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大学生の心理的な支えと自己愛的脆弱性との関連

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大学生の心理的な支えと自己愛的脆弱性との関連
教職研究
教職研究
2013. 第 6 号, 10-18
2013. 第 6 号 , 11-19
大学生の心理的 な支えと自己愛 的脆弱性との関 連
―自 己 対 象 体 験 による検 討 ―
神谷
真由美(信州大学 全学教育機構 教職教育部 講師)
髙野
恵代(広島大学大学院 教育学研究科)
1. 問 題
大学生にとって,
「 自 分 探 し 」は 避 け る こ と の で き な い 課 題 で あ る 。大 学 生 活 を 送 る な か
で,矛盾する感情に苦しんだり,場によって変わってしまう自分に悩んだりと,自分が何
者であるか実感が持てず,まるで自分がばらばらになってしまったかのように感じること
が あ る 。桐 山 (2010) に よ る と ,自 分 探 し の ゴ ー ル は ,ば ら ば ら の 自 分 を ,あ る 程 度 の ま と
まりのある 1 つの自分として自覚し,コントロールできるようになることである。これに
は自分は何者かという問いに正面から取り組み,論理的に考える力とともに,ばらばらの
自分を 1 つのまとまりとして受け入れ抱えてくれる他者の存在が必要であるという。つま
り,大学生が自分を確立していく過程では,心理的な支えとなる他者が必要となる。しか
し , こ の 心 理 的 な 支 え は 必 ず し も 他 者 で な け れ ば な ら な い の だ ろ う か 。 串 崎 (1997, 1998)
は,心理的に支えられているという感覚は,家族や友人,恋人などの現実の他者との関係
から得られるだけでなく,その個人の信念や人生観,宗教観からも得られることを明らか
にしている。
現 実 の 他 者 と の 関 係 に 限 ら な い 心 理 的 な 支 え に つ い て は , 精 神 分 析 家 の Kohut (1971 水
野 他 監 訳 1994, 1977 本 城 他 監 訳 1995, 1984 本 城 他 監 訳 1995) が 理 論 を 展 開 し て い る
(小 林 , 2006)。 Kohut に よ る と , 個 人 は 生 涯 , 自 己 を 支 え る た め に 必 要 な 体 験 で あ る , 自 己
対象体験を必要とする。この自己対象体験とは,特定の人物や対象,象徴との関係性によ
っ て 生 じ る 主 観 的 体 験 で あ る 。 Kohut は , 鏡 映 自 己 対 象 体 験 , 理 想 化 自 己 対 象 体 験 , 双 子
自己対象体験の 3 つの自己対象体験があるとした。鏡映自己対象体験は自分自身が表出し
た行動や感情を映し返してもらうことで自己が承認される体験,理想 化自己対象体験は理
想化した対象と融合することで安心感がもたらされる体験,双子自己対象体験は自己と対
象 の 間 に 類 似 性 や 共 通 性 を 感 じ る こ と で 心 理 的 に 支 え ら れ る 体 験 で あ る 。 ま た Kohut は ,
自己,自己愛の発達について,以下のように述べている。乳児は断片的な自己の状態であ
るが,養育者との融合の特質が強い原始的な自己対象体験を経て,自己の凝集性が高まっ
ていく。その後,十分な自己対象体験がありながら適量の欲求不満が与えられることによ
り ,自 己 対 象 体 験 が 担 っ て い た 自 己 を 安 定 化 さ せ る 機 能 を 内 在 化 し て い く (変 容 性 内 在 化 )。
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それにより健康な自己愛が形成され,原始的な自己対象体験を必要とせずとも,自律的に
自分の心理状態を安定させることが可能となる。一方,原始的な自己対象体験が不十分で
あったり,変容性内在化がうまくいかないと,自己愛の歪みや脆弱さをもたらす。それに
より自己愛的な傷つきやすさが顕著となり,自分の心理状態を安定させるために,いつま
で も 現 実 の 他 者 を 求 め 続 け る こ と に な る (上 地 , 2004; 中 西 , 1991)。 以 上 か ら , 大 学 生 の 心
理的な支えである自己対象体験と自己愛は,密接に関連していることが分かる。
Kohut (1971 水 野 他 監 訳 1994, 1977 本 城 他 監 訳 1995, 1984 本 城 他 監 訳 1995) の い う 自
己対象体験を実証的に捉えようと,自己対象体験を測定する尺度がいくつか作成されてい
る (Banai, Mikulincer, & Shaver, 2005; 小 林 , 2006; 緒 賀 , 2001; 白 井 , 2005, 2006 )。 こ の う
ち Banai et al. (2005),緒 賀 (2001),白 井 (2005, 2006) は ,大 学 生 を 対 象 に 自 己 対 象 体 験 と
自己愛傾向の関連を検討した。しかし,これらの研究で用いられた自己愛傾向を測定する
尺 度 は , Kohut の 理 論 を 十 分 に 反 映 し た 尺 度 で は な く , 一 貫 し た 結 果 は 得 ら れ て い な い 。
自 己 対 象 体 験 と 自 己 愛 傾 向 の 関 連 を 検 討 す る 際 に は , Kohut の 理 論 に 基 づ い た 自 己 愛 傾 向
を測定する必要がある。
上 地 ・ 宮 下 (2005, 2009) は Kohut の 理 論 を も と に ,自 己 の 脆 弱 さ を ,自 己 愛 的 脆 弱 性 と
概 念 化 し た 。自 己 愛 的 脆 弱 性 を “自 己 愛 的 欲 求 の 表 出 に 伴 う 不 安 や 他 者 の 反 応 に よ る 傷 つ き
な ど を 処 理 し ,心 理 的 安 定 を 保 つ 力 が 脆 弱 で あ る こ と ”と 定 義 し た 。上 地・宮 下 (2005) は ,
5 下 位 尺 度 , 40 項 目 か ら な る 自 己 愛 的 脆 弱 性 尺 度 (Narcissistic Vulnerability Scale; 以 下 ,
NVS) を 作 成 し た 。5 下 位 尺 度 の 内 容 は ,① 自 己 顕 示 抑 制 (自 己 顕 示 を 恥 ず か し い も の と 感
じ て 抑 制 す る 傾 向 ),② 自 己 緩 和 不 全 (不 安 や 抑 う つ を 自 分 で 緩 和 す る 力 の 弱 さ ),③ 潜 在 的
特 権 意 識 (自 分 へ の 特 別 の 配 慮 を 求 め る 傾 向 ), ④ 承 認 ・ 賞 賛 過 敏 性 (周 囲 か ら の 承 認 ・ 賞
賛 に 対 す る 過 敏 さ ),⑤ 目 的 感 の 希 薄 さ (自 己 を 方 向 づ け る 目 標 の 希 薄 さ ) で あ る 。そ の 後 ,
尺 度 の 総 項 目 数 が 多 い こ と か ら , 対 象 者 の 負 担 を 考 え 20 項 目 の NVS 短 縮 版 (上 地 ・ 宮 下 ,
2009) を 作 成 し た 。 そ の 際 , ⑤ 目 的 感 の 希 薄 さ は , 他 の 4 下 位 尺 度 が い ず れ も 他 者 へ の 反
応にみられる特徴を表現しているのに対し,目的感という個人内的な内容であること,ま
た「目的感の希薄さ」と他の 4 下位尺度の相関が非常に低いことから削除した。神谷・岡
本 (2012), 神 谷 ・ 岡 本 ・ 髙 野 (印 刷 中 ) で は ,こ の NVS 短 縮 版 を 用 い て ク ラ ス タ 分 析 を 行
い,大学生を自己愛的脆弱性の状態により類型化し,自己愛的脆弱性サブタイプを見出し
た 。 4 下 位 尺 度 得 点 全 て が 低 い 非 脆 弱 群 ,「 自 己 緩 和 不 全 」 が 高 い 自 己 緩 和 不 全 群 , 4 下 位
尺度得点全てが高い脆弱群,
「 自 己 顕 示 抑 制 」が 高 い 自 己 顕 示 抑 制 群 で あ る 。各 サ ブ タ イ プ
の 特 徴 を Table 1 に 示 す 。
以上から本研究の目的は,大学生の心理的な支えである自己対象体験と,自己愛的脆弱
性との関連を検討することを目的とする。まず,特性としての自己愛的脆弱性と自己対象
体験との関連を検討する。次に自己愛的脆弱性サブタイプにより,現在の自己対象体験の
特徴を見出すことで,両者の関連を検討する。
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Table 1
自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ の 特 徴 (神 谷 他 , 印 刷 中 , Table 1 を 再 構 成 )
NVS 短 縮 版 下 位 尺 度 得 点
サブタイプ 自 己 顕 示 自 己 緩 和 潜 在 的 承 認 ・賞 賛
抑制
非脆弱群
低い
不全
低い
特権意識
低い
特徴
過敏性
緊 張 や不 安 を自 分 で緩 和 する能 力 があり,心 理 的 安
定 を保 つ力 がある。他 者 から特 別 な配 慮 を求 める傾
向 ,承 認 ・賞 賛 への過 敏 性 ,自 己 表 現 を抑 制 する傾
向 は低 い。
低い
周 囲 への自 己 表 現 に抵 抗 はない。しかし,緊 張 や不
安 ,心 理 的 な傷 つきが生 じた際 に,独 りで処 理 すること
ができない。
心 理 的 な傷 つきを自 分 で抱 えられず,また,周 囲 から
の配 慮 を求 める。しかし,周 囲 の反 応 に過 敏 であり,自
脆弱群
高い
高い
高い
高い
己 表 現 を抑 制 しやすい。
心 理 的 な傷 つきを独 りで処 理 しようとする力 はある。し
自己顕示
高い
低い
中程度
中 程 度 かし,周 囲 への自 己 表 現 後 には,自 分 を出 しすぎたの
抑制群
ではないかと考 え,自 己 表 現 を抑 制 しやすい。
注 1) NVS 短 縮 版 下 位 尺 度 得 点 は,神 谷 ・岡 本 (2012),神 谷 他 (印 刷 中 ) の対 象 者 における標 準 化 得 点 から
の判 断 である。
自己緩和
不全群
低い
高い
中程度
中程度
2. 方 法
(1) 調 査 対 象 者
本 調 査 は , 神 谷 他 (印 刷 中 ) の 質 問 紙 調 査 の 際 に , 併 せ て 行 っ た 。 そ の た め 調 査 対 象 者
は ,神 谷 他 (印 刷 中 ) と 同 じ で あ る 。中 国 地 方 の 大 学 生・研 究 生・大 学 院 生 209 名 (男 性 70
名 , 女 性 138 名 , 不 明 1 名 ), 平 均 年 齢 20.18 歳 , 標 準 偏 差 1.28 歳 で あ っ た 。
(2) 手 続 き
講義時間終了後を利用した集団への実施と,個別の依頼により実施した。どちらも無記
名式の質問紙を配布し,その場で回答を依頼した。その際,質問紙への回答は任意である
こと,本研究に不参加でも教育を受ける上での不利益はないことを説明した。その上で,
質問紙への回答をもって対象者の同意を得たものとした。
(3) 調 査 内 容
心理的な支え
小 林 (2006) の 自 己 対 象 体 験 尺 度 を 用 い た 。本 尺 度 は ,
「鏡映自己対象体
験 (項 目 例 : 自 分 が す る 話 に は い つ も た い て い 興 味 を 持 っ て 耳 を 傾 け て く れ る )」「 双 子 自
己 対 象 体 験 (項 目 例 : ま る で 双 子 の 片 割 れ の よ う に , 自 分 と 同 じ よ う だ と 感 じ る こ と が あ
る )」「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 (項 目 例 : 自 分 よ り も 色 々 な こ と を 知 っ て い る )」 の 3 下 位 尺 度
で 構 成 さ れ る 。 対 象 者 が 自 己 対 象 体 験 を 十 分 理 解 し て 回 答 で き る よ う に , 小 林 (2006) と
同様,質問項目ごとに想定する人物が異なっても良いこと,実際に会ったことがない人物
でも良いこと,人物だけでなく,動物・言葉等どんなものでも良いことを教示した。評定
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は , “そ う 思 わ な い (1 点 )”~ “そ う 思 う (5 点 )”の 5 段 階 評 定 で あ り , 得 点 が 高 い ほ ど そ の
自 己 対 象 体 験 が 多 い こ と を 示 す 。 全 15 項 目 か ら な る 。
自己愛的脆弱性
上 地 ・ 宮 下 (2009) の NVS 短 縮 版 を 用 い た 。 本 尺 度 は ,「 自 己 顕 示 抑
制 (項 目 例 : 人 と 話 し た 後 に 『 あ ん な に 自 分 を 出 す の で は な か っ た 』 と 後 悔 す る こ と が あ
る )」「 自 己 緩 和 不 全 (項 目 例 : 悩 ん だ り 落 ち 込 ん だ り し た と き に 相 談 で き る 人 が 身 近 に い
な い と ,私 は 生 き て い け な い と 思 う )」
「 潜 在 的 特 権 意 識 (項 目 例 : 他 の 人 が 私 に 接 す る と き
の 態 度 が 丁 寧 で は な い の で ,腹 が 立 つ こ と が あ る )」
「 承 認・賞 賛 過 敏 性 (項 目 例 : 自 分 の 発
言 や 行 動 が 他 の 人 か ら 良 く 評 価 さ れ て い な い と ,そ の こ と が 気 に な っ て し か た が な い )」の
4 下 位 尺 度 で 構 成 さ れ る 。 “ま っ た く な い (1 点 )”~ “よ く あ る (5 点 )”の 5 段 階 評 定 で あ り ,
得 点 が 高 い ほ ど そ の 要 素 が 強 い こ と を 示 す 。 全 20 項 目 か ら な る 。
(4) 自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ
調 査 対 象 者 と 同 様 ,自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ も ,神 谷 他 (印 刷 中 ) と 同 じ で あ る 。NVS
短 縮 版 の 4 下 位 尺 度 を 用 い た ク ラ ス タ 分 析 (Ward 法 ) を 行 い , 4 下 位 尺 度 得 点 全 て が 低 い
非 脆 弱 群 が 82 名 ,
「 自 己 緩 和 不 全 」が 高 い 自 己 緩 和 不 全 群 が 45 名 ,4 下 位 尺 度 得 点 全 て が
高 い 脆 弱 群 が 50 名 ,
「 自 己 顕 示 抑 制 」が 高 い 自 己 顕 示 抑 制 群 が 32 名 で あ っ た 。各 サ ブ タ イ
プ の , NVS 短 縮 版 の 下 位 尺 度 得 点 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 を Table 2 に 示 す 。
Table 2
自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ の NVS 短 縮 版 下 位 尺 度 得 点 平 均 値
サ ブ タ イ プ (人 数 )
NVS 短 縮 版 下 位 尺 度 得 点 平 均 値 (標 準 偏 差 )
自己顕示
抑制
自己緩和
不全
潜在的
特権意識
承 認 ・賞 賛
過敏性
非 脆 弱 群 (n=82) 3.08 (0.67) 1.83 (0.45) 2.29 (0.60) 2.59 (0.63)
自 己 緩 和 不 全 群 (n=45) 2.90 (0.65) 3.14 (0.40) 2.15 (0.37) 2.79 (0.76)
脆 弱 群 (n=50) 3.82 (0.73) 3.25 (0.60) 3.45 (0.61) 3.84 (0.56)
自 己 顕 示 抑 制 群 (n=32) 4.24 (0.41) 2.31 (0.50) 2.29 (0.51) 3.70 (0.43)
注 1) 各 下 位 尺 度 の 総 得 点 を 項 目 数 で 割 っ た 数 値 を , 下 位 尺 度 得 点 と し た 。
3. 結 果
(1) 測 定 尺 度 の 検 討
自 己 対 象 体 験 尺 度 の 全 15 項 目 に お い て , 天 井 効 果 ・ 床 効 果 の 確 認 を 行 っ た と こ ろ ,「 理
想 化 自 己 対 象 体 験 」の 全 て の 項 目 (3 項 目 ; 「 自 分 よ り も 色 々 な こ と を 知 っ て い る 」,
「自分
よ り も 優 れ た 能 力 を 持 っ て い る 」,
「 自 分 に で き な い こ と が で き る の で ,す ご い と 思 う 」) で ,
天 井 効 果 が 認 め ら れ た 。 こ の 3 項 目 に つ い て は , 小 林 (2006) に お い て も 天 井 効 果 が 認 め
ら れ て い る 。 親 か ら の 分 離 と 親 に 代 わ る 新 た な 対 象 の 獲 得 が 課 題 と な る 青 年 期 (乾 , 2009)
に お い て は ,理 想 化 さ れ た 対 象 と み な し て い た 親 に 対 し ,脱 理 想 化 が 生 じ る 。そ れ に よ り ,
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親の代わりとなる仲間集団や青年期に特有の文化やアイドル,歴史上の英雄や芸術などを
理 想 化 自 己 対 象 体 験 の 対 象 と す る (Wolf, 1988 安 村 他 訳 2001)。 本 研 究 は 青 年 期 に あ た る
大学生を対象としていることから,親への脱理想化に伴い,親の代わりとなる理想化 の対
象 を 希 求 す る 傾 向 が 強 く ,理 想 化 自 己 対 象 体 験 が 多 く あ る と 考 え ら れ る 。そ れ に よ り ,
「理
想 化 自 己 対 象 体 験 」の 平 均 値 が 高 ま っ た と 推 測 さ れ る 。天 井 効 果 が 認 め ら れ た こ と に よ り ,
対象者の特性を,十分測定することができていないという問題がある。しかし, これらの
項 目 は 概 念 的 に 重 要 で あ る こ と か ら ,デ ー タ 解 析 に お い て は ,
「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」の 3
項 目 を 用 い る こ と に し た 。各 下 位 尺 度 の α 係 数 は「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」α= .79,
「双子自己
対 象 体 験 」α= .78,
「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」α= .81 で あ り ,十 分 な 内 的 整 合 性 が 確 認 さ れ た 。
NVS 短 縮 版 の 全 20 項 目 に お い て , 天 井 効 果 ・ 床 効 果 の 確 認 を 行 っ た が , 天 井 効 果 ・ 床
効 果 は 確 認 さ れ な か っ た 。各 下 位 尺 度 の α 係 数 は「 自 己 顕 示 抑 制 」α= .83,
「自己緩和不全」
α= .87,
「 潜 在 的 特 権 意 識 」α= .85,
「 承 認・賞 賛 過 敏 性 」α= .82 で あ り ,高 い 内 的 整 合 性 が
確認された。
(2) 自 己 愛 的 脆 弱 性 と 心 理 的 支 え と の 相 関
特 性 と し て の 自 己 愛 的 脆 弱 性 と 心 理 的 支 え と の 関 連 を 検 討 す る た め ,NVS 短 縮 版 と 自 己
対 象 体 験 尺 度 の 相 関 係 数 を 算 出 し た (Table 3)。そ の 結 果 ,中 程 度 以 上 の 相 関 は い ず れ も 認
め ら れ な か っ た 。弱 い 正 の 相 関 が み ら れ た の は「 自 己 顕 示 抑 制 」と「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」,
「 自 己 緩 和 不 全 」と「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」
「 双 子 自 己 対 象 体 験 」,
「 承 認・賞 賛 過 敏 性 」と「 理
想 化 自 己 対 象 体 験 」,「 総 得 点 」 と 「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」 で あ っ た (rs=.23~28, い ず れ も
ps<.01)。 弱 い 負 の 相 関 が 認 め ら れ た の は 「 自 己 顕 示 抑 制 」 と 「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」 で あ っ
た (r=-.20, p<.01)。
Table 3
自己愛的脆弱性と現在の自己対象体験の相関
NVS 短 縮 版
自己顕示
抑制
自己対象体験尺度
鏡映自己対象体験
双子自己対象体験
理想化自己対象体験
*p<.05, **p<.01
-.20**
-.14*
.25**
自己緩和
不全
.24**
.28**
.15*
潜在的
承 認 ・賞 賛
特権意識
過敏性
.08
.10
-.02
.02
.12
.25**
総得点
.05
.13
.23**
(3) 自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ に お け る 心 理 的 支 え の 特 徴
自己愛的脆弱性サブタイプを独立変数,自己対象体験の各下位尺度得点を従属変数とし
て 1 要 因 分 散 分 析 を 行 な っ た (Table 4)。そ の 結 果 ,自 己 愛 的 脆 弱 性 サ ブ タ イ プ の 主 効 果 が
「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」 (F(3, 205)=4.05, p<.01),「 双 子 自 己 対 象 体 験 」 (F(3, 205)=6.58, p<.01)
で認められた。
「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」に お い て は ,有 意 傾 向 が 認 め ら れ た (F(3, 205)=2.41,
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大学生の心理的な支えと自己愛的脆弱性との関連
教職研究 第 6 号
p<.10)。多 重 比 較 (Tukey 法 ) の 結 果 ,
「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」は ,自 己 緩 和 不 全 群 が 非 脆 弱 群
と自己顕示抑制群よりも有意に高かった。
「 双 子 自 己 対 象 体 験 」は ,自 己 緩 和 不 全 群 が 非 脆
弱 群 と 自 己 顕 示 抑 制 群 よ り 有 意 に 高 か っ た 。ま た ,脆 弱 群 は 非 脆 弱 群 よ り 有 意 に 高 か っ た 。
「理想化自己対象体験」は,自己顕示抑制群が非脆弱群より高い傾向があった。
Table 4
自己愛的脆弱性サブタイプの現在の自己対象体験の比較
非脆弱群
自己緩和
不全群
脆弱群
自己顕示
抑 制 群 F (3, 205)
M (SD)
鏡 映 自 己 対 象 体 験 3.77 (0.65)
M (SD)
4.14 (0.69)
M (SD)
M (SD)
3.95 (0.69) 3.70 (0.64)
4.05**
双 子 自 己 対 象 体 験 3.62 (0.54)
4.00 (0.55)
3.92 (0.56) 3.66 (0.51)
6.58**
多 重 比 較 (Tukey 法 )
非脆, 抑制 < 不全
非 脆 , 抑 制 <不 全 ;
非 脆 <脆
非 脆 <抑 制
理 想 化 自 己 対 象 体 験 4.43 (0.68) 4.51 (0.61) 4.62 (0.58) 4.74 (0.46) 2.41 †
注 1) 各 下 位 尺 度 の総 得 点 を項 目 数 で割 った数 値 を,下 位 尺 度 得 点 とした。
注 2) 多 重 比 較 の非 脆 =非 脆 弱 群 ,不 全 =自 己 緩 和 不 全 群 , 脆 =脆 弱 群 ,抑 制 =自 己 顕 示 抑 制 群 を示 す。
**p <.01, † p<.10
4. 考 察
本 研 究 は ,大 学 生 の 心 理 的 支 え と 自 己 愛 的 脆 弱 性 と の 関 連 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。
NVS 短 縮 版 と 自 己 対 象 体 験 尺 度 の 相 関 分 析 の 結 果 ,中 程 度 以 上 の 相 関 は 認 め ら れ な か っ た 。
特性としての自己愛的脆弱性と自己対象体験は,関連が弱いことが示された。
以下に,自己愛的脆弱性サブタイプの自己対象体験の特徴をあげ,自己愛的脆弱性と心
理 的 支 え と の 関 連 を 考 察 す る 。 非 脆 弱 群 は ,「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」 は 自 己 緩 和 不 全 群 よ り ,
「 双 子 自 己 対 象 体 験 」は 自 己 緩 和 不 全 群 と 脆 弱 群 よ り 有 意 に 低 か っ た 。
「理想化自己対象体
験」は自己顕示抑制群より低い傾向があった。これより非脆弱群の 大学生は,他群と比較
し て 3 つ の 自 己 対 象 体 験 が 少 な い 状 況 に あ る と 考 え ら れ る 。Kohut (1971 水 野 他 監 訳 1994,
1977 本 城 他 監 訳 1995, 1984 本 城 他 監 訳 1995) に よ る と ,個 人 は 生 涯 ,自 己 を 支 え る た め
に,自己対象体験を必要としている。しかし変容性内在化を経て,自己が発達していくに
従い,直接的な自己対象体験を必要とせずとも,自律的に自己を安定化させることが可能
となる。非脆弱群は自己愛的脆弱性が低く,自律的に心理的安定を維持する力を持ってい
る。そのため多くの自己対象体験を必要としなくても,心理的安定を維持することが可能
であり,自己対象体験が他群より少なかったと考えられる。
自己緩和不全群は,
「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」と「 双 子 自 己 対 象 体 験 」は 非 脆 弱 群 と 自 己 顕 示
抑制群より有意に高かった。自己緩和不全群は他群と比較して,上記の 2 つの自己対象体
験 が 多 く あ る 。「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」 は 自 ら の 感 情 を 理 解 ・ 共 感 し て も ら う 体 験 ,「 双 子 自
己 対 象 体 験 」は 類 似 性 や 共 通 性 を 感 じ る 体 験 (小 林 , 2006) で あ る 。こ の 2 つ の 自 己 対 象 体
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大学生の心理的な支えと自己愛的脆弱性との関連
験の多さは,この群の傷つきを独りで抱えることができないという自己愛的脆弱性の特徴
と関連すると考えられる。自己緩和不全群の大学生は,自らの力で心理的安定を保つこと
が脆弱であり,他者に感情の調整を求める。そのため,他者から共感してもらう体験や,
他者と共通性を感じる体験が多く必要になるであろう。
脆 弱 群 は ,「 双 子 自 己 対 象 体 験 」 が 非 脆 弱 群 よ り 有 意 に 高 か っ た 。 自 己 緩 和 不 全 群 と 同
様,この群の傷つきを独りで抱えることができないという自己愛的脆弱性の特徴が,対象
との類似性や共通性を感じる体験である「双子自己対象体験」の多さと関連していると考
えられる。しかし,自己緩和不全群は非脆弱群や自己顕示抑制群よりも「鏡映自己対象体
験」が有意に高かったが,脆弱群は,非脆弱群や自己顕示抑制群よりも平均値は高いもの
の,有意差は認められなかった。これは,この群の 大学生が持つ傷つきを独りで抱えられ
ないという特徴に加えて,承認・賞賛過敏性,自己顕示抑制,潜在的特権意識など自己愛
的脆弱性の全般的な高さが関連していると考えられる。近年,自己愛傾向を誇大型自己愛
傾 向 と 過 敏 型 自 己 愛 傾 向 の 2 つ の 視 点 か ら 捉 え る こ と が 隆 盛 と な っ て お り , Kohut の 理 論
で 述 べ ら れ て い る 自 己 愛 傾 向 は 過 敏 型 自 己 愛 傾 向 と い わ れ て い る (Gabbard 1994 舘 監 訳
1997)。 そ の た め Kohut の 理 論 に 基 づ い た 自 己 愛 的 脆 弱 性 が 全 般 的 に 高 い 脆 弱 群 の 大 学 生
は , 過 敏 型 自 己 愛 傾 向 が 高 い 大 学 生 と も い え る 。 吉 井 (2007) に よ る と , 過 敏 型 自 己 愛 傾
向者は強い対象希求を持ちつつも,過敏で傷つきやすいがゆえに,人への接近回避葛藤を
もつ。このような過敏型自己愛傾向者との心理面接では,過敏型自己愛傾向者は,自己愛
が傷つかないように面接者と一定の心理的距離をとることを求める。その際,心理的距離
を保ちながら過敏型自己愛傾向者の不安や抵抗を和らげるためには,双子自己対象体験が
重 要 と な る (吉 井 , 2007)。 つ ま り , 潜 在 的 に は 理 想 へ の 強 い こ だ わ り を 持 つ 過 敏 型 自 己 愛
傾向者にとって,面接者も自分と同様,不完全な人間と分かることは,親しみや安心感を
も た ら す 。 そ の た め 脆 弱 群 は , 心 理 的 安 定 を 保 つ た め に ,「 双 子 自 己 対 象 体 験 」 が 多 く あ
ると考えられる。
自 己 顕 示 抑 制 群 は ,「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」 と 「 双 子 自 己 対 象 体 験 」 は 自 己 緩 和 不 全 群 よ
り 有 意 に 低 く ,「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」 は 非 脆 弱 群 よ り 高 い 傾 向 が あ っ た 。 自 己 顕 示 抑 制
群の大学生は,自らの感情を共感してもらう体験や,共通性を感じる体験はあまりない。
これは,この群の自己顕示抑制の高さと関連すると考えられる。他者に自己顕示欲求をは
じめとした,自己の感情を表現することへの抵抗が強いため,これら 2 つの自己対象体験
が少なくなっていると考えられる。対象との共感的な自己対象体験や,共通性を感じる自
己対象体験が少ない状況において,自己顕示抑制群の自己を支えるのは理想化自己対象体
験である。対象を理想化し,融合することにより,心理的安定を図っていると考えられ
る 。 し か し 「 鏡 映 自 己 対 象 体 験 」「 双 子 自 己 対 象 体 験 」 よ り ,「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」 を 重
視するあり方は,自己の感情や欲求,考えを軽視することにつながる可能性もある。例え
ば,他者から認められたいという欲求があった場合,それを他者に表現し,他者から共感
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大学生の心理的な支えと自己愛的脆弱性との関連
教職研究 第 6 号
されたり,他者も同様の感情や考えを持っていると 分かることで,自身の欲求が認められ
る体験となる。このように自己を承認されることで,自身の感情,考え,欲求などを重視
し,他者に対しても自己表現を行っていくことにつながる。このような自己を承認される
体 験 が 乏 し い な か で ,「 理 想 化 自 己 対 象 体 験 」 が 多 く な れ ば , 理 想 化 さ れ た 対 象 と 自 己 を
比較し,劣等感を強め,自己の感情や欲求などを軽視し,さらに自己表現への抵抗 が強ま
る可能性がある。
以上から,自己愛的脆弱性サブタイプにより,自己対象体験のあり方に差がみられた。
自己愛的脆弱性に問題がないと思われる非脆弱群は,調査時点で全ての自己対象体験が,
他群より低かった。一方,自己愛的脆弱性に何らかの課題を抱える他の 3 群は,それぞれ
自己対象体験の種類は異なるものの,多くの自己対象体験があった。この結果は,自己愛
的脆弱性を抱えた大学生は,自律的に心理的安定を維持することが困難であり,そのため
に心理的な支えを多く必要とすることを示している。加えて,自己愛的脆弱性の形成の背
景に,変容性内在化が不十分であることが推察される。
本研究では自己対象体験尺度を用いたことで,大学生の心理的な支えがどの程度あるか
という量的側面を捉えることができた。しかし,この心理的な支えがどのような内容であ
るかという質的側面を捉えていない。例えば,自己対象体験が少なかった大学生のなかに
も,実は心理的な安定のために,一人の友人に過度に依存し,自他が融合したような原始
的な自己対象体験をしている可能性がある。この場合,この大学生は量的側面のみを捉え
ると自己対象体験が少なくなり,自律的に心理的安定を保つことができるとみなされる可
能性がある。しかし質的側面も踏まえると,自律的に心理的安定を保つ力は脆弱である。
したがって今後は,心理的な支えの質的側面も含めて捉えていく必要がある。
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