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砂の透水係数の測定実験について *
砂の透水係数の測定実験について* 福 尾 義 昭 榊 (地学教室) まえがき 地下水は貴重な淡水資源である.。山地で降った雨が斜面に浸みこみ、地下を流れる間に、岩石 中の化学成分を溶かし、土の浄化作用も受けて、清澄で滋味は地下水ができる。その水温も安定 し、夏は冷たく冬は暖く感じる。私達の毎日の生活にとって、これ種ありがたい水ははい。しか し、地下水のもとは、斜面に浸みこんだ降水であり、量に限りのあることは云うまでもない。そ の上、山地から海まで流下する速さがきわめて遅い。この遅さを知ることが、地下水を利用する 上で、非常に大切なことなのである。地球上の水の総量を示すと、表一1のとおりである。海水 が全体のうち97.5%も占めるのは当然と思 表一1、堆球上の水の体積 われるが、淡水に限った場合、氷の1.75%に (極板勇著’水の循環{共立出版,1972,17頁から) ついで、地下水がO.72%を占め、淡水湖や川 よりもはるかに多いのである。これは意外と 思われる人も多いであろう。意外と思われる 背景には、河川は地表にあって我々の目に直 接映ることや、さらには、河川水の流速が早 く、とうとうと流れる大河の流量などの印象 が強いためではないだろうか。 現在都市では、生活用水のほとんどが水道 水であるが、地方では依然として地下水が利 体積(㎞) 〔塩水〕 海 洋 1,349,92軌000 を除けば、地下水が河道へ浸出したもの である。近年、わが国の産業は大きく発展し、 国民の生活水準も著しく向上した。この発展 向上にともなって、淡水の使用量も非常に増 97.5 94000 塩水湖 0.007 〔淡水〕 氷 24,230,000 淡水湖 0.009 0.0001 1,200 25.000 土壌水 地下水{簑篶 1.75 125,000 河 川 用されている。また、水道水といってもその もとは河川水であり、この河川水も、洪水時 百分率協 4,500,000 0.002 }α・2 5,600,O00 〔水蒸気〕 大気中の水 0.001 12,600 〔生物〕 動 物 樟物 600 600 }α・0・1 1,384,518,000 100 計 大している。淡水使用量が生活水準のバロメ ニダ_と云われるゆえんである。生活水準の向上はよろこ一はしいことであるが、安易に淡水を得 総 ようとして、地下水の無理な揚水をおこない、その結果として、処々で地盤沈下や地下水の塩水 化(地下水中に海水が浸入する現象)がおこっている.ことは周知のことである。 ‡Exper㎞ental Exercise in the Measurement of Pemeabi1ity of Soil Sand. 榊Yoshiaki Fukuo ①ゆartment of Geoscience,Nara University of Education,Nara) 一19一 地学という教科の特徴の一つは、他の科学の考え方や方法を活用して自然界の複雑な現象を分 析・総合し、われわれの生活基盤としての地球の姿を求めようとすることである。人類が生活し ている地域の大部分は沖積平野であり、土と地下水に恵まれた地域である。というよりも、土が 肥沃で地下水が豊富な所で、始めて私達の生活が安定できる。晴天が続き断水騒ぎをおこしてい るのを聞くと、いつも苦い思いにさせられる。残念なことに、地学の教科書をみると、この大事 な土や地下水についての記述はまことにお粗末なものである。淡水資源の重要姓を考え、地下水 の存在や水理に充分な理解をもつように、もっと教科内容をもりこむべきだと考える。この論文 は、地下水の流動に基本的な役割を果たす透水係数の測定実験を教材として実施していくことを 提案し、この実験測定を通して、地下水の循環速度・循環量の常識を養えるようにしたい。 1.実噴装置の摂要 図一1は、砂の透水係数を測定する装置を示したもので、高等学校地学教科で実施してほしい 実験の装置である。 ヘッドタンク まず、スタンドの上に、オバーフローバ 図一1 から一一) イフのついたシリンダーを置き、これに水 「 注水 をみたす。つぎに、同じくオバーブローパ イプのついたガラス管の底に金網を張り、 その上に透水係数をはかりたい砂を入れて ; O オーバーフ0一バイブ 砂柱を作る。今までの経験によると、ガラ ス管の内径は約2㎝、砂柱の高さは10∼15 C皿程度が適当のようである。この管を、図 ガ にみられるように、シリンダーの中に立て S ラ 1 ス 管 る。この際、砂粒間に存在する空気をでき ヘッドタンクベ メ るだけ追い出すように、徐々にガラス管を h.h■ スタンド 5 ス シ 8 リ 沈めるように注意する。ヘッドタンクの水 ン 砂 シリ 二上 をビニール管で導き、注水管を通してガラ ス管の中へ注ぐ。しばらくすると、余分の 山 水はオバーフ1コーパイプから流れ出て、ガ ラス管中の水位は一定に保たれる。と同時 に、カ’ラス管中の水は、砂柱を通り抜けて シリンター中に流入するので、その量だけシリンダーのオバーブローパイプから外へ水があふれ 出る。このあふれ出る水の流量は間もなく一定にはるので、この定流量を適当な容積のメスシリ ンダーで測定する。 カラス管内の断面積を∫、砂柱の長さをノ、金網からガラス管内水面およびシリンダー内水面 までの高さを、それぞれ危1、机、そしてソリシターのオバーブローパイプから流れ出る定流量を Qで表わそう。“≡◎/8はガラス管中の水柱部分の断面平均流速に相当する。砂柱部分では、 一20一 砂粒が存在するために、水が通過できる断面積は∫より小さい。この断面積を8’で表わすと、 〃…Q/∫’は砂柱部分の断面平均流速に相当する。一定流量Qの状態であるから、 Q=〃∫=〃∫’ (1) ガラス管内水面とシリンダー内水面との差を免で表わすと、 ゐ=(ゐ1+4)一仏=(〃r〃ヨ)十4 (2〕 ガラス管を保持する高さを等間隔、たとへば1㎝づつふやしてゐを大きくし、その時の流量Qを 測定して、横軸に力〃を、縦軸にm…り/∫をとって、実験結果をグラフ用紙に固くと、すぐあ とで述べる操作法を守って実験すれば、図一2にみられるように、原点を通る直線が得られる。 したがって、 々 m=K一 ノ (K;比例常数) 13〕 比例常数Kを、この砂の透水係数(hydrau1ic conductivity)と呼んでいる。 単位は(3〕式からわかるように、速度の単位 図一2 であり、通常、水の場合にはlC皿/S㏄が用い られている一3〕式は1856年、Darcy(フラン ス人)が始めて発表したので、“Darcyの Q8 (Cm応eC) ■ 粒径α84−1,OOrnm 法則”と呼ばれている。種々の粒径の砂に ついて、同じ乃/ノにおいては、Kが大きい ▲ 〃 O.59一α7. 〃 ● 〃 α35一α42 〃 程m、したがってQが大きくなる。Kが水 のとおしやすさを示すゆえんである。 ♀ コ 2 実験装置の操作法とその注意 く 一α4 現実の土は、表一2でみられるように、 粒径が1μ以下のコロイドから、2皿以上 ▲ の礫など種々の粒径の粒を含んでいるので、 実際に地下の帯水層を流れている地下水流 量を調べる場合には、複雑な粒径分布をもっ た土についても透水係数が測定できるよう な高級な装置が必要であり、図一1に示し た装置では到底はかれない。この装置は、 αO ψ二.‘一 O α5 1.O h/」 あくまでも教材としての実験装置である。 したがって、この実験では、粒径の範囲が限られた砂についてしか実施できないことを始めにこ とわっておく。 i)表一3に掲げたJ I S規格のフルイのうち、フルイ目の開き0.25mから、1.00㎜までの各 フルイを用意し、運動場などから採取した土をこれでよくふるい、各開き目の砂を必要量だけ作 る。 一21一 土の粒径区分とその名称 表一2 粒径(㎜) 2 国際土境学会 O.02 0.2 O.25 日本農学会 課一 粗 砂 繰 粗 砂 砂1 細 砂 粗 操 0.002 O.05 細砂1微砂1 粘 細砂. 1O.510.1 合衆国農業局 操 土 沈泥1 ミ極粗砂1粗砂ミ中砂細砂1極細砂j 土 O.OO1 O.005 日本工業規格 粘 シルト 0.01 粘 土1・ロイド シルト 粘 土 (山崎不二夫著^土壌物理’、養賢堂、1971,から引用) 表一3 フルイー覧表(J I S規格) 一日本工業規格 ア 呼び方 101.6 88.9 フルイ目の開き(㎜) m lO1.6 〃 88.9 76.2 〃 76.2 〃 63,5 50.8 〃 50.8 44.4 〃 44.4 38.1 〃 38.1 31.7 〃 31.7 22.2 19.1 25.4 ’’ 22.2 〃 19.1 ’’ 15.9 〃 15.9 12.7 〃 12.7 11,1 9.52 11.1 ’’ 9.52 〃 7.93 〃 7.93 6.73 〃 6.73 フルイの大きさは a)200m内径×60㎜深さ b)150 〃 ×60 〃 c) 75 〃 ×20 〃 の3通りがある。 呼び方 5660 4760 4000 3360 2830 2380 2000 1680 1410 1190 1OOO 840 710 590 500 420 350 297 250 210 177 149 125 105 88 74 62 53 44 ’ ’ 37 32 注) 8801 Z 細 63.5 25.4 JIS 目 ラ 目 フルイ目の開き(㎜) μ 5.66 〃 4.76 ’7 4.00 ’’ 3.36 〃 2,83 〃 2.38 〃 2.00 〃 1.68 〃 1.41 〃 1.19 〃 1.00 〃 O.84 〃 0.71 〃 O.59 〃 0.50 ’’ O.42 〃 0.35 〃 0.297 〃 0.250 〃 〃 〃 ’’ 〃 0.210 0.177 O.149 0.125 O.l05 0,088 0.074 0.062 0.053 0.044 0.037 0.032 フルイには、J I S由格のほかに、アメリカ標準規格・タイラー規格の ものがある。 一22一 ’ ^ ^ ^ ii)各開き目ごとに、砂を米を洗うようによく水で洗う。14ビーカーに砂200㏄程を入れ て洗うと手際がよさそうである。洗い始めは、砂粒についている粘土やシルトのために水が濁る が、このにごりがなくなるまで充分に洗う。また、砂より比重の小さい粒は水を流す時に浮きや すく流れ出ようとするので、これを利用して、簡単に流れ出るものは流し去った方がよい。 iii)こうしてできたきれいな砂をガラス管中に入れる。水洗いの時に砂粒は充分水にぬらされ たので、砂柱をシリンダー中へ浸す時、水とのなじみがよく、砂粒間の空気は程よく抜けるよう である。それでも、砂粒間の空間は複雑な形をしているので、完全に空気が抜けることはめった にない。空気を完全に抜く方法はつぎに述べるので、徐々にガラス管をシリンダー中に入れ、所 定の水位差んにしたあと、スタンドのハサミでしっかりガラス管を図一1のようにとめる。 iV)注水管をガラス管に入れないで、はずしておく。そしてガラス管の頭部に、図一3のよう に、ゴム栓をする。ガラス管のオバーフローバ 図一3 イフにつけているビニール管の端を□にくわえ、 ゴム栓 静かに吸うとガラス管内の空気圧が下がるので、 シリンダー中の水が砂柱を通ってガラス管の中 へ流れこもうとする。適当に吸うとつめた砂が もち上りばらぱらになる。急に強く吸うと、オ ノ バーブローパイプからビニール管の方まで砂が 流れこみ、口の中へはいることもあるので、充 分注意してほしい。砂がぱらはらになってもち 口で吸う n ノ noo 8 気泡 ビニ■ル管 … ビニール管 上った時、とじこめられていた空気は解放され て上の方へ逃げる。吸うのを止めると砂はもち まき上った砂 ろん水中を落下して金網上にたまる。砂をこの ようにまき上らせるため、砂柱上面からオバー ブローパイプ取り付け位置までの長さとして20 ㎝種とっておきたい。また、砂柱があまり長い と、吸いこみによってまき上らせることがむず かしいので、砂柱の長さは10∼ユ5㎝程が適当の 一 ようである。一回の砂のまき上らせでは、閉じ 金網 こめられた空気を除去できないようであるから、 2ないし3回この吸い上げ操作をして空気を完 全に除いてほしい。 V)砂のまき上がりから金網の上へ自由落下する際、もし砂の中に粘土やシルトがまじってい ると、この粘土やシルトの沈降速度は小さいので、最後に砂柱上面に沈積して薄い層を作る。す ると、この薄い層では水が通りにくいので、薄層だけで透水係数の値が定まってしまうようはこ ともあり魯るので、これを防ぐために、ii)で述べたように、充分水洗いをしたわけである。し かし、実際には、いくらかの厚みでいつもこの薄層ができる。それで、直径4∼5㎜長さ40㎝程 一23一 の細い棒の先に、直径1㎝程のアルミ板をつけたスプン状のものを用意して、薄層をすべて取り 除く。 Vi)水中の落下で金網の上に沈積した砂柱では、その砂粒のつまり方はゆるく、自然状態での 砂粒のつまり方と相当ちがう。つまり方、すなわち、間隙体積の大小は、水の透水性に関係する ことは明白であるから、同じ粒径の砂であっても、砂の充填度を揃えて透水係数を測定しなけれ ば意味がない。充填度を一定にするために、つぎのような操作をおこなう。ゴム栓をしたまま、 ビニール管を通して要領よく呼吸の振動を砂柱に与えると、この振動によって、砂柱は2∼3㎝ 程収縮する。適当な振動数で砂に振動を与え砂層を締め固める方法はwater vibration工法と呼 ばれ、大規模な工事でも使用されている。ここでは呼吸を利用して振動を与え、砂柱を締め固め るわけである。砂柱が締った時、マジックインキを用いて、砂柱上面の位置をガラス管の外面に 細い線で印し、以後、砂柱のまき上げ操作をした後、いつもこの線の印まで呼吸振動でしめかた めれば、常に同一充填度の砂柱をガラス管の中に作ることができる。 Vii)ゴム栓をとりはずし、注水管を入れて、ヘッドタンクから水を流し、ガラス管内水面の高 さ冷1を一定に保った時の定常流量Qを測定する。測定値の再現性をたしかめるため、3回ないし 4回。を測定し、それらの値の平均値を採用する。というのは、しばらく水を流していると砂柱に また気体がたまるからである。これはおそらく水道水中に存在する微粒の気体や溶存の気体が砂 粒の間にとらえられたためであろう。気体が捕捉されるメカニズムはよくわからないが、砂柱に 気体がたまることは事実である。ρがはっきりと減少を示した時は、気体が必らずたまっている。 ρの測定値がぱらつく原因はこの気体の貯留であるから、このような場合には、i”)に述べた方 法で空気を抜き、w)に述べた方法で充填度を揃えて、0を再測定しなければはらはい。 以上、i)州ii)までの操作を確実に実行すれば、平均測定値の±5%位のばらつきで、再現 性のよい実験をすることができる。 3.考 察 i)Darcy則の導出 13〕式は、砂粒の間に存在する水の全体について、力の釣合いを考えることによって導くことが できる。水の密度をρ、重力加速度をgとすると、砂柱の上面にはたらく水圧はρg仏、砂柱の 下面にはたらく水圧はρ助。であり、砂柱断面中で水が通過できる断面積を8’とすると、差し 引き水を下へ押そうとする全圧力の差はρg(加1一仏)∫’となる。砂粒間の水が占める体積をγ とすると、これにはたらく重力はρ〃であり、結局、ρg(んr仏)、3’十ρgγが水をガラス管か らシリンダー中へ流そうとする力になる。水が砂粒間を流れると、両者間にマサツカがはたらく。 このマサツカ戸が駆動力ρξ(ゐr仏)8’十ρ8γと釣合った時、水は一定流速で流れるであろう。 マサツカは、砂柱が長くなれぱそれに比例して大きくはるであろう。また、砂柱断面積∫が大き くなれば、水が砂柱を通り抜ける道筋の本数が多くなり、この本数に比例してマサツカは大きく なるであろう。しかし、この砂柱中の水路は複雑に曲りくねっているに違いない。本数を定める のに、どうすれぱよいのであろうか。本数の問題だけではない。8’の大きさもどのように定めれ 一24一 ぱよいのであろうか。このような行きづまりをモデル化で解決しようとするいくつかの試みがあ り、簡単なモデルが毛細管モデルである。これは水路に関する量を取り扱う場合に、等価な毛細 管の集合として置きかえるモデルで、その置きかえ方はつぎのとおりである。 砂柱に、直径φ、d。、4、・一・…dnの毛細管がそれぞれM1,M呈、拙、・・…・;M”本存在し、 管の長さはすべて砂柱の長さ4であると考える。すると、毛細管中の全体積は n π 2一物w! ’=14 と表わせるが、これが前述の砂粒間の水の体積γに相当する。ところで、この体 積γは次のようにして実測することができる。ピクノメーターを用いて砂の比重を求め、この比 重で砂柱の砂の重量を割れば、砂粒だけの全体積が得られるので、砂を充填させている空間の体 積∫!から今求めた砂粒だけの体積を引けばよい。γを84で割った比を間隙率(porosity)と 呼んでいる。間隙率が大きい時には、砂粒のつまり方がゆるいということであり、前に述べた充 填度の量的表現が間隙率であり、2. ”i)の実験操作は間隙率を一定にする操作である。間隙率 をβで表わすと、 mπ n π γ一β〃一トペ〃! .∴β卜2刊wづ ’亡14 一=14 第二式の右辺は、毛細管全体の断面積であり、丁度、砂柱断面で水が通過できる面積8’に対応 する。水と砂との間のマサツカ戸は、毛細管内の全表面積λに比例するであろう。簡単のため、 砂粒の径が単一で、したがって置きかえる毛細管の直径も単一往6であるとすれば、 π 4 ∫’一β∫一一〃, 4 6 λ一πd〃一一8’4 (45) 毛細管中の水の速度が小さい場合には、Hagen−Poiseuilleの法則からわかるように、マサツカ は流速に比例する。この流速は、ω式でみられるように、砂で表わした。そのほか、水の粘性係 数ηにも比例することを考慮すると、マサツカ戸はつぎのように表わされる。 卜舳イ1古市一(芋)1・・1(∫:比例係数) (・〕 流量Qが一定の時には、力が釣合って 1・(い・)∫1・1・γ一・・1・(lr・呈)β・・1鮒一(芋)1∫・・ ・仁 i舌)㌣ 17〕式を13〕式と比較して 17〕 κ雲挫冶 ここに尾…土 η 4∫ を得る。后の次元を求めると興味深い。后は面積の次元をもち、q真の透水係数’ (intrinSiC permeability)と呼ばれている。一透水係数κは、間隙体積の大きさ、すなわちβに比例し、流れ 一25一 る流体の粘性係数ηに逆比例するだろうことはすぐ了解できる。ρgがんの表現中に現われるの は、水圧や重力を水頭に換算したためで、同じ水頭でも、たとへぱ月面では水圧や重力は小さく なり、結局Kの値はそれだけ小さくなるであろう。このほかに、間隙空間の複雑さ、たとえば、 通路がふくらんだりくびれたりしている程度、くねくねと曲っている程度、によってもκの値 は変化するであろう。これらの効果が間隙空間の透水性を支配する本質とも考えられ、ひっくる めて后で表わされ、その次元が面積L2で与えられるということである。尾が電算の透水係数’と 呼ばれる理由である。 ii)Darcy則と類似の物理法則 Darcy則と全く同じ形をもった式として、熱伝導に関するFourier則を思いつく。断面積∫を もった導体中を流れる熱流量0の密度ψ≡◎/∫は温度勾配τ/∼に比例する 0 τ ∫ 4 g≡一=κ一 (丘:比例常数) という法則で、比例常数κは熱伝導率themal conductivityと呼ばれる。同じ形をもった式と して、電流に関するOhm則も思いつく。断面積∫長さ∼をもった比抵抗7の導線の両端に電位 差1!を与えると、流れる電流∫は γ R ∼ . ∫ 1γ 灰…7一 … ’…一=■一 8 ∫ 74 ∫=一, ここに ’は電流密度と呼ばれ、κ…1/7は電気伝導度e1ectrical cOnductivityと呼ばれる。Darcy則 中の比例常数Kがhydraulic cond㏄tivityと呼ばれる理由も了解いただけると思う。 地下水流における水頭差が、熱伝導における温度差・電流における電位差に、それぞれ対応す る。現実の複雑な流れを示す地下水流の水頭分布、あるいは、河川や貯水池の堤体中の浸透水流 の自由水面の形を求めるのに、電位分布に置きかえて模型実験から求めようとする根拠もこのた めである。 ところで、17〕式は、力の釣合いを考えて得た式であった。したがって、地下水の加速度が存在 する場合に、厳密に適用できる式ではない。しかし、地下水流ではマサツ係数が大きいので、駆 動力が変化し、すこしでも流速が増すと、間もなくマサツカは駆動力と釣合って、また定常運動 となる。地下水の流れは、外力の変化に応じて刻々準定常的に変化していく流れとして充分正確 に取り扱うことができる。いいかえれば、地下水の慣性を無視してその運動を取り扱えるという ことである。このような背景を理解すると、Darcy則がFourier則やOhm則と型式が全く一 致する理由もうなづける。熱流の取り扱いにおいて、熱流は慣性のないある物質の流れと考えて いるし、電流の取り扱いにおいては、電子の質量はきわめて小さく、これを無視しているからで ある。地下水流と熱流あるいは電流との類似性を知ることは、地下水流の理解に非常に役立つこ とと思われる。 iii)地下水流速の値の評価 ”/4=1における”の値は透水係数の値に一致するから、図一2でみられるようは直線が得 られると、これからすぐ透水係数を知ることができる。表一4に、自然に存在する砂の透水係数 一26一 のおおよその値を示した。この表と比較すると、 図一2中の砂の透水係数の値は大きいようである。 これは、前に述べたように、ガラス管中の砂柱の 間隙率βが自然状態で得られる間隙率より大きい ためと思われる。このことは充分心得えてほしい。 それでも、地下水の流速がいかに小さいものであ るかは、つぎのようによく理解できる。 沖積平野の下流域では、地下水の水頭勾配は、 水平距離1㎞に対して、1∼5m程度である。こ こでは大きい場合をとって、”〃=O.005と置く ことにしよう。そして、粒径1㎜程の砂の層があ り、この砂層の透水係数が、図一2で与えられる 表一4 蓬水係数のおおよその大きさ 粒径区分 透水係数 (㎝/SeC) 未風化の粘土 101 10■一 層化した粘土 10I。 砂・シルト・粘土の混合物 1015 シルト 10■’ 極微砂 10Iヨ きれいな細砂 1012 10−1 きれいな砂と礫の混合物 1 きれいは礫 10 値0.7c皿/secであると仮定しよう。地下水流速〃 はκ(ん/4)=O,7×0,005c111ノ§ec≒13m/aayとな1 る。実際にはもっと小さい流速であって、1日に1OO㎝も流れる地下水はめったに存在しない。 これに対して、河川水の流速は渇水期でも1秒間に1m程の値をもっている。地下水の流れがい かに遅いものであるかがよくわかる。ところで、このきわめて遅い流速が、地下水の有用な性質 をつくり出しているということを忘れてはならない。遅いがゆえに、水温は地温と一致して夏は 冷たく冬は暖く感じるし、適当にミネラルが溶けておいしい清涼水になるわけである。 あとがき 砂の透水係数を測定する装置を紹介し、この実験を通して習得できる二、三の大事な事柄を考 察として述べた。以下に、実験の説明の不充分な点を補いながら、透水係数の測定の意義を述べ て、むすびたい。 図一2で、力/∼の値を大きくして、2とか3にすると、その時の流量0は、原点を通る直線か ら下の方へははれて、比例するように大きくならない。これは、流速〃が大きくなるとマサッカ が流速に比例しなくなるからである。そして、当然のことであるが、この大きい(”〃)の値 の領域では、ua「Cy則が成立しなくなる。強力なポンプを使って無理な揚水を続けると、流速が 大きくなって井戸の近くの砂が動き出し、ついには、井戸の中やポンプの中へ砂が流入して、井 戸がこわれてしまう。と同時に、井戸のまわりの地下水頭が異常に低下する。この低下域が広く なると、地表の水が下方へ浸透しやすくなって、地下水が汚染されるようになる。無理な揚水で 引きおこされる困った現象の一つである。砂層の透水係数をよく心得て、Darcy貝1」が成立しなく なるような揚水は極力さけはければならない。 毛細管モデルをはじめとして、透水係数を純理論的に得ようとする研究はさかんであるが、ま だ満足な説明が得られていない。現在のところ、透水係数を知るためには、実際に測定して求め る以外に方法はなさそうである。この意味で、透水係数の正確な測定は、地下水の連動や利用を 一27一 理解する上で、基本的に重要な作業なのである。そして、これは地下水の問題に限ったことでは ない。一般に、粒が集合してできている物体を粒状体と呼んでいるが、この粒状体中の流体の運 動を論ずる際には、いつもその透水係数に相当する量が基本的に必要となる。触媒粒をつめた反 応塔中の薬液の流れ、吸揮剤をつめた沖管中の空気の流れなど、人工的に作られた粒状体中の流 体運動は数多く存在する。これらの流れの流量を定め、もっとも効率のよい器械を設計するため には、やはり透水係数(hydraulic con此。tivity)を前もって知っておかなければならない。高 等学校地学の教科で、透水係数の測定実験をとりあげてほしい理由の一つである。図一1に示し た実験装置Iは、製作上の経費からみても、高校生の能力から考えても、決して無理な実験装置で はない。この教材実験の実現を深く希望する次第である。 引 用 文 耐 1.櫃根 勇;水の循環一水文学講座3一、共立出版、1973, 2.山崎不二夫;土壌物理、養賢堂、1971. 3.八幡敏雄;土壌の物理、東京大学出版会、1975. 4.山本荘毅・橿根勇;最新地下水学、山海堂、1977. 5.Davis,S.N.and R J.M.DeWiest;Hydrogeolo酊,John Wiley&Sons,Inc.,1966. 一28一