...

PDF:16KB

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Description

Transcript

PDF:16KB
「構造改革なくして経済成長なし」
小島 わたしも基本的な状況認識は中前さんとかなり共通しています。
日本の経済にとっていま悪いニュースとよいニュースがあります。悪いニュースは、再び
経済の下降局面と、新たな危機が起ころうとしていることでしょう。しかしよいニュース
も、危機が再発しそうになってきたということです。日本経済はここ 10 年にわたって危機
状態であったわけで、それに対する十分な改革が行えなかった。その結果、潜在的な危機
状況が一向に改革しないどころか、潜在的にはより重大な状況になっているということか
もしれません。その点でもう一つのいいニュースは、改革断行内閣と宣言して登場した小
泉内閣の姿勢に期待ができそうだということです。
日本経済はこの 10 年間不況だといわれますが、しかしこの 10 年不況という言い方には誤
解が生まれやすいと思います。91 年以降の経済は長期停滞、大停滞です。その中でいま3
度目の循環的な下降サイクルが始まろうとしているのが現実です。景気の循環的な側面と
長期的なトレンドとを区別しなければいけない。
米国は今ニューエコノミーのもとで初めての景気調整に直面しようとしています。ニュー
エコノミーであれ何であれ、自由市場経済のもとで循環的な経済の変動というのはある程
度必然的であり、避けられないということだと思います。もちろん景気の振れを大きくし
過ぎないという工夫が必要ですが、より重要な、あるいは同時に重要なのは、経済のトレ
ンド成長率、いま生産性ということで中前さんが指摘されましたが、潜在成長率をしっか
りと確保し、上方に押し上げるということだと思います。
目先の景気の話についていえば、要注意なのは、日本とアメリカの経済、 GDP の世界第1
位、第2位の経済が同時に調整局面を迎えたことです。これは 1970 年代の初め、1973 年
か 74 年以来初めてのことです。したがってグローバルな経済にとっても今回の循環的な調
整というのはちょっときついかもしれないという感じがあります。
しかし昔、1960 年代にアメリカにニューエコノミックスというのが生まれました。そのと
きのニューエコノミストたちは、ひょっとしたらファインチューニングによって我々は循
環的な変動を克服できるのかもしれないという議論をしたのですが、これはエコノミック
スの傲慢でした。循環的な問題は管理、ある程度抑制する必要がありますが、必然的に生
まれるということを覚悟しなければいけない。
問題は潜在的なトレンド成長率です。アメリカでは 91 年に景気が大きな底を打ち、以後史
上最長の景気拡大、持続成長を達成しました。長い拡大循環というだけでなくて、成長の
トレンド線が上がったということです。傾向的な平均値としての生産性がそれ以前のアメ
リカの経済と比べると1∼ 1.5%ぐらい上がったということだと思います。
思い返せば、1970 年代、80 年代アメリカの経済は本当に悲惨な状況でした。アメリカ型大
停滞でした。しかしそのトレンド線を克服して、新しい、より高いトレンド線を確保した
のは、それ以降行われたいろいろな政府レベル、政策レベル、および企業のミクロレベル、
その他さまざまな分野での構造的な改革だったと思います。もちろん短期的には構造的な
改革にはコストが伴います。それは象徴的には湾岸戦争に勝ったブッシュ大統領、パパさ
んのブッシュの再選が妨げられたことだと思います。おそらくアメリカの経済社会は、パ
パ・ブッシュさんを犠牲にして構造改革の成果を確保して、ニューエコノミーを実現した
ということだと思います。
それで振り返って日本のこの 10 年間、いま3回目の景気のダウンサイクルに直面しようと
しているということですが、1992 年8月を第1回として、すでに 10 回に及ぶ経済対策が
とられています。その多くは「緊急」とか「総合」という枕言葉がついていました。合計 130
兆円もの需要追加政策が行われましたが、これらの政策は残念ながら日本の経済成長のト
レンド線を押し上げることはできませんでした。ならしてみまして、この 10 年間の日本の
年平均実質成長率はわずか1%ということです。それ以前のトレンド線からの著しい下方
低下はミクロの経済にも非常に重要な、深刻な調整を迫っているわけです。トレンド線が
下がると、そのトレンドをめぐって上がったり下がったりする循環の下降局面がきわめて
厳しくなります。
なぜ日本が単なる循環的な下降だけではなくて、長期の拡大停滞に悩まされているかとい
う理由ですが、それは以下のような複雑なというか、複数の複合的な構造的要因があるか
らです。
第1は金融機関、銀行の不良債権問題。不良債権を抱えた銀行は預金が現実に増えている、
つまり経済の定義でいうマネーサプライは依然として一度も落ちていなくて、増え続けて
いますが、銀行の信用仲介機能、信用創造機能が低下して、銀行信用が伸びないどころか、
残高からみると低下を続けている、信用収縮が続いているということです。これは典型的
なクレジットクランチ状況です。
第2は、最近円が円安に振れたりいろいろしていますが、基本的には日本の経済の実力か
らすると 1980 年代後半以降円高が続いていると思います。ドル・ベースで見た日本の労働
者の平均賃金は世界一という状況が依然として続いています。
第3は、それと重なる格好で中国はじめ多くの発展途上国が一斉に改革開放政策をとり、
新たな、非常に強力な工業生産国になって、この世界の経済のゲームに参加したことです。
これらの国はすべて低賃金生産国です。したがって世界的な工業品に対する価格の下方圧
力が生まれ、同時に供給が大きいわけですから、世界的な価格面での大競争が起こってい
るわけです。
第4は、日本が過去何十年にもわたって追求してきた先進工業経済国に対する、いわゆる
キャッチアッププロセスが完了したことだと思います。
第5は、人口の高齢化があります。さらに技術のパラダイムがより知識情報集約的な技術
で付加価値を生みやすい方向にシフトしたことです。
以上のものは全て構造的な問題です。公共事業を増やしただけでは対応できない。我々は
構造改革が必要だと叫びながら、議論はしました。しかし以上述べたような構造不況要因
に本当に対応できなかったということだと思います。
最後に、小泉総理は構造改革なくして景気回復はないと言っていますが、むしろ景気回復
ではなくて、それ以上に重要なのは構造改革なしに成長のトレンド線の上昇はないという
ことだと思います。どうもありがとうございました。
MAKIN 小島さん、ありがとうございます。きわめておもしろい視点であったと思います。
次に青木先生、どうぞ。
Fly UP