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基本をおろそかにしない心構えで 「住宅建設現場ならではの安全対策」を

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基本をおろそかにしない心構えで 「住宅建設現場ならではの安全対策」を
現場を訪ねて
三菱・JX日鉱日石鷺沼2丁目2期新築工事 作業所
基本をおろそかにしない心構えで
「住宅建設現場ならではの安全対策」を追求
現場の様子
■工事場所 神奈川県川崎市宮前区鷺沼2-8-5他
■工 期 2011年5月26日~ 2012年3月1日
■事 業 主 三菱地所レジデンス㈱・JX日鉱日石不動産㈱ ■施 工 東急建設㈱ 住宅事業部
■所 長 加藤 和良
渋谷から約17分、東急田園都市線の急行停車駅で
もある鷺沼の高台に、
「緑と風の街」をテーマにした
戸建住宅の新築工事事業「ドリームズ・デザイン鷺沼
公園」の現場はある。駅から徒歩10分の距離にある
この住宅地は、さぎ沼中央通りなどの商業施設や鷺沼
公園、小中学校にもほど近く、それでいながら高級住
宅街の落ち着いたたたずまいとなっている。都市の利
便性と緑豊かな環境の調和を高いレベルで実現した好
とはなく、こうした現場での工事が大変難しいもので
例と言えるだろう。この「ドリームズ・デザイン鷺沼
あろうことは、容易に想像される。実際、一期工事の
公園」は、今から3年前の平成20年5月に着工した、
ときから近隣住民の中には、工事の進め方や騒音につ
全部で19棟からなるもので、震災の影響などで一時
いて心配する声が少なからずあったそうだ。
作業が中断したこともあったが、現在は3~4期分、
騒音については、この現場では主に作業時間を工夫
2012年2月、3月に竣工予定の、残り4棟の建設が進
することで解決している。事前に懸念の声が多かった
められている。
土日・祝祭日の作業については、日曜日は全休、土曜・
閑静な高級住宅街で、
近隣住民に配慮した騒音対策に挑む
するなどの対応をしている。最も騒音が発生する、建
方大工が機械で釘を打つ作業については、迷惑のかか
「ドリームズ・デザイン鷺沼公園」の住宅は、阪神・
らない時間帯に重点的に終わらせ、あまり音の出ない
淡路大震災で耐震性が実証されたツーバイフォー工法
作業については、作業時間の許す限り仕上げていく、
により建築されている。とはいえ従来技術を踏襲した
という対応を取っている。平日の作業は近隣さんも許
もので、工法上の特筆すべき点はないとのこと。ただ、
容してくれるが、他の住宅工事の現場で過去に「昼休
閑静な高級住宅街での作業、敷地いっぱいに区画され
みの午後0時~1時は作業をしないで」というクレー
た中での工事など、作業的に困難な点は少なくない。
ムが寄せられたことがあった。そこでこの現場では前
取材を行った日も町の雑踏や騒音をほとんど感じるこ
例に習い、通例では仕事をすることが少なくないこの
〔工事概要〕
敷地面積:1,508.94㎡ 建築面積: 692.35㎡
延床面積:1,199.94㎡
建物用途:専用住宅
規 模:合計棟数12棟(完工棟数8棟)
構 造:2×4
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祝祭日も時間をずらす、当初予定より早めに作業終了
時間帯も、
「昼休みは休む」を徹底している。
「他者からの厳しい評価」を
常に意識して作業を引き締める
この地域の住宅建設を統括管理する、加藤和良工事
部長は「どこの現場でもそうですが、特に東急建設の
加藤 和良
工事部長
松本 政明
工事主任
海老原 隆士さん
柳田 泰臣
担当事務長
石本建築
石本 薫さん
㈲相内組
相内 清人さん
水谷工務店
水谷 実さん
看板を背負った我々には、東急線沿線はホームグラウ
対し、現場のマイスターも「担当者が一生懸命見て歩
ンドであると同時に、近隣の方から特に厳しく評価さ
いても、気がつかない部分はある。その点、多くの違
れる場所。こうした厳しい環境に身を置き、できる限
った視点から厳しく見てもらうことが、非常に役立っ
り工夫をし、その成果をさまざまな現場に水平展開し
ている」
(石本建築 石本薫さん)と語ってくれた。
ていきたい」と語ってくれた。
このように身を引き締め、基本をおろそかにせずや
っていこうという心構えは、現場の人々のなにげない
「少人数の現場」ならではの
コミュニケーション、安全確保に工夫
所作にも表れるようだ。この現場では、建物の外に出
安全面では、少数の現場ならではの難しさがある。
るときにも、ヘルメットをしっかりかぶる、服装をし
作業人員は最多の時期で40名前後、4棟を残すのみ
っかりするなど管理が徹底している。
「実は玄関ドア
の現在は10名前後。1棟につき大工さん1人が担当し、
の内側に注意書きが貼ってあるんです。通常は建物内
あとは仕上・設備業者などの関係者が5~ 10人程度
の作業が終わると、ヘルメットを脱いで建物から出て
くるのでしょうが、近隣に対しては『油断なくしっか
りした管理を行う』
、また同じ現場の仲間には『責任
を持って現場を次の人に渡す』という気持ちを再確認
する意味で実施しています。安全面でも、作業中以外
でのヘルメット義務化の規定はありませんが、自分の
休憩時間に建物の外に出る時、他の職方が頭上で何ら
かの作業をしているかもしれない、と考えれば、ヘル
メット装着は自然なことと言えるでしょう」
(加藤工
事部長)
。ベテランの職人が中心となって作業を引っ
張る住宅の現場では、経験や習慣で作業が進みがち。
このように、日常の中でたえず気持ちを引き締める機
会を持つことは、有意義な取り組みと言えるだろう。
他の現場と月一回、相互に安全巡視を行う「4HS」の様子。
「4HSの活動
から気づいたことをピックアップし、あざみ野事務所全体で事故のないように
したいですね。4HS以外にも、類似の事故事例、他支店の事故の事例報告を
社員会議で再確認し、安全への意識を高めるなどしています。
」
(柳田事務長)
また、この現場では品質管理の面でも、現場のマイ
スター達が高く評価する、
「4HS」と称する取り組
みが行われている。これは加藤工事部長が統括するあ
ざみ野事務所の他の現場と協力して行うもので、月1
回、どこかの現場に他の所長や主任が来て、
“違う目
で現場を見てもらう”
、という、ちょうど相互に安全
巡視をしているような取り組み。対象となる現場は当
日の直前まで公表されず、時には各現場のマイスター
にも同行してもらい、危険な個所は少しでも摘み取る
ようにしている。数年前から始まったこの取り組みに
給水とコミュニケーション促進のため、
夏場に設けられた休憩所。
少人数が個々
に作業を行う住宅建設の作業所では、各自の交流と健康チェックの場として有
効に機能した。
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という構成だ。RC工事に比べ小規模ではあるが、現
情報交換が円滑に行える。また、
「大工さんもその日
場近くには事務所がなく、現場監督者も複数の現場を
の状況で、臨機応変に作業を決める、ということも慣
兼務しているため、各人の作業状況には眼が届きにく
例としてあるのですが、この作業日報を毎朝自分で全
い。また作業も大工さんの単独作業がかなりの割合を
部書くことによって、一日の作業の流れと危険予知に
占め、業者の入れ替わりも激しいので職場のコミュニ
対して再確認できます。昨年末から始まった新しい取
ケーションが生まれにくい。その結果、おのずと安全
り組みですが、意識付けにかなり役立っています」
(工
管理も個人での対応となり、感情的にも「自分だけで
事主任・松本政明さん)
といった利点もあるそうで、各
やっている」と思いがちになるそうだ。そこで、こう
自がその重要性を意識して取り組む姿勢がうかがえた。
した現場ならではの安全確保のあり方を考えていかな
さて、今回紹介した取り組みの多くは、比較的新し
ければならないという。
く始められたものだが、住宅建設現場ならではの安全
そこでまず重要なのが、
「職人同士の相互チェック」
。
対策として、確実に効果を挙げているという。多くの
現場担当者の海老原隆士さんによれば、
「自分ひとり
人にとっては、住宅は一生に一度の買い物。そうした
で作業しているような状況では、たとえば『少し体調
大切な商品を無事故で引き渡すためにも、こうした取
が悪いな』と思っても、自分から“休もう”という判
り組みにさらに工夫を重ね、徹底していきたいと同現
断を下しにくいんです。そこで、大工さん、電気工事
場では考えている。
の人、左官屋さんらがお互いに、
『顔色が悪いから、
今日は休んだほうがいいよ』といった相互確認をしあ
えれば、無理がたたっての事故は未然に防げることに
なります。また相互のコミュニケーションが促進され
れば、
『片付けが済んでいないから、
足元廻り注意して』
といった伝達も効率よく行えるようになるんです。
」
とはいえ、入れ替わりが激しい現場では、なかなか
顔なじみになる機会も少ない。そこで朝礼での顔合わ
せも行っているが、交流の場としてこれまで特に有効
だったのは「休憩所の設置」だという。昨年・今年と
夏場が非常に暑く、熱中症に対する懸念が大きかった
ため、冷水器を設置した休憩所を設けた。喫煙も休憩
所に限定して許可しているが、皆が集まる中でコミュ
ニケーションが生まれ、
「いつも一服に来ている人が
敷地一杯に区画された現場での、作業スペース確保の困難さは、社宅を解体し
て造成し、建て売りにするというミニ開発が進む昨今、住宅建築の共通の問題
かもしれない。先行足場も「敷地すれすれに足場を組み立てるので、転落や作
業中の建物破損に充分注意している」
(㈲相内組・相内清人さん)とのこと。
今日は来ないが、どうしたんだろう」といった、お互
いを気にする環境が生まれたそうだ。
もう1つ、現場入り状況を各自が記載する「作業日
報」も、こうした現場のコミュニケーション手法とし
て有効利用されている。これは1棟に1冊ずつ設置さ
れているもので、入場時にはその日の作業内容・KY
と会社名、氏名、足場の点検結果を、帰りにはケガの
有無と連絡事項を記載する。複数現場をかけもちする
管理者が、職人の作業状況を把握できる上、新たに現
場入りした作業員もこれを見れば状況がよくわかり、
自らも同じように記載してくれるので、作業員相互の
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現場の一番目立つところに見やすく整理して掲げられたスローガンと安全への
注意事項。ここでは紹介しなかったが、交通における安全確保やリスクアセス
メントなど、この現場で重点的に取り組んでいる内容が分かりやすく表示され
ている。マイスターの水谷実さん
(水谷工務店)
も、
「ちゃんとやったつもりでも、
忘れていることがあるから、そういうことのないよう絶えずチェックを心がけ
ています」と語ってくれた。
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