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抄録集(全体版 - 本田整形外科クリニック

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抄録集(全体版 - 本田整形外科クリニック
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− 8 −
− 9 −
プ ロ グ ラ ム
− 13 −
− 14 −
− 15 −
特 別 講 演
教 育 研 修 講 演
ランチョンセミナー
イブニングセミナー
縄文文化の扉を開く
−三内丸山遺跡の世界−
特
別
講
演
岡 田 康 博
青森県教育庁文化財保護課 三内丸山遺跡対策室室長
縄文文化は日本列島で約一万年間続いた狩猟・採集文化です。未開、未発達の原始的な文化
と考えられてきましたが、それを大きく変えたのが青森市の三内丸山遺跡です。
三内丸山遺跡は我が国を代表する縄文時代の大規模な集落跡であり、長期間にわたり定住生
活が営まれ、竪穴住居、成人用土杭墓、小児用甕棺墓、掘立柱建物、盛り土、捨て場、粘土採
掘穴、貯蔵穴、道路などが計画的に配置されています。中でも直径約1mのクリの巨木を使用
した大型掘立柱建物や東西に420m以上も延びる大規模な墓地は他に例を見ないものです。
遺物では膨大な量の土器や石器のほかに日本最多の1,600点を超える出土点数の土偶や岩偶、
骨角器、木製品、漆器、動・植物遺体が出土しています。さらに北陸産のヒスイや岩手産の琥珀、
北海道、佐渡、信州産の黒曜石など他地域との交流・交易を示す遺物も出土するなど、縄文時
代における集落の全体像や変遷、社会構造、自然環境や生業、精神性などを考える上で、きわ
めて重要な遺跡であることから、平成12年には特別史跡に、出土品の一部は平成15年に重要文
化財に指定されています。成熟した縄文文化の様子と縄文人の生活を具体的に紹介します。
− 19 −
国民の求める
医療制度改革に向けて
−3つの課題
教
育
研
修
講
演
近 藤 克 則
日本福祉大学 社会福祉学部教授
「今の流れのままでは日本の医療は歪んでしまう」
「士気の低下も時間の問題」と拙著(2004年)
で指摘した1)
。その後、マスコミが「医療危機」(朝日新聞)、「医療クライシス」(毎日新聞)
などの連載を組むほどに、それは顕在化した。しかし、これが望ましい医療制度改革につなが
るとは限らない。
「財源がないから民営化による効率化を」と主張する「小さな政府」路線で、
(民
間保険の市場確保につながる)自己負担増や株式会社の病院経営への参入へと展開する危険も
ある。
国民の求める医療制度改革を進めるには、乗り越えるべき3つの課題がある。
第一に、
「危機の主因は医療費抑制政策」という合意形成である。「医師の偏在が主因ではな
い」と国民に伝わらなければ、
「年収5,000万円でも僻地に行かない医師」、「勤務のきつい病院
を辞めて開業に走る医師」など、医師の自己保身が主因と見なされる危険もある。
第二に、医師・医療界が国民の信頼を取り戻すことである。信頼回復できれば「国民の医療
や健康を守る専門家集団」と見てくれるだろう。が、不信が高じれば「既得権益を守ろうとす
る守旧勢力」と見なされる。
第三に、医療費の無駄を排除し、増やした医療費が医療の質の改善につながる仕組み作りで
ある。
「医療費を増やしても開業医が儲かるだけ」と国民に映れば、医療費の拡大を伴う医療
制度改革は支持を得られない。
拙著2)3)で示したように、患者は社会的弱者に多い。自己保身でなく、医療・社会保障
を守り拡大するという立場で臨まない限り、医師・医療界にも明るい将来はないであろう。
1)近藤克則著「
『医療費抑制の時代』を越えて−イギリスの医療・福祉改革」医学書院,
2004
2)近藤克則著「健康格差社会−何が心と健康を蝕むのか」医学書院,2005
3)近藤克則編「検証『健康格差社会』−介護予防に向けた社会疫学的大規模調査」
(医学書院,2007)
− 20 −
手・手関節部外傷の
診断・治療のポイント
教
育
研
修
講
演
藤 哲
弘前大学医学部 整形外科学教授
整形外科の日常の診療において、手及び手関節部の外傷の患者を診察する機会は多い。臨床
医には、忙しい外来にて、いかに適切に診断し、治療方針を決定するかが求められる。手・手
関節部外傷に必要な機能解剖・手の外科診断の進め方・画像診断のポイントについて紹介する。
また手の外科領域における比較的頻度の高い、マレット骨折・手指関節内骨折・舟状骨骨折に
対する最小侵襲手術について、現時点で、手術のタイミング、推奨されている方法、並びにピッ
トホールについて講演する。
− 21 −
高齢者の体力と
整形外科運動器疾患
ラ ン チョン セ ミ ナ ー
坂 田 悍 教
埼玉大学 保健医療福祉学部教授
高齢化社会の到来と共に運動器の障害は近年増加傾向にあり、国民健康づくり=「健康日本
21」が策定され、身体活動・運動の目標値の設定も行われている。整形外科では「運動器不安
定症」の概念・診断方法が導入され、高齢者が自立した質の良い日常生活を営むための身体機能
の重要性が指摘されてきている。そこで、地域在住高齢者の体力、体力評価、体力強化の方法・
有用性・問題点について概説する。
1.地域在住高齢者の体力と生活機能:身体能力の評価方法、転倒予防、歩行・移動の確立や
ADLの自立など高齢者の生活機能と体力との関連について述べる。
2.体力評価としての開眼片脚起立時間測定の意義:開眼片脚起立時間で65∼69歳40秒、70∼
74歳30秒、75∼79歳20秒、80∼84歳10秒程度の測定値は、地域在住高齢者の非転倒、移動・
歩行が維持可能なる基準値と一致し、高齢者の転倒の危険性や単独歩行の確保のための指標
となりうる。高齢者の片脚起立時間の測定は、神経障害、下肢関節障害、下肢筋力低下例な
ど整形外科運動器疾患の早期診断の一助となる。
3.運動器不安定症の診断基準としての開眼片脚起立時間、3m Timed up and go testの特徴
と問題点:開眼片脚起立時間やTUG testは、年齢、下肢筋力、握力、10m障害歩行速度、
骨量など多くの体力と相関を示すが、これ等の評価基準を適応する場合、後期高齢者では注
意を要する。
4.地域在住高齢者の運動強化システムの紹介及び効果:体力別の運動訓練システム、パワー
リハの有効性、虚弱高齢者に対する運動訓練、転倒・骨粗鬆症予防に対する効果など
5.介護予防における生活機能・運動機能基本チエックリストの問題点
以上について地域における調査・実践例をもとに報告する。
− 22 −
モティベーション・コントロールの
手法について
イブニングセミナー
白 石 豊
福島大学 人間発達文化学類教授
モティベーション・コントロールにはさまざまな手法があるが、今回はNLP(Neuro−
Linguistic Programming=神経言語プログラミング)の重鎮であるロバート・ディルツの提唱
するニューロ・ロジカルレベルを基に、各レベルにおける働きかけについて述べることにした
い。
NLPは、1970年代にカリフォルニア大学、サンタクルーズ校の言語学の助教授だったジョン・
グリンダーと同大学の学生だったリチャード・バンドラーが、当時の卓越した心理療法家に共
通の特徴があることに気づき、そのエッセンスをまとめあげ体系化したのがNLPである。
グリンダーやバンドラーと並んでNLP四天王と呼ばれるディルツは、師である人類学者のグ
レゴリー・ベイトソンの理論を発展させ、ニューロ・ロジカルレベルという6つのレベルに体
系化した。その基本となるのは、
「人間の学習と変化のレベルには階層がある。上位のレベル
は必ず下位のレベルに影響し、何らかの変化を起こす」という考え方である。その6つのレベ
ルとは、1.
環境、2.
行動、3.
能力、4.信念・価値観、5.自己認識(アイデンティティー)
、
6.
スピリチュアルである。
この階層の各レベルは、異なる構造と機能をもっているという前提に立っている。つまり、
各レベルで変化を生み出すためには、次のような異なるタイプの援助が必要となる。
1.環境〈新しい環境を学習するには ガイディング・案内〉
2.行動〈行動を改善するには コーチング・指導〉
3.能力〈新たな能力を身につけるには ティーチング・教授〉
4.価値観(信念、思い込み)
〈信念・価値観を強化するには メンタリング・助言〉
5.自己認識(アイデンティティー)〈自己認識レベルの成長を促すには スポンサリング・
後見〉
6.スピリチュアル〈スピリチュアルな意識を高めるには アウェイクニング・覚醒〉
今回は、各レベルのモティベーション・コントロールにどのような手法が取られるのかにつ
いて、具体的な例を挙げながら述べることとしたい。
− 23 −
脊椎破裂骨折に対する
後腹膜腔鏡手術
パネルディスカッション−1
紺 野 慎 一
福島県立医科大学 医学部整形外科
手術を行う高位により、
胸腰椎移行部前方アプローチは、胸腔鏡、胸腔鏡と後腹膜腔鏡の併用、
胸膜外腔鏡と後腹膜腔鏡の併用、および後腹膜腔鏡を使用したアプローチの4種類に分類でき
る。後腹膜腔鏡視下手術で最も避けるべき合併症の一つである神経損傷を考えると、損傷の危
険のある腰神経叢と神経根は、L2/3高位から頭側で、椎体背側1/4から腹側に存在しない。
L3椎体の頭側1/3高位からL4/5高位の間では、腰神経叢と神経根のうち陰部大腿神経の
みが、椎体の背側1/4よりも腹側に局在している。以上の解剖学的事実から、陰部大腿神経
を除いた腰神経叢に対する安全域は、L4/5高位から頭側であるといえる。しかし、陰部大
腿神経を含めた安全域を考えると、安全域はさらに狭くなり、陰部大腿神経が大腰筋を貫く高
位から頭側(L2/3から頭側)となる。L2/3高位より尾側での大腰筋の展開を考えると、
椎体腹側面には神経が存在しないため椎体腹側から展開を開始するのが安全である。
− 27 −
後方内視鏡手術による
脊椎低侵襲手術の現況
パネルディスカッション−1
岡 治 道
医療法人敬和会 大分岡病院整形外科
目 的:
1938年にLoveによる椎間板後方摘出術は、現在も椎間板ヘルニアに対する基本術式と言う
ことができるが、1987年にSmith,Foleyらが確立した内視鏡脊椎後方手術システム(METRx
™以下MED)による椎間板ヘルニア手術は本邦でも既に10,000例以上がなされており、
低侵襲性とLove法に劣らない優れた臨床成績が報告されてきている。MEDは椎間板手術手技
のde facto standardとして確立されつつあるのみならず、脊柱管狭窄症や不安定性脊椎の治療
手段として大きく発展しようとしている。
今回の発表では、我々のMED手術適応の拡大と術式を紹介し、更に今後の課題について検
討する。
対象と方法:
当院では2001年1月よりMEDを導入し今日までに780症例の手術を経験してきた。当初、腰
椎椎間板ヘルニア手術に限定して導入していたが、徐々に適応を拡大し腰部脊柱管狭窄症に対
する後方除圧術、腰部硬膜内髄外腫瘍摘出術、脊椎固定術、頚椎椎間板ヘルニアに対する椎間
板摘出術・開窓術、胸椎黄色靭帯骨化症除圧術、また今年から頚椎症性脊髄症に対する選択的
頚椎椎弓切除術を実施している。
結 果:
MEDの低侵襲性は早期離床・歩行開始、社会復帰、術後疼痛の軽減、CRPやCPKなどの検
査データからも明らかとなり患者にとって大きな福音となっている。当院では頚椎椎間板ヘル
ニア摘出術で一過性の右C5神経不全麻痺を認めた一例と、術後硬膜外血腫により内視鏡下に
血腫除去術を要した一例以外に問題となる合併症は経験していない。また術中に従来法への変
更を余儀なくされた症例はなかった。
一方、安全で確実な手術の実施や効率的な教育を行う上では、一定以上の症例を経験するこ
とや、充分な手術機器、コンピュータナビゲーションなどの用意が大切であると考えられ、認
定医制度のみならず施設認定を含めた確実な技術の伝播が必要と考えられた。
− 28 −
骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折偽関節に
対する椎体形成術
−PMMA使用の意義
パネルディスカッション−1
丹 野 雅 彦
青森慈恵会病院
目 的:
骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折(粉砕骨折を含む)偽関節は、疼痛や麻痺のため、しばしば患者の
ADLが著しく低下するが、高齢であることや円背など脊柱変形のため、治療法選択に苦慮す
ることが多い。今回我々は、このような症例に対し、PMMAを用いた椎体形成術を行い、良
好な成績を得ることができたので、その適応と合併症の対策について報告する。
対象および方法:
対象は本法を施行し、術後6ヶ月以上経過した30例(男8例、女22例)とした。手術時平均
年齢は80.
4歳(69∼95歳)であった。全例保存療法が無効で、単純レントゲン側面機能写にて
罹患椎体の不安定性があり、MRIで椎体内にニボー様の液体貯留が認めたものを対象とした。
術後平均追跡期間は14.
7 ヶ月(6∼42 ヶ月)であった。
手術手技:
全身麻酔下、患者を腹臥位とし罹患椎体を整復した。両側椎弓根より経皮的に生検針を
椎体まで刺入し、椎体内の空洞を介した状態で椎体外に造影剤の漏れがないことを確認後、
PMMAを一方の生検針より注入した。
結 果:
6例を除き全例術翌日より疼痛が軽減し、歩行器歩行が可能となった。神経症状を合併した
ものは7例で、うち5例に開窓術が併用され、全例術後神経症状が軽快した。VASは術前平
均8.
2が術後最終追跡時点で1.
9となり、JOA score(ADL/14点)も術前平均1.8が術後9.5ま
で改善し、自宅復帰率は93%であった。受傷前から脊椎全体の後彎変形がある例や内科的合併
症を有する例では、術後成績が不良の傾向にあった。術後、他椎体に生じた圧迫骨折は隣接椎
体が2例、それ以外が1例認められたが、手術合併症は全例認められなかった。
考 察:
本 法 で は、 術 後 早 期 か ら 症 状 が 消 失 し、 ま た 神 経 症 状 が み ら れ る 症 例 に お い て も、
instrumentationを使用することなく除圧が可能ということもあり、適応を選べば非常に有効
な方法と考えられる。合併症の防止対策として、PMMA注入時の椎体内圧の上昇を抑えるこ
とと、粘性の高いPMMAを用いることが好ましいと考えられた。
− 29 −
Cloward conceptに則った
MIS−TLIFの手術手技
パネルディスカッション−1
蜂谷 裕道・村田 英明・村松 孝一・鬼武 宏行
はちや整形外科病院
目 的:
脊椎脊髄外科領域においても低侵襲手術は普及しつつある。最近ではヘルニア摘出術や脊
柱管拡大術のみならず、Sextant systemによる椎体間固定術にまで低侵襲手術の適応が拡がっ
た。当院でも2005年12月よりX−tubeとSextant systemを利用してMIS−TLIFを施行してい
る。われわれの手技はCloward conceptに則り、椎体間にできるだけ多くの骨量を移植する方
法で通常の術式と比べても移植骨量に殆ど差はない。その術式を紹介し治療成績を報告する。
手術手技:
椎体間操作を行う側は全操作をX−tubeを通して行い、症状側からのみ神経除圧と骨母床作
成と骨移植を行う。骨母床は片刃ノミを用いて手作業で作成し、pedicle screw操作はSextant
systemを利用し経皮的に行う。これにより椎体間操作側の多裂筋のごく一部を起始部から剥
がすのみで筋組織の付着部を殆ど剥離せず全操作が完遂できる。
結 果:
6ヶ月以上経過したMIS−TLIF26例を調査した。1椎間の平均手術時間は186分、平均出血
量273.
2gで、JOA scoreは術前平均15.9点が術後25.5点に改善した。改善率は81.5%で、半
年以内に全例骨癒合が成されていた。
考 察:
報告されるMIS椎体間固定術の殆どは、椎体間に移植されるcageや移植骨量が通常手技の移
植量に比べ明らかに少ない。これでは骨癒合に関して明らかに不利であり、「PLIFにおいては
骨癒合が得られて初めて良好で安定した成績が得られる」というCloward conceptに反してし
まう。われわれのMIS−TLIF手技はこのconceptに則ったものであり、通常の椎体間固定と比
較しても移植骨量に差はない。移植骨を順次対側へ送り込むためには平坦で滑らかな骨母床を
作成する必要があり、これには片刃ノミを用いた手作業での骨母床作製が不可欠である。
− 30 −
どうなる院内の電子化
1)当院におけるPC活用の具体例
−画像・カルテの電子化を含めて−
パネルディスカッション−2
西 山 徹
かつが整形外科クリニック
目 的:
整形外科診療料所と一口に言っても,地域性・規模・得意領域・患者層の違い大きく,パソ
コンの利用状況に至っては種種雑多である。今回,当院のパソコン活用の具体例を紹介するこ
とで、各院のパソコン活用促進の一助とする。
対象と方法:
当院におけるパソコンを利用した情報の電子化の実際と工夫点を紹介する。
結 果:
1.LANの構築
2.画像・検査結果の電子化
3.電子カルテの活用
4.リハビリ運用(各種機器の使用効率向上)のためのデータベース
5.PDFを用いた、書籍・書類の電子化
6.Webモニターを用いた院内管理,防犯
7.パソコン入力・出力の工夫
− 31 −
どうなる院内の電子化
2)当院におけるPC活用の具体例
−出来ることから始めて−
パネルディスカッション−2
川 内 邦 雄
医療法人社団 正邦会 川内クリニック
目 的:
簡単に出来るIT化への一つの提案をおこなう
対象と方法:
当院で使用してるIT化への取り組みを紹介し、その策を通じ会員の皆様への楽での出来る
策についての提案を行う。
結 果:
1.当院でのPCを使った工夫
1)各種再剥離可能シールを使った試み
2)院内報を含めた掲示物の作成ステッカー作成など
3)通所リハ等々での顔写真作成して院内職員等への啓蒙
2.自作運動器リハカルテの紹介
− 32 −
どうなる地域の連携
3)大腿骨頚部・転子部骨折における
地域連携クリティカルパスとIT
パネルディスカッション−2
野 村 一 俊
国立病院機構熊本医療センター整形外科
クリティカルパスの活用により医療の質向上を図るには、結果の検証(バリアンス収集・分
析)が必要である。地域連携クリティカルパスは、施設間を越えたクリティカルパスであり、
そのバリアンスデータの収集・分析は、紙ベースでは、容易ではない。熊本市における大腿骨
頚部・転子部骨折治療の地域ネットワークの1つである大腿骨頚部骨折シームレスケア研究会
では、ファイルメーカーで作成した地域連携クリティカルパスとデータベースをUMINの症例
登録用ホームページを用いて共有し、バリアンスの分析を通して地域連携クリティカルパスの
改訂を行っているのでその有用性を報告する。
対象、
方法:
2004年4月より2006年2月までに回復期病院を退院した207例を対象として退院時の達成基
準(退院基準:受傷前歩行能力獲得、術後在院日数:人工骨頭置換術8週間、骨接合術10週間)
に対するバリアンス分析を行い、より標準的な退院基準と予定在院日数を検討した。
結 果:
退院基準の達成率は人工骨頭置換術で65.2%、骨接合術で51.1%であった。有意差をもって
術後在院日数を延長させた因子は、膝疾患、腰椎疾患の既往と術後合併症であり、退院基準未
達成に有意差がみられた因子は、認知症と術後合併症であった。さらに分析を進めた結果、予
定術後在院日数は、4パターン(人工骨頭置換術で10週と12週、骨接合術で12週と14週)とな
り、退院基準も一律に受傷前の歩行能力獲得ではなく、より実際的な基準となった。
考 察:
地域連携クリティカルパスのIT化は、バリアンス分析に極めて有用である。情報共有が必
要なものは、地域連携クリティカルパス表とバリアンスデータであり、IT化に電子カルテシ
ステムは必要ではない。
地域連携クリティカルパスの今後の広がりを考えると、セキュリティー
が確保され、かつ費用のかからない独自のシステムが望まれる。
− 33 −
どうなる地域の連携
4)チームで支える地域医療:
共有型電子カルテ「Net4U」による医療連携
パネルディスカッション−2
三 原 一 郎
三原皮膚科、鶴岡地区医師会
目 的:
医療のIT化、とくに電子カルテは、病院、新規開業医を主に確実に普及してきている。IT
化によるメリットは多岐にわたるが、とくに期待されるのは、患者の診療情報を職種を超えて
共有し、患者のために有効に活用することにある。しかし、本邦における電子カルテの多くは、
自院でのみ稼働し、相互に接続できないという欠陥を抱えている。
対象と方法:
山形県鶴岡地区医師会では、紹介状のやりとりや各種診療情報の共有を可能としたASP型の
電子カルテシステム「Net4U」を運用し、5年超が経過する。参加医療機関は、全体の約1/3
にあたる35施設。1万名以上(内連携例は2000強)の患者を登録し、地域の医療連携とくに在
宅医療におけるチーム医療には欠かせないツールとして定着している。
結 果:
Net4Uが、最も有効に利用されているのは在宅医療である。そこでは、主治医と訪問看護師
が、訪問看護指示書・報告書、処方、訪問・往診時の所見などを共有し、密な連携を実現して
いる。05年度に行った慶応大学秋山氏による調査では、Net4U利用群と非利用群で、[訪問看
護師→医師]
、
[医師→看護師]の両方向において、Net4U群が情報伝達の回数と量が圧倒的に
多いことが示された。Net4Uが、コミュニケションツールとして有効に機能し、医療の質的向
上に寄与していることを示した貴重なデータと考えている
一方で、Net4Uは電子カルテの体裁をとっているものの、その利用法は、必要なときに必要
な情報を共有するという、連携に特化した使い方が主流であり、その割り切りが運用を継続で
きている理由でもある。しかし、紙カルテや増えつつある市販電子カルテとの混在による、事
務的手間や情報の二重化という運用の煩雑さが徐々に顕在化しつつある。今後は、レセコンや
電子カルテとの連動などIT化が本来もたらすべき情報の一元化、事務作業の効率化を実現で
きる仕組み作りが求められる。
− 34 −
UKA施行患者の術前・術後の
alignmentの変化
一 般 演 題(O−1)
堀 川 明
湯沢医院
小 玉 弘 之
南秋田整形外科
目 的:
高齢者・慢性疾患の患者の入院期間の短縮が医療政策により奨励されてきている現在、最小
侵襲手術(MIS)による変形性関節症の治療が機種や手術手技の改善に伴い脚光を浴びてきて
いる。今回当院で行った人工膝単顆関節置換術(UKA)の術前・術後のalignmentの変化を含
めた短期成績について報告する。
対象および方法:
平成16年から2年間で60∼80歳までの高度の内反変形、屈曲拘縮、骨欠損を認めない内側型
OAあるいは大腿骨内顆部骨壊死(男性4名、女性16名)の患者を対象とした。その平均年齢
は68歳、平均体重は60kgであった。RAなどの炎症性疾患や靭帯機能不全の患者は除外した。
全例に術前・術後のROM測定や立位荷重時の下肢全長レントゲン撮影を行った。
結 果:
FTAは術前178.
9→術後171.
5と平均7.4度の改善が得られ、機能的荷重軸はKennedy and
White zone specific criteriaでzone1→2あるいはzone2→Cへ移行し、荷重軸の外側移動は平均
1.
9㎝であった。ROMは屈曲が141.
5→141と殆ど変化を認めなかったが伸展−7.5→−5.0と軽
度の改善が得られた。
考 察:
現在、日本で行われているUKAで長期臨床成績が安定しているのは、Oxford UKAシステ
ム等のmobile−bearing type UKAなどであると報告されている。今回我々はfixed−bearing
typeであるStryker(EIUS)UKAシステムを用いたが、比較的少ない侵襲でかつ良好な膝の
alignmentやROMが得られた。当システムを用いたUKAは、適格な症例を選びかつ手術手技
を習熟すれば、より少ない侵襲で良好なalignmentや機能を獲得できる可能性があると思われ
る。中長期成績は今後follow upを重ねて検討を行う予定である。
− 37 −
膝離断性骨軟骨炎は積極的に手術療法を
考慮すべきである
−組織所見からの提言−
一 般 演 題(O−2)
杉田 健彦・本間 哲夫
本間記念東北整形外科
目 的:
私たちは1995年から不安定な膝離断性骨軟骨炎(以下膝OCDと略す)に対し自家骨軟骨円
柱を用いた内固定術を行ってきた。今回、本術中に採取した病巣部の骨軟骨円柱に対して組織
学的に検討した結果を報告し、膝OCDの治療に対する私たちの見解を述べる。
対象および方法:
対象は1996年から2004年の間にOCDに対し内固定術を行った7例で、いずれも大腿骨内側
顆部発生例である。術中、病巣部の中央から採取した骨軟骨円柱の母床側および離断側各々に
対し、HE 染色を行い組織学的に検討した。
結 果:
母床側の組織像は、全例でほぼ同様の像を呈していた。すなわち、血管を伴った線維組織の
増生と、骨吸収と骨形成を伴う活発な骨改変の像がみられた。また、その表層は軟骨あるいは
線維組織で覆われていた。離断側では、軟骨下骨に壊死がみられないもの、軟骨下骨が壊死に
陥っていたもの、肥厚した軟骨のみからなり軟骨下骨が全くみられないものと、大きく3つの
組織像に分けられた。
考 察:
3つの組織像はOCD病変部の経時的変化を表していると考えた。すなわち、正常の軟骨下
骨が何らかの機序で壊死に陥り、この段階で離断すれば壊死に陥った軟骨下骨像を呈する。次
に、壊死骨が吸収され線維組織が増生した後に、骨組織あるいは軟骨組織が形成されるものが
あり、各々が壊死を伴わない軟骨下骨像または肥厚した軟骨像を呈すると推測した。組織像に
基づいた治療戦略について述べる。組織像では母床側に加えて離断側も軟骨あるいは軟部組織
で覆われている例があり、確実な骨癒合のためには母床側に加え離断側深部も新鮮化すべきで
あると考える。また、関節鏡視所見では関節軟骨に亀裂がみられない早期の症例でも、組織像
では母床側と離断側の間に空隙がみられており、こうした症例に対しては手術的治療が必要で
あると考える。さらに、肥厚した軟骨のみからなる症例では、従来の内固定術で十分な骨癒合
が得られるかどうかは疑問である。膝OCDの組織像が経時的に変化するとすれば、早期例に
対しても積極的な手術的治療を考慮すべきであると考える。
− 38 −
術後良好な成績で20年以上経過した
人工膝関節症例について
一 般 演 題(O−3)
駒ヶ嶺 正 隆
駒ヶ嶺リウマチ整形外科クリニック
はじめに:
1984年から1990年の6年間に、演者が施行したTKA385関節のうち、術後20年以上経過し追
跡しえた10例16関節につき報告する。
対 象:
症例は男性2例、
女性8例。手術時年齢は42歳から64歳である。原疾患は関節リウマチ5例、
変形性膝関節症5例である。使用した人工関節の機種はY/SⅡ型である。
結 果:
15関節は臨床的に全く問題なく、20年以上の良好な耐久成績が得られた。1関節のみ、ポリ
エチレンの磨耗を認めたが、疼痛はなく、再置換の必要はなかった。
考 察:
Y/SⅡ 型 人 工 膝 関 節 は、 大 腿 骨 お よ び 脛 骨 コ ン ポ ー メ ン ト の 適 合 性 が よ く(curve on
curve)
、ポリエチレンはdirect compression moldにより作製され、またポリエチレンと脛骨
トレイが一体型であり、優れた機種であった。さらに正しい骨切りと軟部組織バランスの作製
が、長期の良好な成績に反映したものと思われた。
− 39 −
オープン病院と連携した
人工膝関節置換術
一 般 演 題(O−4)
吉 田 研二郎
整形外科吉田クリニック
目 的:
平成6年開院以来、当院来院患者にたいして膝関節手術は私が直接行っている。当院を外来
受診して人工関節の適応症例は、関連した2病院に私が出張し直接人工関節を施行してきた。
一般開業医のオープン病院で行う人工膝関節手術の可能性について検討した。
対象と結果:
平成6年開業以来平成18年までに711関節の片側置換術(UKA)、300関節の全置換術(TKA)
計1011関節である。2002年までの67関節のUKAの内65関節は小切開(MIS)を用いたもので
以降2002年からはUKA oxfordを用いて644関節MISですべて行っている。TKAでは2003年か
らMIS手術は158関節である。年々手術症例は増加する傾向であるが2005年、2006年手術関節
数は同じく244関節である。UKAの平均手術時間は70分でMISでのTKAは90分必要とした。
考 察:
現在の保険診療のもとに一般開業の形態を維持するためにはある程度時間を外来診療に費や
しなければならないので手術は時間の空いたときに行わざるを得ない。現在は1日を全日手術
日として6件の関節鏡手術を行っている。また出張手術が必要な人工膝関節手術については木
曜日と土曜日の午後を当てて週に6関節可能であった。UKAがTKAに比べて手術関節が多く
3関節を6時間以内に短時間に効率よく手術可能であった。一般外来業務は術後のフォローな
どを含め混雑する為それ以上時間を十分割くことが出来ない現状であるため現状の年間244関
節が限界と考えられた。
このような形態で手術をオープン病院で機能的に行うためには勤務する整形外科専門医の協
力が重要であり、特にパラメディカルの理解を得る必要がある。午後の時間に平均3件の人工
関節を行うための協力関係と機材の整備にある程度の時間が必要で、時間をかけて症例数を増
やし実績を上げてきた結果であると考えている。
− 40 −
新しく開発した収縮期圧同調型駆血帯の
下肢手術における臨床成績
一 般 演 題(O−5)
石井 義則・野口 英雄・松田 芳和・武田 光宏
石井クリニック
東原 統一 朴 鐘大
瑞穂社 八戸整形外科
目 的:
本研究の目的は、術中の駆血帯圧が収縮期圧に同調する、新しく開発した駆血帯の下肢手術
における臨床成績を評価することである。
対象および方法:
対象は駆血帯を用い、当院で行った連続した下肢手術100例(膝関節54例,下腿2例,足・
足関節44例)である。症例の内訳は、平均年齢49歳、男性38例;女性62例、平均体重60㎏、平
均身長159㎝、
平均BMIは23であった。方法は、新しく開発した瑞穂社製駆血帯MT920を用いた。
本駆血帯の特長は、手術中の収縮期圧に対し術者の希望する圧を0−300㎜Hgの間で加え設定
することが可能で、血圧の変化に同調し常に一定の圧が加わることである。本研究は、前向き
調査で行い、手術中は駆血帯圧が常に収縮期血圧より100㎜Hg加わるよう設定した。術野の評
価はその出血による手術の妨げの程度により、出血も妨げも無い“優”から、出血による手術
不能の“不可”までの優・良・可・不可の4段階で評価した。なお、麻酔は全身麻酔80例、腰
椎麻酔20例であった。
結 果:
全例に“優”の術野が得られた。手術時間は平均50分、駆血帯時間は51分であった。手術
開始時の駆血帯圧は平均212㎜Hgであり、術中の駆血帯圧の変化は平均33㎜Hg(5−101㎜Hg)
であった。術中・術後に駆血帯使用に伴う明らかな合併症は認めなかった。
考察および結論:
従来の下肢手術における駆血帯圧は300㎜Hgや350㎜Hgであることを考慮すれば、収縮期圧
同調型駆血帯はより低圧で、良好な術野を確保することが可能であることから、従来型に比し、
患者にとってより安全性の高い、また臨床家にとってより有用な機器と考えられる。
− 41 −
ヒアルロン酸注入による
変形性膝関節症の治療
一 般 演 題(O−6)
吉 村 光 生
吉村整形外科医院
はじめに:
ヒアルロン酸製剤関節内注射は変形性膝関節症の有効な治療の一つであるが、効果をあげる
ためには関節内に確実に注入する必要がある。正確に関節内に注入するために最も簡便で確実
な方法は関節液の逆流の確認であり、関節穿刺部位の工夫も一つの方法である。関節穿刺部位
として膝蓋骨の外上方が一般的であるが、他の部位での穿刺も行われている。関節穿刺を容易
かつ確実に行える部位を関節液の逆流の確認で検討した。
症例および方法:
変形性膝関節症と診断しヒアルロン酸関節内注射を行った症例を対象とした。関節刺入部位
は平成18年5月までは全例膝蓋骨の外上方であったが、6月以後は外上方からの刺入で関節液
の逆流の確認ができない例や内側刺入を希望する例には、膝蓋骨の内側からの刺入を試みた。
結 果:
膝蓋骨外側穿刺のみを行っていた平成18年5月の注入関節数は847膝で、その合計回数は
1834回であった。関節液の逆流を確認できた(確認例)のは1382膝(75.4%)で、確認できなかっ
た(非確認例)のは452膝(24.
6%)であった。常に確認例は582膝(31.7%)、確認と非確認
の混合例87膝(4.
7%)
、常に非確認178膝(9.7%)であった。膝蓋骨の内側注入手技が安定し
た3か月目の8月の症例について検討した。関節数は902膝で、その注射回数は1979回であった。
逆流確認例は1625膝
(82.
1%)
で、
非確認例は354膝(17.9%)であった。常に確認671膝(33.9%)
、
確認と非確認混合例93膝(4.
7%)
、常に非確認138膝(7.0%)であった。
考 察:
膝蓋骨外側穿刺を利用してきたが、関節液の逆流の確認が困難な症例に対し内側穿刺を試み
るようにした。内側穿刺の手技に慣れた3か月後の逆流の確認率をみると75.4%から82.1%に
改善したことより、内側穿刺も有効な手技であることがわかった。しかし、外側刺入は術者に
近いため手技的に容易であり、外側穿刺が容易な症例にまで、内側刺入を行うメリットはない
と思われる。
− 42 −
変形性膝関節症に対する
保存療法の比較
−RCTによる検討−
一 般 演 題(O−7)
寺 門 淳
北千葉整形外科
目 的:
変形性膝関節症に対して外来で行える保存療法のうちどの治療法が効率的で有効であるのか
を調査することを目的とした。
方 法:
当院を初診した40歳以上80歳未満の患者で膝関節痛を訴え、X線にて変形性膝関節症と診断
した者を対象とした。Ex群=運動療法群、HA群=ヒアルロン酸群、Ex+HA群=ヒアルロン
酸と運動療法併用群。各治療方法の割付は、乱数表にて無作為に振り分けた。評価はJOA膝関
節機能評価とVASにて行った。夫々の項目を治療開始前、3週目、5週目、最終8週目に評
価した。治療方法を説明した上で患者が拒否した場合、患者が治療法の変更を希望した場合、
来院しなかった場合は脱落例として評価対象から除外した。
結 果:
対象症例はEx群25例30膝、HA群23例25膝、Ex+HA群27例33膝、合計75例88膝。脱落例は
Ex群21例、HA群11例、Ex+HA群15例であり、最終的な評価対象症例はEx群(4例)7膝、
HA群(12例)13膝、Ex+HA群(12例)17膝となった。腫脹、歩行能、可動域の改善に関し
て3群間で有意差はなった。階段昇降能とJOA合計点数に関してはEx+HA群が早期に改善を
示したが、最終評価時での有意差は存在しなかった。VASに関してはEx+HA群、HA群とも
に3週目で有意のある改善を示した。Ex群も他2群と同様な改善傾向を示したが脱落例が多
かった。
考 察:
膝OAに対する運動療法の効果に関しては、平成18年にJOAでもNSAIDとの有意差はなく有
効であるという報告がなされ、今回の調査でも運動療法群の効果を示唆する結果が得られた。
しかし、運動療法単独では患者の脱落が多く、運動療法継続のモチベーションを維持させるこ
とがいかに難しいことかという事を示している。ヒアルロン酸の有効性も今回再確認され、運
動療法を併用した方が早期に改善が確認されたが、最終評価の有意差は存在しなかった。今回
の調査は2ヶ月間とういう短期の調査であるので、長期的予後に関してはまだ不明である。今
後は大規模な多施設による調査の必要があると思われる。
結 論:
ヒアルロン酸単独、運動療法単独、両者併用いずれの治療法であっても有効な改善が期待で
きるが、短期間であれば両者を併用したものの方が効率のよい改善が期待できる。
− 43 −
トウキック爪
−母趾爪根周囲損傷−
一 般 演 題(O−8)
根 上 茂 治
センター北 根上整形外科
爪の外に露出している部は「爪甲(そうこう)」、近位の皮膚に隠れている部は「爪根(そう
こん)
」
、爪甲をのせている皮膚は「爪床(そうしょう)」、爪甲の両側を囲んでいる皮膚は「爪
郭(そうかく)
」
、爪根を覆っている皮膚は「後爪郭(こうそうかく)」と呼ばれている。また、
トウキックとはサッカー競技用語で、
つまさきでボールをつくように蹴るキックのことである。
足の母趾の爪を長く伸ばしたまま、サッカーのトウキックをしたり、登山の下山時に爪先に前
方の靴からの力が加わったりして、爪根部が近位方向に押し込まれて受ける爪根部周囲損傷が
日常外来でよくみられるので報告する。
平成10年7月より平成18年6月までの8年間に当院を受診した足の母趾爪根周囲損傷と考え
られる症例は32例
(男21、
女11)
であった。受傷原因はサッカーによるもの11例、椅子の脚、家具、
壁に母趾尖をぶつけたもの9例、登山(ハイキングを含む)5例、野球3例、バスケットボー
ル2例、原因不明2例であった。治療は爪先に力がかかっても爪根部に力が加わらないよう
に爪の先を短くトリミングし、湿布処置をおこなった。症状の経過は良好で、全症例で3から
4週後には症状は消失した。
本症の患者は母趾背側爪根部周囲の疼痛、腫脹を訴えるが、多くの患者は受傷機転について
の自覚がない。裸足でつま先立ちすることや、歩行に支障はないのが普通である。診断にあたっ
ては、前足部に荷重がかかる際、とくに趾先に荷重がかかるときに、爪がさきに荷重を受ける
のか、母趾末節骨がさきに荷重を受けるのかをみわけることが重要である。本症の患者は趾先
部の皮膚を介して末節骨を指で圧迫しても疼痛を生じないが、爪先を圧迫すると疼痛を訴える
ため、診断は容易である。
トウキック爪(母趾爪根部周囲損傷)は患者とその家族に、その受傷機転を説明し、治療、
予防として爪を短くトリミングするよう指導することが重要である。
− 44 −
地域における大腿頚部骨折と運動器
リハビリテーションについて
(150日上限切れの患者の行方)
一 般 演 題(O−9)
今林 正明・大迫 浩文・矢崎雄一郎・福山 勝朗
堀川 良治・野村 英幸(PT)・内園ちひろ(OT)
今林整形外科病院
目 的:
地域における大腿骨頚部骨折について、入院・手術から運動器リハビリテーションまでの過
程、そしてその後の患者の行方について報告する。
対 象:
当院にて大腿骨頚部骨折にて入院・手術・運動器リハビリテーションを施行された患者(平
成18年4月1日∼平成19年3月31日までに発症、入院、退院)について調査。年齢は58歳∼
100歳までの平均80歳。受傷場所は屋外での受傷が一番多く、次に自宅での受傷が多かった。
また、原因としては、つまずき・転倒が68%と圧倒的に多くみられた。
結 果:
手術から起立開始までの期間は大腿骨外側型で平均14.7日、内側型で9.6日。受傷前87%の
患者さんは独歩または、補助具を用いての歩行可能であったが、受傷し退院時は、屋外・屋内
歩行自立は36%、監視・部分介助・介助歩行は41%、歩行不能は23%であった。
ま と め:
入院期間は平均で約78日間。退院後49%のほとんどの患者が適切な時期に在宅に戻られてい
るが、退院後外来通院にてリハビリを施行し、150日を越えてもなお通院(消炎鎮痛)にて治
療をされている患者もいる。また、介護保険の通所リハビリを施行されている患者もいた。そ
の他、25%が転院、26%が老健施設へと移行されている。
− 45 −
高速旅客船トッピー海難事故における
整形外科医の救急活動
(平成18年4月9日屋久島近海にて発生:約120名の外傷例)
一 般 演 題(O−10)
今 林 正 明
鹿児島県整形外科医会会長・指宿医師会
はじめに:
平成18年4月9日午後6時05分、
鹿児島県佐多岬西北西沖2マイル海上にて、高速船トッピー
事故発生。乗客120名中、120名全員負傷。
救急医療体制:
2年前のJR尼崎事故を参考に指宿医師会ではマニュアルを作成し、救急医療訓練を行って
いた。事故受傷時、乗客のほぼ全員が腰の一点ベルトをして着席していたため、腰椎・胸椎の
圧迫骨折、
破裂骨折の症例が多くみられた。現場にスタッフの現場対策本部、指宿医師会長(今
林正明整形外科医師)の病院を救急医療対策本部とし、鹿児島県防災課危機管理局、県医師会
等と連携を図り、マニュアルに従い、救急医療を進めていった。
結 果:
指宿医師会の対応として現場へ医師10名(整形外科医2名、外科医6名、内科医2名)、看
護師37名、受入医療機関 9医療機関、待機医療機関として全(64)医療機関で対応し、日頃
連携を深めている消防救急隊の協力や、毎年行われている救急防災訓練の成果で、救急医療活
動は比較的上手く行われたと思われる。
ま と め:
①情報を一元化し、現場から搬送先へ、搬送先から現場への情報のフィードバックを徹底する
こと。実際、現場では判別しにくかった受傷状況が、搬送先の病院で判明し、直ちに現場へ
情報を連絡することにより、適切な処置を施すことができた。
②遠くの病院からベッドをうめていく、または軽症者は遠くの病院へ運ぶ、近くの病院はでき
るだけ重傷患者の為ベッドを空けておく。
③現場では負傷者から、名前、年齢、性別、住所など情報が聞き取りにくく、トリアージのタ
グに番号をつけた。番号によって、情報の管理を行った。
反省点として、行政が主となり現場対策本部を充実し、マスコミ対応をすべきであった。ま
た、翌日の専門病院、また搬送手段である救急車の確保が必要であることから、救急医療災害
は当日だけでなく、その後も続いているという教訓を得た。
このような救急医療活動において、ほとんどが整形外科医の対象疾患であり、いかに整形外
科医が重要・必要であるかを痛切に感じた。
負傷者の詳細は以下の通りであった(ほとんどの患者が整形外科的外傷患者であった)。
胸椎・腰椎の破裂骨折、椎体骨折、圧迫骨折、椎体圧迫骨折、下肢骨折、上腕骨骨折、骨盤
骨折、仙骨骨折、顔面多発骨折、肋骨骨折、鼻節骨骨折など30名、全身打撲、腰椎椎間板ヘル
ニア、両肺挫傷、血胸、頚椎捻挫、下腿打撲挫創、その他打撲、急性外傷ストレス障害など90名、
の救急にあたり、観血的手術(脊椎固定術、観血的整復固定術、腰椎前方後方固定術、脊椎異
物除去)等を施行した。
以上、救急医療活動に整形外科医がいかに貢献しているかを報告する。
− 46 −
肋骨骨折における
超音波診断の有用性
一 般 演 題(O−11)
大 島 正 義
医療法人大島整形外科
はじめに:
日常外来で肋骨骨折の患者は多く来院するが、骨折があっても単純X線では異常が認められ
ない場合が多々ある。その際、超音波検査にて骨折を診断できる事を以前より経験しており、
今回本骨折例において単純X線検査で骨折の診断がどの程度可能か調査し、また超音波診断の
方法やその特徴について報告する。
方 法:
平成17年11月より平成19年3月における、超音波検査で骨折が診断できた31例(17歳から
90歳まで 男性14例 女性17例)の肋骨骨折例を対象とした。X線検査は患部の近くにマーキ
ングし原則として3方向の撮影を行い、初診時のみならず調査時にも骨折の有無を再確認した。
超音波機器は東芝SSA−660を用い8MHz又は12MHzのプローブを使用した。
結 果:
超音波検査で診断できた全骨折例31例中単純X線にて骨折を認めた例は14例(45%)であり、
肋骨骨折があっても単純X線検査で診断ができるのが半数以下で、肋骨骨折のX線診断は難し
いことが分かった。また超音波検査ではX線検査で判断し難い血胸(胸膜外血腫)の描出が容
易で骨折の確認や重症例の診断に役立った。
ま と め:
肋骨骨折において単純X線検査では骨折の診断が不可能な場合が多く、その際、超音波検査
は本骨折の診断において有用であった。日常外来で肋骨骨折の疑い例においてX線所見に異常
が認められなくても、患者への骨折の可能性の説明や肋骨ベルト固定等の適切な処置を行う方
がよいと思われた。
− 47 −
小皮切手技(MIS)による
人工股関節全置換術
一 般 演 題(O−12)
藤井 玄二・中村 泰裕・千葉 武志・松田 倫政・舩山 完一
松田病院 東北股関節疾患センター
はじめに:
人工股関節全置換術(THR)では小皮切のTHRでは、臼蓋および大腿骨側のコンポネント
の正確な設置が最も重要である。当院では、仰臥位で骨盤に刺入固定する3Dガイドと臼蓋ガ
イドを使って、コンポネントの設置を行っている。また、カップ保持器、カッププッシャー、
セメントプレッシャライザー、ステム保持器にもコンポネント設置上工夫を行っている。
目 的:
当院での小皮切THRの短期の合併症などを含めた成績を解析した。
対象および方法:
当センターは手術を平成18年1月から開始し、4月からMooreに準じた小皮切切開でのTHR
を行っている。
(註:演者は、平成15年9月から小皮切を行っている。)この4月以降、再置
換、骨切りや大転子切離などを除いた小皮切の初回THR70関節の性別は、女性64で男性6名、
平均年齢は64歳(43∼86)
、身長152.
1±6.4㎝(137∼168)、体重57.1±10.5kg(40∼97.7)
、
BMI24.
6±3.
6(19∼35.
1)であった。術後は、翌日より歩行(セメントTHR)ないし車椅子
移動(セメント非使用で10kg荷重)
、DVT予防としてBMI25以上、静脈瘤のある場合は、ストッ
キング+間歇空気ポンプのほかカプロシン5000単位皮下注2回/日を行っている。
結 果:
手術時間は83.
7±15.
6分(53∼130)、術中出血368±134ml(165∼815)、創長7.9±1.5㎝
(4.
9∼12)で、術後脱臼は3名3関節で感染症はなかった。2名で創縁の遷延治癒がみられ
た。仰臥位の両股正面像で計測したカップの外開き角は平均45.9(±4.8)度、前開き角は平
均18.
4(±7.
1)度で良好に設置されていた。
− 48 −
MX人工股関節の紹介
一 般 演 題(O−13)
角南 義文・原 靖隆・佐藤 隆三
竜操整形外科病院
尾上 寧
尾上整形外科医院
目 的:
人工股関節は多種類の機種が市販、使用されているが、日本人の骨格に適したものは少ない
ようである。そこで日本人の骨格に適し、手術の容易な人工股関節を日本で製作し、臨床に応
用している。
方 法:
100例の人工股関節置換術を行った症例のX線像と入手できた骨格標本から形状を描出し、
日本人の骨格に適したアナトミカルステムをデザインした。そして、入手できた市販人工股関
節の工学的検索を行い、MX人工股関節と比較検討した。
結 果:
ステムはCOP合金(熱加工で強度を調節できる)で、大腿骨近位部後弯に合致するよう後
方凸R=300、頚部の前捻角4.
5度で作製した。骨頭ボールは基本的にはジルコニア・セラミッ
クで
22㎜、 26㎜、カップはUHMWPEのクロスリンク・ポリエチレンとして、COPのメタ
ルバックを標準とした。熊本大学、高知医大のご協力をえて少しずつ改良加えている。また工
学的検索では、米国製のCo−Cr合金のものは鋳造によるもので強度的にも劣性で、金属の清
浄度でも異物が混在し、将来の破損が危惧された。また骨頭、カップの表面品位も米国製は低
かった。
結 論:
人工股関節は、外国製のものは金属工学的に劣り、世界一の工業力をもつ日本で製作するの
がよい。そのためには、医師側から製作者にどんどん注文をつけるべきである。
− 49 −
変形性膝関節症における
ステロイド関節内注射の効果の検討
一 般 演 題(O−14)
原 田 義 昭
原田整形外科
目 的:
変形性膝関節症においてステロイド関節内注射は骨壊死や局所や全身の感染の誘発・悪化、
骨粗鬆症や高血圧の誘発、糖尿病の悪化などの危険性から禁忌に準ずるとして慎重な対応が望
ましい。しかし実際の臨床の場では高度の関節水腫や頑固な関節痛に対して有効な手段がなく
やむなくステロイド関節内注射が使用されている。今一度ステロイド関節内注射の有効性を検
討する必要があると考える。
対 象:
平成18年9月から12月にかけて関節穿刺とヒアルロン酸(アルツ)注入が基本であるが症状
悪化でやむなくステロイド(ケナコルト)の関節内注射を行った患者40名46関節である。
方 法:
患者の選択は研究目的を知らない事務員にat randamに選択させた。関節穿刺液量を客観的
な症状と関節内注射の効果のパラメータとしてとらえその変動を分析した。
結 果:
関節穿刺液量が20ml以上あり頻回の関節穿刺とヒアルロン酸注入で効果を認めない場合に
ステロイド関節内注射の適応になると考える。除痛効果も認められるがADLの高い患者への
ステロイド関節内注射はかえって関節液貯留の増悪を認める。若い患者に除痛目的でステロイ
ドをもちいるべきでない。関節液貯留が少量の場合はNSAIDs処方や生活指導、体重減少の指
導などが有効と考える。
− 50 −
整形外科の慢性疼痛に対する
オピオイドの使用経験
一 般 演 題(O−15)
斎 謙
斎整形外科
「WHO方式がん疼痛治療法」は「痛みは治療できる症状で 治療すべき症状である」と明言
している。
疼痛治療に求められることは、仮にその疼痛が急性のものであろうと慢性的なものであろう
と、何より疼痛から解放することにある。
2002年4月より2006年12月までの4年半の間に手術・神経ブロック・薬物療法を行っても充
分な徐痛が得られなかった慢性疼痛患者10例に「WHO方式がん疼痛治療法」に準じてオピオ
イド鎮痛薬を投与し、1年以上継続投与した4例を中心に報告する。
オピオイドの服用量は疼痛の強さにより増量したり減量したりが可能であった。また、疼痛
の変動が認められない場合、服用量も長期変動することもなかった。疼痛の変化や副作用を注
意深く観察することにより、オピオイドの長期投与も安全かつ有効な治療法の一つと考えられ
る。
− 51 −
示指から小指のばね指に対する
縦皮切による治療経験
一 般 演 題(O−16)
中原 慶亮・川岸 利光・三浦 和知・吉川 孔明
高岡整志会病院
目 的:
示指から小指のばね指手術において、従来より用いられてきた横皮切に代わり縦掌紋に沿う
縦皮切を用い、術後の創瘢痕の状態や合併症などを調査したので報告する。
対 象:
平成15年4月から手術を行った成人の示指から小指のばね指40例52指を対象とした。男性
13例、女性27例、手術時年齢は平均61歳(46−85歳)で、罹患指は示指4指、中指29指、環指
13指、
小指6指であった。術後経過観察期間は平均1年7ヶ月(3ヶ月−3年9ヶ月)であった。
手術法:
A1腱鞘上の縦掌紋に沿って約1.
5㎝の縦皮切を加えた。その範囲は近位指皮線から、示指
では中央手掌皮線まで中指から小指では遠位手掌皮線までとし、これらの皮線に至らないこと
とした。皮下組織を鋭的に切離し、A1腱鞘に至りこれを切離した。強い滑膜増殖を認めた場
合は、滑膜切除や浅および深指屈筋腱の癒着を剥離した。丁寧に止血を行い、創を閉じた。
結 果:
全例に弾発現象の消失を認めた。術後の創瘢痕は麻生の評価基準で、優17指、良33指、可2指
であり、97%に満足な結果を得た。創瘢痕の圧痛や拘縮、感染、指神経損傷、bowstringingな
どは認めなかった。
示指から小指のばね指では、PIP関節の屈曲拘縮が治療上で問題となることが多い。術前よ
りPIP関節の屈曲拘縮を認めたのは21指で、滑膜切除や腱剥離を行った後、積極的にリハビリ
テーションを行うことにより、14指で消失し、7指で改善した。
結 語:
縦皮切は、A1腱鞘に至るまでの軟部組織の損傷が少ない、腱鞘の観察が容易である、滑膜
切除や腱剥離などの操作が行いやすい、手術瘢痕も目立たないなどの利点を有し、示指から小
指のばね指手術において有用な皮切であると考えられた。
− 52 −
多発性骨軟骨性外骨腫症の前腕変形に対する
尺骨延長橈骨引き下げ術
一 般 演 題(O−17)
根 上 茂 治
センター北 根上整形外科医院
多発性骨軟骨性外骨腫症のおよそ半数の症例に尺骨遠位部の成長障害による前腕変形がみら
れ、変形の著しいものでは橈骨頭の近位方向への脱臼を伴う。この腫瘍性の尺骨遠位骨位端損
傷による尺骨成長障害、内反肘、前腕変形、握力低下に対して、イリザロフ創外固定器を用い
て、尺骨延長、橈骨の遠位方向への引き下げを行った。症例は9歳男子、現病歴は1歳半ごろ
両親が下腿の彎曲に気付き、某大学病院で、多発性骨軟骨性外骨腫症と診断され、経過観察さ
れた。1993年、8歳時に、左下肢変形短縮、肩甲骨腫瘤、左肘内反変形の治療目的に神奈川県
立こども医療センターを初診した。現症では左肘に約30度の内反変形を認めた。肘の伸展、屈
曲の可動域は最大回外位で0∼70度、最大回内位で60∼125度、肘90度屈曲位では回外65度、
回内85度であった。胸部、顔面、頭部への左手のリーチ制限が認められ,ADL上は洗髪、ボ
タン掛けなどの動作が機能的に行えなかった。1994年、9歳時に尺骨延長および橈骨引き下げ
を行う目的で手術療法を行った。尺骨延長中の経過では、橈骨頭が整復されるに伴い、肘内反
変形は徐々に矯正された。尺骨は4㎝延長した。術後1年では、可動域はほぼ正常となった。
上腕骨外顆から橈骨茎状突起までの前腕長は治療前15㎝が治療後17㎝となり健側と等しくなっ
た。術前3kgであった握力は術後1年では12kgとなり、弱っていた握力は改善された。術後
12年でのフォローアップ時のX線像では尺骨の短縮、橈骨頭の再脱臼所見をみとめたが、肘と
前腕の可動域制限は認めなかった。21歳時の患者の感想は「9歳の頃は治療の意味を理解して
いなかった。生まれつきのことだったので、当時はADL障害をさほど自覚していなかった。今、
治療についての説明を聞いて、納得できるし、やってよかったと思っている。しかし、今後更
なる治療は希望しない」とのことであった。
− 53 −
指粘液嚢腫に対する手術法の検討
一 般 演 題(O−18)
麻 生 邦 一
麻生整形外科クリニック
目 的:
指粘液嚢腫はHeberden結節に伴ってDIP関節背側に生じるもので、皮膚が菲薄化し破れや
すく、手術の適応になることが多い。手術は皮膚とともに嚢腫を切除し、植皮する方法が一般
的である。演者は菲薄化した皮膚と嚢腫壁との間を分離して、非薄化した皮膚とともに嚢腫を
切除後一期的に創を閉鎖している。今回その成績を報告し、手術法について考察する。
対 象:
症例は21例、22指で、年齢は46歳∼81歳、平均年齢55歳、男性4例、女性17例である。罹患
側は右11指、左11指と同数で、指別では中指が11指と最も多く、次いで示指、小指、母指と続く。
手術は嚢腫を茎まで追求し関節包まで含めて切除し、骨棘があれば切除する。一方皮膚が菲薄
化していれば、菲薄化した皮膚とともに嚢腫を切除後一期的に創を閉鎖しており、植皮はして
いない。合併手術として5例に関節固定術を、4例に骨棘切除を、1例に遊離体摘出を行った。
結 果:
21指は皮膚壊死に陥ることなしに創は一期治癒した。1指は糖尿病で、関節固定術を合併し
て行ったが、創感染を併発し創縁壊死を起こした。1指は遠位の骨棘切除に際し、終末伸筋腱
の断裂を起こした。局所再発が3指(14%)に見られた。手術瘢痕がきれいで、再発なく、疼
痛なし、を満足例とすると、17指(77%)であった。他方再発3例、皮膚壊死1例、疼痛1例
が不満足例で、5指(23%)であった。
結 語:
皮膚が菲薄していても、一期的に創治癒が望めるために、安易に植皮に走るべきではない。
本手術は他のガングリオン手術と違って、創瘢痕部の痛み、しびれや皮膚壊死、再発、爪変形
などの合併症を起こすことがあり、注意して望むべき手術である。
− 54 −
de Quervain病に対する
腱鞘再建術の成績
一 般 演 題(O−19)
麻 生 邦 一
麻生整形外科クリニック
目 的:
deQuervain病の手術的治療としてはもっぱら背側第1区画開放手術(腱鞘切開)が行われ、
その成績はおおむね良好である。しかし不十分な第1背側区画の開放、橈骨神経浅枝の障害、
腱の脱臼、CRPSなどによる成績不良例も報告されている。演者は腱鞘切開のみでは腱が脱臼
し後療法が遅くなるため、1997年9月より腱鞘を拡大再建する方法を行っているので、その術
式と成績について報告する。
手術方法:
zig−zag皮切にてはいり、第1背側区画を露出し、区画の中央部を中心とする階段状切開を
加え、区画を開く。増殖滑膜を切除し、隔壁があればこれも切除した後、両断端を縫合し、腱
鞘が十分に拡大するように再建する。
対 象:
これまで腱鞘再建術を施行し、調査しえた62例、62手についてについて成績を検討した。年
齢は21−77歳(平均50.
6歳)
、男14例、女48例である。
結 果:
2例を除いて、疼痛なく、またなんら機能障害は認めず、完治していた。成績不良例の1例
は、腱鞘出口部での滑膜炎であった。他の1例は、成績不良の原因が不明であり、CRPSの関
与を疑っている。
ま と め:
腱鞘再建術は、確実に腱鞘を開放し、腱鞘を再建することによって腱脱臼の合併症を予防し、
早期に安心して後療法を行える利点があり、deQuervain病に有用な手術方法である。
− 55 −
四肢リンパ浮腫の治療経験
̶リンパ管静脈吻合術̶
一 般 演 題(O−20)
吉 村 光 生
吉村整形外科医院
目 的:
四肢のリンパ浮腫15例16肢に対し、リンパ管−静脈吻合術を行い効果が得られたので報告す
る。全例女性で、手術時年齢は38歳から71歳で平均61.4歳であった。原因疾患は乳癌治療後の
上肢の浮腫2例、子宮癌治療後の下肢の浮腫12例13肢、その他1例であった。
方 法:
患肢に小皮切を加え、皮膚の浅部から深部へとリンパ管を慎重に探していくが、リンパ管の
口径は0.
5㎜前後と細く、壁も薄く周囲組織との判別も困難であり、手術用顕微鏡下に進める。
リンパ管を見つけその近くに口径の類似した細い皮下静脈を探す。血管吻合用クランプを静脈
のみにかけ、リンパ管にはかけないで、11−0または12−0ナイロン糸でリンパ管と静脈を吻合
する。皮切を加えてもリンパ管が見つからないこともあり、数カ所に切開を加える。吻合する
リンパ管の数は多ければ多いほどよい。効果がある場合複数回の手術を希望することがある。
結 果:
麻酔は局麻10肢、腰麻5肢、全麻1肢であった。1肢についての手術回数は1回10肢、
2回6肢、3回1肢であった。手術1回につき皮切数は1から4カ所、平均2.7カ所であった。
1回の手術で吻合したリンパ管の数は0から6本、平均3.0本で、吻合したリンパ管の口径は、
最小0.
3㎜、最大1.
5 ㎜であった。0.
3㎜以下のリンパ管しか見つからず、数本を束にして静脈
内にはめ込むように縫合した症例が3肢あった。
リンパ浮腫は術後1ヶ月では全例軽快したが、長期的にみると(最長15年)、経時的に改善
するもの、再び悪化したもの、改善が持続する症例など様々であった。本法は癌治療後でリン
パ浮腫発生早期の症例に効果があり、象皮病なった症例やでは効果が少なかった。また癌治療
後の二次的浮原因不明の浮腫例では効果が少なかった。本法は症例よっては高い効果が得られ、
手術侵襲が少なく局所麻酔下に手術可能で、まず第一に試みて良い治療法と考える。
− 56 −
整形外科専門回復期リハ病棟の
運営と問題点
一 般 演 題(O−21)
中根 惟武・重本 弘文・今屋 将美・時松 玲子・米満 弘之
熊本機能病院 整形外科
目 的:
整形外科専門の回復期リハ病棟の意義を明らかにする
方 法:
平成18年度の熊本機能病院における当病棟での対象患者の転帰と病院経営に及ぼす影響につ
いて検討する
結 果:
平成18年度診療報酬の改定結果、
回復期リハ病棟での整形外科疾患の対象は非常に拡大した。
その結果、当院においては以前認められていなかった人工関節形成術や下肢関節手術後が大
きな割合を占めるに至った。しかし、算定期間がより短縮された為、在宅復帰のための集中
的リハを効率的に行うことが求められた。ほとんどの症例が算定期間以内での在宅復帰は可
能であったが、対象疾患として最多である大腿骨頚部骨折例は高齢化し、ほとんどが認知症
などの合併症を有していた。術後約2週間以内に院内の急性期病棟か市中の急性期病院から
当病棟へ転棟しているが、パスに定める6∼8週での退院には大きなばらつきが見られた。そ
のほとんどが患者・家族に関わる要因によるものであった。特に施設内での骨折が増加してい
ることから、在宅復帰率は自宅へ52%、施設へは27%に留まっている。当病棟への転入時と退
院時のFIMによる改善度を見ると、すべての項目で改善しているが、改善度は年齢よりも認知
症の程度に左右されていた。急性期病院との連携パスによって急性期から回復期までの治療法
は標準化されてきている。今後は維持期のリハビリ施設との連携が重要であることを痛感して
いる。回復期リハ病棟はクリアすべき点も多い。そのひとつがスタッフの確保である。専従の
PT・OTの数により入院料がほぼ定まること、法定の看護師配置ではマンパワー不足が生じる
ことなどであり、
運動器リハが単価を低く設定されたことにより入院単価はかなり低くなった。
しかし回復期リハ病棟を持つことは、病院全体の医療の質向上に寄与しているばかりでなく、
急性期一般病棟の在院日数短縮にも好影響を及ぼし、病院経営上も好結果をもたらしている。
− 57 −
骨代謝マーカー(血清NTXと尿中NTX)の
日内変動、日間変動について
一 般 演 題(O−22)
阿 部 義 裕
瑞穂医院
目 的:
血清NTXと尿中NTXの日内変動及び日間変動を調査し、さらに検体の午前中採取の妥当性
について検討した。
方 法:
閉経後女性18名につき血清及び尿中NTXを朝・昼・夕の1日3回研究開始後0、2、4週
に測定した。測定データより血清、尿中NTXの日内変動の変動係数及び日間変動の変動係数
を求めた。
結 果:
日内変動の変動係数は以下の通りであった。血清NTX 0週17.4,2週20.4、4週10.9、尿
中NTX 0週20.
6、2週21.
3、4週20.3。この結果を0、2、4週で比較すると血清値は尿中
値より変動が小さかった。
また日間変動の変動係数の結果は以下の通りであった。血清NTX朝12.1、昼16.6、夕24.2、
尿中NTX朝20.
7、昼17.
9、夕26.
6。この結果を朝、昼、夕で比較すると血清値は尿中値より
変動が小さく、また血清値で朝の日間変動値が最も小さかった。
結 論:
以上の結果より朝の血清検体が診断に最も適していると考えられた。
− 58 −
骨吸収抑制剤を用いた骨粗鬆症治療の
効果判定における尿中及び血清NTXの
有用性の検討
一 般 演 題(O−23)
阿 部 義 裕
瑞穂医院
はじめに:
近年骨粗鬆症に対する治療効果を尿中あるいは血清骨代謝マーカーの変動で推し量ることが
提唱され、どの骨代謝マーカーがより早期に治療効果を判定できるのか検討されているが今だ
結論が得られていない。
そこで本研究では骨吸収抑制剤であるリセドロネート製剤を投与して、
尿中NTX及び血清NTXの変動の程度を治療開始から16週間までの期間追跡し、骨吸収抑制効
果の早期判定に有用な骨代謝マーカーの同定を行った。
対象と方法:
対象者は山形県内から変形性関節症治療のため来院し、研究開始時点で前腕骨DXA法によっ
て測定された骨量が、若年成人女性の平均骨量の80%以下の51名の閉経後女性患者である。次
にインフォームドコンセントを実施し同意を得た43名のうち脱落3名を除く40名を16週にわた
り追跡した。
リセドロネート製剤、活性型ビタミンD製剤およびCa剤を内服する群を治療群(n=21)と
し、対照群(n=19)には同量の活性型ビタミンD製剤およびCa剤を内服させた。測定項目
は研究開始直前(0週)
、および4週、8週、12週、16週の骨密度および尿中と血清NTXとし、
治療効果の指標となるSignal/Noise比(S/N比)を比較した。
結 果:
尿中NTXのS/N比は治療開始後4週で1を超え、血清NTXは16週になって1を超えた。
結 論:
骨吸収抑制剤であるリセドロネートの早期の骨吸収抑制効果を判定する際には尿中NTXが
有用であることが示唆された。
− 59 −
関節リウマチに対する
エンブレルの有用性について
一 般 演 題(O−24)
吉 田 昌 明
吉田整形外科・リウマチ科クリニック
目 的:
関節リウマチ(RA)に対するエタネルセプト(エンブレル)の有効性と安全性について検
討した。
症例および方法:
抗リウマチ剤に抵抗性を示すRA 患者を当科で選択し(33例)、呼吸器内科での精査後にエ
ンブレル投与の可否を決定した。対象はRA 31例(男性3例・女性28例)であり、stage 3;12例、
stage 4;19例、class 2;30例、class 3;1例であった。治療開始時の年齢は平均57.9歳(24
∼77歳)
、RAの罹病期間は平均12年1ヶ月(1年7ヶ月∼36年)、メトトレキサート(MTX)
の併用は14例、ステロイド剤の投与は平均7.3mg(2∼20mg /日)であった。また抗結核剤
の予防投与は10例におこなわれた。効果の判定には欧州リウマチリーグ(EULAR)の改善基
準であるDAS 28を用いた。さらに継続率、ステロイド剤の投与量、MMP−3の変動について
検討した。
結 果:
DAS 28の推移は開始前、4週後、8週後、12週後、24週後でそれぞれ平均5.83、3.47、
3.
32、2.
94、2.
79であり、寛解基準(<2.6)を満たしたのは4週で5例、12週で9例であった。
継続率は12週後で28/31(90.
3%)であり、ステロイド剤の一日投与量は12週で平均4.8mg、
24週で3.
2mgとなった。MMP−3は開始前に平均297.5ng/mlであったのが12週間後に182.6、
24週間後に142.
7へ減少した。安全性においてはエンブレル投与中に肝機能障害が5例、肺炎
1例、急性気管支炎が1例、急性胃腸炎が1例に認められた。肺炎の1例とEULAR改善基準
で無効と判断された5例中1例、さらに1例は妊娠のため投与を中止した。
結 論:
難治性RAに対しエンブレルは優れた効果と、高い安全性をもつ薬剤である。
− 60 −
学校保健への臨床整形外科医による関わり方
とくに広島方式集団側弯症検診
一 般 演 題(O−25)
泉 恭 博
いずみ整形外科クリニック
はじめに:
学校保健法で前屈テストを実施する側弯症検診が義務付けられたが、学校検診で見落され手
術適応となる高度側弯症が後を絶たない。我々は平成15年度より一次検診方法に簡易型のシル
エッター(自動体型撮影器)方式を使用して側弯症集団検診を実施しているのでその詳細を紹
介する。広島方式は撮影、測定などは医師会臨床検査センターの女子職員、判定は姿勢検診判
定委員会、レントゲン撮影は広島市臨床整形外科医がそれぞれ担当する体制である。
方 法:
撮影は起立位背面、前屈位背面は床より10㎝、20㎝、30㎝の3段階の4画面を撮影し、測定は
3段階の前屈テスト映像で背面隆起の左右差を求める。この方式ではコンピュター画面上で三
点の入力で画像左右差の実測値が得られる。計測値は10㎜以上を要受診、8∼9㎜を要注意、
7㎜以下は所見なしとした。なお起立位背面で明らかな左右差が見られるものなどは判定委員
会で最終決定をした。
結 果:
3年間で4,
507名実施した。判定管理区分内訳は要受診153名(3.3%)、要注意443名(9.8%)
であった。精密検診の結果は平成15・16年度の2年間で精密検診受診者112名のうち要治療
5名(4.
5%)
、経過観察70名(64.
2%)であった。手術も考慮される40°以上の学校検診見落
し例や様々な整形外科疾患も発見している。撮影時間は1時間で約50人の検診が可能であった。
ま と め:
広島方式側弯症検診は検診実務の多くの部分を検査センター職員が担当するので、臨床整形
外科医にとって負担が少なく集団検診の実施が可能である。近年,学校保健では専門校医の必
要性が叫ばれているが臨床整形外科医が本方式を使用すれば学校保健に整形外科的視診で関わ
ることが可能である。
− 61 −
SEXTANTを用いたMIS−TLIF
一 般 演 題(O−26)
中 野 恵 介
青森整形外科クリニック
SEXTANTは米国の神経外科医Foleyにより開発された経皮的PS(pedicle screw fixation)
のシステムであり、本邦においては2005年10月より使用が認可された。当院においても、
2005年10月より2007年3月まで60例の腰椎疾患に対してSEXTANTを用いたMIS−TLIF(低
侵襲経椎間孔腰椎椎体固定術)を行なった。術式を紹介し、短期成績を報告する。
手術方法:
正中より約4cm外側に約3cmの皮切を加え、C−arm透視下にダイレーション後、チュー
ブ型レトラクターを椎間関節直上に設置する。進入側の椎間関節全切除後、椎間板を外側よ
り切除する。対側の除圧が必要な場合は、内視鏡を用いてover the topテクニックで行なう。
椎間板切除後切除した椎間関節を移植骨とし、骨移植と椎間ケージを挿入する。ケージ挿入
後チューブを抜去し、同一皮切を用いてSEXTANTによるPSを行なう。対側のPSはmirror
imageで同様の皮切を加えて行なう。術翌日起立、歩行を許可し、ドレーンは術後48時間で抜
去する。
対 象:
60例の内訳は女性36例、男性24例。手術時平均年令は64才。術後平均追跡期間は13.2 ヶ月。
1椎間固定が53例、2椎間固定が7例。変性すべり症が48例、分離すべり症が6例、再発ヘル
ニアが4例、脊柱管狭窄症が2例であった。手術時間、出血量、術後疼痛、在院日数、JOAス
コア、D−dimerを従来のオープンPLIFと比較した。
結 果:
手術時間、JOAスコア以外の項目においてMIS−TLIFで数値が低かった。合併症は3例、
いずれもケージの逸脱であったが、再手術は1例であった。SEXTANTを用いたMIS−TLIF
は従来法より低侵襲であるが、問題点も残存し、手技の熟知が重要である。
− 62 −
腰椎椎間孔狭窄症の
臨床的特徴と手術成績
一 般 演 題(O−27)
三戸 明夫・植山 和正・片野 博・佐々木知行
赤石 孝一・山崎 義人・塩崎 崇 弘前記念病院整形外科
MRIの精度の向上や診断技術の進歩により、外側神経根障害に対する診断は比較的容易に
なり、既に稀な病態ではなくなったが、その診断方法、手術術式選択などに関しては未だに
consensusが得られているとは言えない。
2001年1月から2005年12月までの5年間に当院にて手術的治療を行った腰椎全手術例は
1,
279例で、外側神経根障害例は116例9.1%であった。内訳は外側型ヘルニア症例が91例で、
椎間孔狭窄症例は25例であった。椎間孔狭窄症例のInclusion criteriaは術中所見から、ヘルニ
アを伴わずに椎間孔内にて神経根の明らかな絞扼が認められ、臨床所見と合致した症例とし
た。症例の内訳は男性11例、女性14例で、年齢は38∼84(平均62.6)歳であった。罹患レベル
はL3/4 2例、L4/5 13例、L5/S1 10例であった。手術術式は内側開窓術2例、内外側開窓
術1例、椎弓切除術1例、骨形成的片側椎弓切除術8例、PLIF 5例、TLIF 8例であった。
平均follow−upは23.
6 ヶ月で、平林法による改善率は平均80.2%と良好であった。固定の有
無で比較すると、やや固定術群で勝っていたものの、有意差は得られなかった。これらにつき、
臨床的特徴および術後成績を検討し、考察を加え報告する。
− 63 −
ポ ス タ ー 展 示
手根管症候群に対する
手根管内ステロイド注射の経験
−ステロイド注射の適応と限界について−
ポ
ス
タ
ー
展
示
井 上 貞 宏
井上整形外科
目 的:
手根管症候群(CTS)に対する手根管内ステロイド注射(注射)の成績を検討し、注射の意義、
適応、限界について考察した。
対象及び方法:
浜田分類のGrade1(49例54手)およびGrade2(5例7手)の特発性CTSに対してトリアム
シノロン5mgと局麻薬3mlの手根管内注射を行い、効果を見ながら追加した。全例に投薬を
併用し、7例に装具を併用した。理学療法は併用しなかった。治療成績判定には浜田の評価法
を一部改変して行った。経過観察期間は平均15 ヶ月であった。
結 果:
注射の回数は平均3回であった。61手中の54手では注射により早期に自覚症状の改善が得ら
れた。最終成績はGrade1ではGood23手、Fair14手、Poor17手で、6手ではGrade2に進行し、
14手に手術を行った。Grade2ではGoodはなく、Fair3手、Poor3手で、1手がGrade3に進行
し手術を行った。術後成績は良好であった。正中神経の遠位潜時が8ms以上のもの、発症か
ら1年以上経過しているもの、手の過度の使用を避けられないもの、自覚症状の改善が長続き
せず5ヶ月程度で再発するもの、2回以上再発を繰り返すものでは成績不良例が多くなってい
た。
考 察:
CTSに対するステロイド注射は手根管内に潜在する非特異的炎症や浮腫性の病変に作用し、
正中神経の周囲環境を改善することで効果を表すと考えられる。従って、病期の進行していな
いCTSには自覚症状の早期改善を期待して適応されて良く、スプリント固定などに併用しても
有効である。注射手技に注意することは当然であるが、注射による有害事象は認めなかった。
しかし、遠位潜時が8ms以上のもの、over useを避けられないもの、一時的な効果しかなく
再発を繰り返すものには手術への変更が考慮され、病期が進行するものは手術適応であると考
えられた。
− 67 −
脊椎低侵襲手術における
高周波ラジオ波メス(サージマックス)の応用
ポ
ス
タ
ー
展
示
中 野 恵 介
青森整形外科クリニック
1970年、Ellmanにより開発された4.0MHz高周波ラジオ波メスは、従来の電気メスに比べて
組織の損傷が少なく、またバイポーラー止血においては、熱変性が少なく“焦げない”とい
う特徴を持つ。さらに、トリガーフレックスTMバイポーラーシステムは、ハンドルを回転さ
せることにより、彎曲した先端の通電部分を360度の可動域で止血操作を可能にする。2005年
11月より、腰椎および頸椎後方内視鏡手術、円筒型レトラクターを用いた低侵襲経椎間孔腰椎
後方椎体固定術(MIS−TLIF)に際し、高周波ラジオ波メス(エルマン社製サージマックス)
を皮切および止血操作に使用している。MED(microendoscopic discectomy)システムを用い
る腰椎および頸椎内視鏡手術においては、主にトリガーフレックスバイポーラーを、MIS−
TLIFにおいては、主にフォーセップバイポーラーを止血に使用している。16∼18mmの円筒
型レトラクター内で除圧やヘルニア摘出を行なうMEDでは、従来の攝子型のバイポーラーで
はうまく掴めない出血点
(特に硬膜外静脈叢からの出血)の止血もトリガーフレックスバイポー
ラーを用いると比較的容易である。MIS−TLIFにおいては、筋組織や軟部組織の止血にフォー
セップバイポーラーを用いると“焦げつき”(組織炭化)が少なく、高熱も発生させないので、
組織の損傷を軽減できる。皮膚切開においては、モノポーラー高周波メスを使用すると、組織
の損傷も少なく創治癒も良好である。脊椎低侵襲手術において、止血の操作性、微細な止血操
作、良好な創治癒の点で高周波ラジオ波メスは有用と考えられる。手技およびシステムを紹介
する。
− 68 −
転子下骨切り術を併用した
人工股関節置換術の治療成績
ポ
ス
タ
ー
展
示
藤 井 一 晃
八戸平和病院
目 的:
殿筋内脱臼、大腿骨骨切り術後の症例に対する手術方法として、当科では人工股関節置換術
(以下THA)に転子下骨切り術を併用することにより対応してきた。本研究ではその治療成績
を評価することを目的とした。
対象と方法:
対象は男性1例女性8例、
平均年齢62.8歳(47−80歳)、経過観察期間は1ヶ月−2年1ヶ月。
殿筋内脱臼、および高位脱臼性股関節症7例に対しては転子下短縮骨切り術を、大腿骨骨切り
術後の2例には転子下内反骨切り術を行なった。
使用した機種は臼蓋側Duraloc6例、KT plate2例、Pinnacle1例、大腿骨側は全例S−
ROMを使用した。
以上の症例に対しJOA scoreの推移、合併症の有無、調査時のレントゲン所見について評価
を行なった。
結 果:
経過観察期間の短い症例を除いた6例ではJOA score平均42.3が術後87.1に改善していた。
脱臼を1例に生じたが、坐骨神経麻痺、感染などの合併症はなかった。術後3ヶ月のレントゲ
ンで骨切り部の骨癒合は得られ、調査時にlooseningを認めた症例はなかった。
考 察:
THAの治療成績は安定しているが殿筋内脱臼、骨切り術後の症例では難渋することがある。
転子下骨切り術により臼蓋側は確実に展開することが可能であり全例socketを原臼位に設置す
ることができた。大腿骨側では骨切り部の確実な固定が必要となるがS−ROMを使用すること
により良好な骨癒合を得ることができた。殿筋内脱臼、大腿骨骨切り術後の症例に対し転子下
骨切り術を併用したTHAは有用な方法と考えられた。
− 69 −
術前診断に難渋した
前十字靭帯断裂陳旧例のMRI所見の検討
ポ
ス
タ
ー
展
示
星 忠行・中島 宏・小松 満・田村 晴美
小松整形外科医院
目 的:
本研究の目的は、術前に確定診断に至れなかった前十字靭帯(以下ACL)断裂陳旧例と
ACL正常例のMRI所見を比較し、診断上の留意点を検討することである。
対 象:
2006年4月から2007年3月までに当院で施行した40歳未満の鏡視下手術例の内、診断に難
渋したACL断裂群(以下R群)7例とACL正常群(以下N群)30例の術前MRIを検討した。
R群は術前膝不安定性が典型的でなく、MRIにて直線的な線維の連続を認めたが、鏡視所見で
ACLの顕著な緊張低下を呈した例とした。R群7例は全例男性で、16∼33歳(平均24歳)、N群
は男性22例、女性8例で11∼39歳(平均24.3歳)であった。
方 法:
MRI撮影はEXCELART 1.
5 Tesla(東芝社製)を用い、膝軽度屈曲位で主にプロトン強調
画像で、冠状断を指標にACLの走行に沿った矢状断を使用した。また連続した線維束が描出
できるまでスライス方向を微調整した。評価は線維全体の幅、線維束の数(前内側線維束:
AMBと後外側線維束:PLB)
、輝度の3項目で施行し、幅はAMBを示す低輝度部分のほぼ中
間点の前縁から線維に垂直に低∼中等度の輝度部分の後縁までの距離の実測を行った。
結 果:
1)線維束の幅は、R群2.
7∼3.
9㎜(平均3.38㎜)、N群2.7∼10.1㎜(平均6.24㎜)
2)線維束の数は1束(AMB)だけの例は、R群100%(7/7)、N群60%(18/30)
3)輝度変化は低輝度の線維のみはR群57%(4/7)、N群53%(16/30)で、他は低輝度と中
等度の輝度が混在していた。
ま と め:
ACL断裂の臨床所見が不確実な症例において、MRI画像でACLが低輝度、緊張、連続性を
呈していても、幅が4㎜以下と狭く、1束で描出され、PLBの描出が全く認められない場合は、
断裂後陳旧例の可能性が高い。
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超弾性ワイヤーによる
巻き爪変形の治療経験
ポ
ス
タ
ー
展
示
成 田 俊 介
弘前駅前整形外科クリニック
目 的:
巻き爪変形の治療法として超弾性ワイヤー(以下SEワイヤーに略す)による爪の矯正がある。
SEワイヤーによる変形矯正を行った自験例に関して問題点を含めて報告する。
対象と方法:
H18年1月からH19年1月までの1年間に母趾巻き爪変形に対してSEワイヤーを装着した15
例を対象とした。SEワイヤーは多摩メディカル社製マチワイヤを使用した。男性6例、女性
9例で年令は31才から84才(平均52.
6才)であった。15例中4例で両足にSEワイヤーを装着
した。また2趾で再発により2度のSEワイヤー装着を行った。1趾に2本のSEワイヤーを同
時に装着した症例があったが、残りは全て1趾に対して1本のSEワイヤーを装着した。SEワ
イヤーの太さを治療中に変更した症例が5例5趾存在した。使用SEワイヤーは
4.0㎜3趾、
4.
5㎜7趾、 5.
0㎜14趾、 5.
5㎜0趾、 6.0㎜4趾であった。
結 果:
対象15例の内、4例で治療を中断しており11例で目的とする爪甲の矯正が得られていた。治
療中断の4例中2例で爪甲が割れてSEワイヤーが脱転し治療を中断していた。矯正が得られ
た11例のSEワイヤーの装着期間は8日から207日で平均28日であった。ワイヤー装着で変形の
改善が得られた症例の内1例で再発を認め、初回SEワイヤー抜去から40週目にSEワイヤーの
再装着を行った。
考 察:
SEワイヤーによる巻き爪の治療は非侵襲性で疼痛がなく治療法が簡便な利点があるが、欠
点としてはSEワイヤーの爪甲からの脱転と再発がある。SEワイヤーの脱転は爪甲が割れるこ
とで生じ、爪甲が割れることで再装着が一定期間困難となる。再発の可能性に関する説明は重
要であるが、爪甲からの脱転を予防するための工夫が大事である。
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ご
案
内
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