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宇宙空間における安全保障と国際宇宙法

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宇宙空間における安全保障と国際宇宙法
宇宙空間における安全保障と国際宇宙法
Security in Outer Space and
International Space Law
© NASA ESA
2015年7月13日 京都大学 第6回「宇宙学」セミナー
神戸大学大学院法学研究科 学術研究員・非常勤講師
高屋友里
1
目的
宇宙空間における
安全保障問題を
国際宇宙法の視点から
理解する
© NASA ESA
目次
© NASA ESA
1.宇宙空間と宇宙活動
2.宇宙空間の軍事利用
3.国際宇宙法
4.宇宙活動における
透明性・信頼醸成措置
5.サイバー攻撃とITU
6.日本の宇宙法政策
2
はじめに
国際法とは:
主権国家間の権利義務を規律する規範
(例)
• 国家間の地位関係
• 国家間の交流方法
• 国家の管轄権の対外的限界
• 武力行使の規制など
国際法の法源:
• 国際慣習法
• 条約
• (法の一般原則)
【法的確信+国家実行の集積】
すべての国家に適用
条約を批准した「締約国」のみ拘束
3
1.宇宙空間と宇宙活動
4
宇宙空間と宇宙活動-1
宇宙活動の分類
民生利用 (例:科学目的の宇宙探査)
商業利用 (例:商業衛星打上げ活動)
軍事利用 (例:軍による情報収集)
© NASA ESA
宇宙技術の性質
民生にも軍事にも使える
軍民両用の性質
“Dual Use”
© JAXA
宇宙空間と宇宙活動-2
宇宙空間の法的地位:
• 1967年宇宙条約 第1条
「全人類に認められる活動分野」
宇宙活動における権利:
• 「宇宙活動自由の原則」
⇒すべての国に3つの権利が付与
© JAXA
宇宙空間を自由に利用する権利
宇宙空間を自由に探査する権利
宇宙空間に自由にアクセスする権利
© NASA ESA
6
宇宙空間と宇宙活動-3
すべての国家に認められる権利
◆宇宙空間を自由に利用する権利
(例)人工衛星
地球観測衛星
天文観測衛星
通信衛星
測位衛星
◆宇宙空間を自由に探査する権利
(例) 米国 アポロ計画
日本 小惑星探査はやぶさ
欧米 火星探査
◆宇宙空間へ自由にアクセスする権利
(例) ロケットによる打上げ活動
スペースシャトル
地球観測データ
7
©JAXA
宇宙空間と宇宙活動-4
地球軌道とは?
© NASA
低軌道(LEO) 地球観測
Earth Observation・Remote Sensing
中軌道(MEO) 測位
Positioning Navigation and Timing
静止軌道(GEO) 通信・気象 Telecommunication, Meteorology
↑
国際通信連合(International Telecommunication Union)
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国際法ではどこからが宇宙ですか?
宇宙空間と宇宙活動-5
◆用語 : 宇宙空間 Outer Space vs. 空域・領空・大気圏 Air Space© NASA
◆国際法上の定義:
UNCOPUOSで長年議論されるも境界線は画定せず
米国EU日本その他:「境界線がなくても不都合なし」
ロシア・中国・メキシコその他:「航空業務の安全性のため必要」
◆定義がない理由: ①国家主権→領空○ 宇宙×
②コンセンサス方式
◆宇宙法適用に関する議論:
ロシア:空間説:打ち上げ物体が軌道を描き始める
地上100-110 km以上の空間に適用
米国: 機能説:宇宙活動を行う機能を有する宇宙機に適用
10
2.宇宙空間の軍事利用
11
宇宙空間の軍事利用-1
歴史
© USAF
WWII中、ドイツが開発したV2ミサイルを開発
→戦勝国へ技術移転 米国は人材を、旧ソ連は技術を
50年-70年代 米ソによる宇宙開発=国威発揚
宇宙空間で対衛星(ASAT)実験計画
1972年
弾道弾ミサイル制限条約(ABM条約)で
ASAT実験は禁止
1983年
Strategic Defense Initiative(SDI)発表
1990年代
GPS開発・運用
90年- 91年
湾岸戦争で初めてGPSが使用
2001年
9.11米同時多発テロ
Missile Defense(ミサイル防衛)実験開始
2003年
アフガニスタン戦争 無人爆撃機実用化 12
宇宙空間の軍事利用-2
測位衛星システム(GNSS)
©ISU
→陸・海・空すべての軍事システムを統合
©USAF
13
宇宙空間の軍事利用-3
ミサイル防衛
 1983年 米国が構想
 2003年 日本も参画
 宇宙空間に宇宙兵器の
配備を計画
 欧州に地上局配備でロシ
アと関係悪化
 集団的自衛権・先制的自
衛権の問題
©USAF
14
宇宙空間の軍事利用-4
宇宙システムの社会インフラ化
©USAF
弾道ミサイル早期警告および弾道飛行の監視(2006-2007年打ち上げ)
宇宙システムに依存すればするほど、自国の衛星を守るための
「宇宙兵器」が必要と考える→宇宙でも自衛権??
15
3.国際宇宙法
16
国際宇宙法-1
国連宇宙空間平和利用委員会
◆1959年 国連宇宙空間平和利用委員会が常設機関として設置
(UN Committee on Peaceful Uses of Outer Space:UNCOPUOS)
◆委員会活動の流れ
2月 科学技術小委員会 3/4月 法律小委員会
6月 UNCOPUOS
10/11月 国連総会第4委員会へ報告書を提出
国連総会決議「宇宙空間平和利用における国際協力」
◆現在77か国と30国際機関が参加
◆コンセンサス方式を採用
◆検討事項
宇宙空間の平和利用に関する問題を検討
国際協力/情報交換/法的問題を検討
※軍事利用に関する問題は検討できない
→国連機関ではないジュネーブ軍縮会議で検討される
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国際宇宙法ー2
国際宇宙法の法源
 宇宙諸条約:
 国際慣習法:
 ソフトロー:
1967年 宇宙条約
1968年 宇宙救助返還協定
1972年 宇宙損害責任条約
1975年 宇宙物体登録条約
1979年 月協定
宇宙空間自由の原則(宇宙条約第1条)
宇宙空間の占有禁止の原則(宇宙条約第2条)
1982年 直接放送衛星原則
1986年 リモートセンシング原則
1992年 原子力電源使用制限原則
1996年 スペースベネフィット原則
2004年 「打ち上げ国」概念適用
2007年 宇宙物体登録実行向上勧告
2013年 探査・利用関する国内法制定勧告
国際宇宙法ー3
1967年宇宙条約
第1条 宇宙空間の探査利用の自由
第2条 領有の禁止
第3条 国連憲章を含む国際法の適用
第4条 平和利用原則(WMD地球軌道配備の禁止)
第5条 宇宙飛行士に対する援助
第6条 国家責任
第7条 国の賠償責任(地表と飛行中の航空機への損害)
第8条 管轄権と権利(宇宙物体の登録)
第9条 宇宙活動の協力
第10条 観測の機会
第11条 情報の提供
第12条 査察
(※第13-17条 条約上の手続き)
国際宇宙法ー4
1967年宇宙条約 第4条1文 WMDの配備禁止
地球軌道・天体・宇宙空間に
核兵器を含む大量破壊兵器は配備してはならない
placing of nuclear weapon or any other
weapons of mass destruction in outer space,
including the moon and other celestial bodies.
しかし・・
1.宇宙兵器は必ずしも核兵器や大量破壊兵器ではない
通常兵器の配備は違法ではない
2.国連憲章第51条「自衛権」に基づき、宇宙空間で兵器を使用できる
という解釈も可能(⇔ジュネーブ軍縮会議PAROS委員会では否定)
20
国際宇宙法-5
1967年宇宙条約 第4条2文
月その他の天体はもっぱら平和的目的で利用し
なくてはならない
‘States Parties should use the Moon and other celestial
bodies exclusively for peaceful purposes’.
‘…the testing of any type of weapons and the conduct of
military manoeuvres on celestial bodies shall be forbidden’.
地球軌道は?「平和的」の定義は?
21
国際宇宙法ー6
1967年宇宙条約 「Peaceful」の解釈
「平和的」=「非軍事的」?それとも「非侵略的」?
Peaceful = Non-Military? Non-Aggressive?
⇒ロシア 「非軍事的」 米国 「非侵略的」 日本は?
© NASA
ESA
米国が後者を主張する理由:
 宇宙技術は軍民両用・宇宙ミッションには軍人と軍備を使用
 第4条第1パラは通常兵器の禁止を明記せず
 自衛権は国連憲章第51条に基づき適用可能
 宇宙条約第1条の「平和的」と第4条の「平和的」の定義は一緒で
はない。‘interest’や‘benefit’は各国により異なる
(⇒日本の解釈は?のちほど・・) 22
国際宇宙法―7
軍事利用の規制の限界
宇宙条約第3条により
宇宙活動には国連憲章が適用される以上、
第51条では国家に自衛権が認められている
どうすれば宇宙の安全保障が
強化できるのか?
23
4.宇宙活動における透明性・信頼醸成措置
24
宇宙活動の透明性・信頼醸成措置-1
新たな国連決議
 2006年- 国連総会決議
「宇宙活動における透明性・信頼醸成措置」が採択
→2012年より政府専門家グループにより検討
• 情報共有の目的:
政府間の相互理解
誤解と誤算の回避
軍事衝突の防止
地域および世界における安全保障上の安定性
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宇宙活動の透明性・信頼醸成措置-2
具体的な情報の公開
• 国家の宇宙政策
• 新たな宇宙システムの開発計画・世界的に利用されている
宇宙システムの運用(GPS・気象観測)
• 平和目的の宇宙探査に関する国家の原則と目的
• 地球軌道にある宇宙物体およびその機能
• その他:
打上げ活動の事前通達や協議
→潜在的な干渉問題を避ける目的の行動規範
持続可能な経済的・社会的発展に寄与する
教育・ データ普及を目的とした国際協力措置
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宇宙活動の透明性・信頼醸成措置-3
新たな法規範となるか?
 各国の立ち場
欧米
EU行動規範(Code of Conduct)を遵守
(米国「新たな条約は必要ない」)
ロシア・中国
新しい条約を作成すべき
しかし
国家実行と法的確信が認められれば、
国際慣習法となる可能性あり?
27
5.サイバー攻撃とITU
28
サイバー攻撃とITUー1
国際電気通信連合(ITU)と静止軌道
◆国際電気通信連合
世界最古の国連特別機関
周波数の割り当て.
193 構成国 + 700 民間企業・学術機関
◆静止軌道Geostationary Orbit (GEO):
高度36,000 km
主に通信衛星・気象衛星が配備
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サイバー攻撃とITUー2
静止軌道上の衛星に対する脅威
対衛星実験ではない(×Anti-Satellite Test)
⇒周波数の干渉である
95-97%
人為的ミス 技術的な問題
3-5%
意図的に起こされた干渉
⇒サイバー攻撃の台頭によりITUは
サイバーセキュリティ強化を目指す
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サイバー攻撃とITUー3
有害な干渉の国際刑罰化
◆ 国連総会決議 57/239
“Creation of a global culture of cybersecurity”
◆ 2015年 情報社会に関する世界サミット(World Summit on
the Information Society:WSIS) のTunis Agenda
ITU事務総長 Dr. Dr. Hamadoun I. Touré
Global Cybersecurity Agenda (GCA)
High-Level Experts Group (HLEG) 設置
⇒有害な干渉の国際刑罰化を図る
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サイバー攻撃とITUー4
ハイレベル専門家グループによる提案
“Cyberspace allows criminals to exploit online vulnerabilities and
attack countries’ infrastructure”
◆ Recommendation 1.11. of the HLEG 報告書
以下2条約の批准(もしくは類似の国内法整備)を構成国に勧告
(欧州評議会)2001年サイバー犯罪条約
(欧州評議会)2005年テロ防止条約
⇒しかし周波数に対する「有害な干渉」が
サイバー犯罪なのか、サイバーテロなのか、サイバー攻撃なのかの
区別が困難
32
6.日本の宇宙法政策
内閣総理大臣を本部長とする宇宙開発戦略本部において決定
“日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、
我が国の安全保障上の宇宙の重要性が著しく増大“
→宇宙空間の国家安全保障のための利用に重点が置かれる
日本の宇宙法政策ー1
2015年新宇宙基本計画
2015年1月9日 新宇宙基本計画が発表
特徴:
安保利用の拡大 2023年度に準天頂衛星7基体制構築
情報収集衛星の基数増
日米宇宙協力の推進
産業育成
宇宙機器産業を10年間で官民合わせ累計5兆円規模に
10年間で衛星・探査機を45基超打上げ
民間事業促進に必要な法案を16年度に提出
従来の短期計画から10年の長期ビジョンへ
新型基幹ロケットの開発
民生分野での利用促進
地理空間情報を利用した新産業の創出推進
法案:
①宇宙活動法案→民間事業者によるロケット打上げ失敗時などの
負担を軽減する (例:米国商業打上げ法)
②衛星リモートセンシング法案→民間企業による衛星画像データの
利用ルールを定める(参照:日経新聞)
日本の宇宙法政策-2
2008年宇宙基本法
◆2008年宇宙基本法の基本理念
①宇宙の平和的利用 ②国民生活の向上 ③産業の振興
④人類社会の発展 ⑤国際協力などの推進 ⑥環境への配慮
◆内閣府に宇宙開発戦略本部が設置 (本部長:内閣総理大臣)
→宇宙基本計画を定める
◆“平和的”解釈の変遷
もともとは非軍事(non-military)
→日本国憲法の範囲内での非侵略(non-aggressive)
→新計画により、より広い解釈となるか?
日本の宇宙法政策-3
2008年宇宙基本法
◆2012年「内閣府設置法等の一部を改正する法律」
→内閣府内に2機関が設置
①宇宙戦略室 (宇宙開発利用の司令塔機能)
②宇宙政策委員会 (×文部科学省・宇宙開発委員会)
Q. どうして①や②が必要?
A. 本部長が内閣総理大臣である宇宙開発戦略本部を
頻繁に開催することは難しいから
◆宇宙政策委員会
構成:本委員会+4部会:①基本政策部会 ②宇宙輸送システム部会
③宇宙科学・探査部会 ④宇宙産業部会
日本の宇宙法政策ー4
宇宙活動法の必要性
◆宇宙ビジネスに関する法律がない
1968年 宇宙開発委員会設置法
1969年 NASDA設置法
2003年 宇宙航空研究開発機構(JAXA)法
2008年 宇宙基本法→草案作りを要請
◆宇宙活動に関する現行法が多すぎる
外国為替外国貿易法
通信電波法
消防法
火薬取締法
高圧ガス保安法
電気事業法・・・etc
→宇宙活動法の草案は2008年より取りまとめられている
(「中間とりまとめ」:商業活動の振興に重点が置かれる)
日本の宇宙法政策ー5
宇宙活動法案の検討
◆2016年度に国会へ法案提出を予定
◆2008年宇宙基本法に基づき草案を準備してきた
→「中間とりまとめ」
宇宙条約にもとづく損害賠償責任を担保
被害者保護
民間事業者の宇宙産業の健全な発達
商業打上げ企業に第三者保険の購入を義務付け、
填補されない損害は国家が補償
※既存の制度ではJAXAに責任が集中
保険を超える部分はJAXAが賠償して国に予算要求を行う構造
◆現在、他の宇宙活動国の法制度を研究中
打上げライセンス制度
第三者賠償保険
Any Questions?
© NASA ESA
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