...

太陽系の誕生 京都 (林) モデル

by user

on
Category: Documents
24

views

Report

Comments

Transcript

太陽系の誕生 京都 (林) モデル
太陽系の誕生
京都 (林) モデル
成田 憲保
06/01/25
参考文献
[1] Hayashi, C., Nakazawa, K., and Nakagawa, Y., 1985, in “Protostars and planets II”, p. 1100-1153.
[2] Miyama, S., Hayashi, C., and Narita, S. 1984, ApJ, vol. 279, p. 621-632.
[3] Hayashi, C., 1981, Prog. Theor. Phys. Suppl., vol. 70, p. 35-53.
[4] Hayashi, C., 1981. Proc. of IAU Symposium No. 93 “Fundamental Problems in the Theory of Stellar
Evolution”, p. 113-128.
[5] Hayashi, C., Nakazawa, K., and Mizuno, H., 1979, Earth and Planetary Science Letters, vol. 43, p.
22-28
[6] Mizuno, H., Nakazawa, K., and Hayashi, C., 1978, Prog. Theor. Phys., vol. 60, p. 699-710.
[7] Hayashi, C., Nakazawa, K., and Adachi, I., 1977, Publ. Astron. Soc. Japan, vol. 29, p. 163-196.
[8] Hayashi, C., Adachi, I., and Nakazawa, K., 1976, Prog. Theor. Phys. Lett., vol. 55, p. 945-946.
[9] Kusaka, T., Nakano, T., Hayashi, C., 1970, Prog. Theor. Phys., vol. 44, p. 1580-1595
1 林モデルの位置付け
1980 年代にかけて、太陽系の形成理論は 3 つのグループによるモデルに分かれていた。それらは Cameron
モデル (1978)、Safronov モデル (1969)、そして京都モデル (∼1985) と呼ばれている。Safronov モデルと京
都モデルは、原始太陽を取り巻く原始星雲として、太陽系の現在の天体から考えられる最小質量の材料物質を
仮定し、0.01-0.04M を初期質量としていた。そのため、これらのモデルは最小質量モデルと総称されてい
る。一方、Cameron モデルは 1M 以上の大質量星雲を考え、重力不安定によりダイレクトに巨大惑星が誕
生するとしていた。さらに、Safronov モデルと林モデルの違いは、微惑星形成後に星雲ガスが散逸した状態
で惑星が成長するか (Safronov モデル)、ガスが残ったまま惑星が成長するか (京都モデル) の違いにある。
これらのモデルは現在、gravitational instability モデル・core accretion モデルという惑星形成理論の 2 大
勢力として知られている。Cameron モデルを引き継いで巨大惑星の direct formation モデルを研究している
のは Boss らのチームで、林・Safronov らの後を引き継いで core-accretion モデルを研究しているのは井田・
Lin などのチームである。
1
2
2 原始惑星系星雲の構造
2.1 前置き
分子雲から原始星と原始惑星系円盤 (合わせて原始惑星系星雲) ができるまでの過程は、1980 年代には観測
*1 しかし初期の分子雲の質量や、回転・熱・重力のエネルギー配
的にも理論的にもよくわかっていなかった。
分などをパラメータとして行われたシミュレーションの結果 (Miyama et al. 1984 など) から、おおよそ以下
のような傾向が求められていた。
• 大質量や回転の弱い分子雲はいくつかのコアに分裂しやすく、連星系になることが多い
• 上の場合でも温度エネルギーが高かったり、強い乱流が発生していると分裂しない場合がある
つまり分子雲の初期条件によって、その結果できる原始惑星系星雲の様子が大きく変わってしまうため、ど
のグループでも分子雲の状態から計算を追うことはせず、最初の原始惑星系星雲の状態を仮定して理論を構築
していた。この節ではその計算に使われた仮定と方程式をまとめる。
2.2 京都モデルの原始惑星系星雲
京都モデルでは原始惑星系星雲の初期状態として、重力、遠心力、ガス圧のつりあいによって平衡状態に達
した、よく混合されたガスとダストからなる星雲を考える。ここからはこの系に対して軸対称な円筒座標系
(r, z) を取り、その物質分布 (円盤進化の初期条件) をまとめる。
○ 円盤の厚み … ガス圧と原始太陽の重力の釣り合いから half-thickness z0 (r) は次のように表される。
z0 (r) =
√
2cx(r)/ΩK (r) = 0.047
r 5/4
[AU],
1AU
(1)
ただし、cs と ΩK (r) はそれぞれ音速とケプラー運動の角速度で、
cs =
ΩK (r) =
kT
µmH
1/2
GM
r3
= 9.9 × 104
1/2
2.34 T
µ 280
1/2
.
[cm s−1 ],
(2)
(3)
○ 温度 … z 依存性を持たないと仮定すると、この星雲内の物質は可視領域の光に対して透明であり、ガスの
温度は主にこの放射によって決定される。
T = 280
L
L
1/4 r −1/2
[K].
1AU
(4)
これによると水の氷が固体となるのはおよそ 2.7AU となる。この L は当時 (T タウリ段階) の太陽光度で、
現在より明るかったと考えられるが、その依存性が 1/4 乗と弱いことから、原著論文での数値は全て L = L
として計算されている。
*1
現在でも観測的な情報はまだ少ないが、コンピュータの発達によってシミュレーションは分子雲からの円盤形成まで含めて行われ
ている
3
○ 星雲中の物質分布 … 現在ある惑星の質量と軌道から、これらのおおもととなった原始惑星が動径方向には
ほとんど移動しないと仮定し、全質量を 0.013M とすると、r 一定面上でのダスト面密度分布は
r −3/2
σdust = 7.1 ×
[g cm−2 ] for 0.35AU < a < 2.7AU,
1AU
r −3/2
[g cm−2 ] for 2.7AU < a < 36AU,
σdust = 30 ×
1AU
(5)
(6)
のように表される。一方、ガスの面密度分布は現在の太陽系の化学組成を再現するように H2 , He を滑らかに
分布させることで与えられる。
σgas = 1.7 × 103
r −3/2
[g cm−2 ] for 0.35AU < a < 36AU,
1AU
(7)
(以上、Kusaka, Nakano, and Hayashi 1970 による見積り)
以上の物質が z 方向にはガウシアンで分布しているとおくと、星雲中のガス密度分布は
ρgas (r, z) = ρ0
r −11/4
exp −z 2 /z02 (r) ,
1AU
(8)
ただし、ρ0 は 1AU の赤道面上での密度で
ρ0 = 1.4 × 10−9 [g cm−3 ],
と求められる。
図1
京都モデルのダスト密度分布 (Hayashi 1981)
4
(9)
3 微惑星から原始惑星コアまでの成長
3.1 微惑星の形成
3.1.1
ダスト粒子の沈降
力学的な平衡状態に至った後の円盤の中では、ダスト成分の沈降が起こる。この過程については、解析的な
計算とシミュレーションによる計算が行われている。
解析的な計算では、ガス中に浮かんだダスト粒子が太陽のポテンシャル中で z 方向に沈降する場合を考え
る。この時、ガス摩擦が十分にきくと考えると、その終端速度は
vz =
ρpart rpart GM z
,
ρgas vth a2 a
(10)
となる。ここで ρpart , rpart , ρgas , vth ,a はそれぞれ、ダスト粒子の密度、ダスト粒子の半径、ガスの密度、ガ
スの熱運動速度、太陽からの距離 (前節までの r) であり、例えば 1AU にある 1µm のダスト粒子の沈降速度
は 10−2 [cm s−1 ] 程度になる。
この沈降の過程での粒子の質量成長方程式は、付着確率を ps 、ダストの空間密度を ρdust として
dm
= −ps πr 2 ρdust ,
dz
(11)
となる。この式を z0 から赤道面まで、付着確率を 1 として積分すると、現在の地球・木星・海王星の軌道上
での粒子半径は 4.4・3.2・0.2[mm] となる。さらに、dt =
dz
vz
の両辺を積分することで、最初 z0 にあった粒子
が z まで沈降するのにかかる時間が求められる。例えば、1µm のダスト粒子が赤道面付近まで沈降するのに
かかる時間は、現在の地球・木星・海王星の軌道上で 2 × 103 ・4 × 103 ・4 × 104 [yr] となる。
一方、シミュレーションではダスト粒子の時間的・空間的分布、さらに動径方向に受ける移動も考慮したも
のが計算され、地球軌道付近ではおよそ 3 × 103 年で赤道面上に cm サイズの粒子ができるという結果がいく
つかのグループで一致した。(Nakagawa 1981, Weidenschilling 1980)
単純な解析とシミュレーションでの違いは、動径方向の移動を取り入れたことにあり、付着確率の不定性は
あるものの cm サイズのダスト粒子ができるというシミュレーション結果が、現在ではよく使われている。
3.1.2
円盤の重力分裂
薄い回転円盤の重力安定性は、もともと銀河の spiral 構造を説明しようと研究されてきた (Toomre 1964;
Goldreich and Lynden-Bell 1965a,b) 。具体的には流体の運動方程式に exp i(ωt + kr) の形の ring-mode
perturbation を代入して分散関係が以下のように求まる。
ω2 = Ω2K − 2πGσk + c2s k 2 .
(12)
これは ω 2 < 0 なら不安定となり、具体的には
Q=
cs ΩK
: Toomre s Q parameter
πGσ
5
(13)
が 1 より小さい時に、粒子層が重力分裂することを意味している。
この分散関係に対して Safronov(1969) 、Hayashi(1972)、Cameron and Pine(1973) らは、それぞれのモデ
ルでのガス円盤と粒子層の安定性について論じた。
Cameron モデルでは、星雲の σ が大きく、星雲の状態で Q < 1 を達成している。つまり、星雲は大きな塊
に分裂する。これが惑星の direct formation を導く。
次に、Safronov(1969) 、Hayashi(1972) らは小質量の原始惑星系星雲を仮定しており、同じ結論を導いた。
円盤中の粒子層に対する音速は、
c2s = γ(pgas + pdust )/(ρgas + ρdust ) γpgas /ρdust
(14)
となり、ダストの沈降中も pgas はほぼ一定だが、ρdust は上がり続けるため、いずれ Q < 1 に達する。またそ
の時の波数は k ∗ = Ω2K /πGσ となる。
この時星雲は多数のリング (動径方向) に分かれると共に、リングは多数の部分 (角度方向) に臨海波数 k ∗
で分かれる。この分かれた部分の質量は、
m = πσ
2π
k∗
2
2
= (2π)
σdust πa2
M
3
M
(15)
となり、地球・木星・海王星軌道においてそれぞれ 1018・1021・1022 [g] となる。
これが大量の微惑星が形成される京都モデルのシナリオであるが、この微惑星形成モデルではダストとガス
の流速の違いによるシアー不安定や乱流によるダストの巻上げなどは無視しているため、未解決の「微惑星形
成問題」として現在もさまざまなシミュレーションが行われている。
図2
ダスト円盤の重力分裂 (Hayashi 1981)
6
3.2 原始惑星コアの形成
次にこうしてできた微惑星から原始惑星コアまでの成長を考える。これは最終的にはシミュレーションでな
いと考えられない問題なので、まずは素過程として考慮が必要なことについてまとめる。
• 衝突断面積
二体問題 (太陽重力がない場合) の衝突断面積は
σcol = π(r + r )2 (1 + 2θ),
2
θ = G(m + m )/v (r + r ),
(16)
(17)
で与えられる。この θ は Safronov パラメータと呼ばれており、お互いの重力による断面積の増加を表
している。ただし、この断面積が微惑星間の衝突断面積の良い近似になるのは、二体の相対速度が高速
(θ < 1) の場合だけである。より低速な場合については、三体問題の多数の軌道を解いた Nishida(1983)
の結果から、数倍ほど衝突断面積が大きくなることがわかっている。
• 潮汐破壊
Nakazawa and Hayashi(1985) は、N 個 (N=560) の微惑星と半径 Rp の惑星の接近遭遇をシミュレー
ションした。その結果、岩石微惑星の場合は 1.8R p 以下の時、氷微惑星なら 2.8R p 以下を通った時に
ほぼ完全に破壊され、その破片は惑星の Hill 圏に捕われて惑星へ落下する。これは実質的に合体と同じ
効果を持つ。よって (16) はこれらのファクター f を考慮した
σcol = π(r + r )2 f 2 (1 + 2θ/f),
(18)
とするべきである。
• 重力散乱によるランダム運動
多数の微惑星が原始星のまわりを回る間、お互いの散乱により軌道離心率 e・傾斜角 i が誘起される。
こうした e, i が 0 でない運動をランダム運動と呼び、それによる微惑星間の平衡相対速度をランダム速
度と呼ぶ。一方、ガスの摩擦があるためあまり大きな e や i を持つことは制限される。よって、微惑星
のランダム運動は重力散乱とガス摩擦による促進と制限のバランスから求めることができる。これは
Hayashi(1977)、Nakagawa(1978) によって計算され、
1/5 2/5
√
v
m
aσdust
ln Λ
= e = 2i =
,
vK
r 2 ρgas
M
1/3
v2
Λ=
,
2Gmn
(19)
(20)
で表される。ただし、v はランダム速度、vK (= (GM /a)1/2 ) は e, i が 0 のケプラー速度、m は考え
ている微惑星の質量、n は微惑星の数密度、σdust , ρgas は (5)、(6)、(8) 式で表される。
• 動径方向の移動
微惑星はランダム運動やガス摩擦の影響で動径方向に移動する。動径方向の移動は新たな材料物質を提
供することになり、微惑星の成長を促進する。ランダム運動では微惑星は動径が増す場合も存在する
が、ガス摩擦の影響は微惑星の太陽方向への落ち込みを引き起こす。
7
ガス摩擦による微惑星の太陽方向への流速は、
πr 2
vr = −
ρgas a(e + i + η)ηvK ,
m
a 1/2
1 dρgas
GM ρgas
−3
η=−
=
1.8
×
10
,
/
2
da
a2
1AU
(21)
(22)
*2
で表される。
以上のような過程を考慮した上でシミュレーションが行われた。ただし、微惑星の初期段階での数は 1012
個程度もあるため、シミュレーションは分布関数を用いた統計的な (確率的な) 平均を取ったものとなってい
る。その結果 (1983 年当時) は以下のようになっている。
Mass
Earth
Jupiter
Saturn
Neptune
1 × 1027[g]
5 × 106
1 × 107
2 × 108
4.6 × 109
現在の質量 or10M⊕
1 × 107
4 × 107
6 × 108
—
表 1 コアの形成時間 [yr] (Nakagawa et al. 1983)
これを見ると、海王星領域では明らかに微惑星の成長が足りないことがわかる。これは core accretion モデ
ルの海王星問題として現在でも未解決である。
4 原始惑星の形成
京都グループは Mizuno et al. (1978)、Hayashi et al. (1979)、Mizuno (1980)、Mizuno et al. (1982) な
どで原始惑星大気の捕獲の安定性について議論し、Mizuno et al. (1979)、Mizuno et al. (1980) などで原始
地球大気の散逸・脱ガスによる新たな原始地球大気の形成などについて研究している。この節では、微惑星か
ら成長した比較的大きな原始惑星コアが大気を獲得し、原始惑星を形成するまでをまとめる。
4.1 コアのガス捕獲
1026 [g] を超えて成長したコアはまわりにガスを引き付けていき、さらにコアが成長すると自分の Hill 圏に
ある全てのガスを大気として捕獲するようになる。コアの成長率を Ṁp = 10M⊕ /(107 [yr]) とおくと、静水圧
平衡の式、エネルギー輸送の式に対して、ガスの不透明度 (κ = κgas + κdust )、Mp 、Rp が与えられると大気の
構造が計算できる。Mizuno (1980) では木星・海王星に対して κdust をパラメータとして振り、最終的に Mp
と Mtotal がどういう関係になるかが求められた。
この結果は次のように理解できる。惑星はまわりからガスを捕獲し原始大気を形成するが、安定な大気を持
つことができる臨界コア質量 Mp∗ が存在する。惑星のコアがまだ成長していない (臨界コアより小さい) 時期
には、Hill 圏に集められるガスの質量は多くなく、ほぼ Mtotal Mp となる。しかしコアが臨界質量に達す
*2
ただし、1980 年代にはこの効果はほとんど無視できるとして無視されていた。現在ではこの効果はもっとよくきくと考え直され
type I & II migration として研究されている。
8
るとまわりのガスを断続的に集め始め、平衡な大気が形成できなくなる。そしてまわりのガスを全て集めつく
し、臨界質量コアを持つ巨大ガス惑星となる。
臨界コアの質量は κdust の値によって決まっており、ひとつの極端な例として、臨界コア質量が小さい場合
にはすぐに大気不安定の状態 (ガスを集め続ける状態) になり、コア割合の小さいガス惑星となる。
一方、κdust >> 1[cm2 g −1 ] の場合には、Mp∗ は 70M⊕ にもなる場合があるという計算がなされている
(Perri and Cameron 1974)。*3
図3
図4
*3
ダストの不透明度によるガス惑星の臨界質量 (Mizuno 1980)
平衡大気を持つガス惑星のコア質量と全体質量の関係 (Mizuno 1980)
これはもちろん HD 149026b が発見される前に書かれた記述である。
9
図5
左:原始木星のまわりのガスの流線。破線は Hill 半径。右:結果的に Hill 半径の 4 倍ほどの幅の領
域にあるガスが原始惑星に流れ込む。
次に、こうしてできるガス惑星の質量を推定する。太陽系惑星の Hill 半径は次のように表される。
rH = a
Mp
3M
1/3
.
(23)
そして上の図に見られるように、原始惑星は Hill 半径の 4 倍程度のリング状領域のガスを捕獲する。この利
用可能なガスの質量は、
M = 2πa × 2(2rH + ea)σgas ,
(24)
となる。そこで京都モデルの σgas を代入すると、最終的なガス惑星の質量は木星・土星・天王星・海王星の各
領域において、3.5 × 102 M⊕ ・5.2 × 102 M⊕ ・8.4 × 102 M⊕ ・1.1 × 103 M⊕ となる。この質量は木星以外で
は大き過ぎることがわかる。これは星雲ガスの散逸を考慮していないことによると考えられる。
星雲ガスの散逸時間は京都モデルによってできる惑星の質量を最終的に決定する最重要要素であるが、あら
ゆる原始星雲に対応する正確な時期はまだ現在でもわかっていない。考慮するべき対象としては、太陽光度
(太陽風や紫外線の強さ)、磁場の役割などがあり、さまざまな計算がなされてきた。その全体的な合意として
は、星雲ガスは ∼ 107 年までにはほぼ完全に散逸し、惑星系は晴れ上がってしまうと考えられている。
4.1.1
太陽系のガス・氷惑星質量との整合性
惑星コアの成長時間と星雲ガスの散逸時間から、京都モデルによる最終的な惑星の質量と実際の質量との整
合性を考えてみる。
• 木星
木星のコア成長とガスの散逸時間は 107 年程度と同じくらいであるため、ガスが十分残っている段階で
コアが成長でき、その捕獲されるガス質量は 300M⊕ 程度と予想される。これによると木星はこれまで
10
の京都モデルでよく説明できるといえる。
• 土星
土星については、現在のコア質量 (∼ 10M⊕ ) になるのは 108 年程度の時期なので、コア成長の途中で
ガスは散逸してしまったと考えられる。そのためガス密度を減らして考えなければならないが、仮にガ
ス密度の減少因子を 3.5 とおけば、最終質量は ∼ 100M⊕ となる。これもそれほど無理なく説明できて
いるといえる。
• 天王星
この領域ではコア成長の時間が 108 ∼ 109 年と考えられ、コアの質量は太陽系年齢以内で説明できる。
また、ガスが散逸してしまったとすれば大気が ∼ 1M⊕ と少ないことも言えるが、逆にガスがある時期
にガスを引き付けるほどコアが成長できていないため、これだけの大気を獲得できた理由は難しい。例
えば、もう少し内側で形成された後に、動径方向の移動があって現在の位置にいるなどの可能性も考え
られる。
• 海王星
この領域では太陽系年齢になっても、ここにある惑星のコアは形成されない。これは core accretion モ
デルの海王星問題として知られている。
5 原始地球の進化
この節では京都モデルの帰結として出てくる原始地球の構造形成をまとめる。
5.1 原始惑星大気の温室効果
原始地球が現在の質量付近になった時は星雲ガスがまだ残っていたと考えられる。そのため、原始地球は星
雲ガスの成分を持つ原始惑星大気をまとっていたはずである。この原始地球の表面温度を推定する。
まず大気がない場合の表面温度を Tf 、原始地球が解放する輻射エネルギーを L、ステファン・ボルツマン
定数を σ とすると、黒体輻射の釣り合いから、
Tf4 =
L
,
4πR2p σ
(25)
となり、さらに惑星コア表面でのこの大気の光学的深さを τb とすると、
Tb4 = τb Tf4 ,
(26)
となる。よって τb が温室効果の大きさを表す。原始惑星の質量と共に捕獲するガスの量が変わるので、惑星質
量に対する原始地球の表面温度をプロットすると以下のようになる。これを見ると原始地球の質量が 0.1M⊕
を超えたあたりから温室効果がきき始め、0.2M⊕ を超えるあたりでは Tb は惑星物質の融点を超えるように
なる。
11
図6
惑星質量による原始地球の表面温度 (Nakazawa et al. 1985b)
図7
原始地球の大気構造 (Hayashi 1981)
5.2 コア・マントル構造の形成
このようにして表層付近が融解した原始地球は、図 3 のような構造を取ると考えられる。すなわち、中心部
に固体のシリケイト・メタルの原始コア、その外側に融解したことによって分化したメタルの中間層、表層部
のシリケイト層に分かれている。メタル層は FeO や FeS といった融点の低い化合物を作ることから融解して
いると考えられ、またシリケイト層もメタルの沈殿による重力エネルギーが解放されて高温になり融解してい
ると考えられる。
しかし、中間のメタル層は中心部のシリケイト・メタル層より密度が大きいため、この構造は明らかに不安
定であり、この原始コアはいつか現在のあるようなメタルコアと入れ替わると考えられる (Stevenson 1981)。
しかし、この問題を定量的に扱った解はまだ得られていない。
12
図8
表層部の融解した原始地球の構造
5.3 原始大気の散逸と脱ガスによる新たな大気の獲得
これまで考えていた原始大気は星雲ガスと同じ組成を持ち、さらに表面気圧は 50[atm] もある濃厚なもの
だった (Nakazawa et al. 1985b)。しかし、これらは圧力においても、希ガスの存在量においても、現在のも
のとは大きく異なっている。
一方、現在の地球大気の原型は、地球内部からの脱ガスによるという考え方 (Brown 1949) は広く受け入れ
られている。この脱ガスの時期は地球誕生から 5 × 108 くらいの間と考えられており、その前に原始大気は散
逸しなくてはならない。この原始大気散逸の計算は Sekiya et al. (1980a,b) 、Sekiya et al. (1981) で調べら
れており、その結果、星雲ガスが散逸した後の 106 ∼ 107 の間に、主に T タウリ段階の強い遠紫外線の直射
を受けることで原始大気は希ガスも含めて散逸する。こうしていったんほとんどの大気が剥ぎ取られた後で、
ゆっくりとした脱ガスにより現在の地球大気のもととなった新たな原始大気が形成されたと考えられている。
6 残された問題点とその後の進展
以上によって京都モデルは原始惑星系円盤から惑星の形成に至るまでを一貫して説明した。しかし、そのモ
デルには定量的にまだ未解決の問題や、説明できていない以下のような問題が残されている。
• 星雲の質量問題
• 微惑星形成問題
• 惑星落下問題
• 星雲ガスの散逸問題
• 海王星問題
こうした問題点に対してはは、現在でも多くのシミュレーションによる計算がなされている。また、こうし
たシミュレーションの結果を確かめるのは、観測による今後の新たな太陽系外惑星や原始惑星系円盤の発見に
かかっている。
13
Fly UP