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数学基礎 e-Learning におけるオンラインレポートの相互評価の取り組み
数学基礎 e-Learning におけるオンラインレポートの相互評価の取り組み 研究発表者:亀田 真澄 (山口東京理科大学・一般基礎) 共同発表者:宇田川 暢 (山口県立大学・情報化推進室) 連 絡 先:〒756-0884 山口県山陽小野田市大学通 1-1-1 TEL:0836-88-3500 , [email protected] 1.はじめに 満たすシステムであった。このシステムによる教育的成 ○問題の所在: 大学初年次の微分積分学の数学レポート 果は論文誌 [2] で発表した。しかし学習者の数学レポー において,正解に偏った価値観を持ち,記載内容が一方 トの質に関しては従前どおりであると判断した。 的かつ乱雑であることが,数的思考力の向上を妨げてい <状況> 本学入学生にはノート PC を所持するように指 ると推測した。 導している。さらに図 1 は,平成 26 年度入学生のモバイ ○教育改善の目的・目標: 学生が所持するスマホ,ICT ルケータイ(スマホ)の所持状況を集計した結果である。 と LMS を駆使して,数学レポートにおける問題・定理・ 計算・答えに対して対等な価値観を持たせ,再学習可能 な書式に整えられる能力を,数学レポートの相互評価を 活用して,内省的向上心とともに持たるようにした。 ○本発表と学部学科などの教育目標: 微分積分学を理解 し,問題の計算能力を持つ教育目標を達成する一つの手 段として,手書きの数学レポートからデジタルレポート 図 1 モバイルケータイの所持状況(n =146) この状況を踏まえて,先の数学レポートの質向上に (e-Report)に変換作成し,さらに LMS における相互 向けた次の学習活動を構築した。 評価の機能を活用したことで,学習者の数学レポートの <導入後> 次の手順に従って e-Report を提出かつ相互 質的向上を検証した。 評価を行う学習活動を構築する。 ○科目概要: 実践した「微分積分学及び演習」科目は 1 (初回手順) 専用書式のレポート用紙を印刷し,学習者 年前期・必修基礎科目・3 単位で開講,対面授業を 22 回, は対面授業で学習した数学関連問題に対する解答を手書 共通問題の定期試験を 2 回実施,3 学科を 5 クラスに分 きでまとめ上げる。(手順 2) スキャン PDF 作成アプリ けた上位クラス(受講 42 名)を担当した。担当クラス向 Cam Scanner [4] を利用して,学習者はスマホ・カメラ けの e-Learning 専用サイトを提供した。 で手書きレポートをスキャンする。(手順 3) スマホ操作 で,取り込んだ電子データから PDF 形式の e-Report 2.教育改善の内容と方法 をクラウドストレージシステム Dropbox [5]に保存する。 <導入前> 対面授業での学習内容に関連する課題を数 ( 手順 4) スマホの Web ブラウザーアプリ Puffin 題課し、次授業で模範解答を示すことで自己採点を行う。 Browser [6] を利用して,Dropbox サイトから専用サイ 受講者レポートは 1 回限りの解答機会であり、採点後の トに e-Report をアップロードする。(手順 5) 教師は見 レポートは回収されて評価者の所持に留まった。 本の e-Report を準備する。(手順 6) 学習者は Moodle 第一改善策として Learning Management System のフィードバック機能を利用して, 全ての e-Report を 5 `Moodle’ で運用した Web サイト(認証による閉鎖型社 段階で相互評価を行う。このとき,教師見本はレベル 4, 会ネットワーク)を立ち上げ,数学オンラインテスト評 未提出はレベル 0 と査定する。(手順 7) 教師は全評価点 価システム System for Teaching and Assessment using の分散値を精査して,本質的な評価点だけを残して提出 a Computer algebra Kernel (STACK), 数式処理システ された e-Report の最終評点を決定する。(手順 8) 学習 ム Maxima 及び組版システム TeX を駆使したオンラ 者は専用サイトで自己 e-Report の最終評点を確認する。 インテスト(e-Test)に特化した e-Learning 環境を構築 (最終手順) 学習者は自己 e-Report に対する最終評価点 した([1][3])。 と他者 e-Report の有益な解答内容を認識して,学習成果 この e-Test の特徴は, 「数学的な美的数式表現」 「数的 物の振り返りを行うとともに,内省を促すように次回の 思考力を問う論理性出題」 「自動採点による即時成果物共 e-Report 作成に向けた準備と次の微分積分学の学習内 有」 「反復受験可能」 「いつでもどこからでも受験可能」を 容に対して予習を行う。 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成27年度 ICT利用による教育改善研究発表会 た。この手作業を自動化させるシステムを考えたい。 3.教育実践による改善効果とその確認 本授業は,4学期制の第 2 学期において,毎週月曜・ 水曜・木曜の 10 時 40 分から 12 時 10 分に対面授業 が 22 回実施された。 図 2 は専用サイトへの曜日別時間帯別アクセス状況 を集計した積み上げ面グラフである。アクセス総件数 は 70.0 千件(平均 1.6 千件/受講者) ,ピーク時間帯 は総数 12.6 千件の 10 時間帯,ピーク曜日は総数 19.5 千件の水曜であることが分かる。また,6.1 千件の 22 時間帯を含む 21~23 時間帯において教室外での学習 が行われているアクセスピークが存在している。 図 4 スマホ所持学生の e-Report の変遷 (左:初回,右:最終回) 図 2 曜日別時間帯別アクセス状況 図 3 は e-Report で相互評価された課題テーマ別の 評点状況を示した箱ひげ図である。6 回の課題テーマ で,提出者が平均 30 人(71%)であるので,学習機会 が平均 30 回増加していることを示している。なお, 参加人数 36 人(86%) ,評点の平均 30 点であった。 図 5 スマホ未所持学生と教師見本の e-Report (左:Math エディター作品,右:教師手書き見本) 5.参考文献 (2015 年 7 月 14 日参照) [1] 亀田真澄,宇田川暢: ‘Moodle, TeX, STACK によ る数学の e-Learning の組み込みによる融合型授 業の実践紹介’, Proceedings of Moodle Moot JAPAN, 図 3 課題テーマ別評点状況 図 4 はスマホ所持者が再利用可能な適切な解答内容 に向上されていることが認識できる e-Report である。 図 5 左はスマホ未所持者の e-Report であるが,MS Word の数式エディターを用いて仕上げている。図 5 右は教師見本である。 pp.22-27, 2013 [2] 亀田真澄,宇田川暢: ‘大学の数学教育に対する主 体的な学びとなる学修環境作り’, 論文誌 ICT 活用 教育方法研究, 第 16 巻第 1 号, pp.36-41, 2013 [3] 亀田真澄,宇田川暢: ‘大学教養講義である「微分 積分学」の融合型授業に対応した e-Learning の実 践例’, 東京理科大学紀要 (教養編) , 第46 号, pp.203- ○結果: 数学 e-Report では,質的な向上を認識できる 217, 2014 [4] Cam Scanner: https://www.camscanner.com/ 学習成果を出している。またスマホ所持状況に応じて適 [5] Dropbox: https://www.dropbox.com/ja/ 切なツールを用いて高品質な e-Report を作成している [6] Puffin Browser: http://www.puffinbrowser.com/ 4.結果と考察 ことも認識できる。特筆すべきことは数学レポートが常 時学習者の手元に存在していることである。 ○課題: この取り組みでは e-Report の PDF ポートフ ォリオ化と評価点の集計の両作業が教師の手作業であっ 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成27年度 ICT利用による教育改善研究発表会