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ハウスに一歩入ると甘いイチゴの香りとともに、株から飛び出すように

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ハウスに一歩入ると甘いイチゴの香りとともに、株から飛び出すように
ハウスに一歩入ると甘いイチゴの香りとともに、株から飛び出すように連なった赤いイ
チゴが目に入ってくる。少し畝間を歩くと、頭上をブゥ-ンとかすめるものがある。白い
花に止まっては、次の花に移動しているミツバチである。イチゴ農家では、冬から春にか
けて養蜂家からミツバチを借り受け、ハウスの中に巣箱を置いているのだ。
意外なことに、イチゴの果実はキ
ュウリやトマトのように、種子が大
きくなったものではなく、雌しべや
雄しべが乗っている台座の部分が肥
大したもの。台座は植物学の用語で
花托といい、果実は本物でないとし
て偽果といわれている。
本来の種子は、果実の表面にある
ツブツブの中に納まっていて、一つ
の果実に 300 粒もあるのだ。
花托は、種子ができる際に分泌されるホルモンの働きによって肥大するため、種子がで
きない部分は萎縮し、とてもイチゴとは思えないような姿に変形してしまう。そのため、
300 ほどの雌しべがすべて受粉し、種子になるには、訪花昆虫であるミツバチの働きが必要
なのだ。彼らは実に根気よく、平均して 10 回以上は一つの花に訪れ、蜜や花粉を集めなが
ら、完成度の高い受粉作業を行ってくれる。このため、ハウスのイチゴはミツバチが作っ
ている、といっても過言ではない。
ミツバチは、本来、学習能力が高いことで知られており、ハウスに入れると二十分ほど
巣箱の周りを飛び回って、巣の場所を記憶にとどめる行動をとる。ただし、その後、巣を
少し横の方に移動させると、もはや巣に戻ることはできなくなってしまう。どうも、彼ら
は飛行時間と太陽の角度によって場所を判断しているらしく、その誤差は 2m ほどのようで
ある。そのため、ハウスの中では方角を見失わないよう、巣箱ちかくに目印を吊り下げて
誘導するよう推奨されている。
ところで、働きバチは蜜や花粉を集めたり、巣の掃除や空調に気ぜわしく働くことから、
その労働時間を計った人がいる。粘り強い観察の結果によれば、一日のうち、食糧調達に
費やす時間はおよそ 7 時間とサラリ-マン並にあり、人の睡眠にあたる休息時間は 4 時間
ほど。残り 13 時間は、ブラブラしているらしい。
ブラブラと言っても別に遊んでいるわ
けではなく、筋肉を動かして飛ぶために
必要な体温(27℃)を保っていたり、蜜の在
り処を知らせに戻る仲間を待って待機し
ていたりする。
このため、実質的な勤務時間は 21 時間
もあり、土日の休みが無いだけに、とて
も人に頼める仕事ではない。働きバチと
いわれる由縁である。
現在、ハウスで働いている蜂はニホンミツバチ
である。セイヨウミツバチよりもひと回り小型で、
寒さや病気、ダニなどに抵抗性が強く、天敵であ
るスズメバチの攻撃に対しては 100 匹以上が団子
になって押し包み、50℃近くの熱によってやっつ
ける集団的な防衛力をもっている。
一方、セイヨウミツバチは一匹ずつ戦うために
ススメバチにかみ殺され、巣は壊滅してしまう。
ニホンミツバチは、どこか日本人に似たところが
あるのかもしれない。
〔参考〕
農林水産研究ジャ-ナル 18 巻 4 号 1995 年
農林水産研究ジャ-ナル 25 巻 12 号 2002 年
資源としての価値
ミツバチの生態学
玉川大学
P46 働きバチの労働時間
梅谷献二
P41~44 日本在来種ミツバチ、その現状と遺伝
佐々木正己
ト-マス・D・スィ-レン著
大谷
剛訳
文一総合出版
平成元年
(愛媛県農林水産研究所 HP ikegami)
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