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我が国の原油輸入と対中東貿易

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我が国の原油輸入と対中東貿易
【我が国の原油輸入と対中東貿易】
世界的な需要の拡大を背景として、ここ数年間、原油価格は高騰を続けている。昨年後
半、米国で発生した大型ハリケーンの影響もあり、さらなる上昇となった原油価格は、今年
に入って一時的に落ち着きをみせたものの、産油国の政情不安などから再び上昇の兆し
を強めている。15年末には約 32 ドル/バレルであったWTI原油先物価格(期近物)は、1
6年末には約 43 ドル/バレル、17年末には約 59 ドル/バレルに達し、18年4月には 70
ドル/バレルを超える値を付けるにいたった(第Ⅱ−3−8図)。消費する原油のほとんど
全てを輸入に頼る我が国にとって、原油価格の高騰は看過できない問題であり、今後もそ
の動向には引き続き注視が必要である。
本稿では、前半で中東を主とする我が国の原油輸入の現状や原油輸入の大半を占め
る中東との貿易(輸出入)の動向を概観し、後半では、世界の原油の需給や貿易の動向、
その中で中東が占める地位、さらに原油高を背景に潤う産油国マネーの動向をみることと
する。
第Ⅱ−3−8図 WTI 原油先物価格(期近物)の推移
(ドル/バレル)
80
WTI
70
60
50
40
30
20
10
0
└ 7
┘
└ 8
┘
└ 9
┘
└ 10 ┘
└ 11 ┘
└ 12 ┘
└ 13 ┘
└ 14 ┘
└ 15 ┘
└ 16 ┘
└ 17 ┘18年
(注)WTI(West Texas Intermediate)原油先物:米ニューヨーク・マーカンタイル取引所に上場されている
資料:Energy Information Administration
(1) 我が国の原油の輸入動向
我が国における財の輸入金額は17年に約 57 兆円と過去最高を記録し、そのうち、原
油の輸入金額は約 8 兆 8,000 億円、輸入総額に占める割合は約 15%と、平成に入って
以降、もっとも高い水準に達している。また、GDPに対する原油の輸入金額も約 1.7%と、
こちらも平成に入って以降、もっとも高い水準となっている(第Ⅱ−3−9図)。
- 105 -
第Ⅱ−3−9図 日本の原油の輸入金額の推移とGDPに占める割合
日本の輸入金額の推移
(兆円)
うち原油
60
名目GDPに占める輸入額の比率
(%)
貿易額に占める割合(右目盛)
18
(%)
(%)
総計
12
原油(右目盛)
2.0
16
50
14
1.8
10
12
40
1.6
1.4
8
1.2
10
30
8
6
1.0
0.8
20
6
4
0.6
4
10
2
0
0
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3
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5
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7
8
9 10 11 12 13 14 15 1617年
0.4
2
0.2
0.0
0
63 元 2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 1617年
資料: 「貿易統計」(財務省)、「国民経済計算」(内閣府)
原油の輸入金額が増加している最大の要因は輸入単価が上昇しているためである。
国際市場での価格の高騰を受けて、日本への輸入単価も15年末の約 30 ドル/バレル
から17年末には 60 ドル/バレル近くにまで上昇している(第Ⅱ−3−10図)。実際、原
油の輸入金額の伸びを要因分解すると、16年半ば以降、前年同月比で二桁以上の伸
びを示しているが、輸入数量の寄与分は小さく、ほとんどが輸入単価上昇による寄与で
あることがわかる(第Ⅱ−3−11図)。原油の輸入金額は、我が国の貿易収支に匹敵す
る水準まで増加しており、黒字額を大きく押し下げる要因となっている(第Ⅱ−3−12
図)。
第Ⅱ−3−10図 原油の輸入価格の推移(通関到着ベース)
千円/KL
ドル/バレル
70
円レート(右目盛)
70
80
60
90
100
50
110
40
120
130
30
140
20
150
160
10
170
0
└ 7
┘
└ 8
┘
└ 9
180
┘
└ 10 ┘
└ 11 ┘
└ 12 ┘
└ 13 ┘
└ 14 ┘
└ 15 ┘
└ 16 ┘
└ 17 ┘18年
(注)1バレル=約 159 リットル
資料:「貿易統計」(財務省)、「外国為替」(日本銀行)
- 106 -
第Ⅱ−3−11図 原油の輸入金額(前年同月比)の要因分解
輸入数量要因
(%)
輸入単価要因
輸入金額上昇率
100
75
50
25
0
▲ 25
▲ 50
└
13
┘└
14
┘└
15
┘└
16
┘└
17
┘ 18年
(注)輸入単価=輸入金額÷輸入数量
輸入金額:S、輸入数量:Q、輸入単価:P とすると、ΔS ≒ ΔQ×P0 + Q0×ΔP
(数量増加要因+単価上昇要因)
資料:「貿易統計」(財務省)
第Ⅱ−3−12図 日本の貿易収支の推移
貿易黒字
(10億円)
2,000
原油輸入金額
1,500
1,000
500
0
▲ 500
└
10
┘
└
11
┘
└
12
┘
└
13
┘
└
14
資料:「貿易統計」(財務省)
- 107 -
┘
└
15
┘
└
16
┘
└
17
┘ 18 年
(2) 日本と中東との貿易
先にみたように、ここ数年、原油の輸入金額は上昇しているものの、ほとんどが輸入単
価上昇による影響であり、輸入数量はあまり変化していない。長期的にみると、平成に
入ってからは9年に約 16 億 7,400 万バレルとピークをつけた後、17年には約 15 億 6,000
万バレルと1割近くの低下となっている。しかしながら、我が国の原油輸入の大半は中東
に依存する形が続いており、17年の中東依存度は約 90%と、近年、その傾向を強めて
いることがわかる(第Ⅱ−3−13図)。
第Ⅱ−3−13図 我が国の原油輸入量と中東依存度
(100万バレル)
1,800
原油輸入量
(%)
100
中東依存度(右目盛)
1,700
90
1,600
1,500
80
1,400
70
1,300
1,200
60
1,100
1,000
50
63
元
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 12
13
14
15
16 17年
(注)中東はイラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダ
ン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦、ガザ、イエメン
資料:「貿易統計」(財務省)
内訳をみると、サウジアラビアからの輸入が約 32%、アラブ首長国連邦からの輸入が
約 27%、イランからの輸入が約 15%となっており、上位3か国で輸入高全体の4分の3
近くを占めている(第Ⅱ−3−14図)。
第Ⅱ−3−14図 我が国の原油の仕入先別輸入数量(17年)
その他
オセアニア
アフリカ
中東
アジア(中東除く)
アジア(中東除く)
アフリカ
サウジアラビア
オセアニア
その他
アラブ首長国連邦
サウジアラビア
アラブ首長国連邦
イラン
その他
カタール
オマーン
イラン
クウェート
クウェート
オマーン
カタール
その他
資料:「資源・エネルギー統計」
- 108 -
中東からの輸入金額の総計をみると、17年には約 9 兆 7,000 億円と 10 年間で3倍程
度にまで拡大している。輸入金額の8割以上は原油で占められており、原油以外の鉱
物資源の輸入金額も増加しているものの、原油の輸入金額の伸び幅が大きく、輸入金
額に占める割合は上昇傾向にある(第Ⅱ−3−15図)。
第Ⅱ−3−15図 中東からの輸入金額の推移
うち原油
(兆円)
10
貿易額に占める割合
(%)
90
80
8
70
60
6
50
40
4
30
20
2
10
0
0
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元
2
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5
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14
15
16 17年
資料:「貿易統計」(財務省)
中東からの輸入金額は増加する一方で、日本からの中東向けの輸出金額はそれほ
ど伸びていないことから、対中東との貿易収支は大幅な赤字超過となっている。対中東
との貿易赤字の金額は17年には約 7 兆 8,000 億円と、17年の我が国の対世界との貿
易収支の黒字額、約 8 兆 7,000 億円に匹敵する金額となっている(第Ⅱ−3−16図)。
第Ⅱ−3−16図 世界及び中東との貿易収支額の推移
(兆円)
世界計
中東
15
10
5
0
▲5
▲ 10
63
元
2
3
4
5
6
7
8
9
資料:「貿易統計」(財務省)
- 109 -
10
11
12
13
14
15
16 17年
鉱工業出荷内訳表により、地域別の輸出向け出荷の内訳をみると、中東が占める割
合は全体の約 2.4%程度に留まっている(18年1∼3月期)。しかしながら、指数水準の
伸びは大きく、12年水準と比較すれば約 1.5 倍になっており、東アジアに次ぐ高い伸び
率を示している(第Ⅱ−3−17図、第Ⅱ−3−18図)。
第Ⅱ−3−17図 出荷指数(輸出)ウェイトの推移(仕向先別)
米国
140
欧州
アセアン
東アジア
中東
その他
その他
120
中東
100
東アジア
80
60
アセアン
40
欧州
20
米国
0
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ
└ 12
┘ └ 13
┘ └ 14
┘ └ 15
┘ └ 16
┘ └ 17
┘18年
第Ⅱ−3−18図 出荷指数(輸出)の推移(仕向先別)
180
米国
欧州
アセアン
東アジア
中東
その他
160
140
120
100
80
60
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ
└ 12
┘ └ 13
┘ └ 14
┘ └ 15
┘ └ 16
┘ └ 17
┘ 18年
(注)中東はイラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダ
ン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦、ガザ、イエメン
資料:「鉱工業出荷内訳表」(試算値)
中東向け輸出の内訳を財別にみると(17年)、耐久消費財が 33%、生産財が 33%、
資本財が 29%と、概ねこの三つの財のシェアは均等になっている。これを、他地域向け
輸出の財の構成比と比較すると、生産財の割合が低く、耐久消費財の割合が大きいの
が特徴である(東アジアやASEANは生産財の占める割合がもっとも大きく、概ね7割が
- 110 -
生産財であり、耐久消費財の割合は 5%以下。米国や欧州も生産財の割合が5割弱と
もっとも大きく、耐久消費財は4分の1程度)(第Ⅱ−3−19図)。
また、財の輸出の伸び率の動向をみると、16年には資本財や生産財が大きく上昇に
寄与していたのに対して、17年以降は耐久消費財が伸び率に大きく寄与している(第
Ⅱ−3−20図)。
第Ⅱ−3−19図 中東向け出荷の財別内訳(17年)
中東
資本財
生産財
建設財
非耐久消費
財
耐久消費財
○ 参考図(地域別出荷の財別内訳)
ASEAN
東アジア
資本財
資本財
建設財
耐久消費財
建設財
耐久消費財
非耐久消費
財
非耐久消費
財
生産財
生産財
欧州
米国
資本財
資本財
生産財
生産財
建設財
建設財
耐久消費財
耐久消費財
非耐久消費
財
非耐久消費
財
資料:「鉱工業出荷内訳表」(試算値)
- 111 -
第Ⅱ−3−20図 中東向け財別出荷指数の伸び率の推移(前年同期比)
(%)
25
資本財
建設財
耐久消費財
非耐久消費財
生産財
鉱工業
20
15
10
5
0
▲5
Ⅰ
└
Ⅱ
14
Ⅲ
Ⅳ
┘
Ⅰ
└
Ⅱ
15
Ⅲ
Ⅳ
┘
Ⅰ
└
Ⅱ
16
Ⅲ
Ⅳ
┘
Ⅰ
└
Ⅱ
17
Ⅲ
Ⅳ Ⅰ
┘ 18年
資料:「鉱工業出荷内訳表」(試算値)
さらに、中東向け輸出の品目内訳をみてみると、普通乗用車、小型乗用車、自動車
用タイヤの順に構成比が大きく(17年)、5年前と比較しても品目の構成に大きな変化は
みられない。中東諸国では工業があまり発達しておらず、日系企業の工場進出も進ん
でいないことから、製造設備や加工用の半製品の輸出は少なく、完成品の輸出が多く
なっているものと考えられる(第Ⅱ−3−5表、第Ⅱ−3−6表)。
第Ⅱ−3−5表 中東向け輸出品目の構成比(12年、17年)
12年
普通乗用車
小型乗用車
普通トラック
自動車用タイヤ
バス(小型・大型)
(%)
19.9
11.6
8.2
3.8
3.1
17年
普通乗用車
小型乗用車
自動車用タイヤ
普通トラック
普通鋼熱間鋼管
(%)
18.5
13.7
4.9
4.8
2.9
資料:「鉱工業出荷内訳表」(試算値)
第Ⅱ−3−6表 中東向け輸出の品目動向(17年)
( )内は前年比 増加
中東向け輸出 普通乗用車
(7.5%) 小型乗用車
普通鋼熱間鋼管
資料:「鉱工業出荷内訳表」(試算値)
- 112 -
減少
分析機器
蒸気タービン部品
電力変換装置
(3) 世界の原油貿易と中東
世界の原油消費量の推移をみると、年々増加傾向にあり、15年には約 260 億バレル
と、10年前と比較すると 30 億バレル以上の増加となっている。地域別に消費量をみると、
もっとも多いのはアジアで約 67 億バレル、続いて北米が約 65 億バレル、西欧が約 45
億バレルであり、アジアは12年に北米を抜いて、もっとも消費量の多い地域となった。な
お、アジアのうちでは、中国が約 19 億バレル、日本が 15 億バレルとなっており、中国は
15年に前年比で 10%以上の増加であった(第Ⅱ−3−21図、第Ⅱ−3−22図)。
第Ⅱ−3−21図 世界の原油消費量の推移
(100万バレル)
30,000
アジア計
オセアニア計
中東計
アフリカ計
ラテンアメリカ計
北米計
西欧計
旧ソ連・東欧計
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
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14
15年
第Ⅱ−3−22図 原油消費量増加率の推移
アジア計
アフリカ計
西欧計
(%)
5.0
オセアニア計
ラテンアメリカ計
旧ソ連・東欧計
中東計
北米計
世界計
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
▲ 1.0
▲ 2.0
▲ 3.0
▲ 4.0
63
元
2
3
4
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6
7
8
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12
13
14 15年
(注)1バレル=0.135 トンで計算
中東はイラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダ
ン、シリア、レバノン、アラブ首長国連邦、ガザ、イエメン、トルコ、キプロス
資料:「Energy Statistics Year Book」(UN)
原油の生産を地域別にみると、もっとも多いのは中東で約 2,300 万バレル/日(年換
算:約 83 億バレル)であり、世界全体の生産量の3分の1弱を占めている(17年)。中東
- 113 -
の生産量が占める割合は、中東地域の政治情勢に左右されるものの、長期的にみると
緩やかに上昇しつつあり、世界全体におけるウェイトが高まっていることがわかる(第Ⅱ
−3−23図)。
第Ⅱ−3−23図 原油生産量の推移
(1,000バレル/日)
80,000
アジア・オセアニア計
中東計
アフリカ計
北米・中南米計
ヨーロッパ計
旧ソ連・東欧計
70,000
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
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元
2
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13
14
15
16 17年
資料:International Petroleum Encyclopedia
原油の輸出入量を地域別にみると、輸入については、アジアが約 50 億バレル、北米
及び西欧がそれぞれ 40 億バレル強となっており、一方、輸出については中東が約 55
億バレルと全体の4割近くを占め、以下、アフリカ、ラテンアメリカが 20 億バレル程度とな
っている(いずれも15年の値)(第Ⅱ−3−24図)。原油の産出量や産出コスト、原油の
消費傾向については、原油高局面においても大きく変動はしないことから、原油の輸出
入による欧米やアジアから中東、アフリカ地域の産油国へのマネー移転は、昨今の原
油価格高騰により拡大しているものと考えられる。
第Ⅱ−3−24図 原油の地域別輸出入量の推移
① 地域別輸入量
(100万
バレル)
16,000
② 地域別輸出量
アジア計
アフリカ計
西欧計
オセアニア計
ラテンアメリカ計
旧ソ連・東欧計
(100万
バレル)
中東計
北米計
16,000
14,000
14,000
12,000
12,000
10,000
10,000
8,000
8,000
6,000
6,000
4,000
4,000
2,000
2,000
アジア計
アフリカ計
西欧計
オセアニア計
ラテンアメリカ計
旧ソ連・東欧計
中東計
北米計
0
0
63 元
2
3
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5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15年
(注)1バレル=0.135 トンで計算
資料:「Energy Statistics Year Book」(UN)
- 114 -
63 元
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15年
国際統計、中東地域の統計については月次のデータや最新のデータが整備されて
いるものが少ないため、近年の原油価格の高騰が産油国にどれほどの恩恵を及ぼして
いるのか、産油国へどれほどのマネーの移転が生じているのかを知ることが難しい。そこ
で、中東の最大産油国の一つであるサウジアラビアに焦点をあて、サウジアラビアと主
要貿易国(米国、日本、EU15 か国、中国、韓国、シンガポール)との貿易収支の状況か
ら、今般の原油高局面におけるいわゆるオイルマネーの動向を推察することとする。
なお、世界の原油輸出量を国別にみると、サウジアラビアが全体の 17%強ともっとも
高いシェアを占めており、原油高を背景とした原油輸出による恩恵をもっとも受けている
国であると考えることができよう。以下はロシア連邦(12%弱)、ノルウェー(7%弱)、イラ
ン(6%弱)、ナイジェリア(6%弱)、メキシコ(5%強)、アラブ首長国連邦(5%弱)と続い
ている(いずれも15年「Energy Statistics Year Book」UN より)。
サウジアラビア経済企画省によると、15年のサウジアラビアの輸出金額は約 932 億ド
ル、そのうち主要貿易国への輸出は約 615 億ドルと概ね3分の2を占めている。また、輸
入金額は約 369 億ドルで主要貿易国からの輸入は 260 億ドルと 70%程度のシェアを占
めている(第Ⅱ−3−25図)。
第Ⅱ−3−25図 サウジアラビアの貿易額の内訳(15年)
輸入(15年)
369.16億ドル
輸出(15年)
932.44億ドル
米国
米国
その他
その他
日本
日本
シンガポー
ル
韓国
シンガポー
ル
中国
韓国
EU
EU
中国
(注) 1ドル=3.75Riyals で計算
資料:Ministry of Economy and Planning(サウジアラビア経済企画省)
サウジアラビア経済企画省の統計では、年ベースでの貿易データしか把握することが
できない上、16年及び17年の月次データが得られないことから、主要貿易国の統計デ
ータを用いてサウジアラビアの輸出額、輸入額、貿易収支額の推移を表した(第Ⅱ−3
−26図)。これをみると、原油価格が大きく上昇し始めた16年以降、サウジアラビアの貿
易収支の黒字額が拡大していることがわかる。年累計でみると、主要貿易国からの輸入
は16年に 289 億ドル、17年は 358 億ドルと約 70 億ドルの増加であるのに対して、主要
- 115 -
貿易国への輸出は16年に 845 億ドル、17年に 1,203 億ドルと 350 億ドル以上の増加と
なっている。その結果、貿易黒字の額も16年の 556 億ドルから17年には 845 億ドルと
大幅な増加となった。なお、原油の輸出に限れば、16年には 671 億ドル、17年には 968
億ドルと 300 億ドル程度の増加であり、輸出金額増加分のほとんどが原油によるものとな
っている。
第Ⅱ−3−26図 サウジアラビアと主要貿易国との輸出入
輸出
(億ドル)
輸入
貿易収支(右目盛)
(億ドル)
90
140
80
120
70
100
60
80
50
60
40
30
40
20
20
10
0
0
└
12
┘└
13
┘└
14
┘└
15
┘└
16
┘└
17 年
┘
(注)主要貿易国とは、米国、日本、EU15 か国、中国、韓国、シンガポール。
各主要国からサウジアラビアへの輸出をサウジアラビアの輸入、各主要国のサウジアラビアからの輸入
をサウジアラビアの輸出として合算。第Ⅱ−3−25図から、実際のサウジアラビアの輸出入金額の総額
よりも数割程度少ないと考えられる。
資料:World Trade Atlas
サウジアラビアでは、石油産業は政府が担っているため、原油輸出収入の増加分は
サウジアラビア通貨局(SAMA:Saudi Arabian Monetary Agency)の資産として蓄積され
ることになると考えることができる。SAMA の資産残高をみると、16年末では約 1,000 億ド
ルであったが、17年末には 1,650 億ドルと大幅に積み上がっている。中でも、海外有価
証券の保有残高が16年末の 526 億ドルから17年末には 987 億ドルへと 450 億ドル以
上も増加しており、資産残高増加分の大半を占めている(第Ⅱ−3−27図)。つまり、サ
ウジアラビア政府は近年の原油高により獲得した外貨の多くを海外の金融資産への投
資に振り向けている可能性が指摘できる。
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第Ⅱ−3−27図 サウジアラビア通貨局(SAMA)の資産残高の推移
(億ドル)
1,800
外貨準備
現金
海外預金残高
海外有価証券
その他資産
1,600
1,400
1,200
海外有価証券
1,000
800
海外預金残高
600
400
200
0
└
12
┘└
13
┘└
14
┘└
15
┘└
16
┘└
17 年
┘
資料:Saudi Arabian Monetary Agency(サウジアラビア通貨局)
(4) まとめ
原油需要の世界的な拡大が続く中、産油国における地政学的リスクは早急に解消す
ることは難しく、原油の需給は今後もタイトな状況で推移するものと考えられる。我が国
は原油輸入の大半を中東に依存しており、乗用車や鋼管の輸出が増加はしてはいるも
のの、対中東向け貿易収支は赤字超過が続くであろう。高水準を推移する原油価格を
背景として、欧米や日本から中東、アフリカ地域の産油国へのマネーの移転は拡大して
いると推察されるが、産油国におけるこうした資金の多くは石油開発や石油精製設備を
始めとする国内産業育成への実物投資よりも、海外証券を中心とした金融資産への投
資に向かっている可能性が高い。
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