Comments
Description
Transcript
研究授業と研究協議
【Iブロック】 研究授業と研究協議 神戸市立長坂中学校 則 本 康 丞 1.は じ め に Iブロックでは、平成20年11月18日に、長坂中学校において研究授業や研究協議を行った。研究協 議では各校の実践報告や、情報交換、意見交換を行った。 2.研 究 授 業 選択理科 学 習 指 導 案 神戸市立長坂中学校 則 本 康 丞 1.単 元 キノコ栽培 2.日 時 平成 20 年 11 月 18 日(火) 6校時 14:25 ~ 15:15 3.場 所 南 理 科 室 4.対象学級 2年8組(男子 17 名、女子 21 名、計 38 名) 5.教 材 観 現在の指導要領においては、第1学年で植物、第2学年で動物について学習する が、菌類についての学習は行なわれない。このため、生物は植物と動物の2種類で、 菌類が植物であると考える生徒が多いものと思われる。 一方で生徒たちは、日常の食生活でシイタケをはじめ、エノキタケ、ブナシメジ、 キクラゲなど様々なキノコに接している。また、私たち大人でも、シイタケのホダ 木栽培は知っていても、食料品店で売られているキノコが、おがくずや米ぬかなど からなる菌床で栽培されていることを知らない者が多い。 このため、第3学年で分解者、生物どうしのつながりについて理解しやすくする ために動物の分類が終わった段階で、キノコ栽培の選択授業を2時間設定した。 6.指導の流れ 1時間目 菌類の特徴 キノコ栽培の簡単な手順説明 2時間目 エノキタケの純粋培養(組織の分離) 主菌の植え付け(接種) おがくず培地作り ………… 本時 - 33 - 7.本時の展開 段 階 導 入 展開の大要 留意点の説明 生 徒 の 活 動 資料の注意点を読む。 留 意 点 安全と、雑菌混入を防ぐための、具 体的な指示 展 開 ・作業1の演 ・コツを説明しながら演示する。 示、説明 ・組織の分離 ・机間巡視しながら、アドバイスす ・一人一本ずつ、試験管の寒天培 地にエノキタケの組織を植えつ ける。 る。 ①火炎滅菌については、火傷、火 災に注意すること。 ②滅菌していないものと滅菌した ・作業2の演 ものの扱いを区別をきちんとす 示、説明 ・接種 る。 ・一班に二本ずつのおがくず培地 に種菌を植えつける。 ③滅菌していないものに触れたら、 手指をもう一度アルコール殺菌 する。 ・作業3の演 示、説明 ・おがくず培 時間が足らなければ、作業3は省略 ・おがくず、米ぬか、水を混合し、する。 地作り 器具の片付け 集気ビンに詰める。 器具を洗って、指定された場所に 置く。 まとめ 自己評価 作業がきちんとできたか振り返る。・作業に真面目に取り組めたか。 ・微生物の存在を意識しながら、作 業ができたか。 【生徒配布資料①】 1.キノコはどのような生物か。 植 物 カビ・キノコのなかま 動 物 葉緑体を持ち、光合成をす からだは糸状の菌糸でできている。 葉緑体を持たない。 る。無機物から有機物を作 葉緑体を持たない。 有機物を食べ、体内で吸収す る。 有機物をからだの外で消化し、から る。 ワラビやゼンマイなど、胞 だの表面から吸収する。 子でふえる植物もある。 胞子でふえる。 昔は、キノコは植物であると考えられていた。現在は、カビ・キノコのなかまは、体の構造や細 胞を作っている物質の違い、生活のしかたなどから、植物でも動物でもない独立したグループであ るという考え方が主流である。 キノコは枯れ木や腐葉土などから生えてくるが、その枯れ木や腐葉土の中にカビ状の菌糸がまん 延している。これがキノコの本体である。一般に “ きのこ ” と呼ぶ目に触れる部分(子実体)は、 胞子を作るためにできたキノコの体の一部である。 - 34 - 枯れ木や落ち葉、動物の遺がいや排泄物などの有機物は、キノコやカビ、いろいろな微生物のは たらきで、最終的に二酸化炭素、水、その他の無機物に分解される。このようにしてできた無機物 は、植物が吸収して有機物を作る材料にする。 2.店で売っているキノコ 食料品店にはシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、マ イタケ、エリンギ、ナメコ、キクラゲなどが売られてい る。これら7種類のキノコは、自然の中ではいずれも枯 れた木から生えてくるが、店で売っているものはいずれ も栽培したものである。 枯れ木を腐らせるキノコの多くは、おがくずや米ぬか などを材料とした培地で栽培(菌床栽培)される。右図 は、エノキタケの栽培の概要である。 ① 原料の混合 おがくず、米ぬか、水をよく混ぜる。 ② びん詰め PPびんなどに培地を詰め、ふたをする。 ③ 滅菌 米ぬかは、他の微生物にとっても良好な栄養源であ る。培地を殺菌しておかないと、キノコの菌糸が生育 できない。高温・高圧で培地の中の微生物を殺す。 ④ 放冷 滅菌した培地を 20℃くらいまで冷ます。 ⑤ 接種 微生物が混入しないように、種菌を培地に植えつける。 ⑥ 培養 菌糸が生長しやすい環境条件を整え、培地に菌糸をまん延させる。 ⑦ 子実体の発生 子実体が発生する環境条件を整える。菌かき、発芽、生育。 3.種菌 栽培用の種になる純粋培養されたキノコの菌糸を種菌という。キノコ栽培農家はメーカーから種 菌を購入するが、2.⑥で菌糸がまん延した培地を次の栽培の種菌とすることもある。また、キノ コの組織を分離・培養し、自作することもできる。ただし、種菌メーカーの権利を侵害しないよう に気をつける。 - 35 - 〈キノコ菌糸培養のための寒天培地の一例〉 ビール酵母製剤5ℊ、ショ糖 20ℊ、粉末寒天 15ℊを水 1000㎖に煮溶かし、試験管などに分注 する。これを圧力鍋を使い、高温・高圧になってから約 20㎖分間加熱・滅菌する。 【生徒配布資料②】 選択理科 キノコ栽培 初歩のバイオテクノロジー・クローンきのこ ○作業の前に 机、いす、空気中のほこり、ヒトの皮膚、衣服、だ液の中…いたるところに微生物がいる。この 微生物が入ってしまうと、キノコ栽培は失敗してしまう。次の注意点を必ず守る。 ・手を石鹸で洗い、アルコール消毒をしてから作業する。 ・ほこりが舞い上がらないように、ばたばたしない。勢いよく息を吐かない。 ・作業中にしゃべったりして、だ液が飛ばないようにする。 ・滅菌した器具を使う。 ○作業1 菌糸の分離・培養 滅菌した寒天培地に、無菌的に分離したキノコの菌糸を植え付け、培養する。新鮮な子実体の内 部は微生物に汚染されていないので、子実体の内部の菌糸を取り出す。 [材料・器具] エノキタケ 斜面培地 水槽 ガスバーナー ピンセット(先の尖ったもの)柄つき針 滅菌水 エタノール [方 法] ① 水槽の中・すべての器具をエタノールで消毒し、水槽の中 に消毒した器具を並べておく。 ② 斜面培地のアルミホイルを、ガスバーナーの炎にさっと通 して滅菌する。 ③ 斜面培地を横に倒してアルミホイルをはずす。 そして、横に倒したまま水槽の中に置く。 - 36 - ④ ピンセットの先をガスバーナーの炎に通して滅菌し、滅菌水で冷やす。 ⑤ ④のピンセットで、図A・Bのようにエノキタケの傘を下から押し上げ、傘をはずす。 ⑥ ピンセットの先をガスバーナーの炎に通して滅菌し、滅菌水で冷やす。 ⑦ ⑥のピンセットで、図Cのように茎の上部に残った菌糸をつまみ取る。 ⑧ 柄つき針の先をガスバーナーの炎に通して滅菌し、滅菌水で冷やす。 ⑨ ⑦でつまみ取った菌糸を⑧の柄つき針の先にとり、斜面培地にのせる。 ⑩ 再びアルミホイルでふたをする。 ⑪ 20 ~ 25℃に置き、菌糸を生長させる。 ○ 作業2 おがくず種菌の接種 最近では、クワガタムシの幼虫を飼育するための様々な菌糸ビンが販売されている。これを種菌 として、培地に植え付けをする。 [材料・器具] ヒラタケ菌糸ビン(種菌として使用) おがくず培地 水槽 ガスバーナー 薬さじ 滅菌水 エタノール [方 法] ① 水槽の中・すべての器具をエタノールで消毒し、水槽の中に消毒した器具を並べておく。 ② 薬さじをガスバーナーの炎に通して滅菌し、滅菌水で冷やす。 ③ 微生物が混入している危険があるので、種菌の上部2~3㎝くらいをかき出して捨てる。 ④ 薬さじをガスバーナーの炎に通して滅菌し、滅菌水で冷やす。 ⑤ 薬さじで種菌をできるだけ細かく砕き、おがくず培地の穴に十分に入れ、おがくず培地の表 面を覆うように接種する。 ⑥ 再びアルミホイルでふたをする。 ⑦ 20 ~ 22℃に置き、菌糸を生長させる。 ○作業3 おがくず培地作り [材料・器具] おがくず(防腐剤が入っていないもの・今回は昆虫用マッ トを使用) 米ぬか(新しいもの) 水 バット 集気ビン アルミホイル ガラス棒 乳棒 [方 法] ① 原料の混合 まず、おがくずと米ぬかをよく混ぜてから、少しずつ 水を加える。おがくずと米ぬかは、ふつう体積比でおが くず3に対して米ぬか1の割合。含水率は 65 ~ 70% になるようにする。これは、強く握りしめて、指の間か ら水がにじみ出る程度である。 - 37 - ② びん詰め 集気びんなどに培地を詰める。下の方は比較的柔らかく詰め、上の方は少し硬く詰めるよう にする。乳棒を使ってつき固めるように詰めていく。詰め終わったら底まで空気が通るように、 培地の中央に棒をさして穴をあける。最後に、ビンの口周辺の汚れをきれいにふき取る。ビン の口周辺が汚れていると、培養中に微生物が混入しやすい。栓はアルミホイルをかぶせる。ア ルミホイルのしわが空気の通路になる。 【実験後の経過】 本校にはオートクレーブやクリーンベンチ、無菌箱などの設備はない。しかし、調理用の圧力鍋 で十分に滅菌はできた。また、無菌箱の代わりに、60㎝水槽を立てて置いた中で作業を行ったが、 子実体からの組織分離・寒天培地への接種では、雑菌混入は約 20%に収まった。オガクズ培地へ の種菌の摂取では、50%に雑菌が混入した。集気ビンの開口部が大きいことや、空気中の雑菌に 対する意識が少なく、初めて接種を経験した生徒たちの作業 であることを考えれば、十分に好成績といえるだろう。 温度・湿度の管理が十分にできなかったため、菌糸の成長 は非常に遅かった。それでも 2 学期の末には、エノキタケ の組織を植えつけた寒天培地は、真っ白なカビ状の菌糸が蔓 延した。その後は放置していたのだが、子実体が発生したも のも現れた。 オガクズ培地は、雑菌混入を免れた 6 本にヒラタケの菌 糸が蔓延した。これらを菌かき、注水して発芽を待ったとこ ろ、1 本だけ学期末に子実体が発生した。 菌糸の蔓延した培地、子実体が発芽して間もない状態のも の、ようやくキノコらしい形になったものなどを、生徒に見 せたが、興味深そうな者、気味悪がる者、反応はさまざまで あった。観察後は、食 用せずに廃棄した。 - 38 - 3.研 究 協 議 〈研究授業について〉 ・動物でも植物でもなく菌類にスポットをあてたのはとても興味深かった。生徒たちにとって農学部で 行なわれる研究内容というのはなかなか知る機会もなければ興味も持ちにくい。しかし今回の実験を 経験することによって、興味を持たせることができたのではないか。 ・農学部で研究した内容をオートクレーブ等の装置がない中学校の実験室で行なうということでとても 驚いたが、生徒たちの心に深く残ったのではないか。しっかりと滅菌した培地でキノコを栽培するの が難しければ、カビが生えるのを観察させるのでもいいと思う。 ・今回の実験では滅菌をすることが大切になってくるが、この操作を通して普段は気にしない空気中に 存在する微生物にも意識を向けることができていた。 ・どんな実験を行なうにしても失敗はつき物である。しかし実際にやってみたことは絶対に心に残る。 失敗しやすい実験でも実際にやってみることに意味があるのではないだろうかということを再確認で きた。 ・がんばろう、しっかりと取り組みたいと思えている生徒が多いから演示実験に目がいき、班のメンバー が作業をしているところに目がいくのだと思う。生徒たちに何かさせてやることが大切だと感じた。 ・演示実験の際、手元が見えにくかった。CCD カメラを使ってモニターに映すなどの工夫ができてい れば生徒全員に見せる事ができた。 ・実験前の注意事項としてガスバーナーの近くにエタノールを置いておくのは危険だと伝えてはいたも のの、実際には危険な班がいくつかあった。 ・実験の結果としてキノコが成長するには2週間ほどかかるということだが、成長過程の写真などを用 意しておいて見せたかった。個人的にも見たかった。後日是非成長したキノコを生徒たちに見せてあ げてほしい。 〈各校の授業を行なう際の工夫〉 ・植物の分類の授業:黒板にランダムに選択させた植物の写真を仲間わけして貼っていく。生徒個人に はワークシートと縮小した写真を配っておいて、黒板で仲間わけしたものを同じようにワークシート に貼らせる。導入では野菜を何種類か用意し、仲間はずれ探しをさせる。実物を用意すると生徒は興 味を持つ。 ・教材:黒板に貼れる原子のモデルを作成する際、コンパスカッターを使って作ると簡単にできる。理 科係の生徒を使って作らせるとその教材を大切にする。またセメント抵抗もアクリル板とボルトを 使って針金が切れないような工夫をして作っている。人体模型は生徒に運ばせてやると、興味を持ち やすくなる。 ・化学反応式:教科書に載ってある化学反応式を抜粋して、まとめたワークシートを配ってやる。 ・わかる授業:その日の授業のテーマを必ず黒板のどこかに残しておくことが大切。また授業中に声を 出させることを意識している。グループで教科書を音読させることも有効。ノートは教師がしっかり と計画を立てた板書をおこない、わかるノート作りを徹底させている。ノート展示会をひらいて生徒 同士での評価も行なっている。 ・授業の進め方:生徒の集中力が持たないので、15 分板書を写させたらプリントを貼らせる、ワーク の問題を解かせるというように時間を区切ってそれぞれすることを変えている。実験室に生徒を入れ ると遊んでしまって危険なのでなかなか実験ができない。 - 39 -