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役員退職慰労金に関する会計上の取扱い

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役員退職慰労金に関する会計上の取扱い
第
9回
役員退職慰労金に関する会計上の取扱い
公認会計士桜友共同事務所 公認会計士 槇田憲一郎
当社は役員退職慰労金に関する内規を定めており,株主総
会での承認後,支給したときに費用処理しておりますが,役
員退職慰労金については原則として引当金計上すべきであると聞きました。この点について,
会計上の取扱いをご教授ください。
また,近い将来役員退職慰労金制度の廃止を考えているのですが,引当金として計上して
いた場合どのように会計処理するのかご教示ください。
この点について,監査第一委員会報告第
42号「租税特別措置法上の準備金及び特別
法上の引当金又は準備金並びに役員退職慰
1 はじめに
役員退職慰労金については,役員に対す
2 役員退職慰労
る報酬の後払い的性格を持ち,在任期間中
引当金の性質
の職務執行の対価として,役員退任時に会
3 役員退職慰労
社から受け取る一時金であるため,役員退
労引当金等に関する監査上の取扱い」が平
成19年4月に改正され,公表されています。
当該委員会報告を踏まえ,以下具体的に
1 はじめに
説明していきます。
2 役員退職慰労
引当金の性質
職慰労金の支給は株主総会の決議事項とさ
引当金の計上
役員退職慰労引当金は,会社の役員(取
このことから,従来は,引当金を計上す
4 引当金計上の場合の
る退職慰労金の支払に備えて設定し,当該
費用計上する方法のいずれもが会計実務と
は原則として,営業費用に計上します。
会計処理
れております(会社法361条,387条)。
る方法と株主総会決議時あるいは支出時に
会計処理
して実施されていました。
5 役員退職慰労金制度廃止の
場合の会計処理
しかしながら,役員賞与について引当金
計上を含め費用処理されることになったこ
6 執行役員に対する
とから,役員に係る報酬等全般について,
退職慰労金の取扱い
引当金計上を含めた費用処理が必要である
と考えられます。
7 会社側の留意点
建設業しんこう 2007.12
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3 役員退職慰労
引当金の計上
締役・監査役・執行役員等) の将来におけ
支給見積額のうち各事業年度の負担相当額
4 引当金計上の場合の
役員退職慰労金は,退職する役員の在任
期間中の役務の提供に関わる性質を持ち,
5 役員退職慰労金制度廃止の
その支給は株主総会による承認決議を前提
場合の会計処理
とするため,株主総会の承認決議前の段階
6 執行役員に対する
では,法律上の債務ではありませんが,会
退職慰労金の取扱い
計上は企業会計原則注解18に示される,い
7 会社側の留意点
1 はじめに
2 役員退職慰労
わゆる負債性引当金の性格を有するものと
引当金の性質
考えられます。
3 役員退職慰労
引当金の計上
つ,当該内規に基づく支給実績があり,そ
1 はじめに
のような状況が将来も続くようであれば,
引当金計上する必要があります。
なお,当該内規については,役員退職慰
2 役員退職慰労
引当金の性質
労金の支給額の算定や役員退職慰労引当金
役員退職慰労金については,貴社と同じ
の計上根拠となるものであることから,取
用計上する方法も実務として実施されてお
えられます。
4 引当金計上の場合の
ように株主総会決議時あるいは支出時に費
会計処理
りました。しかしながら,役員の在任期間
5 役員退職慰労金制度廃止の
は長期間に及ぶのに対し,退職慰労金は一
場合の会計処理
時金として支払い,しかもその支給額は多
6 執行役員に対する
額になることも少なくないため,企業の業
退職慰労金の取扱い
績に多大な影響を与える場合が多いと考え
3 役員退職慰労
締役会の承認を受けておく必要があると考
引当金の計上
4 引当金計上の場合の
会計処理
5 役員退職慰労金制度廃止の
1.会計処理
場合の会計処理
られます。
役員退職慰労引当金の計上に当たって
役員退職慰労金は,在任期間中の職務執
7 会社側の留意点
は,原則として,期末要支給額の100%を
6 執行役員に対する
とから,将来の特定の費用又は損失であり,
会計処理を仕訳で示すと,以下のように
行に対する報酬の後払い的な性格であるこ
計上すべきであると考えられます。
退職慰労金の取扱い
かつ,その発生が当期以前の事象に起因し
なります。
ているといえます。
① 引当金繰入時(期末)
したがって,企業会計原則注解18の要件
(借方)役員退職慰労引当金繰入額 ×××
を踏まえ,以下の要件を満たす場合には,
7 会社側の留意点
(貸方)役員退職慰労引当金 ×××
各事業年度の負担相当額を役員退職慰労引
② 役員退職慰労金支給時
当金に繰り入れる必要があります。
(借方)役員退職慰労引当金 ×××
① 役員退職慰労金の支給に関する内規に
役員退職慰労金 ×××
基づき,在任期間・担当職務等を勘案し
て,支給見込額が合理的に算出されるこ
と
(貸方)現金預金 ×××
2.表示
② 当該内規に基づく支給実績があり,こ
役員退職慰労引当金を計上した場合の表
のような状況が将来にわたって存続する
示について,役員退職慰労引当金は通常1
こと(設立間もない会社等のように支給実
年を超えて使用されることから,貸借対照
績がない場合においては,内規に基づいた
表上,固定負債として表示します。また,
支給額を支払うことが合理的に予測される
役員退職慰労引当金繰入額及び役員退職慰
場合を含む)
労金は,損益計算書上,原則として販売費
貴社の場合には,役員退職慰労金に関す
及び一般管理費に表示します。
る内規を定めていることから,当該内規に
ただし,当期に初めて役員退職慰労引当
基づき支給見込額が合理的に算出でき,か
金を計上する場合には,適用初年度の期首
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2 役員退職慰労
引当金の性質
に計上すべき過年度相当額,すなわち,前
期以前の在任期間中の職務執行の対価に相
当する部分については,特別損失に表示す
3 役員退職慰労
引当金の計上
年以内に支給されることが確実である場合
には,「未払金」として表示します。
4 引当金計上の場合の
会計処理
②においては,株主総会決議を得ていな
ることができます。
いことから法律上は債務となっていないた
3.税務上の留意事項
1 はじめに
場合の会計処理
て表示することとなります。
なお,税務上,役員退職慰労金は不相当
5 役員退職慰労金制度廃止の
め,引き続き「役員退職慰労引当金」とし
に高額でない限り損金算入することが認め
2 役員退職慰労
6 執行役員に対する
退職慰労金の取扱い
則として株主総会等により役員退職慰労金
今回の質問とは直接関係ないかもしれ
引当金の計上
(法人税基本通達9−
度とされているため
いる会社が増加しております。執行役員は
られます。ただし,損金算入の時期は,原
引当金の性質
の額が具体的に確定した日の属する事業年
3 役員退職慰労
2−28参照),役員退職慰労引当金につい
4 引当金計上の場合の
ては,計上時には税務上損金算入すること
会計処理
ができません。
5 役員退職慰労金制度廃止の
場合の会計処理
7 会社側の留意点
ませんが,最近,執行役員制度を採用して
会社法上の機関には当たらないため,退職
慰労金の支払に関する株主総会の承認決議
は必要ありません。
執行役員に対する退職慰労金制度には
様々な形態が見られますが,制度設計上執
行役員が,①従業員としての地位を失って
6 執行役員に対する
いた会社が役員退職慰労金制度を廃止する
退職慰労金の取扱い
おらず,通常の従業員の退職給付金制度に
場合,任期中又は重任予定の役員に対する
するものとは別の内規を定めて運用してい
廃止時点までの内規に基づく支給額につい
る場合とが考えられます。
既存の役員退職慰労引当金を設定して
7 会社側の留意点
て,①制度の廃止に伴い,株主総会におい
含めて取り扱われる場合と,②従業員に対
執行役員に対する退職慰労引当金につい
て承認決議を行う場合と,②制度は廃止す
て,①の場合は従業員に対する退職給付引
るものの,当該廃止時点においては株主総
当金として会計処理されるものと考えられ
会での承認決議を行わず,当該役員の退任
ます。
時に承認決議を行う場合とが考えられま
②の場合は,「退職給付引当金」もしく
す。
は「役員退職慰労引当金」に含めて開示す
①の場合で,当該役員の退任時まで,株
る方法,又は,「執行役員退職慰労引当金」
主総会において承認済みの役員退職慰労金
として区分表示する方法が考えられます。
の支給を留保する場合には,当該支払留保
なお,退職給付引当金もしくは役員退職慰
金額は退任時点に支払うという条件付きの
労引当金等に含めて開示した場合で金額に
確定債務であると考えられるため,株主総
重要性がある場合には,執行役員に対する
会での承認決議後,実際に支払われるまで
ものを含めている旨の注記をすることが望
の間は,原則として「長期未払金」として
ましいと考えられます。
表示するものと考えられます。ただし,1
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建設業しんこう 2007.12
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