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貨物船りゅうなん乗揚事件
平成 17 年長審第 10 号 貨物船りゅうなん乗揚事件 言 渡 年 月 日 平成 17 年 10 月 6 日 審 判 庁 長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三) 理 事 官 平良玄栄 受 審 人 A 職 名 りゅうなん一等航海士 海 技 免 許 四級海技士(航海) 損 害 球状船首を大破,船首船底に凹損 原 因 居眠り運航防止措置不十分 主 文 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を 1 箇月停止する。 理 由 (海難の事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成 16 年 10 月 21 日 05 時 15 分 長崎県平島東方の黒島北西岸 (北緯 32 度 59.8 分 東経 129 度 18.7 分) 2 船舶の要目等 ⑴ 要 目 船 種 船 名 貨物船りゅうなん 総 ト ン 数 749 トン 全 長 98.40 メートル 機 関 の 種 類 ディーゼル機関 出 力 2,942 キロワット ⑵ 設備及び性能等 りゅうなんは,平成 16 年 4 月に進水したコンテナ及び鋼材の運送に従事する船尾船橋 型の鋼製貨物船で,上甲板上に 5 層を有する船橋楼が設けられ,その前端が船首端から距 離約 81 メートルのところにあり,最上部の航海船橋甲板に操舵室が,船橋楼前方にはハ ッチカバー上にコンテナを 2 段積みできる貨物倉がそれぞれ配置されていた。 操舵室は,船首尾方向の長さ約 4 メートル幅約 5.2 メートルで,満載喫水線から床面ま での高さが約 12.3 メートルあり,両舷にウイングと称する暴露甲板に接続する出入口が 設けられ,前面窓の下に設けた棚の中央右舷側にGPSプロッターが備えられ,前面から 約 50 センチメートル後方のコンソールスタンドには,右から順に,バウスラスタ用リモ ートコントロール装置,主機用テレグラフ発信器,操舵装置及びレーダー 2 台が配備さ れ,左舷側前部に海図台,右舷側前部にソファを備え,当直者が同ソファに腰掛けたと き,前面窓の下方が胸の高さぐらいとなり,見張りには差し支えなく,その位置からGP Sプロッター画面までの距離が約 1.5 メートルであった。 3 事実の経過 りゅうなんは,船長B及びA受審人ほか 5 人が乗り組み,コンテナ 81 個を積載し,船首 2.8 メートル船尾 4.9 メートルの喫水をもって,平成 16 年 10 月 20 日 23 時 50 分博多港を発し, 那覇港浦添ふ頭に向かった。 B船長は,船橋当直を 00 時から 04 時及び 12 時から 16 時までを二等航海士,04 時から 08 時及び 16 時から 20 時までをA受審人,08 時から 12 時及び 20 時から 24 時までを自らが入直 する単独 4 時間 3 直制と定め,発航後,台風の余波で海上が時化気味だったことから,約 1 時 間半在橋したのち,翌 21 日 01 時 30 分烏帽子島南東方約 3 海里で二等航海士に当直を委ねて 降橋することにし,平素から何かあったらいつでも起こすように指示を与えていたので,針路 と速力のみ引き継ぎ,自室で休息した。 A受審人は,03 時 40 分長崎県生月島西方の大碆鼻灯台から 237 度(真方位,以下同じ)2.5 海里の地点で昇橋し,同時 50 分二等航海士から引き継いで船橋当直に就き,04 時 20 分同県 上阿値賀島西方 1.8 海里に当たる,尾上島灯台から 339 度 4.6 海里の地点において,針路を長 崎県平島と同県黒島の間に向く 181 度に定め,機関を全速力前進にかけ,16.5 ノットの速力で 自動操舵により進行した。 ところで,A受審人は,博多港に停泊中台風の接近で出港前日の夕方から荷役を中断し,沖 出しして錨泊後約 1 日間休息し,翌夕方着桟して約 2 時間で荷役を終了後,21 時ごろから出 港スタンバイまでの間約 2 時間睡眠を取り,発航後は自室で休息し,テレビを見るなどして眠 らずに当直までの時間を過ごしたものの,特に疲れを感じるようなことはなく,風邪薬なども 服用せずに昇橋したものであった。 定針して間もなく,A受審人は,いつも多数の漁船が操業している海域に何も見当たらなか ったので気が緩み,やや眠気を感じたので,船橋内を動き回るなどしたのち,04 時 30 分ごろ からソファに腰掛けて見張りに当たっていたところ,再び眠気を感じるようになったが,十分 に休息をとって疲れを感じていなかったので,まさか居眠りすることはないだろうと思い,ソ ファから立ち上がって船橋内を移動するなり,外気に当たるなりするなど,居眠り運航の防止 措置をとることなく続航した。 こうしてA受審人は, 04 時 35 分半尾上島灯台から 271 度 1.6 海里の地点に差し掛かったとき, GPSプロッターを見ておぼろげにコースラインの少し左側を航行していることを知ったもの の,いつしか居眠りに陥り,折からの潮流により 3 度左方に圧流されながら,黒島北西岸に向 かっていることに気付かないまま進行し,05 時 15 分横曽根灯標から 322 度 2.8 海里の地点に おいて,りゅうなんは,原針路,原速力のまま黒島北西岸の岩礁に乗り揚げた。 当時,天候は晴で風力 3 の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。 B船長は,A受審人から船内電話で乗揚の報告を受け,昇橋して事後の措置に当たった。 乗揚の結果,りゅうなんは,球状船首が大破して船首バラストタンクに浸水し,船首船底に 凹損を生じたが,サルベージ船の来援を得て離礁し,のち修理された。 (本件発生に至る事由) 1 ソファに腰掛けていたこと 2 いつも多数の漁船が操業している海域に何も見当たらなかったので気が緩んだこと 3 居眠り運航の防止措置をとらなかったこと 4 潮流によって圧流されたこと (原因の考察) 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,発生を回避できたものと認められ る。 したがって,A受審人が,ソファに腰掛けていたこと,立ち上がって船橋内を移動するな り,外気に当たるなりするなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原 因となる。 A受審人が,いつも多数の漁船が操業している海域に何も見当たらなかったので気が緩んだ ことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認め られない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。 折からの潮流に圧流されたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生 の原因とならない。 (海難の原因) 本件乗揚は,夜間,長崎県平島東方沖合を南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島 東方の黒島北西岸の岩礁に向首進行したことによって発生したものである。 (受審人の所為) A受審人は,夜間,単独で船橋当直に就き,長崎県平島東方沖合を南下中,気の緩みで眠 気を催した場合,居眠り運航とならないよう,立ち上がって船橋内を移動するなり,外気に当 たるなりするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同 人は,休息を十分にとって疲れを感じていなかったので,まさか居眠りに陥ることはないと思 い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,ソファに腰掛けている うち,いつしか居眠りに陥り,折からの潮流により左方に圧流されながら,黒島北西岸の岩礁 に向首進行して乗揚を招き,球状船首を大破させ,船首船底に凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項第 2 号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を 1 箇月停止する。 よって主文のとおり裁決する。