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第5回 池田真治 人文棟・第3講義室
西洋思想史 第5回 池田真治 人文棟・第3講義室 1 第五回 デ カ ル ト、精神の座 2 デカルトの業績 • • • • • • 『精神指導の規則』(1619-28?) :方法論の萌芽。 『世界論』(1633) :自然学、宇宙論。 『方法序説および三試論』(1637):方法と応用。 『省察』(1641) : 方法的懐疑、 コギト、認識論。 『哲学の原理』(1644) :体系的哲学。 「人間論」(1648) :自動機械としての身体。「精神の 座」としての松果腺。 • 『情念論』(1649):心身合一。生理学的考察。 3 「人間論」 • デカルトは人間論で、解剖学的見地か ら、「機械としての身体」を論じる。 • デカルトが『人間論』で「機械」とみ なしているものとは? • 呼吸器・循環器・神経系・筋肉等を持 つ運動体としての身体。 4 「人間論」 • デカルトは人間論で、解剖学的見地か ら、「機械としての身体」を論じる。 • デカルトが『人間論』で「機械」とみ なしているものとは? • 呼吸器・循環器・神経系・筋肉等を持 つ運動体としての身体。 5 「人間論」 • デカルトは人間論で、解剖学的見地か ら、「機械としての身体」を論じる。 • デカルトが『人間論』で「機械」とみ なしているものとは? • 呼吸器・循環器・神経系・筋肉等を持 つ運動体としての身体。 6 動物精気 • 脳に入り込む血液の粒子→「動物精 気」を産出。 • 「動物精気」とは? きわめて微細な風 きわめて活発で純粋な炎 7 動物精気 • 脳に入り込む血液の粒子→「動物精 気」を産出。 • 「動物精気」とは? きわめて微細な風 きわめて活発で純粋な炎 ? 8 動物精気 • 動物精気・・・「きわめて微細な空気 か、あるいはむしろきわめて純粋で活発 な炎のようなものであって、たえず大量 に心臓から脳に上り、そこから神経を 通って筋肉のなかに入り、身体の各部分 に運動を与えるのである。」『方法序 説』第5部 (AT VI, 54) 9 動物精気 • 「この精気は、風あるいは非常に微細な炎のようなもの で、どこかに通路が見つかるとすぐに、一つの筋肉から 他の筋肉へ急速に流れ込まずにはいないからである」 • 「といっても、精気が持っている、自然の法則に従って 運動を続けるという傾向以外に精気を動かす力は何もな いのだが」 • 「・・・それを閉じ込めた筋肉を膨張させ、硬化させる 力を持っている」「人間論」 10 動物精気 • 「動物精気は、神経が通じているすべての肢 体——その中には、眼の瞳孔、心臓、肝 臓、胆嚢、脾臓その他のように、・・・ ——、何らかの運動をひき起こすことがで きる。」 • 心臓そして動脈が、動物精気を脳の空室へ押 し込む。 11 動物精気 • • 動物精気とは・・・血液の微細な粒子。 血液が心臓の熱によって気化されて生じ、蒸気のように脳にま でたち上ったもの。 • さらに脳から、神経を通って、全身を循環し、脳からの情報を 筋肉に伝えてそれを動かしたり、身体の情報を脳に伝達したり するもの。 • • 身体の内にあって、身体を動かす力となるもの。 現代生物学で言う「神経伝達物質」のような役割を持つものだ が、循環的なもので、血液から生じている点がユニーク。 12 精神の座 • 「理性的精神がこの機械の中にあるとすると、 それは脳の中に主要な座を占めるであろうが、 それは、ちょうど、噴水技師が、噴水の運動を 何らかの仕方で助勢したり、逆に妨げたり、あ るいは変えたりしようと思うときは、機械の管 がすべて集まっている監視所の中にいかければ ならないのと同じことである。」 13 松果腺 14 松果腺 • 松果腺は脳の中央に位置する小さな器官。 そこに感覚器官からの諸情報がすべて集めら れて受け取られ、そしてこの器官に直接結び ついている精神に伝えられる、とデカルト は考えた。 • 「精神の座」あるいは「魂の座」、心身の 結合点としての共通感覚器官(松果腺)。 15 心身問題 • デカルトにおいては、心身二元論より精神と 身体は互いに因果的関係を持てない。 • にもかかわらず、理性的精神(=デカルトに とっての魂)と機械(=デカルトにとっての 生命的身体)は、精神の座である松下腺にお いて結合するとしている。 • いったい、どういうことなのか? 16 • 「神がこの機械に理性的精神を結びつけ る時には、そのおもな座を脳中に置き、 そして脳の内表面にある孔の入り口が神 経の仲介によって開くそのさまざまな開 き方に応じて、精神がさまざまな感情を 持つように精神をつくるだろうというこ とである。」『人間論』 17 • 精神は、神経によって、脳内に送られてくる自動機 械(身体)の状態を意識する。それが「感情」。 • とりわけ、脳内に送られる「動物精気」という粒子 の種類や大きさの違いによって、さまざまな「感 情」と類似の運動が引き起こされる。 • 精神の存在については、『方法序説』および『省 察』で証明。 18 形象 • 形象(figure)・・・「単に、何らかのしかたで対 象の線と表面の位置をあらわすものだけでな く、・・・、精神に、運動、大きさ、距離、 色、音、匂い等の性質を感じさせるきっかけを 与えうるもの、さらには、くすぐったさ、痛 み、飢え、渇き、喜び、悲しみ、その他の情念 を精神に感じさせるきっかけを与えうるものま でも意味している」 19 観念 • 「これらの形象のうち観念(idée)ーすなわち理性 的精神が機械に結びつけられて何らかの対象を 想像したり感じたりする場合に、直接に眺める 形あるいは像と考えられなければならないも のーは、外部感覚の器官や脳の内表面に刻み込 まれる形象ではなく、《想像力と共通感覚の座 である》腺Hの表面に、精気によって描かれる 形象だけである。」 20 機会原因論 • 心的感情の「機会原因」としての動物精気。 • デカルトは「人間論」において、動物精気に よって受け取られる(想像的・感覚的な)刻 印を、「観念」とみなしている。 • つまり、観念の概念を、「形象」にまで拡大 している。(観念と心像(形象)の区別は、 心身二元論と関わる重大な区別だった) 21 機械の中の精神 「動物精気が・・・ 精神に——すでに機 械の中に精神がは いっているとすれば ——腕が対象Bの方 に向くの感じるきっ かけを与える」。 22 身体=自動機械 • • デカルトが機械に付与した全機能 「たとえば、食物の消化、心像や動脈の鼓動、肢体 の栄養摂取と成長、呼吸、覚醒と睡眠、そして、 光、音、匂い、味、熱、その他の性質を外部感覚器 官へ受容する機能、それらの観念を共通感覚と想像 力の器官へ刻印する機能、同じ観念を記憶で保持す る、すなわち痕跡を残す機能、欲求や情念の内部運 動、最後にしたいすべての外部運動など」 23 「機械の中に、その心臓で絶え間なく燃 えている火——これは無生物体の中にあ る火と異なる性質のものではない——の 熱によって運動させられている血液と精 気以外には、食物精神も感覚精神も、そ の他の運動と生命のいかなる原理も、想 定してはならない」 24 「人間論」の結論 • アリストテレス=スコラ的な、魂(精神)=「生 命の原理」の否定。 • • 生物=自動機械。 機械という点では、生物と無生物のあいだに、根 本的な違いはない。 • デカルトにとって、身体と区別される「魂」は、 思惟のみを属性とする、「理性的精神」のみ。 25 心身結合の問題 • しかし、「人間論」では、「心身結合」は前 提とされていて、くわしく説明されていな い。 • また、機械の中にある理性的精神について は、「人間論」では描写されていない。 • デカルトは、『情念論』において、心身問題 とより真剣に向き合うことになる。 26 生と死の違い • 死は、精神の欠如によって起こるので はなく、身体の主要部分のどれかが壊 れるから起こる。§6 • 生とは、ゼンマイが巻かれてきちんと 動いている自動機械のようなもので、 死とは、壊れた機械のようなもの。 27 『情念論』 • まず、能動と受動という2つの根本作 用があることを精神と身体に認める。 §17 • 「意志」:精神の能動的作用 • 「知覚」:精神の受動的作用 28 情念 • 精神の「受動」=「情念」passion • 情念とは・・・「精神の知覚、感覚、 情動であり、それらは、特に精神に関 係づけられ、そして精気の何らかの運 動によって引き起こされ、維持され、 強められる。」§27 29 意志 • 精神の「能動」=「意志」volonté • 意志は(身体や動物精気によってでは なく)「精神そのものによって引き起 こされる」。§29 30 心身合一 • 「精神は身体のあらゆる部分と協同し て合一していること」§30 • 心が、どこかある部分にあるというこ とを否定。 31 松果腺 • 「脳内に小さな腺(松果腺)があり、 精神は、他の部分よりも特にこの腺に おいて機能を果たしていること」§31 32 33 精神の座 • 精神に感覚が伝えられる前に、まず情報が 一つになる場所として、松果腺が必要。し たがって、ここが、「精神の座」。§32 • また、情念の座は心臓にはない。心臓に情 念を感じるからといって、精神が心臓にお いて機能を果たすわけではない。§33 34 精神と身体 • では、精神と身体はいかにして相互に 作用しあうのか? • 「精神はそこ[松果腺]から、精気、 神経さらには血液を介して、身体の他 のすべての部分に放射している。」 35 精神と身体 • 「精神の主座である小さな腺は、精気 を容れている脳室のあいだに垂れてい るので、・・・、精気に動かされう る。だがその腺はまた、精神によって も多様に動かされうる。」 36 松果腺の • 困った。精神と身体は、心身二元論から、互いに独 立なはず。 • なのに、精神と身体の因果を松果腺という特殊な器 官においては認めているような言い方をしている。 • 「こうして脳内にある2つの像は、腺上にただ一つ だけ像を形作り、それが直接に精神に作用して、そ の動物の形象を精神に見させる」§35 37 • 精神の能動(意志のはたらき)→松果腺を 動かす、精気を押しやる→意志に対応した身 体の効果(身体運動)。§41, §42 • 「いままで見たことのない何かを想像しよ うと意志するとき、その意志は、脳のある 一定の孔のほうへ精気を押しやるのに必要 なしかたで腺を動かす力を持つ」§43 38 松果腺の • 「動物精気」という粒子に対してだけは、精神に よる因果作用を認めている? • 「脳の中心部にある小さな腺が、一方で精神に よって、他方で物体にほかならない動物精気に よって押されうるために、(感覚的な、および、 理性的な)2つの衝動が対立するものとなり、強 いほうが弱いほうの効果を妨げることがしばしば 起こる」§47 39 松果腺の 精神 意志/情念 松果腺 脳 動物精気 筋肉運動 刻印[印象] 40 村上解釈 • 松果腺に対する動物精気の運動が、精神 に「合図=記号」を与え、刺激し、ある 一つの感覚を表示する。206 • 脳の活動と感覚の関係は「記号関係」。 41 村上解釈 • 脳と心に、共通の因果関係はない。 • 「入力」と「出力」の関係があるだけ。 • 「機会」を与えるというだけの関係。 • 心の状態と脳の状態は、関係するがまっ たく別のもの。 42 愛における血液と精気の運動 • 「知性がなんらかの愛の対象を思い描くと、この思考が脳内につ くる刻印は、動物精気を第6対の神経によって、腸や胃のまわり の筋肉のほうへ導いていく。こうすると、新しい血液になる食物 の液は、肝臓にとどまらないで速やかに心臓のほうへ移ってい く。身体の他の部分にある血液よりも強い力で押しやられるの で、いっそう多量に心臓に入り込む。・・・その結果、この血液 はまた、普通よりも大きくて活発な粒子からなる精気を、脳のほ うに送ることになる。そしてこれらの精気は、愛すべき対象への 最初の思考が脳内につくった刻印を強化して、精神がこの思考に とどまるようにさせる。ここに愛の情念が成り立つ」§102 43 まとめ • デカルトは、「動物精気」という観察も検 証もされていない仮説を用いているが、人間 の情念に関する諸現象を、できるだけ物理 的(機械論的)に描こうとしている。 • それは、生命現象にもおよび、魂の観点から 生命を説明する、アリストテレス以来の伝統 に対立するものだった。 44 まとめ • デカルトは、精神が、松果腺という特別な 「精神の座」において、動物精気を押しやる ような何らかの働きを持つとしている。 • また、両目で見た像が、松果腺において統 一され、その印象が、精神に直接的にはた らきかけ、見た事物の形象を見させるともし ていた。 45 まとめ • しかし、心身二元論を厳密に捉えるならば、精神が 身体に因果的影響を及ぼすことは、認められない。 松果腺と言えど、身体である限り、同様。 • そこで、「人間論」の立場を採用する。つまり、意 志のはたらきは、動物精気を押しやり身体運動を引 き起こす「きっかけを与える」もの、と介すのが、 デカルトを整合的に解釈する唯一の道であろう。す なわち、「機械原因論」の一種とみなす。 46 そして近・現代へ • このデカルトにおける困難をめぐって、ホッブ ズ、ガッサンディ、スピノザやライプニッツ、 マールブランシュなどが、それぞれ、独自の心身 関係に関する理論を模索していくことになる。 • また、現代における心身問題も、デカルトの心 身二元論の構図を引きずり、この問題の解決を 志している。(大雑把すぎますが) 47 授業スライド • http://researchmap.jp/shinjike/資料公開/ 48 参考文献 デカルト 『方法序説』第5部(山田弘明訳、ちくま学芸文 庫) 「人間論」(『デカルト著作集』所収) 『情念論』(谷川多佳子訳、岩波文庫) 49 参考文献 (1)伊藤邦武『物語 哲学の歴史』第二章、102-132頁 (2)金森修『動物に魂はあるのか』第2章 (3)佐藤康邦『哲学史における生命概念』第3章 (4)『岩波講座 哲学05 心/脳の哲学』岩波書店、2008年、 254-263頁 (5)小林道夫『科学の世界と心の哲学』中公新書、2009年。 (6)木村陽二郎『原典による生命科学入門』第4章 (7)村上勝三『感覚する人とその物理学ーデカルト研究3』知泉 書館、2009年。 50 前帯状皮質 51 縁上回 • 52