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麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎 麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎

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麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎 麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎
麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎
−概要と感 染 対 策−
麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎の概要と感染対策についてご紹介します。
麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎は、いずれもウイルス性の疾患で、麻疹及び風疹は、春先から初夏に
かけて、水痘及び流行性耳下腺炎は冬から春にかけて流行がみられます。
麻疹
麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性の感染症で、一般に「はしか」の名称で知られています。感染力が極めて強く、かつてはすべ
ての子供が罹患する感染症でしたが、生ワクチンの導入により患者数は大きく減少しています。
・感 染 症:症状は前駆期(カタル期)、発疹期、回復期の 3期に分けられます。
前駆期(カタル期)3 ∼ 5 日:発熱や咳嗽で発症、38℃前後の発熱が続き、上気道炎症状(咳、鼻漏、くしゃみ)、結膜
炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が出現、増強します。コプリック斑とよばれる直径 1mm程度の白色斑が頬粘膜にみら
れます。
発疹期(4 ∼ 5日):カタル期の後にいったん解熱しますが、半日ほどで再び39∼40℃の高熱、発疹が出現します。発
疹は体幹や顔面から目立ちはじめ、後に四肢の末梢にまで及びます。体幹では癒合して体全体を覆うようになります。
発疹出現後 3∼ 4日は発熱、カタル症状は憎悪し、特有の麻疹様顔貌を呈します。
回復期:解熱し、全身状態、活力が改善してきます。発疹は退色し、黒ずんだ色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落
屑があります。カタル症状も次第に軽快します。
皮膚症状以外にも、肺炎、中耳炎、気管支炎、心筋炎、脳炎など、合併症が多い疾患でもあります。
・治 療:対症療法が中心となります。高熱と飲水量の減少により、脱水を伴うことが多く、輸液が必要となることがあります。
・病 原 体:麻疹ウイルス
(
);パラミクソウイルス科モルビリウイルス属
直径150∼250nmのエンベロープをもつ RNAウイルス
・感染経路:飛沫核による空気感染、感染者の鼻や喉の分泌物との飛沫・接触感染と多彩であり、その感染
力は非常に強いと言われています。免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症し、
一度感染して発症すると一生免疫が持続すると言われています。
麻疹ウイルスの電子顕微鏡写真
(CDCホームページより)
水痘
水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染による発熱と発疹を主症状とする急性の感染性疾患で、
「水ぼうそう
(水疱瘡)
」の名で知られてい
ます。その感染力は麻疹より弱く、ムンプスや風疹より強いとされ、家庭内接触での発症率は90%と報告されています。
・感 染 症:発熱と発疹を主症状とします。全身に水疱が現れ、水疱がすべて痂皮(かひ=かさぶた)になるまでまわりの人に感染し
ます。乳幼児、学童いずれの年齢でも罹患し、一般的に軽症ですが、成人はより重症になり合併症の頻度も高くなりま
す。ウイルスは完全には排除されず、何10年を経て、高齢、あるいは免疫力が低下すると、計算上7人に1人は帯状
疱疹に罹患するとされます。
・治 療:抗ウイルス薬としてアシクロビルなどがあり、内服で症状を軽くすることができます。細菌の二次感染を起こした場合
には抗生物質の塗布、内服などが行われます。熱が出た場合に解熱剤の種類によっては、重篤なライ症候群をひき起こ
す危険が高まるという報告があり、注意を要します。
・病 原 体:水痘・帯状疱疹ウイルス
(
:VZV);ヘルペスウイルス科のα亜科
150∼200nmのエンベロープを持つ DNAウイルス
・感染経路:患者の気道分泌物や水疱内容物の飛沫や飛沫核の吸入や接触、それが付着したものとの接触な
どにより感染します。まれに経胎盤感染も引き起こします。
水痘・帯状疱疹ウイルスの
電子顕微鏡写真
(CDCホームページより)
1
麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎
風疹
風疹ウイルスによっておこる急性の発疹性感染症で、症状が麻疹に似ているため、「三日ばしか」とよばれています。感染力は、
麻疹や水痘ほどは強くありません。
・感 染 症:小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身、特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を主な特徴とします。リンパ節腫脹は発
疹出現数日前に出現し、3∼ 6週間で消退します。発熱は38∼39℃で、3日程度続き、皮疹も 3日程度で消退します。
麻疹のように発疹のあとが長く残ることもなく 3∼ 5日で消退するため、
「三日ばしか」とよばれます
(はしかは症状が
10日間ほど続きますが、風疹は 3日ほどでよくなります。)。
脳炎、血小板減少性紫斑病を合併することがあります。妊婦の風疹ウイルス感染が、先天性風疹症候群の原因となるこ
とがあります。合併症は関節炎(成人女子に多い)、脳炎(約1/6,000、予後は良い)、血小板減少性紫斑病(約1/3,000、
予後は良い)、溶血性貧血(極めてまれ)が生じます。
・治 療:対症療法を行います。合併症出現時にも対症療法が基本となります。熱がでている間は、十分な水分補給、安静、保温
が大切です。
・病 原 体:風疹ウイルス
(
);トガウイルス科ルビウイルス属
直径60∼70nmのエンベロープをもつ RNAウイルス
・感染経路:感染者の鼻咽頭分泌液の飛沫、接触感染により感染します。感冒程度あるいは無症状の小児
が感染源として重要です。
妊婦がウイルス血症を起こし、胎盤を通じて胎児に感染する経胎盤感染により先天性風疹症
候群が発生することがあります。
風疹ウイルスの電子顕微鏡写真
(CDCホームページより)
流行性耳下腺炎
ムンプスウイルスによって引き起こされ、発熱とともに唾液腺の1つである耳下腺が腫脹して痛くなります。一般に罹患時の顔貌
から「おたふく風邪」と呼ばれています。
・感 染 症:耳下腺部(耳の下からあごにかけて)
の片側または両側の腫脹、疼痛が主な特徴です。ものを噛むときに顎に痛みを訴え
ることが多く、このとき、
(多くは)数日の発熱を伴います。基本的には軽症で、2∼ 3週間の潜伏期を経て発症し、通
常 1 週間∼10日間で軽快しますが、合併症として無菌性髄膜炎や脳炎を起こす場合があるほか、思春期以降にかかっ
た場合、男性では睾丸炎、女性では卵巣炎を併発することがあります。
・治 療:対症療法を行います。
・病 原 体:ムンプスウイルス
(
);パラミクソウイルス科パラミキソウイルス属
100∼600nmのエンベロープをもつ RNAウイルス
・感染経路:感染力はかなり強く、接触感染や咳・くしゃみなどの飛沫により感染します。また、唾液との
直接接触感染があり、尿からもウイルスの排出があります。不顕性感染者は約 1/ 3でみられ、
不顕性感染者もウイルスを排出し感染源となります。
ムンプスウイルスの電子顕微鏡写真
(CDCホームページより)
各疾患の感染期間
疾患
感染経路
潜伏期
感染期間
感染源
約10∼12日
発熱・結膜症状・咳などの症状出現1∼2日前から解熱後3日を経過するまで
気道分泌物
麻 疹
空気・接触
水痘・帯状疱疹
空気(飛沫核)
・飛沫・接触
2∼3週間
発疹出現の1∼2日前から全ての発疹が乾燥・痂皮化するまで
水泡内容物・気道分泌物
風 疹
飛沫・接触
2∼3週間
発疹出現の7日前から出現後 5 日まで
気道分泌物
流行性耳下腺炎
飛沫・接触
約2∼3週間
耳下腺の腫脹前9日から、腫脹後9日まで。尿からの排出は腫脹後14日まで
気道分泌物・唾液
2
麻疹・水痘・風疹・流行性耳下腺炎
消毒・感染防止対策
・予防
いずれも効果的に予防するにはワクチンが唯一の方法となります。
最近、麻疹及び風疹に共通して、海外からウイルスが持ち込まれたことが示唆される報告が多くみられており、最初に患者と接す
る可能性が高いのが医療機関であることから、事前の予防策として、事務職を含むあらゆる医療関係者においては、2回以上の麻
疹風疹混合ワクチン接種歴の確認と必要な場合の接種の推奨が重要であるとされています。
・消毒薬感受性
いずれのウイルスもエンベロープをもつウイルスで消毒薬感受性は高く、麻疹ウイルス及び風疹ウイルスは、低水準消毒薬でも有
効との報告がありますが、一般的には次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノール、イソプロパノールなどの中水準以上の消毒薬が
使用されます。
風疹ウイルスでは、ポビドンヨードによる不活化は濃度との相関が明らかではないという結果もみられます。水痘・帯状疱疹ウイ
ルスの消毒薬感受性データは見あたりませんが、ヘルペスウイルスの消毒薬感受性データから、塩素系やアルコール系、ヨウ素系
のような中水準以上の消毒薬の使用が勧められます。
・感染対策
標準予防策に加え、麻疹及び水痘では空気感染予防策及び接触感染予防策、水痘では飛沫感染予防策も求められます。風疹及び流
行性耳下腺炎では、標準予防策に加え、飛沫感染予防策及び接触感染予防策が求められます。
・感染症法における取扱い
いずれも5類感染症であり、麻疹は直ちに、水痘(入院例に限る)及び風疹は7日以内に(風疹はできるだけ早く)、患者が発生する
たびに、診断した医師が、最寄りの保健所に届出なければなりません。
施設内感染防止対策例
麻疹、水痘
手
指
患 者 病 室
風疹、流行性耳下腺炎
アルコール擦式手指消毒剤による手指衛生、目に見える汚れがある場合には、石けんと流水による手洗いを行う。
個室隔離を行う。:陰圧、6 ∼12 回/時以上の換気
一般病棟での個室隔離の場合:可能なら陰圧空調、患者の入室している
部屋の空気が流出しないよう、病室入口のドアは閉めておく。
個室隔離や集団隔離が望ましい。大部屋の場合
には、1m以上離す、カーテン等で仕切る。
症状が強い患者の入院の際には、外科用マスクを
つけさせる。
個人保護 具 抗体陰性の場合は、患者の病室に入室する際、N95マスクを着用する。
(患者が部屋の外に出る際には、外科用マスクを着用させる)
(PPE)
水痘患者と接触する場合は、手袋及びガウンを着用する。
(前室及び病室内にPPE(N95マスク、サージカルマスク、ビニールエプロ
ン、手袋、フェイスシールド)を設置する)
患者の 1m 以内に近づくときは外科用マスクをつ
ける。
湿性生体物質に触れる際は手袋をする。
器 具 、物 品
体温計、血圧計、聴診器は患者専用とする。再使用する場合には、消毒用エタノールなどで清拭する。
環
麻疹、水痘患者退室後の病室は、換気を十分に行う。
退院後、ベッドは洗浄するかまたは0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。シーツは感染性リネンとして処理する。
床は通常の清掃(免疫のないスタッフはマスク着用)
)
。清掃10分後には使用可能である。
手の触れる部分は、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどで清拭する。
境
予 防 接 種
医療従事者は、原則としてあらかじめワクチンを接種しておく。
患 者 ケ ア
患者のケアは抗体を有するものが優先して行う。
就 業 制 限
法的な就業制限はないが、感染力が強いため以下を参考に各施設で検討しておくことは重要である。
参考①:学校保健安全法
以下の期間、出席停止としている。
麻疹:解熱した後3日を経過するまで
水痘:すべての発疹が消失するまで
風疹:発疹が消失するまで
流行性耳下腺炎:耳下腺の腫脹が消失するまで
参考②:隔離予防策のためのCDCガイドライン
「曝露された感受性のある医療従事者は以下の期間、業務からはずす」としている。
麻疹:最初の曝露後5日目から最後の曝露後21日目まで
水痘:最初の曝露後8日目から最後の曝露後21日目まで
風疹:最初の曝露後5日目から最後の曝露後21日目まで
参考文献
・戸田細菌学 改訂33版 南山堂 ・東京都感染症マニュアル2009
・2007 Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings:
http: //www.cdc.gov/hicpac/pdf/isolation/Isolation2007.pdf
・小林信一 小児科診療 2006 12(67)1875−1880
・楠原浩一 臨牀と研究 2011 88(5)550−554
・院内感染対策パーフェクトマニュアル2008 88− 藤田次郎
・国立感染症研究所:IDWR 2016年第26号 注目すべき感染症 「麻しん・風しん 2016年第1∼26週」
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201609
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