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自動車のドアに挟む事故(概要)
記者説明会資料 平成 18 年 1 月 10 日 独立行政法人 国民生活センター 自動車のドアに挟む事故(概要) -ドアに関する事故の分析とスライドドアのテスト- 1.目的 国民生活センター危害情報システム※1では、全国 20 の協力病院から商品等に関連し て発生したと思われる受診情報(以下、病院情報)を収集しているが、自動車に関連す る事故は、毎年度、上位 4~6 位を占めており、2000 年 4 月から 2005 年 10 月末まで に、協力病院から寄せられた自動車に関連する事故※2は 1,629 件であった。 このうち、自動車のドアや窓等で身体を挟んだ事故は 826 件と約半数を占め、非常 に多い。この中で、圧倒的多数を占めているのがドアにより挟んだというもの 755 件 (91.4%)である。事故の大半は不注意に起因するものであり、多くは軽症だが、なかに は重い症状のもの、治療期間が長くかかるものなども見受けられた。 一方、自動車のドアのなかでも、開口部が大きく乗降が簡便であることや、ヒンジド アのように外側に開ける構造ではないため、狭い場所での乗り降りができることから、 乗車定員が多く子供がいる家族向けに人気が高いミニバン※3にスライドドアが多く採 用されている。しかし、ヒンジドアに比べ重く、大きいため身体の一部を挟んだときは 重篤な事故となるケースもあり、病院情報にも「5 歳児が他人の閉めたスライドドアに 頭を挟まれ、頭部打撲・頭部挫傷を負った」、「車のスライドドアに指を挟んで骨折し た」などの重篤な事例がみられる。また、ドアに挟んだときの衝撃力がどの程度か調査 した情報がほとんどないのが実態である。 そこで、病院情報からドアでの事故についての分析を行うとともに、スライドドアに ついて商品テストを実施し、スライドドアに挟まれたときの衝撃力や、最近装備する車 種が多くなっているパワースライドドアに挟まれたときの衝撃力、挟み込み防止機能の 有効性についても調べて消費者へ情報提供する。 ※1 商品やサービス等により生命や身体に危害を受けたり、そのおそれがあった情報を全国の危害情報収集 協力病院及び消費生活センターからオンラインで収集し、それを分析し、消費者被害の未然防止・拡大防 止のために役立てることを目的として作られたシステムである。 ※2 危害情報システムでは、自動車による「交通事故」は収集していない。 ※3 ミニバンとは 6~8 人の多人数乗車を前提に開発された車で、一部を除き 3 列シートを採用している。 ワンボックス型からステーションワゴン型まで様々なサイズ・タイプがある。 1 2.ドアに関する事故の分析 1)ドアに挟む事故の概要 (1) 10 歳未満、特に 2 歳に多発 被害者の年代別でみると、ドアでの事故(755 件)のうち 10 歳未満が最も多く 344 件で全体の 45.6%を占めていた(図 1a)。 a)年代別構成比 b) 10 歳未満の事故件数(n=344) 図 1.年代別構成比と 10 歳未満の事故件数 これをさらに細かくみると 2 歳で急激に増え、それを中心として 1 歳から 6 歳に 事故が多く発生していた(図 1b)。その他の年代は、20 歳代が 104 件、30 歳代が 91 件でやや多かった。 (2) 年齢が上がるほど女性の事故が増える 被害者の性別は、男性 361 件(47.8%) 、女性 394 件(52.2%)で、女性のほうがや や多かった。さらに年代別に分析すると、10 歳未満では男性のほうが割合が高く、 年代が上がるにしたがって女性の割合が高くなる傾向にあった(図 2)。 9 70歳以上(n=47) 38 60歳代(n=34) 13 21 50歳代(n=47) 18 29 24 40歳代(n=44) 20 30歳代(n=91) 46 45 20歳代(n=104) 54 50 17 10歳代(n=44) 27 180 10歳未満(n=344) 0% 20% 男 女 164 40% 60% 図 2.年代別性別構成 2 80% 100% (3) 多くが打撲傷・挫傷 どのようなけがをしたかという危害内容について最も多かったのは、「打撲傷・挫 傷」595 件で、全体の 78.8%を占める。次いで「骨折」73 件(9.7%)、「刺傷・切傷」54 件 (7.2%)が続いている(図 3)。なお、「切断」も 2 件(0.3%)ある。 n=755 595 0% 20% 73 40% 60% 54 13 80% 100% 打撲傷・挫傷(n=595) 骨折(n=73) 刺傷・切傷(n=54) 擦過傷(n=13) 脱臼・捻挫(n=10) その他(n=10) 図 3.危害内容別構成 (4) 腕・手、特に手指への危害が最多、ただし 0 歳児のみは脚部に危害を受けている 危害を受けた部位についてみたところ、最も多かったのは「腕・手」711 件で、全体 の 94.2%を占めていた。これらをより細かく分けると、「手指」が圧倒的に多く 658 件、次いで「手掌・手背(手首)」が 49 件であった。次いで脚部 30 件(4.0%)、頭部 11 件(1.5%)などとなっている。 さらに年齢ごとの差をみると、0 歳児のみ、腕・手での事故(4 件、33.3%)より脚 部の事故(7 件、58.3%)が多く、他の年齢に比べ特異であった(図 4)。この脚部 7 件のうち、足首から先が 4 件と多かった。 711 全体 10歳以上 30 11 393 13 3 9歳 7 0 8歳 11 0 7歳 20 0 1 36 6歳 5歳 10 46 11 46 4歳 3歳 02 53 2歳 11 62 1歳 5 2 33 2 0 4 0歳 0% 7 20% 40% 腕・手 脚部 60% 頭部 体幹(胸部や腹部等) 図 4.年齢ごとにみた危害部位別構成 3 1 80% その他 100% (5) 10 歳未満より 10 歳以上のほうが危害程度が重い 危害程度をみると、最も多かったのは、入院を要さない「軽症」694 件で、全体の 91.9%を占めている。その他は生命に危険はないが、入院を要する状態である「中等 症」61 件(8.1%)であった。 さらに年代ごとにみると、10 歳未満は中等症の割合が 4.1%だったのに対し、10 歳以上の同割合は 11.4%と 7.3 ポイント高くなった。 危害部位ごとの軽症の割合では、「体幹」と「脚部」はすべてが軽症だった。「腕・手」 は 8.4%が中等症、「頭部」は 12.5%が中等症であった。 100% 61 14 694 330 全体(n=755) 10歳未満(n=344) 47 80% 60% 40% 中等症 軽症 364 20% 0% 10歳以上(n=411) 図 5.危害程度別構成 (6) 10 歳未満より 10 歳以上のほうが治療見込み期間が長い 事故 755 件中、治療見込み期間がわかるものが 689 件あった。このうち、「1 週間 未満」が 498 件(72.3%)、これに対して「1 週間以上」が 191 件(27.7%)であった。 さらに年代ごとにみると、10 歳未満は「1 週間以上」の割合が 15.8%だったのに 対し、10 歳以上の同割合は 38.1%と 22.3 ポイント高くなった。 100% 80% 191 51 140 60% 40% 498 271 227 20% 0% 全体(n=689) 10歳未満(n=322) 図 6.治療見込み期間別構成 4 10歳以上(n=367) 1週間以上 1週間未満 (7) ドアを閉めるときの状況 事故 755 件中、誰がドアを閉めたかわからない事例が大半で、他人が閉めたこと が判明している事例は 34 件あった。これについて被害者の年代をみると、10 歳未満 が 26 件(76.5%)と多かった。ドアでの事故に占める 10 歳未満の割合(45.6%)に比 べてこの割合は高い。他人に閉められて挟んだ事故のうち、被害者の多くは子どもで あるといえる。 その他、自分で閉めたときにうっかり挟んだという事例もあった。また、「ドア が勝手に閉まった」「風で閉まった」という事例もあった。 2)主な事例※4 (1) 重い症状の事例 ・ 車のドアを閉めたときに頭部を挟み、頭部裂傷(2 歳 女児)。 ・ 車から降りるとき、ドアを自分で閉めて手を挟み、左第1指基節骨骨折(6 歳 女 児)。 ・ 車のドアで左第 2 指を挟み挫傷。消毒後ギブスをはめる。1 ヶ月ぐらいつけておく ように言われた。左第 2 指末節亀裂骨折(30 歳代 ・ 男性)。 左手を車のドアで挟み、左第 4 指末節骨骨折(60 歳代 男性)。 ※4 ここに掲げた事例はヒンジドア、スライドドアの区別が不明である。 (2) 他人が閉めたとき ・ 子どもを抱いたまま、親が車の後部ドアを閉めた際、前のドアとの間に手を出して いるのに気付かず閉めたので、前と後ろのドアの間に左親指が挟まり、捻挫(0 歳 女児)。 ・ ベビーカーに乗せていて、ドアを閉めたら足の趾を挟んだ(0 歳 女児)。 ・ 車のドアが開いていて、ドアの蝶番の辺りを持っていた。ドアを閉めたときに左手 を挟んで打撲(1歳 男児)。 (3) 勝手に閉まった ・ 自動車のドアが自然に閉まり左指を挟み打撲した(9 歳 男児)。 ・ 車から出る途中、風でドアが閉まり左足を挟んだ(20 歳代 女性)。 3)事故の傾向 (1) 事故は 10 歳未満の子どもに多い。軽症ではあっても心配して病院を受診する保護 者が多いことが考えられる。特に 2 歳を中心に多発している。10 歳以上の事故件 数は 10 歳未満の事故件数に比べて少ないが、その一方で、10 歳以上の危害程度は 重い割合が高く、また治療見込み期間が長い割合が高かった。 (2) 手指を中心とした腕・手の事故が多い。しかし、0 歳のみは脚部の危害が多い。0 歳児は自分でドアの開閉をすることは通常考えられず、他人がドアの操作をした 5 ときに事故に遭っていると思われることから、挟む部分は手より、むしろ脚部、 特に足首から先のほうが多いという結果になった。 (3) ついうっかりしての事故が多いが、閉める際に大きな力が必要なドアがあること も要因と思われる。一方で、風の力や坂道などで勝手にドアが閉まって事故に遭 うケースもあった。 4)スライドドアに関する事故(40 件)の傾向 (1) 事故の傾向 ドアでの事故 755 件のうち、スライドドアと特定できたもの 40 件についても分析 したところ、スライドドアに関する事故は、10 歳未満の事故が多いこと(21 件: 52.5%)や、手指を挟まれる事例が多いこと(31 件:77.5%)など、ドア全体の傾 向と同様であった。しかし、危害内容をみると「骨折」が 6 件(15.0%)と多く、治療 見込み期間が分かるもの 36 件のうち、「1 週間未満」の 24 件(66.7%)に対し、「1 週間以上」が 12 件(33.3%)と 1/3 を占めており、ドア全体よりもけがの程度が重篤 となる傾向が見られた。 (2) 主な事例 ・ 他人が閉めていた車のスライドドアに頭が挟まれてしまった。頭部打撲・頭部挫傷 (5 歳 男児)。 ・ 自動車のスライドドアに左第 2 指、第 3 指を挟んだ。左第 2 指開放骨折(70 歳代 男 性)。 ・ スライド式の車のドアを閉めようとしたとき、息子が手を置いていたのに気づいた が止める間もなく、指を挟んでしまった。すべての車にゆっくりドアが閉まる装備 があればよい(2 歳 男児)。 ・ ワンボックスカーの後部スライドドアを急勾配の坂道で開けて作業中に、急にドア が閉まり親指を挟んで打撲した。ドアが重いため、かなりの力で挟まった(30 歳代 男性)。 6 3.スライドドアに関するテスト 1)テスト実施期間 検 体 入 手:2005 年 8~11 月 テスト期間:2005 年 8~11 月 2)テスト対象銘柄 テストはスライドドアを有する車種 14 銘柄について行った。テスト対象銘柄を表 1 に示す。各銘柄を排気量・乗車定員・スライドドアの形状から、軽(2 銘柄)、コンパクト A(1 銘柄)、コンパクト B[スライドドアの形状が特殊なもの](1 銘柄)、ミニバン小(2 銘 柄)、ミニバン中(4 銘柄)、ミニバン大(4 銘柄)の 6 クラスに分類した。各銘柄のスライ ドドアに関係する機能・装備について表 2 に示す。 表 1.テスト対象銘柄 検体 No. 銘柄名 製造または 販売会社名 型式 年式 (年/月) 排気量 (CC) 乗車 定員 (人) ① サンバー 富士重工業㈱ LE-TV1 17/7 660 4 ② ハイゼット ダイハツ工業㈱ LE-S200V 15/10 660 4 コンパクト A ラウム トヨタ自動車㈱ UA-NCZ20 15/6 1500 5 左側センターピラーレス コンパクト B ポルテ トヨタ自動車㈱ CBA-NNP10 16/9 1300 5 左ドアのみ大型スライ ドドアを装備(右ド アはヒンジドア) ① シエンタ トヨタ自動車㈱ CBA-NCP81G 17/4 1500 7 ② モビリオ 本田技研工業㈱ LA-GB1 14/11 1500 7 ① アイシス トヨタ自動車㈱ CBA-ZNM10G 16/10 1800 7 ② ステップワゴン 本田技研工業㈱ DBA-RG1 17/7 2000 8 ③ セレナ 日産自動車㈱ CBA-NC25 17/6 2000 8 ④ プレマシー マツダ㈱ DBA-CREW 17/3 2000 7 ① アルファード トヨタ自動車㈱ TA-MNH10W 17/7 3000 8 ② エリシオン 本田技研工業㈱ DBA-RR2 16/11 2400 8 ③ エルグランド 日産自動車㈱ CBA-E51 17/7 3500 8 ④ MPV マツダ㈱ GH-LW3W 15/7 2300 7 クラス 特徴 軽 ミニバン 小 ミニバン 中 ミニバン 大 *:このテスト結果は、テストのために入手した商品のみに関するものである。 7 左側センターピラーレス 両側パワースライドドア 表 2.スライドドアに関係する機能・装備 クラス 検体No. ① 軽 ② コンパクトA コンパクトB ① ミニバン小 ② ① ② ミニバン中 ③ ④ ① ② ミニバン大 ③ ④ 挟み込み 挟み込み 防止機能① オートクロージャー 防止機能② (センサー有) - - - - - - - - - - - - ドア パワースライド ドア 右 左 右 左 - - - - 右 - 左 右 左 ○ 右 左 右 左 - - - - - - - - - - - - ○ ○ - - 右 左 右 左 右 左 右 左 - ○ - ○ - ○ ○ ○ - ○ - ○ - ○ - - - ○ - ○ - ○ ○ ○ - ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 右 左 右 左 右 左 右 左 - ○ - ○ - ○ - - - ○ - ○ - ○ - - - ○ - ○ - ○ - - ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ - - - ○ ○ ○ 右ドア(運転席側)はヒンジドア ○ ○ ○ リモコン (パワースライドドアを操 作できるもの) - - ○ ○ - - ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ - ○:装備あり -:装備なし パワースライドドア:電動でスライドドアを開閉する機能で、運転席のスイッチやリモコンで操作できる。 運転席にある電源スイッチで ON⇔OFF でき、エンジンが停止していても使用できる。 挟み込み防止機能:スライドドアに障害物を挟み込むことを防止する装置で、障害物を検知するとスライ ドドアを反転させ挟み込みを防止する。検知方式から防止機能①と防止機能②に分類される。 防止機能①:ドア前端部のゴム製のセンサーに障害物が接触すると作動するもので、防止機能②と併せて 8 銘柄に装備。 防止機能②:上記の防止機能①のセンサーに接触しないような挟まれ方をした場合、モーターの負荷が大 きくなり、それを検知し作動するもので、パワースライドドアを装備する 9 銘柄すべてに装備。 オートクロージャー:半ドアを防止する機能で、スライドドアが一定の位置まで閉まると自動的に作動し、 スライドドアをロック状態まで閉める。パワースライドドアのように ON⇔OFF することはできないが、 エンジンが停止していても作動する。 リモコン:離れた位置からパワースライドドアを開閉できる。 8 3)テスト結果 (1) スライドドアに挟まれたときの衝撃力 スライドドアに挟まれたときの衝撃力は、ヒンジドアに挟まれたときの 2 倍以上 と大きく、重篤なけがを負う危険性があった 平坦な場所に停車した車両のスライドドアを男性のモニター3 名が思い切り閉め るのではなく、普通に閉めたときの衝撃力がどの程度なのかを調べた。また、ヒンジ ドアに挟まれた場合の衝撃力も同様に調べた。 その結果、人が普通に閉めたスライドドアに挟まれたときの衝撃力は、クラスや 銘柄により差はあるものの、92~231kgf※5 と非常に強い力が加わることが分かった (図 7 参照)。この値は、ヒンジドアに挟まれたときの衝撃力 56~95kgfの 2 倍以上の 大きさで、病院情報の事故事例にあるように重篤な事故を引き起こす危険性があった。 なお、「ドアプロジェクトシンポジウム資料」※6によると、子供の頭では約 100kgf、 大人の頭では約 200kgfの衝撃力が加わると破壊するとしている。 ※5 ※6 kgf:質量 1kg の重さを支えるのに必要な力が 1kgf。 2004 年 3 月に、東京六本木ヒルズ森タワーの回転ドアに挟まれた子供が死亡した事故が発端となり、 工学院大学教授・東京大学名誉教授の畑村洋太郎先生が「ドアプロジェクト」を結成し、事故のあった回 転ドアを含むあらゆるドアの危険性を検証した。 図 7.スライドドアに挟まれたときの衝撃力 (普通に閉めたときの各クラスの幅) (2) 坂道でスライドドアを使用する場合の危険性 病院情報には「坂道で作業中、急にドアが閉まり親指を挟んだ」という事故がみら れる。そこで、坂道でスライドドアを使用した場合どのような状況になるか調べた。 9 ●坂道でスライドドアを開けるのに必要な力 5 度の下り坂でスライドドアを開けようとすると非常に大きな力が必要となり、 非力な人では開け切れずに、スライドドアが自然に閉まる可能性があった 5 度の下り坂でスライドドアを開けるときの力を測定し、平地の場合と比較した。 その結果、平地では 2.2~5.1kgf(各クラスの平均)の力でスライドドアを開ける ことができるが、5 度の下り坂では 4.0~9.4kgf の力が必要となり、平地の約 2 倍 の力が必要であった。また、一部の銘柄(平地:約 4kgf、5 度:約 7kgf)で女性 6 名の モニターにスライドドアの開閉を行ってもらったところ、全員から「片手で操作す るには重い」と回答があり、「開け切れずロックできない」との意見もあった。これ らのことから、非力な人ではスライドドアを完全に開け切ることができずに、ド アが自然に動き出し勢いよく閉まってしまう可能性が考えられた。 ●坂道でスライドドアが自然に閉まったときの衝撃力 5 度の下り坂でスライドドアが自然に閉まったときの衝撃力は、平地で人が閉 めたときと比べほとんどが大きく、挟まれた場合に重篤なけがを負う危険性があ った 5 度の下り坂でスライドドアがほぼ全開の位置から自然に閉まったときの衝撃 力を調べた。 その結果、5 度の坂道で自然に閉まったスライドドアに挟まれたときの衝撃力は、 各クラスの平均で 110~288kgf(図 8 参照)と、コンパクト A を除きモニターが平地 で閉めたスライドドアに挟まれたときの衝撃力を上回っており、身体の一部を挟 まれたりすると重篤なけがを負う危険性があった。 図 8.5 度の坂道でスライドドアが自然に閉まった衝撃力と平地で人が閉めた衝撃力 (各クラスの平均) 10 ●坂道でパワースライドドアの電源を切ったときの状況確認 下り坂でパワースライドドアの作動中に電源スイッチを切ると、ドアが停止す るなど安全なものがあったが、自然に動き出し勢いよく閉まるものもみられた 下り坂でパワースライドドアを開閉中に電源スイッチを切るようなことがある と、自然に動き出し勢いよく閉まることが考えられる。そこで、5 度の下り坂でパ ワースライドドアの開閉中に電源スイッチを切って状況を調べた。 その結果、電源スイッチを切るとその位置でドアが停止する銘柄、また断続的 に減速しながら閉まるなど安全性が高い銘柄があった一方で、電源を切った位置 から自然に動き出し勢いよく閉まる銘柄もあった。なお、自然に閉まる銘柄の取 扱説明書には「傾斜地で電源スイッチを OFF にすると不意に動き出すおそれがあ るので十分注意すること」等の注意書きがみられた(表 3 参照)。 表 3.下り坂でパワースライドドアの開閉中に電源スイッチを切ったときの状況確認 検体 No. コンパクト A コンパクト B ① ② ミニバン中 ③ クラス ④ ミニバン大 ① ② ③ ドア 電源を切ったときのスライドドアの状況 左 左 左 左 左 右 左 左 左 左 電源を切った位置から自然に動き出し勢いよく閉まる 電源を切った位置から自然に動き出し勢いよく閉まる 電源を切った位置から自然に動き出し勢いよく閉まる 電源を切った位置で停止 電源を切った位置から断続的に減速しながら閉まる 電源を切った位置で停止するが、停止しない場合もあった 電源を切った位置で停止するが、停止しない場合もあった 電源を切った位置から自然に動き出し勢いよく閉まる 電源を切った位置で停止 電源を切った位置から断続的に減速しながら閉まる (3) パワースライドドアの安全性 電動で開閉できるパワースライドドアを装備した 9 銘柄には、誤って身体の一部 を挟んだ場合などにドアを反転させて挟み込みを防止する機能(挟み込み防止機能) が装備されており、以下の 2 種類が確認された。また、パワースライドドアを装備し たすべての銘柄にオートクロージャーが装備されていた。 防止機能①:ドア前端部のゴム製のセンサーに障害物が接触すると作動するもので、 防止機能②と併せて 8 銘柄に装備。 防止機能②:上記の防止機能①のセンサーに接触しないような挟まれ方をした場合、 モーターの負荷が大きくなり、それを検知し作動するもので、パワースライドドアを 装備する 9 銘柄すべてに装備。 ●パワースライドドアに挟まれたときの衝撃力 パワースライドドアに挟まれたときの衝撃力は人が閉めた場合よりも小さく、 挟み込み防止機能が作動しスライドドアは反転した パワースライドドアを装備した 9 銘柄について、ドアに挟まれたときに防止機 11 能①、防止機能②が作動するときの衝撃力を調べた。 その結果、防止機能①が作動するときの衝撃力は、各クラスの平均で 5~10kgf、 防止機能②が作動するときの衝撃力は 15~37kgf となり、モニターがスライドド アを手動で閉めたときの衝撃力 133~231kgf と比較すると非常に小さかった(図 9 参照)。特に防止機能①は、センサー部を指先で押す程度の力でスライドドアが反 転した。 しかし、防止機能②が作動するときの衝撃力は約 15kgf(コンパクト A)と小さな ものがある一方で、これと比べて約 50kgf(ミニバン大③)と大きい銘柄もみられた。 図 9.スライドドアに挟まれたときの衝撃力の比較 (パワースライドドアを装備した 9 銘柄の各クラスの平均と手動で閉めた各クラスの平均) ●挟み込み防止機能の作動確認 挟み込み防止機能は 5~6mm の小さな障害物も検知して挟み込みを防止するが、 状況によっては機能が作動せずに挟まれることがあった パワースライドドアのドアノブ付近に車外から直径 5~20mm の金属製丸棒の 先端 50mm を挟んだ場合と幼児ダミー人形の弾力性のある指(3 歳児モデル 中指 (根元):直径 12mm)を挟んだ場合に挟み込み防止機能が作動するか調べた。 その結果、金属製の丸棒を挟んだ場合には防止機能①のセンサーが作動し挟み 込まれることはなかった。また、幼児ダミーの指を挟んだ場合は、センサーに接 触すれば挟み込み防止機能が働き挟まれることはなかったが、センサーに接触し にくい挟まれ方をすると挟み込み防止機能が作動しないことがあった。これは、 各車両の構造や、指がドアに押されて変形することでオートクロージャーが作動 する間隔 (7~14mm)より細くなること、さらに以下に示すような状況などが原因 12 と考えられる。 ・ 指先が挟まれた状況(状況①) 指先が挟まれたような場合、センサーに接触せず挟み込み防止機能①が作動 しないことがあった(図 10 参照)。特にセンサーと外板とが離れている箇所では、 深く挟まれた。(写真 1 参照) 状況① ピラー (指先が挟ま れた状況) ヒンジドア センサー スライドドア 車外 閉まる方向 指先だけ挟まれるような場合、センサーに接触しないことが 指が押されオートクロージャーの作動する間隔よりも細くな ある ると、オートクロージャーにより強制的にドアが閉まる 図 10.指先が挟まれた状況の検証 a)センサーと外板の距離が離れている箇所 b)挟まれたダミー人形の指 写真 1.センサーと外板の距離が離れている箇所及び指が挟まれた例 ・ 指を曲げるように挟まれた状況(状況②) センサーと外板が離れている箇所などで指が曲がるように挟まれるとセンサー に接触しにくく、挟み込み防止機能①が作動しないことがあった(図 11 参照)。実 際、試験中にけがはなかったものの不注意で指が挟まれることがあった。 状況② ピラー (指を曲 げるよう に挟まれ た状況) ヒンジドア 車外 センサー スライドドア 閉まる方向 センサーと外板の距離が離れている箇所などで指を曲げる センサーを避けるように曲げられつつ指が押され、オートク ように挟まれるとセンサーに接触しにくい ロージャーの作動する間隔よりも細くなり挟まれる 図 11.指を曲げるように挟まれた状況の検証 13 ●リモコン操作によるパワースライドドアの開閉 銘柄によっては車両の周辺の安全が確認できないほど離れた位置からパワース ライドドアを開閉することができた パワースライドドアは、ドアノブや運転席のスイッチだけでなく、リモコン操 作により離れた位置から開閉することができる。そこで、平坦な場所において車 両の前後左右方向からリモコンを操作し、スライドドアを開閉できる距離を測定 した。 測定の結果、リモコンにより開閉できる距離は各銘柄とも方向(前後左右)によっ て異なり、操作距離が最も長いもので 60m、最も短いもので 13m 離れた位置から スライドドアを開閉することができた。 離れた位置からでは車両の周辺や車内の様子が分からないため、このような状 況でパワースライドドアを操作することは思わぬ事故につながる可能性がある。 特に、操作者の位置から反対側のパワースライドドアを開閉するような場合は、 周囲の状況が十分に確認できないため、遠距離からの開閉を行うのは危険である。 (4) スライドドア開放時の後続車からの視認性 夜間、後続車にスライドドアが開いていることを知らせるための反射板の装備状 況はまちまちで、左右のドアとも装備されていない銘柄がみられた スライドドアについて反射板の有無を調べた。 右側に装備されていたものは 8 銘柄で、そのうちで両側に装備されていたものは 2 銘柄であった。なお、両側とも装備されていないものが 6 銘柄あった。 4.消費者へのアドバイス 1)病院情報から (1) 子どもの事故が多いが、これは保護者の不注意で起こることも多いようなので、 特に小さい子どもを自動車に乗せてドアを閉めるときは子どもが手や足などをド ア部分に出していないかを確認すること。子どもがいたずらしてドアの開閉を行 うことが考えられるなら、車内からドアを開けられないチャイルドロックをかけ るとよい。 (2) 大半が軽症とはいえ、年齢が上がるにつれ危害程度が重くなり、治療に時間がか かるようになる。特にけがの多い手指の爪を中心とした部分は細かい組織で治療 も難しく、後遺症があると日常生活に影響も考えられる。ドアの開閉動作はあわ てず、気をつけて行うこと。 (3) 風の力や坂道などで予期せずにドアが閉まることで危害を受けているケースもあ 14 る。強風や坂道などでドアに力がかかる状態で無理してドアの開閉を行わないこ と。 (4) 万一けがをした場合、出血しているなら患部をハンカチなどで軽く押さえ止血す る。輪ゴムやヒモなどできつく縛ったりしないこと。内出血を起こしている場合 は冷やすこと。いずれも大きなけがであれば病院を受診すること。 2)テスト結果から (1) スライドドアに挟まれたときの衝撃力は、ヒンジドアに比べ 2 倍以上と非常に大 きく、重篤な事故も発生しているので操作するときには注意が必要 テストした結果、人が閉めたスライドドアに挟まれたときの衝撃力は、大きなも のは 200kgf を超えヒンジドアに比べ 2 倍以上となる。また、病院情報には、「車の スライドドアに、指を挟んで骨折した」など重篤な事故が発生しているので、スライ ドドアを閉める際には、ドアの周辺、特に子供の行動に注意を払って操作する必要が ある。 (2) 坂道でのスライドドアの開閉にはかなりの力が必要で、誤って手を放しスライド ドアに挟まれると重篤な事故となるので、操作は慎重に行うこと 坂道でスライドドアを開閉するとスライドドアの重量がかかってくるため、平地 で開閉する場合よりも力が必要となる。重くなったスライドドアを開け切れず手を放 してしまうと、勢いよく閉まり大きなけがを負う可能性がある。また、パワースライ ドドアであっても作動中に電源スイッチを切るとスライドドアが自然に閉まる銘柄 もみられたことから、車を坂道に停車した場合には、より慎重にスライドドアを操作 する必要がある。 (3) パワースライドドアを操作するときには周辺の状況を確認してから行うこと パワースライドドアには挟み込みを防止する機能が装備されていたが、挟まれ方 によっては作動しないことがあったので、開閉の際には慎重に操作する必要がある。 また、運転席のスイッチやリモコンでも開閉が可能であるが、安全のためドアの周辺 が確認できる位置で行うとともに、同乗者に声をかけるなどして、挟み込み事故を避 ける注意が必要である。 (4) スライドドアが開いていることを示す反射板が装備されていないこともあるため、 乗車している人はもちろんのこと、車両で走行している人は十分に注意する必要 がある スライドドアは外側に大きく開かないために、夜間では後続車からドアが開いて 15 いるのが分かりにくく、乗員が降りてきた場合事故につながる可能性があることから、 ドアの後端部に反射板が装備されている銘柄もみられた。しかし、全く装備されてい ない銘柄もあったことから、乗車している人もちろんのこと、、車両で走行している 人は十分に注意する必要がある。 5.業界への要望 1)パワースライドドアの挟み込み防止機能は、作動するときの衝撃力が大きいもの や、状況によっては作動しないこともあったので、より安全なものとなるよう改 善を要望する パワースライドドアには挟み込み防止機能が装備されているため、挟まれたときの 衝撃力は人が閉めたときよりも小さかった。しかし、一部の銘柄の衝撃力は約 50kgf と他に比べ大きかったので、できるだけ小さくするよう改善を要望する。また、指先 を挟み込んだときなどに挟み込み防止機能が作動しない状況も確認されたので、より 安全なものとなるよう改善を要望する。 2)リモコン操作ではかなり遠くからパワースライドドアの開閉ができたが、安全の 観点から改善を要望する パワースライドドアはリモコンを操作することで、13~60m 離れた位置からスラ イドドアを開閉することができたり、操作者の反対側のスライドドアを開閉すること もできた。このように、周辺の安全が確認できない状態でもスライドドアを開閉でき ることは安全の観点から問題があると考えられることから、改善を要望する。 〇要望先 社団法人 日本自動車工業会 〇情報提供先 内閣府 国民生活局 消費者調整課 経済産業省 商務情報政策局 消費経済政策課 経済産業省 製造産業局 自動車課 国土交通省 自動車交通局 技術安全部 審査課 本件問い合わせ先 情報分析部 :03‐3443‐1793 商品テスト部:042‐758‐3165 16 記者説明会資料(補足) 自動車のドアに挟む事故 ―ドアに関する事故の分析とスライドドアのテスト― 1.2005 年 11 月分の件数(括弧内は 2000 年 4 月~2005 年 11 月末までの合計件数) ①合計件数 自動車のドアに挟んだ事故:13 件増加(768 件) ②年代 年代 11 月分の件数 2000 年 4 月~2005 年 11 月末までの合計件数 10 歳未満 10 件 354 件 10 歳代 1件 45 件 20 歳代 0件 104 件 30 歳代 1件 92 件 40 歳代 1件 45 件 50 歳代 0件 47 件 60 歳代 0件 34 件 70 歳代以上 0件 47 件 ③年代(10 歳未満) 年代 11 月分の件数 2000 年 4 月~2005 年 11 月末までの合計件数 0歳 0件 12 件 1歳 2件 37 件 2歳 3件 72 件 3歳 1件 56 件 4歳 0件 49 件 5歳 1件 49 件 6歳 0件 37 件 7歳 1件 22 件 8歳 2件 13 件 9歳 0件 7件 17 ④性別 男性:8 件(369 件)、女性:5 件(399 件) ⑤危害内容 打撲傷・挫傷:13 件(608 件)(*それ以外の危害は 0 件) ⑥危害部位 「腕・手」:11 件(722 件) ・「手指」:9 件(667 件) ・「手掌・手背(手首)」:2 件(51 件) 「脚部」:1 件(31 件) 「頭部」:1 件(12 件) ⑦危害程度 軽症:13 件(707 件) (*それ以外は 0 件) ⑧治療見込み期間 治療見込み期間のわかるもの:13 件(702 件) 1 週間未満:11 件(509 件) 1 週間以上:2 件(193 件) ⑨その他 11 月分 13 件中、「ドアを閉めるときの状況が判明した事例」「スライドドアと特定できる 事例」とも 0 件。 18 <title>自動車のドアに挟む事故-ドアに関する事故の分析とスライドドアのテスト-(概要)</title> 19