剥離させること実証することが技術目標
である(図(1)-7)。
本目標の達成のため、(1)土壌からの粘土・セシウムの効率的な分離条件の解明 、(2)
空気揚砂撹拌式洗浄装置を用いた 汚染土壌の洗浄方法の開発 、(3)水相からのセシウムの回
収方法の開発、(4)北茨城市の土壌の汚染状況と除染可能性の調査を行った。
図(1)-7
圧縮成型
脱水機
*回収槽
*洗浄槽
受入ホッパー
焼成
(i)~8,000Bq/kg
(ii)8,000~100,000Bq/kg
(iii) 100,000Bq/kg~
の3段階の任意の放射線量に調整
最終処分場
水のクローズ化
装置のクローズ化
砂ろ過器
循環水
オプション
ゼオライト
汚染土壌
排砂コンベア
減容化
システム
*洗浄槽と回収槽が
技術開発の中心
沈砂ポンプ
砂ホッパー
除染土壌(埋め戻し)
5ZB-1204-14
コンパクトでモーバイルな汚染土壌の減容化システム .
5ZB-1204-15
3.研究開発方法
(1)土壌からの粘土・セシウムの効率的な分離条件の解明
1)小型空気揚土式土壌洗浄装置を用いた分離条件の検討
土壌中の粘土画分の分離には、空気揚土式洗浄装置がそのまま適用できる土壌と,適用できな
い土壌があるのではないかと考えられる。そこで、より移動の容易な小型空気揚土式土壌洗浄装
置を用い、土壌の種類による分離率の違いを調べた。
本実験で用いた小型空気揚土式洗浄装置の概略を図 (1)-8に示す。試験土壌には、福島県の川内
村鍋倉ダム付近で採取した山土、および飯舘村長泥地区入口付近の道路脇で採取した庭土を用い
た。試験土壌に3Lの洗浄水を加えて、水面に浮上する落ち葉を金網で 除去した。洗浄水1回の試
験には、1.0 kgまたは1.2 kgの試験土壌を用い、洗浄水の量は合計10 Lとした。揚土管空気は、ブ
ロワー(AP-60、安永エアポンプ株式会社)を用いて送風し、投入空気量は流量計( P-400-U0=4N-R2、
東京計装株式会社)により測定した。装置内部を目視観察しながら、充分な土壌の撹拌状態が確
保されるよう流量計調整弁を解放した。この時、空気の流量は、毎分約 26~28 Lであった。装置は
30分間運転し、ブロワーを停止したのち20秒間静止後、ただちに上段の排水弁を開放し、粘土懸
濁水を放出した。上段からの排水が終了後、次に下段の排水弁を開放し、残りの懸濁液を放出 し
た。これら上下二段の排水弁から放出した懸濁液を合わせて処理水とした。続いて排出弁を全開
放し、装置下部に沈んだ砂礫分を放出させた。装置内のデッド・スペースに残った土壌成分は、
洗浄瓶を用いて装置上部から洗浄し、排出弁から排出させた。これら装置下部から排出した土砂
を洗浄排出土壌とした。
物質収支は、空気揚土洗浄前後の含水状態での重量測定と水分を蒸発させた後の乾燥状態での
重量測定の両方で行った。ただし、洗浄前の原料土壌は、770 gを乾燥させ、含水率を求めて、こ
れを使った計算により原料土壌の乾燥重量を算出した。ま た、川内村の洗浄前土壌と洗浄排出 土
壌を乾燥器(105℃)で十分に乾燥させ、2000μm、850μm、425μm、250μm、106μm、75μmの篩で
分画し、各々の重量を測定した。
土壌の含水率の測定では、まず密閉されたポリ容器に保管した採取土壌の適量をとり、4㎜程度
の篩を通して植物等を分別し、篩を通過した土壌を直径約 25cmの蒸発皿に移した。この蒸発皿を
110±5℃に設定した恒温器に入れて乾燥した。乾燥重量が一定になった約 12時間後に取り出して
室温に戻した後、次式により含水率を計算した。
水分含量(%)
=
(A-B)×100/(A-C)
(1)
A:乾燥前土壌+蒸発皿の重量( g)
B:乾燥後土壌+蒸発皿の重量( g)
C:蒸発皿の重量(g)
γ線量測定は、処理水中の土壌固形分、排出土砂、仕込み残、および排出土砂の上澄み液につ
いて実施した。処理水からの微粒土壌の分離・回収は、懸濁水を加熱し水分を蒸発させる方法で
行った。得られた微粒分は水分を含む状態で取り出し、乾燥機で水分が完全になくなるまで乾燥
させ、これを懸濁水中固形分とした。排出土壌は 12時間放置し、上澄み水を取り除いたうえで、
残留した土砂を乾燥機で水分が完全になくなるまで乾燥させ、これを洗浄排出土砂とした。飯舘
5ZB-1204-16
村土壌については、洗浄前原料土壌、洗浄排出土砂、懸濁水中固形分から放射線計測用容器( U8
容器)が満杯になる量をとり、その各々のγ線量を CsIシンチレーション検出器で測定した。川内
村土壌の洗浄前原料土壌と、空気揚土洗浄後に得られた洗浄排出土砂は粒径別に放射線計測用容
器(U8容器)が満杯になる量を取り分け、γ線量を測定した。 U8容器が満杯になる量が得られな
い篩分については、全量のγ線量を 測定した。懸濁水中固形分については、全量から U8容器満杯
分を取り分け、γ線量を測定した。γ線量測定には、 CsIシンチレーションスペクトルスコピーを
用いた。取扱書説明に従い、電源が安定したのち、 K-40から発せられるγ線エネルギーを基準値
とするため、その標準サンプルとして1.0kgの食卓塩(商品名“やさ塩”)を用いた。 10分間γ線
を測定しK-40エネルギー値の補正を行った。次に、バックグランドの放射線量を 1時間測定した。
試験サンプルの放射線量測定は、1サンプルにつき 10分間の測定を行い、Cs-137の662KeV、Cs-134
の606KeVおよび796KeVのγ線のそれぞれの1秒間のカウント数を求めた。
2)土壌からのセシウムの脱離特性の検討
空気揚土撹拌式洗浄装置は、湿式土壌分級の一種であるため,水相にセシウムが放出(脱離)
されるのか、検証を行った。洗浄実験を行った後の川内村の土壌を1mol/Lの炭酸カリウム溶液で
洗浄し、溶出したセシウムをCsIシンチレーション検出器で測定した。
また、非放射性セシウムを吸着させた模擬汚染土壌を調製した。黒ボク土 (株式会社エマタ) を
濃度100 mg/Lの塩化セシウム溶液に添加し、24時間振盪後、ろ過を行った。乾燥後、濃度0.5 mol/L
の酢酸アンモニウム溶液、蒸留水により、土壌を洗浄した。各処理におけるろ液のセシウムイオ
ン濃度をイオンクロマトグラフィー (DX-120, 日本ダイオネクス株式会社)により測定し、黒ボ
ク土に吸着したセシウムイオンの量を計算した。脱離溶液として、蒸留水、酢酸アンモニウム溶
液、ヨウ化カリウム溶液、クエン酸溶液、シュウ酸溶液、硝酸溶液、水酸化カリウム溶液、水酸
化ナトリウム溶液を用いた。これら8種類の溶液に固液比を2~5に変化させて模擬汚染土壌を添加
し、24時間振盪した。その後吸引ろ過を行い、ろ液のセシウムイオン濃度を誘導結合プラズマ質
量分析計(Agilent、ICP-MS 7700) により測定し、セシウムイオンの脱離率を算出した。
5ZB-1204-17
懸濁水
排出土砂
図(1)-8
小型空気揚土式土壌洗浄装置の概略図.
5ZB-1204-18
(2)空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた汚染土壌の洗浄方法の開発
1)空気揚土撹拌式洗浄装置
合流式下水処理場やポンプ場に流入した、臭気の高い汚物を含む沈砂を洗浄する目的で開発さ
れた装置を土壌洗浄用に改良した。装置の概要を図 (1)-9に示す。槽容量は約100L(幅600 mm、奥
行400 mm、高さ900 mm)と小型であり、トラックに積みこみ、容易に移動させることができる特
徴を有している。この装置は、ブロワー(125 A × 11 kW×2台)によって空気を吹き込み,エアー
リフトの原理で土壌を二重構造の揚土管に吸引しながら、洗浄ボール (φ25 mm×5個)と空気と水
による撹拌洗浄を行い、土壌から粘土を剥離させるものである。
2)凝集沈殿槽および脱水機
処理水槽に懸濁する土壌粒子を凝集沈殿によって濃縮した後 、脱水して減容化した。凝集沈殿
には、有効容量100 Lの凝集混和沈殿槽(株式会社石垣、GK型)を用い、凝集剤に塩化第二鉄を 、
助剤にアニオン系ポリマーIAA-226を用いた。凝集混和沈殿槽に土壌洗浄装置の処理水を 100 L移
し,凝集剤を添加して5分間、200 rpmで急速撹拌した後,助剤を添加して15分間、20 rpmで緩速撹
拌した。なお、4連式ジャー・テスター(WT-4、株式会社スギヤマゲン)を用いて、凝集剤と助剤
の最適な添加濃度を事前に調査した 。凝集沈殿によって濃縮した懸濁土壌を加圧リーフ試験器( 株
式会社石垣、SD型、ろ過面積0.01 m2 、ろ布IP182、圧入0.3 MPa、圧搾1. 5 MPa、圧入10分、圧搾5
分,サイクル25分)を用いて脱水した。脱水機に投入した土壌粒子のうち 、ケーキとして回収で
きた割合を求めた。
川内村における実験では、乾燥脱水機(15k圧搾、ろ室厚20mm、ろ過面積0.208 m2 、80℃、HD
型、株式会社石垣)を用いた。川内村における実験では、凝集沈殿前にサイクロン分級装置(胴
径Φ110mm、胴長約450mm、入口ノズル径Φ16 mm、出口ノズル径Φ26mm、コーン下部穴径約14mm、
株式会社石垣)によって、粘土・シルト分を大粒子、小粒子に分ける実験も行った。 サイクロン
分級装置の設計仕様は、流量約6,000L/時、入口圧力約0.2MPa、50%捕集粒径は約5μmである。
3)非汚染土壌の洗浄実験
大阪府内のグラウンドのセシウムに汚染されていない土壌を用い、土壌洗浄の基礎実験を行っ
た。その条件一覧を表(1)-6に示す。湿重量で10 kg(実験1-E、1-F)、20 kg(実験2-A~2-C)、30
kg(実験3-A)の土壌を洗浄装置に図(1)-9に示すように投入し、所定量の洗浄水 Aを装置本体に加
えた。ブロワーによって装置内に空気を送り込み、 30分間土壌を撹拌した。その後、30秒間静置
し、砂礫を沈降させた。主にシルト・粘土分が懸濁した水相部を処理水 Aとして処理水槽に送り、
洗浄装置下部から主に砂礫を含む土砂を洗浄排出土壌として排出した。洗浄排出土壌中の懸濁水
を処理水Bとして処理水槽に送った。洗浄排出土壌の上部表面には、シルト・粘土分がわずかに堆
積するので、洗浄水Bを加えて撹拌後、懸濁水を処理水Cとして処理水槽に送った。 処理水に懸濁
させた土壌粒子を凝集沈殿によって濃縮し、 脱水機によって土壌の脱水ケーキを回収した。
5ZB-1204-19
投入土壌
洗浄水A
洗浄装置
Φ76.3mm
Φ27.2mm
上部流速0.8m/s
洗浄
ボール
処理水A
上部
空気
中部
下部
処理水槽
洗浄排出
土壌
処理水B
懸濁土壌
洗浄水B
ろ液
処理水C
洗浄処理土壌
図(1)-9
凝集沈殿
脱水
脱水ケーキ
空気揚土撹拌式洗浄装置とその洗浄工程における土壌と水のフロー .
5ZB-1204-20
表(1)-6
空気揚土撹拌式洗浄装置による非汚染土壌の洗浄実験の条件一覧
実験1-E
実験1-F
実験2-A
投入土壌(kg-wet)
10
10
20
20
20
30
使用土壌ロット
第1
第1
第1
第2
第2
第2
洗浄水A(L)
101.0
98.0
94.0
93.0
93.0
87.0
洗浄水B(L)
29.1
29.2
58.2
55.9
55.8
81.1
処理水A(L)
93.3
90.8
89.0
91.0
89.0
85.0
処理水B(L)
9.1
10.4
5.2
5.7
6.0
4.2
処理水C(L)
29.7
29.1
58.1
55.9
55.8
81.2
処理水A+B+C(L)
133.8
131.3
152.8
153.0
149.3
174.3
空気量
実験2-B 実験2-C
実験3-A
上部0.4 m3 /min、中部0.04 m3 /min、下部0.04 m3 /min
洗浄時間分、沈降時間秒
4)福島県飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄実験
大阪大学での実験を終え、4tonトラック2台で土壌洗浄装置と実験機器一式を福島県飯舘村の某
事業所に搬送し、2013年1月、2月にセシウム汚染土壌の洗浄実験を行った。実験場所の様子を図
(1)-10に示す。実験期間中は外気温が夜間に氷点下となり 、昼間の水温も5℃前後であった。積雪
が20~30 cmあり、空間線量は0.13~0.15 μSv/hであった。なお、この地点の2011年3月の空間線量
は、4.8 μSv/hと報告されている 1) 。
土壌No.1は、笹藪の表面土壌であり、図(1)-11に示すように粘土・シルト分である75μm以下の粒
径のものが3%程度であった。セシウム137の濃度は全体で18,800 Bq/kgであり、篩で75μm以下の粒
径のものを分級したものは32,400 Bq/kgと非常に高濃度であった。土壌No.4は、駐車場前の表面土
壌であり、図(1)-11に示すように粘土・シルト分である75μm以下の粒径のものが10%程度を占めて
いた。セシウム137濃度は全体で6,160 Bq/kgであり、篩で75μm以下の粒径のものを分級したものは
24,000 Bq/kgと高濃度であった。
飯舘村のセシウム汚染土壌を洗浄実験に用いた条件一覧を表 (1)-7に示す。1月に予備検討として、
土壌洗浄装置に土壌No.4を湿重量で10 kg(実験S4-1-0)投入した。その後、非汚染土壌の実験の
ように所定量の洗浄水Aを装置本体に加えた。ブロワーによって装置内に空気を送り込み、30分間
土壌を撹拌した。その後、30秒間静置し、砂礫を沈降させた。主にシルト・粘土分が懸濁した水
相部を処理水Aとして処理水槽に送り、洗浄装置下部から主に砂礫を含む土砂を洗浄排出土壌とし
て排出した。洗浄排出土壌中の懸濁水を処理水Bとして処理水槽に送った。洗浄排出土壌の上部表
面には、シルト・粘土分がわずかに堆積するので、洗浄水 Bを加えて撹拌後、懸濁水を処理水 Cと
して処理水槽に送った。実験現場の制約上、凝集沈殿以降の操作はできなかった。
2月には土壌洗浄装置に土壌No.1を湿重量で10 kg(実験S1-1)、20 kg(実験S1-2)、No.4を湿重
量で10 kg(実験S4-1)、または30 kg(実験S4-3)投入し、同様に洗浄実験を実施した 。ただし、
実験現場の事情により、凝集沈殿以降の操作は実施しなかった。
5ZB-1204-21
図(1)-10
福島県飯舘村の実験現場.左下写真は空間線量計.
5ZB-1204-22
土
土壌No.4
40
35
全体 6,200Bq/kg
<75μm 24,000Bq/kg
30
35
30
25
全体 18,800Bq/kg
<75μm 32,400Bq/kg
%
25
土
土壌No.1
40
%
20
20
15
15
10
10
5
5
図(1)-11
粒径(μm)
福島県飯舘村の土壌No.1、No.4の外観と粒径分布.
>4750
2000-4750
850-2000
425-850
250-425
106-250
75-106
>4750
2000-4750
850-2000
425-850
250-425
75-106
<75
106-250
粒径(μm)
<75
0
0
5ZB-1204-23
表(1)-7
空気揚土撹拌式洗浄装置による飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の条件一覧
実験S1-1
実験S1-2
実験S4-1-0
実験S4-1
実験S4-3
No.1
No.1
No.4
No.4
No.4
10
20
10
10
30
洗浄水A (L)
93.0
90.0
98.0
100.0
90.0
洗浄水B ( L )
30.0
60.0
30.0
30.0
90.0
処理水A( L )
93.0
73.3
92.4
91.8
73.3
処理水B( L )
30.0
60.0
11.8
30.0
90.0
処理水C( L )
30.7
59.7
30.3
30.7
75.5
処理水A+B+C(L)
135.3
160.8
135.0
135.0
167.5
使用土壌
投入土壌(kg-wet)
空気量
上部0.39-0.48、中部0.04、下部0.04 m3 /min、洗浄時間30分、沈降時間30秒
5ZB-1204-24
5)川内村のセシウム汚染土壌の洗浄実験
福島県飯舘村の実験終了後、4ton トラック 2 台で土壌洗浄装置と実験機器装置を川内村に移動
させ、2013 年 5 月に土壌洗浄による汚染土壌の減容化実験を行った。実験場所の様子を図 (1)-12
に示す。実験時の気温は 18~21℃、空間線量は 0.15~0.23 μSv/h であった。
除染作業によって農道から回収された土壌 A および道路側溝から回収された土壌 B を処理対象
とした。その粒径分布を図(1)-13 に示す。土壌 A は土壌 B に比べると 75μm 以下の粒子の比率が
若干少なかった。川内村のセシウム汚染土壌を洗浄実験に用いた条件一覧を表 (1)-8 に示す。土壌
洗浄装置に土壌 A を湿重量で 10 kg(実験 A-1)、20 kg(実験 A-2)、30 kg(実験 A-3)、土壌 B
を湿重量で 10 kg(実験 B-1)、20 kg(実験 B-2)、30 kg(実験 B-3)投入した。その後、ブロワ
ーによって装置内に空気を送り込み、土壌を 30 分間撹拌した後、30 秒間静置した。主にシルト・
粘土分が懸濁した水相部を処理水 A として処理水槽に送り、装置下部から主に砂礫を含む土砂を
洗浄排出土壌として排出した。洗浄排出土壌中の懸濁水は、処理水 B として処理水槽に送った。
その後、処理水槽に懸濁する土壌粒子を凝集沈殿によって濃縮した 。また、凝集沈殿前にサイ
クロン分級装置(図(1)-14)によって、粘土・シルト分を大粒子、小粒子に分ける実験も行った。
これらの実験系は、実験 A-1C、実験 A-2C、実験 A-3C、実験 B-1C、実験 B-2C、および実験 B-3C
とした。凝集沈殿は、有効容量 100L の GK 型凝集混和沈殿槽を用い、凝集剤として塩化第 二鉄
100ppm を、助剤にアニオン系ポリマーIAA-226 を 1ppm を添加した。その後、乾燥脱水を施した。
6)
水と土壌の分析
洗浄水Aの量はフローメーターで測定し、洗浄水 Bは重量で測定した。処理水 Aおよび処理水 A、
B、Cの合計(処理水A+B+C)は、処理水槽の水位計で量を測定した。処理水 BおよびCは、重量
を測定した。洗浄装置への投入土壌、洗浄処理土壌の含水比を測定し、乾燥重量に換算した。土
壌の粒度分析はJIS A1204に準拠し、2mm~75μmは乾式篩法で、75μm篩を通過した試料は沈降分析
により実施した。飯舘村および川内村における実験では、乾式篩法でのみ粒径を測定した。
(7) 放射性セシウムの分析
土壌中のセシウム137は株式会社千代田テクノルの協力により、ゲルマニウム半導体検出器
(Model GC2018-7500SL-2002CSL, Canberra)で測定した。空間線量は環境モニタリングシステム
(FAU12-1-A3,株式会社パルシステム)によって 10分間隔で測定した。
5ZB-1204-25
図(1)-12
福島県川内村の実験現場.
5ZB-1204-26
表(1)-8
空気揚土撹拌式洗浄装置による川内村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の条件一覧
使用土壌
実験
実験
実験
実験
実験
実験
実験 実験 実験 実験 実験 実験
A-1
A-1C
A-2
A-2C
A-3
A-3C
B-1
B-1C
B-2
B-2C
B-3
B-3C
土壌A 土壌A 土壌A 土壌A 土壌A 土壌A 土壌 土壌 土壌 土壌 土壌 土壌
B
B
B
B
B
B
投入土壌(kg-wet) 10
10
20
20
30
30
10
10
20
20
30
30
洗浄水A (L)
183
180
180
186
160
166
180
179
180
186
148
141
処理水A( L )
175
177
167
166
147
168
176
176
167
166
137
143
処理水B( L )
9.5
9.1
5.1
5.4
11.9
3.1
9.0
9.8
5.1
5.4
12.5
12.7
処理水A+B(L)
184
184
167
171
160
171
185
186
173
171
149
155
加水(L)
-
50
-
42
-
57
-
56
-
42
-
57
オーバー水(L)
-
187
-
178
-
169
-
186
-
178
-
156
アンダー水(L)
-
48
-
34
-
58
-
55
-
34
-
56
凝集処理水(L)
180
181
167
173
145
159
180
181
167
180
143
凝集土壌(L)
4.1
3.3
6.6
48
14.4
11.6
4.4
3.7
6.6
12.6
12.1
脱水ろ液(L)
-
-
5.2
4.2
-
-
-
-
5.2
-
-
30
20
粒径(μm)
図(1)-13
>2000
0
850-2000
0
425-850
5
250-425
5
106-250
10
75-106
10
粒径(μm)
福島県川内村の土壌 A、B の粒径分布.
>2000
15
850-2000
15
25
425-850
20
土壌B(側溝土砂)
全体 7300 Bq/kg-dry
<75μm 17000 Bq/kg-dry
250-425
重量(%)
25
<75
重量(%)
30
35
106-250
35
40
土壌A(農道西ノ内)
全体1000 Bq/kg-dry
<75μm 3400 Bq/kg-dry
75-106
40
上部0.39-0.48、中部0.04、下部0.04 m3 /min、洗浄時間30分、沈降時間30秒
<75
空気量
4.8
5ZB-1204-27
図(1)-14
福島県川内村に設置したサイクロン分級装置.
5ZB-1204-28
(3)
水相からのセシウムの回収方法の開発
1)模擬汚染土壌からのセシウムの抽出と吸着
土壌洗浄によって、セシウムが水相に放出された場合、吸着剤によって それを除去することが
必要となる。そこで、水相にセシウムが放出された際に有効な吸着剤を調べるとともに、砂礫分、
粘土分のモデル物質を用いて、それらの物質のセシウム吸着特性を調査した。
ここで、ゼオライトは一般に
(
) (
)
、
の組成 26) で表わされ、図(1)-15に示すように二酸化ケイ素からなる骨格を基本とし、一部のケイ素
がアルミニウムに置き換わった三次元網目構造を有している 5) 。ゼオライトによるセシウムイオン
の吸着は、静電吸着によるものがほとんどで、この静電力の発生メカニズムは次の 2つに分けられ
る。
1つ目の発生メカニズムは、ゼオライト構造の骨格となるケイ素の一部がアルミニウムに置き
換わることによって生じる。ケイ素の原子価が 4、アルミニウムの原子価が3であるため、構造内
で負の原子価が余ることに由来する負電荷であり、この負電荷を永久電荷 13,28) と呼ぶ。永久電荷は
通常ナトリウムイオン、カリウムイオンといったカチオンにより中和されているが、負電荷へは
正電荷の大きいイオンほど吸着されやすく、また同じ電荷を持つイオンであれば、原子番号が大
きいほど吸着されやすいため、負電荷のカチオンに対する水和の場合 、吸着選択性は、Na + < NH 4 +
<
K + < Cs + < Mg 2+ < Ca 2+ < Sr 2+ の順に増加する。したがってセシウムイオンを含む溶液中にゼオ
ライトが添加されると、イオン交換反応によって永久電荷に吸着されていたイオンが放出され、
セシウムイオンが吸着される。永久電荷は網目構造の内部まで存在するため、ゼオライトに吸着
されたセシウムイオンは構造内部まで取り込まれる。
2つ目の発生メカニズムは、ゼオライトの構造末端で原子価が余ることによって生じる。ゼオラ
イトの構造内部では酸素はケイ素やアルミニウムと結合しているが、構造末端、すなわちゼオラ
イト表面では酸素はケイ素と結合せず負の原子価を 1つ有している。したがってゼオライトが溶液
中に添加されると、負の原子価が水素イオンを引き付 け、水酸基を生成することになる。この水
酸基は酸性溶液中ではプロトン化し て正に帯電し、塩基性溶液中では脱プロトン化し て負に帯電
する。溶液pHによって正負が変化するこの電荷を変異電荷 13,28 と呼び、溶液中では必ず発生するた
め、セシウムイオンは塩基性溶液中の負の変異電荷に吸着されることになる。
100 mg/Lの塩化セシウム溶液50 mLに0.05 gの吸着材を加え、2時間振盪した後、シリンジフィル
ター(孔径0.2μm)を用いてろ過した。この溶液中のセシウムイオン濃度を、イオンクロマトグラ
フィー(DX-120, 日本ダイオネクス株式会社 )を用いて分析を行った。吸着材としては、シリカ
ゲル、ポーラスシリカ、ゼオライト、磁化ゼオライト、磁化プルシアンブルー、バーミキュライ
ト、石英、長石を用いた。
また、黒ボク土 (株式会社エマタ) を濃度100 mg/Lの塩化セシウム溶液に添加し、24時間振
盪後、ろ過を行った。この模擬汚染土壌から、硝酸とヨウ化カリウムを用いてセシウムを抽出し、
強磁性吸着剤により回収した。硝酸とヨウ化カリウムの濃度はそれぞれ 0.5 mol/Lで、調製した模
5ZB-1204-29
擬汚染黒ボク土と固液比1:10で24時間振盪した。その後、ろ過により黒ボク土を除き、セシウムが
抽出された脱離液を準備した。脱離液の セシウム濃度はICP-MS (Agilent7700、Agilent Technologies)
により測定した。次に、準備したそれぞれの脱離液 10 mLを6つ用意し、強磁性吸着剤として磁化
ゼオライト(MCR-03-Z、三菱製紙株式会社)を1、2、5、10、25、50 g/Lとなるように添加した。24
時間振盪後、ICP-MSにより磁化ゼオライトの セシウム吸着率を算出した。
Si
O
Si
O
Si O
O Si
Al
O
Si
O
Si
Al
Si
Si O
Al O
Al
O
O
Si O
Si
O
Al Si
Si
Si
O
O
Si
O
Si
O
Si
Al
Al
O
Si O
図(1)-15
ゼオライトの構造.
2)強磁性吸着剤のセシウム吸着能に与える共存イオンの影響
溶液中に存在する共存イオンが強磁性吸着剤のセシウム吸着能に与える影響について調査した。
ナトリウムイオン濃度0.001~0.5 mol/LのCsCl溶液(セシウムイオン濃度10 mg/L)を調製し、調製し
た溶液中での磁化ゼオライト(添加量1 g/L、振盪24時間)のセシウム吸着量を算出した。また共存イ
オンとして、カリウムイオン、オキソニウムイオン (K + 、H 3 O + )についても同様の実験を行った。
3)磁気アルキメデス法を用いたさらなる汚染土壌の減容化
磁気分離の手法の一つである磁気アルキメデス法を用いて 、水相からのさらなるセシウムの濃
縮による減容化を試みた。サイクロン分級後に回収される粘土微粒子は 、放射性物質を多く含む
が、その粘土微粒子の中でもセシウムの吸着性は種類により異なる。セシウムを強く吸着する粘
土粒子は常磁性であり、その他の粘土粒子は反磁性であることが分かっている。そのため 、磁化
率の違いを利用した分離手法の一つである、磁気アルキメデス法をサイクロン分級の後処理とし
て導入し、土壌洗浄→サイクロン分級→磁気アルキメデス法という順で粘土粒子を分離すること
により、さらなる汚染土壌の減容化を試みた。
アルキメデスの原理とは、「物質が重力場において、物質を取り囲む周囲の媒体を退けること
でその重さと逆向きの力を受ける」という原理である 。土壌中でセシウムを強く吸着する2:1型粘
土鉱物は、主として常磁性物質であり、10 -4 ~10 -6 と小さいものの、正の磁化率をもつ。そのため、
5ZB-1204-30
強い磁場を印加すると、磁気力に牽引され移動する。一方、同じ粘土鉱物でも比較的セシウム吸
着力の弱い1:1型粘土鉱物は、主として反磁性物質であり、強い磁場を印加すると磁石から退け
られる力が作用する。
そこで、分離対象粒子をその磁化率よりも大きな常磁性媒質に懸濁させると 、磁気力によって
牽引される力の相対的な差により、見かけ上、媒質の方が重くなるため、粒子が浮上する。各粒
子の浮上位置は、媒質と分離対象粒子との磁化率差および密度差によって決定される 。この浮上
位置の違いを利用して分離を行う手法のことを磁気アルキメデス分離というが 、鉛直方向の磁気
力の違いのみならず、水平方向の磁気力の違いも利用する場合もある 。今回の分離対象となる、
サイクロン分級後の土壌懸濁液に対しては、ポンプで磁石上の流路に連続的に送液し 、流れの中
で受ける垂直方向と水平方向の磁気力の大きさの違いによって分離することを試みた。
以下に粒子および媒質に加わる磁気力、重力、粒子が媒質から受ける浮上力をそれぞれ示し、
媒質中の粒子に加わる鉛直方向の力について述べる。
磁気アルキメデス分離に用いる物質は常磁性及び反磁性であるので 、磁化の磁場によるポテン
シャルエネルギーUは、磁化率の大きさが外部印加磁場によらず一定であるので
U   μ0 mH
(2)
と表される。ここでμ 0 は真空の透磁率、mは磁化、Hは外部磁場である。
このとき磁気力Fはポテンシャルの傾きによって表わされるので
F   grad(U)  μ0m  H   μ0 m  H
(3)
となる。常磁性物質にかかる磁気力は磁気勾配に比例する力であることが分かる 。また磁場空間
が真空であるとき、磁束密度Bと外部磁場Hとの関係は、真空の透磁率を用いて
B  μ0 H
と表わされる。
(4)
さらに、体積あたりの磁化mは、体積磁化率χを用いて
m  χH
(5)
と表わされる。以上の式を用いると対象物に作用する体積当たりの磁気力 F m は
Fm 
χ
(B)B
μ0
(6)
5ZB-1204-31
と表される。ここで、磁石が形成する磁場分布は軸対称であることから 、磁気力F m は次のように
展開される。
Fm 

χ
δ 1 δ δ
(Br ,B ,Bz )( ,
, )B
μ0
δr r δ δz

 1


( Br
 B
 Bz )( Br , B , Bz )
0
r r 
z
(7)
以上から、対象物に作用する体積当たりの磁気力の鉛直成分は次の式で表される 。下付のzは鉛
直方向を示している。
FMz 



( Br
Bz  Bz
B )
0
r
z z
(8)
次に重力項について示す。物質に働く力に重力は一般に
Fg  mg
(9)
とあらわされる。mは物質の質量、gは重力加速度である。ここで質量mは、密度ρと体積Vを用い
て
m  V
(10)
で表わされる。つまり単位体積当たりの媒質及び粒子に働く重力は
Fg  ρg
(11)
である。まず粒子に作用する力の鉛直成分について考える 。媒質および粒子にそれぞれ磁気力F z
と重力F g の合力が作用すると考えると、媒質に作用する力F f および粒子に作用する力F p はそれぞれ
(8)、(9)式より
 f



F fz  
( Br B z  B z B z )   f g 
r
z
 0

(12)
5ZB-1204-32
p



Fpz   ( Br Bz  Bz Bz )   p g 
r
z
 0

(13)
と表される。ここで媒質に作用する力とは、粒子に働く浮力としてとらえることが出来る 。以上
から、粒子に作用する鉛直成分の力F pz は、粒子に作用する力F p から媒質に作用する力
F f を引いたものとなり、以下の式で表される。


 p  f



Fz  
( Br
Bz  Bz
Bz )   p   f g 
0
r
z




(14)
対象物を浮上させるためには数百 T 2 /m程度の磁場積領域を発生させることの出来る磁場発生
源が必要である。そのため本実験において磁気アルキメデス法を利用するための磁場発生源とし
ては、複数の磁石を組み合わせて強磁場と高磁場勾配を形成できるハルバッハ配列の永久磁石を
用いた。
ハルバッハ配列とは、図(1)-16のように永久磁石を90度ずつ回転させて並べることで磁界分布
を磁石の片側に集中させる配列のことである 。ハルバッハ配列の仕組みを図(1)-17に示す。矢印の
入った四角形は永久磁石を表しており、矢印の先端がN極、後方がS極である。縦方向に並んだ磁
石と横方向に並んだ磁石のそれぞれの磁束線が重なり合い 、配列の上部では磁場を強めあい、配
列の下部では磁場を打ち消しあう。このような仕組みにより、ハルバッハ配列磁石は元の永久磁
石よりも強い磁場積を得ることが可能となる 。
図(1)-18は、有限要素法の解析ソフト(ANSYS10.0)でハルバッハ配列の磁場解析を行った図であ
る。図の中で赤くなっている部分が 、ハルバッハ配列の原理によって磁束密度が高くなっている
部分である。図中の数値の単位は[T]である。この図から、ハルバッハ配列により、磁石近傍に強
い磁場と高い磁場勾配を形成できることが分かる。
本研究では、ハルバッハ磁石が有するこのような磁場分布の特徴を活かし 、粒子に作用する鉛
直方向と水平方向の磁気力の差を利用した分離を行った。 高勾配磁気分離は、細線近傍の高い磁
気力によって磁性を持った分離対象物を磁気フィルターに捕捉する手法で 、高速大量処理が可能
である。これまで磁気分離は、主に分離対象物同士の磁化率差がきわめて 大きい場合に限られて
用いられてきた。しかし土壌中の粘土粒子のほとんどは常磁性物質あるいは反磁性物質であり 、
その磁化率差は通常の磁気分離に比較してかなり小さい。そのため分離の選択性を高めることが
必要である。
そこで、分離対象物を分散させた媒質の磁化率と 、それぞれの粒子の磁化率との関係に着目
した。流体中の粒子に作用する力の関係を図(1)-19に示す。左側が粒子の磁化率が媒質よりも大き
い場合、右側が小さい場合を示している。ただし媒質および粒子はすべて常磁性体としている 。
粒子の磁化率が媒質の磁化率よりも大きい場合 、粒子にはそれぞれに作用する磁気力の差が磁石
方向に牽引される力として働き、ドラッグ力を調整することで捕捉可能となる 。一方、粒子の磁
化率が媒質よりも小さい場合、粒子には磁気力の差が磁石から遠ざかる方向に働くため捕捉され
ずに流されていく。このように、媒質の磁化率を分離対象物質どうしの間になるように調整する
5ZB-1204-33
ことで、選択的な分離が可能になると考えられる 。
図(1)-20に反磁性物質の浮上実験の写真を示す。これは媒質として常磁性の塩化マンガン水溶液
を利用したものであるが、実際の土壌懸濁液には、鉄やマンガンといった常磁性のイオンが土壌
から微量に溶解していることが想定されるため 、今回は実用性を考えて、媒質はそのままの水道
水を利用した。
本研究での捕捉ターゲット粒子は、セシウムを強く吸着すると考えられている 、常磁性の粘土
鉱物である。実験体系を図(1)-21に示す。実験に用いた粘土粒子懸濁液は 1 Lで、固液比が1:200で
あった。強磁性線として線径0.2 mmのSUS430のワイヤーをハルバッハ磁石の最も磁場の強い部分
に設置し、そこに流速2cm/sで懸粘土粒子懸濁液を流した。ハルバッハ磁石の最大磁束密度 は1.4T
であった。
4)水相からの懸濁土壌の回収方法の比較
これまでの実験結果から、水相からのセシウムは検出限界以下であったため、懸濁土壌(粘土
+セシウム)を水相から回収する手法を検討した。静置沈降、ろ過、凝集沈殿、フィルタープレ
ス(乾燥脱水)、磁気アルキメデス法を比較した。
5ZB-1204-34
図(1)-16
図(1)-17
ハルバッハ配列.
ハルバッハ配列の仕組み.
5ZB-1204-35
図(1)-18
平板型ハルバッハ配列.
図(1)-19
アルキメデス分離の原理.
5ZB-1204-36
シリカ
(反磁性)
塩化マンガン
水溶液
(常磁性)
HTS bulk magnet
図(1)-20反磁性物質の浮上実験.
2:1型粘土(常磁性物質)
1:1型粘土(反磁性物質)
強磁性細線
out
図(1)-21
in
3°
磁気アルキメデス分離の実験体系(横から見た模式図).
5ZB-1204-37
(4)
北茨城市の土壌の汚染状況と減容化の可能性の事前調査
北茨城市の市長公室企画政策課と協力し、土壌の汚染状況と放射線対策の 議論を行った。なお、
本研究課題の実施以前の2011年11月7日にも研究打ち合わせ会議をした。当時の北茨城市の汚染状
況としては、約0.3μSv/hの空間線量であり、文部科学省による土壌(地表面から 5cmまで)の核種
分析の結果、局所的に約200,000 Bq/m 2 のところがあり、畑は~3000Bq/m2 (セシウム134、セシウ
ム137の合計値)の汚染状況である情報を収集した。優先的に除染が実施された学校施設及び北茨
城市北部の汚染ホットスポットについては、2012年7月27日に現地視察を行った。
5ZB-1204-38
4.結果及び考察
(1)土壌からの粘土・セシウムの効率的な分離条件の解明
1)小型空気揚土式洗浄装置を用いた分離条件の検討
小型空気揚土式洗浄装置を用い、飯舘村の土壌の洗浄実験を2回、川内村の土壌の洗浄実験を1
回実施した。湿重量基準、乾重量基準での物質収支を表(1)-9に示す。飯舘村土壌について、1回目、
2回目の湿重量基準での物質収支はそれぞれ、99.4%、98.0%であった。また、乾重量基準でのそ
れは、93.8%、101.0%となった。川内村土壌の湿重量基準での物質収支は100.0%であり、乾重量
基準での物質収支は100.5%となった。
小型空気揚土式洗浄装置による土壌洗浄でのγ線量の収支 を表(1)-10に示す。飯舘村の土壌は、
乾重量で10~14%が粒径の小さい懸濁土壌として分離され、この土壌からは洗浄前の土壌の 2倍近
いγ線が検出された。一方、乾重量で67~81%が大きな粒子で構成される排出土壌となり、この土
壌からは洗浄前の土壌の60%前後のγ線しか検出されなかった。川内村の土壌は、乾重量で12%が
粒径の小さい懸濁土壌として分離され、この土壌からは洗浄前の土壌の 2.7倍ものγ線がやはり検出
された。一方、乾重量で70%が排出土壌となり、この土壌からは洗浄前の土壌の 70%前後のγ線し
か検出されなかった。このことは、放射性セシウムが、粘土やシルトなどの細かな粒子に付着し
やすい性質を表している。しかし、本法による洗浄によって、砂礫分(排出土壌)の放射線量が、
期待していたほど低下しておらず、放射性セシウムの大半は、懸濁土壌よりも、排出土壌に残存
している結果となった。
また、図(1)-22に川内村の土壌の洗浄前後の粒径分布と粒径別の放射線量を示す。川内村の土壌
には、75μm以下(粘土・シルト)の粒子が7%含まれていた一方、2000μm以上の大粒子が40%を
占めていた。洗浄排出土壌には、75μm以下の粒子が2.7%を占めるようになり、2000μm以上の大粒
子はわずか13%に減少していた。このことから、土壌洗浄に よって、大きな粒子が細かく砕かれ
たことが示された。洗浄前の土壌の放射線濃度は、2000μm以下の大きさの粒子はいずれも83,000
Bq/kg-dry以上を示し、2000μm以上のものだけが、40,000 Bq/kg-dryを下回った。洗浄排出土壌は、
いずれの粒径でも洗浄前よりも放射線濃度が低下しており、2000μm以下の大きさの粒子はいずれ
も60,000 Bq/kg-dry以上を示した一方、2000μm以上のものは20,000 Bq/kg-dryを下回った。
この原因として、砂礫分に弱く吸着しているセシウムが存在していることが考えられる。砂礫
分に弱く吸着しているセシウムは、主としてpH制御やイオン交換により脱離可能な変異電荷に吸
着していることが考えられるため、上記の仮説が正しいとすれば、塩や酸の溶液で洗い流すこと
が可能であると考えられる。そこで、ここでは、排出土壌を比較的環境負荷の低いと考えられる
炭酸カリウム(K 2 CO 3 )の1 mol/L水溶液で洗浄し、分級後の排出土壌の後処理によって、線量を
下げることが可能かどうかを調べた。
排出土壌をK 2 CO 3 水溶液で洗浄し、洗浄後のセシウム137のγ線を測定したところ、表(1)-11に示
す結果が得られた。洗浄前後の土壌の線量に変化はほとんどなく、あるいは若干低下した程度に
とどまった。このことから、セシウムとイオン交換しやすいと言われるカリウム塩水溶液によっ
ても排出土壌に吸着したセシウムは殆ど除去されず、強固に吸着している可能性が示唆された。
本来、砂礫分は、石英や長石など成分から成るため、その表面には変異電荷が主として存在し
ているため、砂礫分にセシウムが存在したとしても、低濃度の炭酸カリウムで洗浄することによ
り、カリウムイオンとのイオン交換によって比較的容易に脱離することを予想していたが、上記
5ZB-1204-39
の結果から、今回分級を行った土壌において、砂礫に吸着しているセシウムは、砂礫表面の変異
電荷などの相互作用の弱い吸着サイトではなく、比較的強い相互作用によって吸着していると考
えられる。
そこで、砂礫分にセシウムがなぜ強い相互作用によって吸着したのかを検討した。砂礫分への
セシウムの吸着形態として、以下の形態が考えられる。
① 砂礫分の空隙に物理的に吸着した粘土分にセシウムが二次的に吸着している。
② 砂礫分の表面に有機物が付着しており、そこに粘土鉱物 が物理的に吸着している。
③ 砂礫中に存在する粒界、あるいは砂礫を構成する成分の一つである雲母にセシウムが浸透
し、強く吸着している。
これらのいずれの形態でセシウムが吸着していることが原因で、吸着したその吸着構造を検討
するため、排出土壌をふるいによって各粒度の粒子に分け、それぞれを顕微鏡観察した結果を図
(1)-23に示す。排出土壌、特に、粒径106μm以上の砂礫粒子は、粒子同士が有機物で結合して団粒
構造を形成することで粗大粒子を形成し、排出土壌として沈降していることが分かった。そのた
め、特にセシウムを強く吸着するとされている粘土成分が、この団粒構造中の有機物に強く吸着
していると推定される。また、沈降粒子の中には一部粗大有機物も含まれており、その表面にも
粘土粒子が付着している様子も観察された。また排出土壌中には、少量ではあるが、 75μm以下の
粒子も含まれていたことから、今回用いた小型分級装置の性能が不十分であったために、砂礫中
には本来は混入しないはずの粘土粒子が混入していたことも考えられる。これらの結果から、今
回の川内村鍋倉土壌にように、団粒構造を形成しやすい土壌では、空気揚土式土壌洗浄のみでは、
土壌中の放射性セシウムを分離することは困難であるといえる。そのため、このような土壌の分
級による汚染土壌の減容化のためには、後述する前処理あるいは後処理が必要になると考えられ
る。
団粒構造の形成には、有機物の含有量が大きく関与している。土壌の団粒構造により、本研究
開発手法が、そのままでは適用できない場合、前処理として、有機物が分解する程度の温度で土
壌の焼却を行い、その後分級操作を行えば、線量を低減できる可能性は考えられる。あるいは、
団粒構造を解消するための分散散剤を用いた前処理や、土質に応じた洗浄液を用いた前処理ある
いは後処理が有効であると考えられる。しかし、本装置の小型でモーバイルなシステムという長
所を最大限に生かすためには、当面は本装置で分離可能な土に 対象を絞り、必要な場所でオンサ
イト分級による減容化を行っていくことが実用的である 。
5ZB-1204-40
表(1)-9
小型空気揚土式洗浄装置を用いた飯舘村と川内村の土壌の洗浄実験における 物質収支
IN
投入土壌
洗浄水
残渣洗浄水
計
懸濁水
装置内残渣
排出土壌
計
収支
OUT
kg-wet
L
L
kg
kg
kg
kg
kg
%
飯舘村 1 回目
1.00
10.00
1.50
12.50
8.95
0.20
3.27
12.42
99.36
飯舘村 2 回目
1.20
10.00
1.50
12.70
9.00
0.25
3.20
12.45
98.03
川内村
1.20
10.00
2.50
13.70
9.13
0.38
4.19
13.70
100.00
投入した土壌の水分含量:飯舘村1回目39.4%、2回目35.3%、川内村42.0%
小型空気揚土式洗浄装置を用いた飯舘村の土壌の洗浄実験における γ線測定結果
Cs137(cps/g-dry) Cs137(cps)
飯舘村土壌 1 回目
重量(g-dry)
IN
606
(100%)
3.55
2151 (100%)
投入土壌
OUT
90 (14%)
7.40
666 (31%)
懸濁土壌
408
(67%)
2.09
854 (40%)
排出土壌
70 (12%)
0.91
64 (3%)
装置内残渣
2500
0
0 (0%)
排出土壌上澄液
568 (94%)
1584 (74%)
計
表(1)-10
飯舘村土壌 2 回目
IN
投入土壌
OUT
懸濁土壌
排出土壌
装置内残渣
排出土壌上澄液
計
川内村土壌
IN
投入土壌
OUT
懸濁土壌
排出土壌
排出土壌上澄液
計
重量(g-dry)
776 (100%)
79 (10%)
627 (81%)
78 (10%)
2500
784 (101%)
Cs137(cps/g-dry)
3.73
7.15
2.41
1.66
0
Cs137(cps)
2894 (100%)
565 (20%)
1509 (52%)
129 (5%)
2 (0%)
2205 (76%)
重量(g-dry)
696 (100%)
83 (12%)
484 (70%)
2500
3067 (81%)
Cs137(cps/g-dry)
90.54
240.71
62.64
0.02
Cs137(cps)
63015 (100%)
19978 (31%)
30336 (48%)
50 (0%)
50365 (80%)
5ZB-1204-41
40
140
35
放射線量(×103 Bq/kg-dry)
洗浄前の土壌
洗浄排出土壌
25
20
15
10
5
120
洗浄排出土壌
100
80
60
40
20
土壌粒子の大きさ(μm)
土壌粒子の大きさ(μm)
図(1)-22 川内村土壌の粒径分布と粒径別の放射線量の分布.
表(1)-11
粒径
K 2 CO 3 洗浄によるセシウム137の洗い出し効果
106-250μm
250-425μm
(g当りγ線量, 単位:Bq/g)
425-850μm
850-2,000μm
排出土壌
96.5
84.3
68.4
64.1
K 2 CO 3 洗浄後
97.0
79.4
61.1
57.1
>2000
850-2000
425-850
250-425
106-250
75-106
>2000
850-2000
425-850
250-425
106-250
75-106
0
<75
0
<75
重量(%)
30
洗浄前の土壌
5ZB-1204-42
75μm以下
75-106μm
106-250μm
250-425μm
425-850μm
850μm以上
図(1)-23
ふるい分け後の土壌の顕微鏡写真.
5ZB-1204-43
2)土壌から効率的にセシウムを脱離できる条件の検討
ヨウ化カリウム溶液と硝酸を脱離液とし、溶液濃度および黒ボク土壌と溶液との固液比を変化
させたセシウムの溶出実験の結果を図(1)-24に示す。固液比を5とした1.0~1.5mg/Lのヨウ化カリウ
ム溶液において、60%以上の高いセシウム溶出率が得られた。また、 低固液比において同数のイ
オンが存在する状況では、高濃度にするよりも固液比を高くした方が脱離に有効であることがわ
かった。その理由としては、低固液比の溶液中では土壌が十分に分散せず、対象とするセシウム
イオンと水素イオンやカリウムイオンの接触確率が減り、脱離が起こりにくくなったことが挙げ
られる。そのため溶液の濃度を上昇させても、固液比を高くしたときに比べて脱離率が向上しな
かったと考えられる。なお、その他の溶液では、顕著なセシウムの溶出は観察されなかった。
図(1)-24
ヨウ化カリウム溶液と硝酸溶液による土壌からのセシウムの脱離.
5ZB-1204-44
(2)
空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた汚染土壌の洗浄方法の開発
1)非汚染土壌の洗浄実験
開発した装置による非汚染土壌の洗浄結果を表(1)-12示す。実験1-E、1-Fでは、湿重量10 kg(乾
燥重量9.7 kg)の土壌を投入し、約100 Lの洗浄水Aで洗浄を行った。ブロワーによる通気によって、
土壌は装置内部で良好に撹拌された。洗浄後、約 90 Lの処理水Aを処理水槽にポンプで移した。装
置下部から排出した土砂には、9~10 Lの処理水Bが含まれていた。約29 Lの洗浄水Bで土砂をさら
に洗浄し、処理水Cを得た。処理水槽には、細かな土壌粒子が懸濁した処理水 A+ B+ Cが、約130 L
貯留された。洗浄処理土壌の重量は、実験1-E、1-Fにおいて、洗浄装置に投入した土壌のそれぞれ
69%、78%に相当するものであった。一方、水に懸濁して処理水槽に移行した土壌粒子の重量は、
実験1-E、1-Fにおいて、投入した土壌のそれぞれ 15%、18%に相当するものであった。
実験2-A、2-B、2-Cでは、湿重量20kg(乾燥重量17.8~19.4kg)の土壌を投入し、93~94 Lの洗
浄水Aで洗浄を行った。土壌は装置内部で良好に撹拌洗浄されたが、投入量を増やした分、洗浄水
Bを55.8~58.2 Lと増加させ、処理水槽に処理水 A+ B+ Cが149~153 L貯留された。投入した土壌重
量に対し、洗浄処理によって得られた土壌は66~77%となり、処理水槽に移行した土壌粒子は15
~25%となった。
実験3-Aのように投入量を湿重量30kgにまで増加させ、洗浄水Aを87 Lにした場合でも、装置内
における土壌の撹拌状況は良好であ った。投入した土壌重量の71%が洗浄処理土壌として回収さ
れ、17%が処理水槽に懸濁土壌として分離された。
装置に投入した洗浄前の土壌、洗浄処理土壌、処理水槽の懸濁土壌の粒 径分布を図(1)-25に示す。
洗浄前の土壌には、粘土・シルト分 (~75μm)が20%含まれていた。実験1-F、2-C、3-Aにおけ
る洗浄排出土壌には、粘土・シルト分が6%以下しか含まれていなかった。実験1-F、2-Cにおける
処理水槽の懸濁土壌粒子は、粘土・シルト分が90%以上(粘土44%、シルト46%)を占めており、
開発した土壌洗浄装置によって、土壌粒子の分級が可能であることが示された。なお、実験3-Aに
おける洗浄によって処理水に懸濁した土壌粒子の粒径分布は未測定である。
処理水槽の懸濁土壌は、主に粘土・シルト分で構成されているため、数日 間が経過しても、細
かな粒子は完全には沈殿しなかった。そこで、実験 1-E、1-Fで得られた処理水槽の懸濁土壌に対し、
塩化第二鉄を90~120 mg/L、助剤を1 mg/Lとなるように添加して凝集沈殿を行ったところ、表(1)-13
に示すように、懸濁土壌の濃度が11~13g/Lから230~270 g/Lとなり、20倍以上に濃縮できた。な
お、土壌懸濁液のpHは塩化第二鉄の有効pHの範囲である約8であっため、pH調整は行っていない。
図(1)-26に示すように、これを脱水したところ、90%以上の土壌粒子の回収率が得られ、含水率が
約30%の土壌ケーキを得ることができた。土壌粒子が 0.07~0.12g/ Lの濃度で、わずかに脱水ろ液
に残存したが、装置の実用化の際には、脱水ろ液は洗浄水 Aとして循環利用するものであり、十分
に低濃度であるといえる。なお、実汚染土壌の場合、この土壌ケーキ中に高濃度の放射性セシウ
ムが含まれることになるが、できるならば、酸抽出法、土壌燃焼法などによって、この土壌ケー
キから放射性セシウムだけをさらに回収することが理想的である。
5ZB-1204-45
表(1)-12
空気揚土撹拌式洗浄装置による非汚染土壌の洗浄実験の結果一覧
実験1-E
投入土壌(kg-dry)
実験1-F
9.7 (100%) 9.7 (100%)
洗浄処理土壌(kg-dry)
6.7 (69%)
処 理 水 槽 の 懸 濁 土 壌 粒 子 1.5 (15%)
実験2-A
実験2-B
実験2-C
実験3-A
19.4
17.8
17.8
26.5
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
7.6 (78%) 15.0 (77%) 13.2 (75%) 11.6 (66%) 18.7 (71%)
1.7 (18%)
2.9 (15%)
3.4 (19%)
4.5 (25%)
4.5 (17%)
(kg-dry)
表(1)-13
凝集沈殿と脱水による処理水槽の懸濁土壌粒子の回収
凝集沈殿の条件
脱水原液
脱水結果
(凝集沈殿後)
懸濁土壌
濃度
凝集剤濃
助剤濃度
度(mg/L) (mg/L)
(g/L)
実験
懸濁土壌
土壌回
ケーキ
ろ液の懸濁
濃度
収率
含水率
土壌濃度
(g/L)
(%)
(%)
(g/L)
pH
11
120
1
230
8.15
105
30.3
0.07
13
90
1
270
8.21
91
31.2
0.12
1-E
実験
1-F
図(1)-25
(B),
定.
0
0.001
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
A
粘土
0.01
0.1
粒径(mm)
洗浄前
の土壌
洗浄によって処理
水に懸濁した土壌
シルト
洗浄後
の土壌
砂
1
粘土
シルト
0.01
0.1
粒径(mm)
洗浄前
の土壌
洗浄によって処理
水に懸濁した土壌
0
0.001
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
B
洗浄後
の土壌
砂
1
0
0.001
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
C
粘土
0.01
0.1
粒径(mm)
洗浄前
の土壌
シルト
洗浄後
の土壌
砂
1
5ZB-1204-46
空気揚土撹拌式洗浄装置による洗浄前後の土壌の粒径分布.実験 1-F (A), 実験2-C
実験3-A (C).実験3-Aにおける洗浄によって処理水に懸濁した土壌粒子の粒径分布は未測
累積重量分率(%)
累積重量分率(%)
累積重量分率(%)
5ZB-1204-47
図(1)-26
脱水装置による土壌洗浄液中の土壌粒子の回収.
上 脱水試験装置 下 脱水土壌ケーキ.
5ZB-1204-48
2)飯舘村の放射性セシウム汚染土壌の洗浄実験
非汚染土壌の洗浄実験後、空気揚土撹拌式洗浄装置を福島県飯舘村に移設し、セシウム汚染土
壌の洗浄実験を実施した結果を表(1)-14に示す。また、土壌とセシウム137の物質収支を図(1)-27、
図(1)-28に示す。また、洗浄前後の土壌の粒径分布を図(1)-29に示す。
笹薮から採取した土壌No.1は、投入量を20kgにまで増加させたが、元の重量の45~47%に相当
する洗浄処理土壌が得られた。図(1)-29に示すように、実験S1-1、S1-2において、洗浄処理土壌の
粒径は、75m以下のものが大幅に減少しており、粘土・シルト分の大半が懸濁成分となったと思わ
れる。しかし、懸濁土壌が17~35%であり、懸濁土壌濃度の測定の誤差により過少評価されてい
ると思われ、実際は約50%相当の土壌が処理水槽に移動したと考えられる。セシウム 137濃度は、
洗浄前は18,800 Bq/kgと高濃度であったこともあり、洗浄処理した土壌は濃度が低下したものの、
4,800~5,220 Bq/kgであった。一方、処理水槽の懸濁土壌は35,900~49,500 Bq/kgと極めて高濃度で
あった。洗浄前土壌に含まれていた量を100%とした物質収支では、セシウム137は、洗浄処理土
壌に12~13%しか残らず、90%弱が懸濁土壌とともに水相に移行したと考えられるが、懸濁土壌
濃度の測定の誤差によって、44~66%の数値となっている。
一方、駐車場から採取した土壌No.4は、実験S4-3において投入量を30 kgにまで増加させても、
装置内における土壌の撹拌状況は良好であり、投入した土壌の 71~86%が洗浄処理土壌として回
収され、10~30%が処理水槽に懸濁土壌粒子として分離された 。図(1)-29に示すように、実験S4-1、
S4-3において、洗浄処理土壌の粒径は、75m以下のものがやはり減少しており、粘土・シルト分の
大半が懸濁成分となったと思われる。土壌中のセシウム137濃度は、洗浄前は6,160 Bq/kgであった
が、洗浄処理した土壌は予想通りに1,100~2,200 Bq/kgにまで濃度が低下し、処理水槽の懸濁土 壌
は28,300~70,300 Bq/kgと極めて高濃度であった。セシウム137は、洗浄処理土壌に14~26%しか残
留しておらず、処理水槽の懸濁土壌に63~78%が含まれている結果となった。なお、予備実験と
して行った実験系S4-1-0では、洗浄前の土壌中のセシウム137濃度は、15,000 Bq/kgと高く、同じ駐
車場から採取しても、値にばらつきがあることが明らかとなった。
この結果から、開発した土壌洗浄装置によって、セシウムが高濃度に含まれている粘土成分を
回収し、管理対象とする土壌を減容化することが実証で きたといえる。しかしながら、土壌の種
類によっては、その減容化の効率は高くない場合があるといえる。 小型実験装置で洗浄した飯舘
村の庭土と異なり、本実験に用いた 土壌は駐車場の表層から採取したものであり、有機物含有量
が少なかったと考えることができる。このような場合は土壌粒子が団粒構造を形成しにくく、粘
土粒子と砂礫・シルト粒子を比較的高精度に分級することができ、その結果、線量低減と減容化
に成功したと考えられる。
図(1)-27
S1-1、S1-2).
洗浄水B 30L
洗浄排出
土壌
洗浄水A 93L
処理水A 93.0L
洗浄処理土壌
3.3kg-dry (47%)
5,200Bq/kg
17,300Bq(13%)
処理水C
30.7L
処理水B
30.0L
投入土壌
7.0kg-dry(100%)
18,800Bq/kg-dry
131,600Bq (100%)
実験S1-1
懸濁土壌
処理水槽
懸濁土壌粒子
1.2kg-dry (17%)
49,500Bq/kg
57,100Bq(44%)
処理水A+B+C 135.3L
洗浄水B 90L
洗浄排出
土壌
洗浄水A 90L
処理水A 73.3L
洗浄処理土壌
6.4kg-dry (45%)
4,800Bq/kg
30,300Bq(12%)
処理水C
75.5L
処理水B
16.8L
投入土壌
14.0kg-dry(100%)
18,800Bq/kg-dry
262,700Bq (100%)
実験S1-2
懸濁土壌
処理水槽
懸濁土壌粒子
4.9kg-dry (35%)
35,900Bq/kg
174,200Bq(66%)
処理水A+B+C 167.5L
5ZB-1204-49
空気揚土撹拌式洗浄装置による飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の物質収支(実験
図(1)-28
S4-1、S4-3).
洗浄水B 30L
洗浄排出
土壌
洗浄水A 100L
処理水A 91.8L
洗浄処理土壌
5.3kg-dry (86%)
1,900Bq/kg
9,800Bq(26%)
処理水C
30.7L
処理水B
30.0L
投入土壌
6.1kg-dry(100%)
6,160Bq/kg-dry
37,600Bq (100%)
実験S4-1
懸濁土壌
処理水槽
懸濁土壌粒子
0.6kg-dry (10%)
47,000Bq/kg
29,200Bq(78%)
処理水A+B+C 135.0L
洗浄水B 90L
洗浄排出
土壌
洗浄水A 90L
処理水A 73.3L
洗浄処理土壌
19.3kg-dry (84%)
1,100Bq/kg
20,700Bq(14%)
処理水C
75.5L
処理水B
16.8L
投入土壌
22.9kg-dry(100%)
6,160Bq/kg-dry
141,100Bq (100%)
実験S4-3
懸濁土壌
処理水槽
懸濁土壌粒子
3.6kg-dry (16%)
28,300Bq/kg
101,400Bq(72%)
処理水A+B+C 167.5L
5ZB-1204-50
空気揚土撹拌式洗浄装置による飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の物質収支(実験
5ZB-1204-51
表(1)-14
空気揚土式撹拌洗浄装置による飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄試験の結果一覧
実験S1-1
実験S1-2
実験S4-1-0
実験S4-1
実験S4-3
投入土壌
7.0 (100%)
14.0 (100%)
8.4 (100%)
6.1 (100%)
22.9 (100%)
洗浄処理土壌
3.3 (47%)
6.4 (45%)
7.0 (83%)
5.3 (86%)
19.3 (84%)
処理水槽の懸濁土壌
1.2 (17%)
4.9 (35%)
1.4 (15%)
0.6 (10%)
3.6 (16%)
土壌の物質収支(kg-dry)
セシウム137の濃度(Bq/kg-dry)
投入土壌
1.9×10 4
1.9×10 4
1.5×10 4
6.2×10 3
6.2×10 3
洗浄処理土壌
5.2×10 3
4.8×10 3
3.1×10 3
1.9×10 3
1.1×10 3
処理水槽の懸濁土壌
5.0×10 4
3.6×10 4
6.3×10 4
4.7×10 4
2.8×10 4
1.3×10 5
2.6×10 5
1.2×10 5
4.0×10 4
1.4×10 5
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
1.7×10 4
3.0×10 4
1.7×10 4
9.8×10 3
2.1×10 4
(13%)
(12%)
(17%)
(26%)
(14%)
セシウム137の物質収支(Bq)
投入土壌
洗浄処理土壌
処理水槽の懸濁土壌
5.7×10
4
1.7×10
(44%)
5
7.8×10
(66%)
(63%)
土壌No.1
30
1.0×10 5
(78%)
(72%)
土壌No.4
洗浄後の土壌(実験S1-1)
洗浄前の土壌
洗浄後の土壌(実験S4-1)
洗浄後の土壌(実験S4-3)
25
洗浄後の土壌(実験S1-2)
20
図(1)-29
飯舘村のセシウム汚染土壌の洗浄前後の粒径分布.
>4750
850-2000
425-850
>4750
250-425
粒径(μm)
2000-4750
粒径(μm)
2000-4750
0
850-2000
0
425-850
5
250-425
5
106-250
10
75-106
10
106-250
15
75-106
15
<75
重量%
20
<75
重量%
2.9×10
4
30
洗浄前の土壌
25
4
5ZB-1204-52
3)川内村の放射性セシウム汚染土壌の洗浄実験
飯舘村での実証実験後、土壌洗浄装置を川内村に移設した。土壌の減容化処理の結果を表(1)-15、
表(1)-16に示す。土壌A(農道土壌)を質重量20 kg投入した実験A-2およびA-2Cはセシウム137の濃
度を測定したので、その物質収支を図(1)-30に示す。土壌や水試料の外観を図(1)-31に示す。また、
洗浄前後での土壌の粒径分布を図(1)-32に示す。なお、実際には洗浄、凝集沈殿、乾燥脱水の各工
程を独立して複数回実施しており、その結果を要約している。
土壌Aにはセシウム137が1,000 Bq/kg-dry含まれていた。この土壌中で75μm以下の粒子(粘土・
シルト)は1.8%を占めており、この微小粒子にセシウム137は3,400 Bq/kg-dryと高濃度に含まれて
いた。実験A-2において、86%が重力沈降によって洗浄処理土壌として回収され、計算によるとセ
シウム137濃度は570 Bq/kg-dryと低いことが示唆された。一方、処理水に移行した懸濁粒子を凝集
沈殿させた後、乾燥脱水機による処理によって得られた 脱水ケーキには、元の土壌の43%のセシ
ウム137(7,800Bq/kg-dry)が含まれており、元の土壌の10%の重量に減量化することができた。
乾燥脱水機を用いたことにより、脱水ケーキの含水率はわずか 12%であった。なお、洗浄処理後
土壌には、洗浄前よりも75μm以下の粒子(粘土・シルト)の比率がわずかながら増加した。この
一因として、農道から採取したこの土壌に含まれる団粒構造の一部が 、洗浄過程において細かく
砕かれたことが、考えられる。
実験A-2Cにおいては、凝集沈殿をする前にサイクロン分級を行った。土壌粒子の粒径測定はし
ていないが、大きな懸濁粒子はアンダー水に、細かな粒子はオーバー水に分離される。オーバー
水に分離された土壌粒子のセシウム137濃度は、アンダー水に配分されたものよりも、わずかでは
あるが、やはり高かった。オーバー水中の土壌粒子を凝集沈殿後、回収された脱水ケーキ(含水
率13%)は、元の土壌の重量の10%に相当し、元の土壌の30%のセシウム137(5,400 Bq/kg-dry)
が含まれていた。しかしながら、アンダー水に分離された土壌粒子にも、元の土壌の 21%のセシ
ウム137(3,800 Bq/kg-dry)が含まれていた。
道路側溝から回収された土壌Bを湿重量20 kg投入した実験B-2およびB-2Cは、セシウム137の濃
度を測定したので、その土壌とセシウム137の物質収支を図(1)-33に示す。土壌Aと同様に実際には
洗浄、凝集沈殿、乾燥脱水の各工程を独立して複数回実施しており、その結果を 平均している。
また、土壌や水試料の外観を図(1)-34に示す。土壌Bにはセシウム137が7,300Bq/kg-dryと高濃度に
含まれていた。この土壌中で75μm以下の粒子は4.2%を占め、この微小粒子にセシウム137は17,000
Bq/kg-dryも含まれていた。洗浄によって焦げ茶色で数mmの植物性と思われる繊維や、短時間で沈
降分離する砂質も含む微小粒子が水相に移行した。繊維は、表面を浮遊しているだけでなく液中
にも存在することが観察された。実験B-2においては、洗浄処理土壌は元の土壌80%の重量に相当
し、セシウム137の45%が残存した。一方、処理水に移行した懸濁土壌を凝集沈殿させ、乾燥脱水
によって得られた脱水ケーキ(含水率12%)には、元の土壌の46%のセシウム137(24,000Bq/kg-dry)
が含まれており、元の土壌の14%の重量に減量化することができた。 洗浄処理後の土壌には、洗
浄前よりも75μm以下の粒子(粘土・シルト)の比率がわずかながら減少していた。また、凝集沈
殿の上澄水と脱水ろ液のセシウム137濃度は、それぞれ4.3 Bq/L、15 Bq/Lと低濃度であり、付近の
河川水(5 Bq/L)と同程度であった。このことからも、土壌粒子から水中へのセシウム 137の脱着
量は、極めて少量であることが示唆された。
実験B-2Cにおいて、凝集沈殿の前にサイクロン分級を行ったところ、やはりアンダー水に 分離
5ZB-1204-53
された土壌粒子のセシウム137濃度はオーバー水に配分されたものよりも低く、元の土壌の29%に
相当するセシウム137が回収された。回収された脱水ケーキ(含水率13%)は、元の土壌の重量の
5%に相当し、元の土壌の21%のセシウム137(31,000Bq/kg-dry)が含まれていた。
以上のように小型の洗浄装置を用いて川内村の汚染土壌の減容化が実証できた。 さらにサイク
ロン分級によって、セシウム137濃度の極めて高濃度な微粒子を回収し、乾燥脱水機によって脱水
ケーキにまで濃縮することができた。しかし、サイクロン分級で得られたアンダー水中の土壌粒
子にも、相当量のセシウム137が含まれており、その使用は必ずしも効果的ではなかったといえる。
しかし、飯舘村の土壌(6,200 Bq/kg-dry)からは、同様の洗浄実験によってセシウム137の78%が
元の重量の14%の微小粒子とともに高効率に除去されており、減容化の効果は土壌の種類によっ
て異なるといえる。また、飯舘村での実験では不明であったが、凝集沈殿や脱水過程において セ
シウム137は液相にほとんど溶出せず、土壌粒子に吸着していることが確認できた 。
5ZB-1204-54
表(1)-15
空気揚土撹拌式洗浄装置による川内村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の結果一覧
実験A-2
実験A-2C
実験B-2
実験B-2C
17.7 (100%)
17.7 (100%)
17.4 (100%)
17.4 (100%)
洗浄処理土壌
15.3 (86%)
15.1 (85%)
13.9 (80%)
14.3 (82%)
処理水A+B
1.8 (10%)
1.5 (9%)
2.2 (13%)
2.4 (14%)
オーバー水
-
0.7 (4%)
-
0.9 (5%)
アンダー水
-
0.8 (5%)
-
1.8 (10%)
凝集土壌
1.8 (10%)
1.0 (6%)
2.4 (14%)
0.7 (4%)
脱水ケーキ
1.8 (10%)
1.0 (6%)
2.5 (14%)
0.9 (5%)
1.0×10 3
1.0×10 3
7.3×10 3
7.3×10 3
洗浄処理土壌
5.7×10 2
5.5×10 2
4.1×10 3
3.7×10 3
処理水A+B
5.3×10 3
6.3×10 3
3.1×10 4
3.2×10 4
オーバー水
-
8.2×10 3
-
4.7×10 4
アンダー水
-
4.5×10 3
-
1.9×10 4
土壌の物質収支(kg-dry)
投入土壌
セシウム137濃度(Bq/kg-dry)
投入土壌
1.5×10 1
脱水ろ液
5.4×10 3
2.4×10 4
3.1×10 4
1.8×10 4 (100%)
1.8×10 4 (100%)
1.2×10 5 (100%)
1.2×10 5 (100%)
洗浄処理土壌
8.7×10 3 (48%)
8.3×10 3 (46%)
5.7×10 3 (45%)
5.2×10 3 (41%)
処理水A+B
9.3×10 3 (52%)
9.6×10 3 (54%)
7.0×10 4 (56%)
7.5×10 4 (60%)
脱水ケーキ
4.4×10 3
1.1×10 1
セシウム137の収支(Bq)
投入土壌
オーバー水
6.0×10 3 (33%)
4.1×10 4 (33%)
アンダー水
3.8×10 3 (21%)
3.6×10 4 (29%)
凝集処理水
7.2×10 2 (0.6%)
9.0×10 2 (0.8%)
脱水ろ液
7.7×10 1 (0.1%)
4.4×10 1 (0.3%)
5.8×10 4 (46%)
2.7×10 4 (21%)
脱水ケーキ
7.8×10 3 (43%)
5.3×10 3 (30%)
図(1)-30
ける物質収支.
土壌
17.7kg-dry(100%)
1.0×103Bq/kg-dry
1.8×104Bq(100%)
土壌
17.7kg-dry(100%)
1.0×103Bq/kg-dry
1.8×104Bq(100%)
処理水槽
処理水B 5.5L
処理水槽
処理水B 4.9L
洗浄処理土壌
15.1kg-dry(85%)
5.5×102Bq/kg-dry*
8.3×103Bq(46%)*
*計算値
洗浄装置
アンダー水 23L
0.8kg-dry (5%)
4.5×103Bq/kg-dry
3.8×103Bq(21%)
サイクロン
分級機
凝集処理水 199L
凝集混和槽
近くの河川水 4.8×100 Bq/L
空間線量 0.15-0.23 μSV/h(2013.5.14-23)
脱水ろ液 3.9L
脱水ケーキ
1.0kg-dry (6%)
5.4×103Bq/kg-dry
5.3×103Bq(30%)
脱水ケーキ
1.8kg-dry (10%)
4.4×103Bq/kg-dry
7.8×103Bq(43%)
乾燥脱水機
凝集土壌 4.6L
1.0kg-dry (6%)
脱水ろ液 4.9L
乾燥脱水機
凝集土壌 5.6L
1.8kg-dry (10%)
凝集処理水 173L
凝集混和槽
処理水A+B 179L
1.8kg-dry (10%)
5.3×103Bq/kg-dry
9.3×103Bq(52%)
処理水A+B 177L
オーバー水 204L
1.5kg-dry (9%)
0.7kg-dry (4%)
6.3×103Bq/kg-dry 加水 54L 8.2×103Bq/kg-dry
洗浄水A 180L
9.6×103Bq(54%)
6.0×103Bq(33%)
処理水A 171L
洗浄処理土壌
15.3kg-dry(86%)
5.7×102Bq/kg-dry*
8.7×103Bq(48%) *
*計算値
洗浄装置
処理水A 173L
洗浄水A 181L
川内村 土壌A(農道西ノ内)20kg
5ZB-1204-55
空気揚土撹拌式洗浄,凝集沈殿,乾燥脱水による川内村の汚染土壌 Aの減容化にお
図(1)-31
脱水ケーキ
脱水ろ液
凝集処理水
洗浄前の土壌
洗浄処理土壌
処理水A+B
5ZB-1204-56
川内村の汚染土壌Aの減容化過程における土壌の外観.
5ZB-1204-57
25
25
0
<75
>2000
0
850-2000
5
425-850
5
250-425
10
106-250
10
粒径(μm)
図(1)-32
>2000
15
850-2000
15
20
425-850
20
洗浄処理後
250-425
重量(%)
30
106-250
洗浄処理後
75-106
土壌B (側溝土砂)
洗浄処理前
35
30
<75
重量(%)
35
40
土壌A (農道西ノ内)
洗浄処理前
75-106
40
粒径(μm)
川内村の土壌の洗浄前後の粒径分布.
表(1)-16
空気揚土撹拌式洗浄装置による川内村のセシウム汚染土壌の洗浄実験の結果一覧
実験A-1
実験
実験A-3
A-1C
実験
実験B-1
A-3C
実験
実験B-3
B-1C
実験
B-3C
土壌の物質収支(kg-dry)
投入土壌
洗浄処理土壌
処理水A+B
8.9
8.9
26.6
27.2
8.7
8.7
26.2
26.1
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
(100%)
24.8
19.4
23.9
22.8
(93%)
(71%)
(91%)
(87%)
7.7 (87%) 7.7 (87%)
7.3 (84%) 6.9 (80%)
0.8 (9%) 0.8 (9%) 2.0 (8%) 2.1 (8%) 0.9 (10%) 1.0 (12%) 2.1 (8%) 3.2 (12%)
オーバー水
-
0.4 (5%)
-
0.7 (3%)
-
0.4 (5%)
-
1.4 (5%)
アンダー水
-
0.6 (7%)
-
1.1 (4%)
-
0.6 (7%)
-
1.9 (7%)
凝集土壌
1.0 (11%) 0.8 (9%) 1.9 (7%) 0.9 (3%) 0.8 (9%) 0.6 (7%) 2.6 (10%) 1.1 (4%)
図(1)-33
おける物質収支.
土壌
17.4kg-dry(100%)
7.3×103Bq/kg-dry
1.2×105Bq(100%)
土壌
17.4kg-dry(100%)
7.3×103Bq/kg-dry
1.2×105Bq(100%)
処理水槽
処理水B 5.1L
処理水槽
処理水B 5.4L
洗浄処理土壌
14.3kg-dry(82%)
3.7×103Bq/kg-dry*
5.2×104Bq(41%)*
*計算値
洗浄装置
アンダー水 34L
1.8kg-dry (10%)
1.9×104Bq/kg-dry
3.6×104Bq(29%)
サイクロン
分級機
脱水ろ液 4.2L
1.1×101Bq/kg-dry
4.4×101Bq(0.3%)
乾燥脱水機
脱水ケーキ
0.9kg-dry (5%)
3.1×104Bq/kg-dry
2.7×104Bq(21%)
脱水ケーキ
2.5kg-dry (14%)
2.4×104Bq/kg-dry
5.8×104Bq(46%)
近くの河川水 4.8×100 Bq/L
空間線量 0.15-0.23 μSV/h(2013.5.14-23)
凝集処理水 173L
4.5×100Bq/kg-dry
9.0×102Bq(0.8%)
凝集混和槽
凝集土壌 4.8L
0.7kg-dry (4%)
脱水ろ液 5.2L
1.5×101Bq/kg-dry
7.7×101Bq(0.1%)
乾燥脱水機
凝集土壌 6.6L
2.4kg-dry (14%)
凝集処理水 167L
4.3×100Bq/kg-dry
7.2×102Bq(0.6%)
凝集混和槽
処理水A+B 173L
2.2kg-dry (13%)
3.1×104Bq/kg-dry
7.0×104Bq(56%)
処理水A+B 171L
オーバー水 178L
2.4kg-dry (14%)
0.9kg-dry (5%)
3.2×104Bq/kg-dry 加水 42L 4.7×104Bq/kg-dry
洗浄水A 186L
7.5×104Bq(60%)
4.1×104Bq(33%)
処理水A 166L
洗浄処理土壌
13.9kg-dry(80%)
4.1×103Bq/kg-dry*
5.7×104Bq(45%)*
*計算値
洗浄装置
処理水A 167L
洗浄水A 180L
川内村 土壌B(側溝土砂)20kg
5ZB-1204-58
空気揚土撹拌式洗浄,凝集沈殿,乾燥脱水による川内村の汚染土壌 Bの減容化に
図(1)-34
処理水A+B
脱水ケーキ
洗浄処理土壌
脱水ろ液
洗浄前の土壌
凝集処理水
5ZB-1204-59
川内村の汚染土壌Bの減容化過程における土壌の外観.
5ZB-1204-60
(3)
水相からのセシウムの回収方法の開発
1)土壌成分および吸着剤へのセシウムの飽和吸着量の測定
各種の吸着材へのセシウムの飽和吸着量の測定を図 (1)-35 に示す。塩化セシウムの溶液 pH は約
7(~6.8)程度であった。吸着材として広く利用されているアルミノケイ酸塩の 1 種であるゼオラ
イトのセシウムに対する飽和吸着量は 78 mg/g であり、磁化ゼオライトと磁化プルシアンブルー
も、それぞれ 48 mg/g および 65 mg/g の高い飽和吸着を示した。これらの吸着剤の飽和吸着量は、
実際のセシウム濃度(ppt レベル)を想定すれば十分な吸着量と言える。
表(1)-17 に各材料について BET 法で測定した比表面積と、それを用いて計算した単位表面積当
たりの吸着量を示す。比表面積は通常のシリカゲルが最も大きく、 ゼオライトや磁化ゼオライト
はその約 1/50 であった。ゼオライトは、表面積がシリカゲルより小さいにもかかわらずセシウム
を多く吸着する性質を持っていることが分かった。 また単位表面積当たりの吸着量を見ると、 面
積は最も少ない石英が、単位表面積当たりの吸着量が最も多かった。
すべての吸着剤や鉱物について共通することは、セシウムの吸着は基本的にクーロン力による
ということである。セシウムイオンは陽イオンなので、吸着剤が負に帯電している必要がある。
吸着剤の負電荷は、永久電荷と変異電荷の二つが考えられる。ゼオライトは両者が考えられるが、
石英、ポーラシリカ、長石では、変異電荷が主となると考えられる。変異電荷は外部 溶液の pH に
より変化する。
また、石英は酸性酸化物である。このため、水に分散させると、その pH は低下する。実際、石
英を分散させると pH は 6.8 から 6.5 程度に低下した。また、石英は表面の水酸基の数が少なく、
負電荷の絶対値も小さい。このため、若干のセシウムが吸着することになる。石英の等電点は 2
~3 で、pH が 7 付近では、表面はマイナスに帯電している。このため若干のセシウムイオンが吸
着する可能性があると言える。しかしながら、シリカは酸性酸化物であり、酸化物表面が強酸的
性質を持つために、石英等の辺縁部の Si-O - 基は水素イオンに対して極めて選択的であることが
知られている。すなわち、周辺に水素イオンが存在すると、セシウムの吸着が阻害され、水素イ
オンが吸着することになる。つまりセシウムイオ ンが大量に存在するときは、セシウムは石英に
吸着するが、通常の濃度の場合、石英はセシウムを吸着しないと言ってよい。 しかし、単位表面
積当たりに換算すると、石英は極めて高い吸着率を示した。この理由としては、クーロン力によ
る相互作用に加えて、結晶構造に起因する立体的な影響が加わる。シリカゲルやポーラスガラス
がアモルファスで空孔径が不均一であるのに対し、石英には粘土鉱物の 4 面体シートに類似した、
四面体が形成するセシウム原子の直径(約 2.7Å)に近い大きさの結晶空隙があり、これがセシウ
ムを捕捉しやすいためと考えられる。単位表面積当たりの吸着量にすると、ポーラスガラスは他
の吸着剤(ゼオライトやプルシアンブルー)に対してかなり低いことが分かる。 これは結晶構造
を持たないアモルファスであり、表面が不均一であることが原因と考えられる。
畑や運動場などで採取した土壌を X 線回折法(XRD)を用いて測定すると、石英のピークがみ
られることがほとんどであり、多くの土壌は石英を含んでいる、ただしその吸着量は微量であり、
また変位電荷や立体的な空隙にセシウムが一時的に吸着されたとしても、その吸着力は弱いと考
えられる。
5ZB-1204-61
また石英と同じ成分 SiO 2 から成るシリカゲルは多孔質の物質であり、先行研究により、ほとん
どセシウムイオンは吸着しないことが報告されている。シリカゲルの等電点は 2~3 であり、セシ
ウムの吸着機構自体は石英と同様であると言える。ただしアモルファスの多孔質構造を持ち、多
量の水酸基を持つ点で石英と異なっている。中性付近では多量の水酸基がプロトンを放出して負
帯電となっている。これは、シリカゲルを水に分散すると、pH は 7 程度から 5.5 程度まで低下し、
ζ 電位の絶対値が下がることからも示されている。このように考えると、負帯電の吸着サイトが多
量にあるということから、セシウムを多量に吸着するように考えられがちであるが、石英と同様
にシリカゲルも強い酸性酸化物であり、解離して負帯電となった水酸基が多いとしても、それら
の水酸基は水素イオンに対してきわめて選択的であるため、単位重量当たり、単位表面積当たり
いずれで比較しても、セシウム吸着量は他の材料に比べて低い結果になったと考えられる。
今回の土壌洗浄実験では水相にはセシウムは検出されなかったが、もし検出された場合には、
磁化ゼオライトや磁化プルシアンブルーに吸着させ、磁気アルキメデス法によって吸着材を回収
することが可能であると言える。
また、土壌中で、粘土鉱物以外で大きな割合を占め、特に砂れきの主成分となっている石英、
長石のセシウム吸着量は低く、吸着したものも弱い相互作用で吸着しており、容易に脱離しやす
いことから、本手法によって粘土分を分級することはセシウム分離のために有効であることが示
された。ただし、顕微鏡観察結果から示されたように、土壌中で砂れき、有機物、粘土が凝集体
を形成している場合には、排出土壌中にも粘土粒子が凝集体の形で含まれるため、分級のみでは
線量を十分に低減させることが困難である場合もあることが明らかにな った。そのため、本手法
は、有機物が少なく凝集体を形成しにくい土壌の減容化に最も適していると考えられ、実用化に
向けては、運動場や駐車場、公共施設の敷地などの、客土を中心とした部分に適用することを考
えている。
5ZB-1204-62
図(1)-35 各材料のセシウムの吸着量の比較.
表(1)-17
各材料の比表面積と単位表面あたりのセシウム吸着量
BET比表面積
(m2 /g)
単位面積あたりの
吸着量(mg/m 2 )
シリカゲル
415
0.003
ポーラスシリカ
211
0.229
ゼオライト
6.70
11.6
磁化ゼオライト
8.20
5.90
磁化プルシアンブルー
14.6
4.44
バーミキュライト
3.24
2.01
石英
0.03
55.3
長石
3.54
1.36
5ZB-1204-63
2)強磁性吸着剤のセシウム吸着能に与える共存イオンの影響
硝酸及びヨウ化カリウム溶液に磁化ゼオライトを添加し 、セシウムの吸着実験を行った。硝酸
の場合、磁化ゼオライト添加量1 g/Lに対してセシウム吸着率は50 %、5 g/Lで90 %が得られた。一
方、ヨウ化カリウム脱離液では添加量1 g/Lで吸着率30 %、25 g/Lで50 %となり、硝酸脱離液に比
べ、セシウム吸着率が明らかに低いことが分かった。なお、対照実験として、セシウム濃度12 mg/L
と14 mg/Lの溶液に磁化ゼオライトを1 g/Lとなるように添加したところ、セシウム吸着率はいずれ
も100 %となった。よって、脱離液に含まれる共存イオンの影響により磁化ゼオライトの セシウム
吸着率が低下することが分かった。
図(1)-36に共存イオンが存在する 塩化セシウム溶液中での磁化ゼオライトのセシウム吸着量を
示す。吸着剤のセシウム吸着能に与える影響はH 3 O + が最も小さく、ナトリウムイオンNa + とK + は
ほぼ同じであることがわかる。これは、それぞれのイオンの溶液中での水和イオン半径から説明
できる。ゼオライトは三次元網目構造を有しており、セシウムは構造内部の永久電荷、または構
造末端の変異電荷に吸着される。ここで永久電荷の数は変異電荷の数に比べて多いため、ゼオラ
イトに吸着されるセシウムのほとんどは永久電荷に、すなわちゼオライトの構造内部に取り込ま
れると考えられる。
オキソニウムイオンは水素イオンが水和した状態であるが、電荷が同じであれば、イオン半径
が小さいイオンほど表面の電荷密度が大きくなる。電荷密度が大きいイオンは、溶液中で多くの
水分子と結合するため、イオン半径が水和により大きくなる。 オキソニウムイオン、ナトリウム
イオン、カリウムイオンの水和イオン半径はそれぞれ0.28~0.36 nm、0.23~0.33 nm、0.28~0.52 nm
であり、ゼオライトの細孔半径0.1~0.5 nmとほぼ等しいため、これらの共存イオンもゼオライト
の構造内部に取り込まれると考えられる。しかし、水和イオン半径が大きくなると、イオンの正
電荷の中心と吸着剤の負電荷との距離が遠いため、静電的相 互作用が弱くなり、ナトリウムイオ
ンとカリウムイオンの影響がオキソニウムイオンの影響より大きくなったと考えられる。
図(1)-36
磁化ゼオライトのセシウム吸着能に与える共存イオンの影響の比較 .
5ZB-1204-64
3)磁気アルキメデス法を用いたさらなる汚染土壌の減容化
研究開発方法で述べたとおり、磁気アルキメデス法とは、粒子や媒体の磁化率の差を利用して、
常磁性物質と反磁性物質を分離する手法であり、今回は永久磁石でも適用可能な、水平方向のア
ルキメデス磁気分離法を用いた。各物質に作用する力を図 (1)-37に示す。磁気アルキメデス法を用
いたさらなる汚染土壌の減容化実験の様子を図 (1)-38に示す。白く見える粒子が常磁性粘土で、黒
く見える大きい固体は有機成分である。また実験前後の重量・放射線濃度の変化を図 (3)-11に示す。
試料回収率は88%、放射線バランスが104%であり、実験精度は問題ないと言える。投入試料に対
し、磁性細線に捕捉された粒子は、2倍以上の線量を示し、捕捉された粒子に放射性物質が濃縮さ
れていることが分かる。一方、通過物はセシウムを強く吸着しない粘土粒子を多く含むと考えら
れるが、実際には10%程度線量が低減したのみであった。この理由としては、粘土鉱物は表面積
が大きいため、セシウムを吸着しにくい反磁性の粒子にも、セシウムが弱く吸着されているので
はないかと考えられる。また、有機成分による土壌粒子の凝集も、もう一つの要因として考えら
れる。
また、本手法での減容化率は30%強程度にとどまった。これは、それぞれの土壌中の粘土鉱物
の構成比に依存するため、空気揚土撹拌式洗浄装置による分級、およびその後のサイクロン 分級
と合わせての一連の処理による減容化率が十分なものであれば問題はないと考えられる。
上記の結果から、磁気アルキメデス法によるセシウムの濃縮と減容化の可能性が示された。実
用化に向けて、より分離精度を高め、通過分の線量を埋戻しできるレベルにまで低減させるには、
土壌中でのセシウムの詳細な動態を調査し、前処理や分離方法などを工夫していく必要がある。
図(1)-37
磁気アルキメデス法によ って反磁性の土壌粒子に作用する力.
5ZB-1204-65
↓上から見た写真
図(1)-38
磁気アルキメデス法による土壌粒子の分離.
5ZB-1204-66
1.2g
18
15
cps/g
12
3.2g
9
6
3
0
投入試料
図(1)-39
アルキメデス捕捉
アルキメデス通過
磁気アルキメデス法による土壌粒子の重量・放射線濃度の変化.
実験前後の重量・放射線濃度の変化
4)水相からの懸濁土壌の回収方法の比較
懸濁土壌の回収方法として、静置沈降、ろ過、 サイクロン分級、凝集沈殿、脱水(フィルター
プレス)、磁気分離を比較し、表(1)-18に要約した。静置沈降と通常のろ過では、粘土のような細
かな懸濁土壌の回収方法は困難であった。凝集沈殿と 脱水の組み合わせは、凝集剤や電力が必要
であるものの、非常に有効であった。また、サイクロン分級、凝集沈殿、脱水の組み合わせも有
効である。磁気分離による方法も、粘土鉱物の種類と有機物含有量に依存するものの、図 (1)-39に
示したように一定の効果は確認できた。
5ZB-1204-67
表(1)-18 水相からの懸濁土壌(粘土+セシウム)の回収方法の比較検討
評価
組合わ
せ
静置沈降
ろ過
サイクロン分級
凝集沈殿
フィルタープレス
(乾燥脱水)
磁気分離
×
×
△
△
△
△
○
5ZB-1204-68
(4)
北茨城市の土壌の汚染状況と減容化の可能性の事前調査
空気揚土撹拌式洗浄装置による減容化実験の対象候補とし、 2012 年 7 月 27 日に北茨城市を訪問
し、北茨城市市長公室の酒井充夫氏らとその可能性を議論し、実験現場 の候補地を視察した。
北茨城市は、放射線対策の基本方針 (http://www.city-kitaibaraki.jp/modules/info/
index.php?content_id=442)として、生活空間における放射線量の目標値を 1.44mSv/年(0.28μSv/h)
と設定した。放射線量低減化対策の実施においては、子どもが多く利用する施設を優先し、 2011
年 12 月に学校の表層土を約 2cm ほど掘削することで除染を実施した。他の小学校は、校庭に穴を
ほり、不透水シートを敷いて、汚染土壌を埋設したが、華川小学校は、地盤が固いため、深い穴
が掘れなかったため、校庭の隅の約 7m× 7m の区域に、地表面 50cm ほど、汚染土壌を積み上げ、
図(1)-40 のようにブルーシートで被覆している。放射線量は、除染前は 0.24μSv/h であったが、除
染後は 0.15μSv/h となり(低減率 38%)、現地視察時点では、校庭は~0.1μSv/h、積み上げた汚染
土壌は~0.2μSv/h であった。
また、華川小学校に面した閉鎖された保育園では、約 5m× 5m の区域に 1.3m ほどの放射性セシウ
ムによる汚染土壌を図(1)-41 のように積み上げていた。また、図(1)-42 に示す高帽山の北側の集落
付近の汚染ホットスポットでは~0.4μSv/h の放射線量を測定した。おそらく、高帽山で移流・拡散
が妨げられ、放射性セシウムの沈着が顕著であったと予想される。
これらの現場を減容化実験の対象候補とし、交渉を続けたが、北茨城市市長公室からは、実験を
実施する際の市民からの理解が得られにくいとの理由で、実験場所の提供は困難であることが告
げられた。そのため、汚染土壌の減容化の可能性の調査や実験的な検討は、 2013 年度は実施しな
かった。
5ZB-1204-69
図(1)-40
北茨城市の華川小学校で除染された土壌(2012年7月27日).
5ZB-1204-70
図(1)-41
華川小学校に面した閉鎖された保育園(2012年7月27日).
5ZB-1204-71
図(1)-42
高帽山の北側の集落付近の汚染ホットスポット (2012年7月27日).
5ZB-1204-72
(5)
全体を通しての考察
本技術を実用可能なものにするためには、単に土壌を分級して低線量土壌と高線量土壌に分け
るだけでなく、土壌を分級した後のそれぞれの土壌をについて、その線量に応じて、埋戻し、再
利用あるいは遮蔽して管理保管など、適切な後処理を行うことを考えておくことが重要である。
図(1)-43に、本技術開発の手法で分級した土壌に想定される処理方法についてまとめる。
図(1)-43
分級後土壌の処理方法.
冒頭の1.(3)にて、土壌中に含まれる各成分の表面積を概算し、すべての成分のセシウムの吸
着メカニズムが同じで表面積で吸着量が決定されると仮定して、 土質の分級効果について試算し
た。その結果、放射能濃度の目標値(低線量土壌200 Bq/kg以下)を満たす分級時の境界となる粒
径は、土質によって異なり、分級後の低線量土壌を200 Bq/kg以下にするための分級境界は、礫粒
土、砂粒土の場合、境界は砂の領域となり、細粒土の場合 はシルトの領域となった。具体的には、
礫粒土は500μm、砂粒土は350μm、細粒土は70μmを境界として分級を行った場合、除染目標とした
200 Bq/kg以下を満たすことができると推算された 。またそれぞれの減容率(200 Bq/kg以下と想定
される低線量土壌の元の土壌に対する重量割合 )は礫粒土が85%、砂粒土が80%、細粒土が35%と
なった。
ここで、上記の結果を今回の実際の分級結果と比較する。ここでは川内村鍋倉の畑土について
小型分級装置を用いて行った実験について取り上げる。今回用いた土壌は、その粒度分布より、
砂粒土にあたる。そのため、理論的には、低線量土壌を 200 Bq/kg以下にするためには、砂の領域
を境界として分級する必要がある。物質収支および洗浄後の重量配分、粒度分布、 Cs137のγ線量
とその配分について図(1)-44に結果を示す。
5ZB-1204-73
図(1)-44
分級実験前後の放射能バランス.
まず左端図の物質収支及び洗浄後の重量配分については、排出土壌が約 70%程度、残りの20%
が分級装置で処理する前に除去した落ち葉など、 10%が懸濁水固形分となっており、懸濁水固形
分に放射性物質が濃縮されているとすれば、良好な減容化が予想される。
次に、中央図の粒度分布について見ると、排出土壌は 一定の粒度の粒子に偏っているのではな
く、さまざまな大きさの土壌があることが分かる。分級により、約 500μmを境界として分級できて
おり、これは砂の領域にあたり、また砂粒土の場合の粒度境界の理論値である 350μmを上回って
いるため、本分級装置および分級条件は、対象としている砂粒土に適しているといえる。したが
って、上記の理論通りに分級できれば、効率的な減容化が可能であるといえる。
しかし、右端図のセシウム137の配分を見ると、元の土壌の放射性物質の約半分弱が、排出土砂
に配分されており、線量の低減率は十分でないこと が分かる。今回用いた土壌の初期放射線濃度
は約80000 Bq/kg程度であった。これをもとに、冒頭の表4の砂粒土の計算結果をもとに理論値を概
算すると、分級後の砂礫分は最大でも5000 Bq/kg程度に線量が低減されると予想された。一方、実
験により得られた線量前土壌、懸濁水固形分、および排出土壌の単位重量当たりの γ線量を図(1)-45
に示す。この図より、懸濁水固形分すなわち粘土粒子には、放射性物質を濃縮できていることが
確認されるが、砂礫分が約60000 Bq/kgとなっており、理論値の約12倍の値を示している。
5ZB-1204-74
単位重量当たりγ線量
300
240.71
250
Bq/g
200
150
83.33
100
62.64
50
0
川内村鍋倉土壌
洗浄前原料土壌
図(1)-45
懸濁水固形分
排出土壌
分級処理前後の土壌の1g当たりのγ線量.
上記の結果から、空気揚土式土壌洗浄装置を用いて、放射性セシウム汚染土壌から、放射性セ
シウムを高濃度で含む粘土成分が分離・回収できることが確認された。主に粘土分からなる懸濁
水固形分のセシウム137のγ線量は元の土壌に対し3倍程度に濃縮されていた。しかしながら、排出
土砂のγ線量は期待されたほど低下していない。また、分離できた粘土分の割合は以前の土壌洗浄
試験に比べて低かった。すなわち、川内村鍋倉地区土壌の試験では、粘土分の分離が不十分で、
排出土砂側に粘土が残っていると考えられる。
以上のように、理論値と実験値に大きな相違が出た理由として 、理論のようにセシウムは土壌
成分の表面積に応じて均一に吸着しているのではなく 、土壌成分によって吸着特性や吸着強度が
大きく異なること、あるいは、大きな粒子が小さな粒子の凝集体になっていることが考えられる。
前述の図(1)-23の顕微鏡観察の結果から、排出土壌は、粒子同士が有機物で結合して団粒構造を
形成していることが分かった。すなわち、排出土壌は、有機物で凝集体を形成した粘土やシルト
の集合体となっていると言える。特にセシウムを強く吸着するとされている粘土成分は 、この団
粒構造中の有機物に強く吸着していると推定された。
一般的な団粒構造の模式図を図(1)-46に示す。栄養状態の良く植物の生育しやすい肥沃な畑土な
どにみられるものである。今回の川内村鍋倉土壌にように、有機物でバインダーの役割を果たし
団粒構造を形成している土壌では、空気揚土式土壌洗浄のみでは、土壌中の セシウムを分離する
ことは困難であることが分かった。しかし、1 mol/Lの炭酸カリウムでは洗い出しがほとんどでき
なかったため、このような土壌の場合、セシウムの分離・回収には、塩や酸の水溶液などによる
洗浄が必要であると判断される。
5ZB-1204-75
単粒構造
団粒構造
図(1)-46
単粒構造と団粒構造の模式図
団粒構造の形成には、有機物の含有量が大きく関与していると考えられる。平成 24年度に実証
試験を行った飯舘村の土壌は駐車場の土壌であり 、もともと客土された土壌である可能性が高く 、
有機物は少なかったと考えることができる。このような場合は土壌粒子が団粒構造を形成しにく
く、粘土粒子と砂礫・シルト粒子を高精度に分級することができ 、その結果、線量低減と減容化
に成功したと考えられる。
一方で、2013年度の川内村の土壌は、側溝や農道の土であり、目視でも繊維状の植物の腐敗物
が多くみられ、目視で確認できない腐植等の有機成分も多く含まれていたと考えられる。
そこで、大阪市内にてさまざまな種類の土壌をサンプリングしTG(熱重量分析)を用いて、600℃
まで5℃/minで昇温し、そのまま600℃で30分間保持した時の重量変化によって、有機物の重量%を
測定した。土壌の種類による有機物含有率の違い を表(1)-19に示す。この結果より、有機物が少な
い土壌では本手法がそのまま適用でき、有機物の多い土壌では、移行処理や焼却などの前処理を
行うことで本手法が適用が可能になると考えられる。飯舘村の土壌は下記の表においては運動場
に近い土壌であると考えられ、一方、川内村で行った側溝や農道は側溝・畑土に対応、今回の川
内村鍋倉地区の土壌も、畑土に近いものであると考えられる。
5ZB-1204-76
表(1)-19
土壌の種類による有機物含有率の違い
(600℃, 30分加熱時の重量減少率により測定)
土壌の種類
有機物(重量%)
竹林
13.7
運動場
8.3
側溝
14.0
畑
18.7
腐葉土
46.3
以上の結果から、土壌の種類による土壌成分の違いによって 、理論的な分級による線量の分配
とは異なる結果が得らえた。このことにより 、有機物が多く団量構造を形成するため 、本研究開
発手法が適用できる土壌と、そのままでは適用できない土壌があることが明らかになった。その
ままでは適用できない土壌の場合、今回の結果から、土壌の団粒構造形成により、排出土壌にセ
シウムを強く吸着する粘土粒子が含まれるため 、塩の水溶液や酸での洗浄によっても十分な効果
が得られないことが分かった。そのため、例えば前処理として、あらかじめ有機物成分が分解す
る程度の温度で土壌の焼却を行い、その後分級操作を行えば、線量低減は可能であると考えられ
る。
しかし、本装置の小型でモバイルなシステムという長所を最大限に生かすためには 、当面は本
装置で未処理の状態でも効率的な分離が可能な土に対象を絞り 、必要な場所でオンサイト分級に
よる減容化を行っていくことが実用的であると考えられる。
5ZB-1204-77
5.本研究により得られた成果
(1)科学的意義
土壌中の放射性セシウムの多くが粘土に強く吸着していることを利用して、湿式分離による高
精度な土壌分級を飯舘村と川内村で行い、大幅な線量の低減と、汚染土壌の減容化が行えること
を明らかにした。このことは、空気揚土撹拌装置を用いて物理的なせん断力を与えることによっ
て、砂礫表面に付着した粘土も取り除くことが可能であることを示しており、また従来の分級手
法よりもコンパクトな装置で、土壌分級、凝集沈殿、 脱水までの一連の作業が可能であることが
示され、工学の観点からも意義のある成果が得られた。 一方、団粒構造が発達した土壌には、排
出土壌に粘土が残ってしまい、酸洗浄によっても十分なセシウムの溶出効果が得られず、本手法
の適用が困難であることも示唆された。このことは除染プロセスをより簡易にするための基礎技
術として実用的なシステム構築に貢献できると考えられる。また、セシウムを強く吸着する粘土
粒子は常磁性であり、その他の粘土粒子は反磁性であることを利用し、磁気アルキメデス法によ
るセシウムの濃縮と減容化の可能性が示された。
またビーカーレベルの実験では、非放射性セシウムを模擬土壌にいったん吸着させ、その後酸
性溶液によって変異電荷に吸着したセシウムの一部を取り除く方法によって、実際の土壌におけ
る放射性セシウムの変異電荷と永久電荷への存在比率を模擬することに成功した。このことによ
り非放射性セシウムを用いたコールド実験でも土壌中の放射性セシウム状態をある程度模擬でき
るようになり、放射性セシウムを用いた実験に入る前に、非放射性セシウムを用いた実験によっ
て条件を絞り込んでから実際の汚染土壌を用いた実験に移ることができるようになった。この手
法で、土壌に吸着したセシウムを効率的に除去するための条件、さらにはその脱離溶液中で効率
的にセシウムを回収するための条件を明らかにした。一般的にはセシウムの吸着剤の吸着能は、
セシウムの脱離に有効であると考えられている酸性溶液や塩溶液中で著しく低下することが分か
っているが、固液比や酸濃度を調整することで、吸着能の低下を最小限に抑えることができた。
さらに、脱離溶液に土壌を分散した状態に強磁性を付与した吸着剤を添加し、セシウムの脱離と
吸着を同時に行うことを試み、その結果、土壌と強磁性吸着剤の共存条件下でも、土壌から 吸着
剤へとセシウムが移行することが確認された。このことは除染プロセスをより簡易にするための
基礎技術として実用的なシステム構築に貢献できると考えられる。
(2)環境政策への貢献
<行政が既に活用した成果>
特に記載すべき事項はない。
<行政が活用することが見込まれる成果>
モーバイルでコンパクトな装置であることを活かし、大阪大学、 福島県飯舘村、川内村にて、
除染・減容化のためのパイロットシステムを構築し、実際の汚染土壌を対象として稼働を行い、
土壌の性質に依存するものの、実用に耐え得る除染と減容化の効果を定量的に確認することがで
きた。このように、恒久的な施設を建設するのではなく、除染が終了すると次の地点に移動でき
5ZB-1204-78
るような除染システムの開発が、迅速で、効率的、経済的な除染が可能になると期待される。こ
のような手法を用いて被ばく線量をさらに低減( 1mSv/年に近づける)することを目指している。
高度化したシステムが完成すれば、地域の安全確保が可能となり、復興支援につながる。さらに
は、福島県に設置される中間貯蔵施設での減容化技術へとも発展させることが可能である。
6.国際共同研究等の状況
特に記載すべき事項はない。
7.研究成果の発表状況
(1)誌上発表
<論文(査読あり)>
1)
S. IGARASHI、 F. MISHIMA、 Y. AKIYAMA、 and S. NISHIJIMA: Physica C、 494、 221–
224 (2013)
“Fundamental study of cesium decontamination from soil by superconducting magnet”
西嶋茂宏:応用物理、 82、 7、 575-578 (2013).
2)
「磁気分離による環境浄化
超電導磁気分離による汚染土壌減容化の試み」
<その他誌上発表(査読なし)>
1)
西嶋茂宏:超電導コミュニケーションズ、 120、 22、 1、 4-6(2013)
「低温・超電導技術は、除染に貢献できるか?-その 2-」
(2)口頭発表(学会等)
1)
西嶋茂宏:第13回全国市町村土壌浄化法連絡協議会
第13回全国大会(2012)
「下水道の放射能汚染の考え方-下水道の役割-」
2)
関谷一輝、吉田有輝、桑原裕紀、五十嵐亨、野村直希、三島史人、秋山庸子、西嶋茂宏:
第11回 磁気力制御・磁場応用 夏の学校(2012)
「磁気分離法を用いた土壌中のセシウム除染に関する研究」
3)
西嶋茂宏、秋山庸子、三島史人:第86回 秋季低温工学・超電導学会(2012)
「磁気分離法を用いた放射性物質の土壌からの除去に関する研究」
4)
S. IGARASHI、 N. NOMURA、 F. MISHIMA、 Y. AKIYAMA、 S. NISHIJMA:(ISS2012) 25th
International Symposium on Superconductivity、 Tokyo、 Japan (2012)
“Fundamental study on cesium decontamination from soil by using superconducting magnet ”
5)
桑原裕紀、関谷一輝、吉田有輝、五十嵐亨、野村直希、三島史人、秋山庸子、原田和生、
平田収正、西嶋茂宏:日本放射線安全管理学会 第11回 学術大会(2012)
「土壌中のセシウムの挙動に関する研究
6)
-その1:セシウムの脱離-」
吉田有輝、桑原裕紀、関谷一輝、五十嵐亨、野村直 希、三島史人、秋山庸子、原田和生、
平田収正、西嶋茂宏:日本放射線安全管理学会 第11回 学術大会(2012)
「土壌中のセシウムの挙動に関する研究
-その2:セシウムの吸着-」
5ZB-1204-79
7)
S. NISHIJIMA、 M. IKE、 S. SODA、 Y. AKIYAMA、 Y. YASAKA、 T. HIGASHI、 The 16 th
SANKEN International Symposium 2013、 The 11th SANKEN Nanotechnology Symposium、
Sustainable Society - After the Nuclear Power Plant Accident (2013)
“Study of volume reduction for cesium contaminated soil”
8)
西嶋茂宏:第10回智の木協会イヴニングトーク(2013)
「東北大震災の爪痕-放射能汚染を考える-」
9)
西嶋茂宏:超伝導送電システム研究会
第7回研究会(2013)
「磁気力制御技術による新展開-資源リサイクル、 MDDS、除染-」
10)
西嶋茂宏:平成25年(創立125周年記念)電気学会全国大会(2013)
「超電導磁気分離を用いた除染の可能性」
11)
野村直希、五十嵐亨、三島史人、秋山庸子、西嶋茂宏:第 87回 2013年度春季低温工学・
超電導学会(2013)
「磁気力制御を用いた土壌の除染に関する研究」
12)
野村直希、三島史人、秋山庸子、西嶋茂宏:第 2回環境放射能除染研究発表会(2013)
「磁気力制御を用いた土壌の除染に関する研究」
13)
西嶋茂宏:第1回電気学会「超電導磁気分離システムを利用した 除染技術」調査専門委員
会除染と磁気分離・超電導技術シンポジウム( 2013)
「超電導を利用した土壌除染の可能性」
14)
惣田訓、池道彦、西嶋茂宏、東利保、舟橋彌典:第 50回下水道研究発表会(2013)
「沈砂洗浄装置を応用したセシウム汚染土壌の減容化装置の基礎開発」
15)
西嶋茂宏:低温工学・超電導学会
東北・北海道支部
第18回超電導・低温若手セミナー
(2013)
「超電導磁石を利用したDDSと除染の研究」
16)
野村直希、桑原裕紀、三島史人、秋山庸子、西嶋茂宏:第 12回 2013年度磁気力制御・磁
場応用夏の学校(2013)
「磁気分離法による汚染土壌の線量低減に向けた研究」
17)
S. NISHIJIMA: The 4th International Forum on Magnetic Force Control 、 Osaka、 JAPAN (2013)
“The superconducting magnetic force control technologies for industrial applications”
18)
N. NOMURA、 F. MISHIMA、 Y. AKIYAMA and S. NISHIJIMA: The 4th International Forum
on Magnetic Force Control、 Osaka、 JAPAN (2013)
“Study on decontamination of contaminated soil by Magnetic separation”
19)
西嶋茂宏:日本技術士会
近畿本部主催講演会(2013)
「磁場を用いた福島汚染土壌の除染に関する研究」
20)
西嶋茂宏:日本リスクマネジャネットワーク主催セミナ-
日本における『環境問題』に
対する取り組み方とは?-「放射能汚染」の現状と今後のあり方-(2013)
「土壌汚染に関する「除染」についての現況」
21) 惣田訓、森本成樹、池道彦、東利保、西嶋茂宏:第 50回環境工学研究フォーラム(2013)
「飯舘村における空気揚土撹拌式洗浄装置を用いたセシウム汚染土壌の減容化の実証試験」
22) 惣田訓、森本成樹、大槻宗司、堀出文男、橋本卓典、池道彦、山下学、東利保、西嶋茂宏:
5ZB-1204-80
第48回日本水環境学会年会(2014)
「福島県における空気揚土撹拌式洗浄装置を用いたセシウム汚染土壌の減容化の実証試験」
23)
S.SODA、 S. MORIMOITO、 M. IKE、 T. HIGASHI、 and S. NISHIJIMA: 3R International
Scientific Conference on Material Cycles and Waste Management (2014 )
“Volume reduction of radiocesium-contaminated soil by air-lift soil washing process: A feasibility
study in Iitate village 2013”
(3)出願特許
特に記載すべき事項はない。
(4)シンポジウム、セミナー等の開催(主催のもの)
1)
第2回除染技術研究会(2012年6月12日、大阪大学吹田キャンパスA1棟、参加者27名)
2)
福島支援のための視察旅行~福島支援のために何ができるのか?~( 2012年11月29、30日、
福島県坂下町、福島大学、福島県南相馬市、参加者 45名)
3)
4)
第3回除染技術研究会(2013年3月19日、大阪大学吹田キャンパス A1棟、参加者33名)
第3回「超電導磁気分離システムを利用した除染技術」調査専門委員会
(2013年3月19日、大阪大学吹田キャンパス A1棟、参加者30名)
5)
第1回電気学会「超電導磁気分離システムを利用した除染技術」調査専門委員会
(2013年6月11日、福島県除染情報プラザ、参加者60名)
(5)マスコミ等への公表・報道等
1)
環境新聞(2012年9月19日)
2)
日刊工業新聞(2012年12月24日)
3)
山陽新聞(2013年1月15日、22頁)
4)
福島民報(2013年3月16日)
5)
日刊工業新聞(2013年3月19日)
6)
日本下水道新聞、沈砂装置を除染に活用
大阪大が実証試験
土壌中セシウムに対応、
(2013年4月10日)
7)
環境新聞、粘土と共にセシウム回収 、(2013年4月3日)
8)
日刊工業新聞、洗浄液・吸着剤使わず除去、(2013年6月3日)
9)
日本下水道新聞、セシウム汚染土壌を下水沈砂洗浄装置で除染へ ~大阪大学大学院・西嶋茂
宏教授のグループ~ 、(2013年9月18日)
10)
ガスレビュー、「超電導磁石と常磁性粘土を応用するセシウム吸着技術」( 2014年2月1
日)
(6)その他
1)
平成24年
第11回2012磁気力制御・磁場応用 夏の学校
優秀ポスター賞(2012年9月)関
谷一輝・吉田有輝
2)
平成24年
日本放射線安全管理学会 第11回 学術大会
優秀プレゼンテーション賞(2012
5ZB-1204-81
年12月)吉田有輝
3) 第50回環境工学研究フォーラム
環境技術・プロジェクト賞(2013年11月)惣田訓、森本成
樹、池道彦、東利保、西嶋茂宏: 飯舘村における空気揚土撹拌式洗浄装置を用いたセシウム
汚染土壌の減容化の実証試験.
5ZB-1204-82
8.引用文献
1)
今中哲二、遠藤暁、菅井益郎、小澤祥司:福島原発事故にともなう飯舘村の放射能汚染調査
報告.科学、81、594-600(2011)
2)
Mettler、 F. A.: International Commission on Radiological Protection、 Radiological protection of
patients in diagnostic and Interventional Radiology、 Nuclear Medicine and Radiotherapy. 93 (2008).
3)
環境省:平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事
故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法 (2011).
4)
環境省:第2回環境回復検討会(2011).http://www.env.go.jp/jishin/rmp/conf/02 -gijiroku.pdf
5)
原子力安全委員会:今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方につ
いて(2011).
6)
環境省、除染情報サイト、 除染実施区域・汚染状況重点調査地域一覧(2012).
7)
文部科学省原子力災害対策本部:放射線量等分布マップ関連研究に関する報告書(第2編)
(2012)
http://radioactivity.mext.go.jp/old/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/5600_201203131000_
report2-1.pdf
8)
保高徹生、 三浦俊彦、 大山将、 張銘、 駒井武:放射性物質の土壌中の深度方向の分布お
よび土壌洗浄法の適用性試験結果について(2011).
http://staff.aist.go.jp/t.yasutaka/Aist-Risk/110927_files/20110927Rad-Depth-washfinal.pdf
9)
農林水産省:農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について(2011).
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2011/siryo37/siryo1.pdf
10) 長沢敏之助:粘土鉱物と生命の起源 、 静岡大学地球科学研究報告、 Vol. 14、 27、 (1988)
11) 白水春雄:粘土鉱物学(新装版)-粘土科学の基礎 ―、p.108(朝倉書店、2011)
12) James I. Drever:The Geochemistry of Natural Waters: Surface and Groundwater Environments、
Prentice Hall、 Vol. 3、 74、 (1997).
13) 山口紀子、 高田裕介、 林健太郎、 石川覚、 倉俣正人、 江口定夫、 吉川省子、 坂口敦、
朝田景、 和穎朗太、 牧野知之、 赤羽幾子、 平舘俊太郎:土壌-植物系における放射性セ
シウムの挙動とその変動要因、 農業技術研究報告書、31、 75-129(2012).
14) Jury、 W. A.、 Horton、 R.: Soil Physics、 Wiley、6、 21、 (2004).
15) Volkov、 A. G.、 Paula、 S.、 Deamer、 D. W.: Two mechanisms of permeation of small neutral
molecules and hydratedions across phospholipid bilayers. Bioelectrochemistry and Bioenergetics、 42、
153-160 (1997).
16) Sposito、 G.、 Skipper、 N. T.、 Sutton、 R.、 Park、 S.、 Soper、 A.K.、 Greathousem J.A.:
Surface geochemistry of the clay minerals. Proceedings of the National Academy of Sciences of the
United States of America、 96、 3358-3364 (1999).
17) Cremers、 A.、 Elsen、 A.、 Depreter、 P.、 Maes、 A.:Quantitative-analysis of radiocesium
retention in soils. Nature、 335、 247-249 (1988).
18) Delvaux、 B.、 Kruyts、 N.、 Cremers、 A.:Rhizospheric mobilization of radiocesium in soils.
Environmental Science & Technology、 34、 1489-1493 (2000).
19) Koning、 A. D.、 Comans、 Rob、 N. J.: Reversibility of radiocaesium sorption on illite. Geochimica
5ZB-1204-83
et Cosmochimica Acta、 68、 2815-2823 (2004).
20) 農業環境成果情報第13集
21) 伊藤健一、宮原英隆、氏家亨、武島俊達、横山信吾、中田弘太郎、永野哲志、佐藤努、八田
珠郎、山田裕久:湿式分級洗浄および天然鉱物等による農地土壌等に含まれる放射性セシウ
ム除去方法の実践的検討. 日本原子力学会和文論文誌、 11、 255-271(2012).
22) 原治彦、佐藤敦政、西木克之:その他物理的手法による放射性セシウム汚染土壌の洗浄技術
齋藤勝裕監修
東日本大震災後の放射性物質汚染対策~放射線の基礎から環境影響評価、除
染技術とその取り組み~
エヌ・ティー・エス pp146-156(2012).
23) 独立行政法人日本原子力研究開発機構福島技術本部:平成 23年度除染技術実証事業(環境省
受託事業)報告書.
( http://www.jaea.go.jp/fukushima/techdemo/h23/techdemo_report.pdf )
24) 建設基礎・地盤設計施工便覧
25) 財団法人下水道技術推進機構:建設技術審査証明(下水道技術)報告書 空気揚砂攪拌式沈砂
洗浄装置
サンドクリーン(2010).
26) 稲垣伸二: ゼオライト化学の新展開 、 豊田中央研究所R&Dレビュー / R&Dレビュー、29(2)、
P.11-22 (1994).
27) 古澤邦夫:ゼータ電位の測定、 ぶんせき、 5. p.247-254(2004)
28) 白水春雄:粘土鉱物学(新装版)-粘土科学の基礎 ―、p.108、朝倉書店(2011).
5ZB-1204-84
Development of a Volume Reduction System Using an Air-lift Mixing Washer for Soil
Contaminated with Radioactive Cesium
Principal Investigator: Shigehiro NISHIJIMA
Institution:
Osaka University
2-1 Yamadaoka, Suita-City, Osaka 565-0871、
JAPAN
Tel: +81-6-6879-7896 / Fax: +81-6-6879-7889
E-mail: [email protected]
[Abstract]
Key Words: Soil washing、 Volume reduction、 Radiocesium、 Magnetic separation、
Coagulation、 Dewatering、 Cyclone classifier
An
air-lift
mixing
washer
was
developed
for
volume
reduction
of
radiocesium-contaminated soils. The 100-liter washer is sufficiently small to be
transported by automobile. An ideal means of volume reduction of the contaminated soil
is to remove fine particles from the soil by mechanical washing with water because clay
retains most of the radiocesium. The fine soil particles suspended in the washwater can be
collected using flocculants or magnetic separation for disposal in prepared landfill sites.
The remaining coarse soil particles with low radioactivity can be returned to the original
site. Three sub-researches were carried out for this study.
The first research was elucidation of efficient conditions for separating clay and
cesium from the contaminated soil. A 10-liter air-lift washing washer was preliminary
used for demonstrating separation of fine particles from the contaminated soils in Iitate
and Kawauchi villages in Fukushima prefecture. The principal of volume reduction of the
contaminated soil was proved but radiocesium was partly adsorbed on the course
particles.
The second research was development of the air-lift washer for volume reduction of
5ZB-1204-85
radiocesium-contaminated soils. A 100-liter washer was developed for demonstration
targeting the contaminated soils sampled from parking and bamboo bush areas in Iitate
village. The contaminated soil of 10-30 kg-wet was separated effectively by the 30-min
washing process into coarse particles with low radioactivity and fine particles with high
radioactivity. Subsequently、 the washer was moved to Kawauchi village for washing the
contaminated soils sampled from a farm load and a load gutter. Recovery of the fine
particles with high radiocesium concentrations was demonstrated by soil washing 、
cyclone classifier、 coagulation、 and dewatering processes in series.
The third research was development of recovering methods of cesium from the aqueous
phase. Potassium iodide and nitric acid eluted cesium on clay into the aqueous phase.
Subsequently、 magnetized Prussian blue and magnetized zeolite adsorbed cesium in the
aqueous phase. Finally、 the magnetic Archimedes method showed a high recovery of the
paramagnetic clay with high radioactivity.
These results demonstrated the soil-characteristic-dependency of volume reduction and
the remediation efficiencies of the pilot process developed in this study for the
radiocesium-contaminated soils.
Fly UP