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オフンダにおける広域行政制度

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オフンダにおける広域行政制度
オランダにおける広域行政制度(金井) 59
論
説
オランダにおける広域行政制度
金井利之
(1)
区域
考察対象
(2)
機構
広域行政総論
広域行政外論
(3)
任務総論
(4)
任務各論一広域構造計画一
広域行政内論
共同規約法協カ
(5)
進行
ー広域行政各論(1)
(1)
総説
(1)
諸類型
(2)
経緯
(2)
沿革
(3)
政府間交渉
(3)
実施状況
(4)
広域公共団体と広域空間政策
(4)
尖鋭化
終
序
1.
2.
(1)
(2)
3.
4.
5.
広域空間政策
広域公共団体
広域行政各論(2)
序
本稿の目的は,日本では紹介されることの少ないオランダの広域行政制
度に関して事実的に紹介し,オランダ行政・政策研究,および,広域行政
制度の比較行政研究の,基盤的知見を提供することにある(猪谷1995)。
筆者はこれまでに,オランダの全国政府の省庁機構に関する紹介を行って
きたが,本稿は地方政府の制度に関して,限られた部分ではあるが,知見
を付加しようと試みるものである。その意味で,これらの諸論稿とは相補
60 比較法学32巻1号
的な関係にある(金井1997a,1997b,1998a,1998b)。
行政理論的な関心からは,行政(bestuur)と空間(mimte)の関係に関
する論稿である(Toonen l989:397−398)。本稿は,空間管理の典型形態で
ある自治体制度(内部空間管理)と空間整序政策(外部空間管理)との関連
についての,1つの事例研究である(金井1998c)。本稿で詳述する広域公
共団体の制度の立案も,空間構成(mimtelijkeinrichting)に刺激された行
政構成(bestuurlijke inrichting)の改変の1つといわれる(De Ridder&
Schut1995:152)。従って,行政管理の1分野である空間管理における,
内部空間管理と外部空間管理の連関関係の解明に関する1つの手がかりを
提供するものと推測される。
本稿の構成は以下の通りである。1.で広域行政の概念を整理し,本稿
の考察対象を明らかにする。次いで,2.では広域行政を外論と内論に分
けて総論的に概観する。外論では,財政と空間政策を特に取り上げ,これ
が,後論の5.の前提となる。内論では広域行政の諸形式を一覧し,これ
も後論の3.4.の導入部分となる。3.では各論の第1として,共同規
約法協力を取上げ,4.の前提の議論を行う。4.では各論の第2とし
て,共同規約法協力の特別型である広域公共団体に関して扱う。5.で
は,広域公共団体の実際の活動に関して,財政問題に配慮しながら,広域
空間政策の運用を考察する。本稿全体を通じて,法制論と運用論の両面に
配慮する。
1.考察対象
広域行政(regionaal bestuur)とは,オランダでも多義的である(Elzin−
ga1995b:78−79)。オランダは,全国政府である国(Rijk)と,12の州
(provincie),572の自治体(gemeente)からなる(1997年5月1日現在)
(BiZa1997:W1)。このうち,広域行政とはどのレヴェルを指すかという
ことである。
オランダにおける広域行政制度(金井) 61
第1に,ヨーロッパ的視座からは,オランダ国民国家(nationale
Nederlandse staat)それ自体が,ドイツの州(Lander)ないし分邦(deel−
staat)と同格の意味での広域行政となる。オランダの州はこの場合には,
広域行政とは看倣されない。この用法のときは,「広域」よりも,むしろ
「地域」という訳語を当てるべきかもしれない。第2に,オランダの州を
広域行政の一種とすることも有り得る。この場合,広域行政とは,最基層
(1aagste)の統合的行政レヴェル(integrale bestuursniveau)(;具体的には
自治体)と,最上層(hoogste)の統合的行政レヴェル(=具体的には国)
との,中間に位置する統合的行政を意味する。広域ではなく,単に中間政
府(mesogovemment)とされることもある(Toonen1993:119)。
しかし,オランダ特有の行政的用語法では,第3の意味が普通である。
すなわち,広域行政とは,州と自治体の中間的区域(gebied)において生
じる行政活動(bestuurlijke activiteit)の諸形式である。「地方超的
(bovenlokale)」とか「地方際的(interlokale)」と呼ぶこともできよう。
第4に,州を超えて一国よりも小さい州超的(bovenprovinciaa1)領域に
関しても,広域行政と位置づけることもある。例えば,広域行政の一形式
である共同規約法協力は,州間でも可能である。また,ヨーロッパ的意味
での広域が,このレヴェルを想定することもある(Toonen1993:118,127−
128)。しかし,この第4の用法は,第3の用法ほど一般的通用性を有して
いない。従って,本稿でもこの慣例に従い,広域行政とは州と自治体との
中間的領域として考察をしたい。
なお,広域行政に関連して,中間行政(middenbestuur,mesobestuur)と
いう講学上の概念もある。中間行政とは,自治体と国の間のレヴェルの多
様な行政機構のレヴェルや行政活動の全般を指す。その意味では,上述の
広域行政の用法のうち,第2,第3,第4の包括するものである(Berk−
hout1996:21)。但し,どちらかというと,第2の用法(=州)に比重があ
るようである(Bervelinge.a.1996a:9−12)。
62 比較法学32巻1号
2.広域行政総論
制度は深く関連する環境を含んだセットになっており,広域行政制度も
同様である(金井1995:130)。広域行政制度の本体の議論(内論)に入る
前に,特に重要な環境要因を事前に指摘しておきたい。これが,広域行政
外論である。それを踏まえて,広域行政の諸形式を広域行政内論として扱
いたい。
(1)広域行政外論
①代替
広域行政は,広域課題に対して行政機構の対応という手段によって対処
する場合に生じるものである。しかし,ある種の広域課題に対しては,別
の手段での対処(代替)も可能である。その1つが自治体間財政問題であ
る。
これは,通常,大都市問題の表出の仕方の1つとして現れる(Koppe−
nlan1993:163−179)。すなわち,大都市特有の問題による支出負担が,旧
市街,都市更新,中心地機能提供などによって生じる。そのため,「豊か
な郊外,貧しい中心」という都市圏自治体間での不平衡問題が生じる。財
政の配分問題(verdelingsvraagstukken)として処理される限り,都市圏
における広域行政制度による対応は必須ではない。財政調整制度による対
応として,自治基金(Gemeentefonds)に関する1984年改正財政関係法
(Financi邑le verhoudingswet,FVW),1997年改正財政関係法がある
(Toonen1989:401,金井1996)。特に,後者の存在は,都市州構想(後述)
の必要性を減じたともいわれる。また,個別補助制度としては,例えば,
1985年都市・集落更新法(Wet op de stads−en dorpsvemieuwing,WSDV)
による都市更新基金(Stadsvemieuwingsfonds)がある。財政問題のどこ
までが代替され,どこからが広域行政制度に委ねられるかは,重要な論点
オランダにおける広域行政制度(金井) 63
である。
②整備
広域課題の発生は,既存の自治体の領域を超えて,社会・経済・文化・
自然的などの活動が一体化した広域圏が成立し,そのために行政制度との
不整合を起こすことに由来する。広域行政制度は,不整合を来している既
存の行政機構は存続させ,広域圏に適応できる方策を案出するものであ
る。これに対して,もっとも基本的な対策が,内国行政再編(reor−
gan孟satie binnenlands bestuur)である(Toonen1989:403)。広域圏に,行
政制度自体を整合させるのことで,広域課題の発生を元から絶つのであ
る。例えば,自治体を集積合併(agglomerat三e)すること,州と自治体の
間に第4政府層(vi“rde bastuurslaag)を新設すること,州の規模を小さ
く(分割)することなどである。但し,これらに関しては,自治体再編を
除き成功していない。
これに対して,一定の範囲で逆の可能性がある。すなわち,行政制度か
らあまウに逸脱した,圏域の無原則な拡張を制御するのである。このよう
にして広域課題の発生を抑制し,ひいては,広域行政制度の必要性自体を
限定するのである。勿論,これらの環境要因の制御は容易ではない。しか
し,空間整序政策,とくに,市街化政策(verstedelijkingsbeleid)は,非
常に影響が大きい。
オランダでは市街化を政府部門が強力に統制し,民間によるスプロール
は不可能であった。従って,広域課題の発生自体がかなり抑制された。1
つは,集約的分散(gebundelde deconcentratie)である。既存の中心都市
から分離したところに,成長核市(groeikemen)というニュータウンを建
設する。成長核市と中心都市との結合は切断されないから,その意味で広
域課題は発生するが,それは基本的には国が責任をもつというものであ
る。2つは,緩衝地帯政策(bufferzone−beleid)である。これは,市街地
の拡張が漫然と生じないように,市街地間を開放空間で仕切ることであ
る。これによって,自治体間の区切りを明認させることにもつながる。
64 比較法学32巻1号
しかしながら,5.で後述するように,1980年代末以降の市街化政策
は,密集都市(compactestad)指向となり,都市広域圏での市街化政策の
執行が必要となってきた。これによって,これまで広域課題を抑制してき
た市街化政策は,むしろ,広域課題を発生させるようになってきた。これ
が,4.で詳述する広域公共団体という広域行政制度を生む背景となった
のである。その意味で,整備プログラムの弱化が1つの要因なのである。
あるいは,広域行政制度が空問政策のために整備されるようになったとも
いえる。
(2)広域行政内論
オランダで観察される広域行政の諸形式の概略を,以下のように6つに
整理したい(Elzinga1995b:79−84)。なお,自治体の合併や境界変更など
を含む自治体再編(gemeenteherindeling)を,これらの諸形式から除いて
いる。論理的には,既存の自治体を超えるという意味での広域行政が,自
治体再編を通じて対処されることは有り得る。その意味で,広域行政の一
形式に位置づけることも不可能ではない。内務省もそのように位置づける
こともある(BiZa1993a:26−27)。しかし,自治体再編によって,かつて
広域的であった領域は,単一の自治体の領域に吸収されるならば,それは
本稿でいう広域行政とはいえなくなる。むしろ,自治体再編は,整備とし
て外論に含まれる。
第1の広域行政の形式は,私法的協力(privaatrechtelijke samenwerk−
ing)である。これには,二者的(bilaterale)なものと,多者的
(multilaterale)なものとがある。財団(stichting)・協会(vereiniging)・
株式会社(NV〉など,民法典(Burgerlijk Wetboek)に基づく私法的組織
形態(privaatrechtelijke organisatievom)をとりつつ,特定の(準)公共
的目的の実現のためのものである。エネルギー発生・配送(energie−opwek−
kingendistributie),有線事業(kabe1),ゴミ処理(afvalverwerking)など
は,自治体や州が株主として参加する株式会社のことがよくある。しか
オランダにおける広域行政制度(金井) 65
し,市場指向性が高まるにつれ,株主自治体による統制は困難になりつつ
ある。
第2は,共同規約法協力(WGR−samenwerking)である。これは,自治
体が公法的基盤(publiekrechtelijke grondslag)をもとに協力するもので
ある。共同規約法は一般的な法制であり,自治体間協力だけでなく,州,
治水団(waterschappen)やその他の公共団体・法人(openbare lichamen
en rechtpersonen)も加わることができる(共同規約法第1章一第IX章)。さ
らに,私法法人(privaatrechtelijke rechtspersonen)も,参加するするこ
とも可能である(同法第W皿章・第IX章)。本稿では,3.で詳述する
(Hagelstein1995a:100)。
第3の形式は,越境行政(landsgrensoverschrijdend bestuur)である。
ドイツ・ベルギーの自治体・州と,オランダの自治体・州などの二者的協
力が多いが,より大規模な協力もある。また,非法的(事実的)協定べ一
ス(niet gejuridicieerde convenantbasis)のものが大半ではあるが,法的形
式のものもある。例えば,エメンス・ドラード圏(Emems−Do11ard
regio)のオランダ・ドイツ越境協力は,私法形式である。また,新ハン
ザ際圏(Nieuwe Hanze Interregio)は,オランダ側北部3州・オーヴェル
アイセル州とドイツ側二一ダーザクセン州・ブレーメン都市州との公法的
な協力連合(samenwerkingsverband)である。国境地域はこうした越境行
政で覆われている。大河川が一種の目印的に作用しており,ライン・ヴァ
ール圏(regio Rijn−Waal),ライン・マース北圏(regio Rijn−Maas
Noord),欧的圏(Euregio,ライン・アイセル・エムス川),マース・ライン
欧的圏(Euregio Maas−Rijn)などがある。また,オランダ側北ブラバン
ド州・リンブルフ州とベルギー側各州では,ベネルクス中部会(Benelux
Middenraad)が著名である(Ligtvoet1990)。
第4は,広域公共団体(regionaal openbaar lichaam,ROL)である。こ
れは,公共団体型の共同規約法協力の特別形態として,1994年の行政改変
枠組法(Kaderwet bestuur in verandering,以下,枠組法と略する)によっ
66 比較法学32巻1号
て,都市圏域に設定されたものである。広域公共団体に関しては,4.で
詳述する。
第5は,都市州(stadsprovincie)である。枠組法上の位置づけでは,
都市州は,広域公共団体をさらに強化し,州としての権限を付与した形態
である(BiZa1995,Koopman1995b)。都市州の区域は,既存の州からは分
離することになる。その意味では,自治体と州の中間としての広域行政で
はなく,州そのものともいえる。しかし,沿革的には,既存の州区域より
狭小であることが普通であり,その意味では広域行政の1方式として考え
られてきた。しかし,これは実現していない(Cachet&Koppenjan1996:
91,Berveling e.a.1996b:139)。
第6の形式は,機能的広域行政(functioneel regionaal bestuur)である。
1つは,機能的分権(functionele decentralisatie)であり,州・自治体の
機能特化地域である。例えば,治水団,企業体(bedrijfslichaam),警察
圏域(politieregio)などである。2つは,機能的分散(functionele decon−
centratie)であり,「圏域における国家支配人(rijksheren in de regio)」で
ある。より詳細な類型化も可能である(Haagelstein1995b:270−273)。
3.共同規約法協力 広域行政各論(1)
広域行政の実務的な意味での中心形式が,共同規約法(Wet Gemeen−
schappelijke Regelingen,WGR)協力である。共同規約法は1985年に大幅
改正が行われたので,まず,改正に至った前史を簡単に見てから,1985年
同法改正の内容を紹介する。次いで,1985年改正法の実施状況を考察した
い。この実施状況が,ある意味で,4.の広域公共団体方式の導入の背景
を構成する。
(1)諸類型
広域行政の一形式である共同規約法協力は,4つの型に細分される
オランダ1;おける広域行政制度(金井) 67
(Hagelstein1995a:100)。第1は,共同規約単体(gemeenshappelijke rege−
1ing zonder meer)型である。参加団体間の簡単な合意(afspraak)を,そ
れぞれが共同して執行するものである。救急(ambulancevervoer)・ゴミ
収集(ophalen van huisvui1)などに見られる。第2は,委任(overlaten)
型である。これは,当該合意ないし協定(convenant)の執行を参加自治
体の一つに委任するものである。しばしば,中心自治体指定(aanwijzing
van een centrum−gemeente)型となり,執行を中心自治体に委任する。
第3の型は,共同機関(gemeenschappelijk orgaan)型である。法人格
のない共同の機関を設立するものである。行政総会・行政常会の分化はな
く,単一の行政会(bastuur)が置かれる。第4が,公共団体(openbaar
lichaam)型である。これは,共同機関型とは異なり,法人格があり,ま
た,行政総会(a玉gemeen bestuur)・行政常会(dagelijks bestuur)・議長
(voorzitter)から構成される。行政総会は,共同規約の最高機関(hoogste
orgaan)である(法第12条)(Tromp1995:115)。
なお,共同規約法協力はこの他に,やや違った角度から,積上げ(ge−
stapelde)型と立体(kubusmode1)型もあるという。積上げ型とは,例え
ば,共同規約法に基づく複数の公共団体が一定の政策領域に関してさらに
協力を行うものである。立体型とは,1つの自治体間協力地域の中で,あ
る分野に関しては一部の構成自治体だけで協力を行うものである。このと
きには,大きな協力区域内に,下位の協力区域が生じることになる。積上
げ型では,もとの協力区域を越域(overschrijding)するのに対して,立体
型では,もとの協力区域を縮域(underschrijding)する。
(2)沿革
前世紀中葉以来,墓地(begraafplaatsen)・渡舟場(veren)・道路
(wegen)・水路(vaarten)などに関して,自治体間協力は行われていた。
しかし,1851年自治体法(Gemeentewet)は,公法的基盤に基づく協力に
関しては,ほとんど余地を示していなかった。従って,今世紀前半の広域
68 比較法学32巻1号
行政は,私法的手段による協力か,あるいは,株式会社(naamloze ven−
nootschappen)・協会(vereiniging)・財団(stichting)などの私法法人の形
態を有しながら,公法的団体(publiekrechterlijke lichamen)の財政手段
によって協力することで,進められた。こうした私法的協力は,州による
事前授権(machtiging vooraf)や事後承認(goedkeuring achteraf)がなか
ったから,公的統制が欠如しているとか,一般利害(algemeenbelang)が
儲け主義(winst)の犠牲になるなどと批判された(Toonen1989:402−
403)。
そこで,1931年に自治体法が改正され,旧法の死文化していた自治体間
協力条項が,より実効的なものに置き換えられた。こうして,公法的規約
(publiekrechtelijke regeling〉による委員会(commissie),法人格保有団体
(rechtspersoonlijkheid bezittend lichaam),同団体の機関(orgaan van dat
lichaam)の設立が可能となった。また,このときはじめて,「共同規約
(gemeenschappelijke regeling)」の用語が登場した。反面,私法的協力は
制約されるようになった。1950年には,共同規約法として自治体法から独
立した。その背景には,広域問題は共同規約制と規模拡大という二正面か
ら解決していくという方針があったという。共同規約制は,「延伸地方行
政(verlengd lokaal bestuur)」の手段として,自治体政府(gemeentelijke
overheid)を強化するものであった(Tromp1995:107−108)。
その後の数十年にわたって,共同規約制は精力的に活用された。それ
は,保健配護(gezondheidszorg),食肉検査(vleeskeuring),消防(brand−
weer),自転車道(fietspaden)など,実に多様な分野で活用された。しか
しそのような繁殖は,ある意味で共同規約制が迷宮(wirwar)になったこ
とでもあり,多くの批判を受けた(Tromp1995:109)。
第1が,大量性(hoeveelheid)・概観不能性(onoverzichtelijkheid)であ
る。1984年時点で約10の政策分野に約700から約1500の規約があったとい
われ,そもそも,数の確定さえ困難であった(Toonen1989:405−407)。第
2は,政策連関保証(garantiesvooreensamenhangendbeleid)の欠如であ
オランダにおける広域行政制度(金井) 69
る。1つの自治体が数多くの共同規約に参加するため,自治体議会
(gemeenteraad)は政策の連関を形成・統制することができない。これは,
共同規約に事務を委任するほど深刻になる。第3は,参加自治体からの統
制(controle)の欠如である。多くの共同規約制では,公開性(openbaar−
heid),再投入回路(terugkoppelong),答責義務(verantwoordelingsverpli−
cht)などが規定もされず,議論もほとんど生じない。第2・第3の点か
ら,共同規約制は,統御されない望ましくない第4の政府レヴェルとなっ
ている。これらは,あわせて政治的統制(politieke controle)の問題とい
えよう(Toonen1989:408−409)。第4に,第2・第3の点と矛盾するよう
であるが,協力の完全自発性(volledige vrijwilligheid)は,しばしば,拘
束力不在(vrijblijvendheid)につながっているという批判もある(Hage1−
stein1995a:97)。
以上のような状況を受けて,共同規約法は1985年に大幅改正された。改
正法の骨子は,以下の諸点である(Tromp1995=109)。第1は,自治体間
協力の秩序形成である。州執政部(Gedeputeerde Staten,GS)が協力区域
(samenwerkingsgebieden,Wgr−gebieden)を設定し,協力区域内で共同規
約の集約(bundeling)と統合(integratie)を進めようというものである
(Toonen1989:411−413)。集約化とは,現実に多様に存在している共同規
約の区域を,当該自治体が属する共同規約区域に一致させることである。
統合化とは,集約化を前提に,共同規約を一本化することである。こうし
て,多様ないし乱雑に形成されていた共同規約が整理され,概観性も高ま
る。また,多目的自治体間協力(meervoudige intergemeentelijke
samenwerking)にも寄与することになる(Elzinga1995b:80)。
第2は,協力連合体(samenwerkingsverband)と参加自治体間の行政・
財政的紐帯(bestuurlijke enfinancielebanden)を強化することである。こ
うして,共同規約制が自立化(verzelfstandiging)してしまうことを防止
する。第3は,公開性(openheid)と公共性(openbaarheid)の促進であ
る。第4は,決断性(slagvaardigheid)の強化である。州による紛争調停
70 比較法学32巻1号
によって,自治体間協力が手詰まりに陥ることを突破しようともしている
(Hagelstein1995a:97−98)。
(3)実施状況
1985年改正法は,法施行(三nwerkingtreding)後5年以内(1990年1月1
日以前)に,既存の共同規約は改正法に適合するようにし,州執政部によ
って承認されなければならず,そうでない場合には,既存の共同規約は効
力を失うとされた。そこで,実施状況を把握するために,オランダ自治体
協会(Vereinigingvan Nederlandse Gemeenten,VNG),州間協議会(lnter−
provinciaa10verleg,IPO),内務省(Ministerie van Bimenlandse Zaken,
BiZa)が,VNGの社会地理・行政研究課(afdeling Sociaa1−Geografisch
en BestuurkundigeOnderzoek,SGBO)に委託して,実施状況の追跡調査を
行った(VNG1991)。また1990年に,内務副大臣は全国の州執政部に対し
て,改正法の機能に関する評価を照会した(Tromp1995:119)。これを受
けて,フローニンゲン・フリースラント・ドレンテの北部三州は,北国行
政科学協力連合(Samenwerkingsverband Bestuurswetenschappen Noorden
des Lands,SBN)に委嘱して,1992年7月から翌年7月にかけて調査を行
った(Everink e.a.1993)。さらに,1991年5月には,内国行政審議会
(Raadvoorhet Binnenlandse Bestuur,Rbb)も評価報告書を提出した(Rbb
1991)。
第1は,共同規約法協力区域(WGR−samenwerkingsgebieden)の州執
政部による設定である(法第2条)(Tromp1995:111−112)。「協力区域」の
用語に関する定義は,法は特にしていないが,以下の2つの目的がある。
1つには,自治体が共同規約を設定するときの指針(richtlijn)である
(法第6条)。さらにいえば,協力区域をもとに集約と統合を行うというこ
とである(法第2条第1項)。2つには,分散的官庁(gedeconcentreerde
rijksdiensten)が作業区域(werkgebied)ないし管轄(rayon)を設定する
ときや,国・州が政策執行のために圏域(regioys)を設定するときの指針
オランダにおける広域行政制度(金井) 71
となることである(法第7条第1項)。換言すれば,管轄・圏域設定と共同
規約法協力区域の調和(afstemming)ということである。協力区域設定の
準備(voorbereiding)にあたっては,州執政部は関係自治体,内務省,そ
の他関係各省との協議(overleg)が必要である(法第3条第1項〉。しか
し,区域設定の基準に関して法は規定していない(Hagelstein1995a:98)。
SGBO調査によれば,自治体との協議は充分になされて,自治体の希
望を容れて慎重に設定がされた。しかし,各省は州執政部の意見聴取の要
請にほとんど応ぜず,国や州レヴェルの必要性への考慮はほとんどされな
かった。1986年には62区域となり,期限の1990年1月1日には,全国は59
共同規約法区域に分割され,そのうち,49区域で通底規約(basisrege−
1ing)が締結されていた。また,全ての自治体は1つの協力区域に属す
る。但し,当該協力区域以外との共同規約が排除されたわけではない。し
かし,内国行政審議会は,必ずしも合理的な区域設定はできなかったとし
て批判的である(Tromp1995=116,Toonen1989:411−413)。
第2は集約化と統合化である(Tromp1995:112−114,120)。州執政部は,
協力区域に合致(overeenstemmen)しない共同規約は承認してはならない
が,保護(behartigd)される利益(belang)の性質(aard)ないしは規模
(schaal)によっては,協力区域からの乖離(afwijking)は指定(aange−
wezen)されうる(法第36条)。集約化とは,協力区域に共同規約を合致さ
せることである。しかしながら,SGBO調査によれば,集約化は州も自
治体も各論では困難と感じている。1990年段階では,全754規約のうちで,
16%程度しか集約されず,いわゆる立体型も3%しかない。SBN調査も
ほぼ同様の18%である。つまり,複数の協力区域におよぶ共同規約が大半
ということである。
また,州執政部は,共同規約の承認の決定に際しては,既存の承認済の
共同規約との統合よりも,独自の共同規約の承認の方が保護利益の関係か
ら価値がある(verdient)かどうかについて判断(beoordelen)することと
された(法第36条第2項)。つまり,法文上も統合化は強制的なものではな
72 比較法学32巻1号
いし,その条件も曖昧である。従って,州は統合化の可能性に関して審査
(toets)することはあっても,自治体は統合化をほとんど考慮していない。
統計上は,改正法施行以前には約1500あった共同規約が754にまで減少し
ているが,それらは,休眠規約(slapende regelingen)の整理(saner−
ing),国の法制・政策の変更,自治体再編,民間化などによるものであっ
て,統合化による減少ではない。
従って,内国行政審議会は,改正法の重要な要素目的であった秩序化は
達成されていないと評価している(Rbb1991)。それによれば,自治体間
協力連合は任務遂行のための「注文製品(maatwerk)」であって,法によ
って上から領域的に集約化・統合化することで秩序化することは,推奨で
きないとする。
第3は,機能的調和(fmctionele afstemming)に関するものである。自
治体に特別の利害関係があるときには,国・州の圏域・管轄の画定におい
て,協力区域を指針とするとしている(法第7条第1項)。また。法施行後
5年以内に機能的調和の適用状況の評価をおこない,任務の性質ないしは
規模による考慮のみが,協力区域への調和からの乖離を正当化するものと
された(法第136条)。しかし,州執政部が掌握している集約化手続とは異
なり,機能的調和に関しては州による階統制的審査(hierarchische toets−
ing)がない。州による区域設定には国による承認が必要なこともある。
また,国の区域設定は,大臣間の協議に基づき,内務副大臣(Staats−
secretaris van Binnenlandse Zaken)が決定するにすぎない(法第7条第2
項)。
SGBO調査によれば,州・国ともに,既存の区域には改正法の意図は
ほとんど作用していない。しかし,州の区域の新設のときには中程度には
考慮されており,特に,自治体間協力に関する州の圏域設定ではかなり大
きい。例えば,消防圏域(barandweerregio’s),ゴミ処理圏域(afvalstof−
fenregio’s),救急輸送中央署(Centrale Post Ambulancevervoer,CAP)圏
域などである。しかし,国の区域設定にはあまり真剣に対処されてはいな
オランダにおける広域行政制度(金井) 73
い(VNG1991:43)。また,国の場合には,複数の協力区域を包含する立
体型による調和も多い。例えば,保健配護提供法(Wet voorzieningen
gezondheidszorg)や労働提供地域行政(Regionaal BestuurvoordeArbeids−
voorziening)の圏域や警察圏域などである(Tromp1995:114−115)。SBN
調査でも同様である(Everink e.a.1993)。内国行政審議会も,州・国の区
域設定が必ずしも協力区域に調和する必要はないと判断し,むしろ,法第
7条の廃止を提言する(Rbb1991,Tromp1995:117,120)。
第4は,行政財政的紐帯・情報,あるいは,民主的正統性である
(Tromp1995:115−117,122)。改正法上は,行政会の構成(法第13条),情
報・答責義務(法第16条一第19条),保護利益の明文化,自治体からの委任
という規約の性質を踏まえた権限,予算の修正手続などが示され,これら
を満たしてはじめて州によって承認される。
しかし,SGBO調査やSBN調査によれば,実際上は必ずしも協力連合
体の自立化を防げてはいない(VNG1991,Everink e.a.1993)。保護利益や
権限は曖昧にしか規定されていない。行政総会よりも,行政常会・議長,
さらには事務局(secretariaat)に実権があり,行政総会とのギャップは大
きい。政治主導というよりは,任命行政官(benoemde bestuurders)主導
になっている。参加自治体と協力連合体との関係は,厄介な協議・調整任
務からなり,決定過程は長期化・緩慢化するなど,非常に困難である。自
治体議会は必ずしも広域協力に関心を持たず,自己の有する権限を行使せ
ず,情報も必ずしも入手しないのである(VNG1989)。両行政会への政党
の代表性も必ずしも確保されていない。つまり,参加自治体による統制を
通じた民主性(democratische gehalte)は高くない。内国行政審議会も,
より一層の手続規定が必要としている(Rbb1991)。
第5は,広域問題の解決手段としての,共同規約法協力の行政力(be−
stuurkracht)である(Tromp1995:118,120−123)。SBGO調査は,問題は
あるものの,共同規約制は非都市地域の広域問題の解決には充分という結
論であるが,充分には分析されていない。内国行政審議会も,都市・非都
74 比較法学32巻1号
市の区分に関わらず,共同規約制で充分としている(Rbb1991)。これに
対して,批判的な見解も有力である(Hagelstein1995a:101)。SBN調査
では,行政力は,統合性(integraliteit),決断性(slagvaardigheid),民主
性(democratische gehalte)に分解して,やや批判的に検討されている。
統合性とは,単一の共同規約法協力連合に統合することで,区域内の共同
利害(gemeenshappelijke belangen)の衡量(afweging)が可能になること
である。決断性とは,委任された任務を遂行するやる気(bereidheid)と
能力(capacitelit)である。民主性とは,協力連合の民主的・正統的な決
定形成であり,これは第4点として触れた。
統合性は,区域設定,領域的統合性(territoriale integratie),行政的統
合性(bestuurlijke integratie)に分解できる。前二者はすでに触れた。領
域的統合性とは,集約化と機能的調和のことである。行政的統合性とは,
国・州・自治体から委譲(overgedragen)される任務範囲(takenpakket)
のことである。任務範囲は多様ではあるが,総じていえば,協議任務
(overlegtaken)が多く執行任務(uitvoeringstaken)は少ない。自治体か
らの委譲は,住宅関連補助金政令(Besluit Woninggebonden Subsidies,
BWS)や自治体環境任務執行寄与金規則(Bijdrageregeling Uitvoering
GemeentelijkeMilieutaken,BUGM)など,国によって財政的に進められて
いる。また,上級政府からの委譲はほとんどない。
決断性は,任務範囲にふさわしい規模,協力連合の制度化,任務が実際
に執行される程度,参加自治体の協力の意志,上級政府による促進度など
に関係する。規模に関しては,任務が多様なこともあって,適切な規模は
容易ではない。執行任務に関しては適切に執行されることが多く,それは
協力連合の行政密度(bestuurlijke dichtheid)を高め,任務委譲を拡大す
ることに繋がっている。自律性の喪失の虞れと,自治体間の利害の多様性
から,協力の意志は少ない。この意志の自発性は,しばしば決断性の弱点
といわれる。
しかし,内国行政審議会はこれに与しない。広域的にルールを設定・執
オランダにおける広域行政制度(金井) 75
行し,あるいは,サービス提供を行うには,個別自治体を超えた規模の支
持(draafvlak)が必要である。このように,各自治体の利害が同方向を
向いていなければ,そもそも決断力の確保はありえない。従って,この自
発性を法に明文規定すべきとした。
(4)尖鋭化
以上のように,1985年改正法の効果に関しては必ずしも一致した見解は
ない。しかしながら,1990年代の政府が採択した結論は,1985年法による
強化では不充分であるということであった。この「適層政府政策(BoN−
beleid)」は複線的に展開された。第1軌道が,7都市圏に設定された枠組
法区域(Kaderwetgebieden)に決断性のある広域行政を提供することであ
る。これは,最終的には4.で述べる広域公共団体として実現した。第2
軌道は,都市圏以外の地域に対して,既存のつぎはぎ(1appendeken)的
な協力連合と区域画定を是正しようとするものである。その方策は,3段
階(trajecten)で展開された(BiZa1993a:23−26)。
そのための第1段として,1993年に共同規約法を改正し,内容を「尖鋭
化(aanscherping)」させた(Hagelstein1995a:104−105)。その目的は,協
力の自発性が結果を伴わない拘束力不在によって行詰まらないようにする
ためである。1985年法でも州の指示権限(aanwijzingbevoegdheid)は規定
されていたが,それはほとんど発動されなかった。指示権行使は,短期に
は成功しても,長期には行政的関係を悪化させて望ましくなく,また,発
動者の行政的弱さの現れと看倣されるからである。その意味では,1993年
改正法が利用されるかも,疑問がないわけではない。
1993年改正法によれば,州執政部は重大な利害(zwaarwegend belang)
があるときには,自治体に対して協議を経て特定の指示が出せる。指示
は,特定利害と規約の関係,既存規約の改廃,既存規約への入退などを示
す。指示は協力区域と異なることもできる。自治体が指示に従わないとき
には,州執政部は自ら規約を強要させる(同法第99条)。規約の強要
76
b i i
32
1 I F'
Concept-indeling in (gestapelde) Wgr-gebieden
als afstemmingskader voor functionele indelingen
dc. OI0394
afstemmlngskader voor functionele mdehngen
Wgr-gebieden
1 . Oost-Gronrrgen
2 . Noord-Gromrgen en Eemsmond : L r
3 . Centraal en WestellJk Gronmgen
4 . Friesland-Ncord . 7
Noord-en
Mldden-Drenthe
7
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Zurdoost-Drenthe
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14. ArnhemNJmegen / /
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6 . Friesland-Cost
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9 . Zmdwest-Drenthe
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12. TwenteStedendnehoek
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Oost-Gelcenand
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15. Rrvlerenlard
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16. West-Veluwe/Vallergebied/Eemland
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Westfnesland
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Flevoland
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19. Utrecht
20. Gool en Vechtstreek
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24. Noord-Kennemerland
25. Kennemerland
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オランダにおける広域行政制度(金井) 77
(opleggen)に対して,利害関係人は通常裁判所(rechtbank)に抗告でき
る(同法第101条)。州が指示を必要と考えないときにも,内務大臣が州に
招請(uitnodigen)できる。必要ならば,国王(Kroon)が州の権限を代行
できる(同法第100条)。従って,「招請」とは,国法的には「指揮
(bevelen)」と同義である。
第2段階は,共同規約法協力区域の拡大(vergroting)である(Hage1−
stein1995a:103)。1993年4月の内務省の協議文書(overlegnotitie)によれ
ば,1991年になお59あった協力区域を半減させるというものである(BiZa
1993c)。1993年中には各州による新たな区域画定の原案が出され,内務省
との協議に入った。1994年には39になった(BiZa1994b:4−6)(図3−1)。
第3段階は機能的区域画定(functionelegebiedindeling)の統合である。政
策分野間の政策準備・形成・実施の調和の改善のために,作業区域(werk−
gebieden)や機能圏域(functionele regio’s)を共同規約法協力区域に適応
(aanpassen)させるのである(BiZa1994b:7−13)。
4.広域公共団体 広域行政各論(2)
行政改変枠組法は共同規約法の特別法である(枠組法第2章第2節)。従
って,枠組法によって設立される広域公共団体(regionaal openbaar li−
chaam,ROL〉は,共同規約制の強化された特別型式である。それは,集
約化・統合化・決断性を都市圏において強化させるものであるが,民主的
統制は切断しようとするものである。参加自治体との紐帯が強いと,広域
的決断性が損なわれるからである。この点は,上述の内国行政審議会の見
解とは異なる。民主的統制と決断性の整合は,都市州構想に持ち越された
といえよう。
(1)区域
①適用区域数
78 比較法学32巻1号
共同規約法が全国に適用されるのに対して,枠組法の適用される区域は
7都市圏域である(枠組法第2条)が,7圏域になるには議論がなかった
わけではない(Elzinga1995c:127−130)。1989年のモンタイン委員会報告
や内国行政審議会報告では,都市広域問題は主として,アムステルダム
(Amsterdam),ロッテルダム(Rotterdam),ハーグ(Den Haag,’s−Graven−
hage),ユトレヒト(Utrecht)の4大都市を念頭に置いていた(Commis−
sie−Montijn1989,Rbb1989)。しかし,1990年から内務省がはじめた関係者
との協議では,4大都市圏以外の都市圏域もこれに加わった。1990年に内
務省によって公表された政府文書『適層政府第1部』は,エイントホーフ
ェン(Eindhoven)・ヘルモント(Helmond),アーネム(Amhem)・ナイ
メーヘン(Nijmegen),エンスケーデ(Enschede)・ヘンゲロー(Hen.
gelo)の3都市圏を加えて,7都市圏を提示した(BiZa1990)。
都市区域行政暫定法案要綱(Voorontwerp Interimwet bestuur stedelijke
gebieden)を含む,1991年公表の政府文書『適層政府第2部』も,基本的
には7都市圏を採用した(法案要綱第1.2条第1項)(BiZa1991:25−60,107−
108)。『適層政府第1部』で漏れた準都市圏の多くは(例えば,ブレダ
(Breda)都市圏),政府に対して新制度の適用を要求したが,法案要綱に
は盛込まれなかった。とはいうものの,政令(algemene maatregel van
bestuur)の宣明(verklaard)によって,他の都市区域も適用が可能であ
るという弾力条項が付加されていた(同条第3項)。これは明らかに第二院
(下院)の要請に基づくものであった。
国務院(Raad van State)の答申は,法律の条項が法改正に匹敵する可
能性を開くのは不適切とした。これを踏まえて,1993年3月11日の枠組法
案(ontwerp−Kaderwet)では,この弾力条項は削除された。政府の説明
文書(Memorie van toelichting)によれば,7都市圏以外への拡張は短期
間には望ましくはなく,他圏域には本法の作動状況を踏まえて,長期的に
法改正によって行うべきとした(BiZa1993b:110)。従って,議会では繰
返し,7都市圏に限定した理由や,弾力条項の可能性などに関して議論が
オランダにおける広域行政制度(金井) 79
匿廻魔囲麗匪璽コ
停まってくれ1
私も一緒に
BIZA ROA EINDH。 HAAG−
適層政府
TwenteO OOR BUHEL瓢熈圃DEN
□○○ ○ ○○□
01−01−95
(バス停)
○
⊥
図4−1 BiZa1994a=31
註BIZA=内務省
OORニロッテルダム都市圏
ROA=アムステルダム都市圏
RBUニユトレヒト都市圏
EINDH.EELMニエイントホーフェン・ヘルモント都市圏(南東ブラバント)
KANニアーネム・ナイメーヘン都市圏
HAAGLANDEN=ハーグ都市圏
Twente螺エンスケーデ・ヘンゲロー都市圏(トゥヴェンテ)
なされた。政府側の枠組法適用の基準は,社会的支持(draafvlak),規模
(omvang),行政的合意(bestuurlijke consensus)などであった。特に,一
般の共同規約法協力で充分に対応できないことと,州が当該区域の広域課
題の解決に適していないことを,政府は重視し,7都市圏に限定したので
ある(BiZa1994a:29−32)(図3−1)。こうして,政令によって適用区域を
宣明できるという修正案は否決された。7都市圏以外はバスに乗れなかっ
たのである(図4−1,BiZa1994a:31)。
②区域画定手続
適用区域は7都市圏域に法定されてはいるが,その規定の仕方は,「ア
ムステルダム市が所在している(gelgen)協力区域(samanwerkings−
gebied)」(法第2条a号)のようであるため,区域は画定されていない。
法案では通常の共同規約法手続,つまり,州議会(povinciale staten)の
80 比較法学32巻1号
承認によるとしていた。州が枠組法の意図を阻害しないように,主務大臣
(内務大臣)が州議会に対して指示(aanwijng)を出せるようにし,州議会
はその指示に従わなければならないようにした(法案第1.2.1条)(BiZa
1993b:111−112)。しかし,議会審議ではこの点は批判され,「広域公共団
体が行使する権限の観点から必要(noodzakelijk)」な場合には政令(al−
gemenemaatregelvanbestuur)によって規定(vaststellen)できるように
なった(法第3条第1項)。
画定政令(indelings−amvb)が発せられると,既存の州議会の画定決定
は失効する(同条第2項)。州議会は,政令の内容に沿って再度規定する
(法第4条第1項)。州議会が政令に従った画定をしないときには,主務大
臣が州議会を聴取してから自身で画定する。このときには,共同規約法の
適用はなくなる(同条第3項)。しかしながら,政令が出される場合には形
骸化するせよ,原則的には最終的な承認は州議会による。その点は,州政
府の役割を複雑にする。広域公共団体は通常の共同規約法協力より強力な
広域行政を生むためであり,ある意味で,この承認とは「残余州域(’rest’
provincie)」を画定するものでもある。それを州自身によらせることには,
疑義がないわけではなかった。しかし,政府は広域公共団体が共同規約法
協力の延長という出発点を維持するために,このような分権的手続に固執
したのである。
枠組法区域(Kaderwetgebied)に組込まれた諸自治体は,法施行後6ヶ
月以内に単一(een)の規約案(ontwerp−regeling)を列・1執政部に提案し,
州執政部の承認を得る(法第7条第1項)。法案では3ヶ月以内だったが,
議会修正などの内容があったため,対応期間を延長した。単一の規約と
は,枠組法第2章で規定されている意味での統合的な公共団体である必要
があることである(法第1条c号)。これらを満たさない場合には,州執政
部の承認は保留される。なお,規約案と承認決定は主務大臣に送付(ver−
zending)されるが,これは主務大臣の画定権限(法第4条第3項)などを
有効に行使できるようにするためである(Elzinga1995c=127−134)。
オランダにおける広域行政制度(金井) 81
(2)機構
①公共団体
広域公共団体は,名称にあるように,公共団体型が強制される(枠組法
第8条)。一般の共同規約制にある選択的(facultatieve)規定とは異なる
(共同規約法第8条)。国・州・自治体からの任務委譲を受けて,直接的な
財源調達(その前提として,独自の予算が不可欠である)によって,自治体
を超える任務・権限を行使するには,公共団体であることが適切と考えら
れたからである(BiZa1991:143,BiZa1993:113)。
② 法における行政総会(圏会)
広域公共団体は,行政総会(algemeen bestuur)を有する(枠組法第9
条)。圏会(regioraad)と呼ばれることもある。行政枠組法案では,広域
公共団体の後の段階に,広域区域当局(regionalegebiedsautoriteit,RGA)
への移行が予定されていた。広域区域当局は直接公選も可能な,ほぼ自立
した行政団体である(BiZa1993:116−118)。法案の広域公共団体は,共同
規約法に基づく「延伸された地方行政」と,広域区域当局との,移行
(overgang)途上形態(tussenfigure)とされた。しかし,制定法では広域
区域当局の段階は削除された(Elzinga1995c:134−135)。
行政総会(圏会)議員は,全構成自治体議会議員(1eden)と議長(voor−
zitters)とが一体として合同指名(gezamenlijke aanwijzing)することが
できる(枠組法第9条第1項a号)。一般の共同規約の場合には,圏会議員
は,各自治体議会により(door),各自治体議会ごとに(per),各自治体
議会議員から(uit)選出される(共同規約法第13条)。こうした合同指名
は,広域公共団体の広域行政としての独立性を高めるものとして導入され
た。これまでの行政総会議員が各自治体の代表者であったのに対して,広
域行政に対して合同責任(gezamenlijk ver&ntwoordelijk)を負うのであ
る。また,会派(fractie)も,出身自治体ごとではなく,政党別になされ
る(BiZa1994a:61−62)。また,自治体議員以外にも被選出権を拡大する
82 比較法学32巻1号
ことも可能である(枠組法第9条第2項b号)。但し,直近(1aatst)ないし
同時(gelijktijdig)の自治体選挙の候補者名簿(kandidatenlilst)に,登載
されていることが必要である。これも,広域公共団体の自立性を高めるた
めである(BiZa1993:114,法案第2.2.3条関連)。
なお,これらの規定は選択的であり,一般の共同規約と同様の方式で,
自治体議会により,ごとに,から,選出することも可能である。また,自
治体議会議長=市長(burgemeester)の選出権・被選出権については,一
般の共同規約との変更はなく,いずれも認められる。合同指名方式のとき
にも,その具体的な方法に関しては規定がないため,選挙会(Kiesraad,
選挙制度のための外部審議会と選挙管理会(stembureau)を兼ねる(Van der
sluis1998:7−8)が考えているような多様な選出方式が有り得る。また,
合同指名方式でないときには,自治体ごとの定数などに多様性が生じる。
自治体議会と圏会議員との関係は,従来の自治体議会と共同規約行政総
会議員との命令・相談関係(1ast−en mggespraakverhouding)とは変わる
とされる(Elzinga1995c:137−138)。一般の共同規約の場合には,各自治
体は広域行政における代表者に対して,指示したり召喚したりできる。広
域公共団体の場合には,議員の選出方法に多様性があるので,各広域公共
団体の選択に依存する。ただ,単一名簿から合同指名をするときには,現
実的には召喚は考えにくい。
③ 広域公共団体規約(ROL−regelingen)における行政総会
実際の広域公共団体規約では,合同指名制は採用されず,自治体議会に
より選出された。その理由は,合同指名制は望ましいが現在は部分の集合
体に過ぎないこと,また,将来的には政治的機関として作動することが期
待されるが,そのときには直接公選が望ましいこと(アムステルダム都市
圏),行政総会は各自治体の代表ではないが,自治体と広域公共団体行政
総会との紐帯は残るべきこと(エイントホーフェン都市圏)などである。ま
た,ハーグ都市圏を除き,行政総会議員は自治体議員の中から選出され
た。
オランダにおける広域行政制度(金井) 83
ハーグ都市圏では人口2万人に対して1議席を各自治体割り振ったが,
通常は,小自治体に相対的に多くの議席が配分されている。他方,大都市
選出議員には,加重投票権があることが多い。例えば,ロッテルダム圏会
ではロッテルダム市には6議席ではあるが,各3票がある。アーネム・ナ
イメーヘン都市圏でも,両市はそれぞれ4議席ではあるが,票はその2倍
ある。圏会定員は多様であるが,ロッテルダム圏が41,ハーグ圏が69,ア
ーネム・ナイメーヘン圏が42,アムステルダム圏が61,エイントホーフェ
ン圏が49議席である(Elzinga1995c:139)。
④行政常会(dagelijksbestuur)
第1回目の行政総会において,総会から,一定数の行政常会員が選出さ
れる。常会員数は各広域公共団体によって違いがある。ハーグ圏が17,ロ
ッテルダム圏が9(うちロッテルダム市が2),エイントホーフェン圏が
6,トヴェンテ圏が5から10,アムステルダム圏が8(うちアムステルダ
ム市から総会議長を含めて3),アーネム・ナイメーヘンが5である(Elzin−
ga1995:140)。
⑤ 議長(voorzitter)
一般の共同規約制では,議長は行政総会議員から行政総会によって指名
されるが(共同規約法第13条),広域公共団体では,総会議員以外からも指
名できる(枠組法第10条第1項)(BiZa1994a:61)。そのときには,一般の
報酬規則(vergoedingsregeling)の適用(共同規約法第21条)ではなく,行
政総会によって規定される(枠組法第10条第2項)。
政府法案では,当初は議長は国王決定(koninklijk besluit〉事項であっ
た(法案第2.2.4条)。政府によれば,国王任命の議長は自立的価値を有し,
そのことが既存の共同規約からの乖離を正当化するのであった。議長は,
協力区域の行政刷新(bestuurlijke vemieuwing)の全過程を遂行する責務
がある。また,議長は他の行政常会員とともに,広域公共団体と参加自治
体間の公平な調停役となる必要がある(BiZa1993:113−114)。これに議会
第二院各会派の批判が集まり,議会修正によって行政総会(圏会)による
84 比較法学32巻1号
指名となった。なお,共同規約法手続から乖離させない,つまり,行政総
会員から指名するという修正案は,否決された。
実際の広域公共団体規約は多様である。アーネム・ナイメーヘン圏では
議長は,行政総会員以外から選出されるとした。ハーグ・ロッテルダム・
アムステルダム都市圏の場合には,中心大都市市長が職務上(qualitate
qua)議長となる。トヴェンテ圏では,行政総会によって総会員から選出
される(Elzinga1995c:140−141)。
⑥委員会
広域公共団体には,行政総会の決定する規則によって,領域別委員会
(territoriaal commissie)を設置することが可能である(法第11条)(BiZa
1994a:62)。このときには,行政総会が権限・構成などを決めなければな
らない。領域別委員会は,協力区域の一部が明らかに残りの区域と異なる
利害を持つときに望ましい。具体的には,ハーグ都市圏におけるヴェスト
ラント(Westland)地域がある。ここは以前は,ハーグ圏とは別の共同規
約法協力区域であったのである。なお,通常の共同規約制と同様に,機能
別委員会も可能である(Elzinga1995c:142)。
⑦紛争調停(conflictbeslechting)
共同規約制では,紛争調停については州執政部が中心的な役割を果たす
こととされている(共同規約法第28条)。広域公共団体では,争訟(geschi1−
1en)は内部で解決する可能性が,選択的に開かれた(枠組法第12条)。た
だし,それは行政会の決定にとって代わることのできる争訟委員会(ge−
schillencommissie)ではなく,広域公共団体行政会の決定のための慎重な
準備のためのものである。拘束的助言(bindend advies)までは可能であ
るが,自律的調停はできない(BiZa l993:115,186)。
(3)任務総論
①特徴
広域公共団体の任務(taken)・権限(bevoegdheden)を詳述する前に,
オランダにおける広域行政制度(金井) 85
その全体的特徴を指摘しよう(Dδ11e1995:152−154)。第1に,物的インフ
ラ構造関連が中心となったことである。これは,都市圏における地方超的
課題である,住宅,工業用地,交通,公共輸送,大規模保養,環境問題な
どにおいて,行政規模(bestuurlijke schaa1)を調和(afstemming)・調整
(co6rdinatie)する必要があると考えられたからである。これに対して,
文化,スポーツ,福祉,教育などの市民志向的任務(burger gerichte
taken)では,調整の要請が少ないと考えられたのである。そのため,「地
空(grondlucht)」と呼ばれることもある。
第2は,段階的傾向(stapwijze inslag)である。これは,広域公共団体
自体が,中間局面(tussenfase)とされていることによる。当該協力区域
での行政的支持(bestuurlijk draafvlak)を,漸進的に生み出していく必要
がある。自治体間協力は,下から信頼できる形態を発達させる必要があ
る。これは,枠組法立案段階での住宅空間整序環境省(VROM)国家計画
庁(RPD)の影響といわれる(De Ridder&Schut1995:167−168)。国家計
画庁は,漸進過程指向的(geleidelijke precesmatig)であり,関係政府に
よる注文製品(maatwerk)という個別具体問題の解決を指向する。但し,
最小任務範囲にみられるように,強制の契機を放棄させたわけではない。
その意味で,従来の共同規約制は部分的には変性(denaturering)してい
る。内務省は,どちらかというと長期的一般法的(algemene wettelijk)解
決を指向し,制度的枠付け(instituioneel ingekadered)や上からの制御
(sturing vanbovenaf)を重視するといわれる。枠組法が両省庁の合作であ
ることを示している。
② 最小任務範囲(minimum−takenpakket)
i)総説
最小任務範囲に関しては,自治体は共同規約によって広域公共団体に移
譲することを義務づけられている(法第14条一第18条)(D611e1995:155−
157)。すでに述べたように,物的インフラ構造(fysiekeinfrastructuur)関
連の任務が中心である。最小任務範囲の一部ないし全部を付与しないとい
86 比較法学32巻1号
う緩和可能性(ontspamingsmogelijkheid)は,自治体の申請(verzoek)
に対して,主務大臣(Onze Minister,内務大臣を指す(法第1条a号))が
関係大臣との合意(overeenstemming)に基づいて決定することによる
(法第19条)。しかし,国は例外を認める意図はほとんどない。特に,空間
整序・土地政策(法第14条関連)は,広域行政の核心として事実上は有り
尋ない (BiZa1994a:37)。
ii)空間政策
空間整序(ruimtelijke ordening)については,自治体による土地取得
(grondverwerving)・土地配布(gronduitgifte,売却(verkoop)または長期
貸地(erfpacht)を意味する),公益事業(voorzieningvanopenbaarnut)の
建設(aanleg),費用補償(verhaalvandekosten),財政的帰結(financiele
gevolgen)の自治体間配分に関して,広域公共団体は規定(voorschrift)
を付与する権限を持ち得る(法第14条第1項)(Koopman1995a:162−163)。
また,行政総会によって指定(aanwijzen)された区域に関しては,広域
公共団体はこれらの土地政策(grondbeleid)の執行を自治体ではなく直接
に行える(法第14条第2項)。これら前2項に関する土地に関しては,その
維持(onderhoud)・管理(beheer)のための規定権限を行政会に付与しな
ければならない(法第14条第3項)。
土地政策は,自治体自律性の「自慢の儀侯馬(paradepaardje)」であ
り,自ら手綱をとろうとしがちである。そのため,不当な「競争(con−
currentie)」を防止し,危険を分散し,開発立地(lokaties)を段階的
(gefaseerd)にし,財政的帰結を平衡化することが法の目的である。そう
して,広域全体の競争的地位の向上が目差される。共同規約によって移譲
される範囲は必ずしも明白ではなく,圏域によって相当の差異が生じる。
また,政府は青写真を作ることは適切でないと考えていた。従って,自治
体の自由がどれくらい制約されるかは,広域行政による決定に依存する。
iii)その他
住宅(volkshuisvesting)については,広域公共団体の行政総会は住宅条
オランダにおける広域行政制度(金井) 87
例(huisvestingsverordening)を制定して,自治体間の居住空間配分
(woonruimteverdeling)を定め得る(法第15条第1項)。さらに,住宅・開
発立地関連補助金(woning−enlokatiegebondensubsidies)の自治体間配分
についても,行政総会で規則(rege1)を定められる(法第15条第2項第3
項)。
交通・輸送(verkeer envervoer)ついては,行政総会が広域交通輸送計
画(regionaal verkeers−en vervoersplan)を定められるような共同規約で
なければならない。広域交通輸送計画に基づいて,行政会は区域内自治体
に指示(aanwijzingen)を出せる(法第16条第1項)。広域交通輸送計画は
統合計画(geintegreerd plan)であり,自転車政策(fietsbeleid),駐車政
策(parkeerbeleid),交通安全政策(verkeersveiligheidbeleid),公共輸送
政策(openbaarvervoerbeleid),道路政策(wegenbeleid),開発立地政策
(lokatiebeleid),自動車相乗政策(carpoolbeleid),貨物輸送(goederer卜
vervoer)政策を含む(法第16条第2項)。つまり1広域公共団体は,いわ
ゆる「輸送圏域(vervoerregio)」をして機能する。また,自治体からは地
方公共輸送(10kaal openbaar vervoer)の権限が移譲される(法第17条)。
経済開発(economische ontwikkeling)についても広域公共団体は権限
を持つ(法第18条第1項)。そのために,広域経済開発戦略(regionaal−
economische ontwikkelingsstrategie)(法第18条第2項a号),経済に配慮し
た空間整序・交通輸送・環境政策の執行(同b号),工業用地(bedrijfster−
reinen)・事務所開発立地(kantoorlokaties)・小売業施設(detailhandels−
voorziening)・海空港(zee−en luchthavens)への政策(同c号),調査
(onderzoek)(同d号),産業投資や観光の促進・誘致政策(promotie−en
acquisitiebeleid)(同e号)という手段を使える。ただし,経済関係の規定
は,それ自体としての重要性は相対的に少ない。
③ 枠組法任務(taken uit Kaderwet)
枠組法任務とは,枠組法自体により既存関連法を改正した結果,直接的
に広域公共団体に移譲されるものである(法第4章)(D611e1995:157)。内
88 比較法学32巻1号
務省は,②③の双方をあわせて最小任務範囲として解説しているが,本稿
では枠組法の条文配列に従うことにする(BiZa1994a=36−51)。枠組法任
務も,主として物的インフラ構造の分野である。例えば,広域構造計画
(Regionaal Structuur Plan)(法第48条),広域環境政策計画(RegionaaI
Milieubeleidsplan)と環境プログラム(Milieu programma)(法第50条)な
どである。また,広域公共団体は州の代わりに権限を行使し,また,協
議・助言立場(overleg−en adviessituatie)で自治体にとって代わるように
なった。
④ 選択任務(facuItaieve taken)
選択任務とは,自治体の自発的意思によって,いわゆる「下から(on−
derop)」広域公共団体に移譲するものである(D611e1995:158)。これは,
共同規約制が公共団体型であると否とにかかわらず,法的観点からすれ
ば,自治体がこれらの補助建造物(hulpconstructie)の創造者(schep−
pers)であるから,共同規約制の特別型である広域公共団体でも可能とさ
れる(共同規約法第10条)。また,広域公共団体からの提起(initiatief)は
可能である。
法案では,広域公共団体の行政総会に,より強力な提案(voorstellen)
権が認められ(法案第2.2.2条第1項),関係全自治体議会の同意(instem−
ming)が得られた場合には提案まま決定となり(同条第2項),全自治体
の同意が8週以内に得られなくても,行政総会は理由説明(motiveerd)
を付して提案に関する,無修正・一部修正・否定を含む決定をできた(但
し,多数自治体議会が同意を留保(onthoudt)しているときは不可である)(同
条第3項)(BiZa1993:13−14,113,182−183)。しかし,憲法違反との見解も
あり,法案の条項は撤回された(Elzinga1995d)。
⑤ 第20条任務(art.20taken)
任務の性質と規模がふさわしいときには,広域公共団体の同意のもと
に,州は協働任務(medebewindstaken)の移譲が可能である(法第20条)。
従来は,州から自治体を通じて広域行政に再委任(doorgedelegeerde)す
オランダにおける広域行政制度(金井) 89
る任務に関しては,関連全自治体の同意が必要であり(州法(Provindcie−
wet)第107条),一部の反抗的自治体がこれを阻止することができた。第
20条任務によって,直接的に州から広域公共団体への移譲が可能になり,
こうした問題が迂回できるようになった(Dδ11e1995:158−159)。
⑥ 分権事務(gedecentraliseerde taken)
国から広域公共団体に直接的に任務を移譲することや,広域公共団体へ
の再移譲を条件として,国が州や自治体に任務移譲をする問接的なものも
可能である。枠組法の背景は,基本的には都市問題であり,分権化が念頭
にあったわけではないが,こうした可能性の検討は行われている。例え
ば,中心市的任務である麻薬中毒配護(verslavingszorg)や企業周辺政策
(bedrijfsomgevingsbeleid),自治体間協力任務である社会人教育(volwas−
seneducatie)や環境保全(milieubeheer),あるいは,一般生活保障法(A1−
gemene Bijstandswet)関連任務の広域化(regionalisering)などがいわれ
ている。また,州は独自の判断で,州の自律事務の移譲もできる。これは
第20条事務とは異なる(Dδ11e1995:159)。
(4)任務各論 広域構造計画(regionaal structuurplan〉
①広域空間政策
広域公共団体にとって,広域空間政策(regionaal ruimtelijk beleid)は
核心的なものである。空間政策は,幅広い内容を持つものであるが,その
中心的法制は,空間整序法(Wet op de Ruintelijke Ordening,WRO)であ
る。この他に,都市・集落更新法(Wet op de stads en dorpsvemieuwing,
WSDV),路線画定法(Trac6wet)などが関係してくることもある(De
Ridder&Schut1995)。これらは,国・州・自治体によって進められてい
たが,枠組法は「広域」レヴェルを付加した(Koopman1995a:16H63)。
枠組法は主として2種類の広域空間政策を挿入した。第1は,最小任務
範囲の広域土地政策(regionaal grondbeleid)である(法第14条)。広域レ
ヴェルで拘束的合意(bindende afspraken)を結び,開発立地の価格を設
90 比較法学32巻1号
定したり,危険と責任の平衡化を図ったりする。これに関してはすでに論
じた。第2は,枠組法任務の広域計画政策(regionaal planologische
beleid)である(法第48条)。これは,空間整序法(WRO)を改正するもの
であり,特に,広域構造計画が重要である。以下では,広域構造計画に焦
点を据えて,考察を進めたい。
②内容
広域公共団体の行政総会は,広域構造計画を策定し,州執政部による例
外(vrijsteling)を除いては,少なくとも10年以内に改訂(herzien)しな
ければならない(空間整序法第36g条)。広域構造計画は,広域レヴェルに
おける空間政策を強力に実行するための手段と位置づけられている。広域
構造計画には,第1に,具体的に可能i生のある広域の将来開発が盛り込ま
れる。それだけではなく,第2に,戦略的(strategisch)で不可欠(es−
sentieel)なプロジェクトないし施設提供(voorzieningen)の必要1生に鑑み
て,拘束的方法(bindende wijze)で解決を図る。これが,いわゆる具体
的政策決定(concrete beleidsbeslissingen)と呼ばれるものである(空間整
序法第36c条第1項)。具体的には,大規模住宅地,工業用地,基幹インフ
ラを意味すると考えられている。
こうして,空間的衡量(mimtelijke afweging)は自治体ではなく広域化
する。広域構造計画によって自治体の自律性がどのくらい喪失するか,つ
まり,集権化の度合いは,広域構造計画の詳細性(gedetaileerdheid)に依
存する。しかし,詳細な計画であっても,社会に対する拘束性に関して
は,自治体の用途計画(bestemmingsplan)に法的かつ空間的に翻訳(ver−
talen)される必要がある(Koopman1995a:163−165)。
③手続
広域構造計画の準備(voorbereiding)手続は,基本的には州の地域計画
(streekplan)と同様である(空間整序法第36d条)。準備には,行政法規一
般法(Algemene wet bestuursrecht,Awb)第3章第4節のいわゆる公開準
備手続(openbarevoorbereidingsprocedure)が適用される(オランダ行政法
オランダにおける広域行政制度(金井) 91
研究会1997:167−168)。構造計画素案(ontwerp−structuurplan)は何人
(een ieder)に対しても4週間にわたり供覧される(1igt ter inzake)(第1
項)。この期間中は,何人も意見(zienswijze)つまり異見(tegenwerp−
ing)を文書で提出できる(第2項)。行政総会は,素案提出から8週以内
に計画を議決(vaststekking)するが,素案に対する意見を取入れるとき
には,縦覧期間終了後4ヶ月まで議決を延期できる(第3項)。
行政法規一般法では,意見書提出は利害関係人(belanghebbende)とす
ることが原則である(行政法規一般法第3:13条第1項)。しかし,法律また
は行政機関(bestuursorgaan)の定めによりその他の者(anderen)に拡大
することができる(同第2項)。これを活用して,「何人」に拡張してい
る。
行政総会で議決された広域構造計画は,州執政部に対して承認(goed−
keuring)を求めて,可及的速やかに(spoedigmogelijk),遅くとも4週以
内に,提出されなければならない(空間整序法第36e条第1項)。州執政部
は承認にあたって,州計画委員会(Provinciale planologische commissie,
PPC)の意見を聴取(horen)しなければならない。また,都市・集落保
護景観(beschermdstads−endorpsgezicht)に関わるときには,記念物配護
国家庁(Rilksdienst voor Monumentenzorg)に対しても同様である(同第
2項)。承認に関する決定は,12週間以内にしなければならないが,その
判断要素は法定されていない。従って,一般的に州の空間政策との調和と
いうことになる。
州執政部による承認の留保(onthouding)に対しては,行政総会は国務
院(Raad van State)行政裁判部(Afdeling bestuursrechtspraak)に抗告
(beroep)できる(同第3項)。なお,広域構造計画の一部ないし複数部分
(een op meer onderdelen)の承認に対しては,何人でも国務院行政裁判部
に抗告できる(同第4項)。つまり,承認とは,行政法規一般法(第1:3条)
でいう「決定(besluit)」にあたるとされたのである。また,「複数部分」
という立法規定は,計画全体に対する抗告はできない趣旨と解されてい
92 比較法学32巻1号
る。
州執政部は,行政総会との協議(overleg)と州計画委員会の聴取を経
て,広域公共団体に対して広域構造計画の議決ないし改訂(herzien)を義
務づけることができる。また,内容(inhoud)に関する指示(aanwijzin−
gen)も同様の手続で出すことができる(空間整序法第36k条第4項第5
項)。主務大臣(住宅空間整序環境大臣)も同様に,行政総会と州執政部と
の協議と国家計画委員会(R三jksplanologische Commissie)の聴取を経て,
計画の議決・改訂の義務づけや内容指示を行える(同第1項第2項)(BiZa
1994a:40)。自治体の用途計画では1年以内に対処することが規定されて
いるが(空間整序法第37条第1項),広域構造計画にはこれに相当する規定
はない。しかし,広域公共団体が義務を果たさない場合には,州執政部や
主務大臣が代行(overgaan)できる(空間整序法第36k条第9項第10項)。
なお,これらの義務づけや指示に対しては,利害関係人は国務院行政裁判
部へ抗告できる(同第8項)(Koopman1995a:165−168)。
④機能
広域構造計画は市民に対する直接的な法的拘束力はない(BiZa1994a:
40)。つまり,この計画に基づいて,建築・建設許可(bouw−enaanlegver−
gunning)が出されるのではない。自治体は,計画の中の具体的政策決定
は遵守しなければならないが,それ以外に関しては法的義務はない(空間
整序法第36c条第1項)。また,有効期間は広域公共団体によって定められ
るが,10年以内の改訂が規定されている(同法第36g条)。しかし,この10
年という期間は致命的(fatale)ではなく,訓示的(orde)なものに過ぎ
ない。また,計画の一部ないし全部の撤回(intrekking)は,新計画が議
決ないしは供覧されてなければできない(同法第36i条)。つまり,有効期
間の定めに関わらず,放置される限り有効なのである。
広域構造計画の実務的機能は,以下の4つである。第1は,政策形成
(beleidsvorming)機能である。つまり,将来の開発の動向や,それに基づ
く政策の指針を示すプログラムとなる。第2は,統合(integrerende)機
オランダにおける広域行政制度(金井) 93
能である。広域圏における諸機能間の水平的調和(horizontale afstem−
ming)だけでなく,国・州・広域圏・自治体間の垂直的調和(verticale
afstemming)も含む。広域公共団体が直接に用途計画を策定するようにし
なかったのは,拘束的計画は市民に近いところで策定されるべきという判
断による。なお,自治体間構造計画は広域構造計画にとって代わられる
(同法第36d条第2項)(BiZa1994a:39)。また,広域構造計画は,州の地域
計画にとって代わるものではない。むしろ,地域計画は広域構造計画の源
泉である。つまり,計画濃密化(planverdichting)である。
第3は,審査枠組(toetsingskader)機能である(BiZa1994a:39−40)。
州執政部による自治体の用途計画承認のときに,広域構造計画は1つの考
慮(rekening)材料となる(同法第361条第1項)。州執政部は,用途計画に
対する判断の裁量を有するので,広域構造計画は拘束的ではない。しか
し,用途計画が広域構造計画に抵触するときには,州執政部は行政常会に
事前に助言(advies)を求める(同条第2項)。このときには,広域構造計
画を修正(gewijzigd)させて用途計画を承認することも,用途計画の承認
を保留することも,有り得る。どちらかが一方的に優越することはない。
また,広域公共団体が直接に用途計画の承認をしないのは,広域公共団体
が延伸地方行政であることによる。自分で自分に承認を与えるのはおかし
いからである。
第4は,指示(aanwijzing)機能である。行政常会は広域構造計画に基
づいて,州執政部に対して,自治体に対する指示を出すように要請(ver−
zoek)できる(同法第36n条)。つまり,広域公共団体は,直接に自治体に
指示は出せない。これは「U曲線構成(U−bocht−constmctie)」といわれ
る。というのは,延伸地方行政としての広域公共団体は,本体である参加
自治体に指示をするのは矛盾だからである(Koopman1995a:169−173)。
(5)進 行
広域公共団体は,枠組法施行後から最長4年間の時限的制度である(法
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オランダにおける広域行政制度(金井) 95
第31条第2項)。そこで,3年後に広域公共団体の機能について,参加自治
体と行政総会は共同ないし別個に,州議会と主務大臣に評価した報告
(raportage)をしなければならない(法第32条第1項)。共同の報告の方が
望ましい。州議会は,3ヶ月以内にその報告に対する判断(oordeel)を
行い,自治体,行政総会,主務大臣に通知(mededelen)する(同条第2
項)。主務大臣は,報告を受けてから6ヶ月以内に,議会(Staten−Gene−
raa1)に対して報告に関する立場(standpunt)を通知する(法第33条)。こ
の評価は,基本的には,最終展望(eindperspectief)としての新型州
(privincie−nieuwe−stij1)への移行の是非に関するものになる(図4−2)。但
し,その是非を決しないときには,行政総会の申請(verzoek)に基づき,
国王決定(koninklijk besluit)によって最長4年間延長(verlenging)する
ことはできる(同条第3項)(BiZa1994a:33−34,83−84)(図4−3)。
なお,この他にも,主務大臣は枠組法の実際の適切性(doeltreffend−
heid)と効果(effecten)に関して,議会に年次報告を行う(法第34条)。
この議会審議を通じて,前もって評価基準(evaluatiecriteria)が立てられ
ることが期待された。しかし,任務の執行状況,大都市問題解決への寄
与,参加自治体の将来,枠組法区域外の発展との連関などは,ここにおけ
る評価の問題ではなく,これらは関係自治体や広域公共団体が関係する。
国の評価は,自治体,圏域全体,州,国の利害を統合的に衡量する。こう
した利害関係の多様性と新型州という根本的性格を持った最終展望という
ことから,明確な参照枠組が必要である。他方で,枠組法は段階進行的性
格を有し,青写真を持たないようにしてきた。従って,政府は,拘束的評
価枠組ではなく,補助手段(hulpmidde1)を提示するに留まるという
(Emgels1995:149−151)。
96 比較法学32巻1号
5.広域空間政策
(1)総説
1995年から2015年を計画期間として,現在のオランダの空間政策は「空
間整序第4次構想補充版(Vierde nota over de ruimtelijke ordening extra,
VINEX)」をもとに執行されている(VROM1993)。VINEXの議決によ
って,国(住宅空間整序環境大臣)は,空間整序法上の指示(aanwijzing)
権限を行使できるようになったが(空間整序法第37条第2項),実際の作動
(doorwerking)は政府間協議による協定(convenanten〉方式がとられて
いる。従って,広域空間政策の運用は,このVINEX協定を中心に進め
られる。
VINEXにおける空間的主構造(ruimtelijkehoofdstructuur)の構成は,
開放空間(open ruimten)のための制限政策(restrictief beleid)と,市街
化(verstedelijking)における集約政策(bundelingsbeleid)とを,大きな
柱としている(VROM1993:5)。前者の制限政策の運用においては,国と
州との協議が中心となっている(RPD1995:43−48)。後者の市街化政策に
おいては,国と都市圏(stadsgewest)との協議が中心である(RPD1994)。
都市圏は,州のような意味での単一の政府を構成しているわけではなく,
複数の自治体の区域を含む区域である。従って,国と都市圏との実効的な
政策運用のためには,都市圏における構造的自治体間行政的協力
(structureleintergemeentelijkebestuurlijkesamenwerking)が必要とされた
(VROM1993:8)。枠組法は,市街化政策の協議・協定・執行の受け皿を
用意したといえる。VINEXが1993年12月の議決で95年からが計画期間で
あり,枠組法は1994年7月の施行である。
このように,任務・権限の制度的規定からも,法制定の沿革的経緯から
も,広域空間政策は広域公共団体にとって中心的な課題である。そこで,
オランダにおける広域行政制度(金井) 97
以下では,ハーグ市を中心とするハーフランデン都市圏(Stadsgewest
Haaglanden)を事例に取り上げて,VINEX協定について紹介したい。
(2)経緯
①VINOからVINEX
1988年に次期空間計画の原案である,『空間整序第4次構想(Vierde
nota over de ruimtelijke ordening,VINO)第a部(deel a)』が公表された
(VROM1988a)。この中で,都市的結節点(stedelijke knooppunten)を圏
域の中心地(centrum)として地位を強化し,また,この都市的結節点に
国の施設供給(voorzieningen)の立地を優先することとした。また,特
に,アムステルダム,ロッテルダム,ハーグの3大都市圏は,国際的投資
環境(intemationaal vestingsmilieu)に供せるように力を入れることとさ
れた(KorthalsAltes l995:132)。1992年のヨーロッパ統合による競争の激
化に備えて,都市圏重視の方針を提示したのである。
1989年にはVINO第a部に対応する形で,『ハーグ集積構造素描
(StructuurschetsvoordeHaagseagglomeratie)』(以下,r素描』)という政
策文書が,ハーグ市都市開発土地問題局(Gemeentelijke Dienst Stads−
ontwikkeling−Grondzaken,SOGZ)によってまとめられた(Gemeemte’s−
Gravenhage1989:7)。
『素描』の市街化方針(verstedelijkingsrichtingen)は,4つの出発点か
らなる。第1に,ハーグの中心街(centmm)に都市圏の経済・社会・文
化的機能を集中させる。そのためには,中心街の再開発が不可欠である。
第2に,都市圏の経済的潜在力を活用する。第3に,公共輸送と自転車の
利用を促進するような開発立地を目差す。第4に,自然・公園・保養区域
の維持・拡大を図り,緑の質を保持する。ハーグ都市圏における土地不足
からは,既成市街地の再開発だけでは不充分であり,その意味では都市的
区域の拡張は避けられない。その際の空間的シナリオには4つあるが,市
街化方針の抑制となるハーグ集積(Haagseagglomeratie)シナリオが最も
98 比較法学32巻1号
適切である。これは,ハーグ集積内(in)・縁(rond)への集中であり,具
体的には,ハーグの環状道路システム(randwegstelse1〉内部であるヴァ
ーテリンゲン(Wateringen)・ライスヴァイク(Rijswijk)での市街化が優
先され,ついで,環状道路のすぐ外縁のイーペンブルフ(Ypenburg)・ノ
ートドルプ(Nootdorp)が候補地となる。密集都市(compactestad)とも
称される。
これに対して,残りの3つのシナリオは,4出発点に照らしてハーグ集
積シナリオより劣る。郊外の成長核市(groeikem,オランダ式ニュータウ
ン)であるズーターミアの拡大である大ズーターミア(Groot Zoeter−
meer)シナリオは,既存の政策方針の延長線上ということであるが,そ
の自立的立地からハーグ中心街への機能集中が不可能であり,「緑心
(Groene Hart,オランダ式近郊緑地帯)」という保全緑地を侵食し,自動車
利用を促進するとして,否定的である。海岸立地(Kustlocatie)シナリオ
は,ハーグ市の海岸砂丘を市街化するものであり,中心地機能のハーグ集
中には適しているが,海岸砂丘の環境を著しく害するので望ましくない。
やや郊外部のパインナッカー(Pijnacker)建築立地シナリオは,鉄道のア
クセスがあることや,中心地機能集中にも適しており,この3つのなかで
はよい方である。但し,温室園芸(glastuinbouw)地域であるから,事業
には費用が嵩む点が問題とされた(Gemeente’s−Gravenhage1989:30−31)
(図5−1)。
このような『素描』の方針は,従来の市街化の方向性を変更することを
目差したものである。それ以前の市街化は,都市圏の郊外に分離して成長
核市を建設するものであった。それは,富裕層を郊外へ流出させるが,彼
らの中心都市の施設供給(中心地機能)への依存は残り,大都市の貧困を
招いた。従って,ハーグ市は1980年代から,中心都市への集中という方針
への変更を求めていた。ハーグ都市圏でいえば,ズータミアの市街拡張を
否定することを意味する。『素描』の策定においては,ハーグ市担当部局
職員をプロジェクト長(projectleider)として,周辺自治体,住宅空間整
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100 比較法学32巻1号
序環境省,商工会議所などの関係者を招いて議論を行い,相互にアイデア
を交換してまとめあげる,「オープン・キッチン」方式がとられた。周辺
自治体を関与させることで,ハーグ市域だけではなく,都市圏域に関して
方針をまとめることができた。また,密集都市のアイデアは,このように
ハーグなどの4大都市と国(住宅空間整序環境省)との合作であり,であ
るからこそ,上述のVINO第a部の都市圏重視の方向性と整合したので
ある。
1989年11月に,国では中道右派から中道左派へ連立政権の組替え(第3
次ルベルス内閣)があり,空問政策もやや影響を受けた。そこで,策定が
途中まで進んでいたVINOにかわり,空間整序第4次構想補充版
(VINEX)の策定がやり直された。こうして,1990年11月に,『VINEX第
1部(deel1)』が公表された(VROM1990)。VINOのVI:NEXの重点の
違いは,第1に,前者が都市の経済的可能性から都市集中を提唱するのに
対して,後者は環境保全への比重をかけることからも,都市集中ないし封
込めを正当化する。また,第2に,前者は共同規約制による協力のニュア
ンスが強かったが,後者では中心都市と郊外の問題を解決するために,よ
り強力な「適層政府」の新設・活用を意図していた(De Ridder&Schut
l995:155,BiZa1990)。枠組法立案と同時平行的に進むのである。
② VlNEX協定
いずれにせよ,当初の密集都市の方針は維持された。1990年からは,住
宅空間整序環境省がVINEX執行のための協定作成を提案し,VINEXに
もとづく政府間交渉が開始された。もっとも,政府間の交渉は以前から密
接に行われていたことは,『素描』の策定過程からも明らかである。しか
し,それ以前の空間政策では協定方式はとられず,これはVINOにおい
て提唱された新しいものである(VROM1988d:170−171,DeRidder&Schut
1995:153)。それは,以前は成長核市方式であったため,成長核市となっ
た各個別自治体に補助金を投入すれば,それで済んだからである。しか
し,密集都市方式では,都市圏域の多数自治体が関係するため,多数当事
オランダにおける広域行政制度(金井) 101
者間協定に利点があると考えられたのであろう。VINEXにおいても,こ
うした協議の慣行と協定方式のアイデアは維持された。
関係省庁とハーグ都市圏関係自治体の間では,1992年に「開始協定
(startconvenant)」が合意された。国レヴェルでは,92年に内閣見解であ
る『VI:NEX第3部(Dee13)』が公表され,93年に議会の議決を受け,
『VINEX第4部(Deel4)』として確定された(VROM1992,VROM1993)。
この間も政府間交渉は続けられ,1995年に「実施協定(uitvoerings−
convenant)」が,関係各省(住宅空間整序環境省・交通治水省・財政省・農
業自然漁業省・内務省・経済省),広域公共団体(ハーフランデン都市圏),関
係自治体(ハーグ・デルフト(Delft)・ライスケンダム(Leidschendam)・ノ
ートドルプ・パインナッカー・ライスヴァイタ・フォールブルフ(Voorburg)・
ヴァッセナー(Wassenaar)・ズーターミア),南ホラント州の間で署名され
た(StadsgeestHaaglanden1995b)。1996年1月より,実施つまり開発が開
始されている。開発事業は各自治体の責任で行われる。
(3)政府間交渉
①総説
1990年頃から進められたVINEXを巡る政府間交渉には,交渉参加主
体と交渉論点内容という2つの側面がある。第1の参加主体の側面では,
都市圏を中心として交渉は二元的に展開された。国対都市圏の交渉と,都
市圏対関係自治体の交渉である。ところで,ハーフランデン都市圏は,枠
組法による広域公共団体として画定されるまでは,共同規約法協力ないし
事実上の協議区域にすぎず,また,その区域も必ずしも確定されたもので
はなかった。それに関連して,関係自治体の範囲も必ずしも一義的とはい
えなかった。従って,参加主体自体が交渉の論点内容に左右されるもので
あったのである。
第2の側面である論点内容は,開発計画と財政資金がテーマである。そ
れぞれが,二元的に交渉される。国対都市圏の交渉では,市街化開発の大
102 比較法学32巻1号
まかな立地やそれに関するインフラの整備が開発計画の論点であり,ま
た,それに関して国がどれだけ財政資金を提供するかが問題であった。都
市圏対自治体の交渉では,開発計画の詳細な調査・分析と決定が行われ,
また,開発に要する費用の分担を自治体間でどのように割振るのかが,財
政資金の最大の論点となった。そして,この開発計画の規模と立地の決定
が,都市圏の範囲の画定に連動するのである。
②開発計画
i〉調査
開発計画は,住宅(wonen)・就労(werken)・公共輸送(openbaar ver−
voer)に関する必要1生が大きな柱となる(VROM1993:59−60)。住宅開発
に関する調査は,人口動態予測(bevolkingsontwikkeling)をもとに,1
住宅当たり平均居住者数の推計から,新規の開発の必要i生を見積もるもの
である。業務地区(kantoorareaa1)に関しても,事業者数(aantal arbeids−
plaatsen)や就業人口(beroepsbevolking)の予測から,望ましい業務エリ
アの面積を推計する。公共輸送は住宅と業務地区を連結するものであるか
ら,その両者から,自動車による移動の抑制という政策的要素を加えたり
しながら(VROM1993116),その必要性を推定することになる
(Gemeente’s−Gravenhage1989:16−25)。勿論,調査とはいいながら,これ
らの数字の推計は裁量的でもある。
オランダの市街化計画では,その中でも中心となるのが住宅数であるの
で,住宅に絞ってみることにしよう。ハーグ市『素描』によれば,1987年
から2015年にかけて圏域人口は約9万人の増加であるが,1住宅当たり平
均居住者数が同一の期間で2.34から2.04に低下するとされ,2015年までに
は87000(うち,2000年までには54000)の住宅ストック(womingvoor−
raad)が新たに必要とされた。これに対して,現在の建築容量(bouw−
capaciteit)は,ハーグ市内で9000,外縁自治体で5000,ズーターミア市
に3000,その他に開発の見込まれるライゾ(Leizo,ライスケンダム南東部
(Leidschendam Zuid−Oost)の意味)とロッケフェーン(Rokkeveen)でそ
オランダにおける広域行政制度(金井) 103
『VlNEX第1部』の望ましい開発構成
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Gewenste ontwikkelingsrichtingen stadsgewest Den Haag1995−2005
VINEX1
ハーグ・デルフト・ズーターミアの既存市街区域内の最大利用 約15.000住宅
ライスケンダム南東部 5.000住宅
ヴァーテリンゲン・イーペンブルフ 25.000住宅
スケフェニンゲンーハーグーライスヴァイタ・プラスプールポルダー一デルフ
ト問高速軌道
ハーグ中心街一イーペンブルク間高速軌道
バーグ中心街一ヴァーテリンゲン間高速軌道
ハーグ中心街一ライスケンダム南東部間高速軌道
中心街と周辺鉄道線結節点のA・B立地の最大利用
RPD1994:105
表5−2
れぞれ10000,9000と見込まれ,合計で36000である。つまり,差引で2015
年までに51000の住宅を建築できるように新たな市街化を進める必要があ
る(Gemeente’s−Gravenhage1989:16−17)。その際,すでに述べたように,
ハーグ集積シナリオを採用したいとする。
VINEXの計画期間は1995年から2015年であるが,住宅数が示されるの
は前半の1995年から2005年の期間である。『VINEX第1部』では,ハー
グ・デルフト・ズーターミアの既存市街区域(bestaand stedelijk gebied,
BSG)に約15000,ライスケンダム南東部(ライゾ)に5000,ヴァーテリン
ゲン・イーペンブルフで25000の,合計45000とした(VROM1990=183)
(表5−2)。2000年までに54000という『素描』に比して,やや抑えた数
字ではあるが,大きく乖離するものではない。
ii) ズーターミア東部
『第1部』公表以降の政府間交渉の最大の論点は,新たな開発立地とし
てのズーターミア東部(Zoetermeer−Oost)をいれるか否かである(RPD
1994:105−106)。いうまでもなく,成長核市であるズーターミア市は,新
規開発を求めた。すでに述べたように,『素描』は大ズータミア・シナリ
104 比較法学32巻1号
『VINEX第3部』『同第4部』の望ましい開発構成
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Gewenste ontwikkelingsrichtingen stadsgewest Den Haag1995−2005
VINEX3,3c en4
既存市街区域内・縁の最大利用 約10.000住宅
ライスケンダム南東部 7.000住宅
ヴァーテリンゲン・イーペンブルフ 25.000住宅
補充的住宅建築容量 3.000ないし5.000住宅
スケフェニンゲンーハーグーライスヴァイフ・プラスプールポルダー一デルフ
ト間高速軌道
ハーグ中心街一ヴァーテリンゲン間高速軌道
ハーグ中心街一ランスケンダム南東部間高速軌道
国鉄都市圏網の一部
中心街と周辺鉄道線結節点のA・B立地の最大利用
RPD1994=106
表5−3
オに否定的である。『第1部』はズーターミア東部に言及せず,住宅空間
整序環境省も否定的である。同立地は,中心都市への近接性基準(nabij−
heidcriterium)を満たさない。住宅数7700という開発には国の補助はでき
ない。仮に認めるとしても,既存市街区域で不足するときに限り,しか
も,住宅数2000から3000までとした。7000を超える場合には,重度公共輸
送連結(Zwaardere OV−verbinding,鉄道・路面電車などのこと)への投資
が必要になるからである。
これに対して,ハーグ市の見解は微妙である。第1に,既成市街区域の
容量は『第1部』の見積の半分程度しかない。従って,ズーターミア東部
を選択肢から外すことはできない。しかし第2に,既存市街区域の15000
を全てズーターミア東部に求めるという,かつての成長核市への逆行的選
択肢もとれない。そこで,控えめな数字を主張することになった(VROM
1991:220)。また,ハーグ都市圏は,既存鉄道であるズーターミア線
(Zoetermeerlijn)の延伸が,鉄路21事業(Rail−21)に組込めないかについ
ての打診もした。鉄道延長のためには,需要を支える大規模開発が前提で
オランダにおける広域行政制度(金井) 105
あり,それはズーターミア東部開発の是認と合致するからである。しか
し,交通治水省は同事業への組込みは拒否したので,成功しなかった。
その後の政府間交渉によって,既存市街区域の見積が約10000にまで削
減された。これが『VINEX第3部』『VINEX第4部』の計画上の数字
となった(VROMl992:115,193,VROMl993:60)(表5−3)。それでも,
都市圏側が主張した見積である8000よりは高い。並行して,ライゾが5000
から7000に引き上げられた。ヴァーテリンゲン・イーペンブルフは25000
のままである。そこで,1995−2005年の期間に不足する3000−5000につい
て,都市圏内で探すこととされた。ズーターミア東部は,海岸立地(Kust−
lokatie〉,パンナッカー東部(Pijnacker−Oost〉とともに,2005年以降の開
発可能代案(altematieveontwikkelingsmogelijkheden)に位置づけられた。
当面の妥協によるコンセンサスの産物である。
VINEXの計画上の数字は,1992年4月に締結された「開始協定(start−
convenant)」を受けたものである(RPD1994:106)。それによれば,既存
市街区域の査定(inschatting)を,8000ないし10000とし,それに伴い,
3000ないし5000が今後探すものとされていた。『第4部』の合意内容は,
2年近く前に固まっていたのである。
iii)制限政策
開発立地の選定と表裏の関係にあるのが,制限政策(restrictief beleid)
の動向である(RPD1994:118−119)。密集都市ないしハーグ集積の方針が
維持できないときには,ハーグ都市圏の西方は北海である以上,東方の保
全緑地である「緑心(Groene Hart)」への開発圧力となる。逆にいえば,
制限政策が強硬であれば,密集都市方針は維持しやすくなる。制限政策
は,緑心を持つ北ホラント州・南ホラント州・ユトレヒト州で構成する
「環状都市空間整序協議会(RandstadoverlegRuimtelijkeordening,RoRo)」
と,国との交渉に委ねられ,都市圏は交渉当事者ではない。結論的にいえ
ば,制限政策は強硬なものではなく,開発立地の選定への制約要因にはほ
とんどならなかった。
106 比較法学32巻1号
1991年5月13日の「環状都市制限政策合意枠組(Afsprakenkader res−
trictief beleid Randstad)」では,1995年から2005年までの緑心内の住宅建
築は約15000とした。この合意枠組は開始協定とは不可分(onlosmakelijk
deel uit)とされている。しかし,国は92年の開始協定において,零ない
し15000として,「緑心内零住宅(nul woningen in het Groene Hart)」を主
張した。とはいえ,1993年11月10日の合意では,1995年から2005年にかけ
て,南ホラント州域内で10500,ユトレヒト州域内で5000,北ホラント州
域内で0と,合計15500の緑心内の住宅建築を認めた(Stadsgewest Haag−
1anden1995b:25−27)。これが,南ホラント東部(Zuid−Holland Oost)地域
計画の改訂の基礎となっているが,逆にいえば,同地域計画に住宅建築数
を大幅に先占される可能性もある。そのため,環状都市の「南翼(Zuid−
vleuge1)」は新たな収容能力(opvangcapaciteit)がないから,緑心内の
8500程度の追加建築も有り得ると,南ホラント州は表明している。
iv)精査
開始協定の締結以降の政府間交渉の焦点は,開発立地の住宅建築容量の
精査であった(RPD1994:110−112)。土壌条件,広域緑地構造との整合,
重度インフラ(zware infrastructuur)や補給廠(munitiedepot)に近すぎ
ること,業務立地との優先関係,既存の帯状建築地(bebouwingslinten)
の保全など,様々の要因から,開発立地の「皮剥き(afpellen)」が進めら
れた。この結果,ヴァーテリンゲン・イーペンブルフが当初の予想より少
ないことになった。そのため,旧イーペンブルフ飛行場(vliegveld)だけ
でなく,パインナッカー市域内のデ・ブラス(De Bras)や,ノートドル
プ南東部(Nootdorp Zuid−Oost)も「イーペンブルフ」の名の下に組込ま
れた。しかし,ハーグ近接(集積)地域だけでは住宅数を満たせず,ズー
ターミア東部,パインナッカー南部(Pijnacker Zuid),パインナッカー・
デルフハウ(Pijnacker Delfgauw)も開発立地とされた。また,ズーター
ミア東部には鉄道の延伸も含まれた。
1994年2月の「VI:NEX主要事項交渉合意(VINEX−Onderhandelings一
オランダにおける広域行政制度(金井) 107
実施協定別表第1 ハーフランデンVINEX空聞開発プログラム1995年一2005年
第A部=住宅建築プログラム
開発立地
新規住宅ストックの最大数
A.既存市街区域(BSG)
9,000
B.新規拡張
ライスケンダム南東部
ヴァーテリンゲン/イーペンブルフ
6,800
17.000*)
ーヴァーテリンゲン
ーイーペンブルフ
6,500
10,500
うち:
*ライスヴァイク
4,000
*ノートドルプ
4.200****)
*パインナッカー・デ・ブラス
2,300
パインナッカー:
2,000
一デノレフハウ
1.700***)
ー南部
6.000**)
ズーターミア東部
合計
42.500
*) 2004年以降に2000住宅の残余容量が存在,従って2004年以降に利用できる
**) この開発立地は8000住宅が建築されるが,そのうち2005年以前に少なくと
も6000
***) 2004年以降には4000住宅にまで増大できる
****)ノートドルプ市ストユーノ(Stuno)を含む
Stadsgewest Haaglanden1995b:21
表5−4
accoord op hoofdlilnen)」によれば,既存市街区域9000,ライスケンダム
南東部6800,ヴァーテリンゲン・イーペンブルフ17000,ズーターミア東
部6000,パインナッカー南部1700,パインナッカー・デルフハウ2000とな
った。このとき,総住宅数は『第4部』の45000から42500に引下げられて
いる。この数字は,1995年6月の「実施協定」に踏襲された。ここで,ヴ
ァーテリンゲン・イーペンブルフの内訳が確定され,前者が6500,後者が
10500(うち,ノートドルプ4200,デ・ブラス2300)となった(Stadsgewest
比較法学32巻1号
108
d二”寸OOFOn一匡
の−め図
g誘
購麟 卸蓮悔
︵お=︶姻騒型憧鞭.OH
製国趣緩
︵℃コo信80負︶
︵おo=㊤もの虫㊤O①e
ゐ心ト躯ゐハ客.
︵目①>o毛﹄ooZ︶
み心くKトミ集.
一國H卜−長ムミー、。
乙“H窺ロ。卜・憩朝翌e即
心くト豪垢・!駅へ.ト八ヤK.O
論橿!タ勢恭λ謡へめ
鴇桜橿く気A姑区ヤ邸.
八冬λへ一県iト躯。
論恨ト岬ー気ー敏.寸
︵論桜橿。トミ忽ム!、
・K応ト!鰍・聡聖罵︶
卜△♪卜λマーヤ.
.:,,:頻無諌︽駆蕪
輿姻議
蟄姻姻匝
薯倒耀膣益Z一>.A爪Aいhーく
オランダにおける広域行政制度(金井) 109
Haaglanden1995b:21)(表5−4,図5−5)。
結局のところ,デルフト,パインナッカー,ズーターミア各市との妥協
も図られ,全ての自治体は多少とも果実を得ることに成功した。厳密な意
味での密集都市方針は,実現されはしなかった。これは,政府間協議によ
る合意形成という,意思決定の方式にも依存する。しかし同時に,既成市
街区域内で充分な住宅の提供が,経済的技術的に不可能であったというこ
と,あるいは,そのような超高密度の再開発を選択肢としなかったハーグ
市の方針の反映でもある。
③財政資金
開発計画の実施のためには,資金的な裏付けが重要である。しかしなが
ら,VINEXなどの計画本体は空間政策を規定するだけで,財政的コミッ
トメントは記載されない。従って,VINEX執行のための協定において
は,財政資金に関する合意が重要な要素となる。財政資金は,土地費用
(grondkosten),公共交通輸送プロジェクト,土壌浄化の3っの主要分野
で必要となるが,特に土地費用が重要テーマである。
i) 土地費用への国庫拠出
1990年1月に,国(住宅空間整序環境省)は1995−2005年の45000の住宅
用の土地費用に,343百万ギルダーの拠出を提示した(RPD1994二108−
110)。1992年4月に締結された「開始協定」においても,「超過土地費用
のための国庫拠出(rijksbodvoor excessievegrondkosten)」を343百万ギル
ダーとすると規定した。ところが,1993年10月14日になって,国は正式に
213百万ギルダー(1990年物価水準(prijspeil))への引下げを提示したので
ある(VROM1993b)。
その根拠は,第1に,当初は,住宅数45000の必要性を見積もっていた
が,その後の傾向報告(Trendrapport)では37500に下方修正されたこと
がある。なお,ライデン都市圏(stadsgewest Leiden)の住宅の必要性を
ハーグ都市圏に吸収することで,住宅数42500とされた。この数字は,翌
年2月の「VI]NEX主要事項交渉合意」に規定される。第2の根拠は,開
110 比較法学32巻1号
発立地関連補助金(10catiegebonden subsidies)の算定システムに起因す
る。国は,ロッテルダム都市圏において安価なバーレンドレヒト・スミツ
フック(Barendrecht Smitshoek)を承認したため,環状都市(Randstad)
における国庫拠出総額が1917百万ギルダーから1602百万ギルダーに減少し
た。さらに,ハーグ都市圏で新たに立地となったズーターミアやパインナ
ッカーは,配分の算定システムでは高く加重されない。そのため,ハーフ
ランデン都市圏への大きな減少をもたらしたのである。
当然ながら,ハーグ都市圏は激しく反発した(Stadsgewest Haaglanden
1993)。実質的には,ハーグ都市圏が関与のできない要因によって国庫拠
出が削減されたことは納得しがたい。また,形式的・手続的には,「開始
協定」で合意された内容が,事前の協議と合意もなく変更されることは協
定に違反し,協定当事者としての威厳を害されたというわけである。その
後,政府間交渉が繰返され,「交渉合意」では263百万ギルダー(1993年物
価水準)にまで押戻され,「実施協定」にも盛り込まれた(同第3条)
(StadsgewestHaaglanden199b:5)。うち,11百万ギルダーは,温室園芸地
区の非深刻土壌汚染(niet−emstigebodemverontreiniging)の浄化に保留さ
れる。およそ,1住宅当たり5920ギルダーである。
開発立地関連補助金政令(Besluit locatiegebonden subsidies)に基づく
上記の補助金(住宅空間整序環境省分野)の他に,国の拠出を得る手段があ
る。自治基金(Gemeentefonds)の一般交付金の補整による配分である
(内務省・財政省共同管理)。VINEX開発立地のうち,ラインスケンダム・
ノートドルプ・パンナッカーに関しては,大規模住宅建築自治体補整
(verfijning grote bouwgemeenten)の資格があるとされた(実施協定第6条
第1項)(Stadsgewest Haaglanden1995b:7)。これは,1984年一般交付金
補整政令(Besluit verfijningen algemene uitkering1984)で定められていた
成長核市補整(verfijningen groeikemen)(同政令第2.1.1条一第2.1.5条)
が,1992年11月14日政令改正政令(Besluit van14november1992wijziging
van het Besluit verfijning algemene uitkering1984)によって改称されたも
オランダにおける広域行政制度(金井) 111
のである。正式には,「住宅建築に関する大規模業務のある自治体
(gemeente met een omvangrijke opgave ten aanzienvanwoningbouw)」とい
う(Maasland1988−95=145−148,528,金井1996:61−62)。一般交付金配分
は,1住宅当たり約7500ギルダーである。内務・財政・住宅空間整序環境
各大臣により,1992年9月8日にライスケンダムは暫定的に指定され,93
年7月19日に正式に指定(aanwijzing)され(同政令第2.1.1条第1項),94
年1月から適用される(実施協定第6条第4項)。ライスケンダムの住宅数
は6800だから51百万ギルダーの受取であり,同様に,パインナッカーは
5700(デ・ブラス,デルフハウ,南部の合計)であるから43百万である。ノ
ートドルプはイーペンブルフの一部なので関係自治体間での住宅配分によ
って変動するので,確定していない。
ii) 土地費用基金の射程
ハーフランデン都市圏の開発立地の開発費用(expliotatiekosten)を共
同財源調達(medefinanciering)するために,ハーフランデン土地費用条
例(Grondkostenverordening Haaglanden)により土地費用基金(Grond−
kostenfonds〉が設置された(同条例第3条)。土地費用基金は,都市圏内の
自治体間財政関係の水平的調整を行う,広域公共団体の活動の中でも最も
重要なものの1つと見ることができる。
但し,土地費用基金は,ハーフランデン都市圏のVINEX関連の財政
を網羅しているわけではない。第1に,土地開発費用に関しての基金であ
り,土壌浄化(bodemsanering),公共輸送インフラ,大規模緑地プロジェ
クト(grootschalige groenprojecten)は別である(実施協定第4条第5条第
7条)。但し,土壌浄化暫定法非適用土壌浄化(niet−IBS(lnterinwet
Bodemsanering)bodemsanering)の費用は含まれる(同条例第10条第2項)
(StadsgewestHaaglanden1995c:10,RPD1994:23)。第2に,適用される開
発立地は,拡張開発立地(uitbreidingslokaties)であるライスケンダム南
東部,ヴァーテリンゲン,イーペンブルフ,ズーターミア東部,パインナ
ッカー南部,パインナッカー・デルフハウである(同条例第5条)(RPD
112 比較法学32巻1号
1994:127)。第3に,参加自治体は,ハーフランデン都市圏の構成自治体
の全てではなく,ハーグ,デルフト,ライスケンダム,ノートドルプ,パ
インナッカー,ライスヴァイク,フォールブルフ,ヴァッセナー,ズータ
ーミアの各市である(Stadsgewest Haaglanden1995c:6)。つまり,ヴァー
テリンゲン市などの旧ヴェストラント(Westland)の自治体を含まない。
第4に,都市内開発立地(binnenstedelijke locaties)に関しては,ハー
フランデン都市内開発立地土地費用条例(Grondkostenverordening binnen−
stedelijke locaties Haaglanden)として,別建てにしてある(Stadsgewest
Haaglanden1995e,RPD1994:127)。名称は特に区別することなく,こちら
も土地費用基金,ないし,単に基金と呼ばれる(同条例第1条第7条)。目
的も同様に,共同財源調達である(同条例第5条)。参加自治体は,既存市
街地内開発を行うハーグ市とデルフト市だけである(同条例第6条)。これ
らには,将来都市更新政策(Beleid voor stadsvemieuwing in de toekomst,
BELSTATO)として,住宅空間整序環境省から補助が出される(RPD
1994:13,127)。1住宅当たり,ハーグ市内分では6000ギルダー,デルフト
市内では4500ギルダーであり,それぞれ住宅数が4500と2000であるから,
合計で36百万ギルダーの国庫拠出である(Stadsgewest Haaglanden1995e:
12)。
iii)各開発立地の収支
土地費用基金の収支の基礎となるのが,各拡張開発立地におけるミクロ
的な収支見積である(RPD19941124−127)。ミクロの総和から,マクロ的
な土地費用基金の収支が構成される。そして,その不足分が共同財源調達
の対象となる。
収益(opbrengsten)は,開発された土地の処分(基本的には売却)よっ
て得られる収入である。これについて,ハーフランデン都市圏はコルプロ
ン・コンサルタンツ社(Kolpron Consultants)に調査を依頼した。開発立
地の最終品質(uiteindelijke kwaliteit)は,都市計画的内実(stedebouw−
kundige invulling)や建築住宅の種別(soort)にも左右される。そこで,
オランダにおける広域行政制度(金井) 113
調査は,2っの次元からなる基礎品質(basiskwaliteit)に限定した。第1
の用地要因(site−factoren)は,おもに,保養区域(recreatiegebied)の存
否などの景観品質(1andschappelijke kwaliteiten)に係るものである。し
かし,各立地間での差はほとんどなく,基礎品質の5%程度を規定しただ
けである。第2の位置要因(situation−factoren)は,既存居住環境(bes−
taande woonmilieu)やその印象(imago),中心街(centmm)からの位置,
道路立地などである。新旧立地間の空間的障壁(mimtelijke barrieres)も
重要である。近接立地(nabijgelegen lokaties)の居住環境の指数は,ノー
トドルプの92からフォールブルフの111である。近接立地の影響度は,今
回の拡張開発立地の規模との相対関係で左右される。つまり,小自治体の
ノートドルプ市街が大規模立地のイーペンブルフに与える影響に比べて,
パインナッカー市街が小さなパインナッカー南部に与える影響は大きい。
このような調査の結論は,パインナッカー南部の98からデルフハウの102
までで,基礎品質の差はかなり小さいというものであった。そこで,ハー
フランデン都市圏は,全圏域において区画価格(kavelprijzen)を同一と
看倣すこととした。
費用(kosten)とは,住宅のために土地を建築熟化(bouwrijp)させる
ためのものである。このうち,改良分流下水システム(verbeterd ge−
scheiden rioleringssysteem)の建設は,通常のものより1住宅当たり450ギ
ルダーの上乗せが必要で,ハーフランデン全体で12百万ギルダーである。
これは,当地の上級干拓会団(hoogheemraadschap,治水団(water−
schap)の一種である)によって義務づけられている(BiZa1996:X12)。都
市圏にとっては外部危険要因(extemrisco)である。従って,国がこれに
関しては対処することとなった。土地費用基金には算入する必要はなくな
った。
ヴァーテリンゲン開発立地は温室園芸地域であるため,その買収費用は
高い。区画当たり73750ギルダーで,最も高価な開発立地である。イーペ
ンブルフ旧飛行場は国有地ではあるが,国有財産庁(Dienst Domeinen)
114 比較法学32巻1号
が設定した購入価格(39.7百万ギルダー)での有償であり,また,高速道
路や兵器廠などの存在から全ての跡地が利用できるわけではない。また,
現在の跡地利用者であるフォッカー社(Fokker)との関係もある。また,
土壌浄化暫定法浄度(IBS−schoon)にも達していないから,それより下げ
る非IBS土壌浄化費用は当然にかかる。こうして,イーペンブルフは区
画当たり68000ギルダーもかかる。ライスケンダム南東部はやや高い52850
ギルダーである。この他は安価と見積もられ,例えば,ズーターミア東部
は区画当たり35000ギルダーである。
iv) 土地費用基金の収支
以上のような基準(genormeerde)ないし評定(getaxeerde)収支の推定
から,各開発立地ごとの差引結果(saldo)が見積もられる(RPD1994:
128)。ライスケンダム南東部は,大規模住宅建築自治体に指定されたた
め,かつての成長核市手続に則り,やや高めの密度(dichtuheden)の設定
となるので,それに応じて収入も変わる。
黒字はズーターミア東部(66百万ギルダー)だけであり,残りは全て赤
字である(Stadsgewest Haaglanden1995d:8,10,26)。すなわち,土地開発
関係で,ヴァーテリンゲンが226百万,ライスケンダム南東部が71百万,
パインナッカー・デルフハウは40百万,パインナッカー南部が16百万,イ
ーペンブルフが69百万の,それぞれマイナスであり,合計422百万ギルダ
ーである。黒字である土地開発差引正額(positievegrondexploitatiesaldi)
は,土地費用基金の収入となる(土地費用条例第8条第3項)。赤字である
土地開発不足額(grondexploitatietekorten)は,土地費用基金の支出とし
て,開発立地を担当する自治体に開発寄与金受取権(recht op een ex−
ploitatiebijdrage)が発生する(同条例第10条第1項)。
また,非IBS土壌浄化費用に対する寄与金も,土地費用基金の支出項
目となる(同条令第10浄第2項)。ヴァーテリンゲンが57百万,ライスケン
ダム南東部が6百万,ズーターミア東部が2百万,パインナッカー・デル
フハウが9百万(暫定),パインナッカー南部が4百万(暫定),イーペン
オランダにおける広域行政制度(金井) 115
土地費用条例 別表第2
1.第8条第2項,第9条第2項に対応する自治体拠出金
自治体寄与分,%,総額,年額
1995年1月1日物価水準
デルフト
総額
8.57%
17.140.000,一
年額
1.714.000,一一
ハーグ
ライスケンダム
ノートドルプ
57.93%
パインナッカー
ライスヴァイタ
フオールブルフ
ヴァセナー
1.76%
3.510.000(*)
351.000(*)
17.38%
34.760.000,一一
3.476.000,一
100.00%
200.000.000,一
ズーターミア
全自治体
115.850.000,一一
11.585.000,一一
9.180.000,一
918.000,一一
2.310.000,一一
231.000,一一
2.73%
5.460.000,一一
546.000,一
3.21%
6.410.000,一一
641.000,一一
2.69%
5.380.000,一一
538.000,一一
4.59%
1.16%
(*)合意によりヴァセナー市拠出金は総額1.170.000,年額117.000ギルダーに下方調節
されている
2.第8条第3項・第9条第3項に対応する土地開発差引正額
ズーターミア東部 ∫ 66.000.000,一一
3.第10条第1項第3項に対応する開発寄与金
ヴァーテリンゲン ∫ 226.000.000,一
ライゾ ∫ 71.000.000,一一
パインナッカー・デルフハウ ∫ 40.000.000,一一
パインナッカー南部 ∫ 16.000.000,一
イーペンブルフ ∫ 69.000.000,一一
4.第10条第2項に対応する非IBS土壌浄化寄与金
ヴァーテリンゲン ∫ 57.000.000,一一
ライゾ ∫ 6.000.000,一
ズーターミア東部 ∫ 2.000.000,一一
パインナッカー・デルフハウ ∫ 9.000.000,一一(*)
パインナッカー南部 ∫ 4.000.000,一一(*)
イーペンブルフ ∫ 10.000.000,一一
総額 ∫ 88.000.000,一
(*)1995年6月28日行政総会決定に対応する暫提付最高額
Stadsgewest Haaglanden1995c:26
表5−6 単位f(ギルダー)
116 比較法学32巻1号
ブルフが10百万であり,合計で88百万ギルダーである。
こうして,土地費用基金の総支出は510百万ギルダーとなる。土地費用
基金の収入は,ズーターミア東部の開発黒字の66百万ギルダーと,開発立
地関連国庫補助の263百万ギルダーからなる国庫拠出金(bijdrage van het
Rijk)がある(同条例第8条第1項)。但し,後者のうち,すでに述べたよ
うに,11百万は非深刻土壌浄化のために留保される。従って,実質的な収
入は318百万ギルダーである。従って,不足分が約200百万ギルダーあるた
め,これが自治体拠出金(gemeentelijke bijdragen)となった(同条例第8
条第2項)(表5−6)。
このように,国庫拠出が減ることは,自治体拠出を増やすことを意味す
る。国対都市圏の「実施協定」に至る政府間協議は,国庫補助総額を巡る
綱引きになるのは当然であった。実際の決定順序は上述の説明とは逆であ
り,自治体は200百万ギルダーまでしか出せないとして,都市圏が国と交
渉したともいう。また,開発立地の選定においては,密集都市方針に合致
しないとしても,ズーターミア東部が加えられる(空間的ではなく)財政
的理由を見ることができる。ズータミア東部を入れないことは,国庫拠出
ないし自治体拠出を増やすことを意味する。住宅空間整序環境省は妥協せ
ざるを得ないのである。
v) 自治体拠出金の負担配分
200百万ギルダーの総自治体拠出金を自治体間で負担配分することが,
都市圏と自治体との政府間交渉の大テーマであった。最終的には,全ての
開発立地の開発に対して各自治体が持つ,「関心(belang)」と「利得
(profijt)」によって分担割当てされることとなった(同条例第8条第2項)。
具体的には,条例別表2(Bijlage2)のような比率と金額となった。物価
による改訂はあり得るが,それ以外の場合には,全会一致(unaniem in・
stemmen)によってしか,条例別表2の分担最高額を超過させることはで
きない (Stadsgewest Haaglanden1995c:7,26)。
「関心」と「利得」は,五分五分の比重で考慮され,各自治体間に百分
オランダにおける広域行政制度(金井) 117
率で割当てられる(Stadsgewest Haaglanden1995d:1)。「関心」とは,自
治体の有責推計住宅必要性(verantwoordberekendewoningbehoefte)であ
る。住宅必要性基準ともいう。つまり,都市圏全体で開発立地を確保しな
いときには,各自治体の責任で住宅立地の必要【生を満たさなければならな
いからである。「利得」とは,実際にその開発立地の住宅にまず入居する
人は,どこの自治体から来るのかということの推計である。第一次入居基
準(eerste−bewoningcriterium)ともいう。実際にある自治体から転居すれ
ば,当該自治体の住宅ストックは余裕ができるわけで,それだけ住宅確保
の責任を免れることができる「利得」があるからである。「利得」の推計
にあたっては,可処分所得(besteedbaar inkomen)が39660ギルダーの上
下で稼得者(inkomstentrekkers)を区分し,上層を70%,下層を30%の比
重で推定する(RPD1994:128−129)。これは,拡張開発立地において最低
30%(既存市街区域では50%以上)は,低所得層向けの社会建築部門
(sociale−bouwsector)の住宅用とされたことと対応している(実施協定第
15条第1項第2項第3項)。
vi〉土壌浄化・公共輸送インフラ
土地費用に続く財政資金問題の主要分野が,土壌浄化である。土壌浄化
は大きく2つに分けられ,すでに述べたように,土壌浄化暫定法非適用
(niet−IBS)土壌浄化に関しては,土地費用基金の射程にはいる。この非
IBSについては,約100百万ギルダー程度と見込まれた。30百万ギルダー
が将来都市更新政策(BELSTATO)による国庫補助から,88百万ギルダ
ーが自治体寄与金から,それぞれ調達された(RPD1994:133−134,Stadsg−
ewest Haaglanden1995c:26)(表5−5,表5−8)。土壌浄化の費用の見
積は,誤差が大きいので,若干の金額上の遊びがある。
土壌浄化暫定法(IBS)適用土壌浄化に関しても,費用見積は難しい。
従って,しばしば安価な見積に基づくことになりやすい。ハーフランデン
都市圏の見積では20.8百万(+22.3百万の可能性あり),国の見積では23.5
百万である(表5−8)。実施協定では,とりあえず23.5百万をもとにし
118 比較法学32巻1号
土地費用基金への自治体拠出金
住宅必要性推計
国推計
州推計
国と州との
平均
第一次入
必要性推
居由来査
計と入居
定
由来査定
との平均
12.53%
10.16%
6.30%
7.78%
60.88%
67.70%
64.29%
46.80%
55.55%
ライスケンダム
4.98%
3.70%
4.34%
4.48%
4.41%
ノートドルプ
1.54%
0.99%
1.13%
デルフト
ハーグ
9.26%
1.00%
1.27%
パインナッカー
2.54%
2.70%
2.62%
3.04%
2.83%
ライスヴァイク
0.00%
0.90%
0.45%
6.22%
3.34%
フオールブルフ
0.00%
0.50%
0.25%
5.85%
3.05%
ヴァセナー
0.16%
0.10%
0.13%
3.55%
1.84%
20.65%
17.10%
18.88%
16.54%
100.00%
100.00%
100.00%
ズーターミア
ハーフランデン
17.71%
100.00% 100.00%
RPD1994:129
表5−7
自治体拠出金の配分比を巡る計算例
ている(表5−9)。住宅空間整序環境省は一括で10百万ギルダーの補助
を行い,うち,8.5百万は南ホラント州が,1.5百万はハーグ市が受取る
(実施協定第4条第1項第2項〉(Stadsgewest Haaglanden1995b:5−6)。土壌
浄化の任務は,州と同様にハーグ市などの4大都市にも認められたからで
ある(枠組法第51条,土壌浄化法第88条第1項)(BiZa l994a:96,Hagelstein
1995c:195)。依然として不足する13.5百万ギルダーの手当は深刻であり,
ハーグ市は既存市内の土壌浄化で予算を食われ,南ホラント州の年間2百
万(10年で20百万)の予算のうち,どれだけがハーフランデン都市圏に回
るかは未定である。また,これらには12.6百万ギルダーともいわれるズー
ターミア東部は含まれていない。ところが,土壌浄化には,偵察土壌調査
(verkemend bodemonderzoek)に6ヶ月,詳細調査(nader onderzoek)に
オランダにおける広域行政制度(金井)
119
土壌浄化の都市圏による見積り
IBS
開発立地
ライゾ
18.7
IBS可能性
一
非IBS
28.3
9.6
(45,6)
(36,0)
イーペンブルフ
ヴァーテリンゲン
0.3
1.2
1.8
1.5
11.0
9.5
51.4
一
54.7
(59,7)
(6,8)
ヴァーテリンゲン
総額
一
5.5
5.5
(9,2)
水下土壌
ズーターミア東部
一
都市内
一
パインナッカー南
(12,6)
一
一
一
20.8
16.2
(9,2)
(19,2)
(31,8)
24.5
24.5
(50)
(50)
『
一
部・デルフハウ
総額
(43,1)
100.5
124.0
(148,9)
(208,2)
土壌浄化の国による見積り
開発立地
住宅数
イーペンブルタ(除飛行場領域)
10,000
浄化費用
1.5
ヴァーテリンゲン
7,000
3.3
ズーターミア東部
8,000
P・m・
ライゾ
6,800
ハーフランデン全体
31,800
RPD1994:131
表5−8
費用の単位 百万ギルダー
18.5
23.5
120 比較法学32巻1号
実施協定別表第1 第B部=土壌浄化プログラム
開発立地 住宅数 浄化費用
イーペンブルク(除飛
3.400 1.5百万
行場領域)
ヴァーテリンゲン 7.000 3.3百万
ズーターミア東部 8.000 0.2百万
ライゾ 塑 18.5百万
ハーフランデン全体 25.200 23.5百万ギルダー
パインナッカー南部・パインナッカー・デルフハウ開発立地に
ついては調査はされていない。浄化費用は不要と予期されてい
る。
Stadsgewest Haaglanden1995b=21
表5−9
10ヶ月,浄化調査(saneringsonderzoek)に6ヶ月,浄化事業の準備・実
施(voorbereiden en uitvoeren saneren)に18ヶ月の,合計40ヶ月(3年半)
かかり,ある意味で見切り発車された。土壌汚染の状態は処分価格にも影
響するため,場合によってはさらなる費用もあり得るといわれる(RPD
1994:130−134)。そのときは,再び政府間交渉が再燃しよう。
第3の主要分野が公共輸送インフラ(openbaar vervoer−infrastmctuur)
である。これらに関しては交通治水省からの補助である(RPD1994:
129)。住宅開発立地関連では300百万ギルダーであり,うち,ズーターミ
ア東部は100万である(実施協定第5条)。さらに,ズーターミア東部の鉄
道連結に関しては,インフラ基金法(Wet Infrastmctuurfonds),インフラ
基金政令(Besluit Infrastructuurfonds)に基づき100百万がありうる(実施
協定第21条第2項)。インフラ・運送多年プログラム(Meerjaarenprogram−
ma Infrastructuur enTransport,MIT)に掲載されたものを含めて,総額で
1300百万ギルダーである(Stadsgewest Haaglanden1995b:6,14,24)(表
5−10)。この他では,緑地プロジェクトには,農業自然漁業省から50%
の補助が出る(実施協定第7条第2項)。
オランダにおける広域行政制度(金井) 121
第D部=都市圏公共輸送プロジェクト1990年一2005年
実施協定別表第1
MIT1994−1998に基づくプロジェタト
V
V
V
V
国庫補助
軌道3号線
32
軌道ステーンフォールデ線
80
アフリカヴェフ・バス道路
28
ハーグHS駅軌道トンネル
87
軌道1号線デルフト南部
63
フロート・マルタトストラート軌道トンネル
170
その他MITプロジェタト
43
定時運行対策
123
ヴァーテリンゲン開発立地(軌道・バスインフラ)
イーペンブルフ・ノートドルプ開発立地(軌道・バス
インフラ)
200
ライゾ開発立地
ズーターミア東部開発立地(MITに含まれていない
もの)
100
MITに含まれていないその他のプロジェクト
374*
全体
1300
Stadsgewest Haaglanden1995b l24
表5−10
V:VINEX関係
単位 百万ギルダー
(4)広域公共団体と広域空間政策
① 区 域
i)広域公共団体区域
ハーグ都市圏の市街化を収容する開発立地の選定は,ハーグ都市圏をど
の範囲で画定するかと密接に関連する。最も狭い区域が,『素描』で採用
された「ハーグ集積(Haagse agglometratie)」であり,ハーグ市と,ヴァ
セナー,フォールブルフ,ヴァーテリンゲン,ライスヴァイク,ライスケ
122 比較法学32巻1号
ンダム,ノートドルプというほぼハーグ市域に隣接する自治体で構成され
る。ズーターミア市を含まないのが核心であるが,パインナッカー市も含
まれない(Gemeente7s−Gravenhage1989:2)。この場合には,VINEX開
発立地のうち,パインナッカーの2立地とズーターミア東部が入らないこ
とになる。
これに対して,最も広い概念が,『都市区域構造素描(Structuurschets
voordestedelijkegebieden)』の「ハーグ都市大圏(Haagsestadsgewest)」
である(VROM1985)。これは,大都市重視への政策転換の模索中の概念
であり,大都市と関連する周辺核市を包括して一体としている。ハーグ都
市大圏には,ライデン(Leiden),デルフト,ズーターミアの各核市
(kem)が含まれる。実際には,この区域は有意味なものとはならなかっ
た。
行政制度的に存在したのは,共同規約法協力区域である「ハーグ圏
(Haagse gewest,Gewesゼs−Gravenhage)」である。ハーグ市の他には,ラ
イスヴァイク,フォールブルフ,ライスケンダム,ヴァッセナー,ノート
ドルプ,ズーターミアの合計7自治体である。「ハーグ集積」との対比で
は,ズーターミア市が含まれ,ヴァーテリンゲン市が除外されていること
である。『素描』のもう1つの核心が,ヴァーテリンゲンをハーグと一体
として,開発立地を同市に求めたことが,裏から分かる。同市は隣接する
別個の共同規約法協力区域のヴェストラント(Westland)に属していた。
また,ズーターミア市が実在するハーグ圏に含有されていることは,少な
くとも同市のハーグ圏の広域行政の協議への参画資格を疑い得ない点で,
VINEX開発立地の選定にも影響があったと考えられる。
現実的な広域行政の区域としては,このハーグ圏が想定された。『適層
政府第1部』(BiZa1990)を受けたハーグ圏行政常会の提案「広域課題,
広域制御(行政)(Rregionaleproblemen,regionaal(be)sturen)」では,
1992年1月1日を目途ととする短期(korrte termijn)にはハーグ圏構成自
治体のみで「ハーフランデン都市圏(Stadsgewest Haaglanden)」に衣替
オランダにおける広域行政制度(金井) 123
えし,中期的にデルフト市とパインナッカー市を含むようにするとした。
また,ハーグ市は,空間不足(ruimtenood)の解決のために,境界変更
(grenswijzigingen)への内務省の支援を求めた。具体的には,ヴァーテリ
ンゲンの一部の割譲を受けて,そこに開発立地をしようとするものであ
る。南ホラント州も政府も基本的にこの方向性を受容れた。南ホラント州
は,ヴェストラントの吸収も考えられないわけではないという立場であっ
たが,政府は,ロッテルダム都市区域との関係で州や協力区域の出方待ち
であった。こうして,1991年『適層政府第2部』の「ハーグ都市区域
(Stedelijk gebied Den Haag)」では,ハーグ圏と同一の区域が想定された
(BiZa1991:35−39,172)。さらに,1993年の『適層政府第3部』では,境界
変更にも前向きとなった(BiZa1993a:27)(図5−11)。
1991年10月に構成7自治体が協定に合意し,92年10月よりハーフランデ
ン都市圏の共同規約が発効した(RPD1994:122)。その後,予定通りデル
フト・パインナッカー両市を加えて9自治体となった。さらに,1994年に
は,尖鋭化された共同規約法に基づき,南ホラント州によって新たな協力
区域が画定され,ハーフランデンとヴェストラント(7自治体)とが一体
化された。枠組法はこの16自治体の区域に適用され,広域公共団体となっ
たのである(BiZa1994a:23−25)(図5−12)。
ii)市間境界変更
こうして,ヴァーテリンゲン市もハーフランデン都市圏に含まれること
になり,結果的には境界変更は不要だったようにも見えるが,実際には境
界変更は行われた。ハーグ市とヴァーテリンゲン市との二者間平衡化
(bilateraal verevening)が採られ,土地費用基金にはヴァーテリンゲン市
などヴェストラントの各自治体は加わらなかった(RPD1994:120−121)。
ヴァーテリンゲン開発立地(住宅数7500)のうち,住宅数6500は境界変
更によりハーグ市域に組込まれた。ヴァーテリンゲン市域には,住宅数
1000と工業用地(bedrijventerrein)が残された。工業用地は,「ハーグ的
横顔(Haags profie1)」と「ヴェストラント的横顔(Westlands profie1)」
124
比較法学32巻1号
『適層政府第2部』における区域
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図5−11BiZa1991:172
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図5−12BiZa1994a:24
オランダにおける広域行政制度(金井) 125
とに分けられる。「ハーグ的横顔」工業用地は,ハーグの企業に割当てら
れ,また,土地開発差引正額(positievesaldovandegrondexploitatie)は,
ヴァーテリンゲン開発立地のハーグ市域内の住宅用の土地開発に一括して
補墳される。「ヴェストラント的横顔」工業用地はヴァーテリンゲン市の
開発に係るものであるが,ハーグ市域内の住宅にも役立つインフラ費用を
差引いたものが開発差引正額とされた(Gemeente’s−Gravenhage1993)。
ヴァーテリンゲン市は,市域の一部をハーグ市に一方的に「割譲」する
こととなり,その意味で,ハーグ市に一方的に有利な措置に見える。しか
し,巨額の赤字(226百万ギルダー)が見込まれるヴァーテリンゲン住宅開
発立地の大部分は,ハーグ市(土地費用基金参加自治体の共同財源調達)の
責任負担となった。他方で,黒字の見込まれる工業用地はヴァーテリンゲ
ン市域に残った。一般に自治体は開発意欲はあるが,技術的財政的に能力
が足りないことが多い。境界変更なしに自己の市域として単独に開発する
ことは,ヴァーテリンゲン市としても困難であった。また,住宅開発なし
の工業用地のみの開発は,オランダの場合には,空間的観点から国などの
合意は得られない。従って,ヴァーテリンゲン市は市域の「割譲」によっ
て開発を是認され,ハーグ市は必要な住宅用地の獲得ができたわけであ
り,それなりに公平な取引であったといえよう。
②制度と運用
沿革的にも制度的にも,広域公共団体にとって広域空間政策は中核的な
ものである。空間政策であるVINEXの実現のために,広域公共団体の
制度が整備されたといっても過言ではない。しかしながら,実際の広域空
問政策の運用においては,こうして新たに整備された公式権限は必ずしも
利用されてはいない。その意味で,広域公共団体制度は必要であったのか
という,疑問も生じ得る。
第1に,旧来の制度の利用がしばしば見られる。1つには,ライスケン
ダム南東部の開発は,1993年7月5日の同市議会の議決により,成長核市
の地位によって開始されることになった。 旧法式(oude manier)による
126 比較法学32巻1号
最後の開発立地ともいわれる(RPD1994:121)。2つには,ヴァーテリン
ゲン市とハーグ市の間の境界変更による開発である。都市的中心的自治体
が周辺的農村的自治体の市域の一部の「割譲」を受け,そこに,都市的自
治体が開発を行うのは,しばしば見られることである。VINEXのもとで
も,広域公共団体都市圏とならなかった地域でも見ることができる。例え
ば,中心的自治体であるハウダ(Gouda)市と周辺的自治体であるモール
ドレヒト(Moordrecht)市との,南沼干拓地(Zuidplaspolder)に関する
境界変更が,その事例である(協定第1条)(Gemeente Gouda e.a.1993:
1)。
第2に,政府間交渉と協定が実際の運用では重視されており,法的な公
式計画は後回しにされている。広域構造計画であるハーフランデン自治体
間構造計画(lntergemeentelijke Structuurplan Haaglanden)の策定は進め
られている。「実施協定」でも,「必要な法的手続を可及的速やかに進め
る」とされている(同第23条第1項)(Stadsgewest Haaglanden1995b:16)。
しかしながら,広域構造計画は,実施の市街化の実現にとって必要条件で
もない。また,時期的にも広域構造計画の策定を待ってはいられず,開発
は構造計画より先行して1996年から着手された(RPD1994:121)。また,
開発にとっては,公式権限もさることながら,資金調達が決定的である。
従って,実施協定に国の拠出金額が盛り込まれることの方が,実際には意
味があるのである。
第3に,土地費用基金の位置づけである。都市圏の自治体間での共同財
源調達を行う土地費用基金の方式は,国が成長核市に直接に資金投入を行
うこれまでの方式とは異なるものである。また,最小任務範囲として,広
域公共団体の制度として明定されている(枠組法第14条第1項)。ハーフラ
ンデン都市圏においても重要な仕組みである。但し,この根拠規定は,
1992年10月1日発効のハーフランデン都市圏共同規約(Gemeenschappelij−
ke regeling Stadsgewest Haaglanden)に基づく(RPD1994:122−123)。こ
れによれば,土地費用基金は行政総会による条例によって設立でき(同規
オランダにおける広域行政制度(金井) 127
約第16条第1項第3項),この条例はVINEXの市街化政策の実施協定への
全自治体の同意が済んでから議決される(同規約第59条)。従って,枠組法
の広域公共団体(1994年7月1日以降)となる前に,すでに授権はされて
いた。その後,広域公共団体に移行したのである。また,一般には単純多
数決制を規定しているが(同規約第30条第3項),実際に制定された土地費
用条例では,全会一致制が規定されている部分も多い。自治体拠出金の分
担最高額の変更(同条例第8条第2項),1999年末以降の再指準化(herijk−
ing)(同第15条),基金の終了(同第20条)などである(Stadsgewest Haag−
1anden1995c:7,14,16)。
このようにみてくると,広域公共団体の制度とその政策運用の間には,
多少の乖離がある。しかし,制度の影響については,それが利用されない
から無意味であるとは必ずしも判定できない難しさがある。法制的観点と
行政的観点とから考察しよう。
第1は法制的観点である。広域的観点からの開発事業の実現のために
は,自治体による用途計画の策定が不可欠である。従って,自治体に広域
的利害関心を納得して貰うのが,もっとも重要である。但し,用途計画は
州執政部によって承認されなければならないから,自治体が合意をしなく
ても,法制的には不可能ではない。ところで,広域構造計画は,州執政部
の承認の際の審査枠組にはなるが,拘束的ではない。また,広域構造計画
の策定には,州執政部の承認を要する。従って,州の納得が重要である。
州と都市圏が広域的利害関心を共有しなければ広域構造計画は策定でき
ず,共有すれば広域構造計画は策定するまでもないのである。むしろ,都
市圏の意向に沿った地域計画の改訂が州によってなされるかの方が重要で
ある。仮に州が都市圏の意向に反する場合にも,国(住宅空間整序環境大
臣)の指示権の行使が有り得る。その意味では,国が都市圏の意向を尊重
してくれればよい。
このようにみると,空間整序行政法体系は,関係諸政府の「多数派連
合」合意形成を法制的に要請しているのである。多数派連合が形成されれ
128 比較法学32巻1号
ば,少数派の諸政府は法制的に抵抗できない。多数派にならなければ,各
政府は自らの意思の実現はできない。広域公共団体が開発意思を実現する
には,まず多数派連合を形成することが重要で,計画など公式権限は必要
なときに整備すればそれで済む。公式権限である広域構造計画の策定を,
法体系が必ずしも促進しないのである。むしろ,政府間交渉の促進を,法
体系が規定しているといえる。
第2は行政的観点である。実務運用が政府間交渉を中心とすることは,
法体系の直接の帰結である。そこで,実務では協定が利用される。ある時
点での文書化された合意(afschriftelijke afspraken)が,協定
(convenant)である(Herweijer&Fleurke1992:93,97)。協定は公法的効
果はない。違背には損害賠償請求が可能という,私法的効果があるという
見解もある。しかし,通常は,「実体なき法彩(schimmige rechtsfiguur)」
とされ,法的に強制される(afgedwongen)ことはまずない。せいぜい,
道義的(moreel)ないし政治的な拘束性である。つまり,法制的意味はな
い。むしろ,政府間での多数派連合の合意を,金額と開発立地・プロジェ
クトを含めて,明認させることが,協定の意義なのである。その際に重要
なことは,交渉と協定への参加資格である。枠組法は,広域公共団体を
国・州・自治体に次ぐ第4番目の参加政府層として,空間政策の運用に,
明確に制度的に位置づけた意義がある。
終
以上で,オランダの広域行政制度に関する考察を終える。オランダでも
広域行政問題は,ほとんど一貫して問題であり続けてきたが,その構想の
中で実現した制度は一握りに過ぎない。従って,本稿で言及した以外に
も,多様な構想が登場していたことを留保しておきたい。また,いかなる
構想が実現し,実現しなかったか,そのメカニズムは何であるかも,本稿
では考察できなかった論点である。
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金井利之 1998a,「オランダ中核省庁の機構的観察ノート」,『同上』第39巻第1号
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定)
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