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〔症例〕 多発関節炎で発症した成人男性のB群溶連菌感染症の1例 中 村 臺 は 祥 野 子 川真田 伸 子 高 橋 世 巧 入宇田 子 尾 泰 じ め に 多発関節炎で発症し,化膿性髄膜脳炎,化膿 智 形 和 検査所見では CRP,白血球,血清クレアチニ ン値の上昇,尿蛋白,尿潜血,膿尿を認めた (表 3)。 性脊椎炎,腸腰筋膿瘍などを併発した成人男性 臨床経過を表4,5 図2に示す。多発関節 B群溶連菌感染症を経験したので, 察を加え 炎であることから膠原病を疑って検索を進めて 報告する。 いたが,腎障害が日に日に進行し,血管炎によ 症 例 る急性腎不全と え,第4病日腎生検を行い, 血液培養を採取した後にステロイドパルス療法 62才男性で,関節痛と発熱を主訴とし,既往 表2 歴・職歴・家族歴・生活歴は表1に示す。 2006年 12月3日に 37度の発熱あり,2日後 に多発関節痛を呈し,近医を受診し,上気道炎 入院時現症 との診断で対症療法を行うも,症状が増悪し, ・意識清明 血圧 125/86mmHg 歩行困難となり 12月9日に当院に搬送となる。 ・脈拍 104bpm,整 入院時現症(表2)では,37度の発熱と洞性 頻脈を認める他は特にバイタルサインに異常は なかった。胸鎖関節・指関節を含め計 12関節に 体温 37.0℃ ・呼吸数 18回/ SpO 94∼96%(room air) ・頭頚部・胸部・腹部に特記事項なし ・胸鎖関節・指関節含め計 12関節にて発赤・圧痛,軽 度の腫脹を認めた。 発赤・圧痛と軽度腫脹を認めた。 表1 ・62歳 男性 172cm 73kg, ・主訴:関節痛,発熱 ・既往:両側副鼻腔炎(術後) ・職歴:トラック運転手,事務職など ・家族歴:母が RA ・生活歴:喫煙 30本/日×41年 飲酒 焼酎2合/日 ・アレルギーなし 輸血歴なし 内服なし 表3 ・検査所見 WBC:11,900/μl CRP:47.4mg/dl 血清 Cre:1.48mg/dl ・尿:混濁(+) タンパク(2+) 潜血(3+) WBC(2+) ・心電図・胸部X線写真に特記事項なし Case report for Group B Streptococcus infection that initially represeuted as polyarthralgia Nakamura, S., Takahashi, S., Daino, T., Ogata, K.:勤医協中央病院内科 合診療部 Kawamata, N.:現籍 勤医協札幌病院小児科 Iriuda, S.:同 内科 Vol. 31 59 北勤医誌第 31巻 2007年 12月 を施行した。第5病日に意識レベルが JCS 表4 - 200まで低下した。髄液所見・脳 M RI 所見から 髄膜脳炎と診断した。髄液所見では細胞の上昇 は軽度であったが好中球優位であり,また糖の 低下をみとめた(表5)。 頭部 M RI では,拡散強調で左前頭葉に脳回 に って高信号域が見られ,T2,FLAIR では 同部位に軽度高信号域がみられた。M RA では ・多発関節炎+腎不全が日に日に進行→血管炎を疑っ た ・第4病日に腎生検・血液培養採取を行った後ステロ イドパルス療法を開始した。 ・第5病日:意識障害が出現→髄液所見・M RI から髄 膜脳炎と診断した。 ・血液培養から GPC が検出→ CTRX,VCM ,アシク ロビルによる治療を開始 ・第7病日:Streptococcus agalactiae(GBS)が検 出→ PCG に変 し,治療を継続した。 主幹動脈の閉塞などは認めなかった(図1) 。 前日採取していた血液培養からグラム陰性球菌 表5 が検出されたため,抗生剤 (セフトリアキソン, バンコマイシン)とアシクロビルの投与を開始 した。第7病日に血液・髄液の療法から Strepto- ・髄液所見 coccus agalactiae(GBS)が検出されたため, 細胞数 86/3mm (好中球 85%,リンパ球 15%) ペニシリン G 単剤による治療に変 した。 血液混入(−) 黄色調(−) 日光微塵(−) その後,腸腰筋膿瘍を併発し外科的ドレナー 繊維素析出(−) Cl:112mEq/dl Glu:30mg/dl 蛋白 167mg/dl ジを行った。また化膿性脊椎炎を併発し(図2, 3) ,抗生剤治療とリハビリを継続した。第 123 病日に CRP は陰性化し,独歩退院となった。 拡散強調 T2 FLAIR MRA T2 図 1 M RI Vol. 31 60 多発関節炎で発症した成人男性のB群溶連菌感染症の1例 図2 腸腰筋膿瘍 CT(第 17病日) 化膿性脊椎炎 MRI(第 59病日) 図3 察 Group B streptococcus(Streptococcus agalactiae)は,妊娠や新生児に比較的多く認め られる感染症だが,近年非妊娠成人の感染が増 表6 ・併存症:糖尿病,悪性疾患,肝 変など ・予後不良因子:65歳以上,CNS 疾患,アルコール依 存,腎不全,意識障害,長期臥床 加している(この 20年で2−4倍程度) 。その 中では原発不明 の 菌 血 症(primary bacterが全体の 20−40%を占め,死亡率が高い emia) ことで知られている。死亡率は 15−70%と研究 Vol. 31 61 北勤医誌第 31巻 2007年 12月 によってばらつきがある。併存症として多いの は糖尿病,悪性疾患,肝 変であり,予後不良 因子は表6に示す通りである。本症例ではいず れも認めなかった。 語 妊娠と関連の無い成人の GBS 感染症を経験 した。GBS 感染症では特有の症状もなく,また 原発不明の primary bacteremia として発症す ることも少なくなく,多発関節炎が初発症状と して現れることもある。感染症が否定できない うちは血液培養など検体を取っておくことが診 断につながるといえる。 Schuchat A, Wenger JD, et al: A population- 文 group B Streptococcus in nonpregnant adults. N Engl J M ed 328:1807-1811, 1993 3) John M . Colford Jr. M . D., M . P. H., Janet M ohle-Boetani,M .D.,Kenneth L.Vosti,M .D.: Group B Streptococcal Bacteremia in Adults Five Years Experience and a Review of the Literature. M EDICINE 74-4:176-191, 1995 4) Up To Date 2006 (14.3) 5) Po-Yen Huang, M ing-Hsun Lee, Chien-Chang Yang,Hsieh-Shong Leu:Group B streptococcal bacteremia in non-pregnant adults.J M icrobiol Immunol Infect 39:237-241, 2006 献 1) Moven S. Edwards, Carol J. Baker: Group B Streptococcal Infections in Eldery Adults. Vol. 31 62 2) Farley M M , Harvey RC, Stull T, Smith JD, based assessment of invasive disease due to 結 参 AGING AND INFECTIOUS DISEIASES 41: 839 -847, 2005 6) Hilary L. Reich, M D, Glen H. Crawford, M D, M ichelle T. Pelle, M D et al: Group B Streptococcal Toxic-Like Syndrome. ARCH DERM ATOL 140;163-166, 2004