...

Page 1 Page 2 子の監護事件の推移 早法七二巻四号 (一 九九七) ー

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

Page 1 Page 2 子の監護事件の推移 早法七二巻四号 (一 九九七) ー
子の監護調停の実務指針
面接交渉を中心として
はじめに
四 三
棚
おわりに
子の監護調停の実務指針
村 政 行
子の監護調停の実務指針 三一五
︵二七六件︶、昭和四五︵一九七〇︶年審判一二〇件、調停八二五件合計九四五件と一九六〇年代後半から急激に増
昭和三〇︵一九五五︶年審判一六件、調停五三件︵六九件︶、昭和四〇︵一九六五︶年審判三四件、調停二四二件
わが国では、子の監護に関する処分事件の申立件数は、昭和二五年に審判三〇件、調停三四八件︵計三七八件︶、
一 はじめに
面接交渉の実情と法的性質
二 一
件
子の監護事件の推移
!………・調停事件早
ノ。・
ノ勝●
ノ.9
3000
’.○
‘・
る
2000
︵一九九七︶
ノ.
6000
!
’
1
ノ.
ノ
ノ
ノ
ノ,
瀬△舗1
5000
”
ノ
申11000
−10000
件
数 9000
8000
7000
ノ
ノ.
4000
1995年
1990年
1985年
1980年
1975年
1970年
1965年
1950年
0
一審判事件
12000
1000
‘●
三一六
加しはじめた。そして、昭和五〇︵一九七五︶年には審判
二六七件、調停二〇一六件︵二二八三件︶、昭和六〇︵一九
八○︶年審判入七四件、調停七八五五件︵八七二九件︶、平
成七年︵一九九五︶には審判一三一九件、調停一万三〇〇
︵1︶
件︵二六一九件︶と、じつに昭和二五年から三〇倍以上
も増えたことになる。平成六︵一九九四︶年の子の監護に
関する処分調停事件は、既済事件総数九六三六件のうち、
調停成立は五八六三件︵六〇・八%︶、不成立七三四件
︵七・六%︶、取下げ二七六一件︵二八・七%︶であった。
乙類調停事件全体では調停成立五七・九%、不成立一一.
一%、取下げ二八・二%であったから、子の監護に関す
る処分調停事件も、親権者指定・変更調停事件の六八・三
%と並んで調停成立率は平均的水準以上であるといってよ
︵2︶
い。なお、国際化に伴い渉外事件も増えつつある。
周知のとおり、民法七六六条、家事審判法九条一項乙類
四号の子の監護者の指定その他子の監護に関する処分事件
は、子の監護者の指定、監護期間の決定、監護費用の分
︵3︶ ︵4︶
担、子の引渡し、面接交渉等子の監護に必要な広範な事項を含んでいる。しかし、ここでは、子の監護処分調停事
件でも、もっとも困難かつ問題の多い面接交渉をめぐる調停事件にスポットをあて、調停運営上の実務指針を考え
てみたいと思う。一九九四年七月に公表された民法改正要綱試案でも、子の監護に必要な事項として、協議離婚の
際に非監護親との面接交渉について定められるとし、その際に子の利益を最優先しなければならないとの規定をお
くことが提案された。要綱試案は、離婚後の非監護親も、親の自然的権利として子と面接できると考えられるし、
子の健全な成長の面からも一般的には親との接触を継続することが望ましいとの前提にたっている。ただ親の自然
的権利は抽象的なもので、面接の方法、時期、回数、場所などの具体的内容は、子の利益を最優先した当事者双方
の協議によって形成されるべきだとした。一九九六年二月に公表された﹁民法の一部を改正する法律要綱﹂でも
︵5︶ 、
︵6︶
﹁父又は母と子との面会及び交流﹂を協議で定めるものとし、子の利益の最優先性が謳われている。また、児童の
︵7︶
権利条約九条三項でも、親との定期的な接触を維持する権利を子ども自身の権利として保障しており、これらの傾
向からみても﹁離婚して親が子どもに会うのは当然﹂という意識が現在よりも広まり、今後、面接交渉の取り決め
が一般化するであろうことは確実に予想される。しかし、実際の面接交渉の実施状況やトラブルは、離婚した父母
双方の不信感や感情的対立のため、きわめて調整のむずかしい問題となりつつある。子と同居する親が頭の上では
面接交渉の必要性を認めながら、相手方へのこだわりや感情的整理がついていないケースも多く、親の葛藤の心理
的調整が大きな課題となっている。実務では、むしろ安易な妥協のための面接交渉の取り決めが、かえって紛争を
︵8︶
悪化させているケースさえみられる。たとえば、一九八六年の調査官有志による実態調査の結果でも、四二%の子
が別居親と交流をしていること、子を引き取る母親に面接交渉に消極的な者が少なくないこと、子が小学生の頃の
子の監護調停の実務指針 三一七
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三一八
交流が多いこと、別居親と子の住居が近いこと、養育費の送金がなされ、収入の多い親のほうが交流がしやすいこ
と、離婚原因が非監護親の生活破壊行為にあったり一方の親の他方への不信感がつよいとき交流はしにくいこと、
親子が会う回数も月一回、二回、週一回が多く過半数を占め、会う時間も一∼二時間程度で食事と対話くらいであ
ること 離婚後年数が経つと交流は経る傾向にあることなどが明らかにされている。子との面接交渉のトラブル
、 ︵9︶
は、デリケ!トな親子の継続的人間関係の問題であり、財産分与・慰謝料や養育費をめぐる経済紛争ではない。し
たがって、他律的強制的裁断的な紛争解決システムは必ずしも効果的ではなく、あくまでも自主的合意に基礎をお
く非強制的調整的紛争解決システムが有効であることは言うまでもない。そのため、面接交渉の問題は、関係者の
二ースや利益に配慮しつつ、自主的交渉を援助する調停手続での調整作業がもっとも望ましい。
や ︵10︶
このような面接交渉をめぐる実情や問題点の指摘を踏まえ、本稿では、カリフォルニア州でのミディエーター研
修用マニュアルやアメリカでのガイドラインを参考にしながら、わが国での調停実務指針の試案的なものを作成し
てみたいと考えた。もちろん、それ自体完成したものでもなく、単なる議論のための叩き台にすぎない。このよう
な調停マニュアルの必要性については、梶村太市判事がつとに強調されてきた。つまり、調停が当事者の合意を基
礎とした任意的紛争解決制度であるために、調停の運営には調停機関である、家事審判官や調停委員の裁量の幅が
大きく、それぞれの考え方や個性によって相当の差異がでてきてしまう。そこで、調停手続に関する正確な情報提
供がなされるとともに、適正妥当な調停運営のためには情報提供の客観化が不可欠である。調停申立ての段階から
終了にいたるまでの全てのプロセスについて、調停機関や当事者がなすべき最小限の行為準則を記載した調停マニ
ユアルを作成して、これを関係者が共有することがどうしても必要だと説かれる。私自身も、調停実務に携わった
︵11︶
わずかの経験から、当事者、裁判官及び調停委員、調査官等それぞれの役割分担や関与基準に関する詳細なマニュ
アルが必要だと痛感している。もちろん、当事者には、後述するようにパンフレットや争点に対応する事情や意見
を効果的に聞くための質問表のようなものが有効であろう。また、調査官には、すでに調査官の関与基準が策定さ
れ各家庭裁判所で実施に移されている。そのため、マニュアルが緊急的に必要なのは、困難な調整役をつとめる家
事調停委員ではないだろうか。事実、私の回りの調停委員の中でも詳細なマニュアルを求める声は決して小さくな
い。大阪家庭裁判所岸和田支部の井垣康弘判事を中心とした﹁家事調停改革実務研究会﹂は、弁護士用マニュアル
の作成を試みている。
︵12︶
実務上の指針に関しては、すでに最高裁事務総局から﹃家事調停の手引き﹄︵平成六年二月︶、東京家庭裁判所
﹃家事調停・乙類審判事件処理要領﹄︵昭和六三年九月︶、日本調停協会連合会﹃改訂家事調停備忘録﹄︵平成五年一
月︶、東京家庭裁判所参調会﹃家事調停実務のポイント﹄︵昭和六三年三月︶、同﹃新訂版家事調停ハンドブック﹄
︵平成二年三月︶など実務上の留意点やマニュアルに近いものが出されている。家事調停委員ひとりひとりは、日々
の事件処理にあたり苦心をしており、その経験や調整のテクニックが相当程度蓄積されているといってよい。しか
し、そうした貴重なノゥハウが文書化されず個人のレベルにとどまっているのは残念でならない。したがって、新
しく調停委貝になる人にとっても、また、調停委員としての経験豊富な人にとっても、共通の財産として実務指針
を形成し、これを改善し発展させながら、変化の激しい現代の家事紛争処理手続のために、また調停制度への社会
一般の信頼や期待に応える意味でも、叩き台としてなにがしかの実務指針を提示してはどうかというのが本稿を草
する動機となった。そこで、本稿では、まずはじめに、面接交渉の法的性質、許否基準、実情などについて概観し
子の監護調停の実務指針 三一九
早法七一一巻四号︵一九九七︶ 三二〇
たうえで、ついで、子の面接交渉の調停実務指針として、初回調停期日から終了にいたるまでの手順、調停委員の
調整方法、援助技術などを中心に具体的に提示し、最後に、ロサンゼルスでの子の監護調停手続の概要と特色に触
れることで、わが国における子の監護のための調停事件における関係者の役割分担と相互協力等ついて若干の展望
を試みることにしたい。
︵1︶ 最高裁判所事務総局編﹃司法統計年報三家事編平成七年﹄八⊥一頁︵︸九九六年︶参照。
平成六.三二二一判時︻五四五号八一頁、東京家審平成七・︸○・九家月四八巻三号六九頁等。
︵2︶ 最高裁事務総局編﹁家庭事件の概況−家事事件1﹂家月四八巻一号二四頁、三〇頁︵一九九六年︶参照。たとえば、京都家審
題﹂家月四七巻七号一頁以下︵一九九五年︶に詳しい。
︵3︶ 子の引渡しをめぐる家裁での事件処理については、梶村太市ほか六名による﹁子の引渡し保全処分事件の処理をめぐる諸問
︵4︶ 斎藤秀夫n菊池信男編﹃注解家事審判法[改訂]﹄三四九頁以下︵沼邉愛一︵一九九二年︶︶。
︵6︶ 法務省民事局参事官室﹁民法の一部を改正する法律要綱案﹂戸籍時報四五七号五頁︵一九九六年︶。
︵5︶ 法務省民事局参事官室﹃婚姻制度等に関する民法改正要綱試案及び試案の説明﹄七〇頁︵一九九四年︶。
也﹁児童の権利に関する条約﹂法学教室一六六号四三頁以下︵一九九四年︶、鈴木隆史﹁子どもの権利条約と家族法﹂ジュリスト
︵7︶ 山口亮子﹁親子不分離の原則﹂﹃児童の権利条約﹄二︻六頁以下︵一九九五年︶等参照。児童の権利条約については、廣部和
一〇五九号一〇六頁以下︵一九九五年︶、世取山洋介﹁子どもの権利条約がわが国に与えるインパクト﹂法学セミナー四七四号六
頁以下︵一九九四年︶梶村太市﹁子どもの人権と児童の権利条約1その法学的検討﹂児童青年精神医学とその近接領域三五巻二号
編﹃解説子どもの権利条約﹄一二頁以下︵一九九一年︶等参照。
二二五頁以下︵一九九四年︶、石川稔﹁児童の権利条約と家族法﹂戸籍時報四二三号二頁以下︵一九九三年︶、永井憲︸臼寺脇隆夫
︵9︶ 寺戸由紀子﹁離婚後の面接交渉権その二−実務の現状と問題点ー﹂﹃講座現代家族法第三巻﹄一一四三−二五二頁︵一九九一年︶。
︵8︶ 瓜生武H山口恵美子﹁面接交渉の実情と実行のための援助﹂判例タイムズ八九六号一二頁︵∼九九六年︶参照。
なお、昭和四四︵一九六九︶年と少し古いが、相原尚夫ほか﹁面接交渉の実態調査﹂調研紀要二三号﹃八頁以下︵︸九七三年︶も
ある。
︵10︶ 若林昌子﹁離婚後の面接交渉権その一ー実務の現状と問題点1﹂﹃講座現代家族法第三巻親子﹄二三三頁︵一九九二年︶、永田
年︶。
秋夫ほか﹁子の監護に関する処分︵面接交渉︶事件における調査官関与の在り方﹂家庭裁判月報四八巻四号一一四頁︵一九九六
︵U︶ 梶村太市﹁家事調停の現代的課題﹂﹃家族法と戸籍1その現在及び将来1﹄四一七−四一九頁︵一九入六年︶参照。
︵皿︶ 井垣康弘﹁家事調停の改革﹂判例タイムズ入九二号入頁以下︵一九九六年︶参照。
二 面接交渉の実情と法的性質
1 面接交渉の法的性質と権利性
離婚によって親権者または監護者とならなかった親が直接子と会ったり、文通をしたり電話をかけたり、誕生日
のプレゼントを渡すなど、親として子と定期的に面会したり接触交流をもつことは許されるか。諸外国では明文の
︵13︶
規定をおくところが少なくないが、わが民法では面接交渉に関する規定がないため、これまでさまざまな議論が展
開されてきた。離婚後親権者とならなかった実母が再婚した父の許で暮らす五歳の男の子に対する面接交渉を求め
た事案で、東京家裁がはじめて﹁親権もしくは監護権を有しない親は、未成熟子と面接ないし交渉する権利を有
︵14︶
︵15︶
し、この権利は、未成熟子の福祉を害することがない限り、制限また奪われることはない﹂と説示してから、面接
交渉権をめぐる論議は一段と活発化した。最高裁昭和五九年七月六日第二小法廷決定により、少なくとも判例実務
では、面接交渉は民法七六六条・家事審判法九条一項乙類四号の子の監護に関する処分として、家庭裁判所がその
子の監護調停の実務指針 三一二
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三二二
具体的方法・場所・回数等を子の福祉の観点から定めることができるとする実務的取り扱いがほぼ確立した。最近
の審判例でも﹁親権者及び監護者とならなかった親がその子と面接することは、親子という身分関係から当然に認
められる自然的な権利であるという側面を持ち、しかも、これは監護する機会を与えられなかった親として最低限
度の要求であり、親の愛情、親子の関係を事実上保障する最終のきずなともいうことができる﹂とか、﹁本来普通
︵16︶
に行われれば子の福祉に適うべき母子面接の機会を事件本人が得られないのもやむを得ない、とすることは妥当で
なく、これら大人の側の事情は種々の方策を工夫してできる限り面接を実施しうるよう図るべきである﹂と説示
︵17︶
して、民法七六六条の子の監護に関する処分として処理している。なお、別居中の夫婦間での面接交渉について
は、民法七六六条、家事審判法九条一項乙類四号を類推適用する説が有力であるが、民法七五二条、家事審判法九
︵18︶
条一項乙類一号の夫婦の協力に関する処分として面接交渉の調停審判をするケースもでている。
しかし、面接交渉の法的性質や権利性をめぐっては判例学説上種々の見解の対立があり、いまだに定説らしきも
のはない。たとえば、面接交渉権の法的性質に関しては、親子という身分関係から当然に認められる自然権と解す
る自然権説、監護そのものでないが監護に関連する権利とみる監護関連権説、親権の一権能としての監護権の一部
︵19︶ ︵20︶
︵21︶ ︵22︶
と解する説、親として有する自然権であるとともに具体的には監護に関連する権利とみる説、親との交流をとおし
︵23︶
て精神的に成長発達することは子の権利であって面接交渉権は子の権利と捉えるべきとする説、親の権利であると
ともに子の権利でもあるとする説などが主張され、多様である。また、右のような面接交渉権を法的に承認するこ
︵24︶
とは、かえって子の利益を害するとして権利性そのものを否定する消極説もある。この説は、監護親の意思に反し
て非監護親との面接交渉を認めることは、子に忠誠心の葛藤︵δる一昌8色§︶を生じ心理的親子関係の安定にと
5︶
つても有害であること、親が子に会いたいという心情は理解できるがそれは事実上の関係として当事者の協議にま
︵2
つべきもので、法的権利として強制されるべきものではないこと等を論拠としている。しかしながら、子どもにと
っては、離婚後も父母との継続的接触や交流をもつことが望ましく、親の離婚という不幸な事態から家族をめぐる
︵26︶
人間関係・愛情・相互交流が切断されることがないように配慮される必要があるように思われる。しかも、離婚の
際に親権者・監護者とされなかった親でも、子の監護養育への一切の義務が免除されるわけでなく、非親権者に監
護できないような事態が発生したときには、親として監護養育を引き継ぐ可能性も存在し、そのためにも親子の最
低限の接触や交流は認められなければならない。確かに、父母の離婚をめぐる対立葛藤が激しい場合には、子に対
しても夫婦間での憎悪の感情が持ち込まれ、親と会うことそれ自体が子のストレスとなり、子の精神的安定にかえ
って有害な結果となることもありうる。しかし、面接交渉が子の利益にならないというときには、これを制限して
ゆけばよく、権利性を全面的に否定する必要はないと思われる。少なくとも、面接交渉の一般的抽象的な権利性は
︵27︶
認めつつ、具体的な日時、場所、実施方法、回数等を含めた具体的な権利の内容は、協議、調停等で形成されると
考えればよいのではなかろうか。積極説では面接交渉権の法的性質をめぐり、基本的に親の権利とみるか、子の権
利としてアプローチするかの対立はあるが、その実定法的根拠は民法七六六条一項、二項、家事審判法九条一項乙
類四号に求め、当事者間の協議または子の監護に関する処分事件として家裁での調停審判に委ねられることに異論
はない。したがって、問題の焦点は、実際にどのような条件のもとで、どのようにして具体的な面接交渉を実施す
べきか、また、面接交渉は当事者の協議や家裁の調停によって定められるべきか、もし協議ができず調停も成立し
ないとき家裁の審判で決定されるべきかという、いわゆる面接交渉の許否基準、面接交渉の具体的実施方法、面接
子の監護調停の実務指針 三二三
早法七二巻四号︵一九九七︶
︵28︶
交渉の決定手続に絞られてくるであろう。
2 面接交渉の許否基準
三二四
面接交渉の許否基準は、一般的抽象的には子の福祉・子の利益になるかどうかにあるとする点で判例学説に争い
はない。面接交渉の具体的な設定・行使の基準として、①父たりえない者または母たりえない者は面接交渉をなし
えない︵親権喪失事由に該当する父母は面接交渉権を全面的に制限される︶、②非監護親たる父母が扶養能力を有しな
がら子の扶養義務を果たさない場合、子の方から非監護親に対して面接交渉を望む場合を除き、親としての義務を
怠りながら親としての権利行使をすることは許されない、③子や子と監護親との関係に悪影響を及ぼす可能性のあ
る場合、たとえば監護親の悪口や罵言を言ったり、非監護親が子に暴力行為を行うような場合には面接交渉は認め
られるべきではない、④非監護親が子を奪取する可能性がかなり高い場合も面接交渉は認められない、⑤離婚後長
い間子と接触していなかった非監護親が突然面接交渉を申し出たときは、子にどのような影響を及ぼすかであり、
子の年齢が高い場合は子の意思が尊重される、⑥子が非監護親との面接交渉を望まない場合についての取り扱いは
︵29︶
むずかしいが、子の意向を慎重に調査する必要がある、との一応の分析をし具体的設定基準の定立を試みる説が
ある。
実務審判例では、子どもの心理状態、非監護親との面接交渉に対する子の態度、子の監護状況、非監護親の子に
対する態度や愛情、面接交渉に臨む姿勢、監護親の意向などを総合的に考慮した上面接交渉が子の福祉を害すると
判断される場合でなければこれを認めるとの判断基準がとられているといってよい。そして、家裁実務では、具体
的には、面接交渉のプラス面︵審判例は、非監護親の子に対する自然の情愛の尊重、非監護親と子との情緒的交流の維
持、両親の愛情を受けることによって得られる人格の健全な育成と円満な発達などを挙げる。︶と、面接交渉から生じう
るマイナス面︵子の精神的動揺や緊張、情緒不安定からくる学業や生活態度面への悪影響、子の安定した生活の破壊、父
母間の紛争の激化など︶を比較考量して、後者が明らかに大きいときは面接交渉は認められないことになるし、後
︵30︶
者の大きさいかんによって面接交渉の回数や方法がしかるべく制限されることになるという。
3 面接交渉の実情
また、最近の家庭裁判所調査官有志による面接交渉の実態調査の結果、四二%の子が別居親と交流をもち、離婚
しても親が子に会うのは当然という意識が一般に浸透しつつあること、子が小学生の頃が面接交渉になじみやすい
こと、別居している親と子の住居が近いほど交流し易いこと、離婚時に養育費送金の取り決めがあり、収入の多い
親の方が交流しやすいこと、別居開始当時から交流を始めていると、離婚後も交流しやすく、離婚後年月がたつと
交流は減る傾向にあること、離婚原因が非監護親による生活破壊行為にある場合また双方あるいは一方の親への不
信感がある場合は親子の交流はしにくいことなどの傾向がみられたという。そして、面接交渉は家事調停のプロセ
スの中で合意により取り決められる傾向にあり、合意ができなければ無理に説得して形のみ整えることはしないと
し、調停にあたっても、双方が相手の環境を考えながら連絡を取りあえる人達で、養育・教育方針に大きな差がな
く、人生観・価値観に著しい違いのない人達かどうか等を含む面接交渉の可能性をじっくり考えること、子の二ー
ドを考えるよう早期に面接交渉のガイダンスをすること、事前連絡をきちんと行い、約束は守るなど他方に不安や
子の監護調停の実務指針 三二五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三二六
不快感を与えないようにさせること、調査官を活用して当事者の個別面接、子の意向や環境を含めた家庭調査をす
べきことなど面接交渉を成功させ継続させるためのアドバイスをしているのがじつに示唆深い。
︵31︶
また、家庭問題情報センターが平成六年一一月から平成七年九月まで実施した東京での﹁子どものいる夫婦の離
婚﹂というセミナー参加者のアンケートの結果でも、父母が不和または離婚により別居した後、約五〇%くらいの
別居親が子どもと面会交流を行っており、回数が月一回以上が四分の三を占め、週一回以上も二〇%くらいいたと
いう。もちろん、サンプル数が四八名と少ないこと、離婚後の子の問題に関心がつよいグループであることなどの
特殊性があり、ただちに一般化できないかもしれないが、面会交流が定着しつつあることはうかがえる。しかし、
面接交渉を強く別居親が望みながら、同居親の反対のために会えないとか、面接交渉を実施しているものの、別居
︵32︶
親へのこだわりが解消できず、喜んで子どもを送り出せない負担感がつきまとい、親の心理的葛藤の処理や調整が
子の面接交渉の援助で重要であるとの提言がなされている。
方と身上監護権者とは、子と他方との関係を侵害したり教育を阻害したりする一切のことをしてはならない。﹂と規定して︵一六
︵13︶ ドイツ民法でも﹁身上監護が帰属しない父母の一方は、子と個人的に交流する権限を有する。身上監護が帰属しない父母の一
。R這寧
きにのみ、制限や排除が許されると定めた︵一六三四条二項︶。く覧評一き舞ω自鴨益oぽω○①器9ぼ魯ぴ。︾亀一。ωψまc
三四条一項︶面接交渉権の権利性を認め、その具体的範囲や方法は家庭裁判所が決定できるものとし、子の福祉のため必要あると
ドイツについては、岩志和一郎﹁ドイツ民法における離婚後の面接交渉と子の意思﹂﹃現代家族法の諸相﹄一三五頁以下︵︸九九
三年︶に詳しい。なお、石川稔﹁西ドイツ新監護法における子の監護﹂ケース研究一八七号一〇頁︵一九八一年︶、木暮英夫﹁西
ドイツ新監護法﹂国学院法政論叢三輯一入∼一九頁︵一九八三年︶等参照。フランスでも、訪問権は判例により認められてきた
は血縁関係にもとづく自然権であるとされる︵山田美枝子﹁離婚後の子の処遇をめぐる比較法的考察﹂法学政治学論究︵慶応義塾
が、一九七〇年法、一九七五年法によって明文の規定が置かれた。訪問権は父母のみならず、祖父母等にも認められ、権利の基礎
によるのでなければ拒否されえない︵二八八条二項︶。なお、詳しくは田中通裕﹁フランスにおける訪問権︵RO津号く巨器︶﹂法
大学大学院︶一四九頁︵一九九一年︶。親権単独行使の場合の非行使者たる親に認められる訪問および宿泊の権利は、重大な理由
頁以下︵一九八入年︶等参照。
と政治三二巻一号一五三頁以下︵一九八一年︶、石川良雄﹁フランス判例における訪問権について﹂家庭裁判月報四〇巻四号二四
みても、一緒に暮らしていない親との継続的な交流や接触は、子の長期的な精神的成長や健やかな発展に寄与するところが大きい
イギリスでも、監護命令の一つとして非監護親に子に対する合理的な面接交渉︵お霧○轟巨Φ節8①ωω︶が認められ、子の側から
一事件で控訴院は、合理的な面接交渉は親の権利ではなく、子の権利︵夢①吋蒔算OP冨魯ま︶と説示した。同時に控訴院は、面
といわれる︵℃09吊び、、>8Φωω80窯露おp.、旨①ω○一置8吋、ωぢ弩轟菖○。ω︵8︾R=お○。Ny︶。そのため、]≦く﹂≦。口鶏呂N︾=団因
接交渉が排除されたり制限されるのはそれが子の利益となるという特別の事情がなければならず、そうでないかぎり、いかなる裁
判所も親から面接交渉を奪うことはできないとも説示した。の禽閃8R巴辱ω①畠PO﹃ま鍔名薯﹂ミし一認︵お・。。︶・一九八九年の新
い︶と子が電話や手紙による文通、訪問、滞在等の交流をすることを命じる交流命令︵8旨蝉90&段︶を下すことができるもの
児童法でも、裁判所は、子の福祉を至高の考慮事項として、子と起居をともにする親に対して、他方の親︵必ずしも親に限られな
とした︵ω①①頃匙俸霞○長8P>O巳889Φ○呂痔窪︾9這。。。も﹄一︵お8ご卑窪量鵠oお騎①夢評8暮ω餌&O琶象①PP。。
︵奪げa・這器︶■︶。最近のイギリスについては、菊地和典﹁面接交渉・その困難性と履行促進の方策ーイングランド・ウェールズの
場合1﹂ケース研究二四六号一三頁以下︵一九九六年︶に詳しい紹介がある。イギリス児童法については、許末恵﹁英国一九八九
については、統一婚姻及び離婚法︵q巳噛9B鼠餌霞壁鴨きΩUぞa8︾8四〇七条で訪問権についてつぎのように規定する。﹁@
年児童法についての一考察﹂神奈川工科大学研究報告A人文科学編一七号六七頁以下︵一九九三年︶等に詳しい。アメリカ合衆国
子の監護権を付与されなかった親は、合理的な訪問権︵お霧○轟亘Φ≦降簿δpユ讐琶を有する。ただし、裁判所が審理の後当該
訪問が子の肉体的精神的道徳的情緒的健康に重大な危険を招来すると認めるときは、このかぎりでない。㈲裁判所は、命令の変更
が子の最善の利益になるときはいつでも訪問権を認める命令または訪問権を否定する命令を変更することができる。裁判所は、訪
・ ︵ω﹃α①2霧︶・
9蓉召多男一>畠善穿。鋸︾。同貿。遷︾¢舅じ身z。。冨︵一。。・刈yぎ穿>頚評葺曜﹃ヨz>2霧臣F。 。一。
問が子の肉体的精神的道徳的情緒的健康に重大な危険を招来すると認めた場合でなければ、親の訪問権を制限してはならない。﹂
なお、英米の面接交渉権については、野田愛子﹃家族法実務研究﹄二五四頁以下︵一九八八年︶参照。
子の監護調停の実務指針 三二七
。
。。
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三二八
東京家審昭和三九・一二・一四家庭裁判月報一七巻四号五五頁。
最判昭和五九・七・六家裁月報三二巻九号八三頁、判例時報三﹃三号七九頁。
名古屋家審平成二・五・一一二家裁月報四二巻一二号五一頁、五四頁。
東京家審昭和六二・三二三家裁月報三九巻六号五八頁、六二頁。
たとえば、京都家審昭和五七・四・二二家裁月報三五巻九号﹃〇五頁、東京高決平成二・こ二九家裁月報四二巻入号五七頁
民法七六六条.家審法九条一項乙類四号とするが、岡山家審平成二二二・三家裁月報四三巻一〇号三八頁は、民法七五二
交渉権﹂日本福祉大学研究紀要四二号九九頁︵一九八O年︶、佐藤隆夫﹃離婚と子どもの人権﹄二〇頁︵一九八入年︶、山田美枝
︵23︶ 国府剛﹁面接交渉権の制限と憲法一三条﹂﹃家族法審判例の研究﹄一四九頁︵一九七一年︶、稲子宣子﹁子の権利としての面接
権﹂﹃現代家族法大系二﹄二五二頁︵一九八○年、久貴・﹃親族法﹄二一九頁︵一九八四年︶、浦和家審昭和五七・四・二家裁月報
三五巻八号一〇八頁等
二号一一九頁︵一九七一年︶、沼邊愛一﹁子の監護をめぐる諸間題﹂家裁月報二五巻四号一六頁︵一九七三年︶、田中實﹁面接交渉
︵22︶ 久貴忠彦﹁面接交渉権覚書﹂阪大法学六三号一一七頁︵一九六七年︶、高橋忠次郎﹁子の監護と面接交渉権﹂ジュリスト四七
性について﹂前掲書︵前注︵B︶︶二七五頁。
報四一巻九号一四三頁︵一九六九年︶、川田昇﹁面接交渉権﹂﹃民法の争点1﹄二二〇頁︵一九八五年︶、野田﹁面接交渉権の権利
い親の面接交渉権﹂同志社法学一一〇号五五頁︵一九六九年︶、中川淳﹁離婚後親権を行わない父母の一方の面接交渉権﹂法律時
︵2
1︶ 山本正憲﹁面接交渉権について﹂岡山大学法経学会雑誌一八巻二号一八五頁︵一九六七年︶、佐藤義彦﹁離婚後親権を行わな
︵20︶ 明山和夫﹃注釈民法︵23︶親族︵4︶﹄七五頁︵一九六九年︶、東京家審昭和三九・二一・一四前掲。
を親の憲法上の基本的権利とする。
等。棚瀬孝雄﹁離婚後の面接交渉と親の権利︵上・下︶﹂判例タイムズ七一二号四頁、七=二号四頁︵一九九〇年︶は、面接交渉
裁月報二二巻三号七七頁、大分家中津支審昭和五一・七・二二家裁月報二九巻二号一〇八頁、東京家審昭和六二・三・三一前掲
八.一四家裁月報二〇巻三号六四頁、大阪家審昭和四三・五二天家裁月報二〇巻一〇号六八頁、東京家審昭和四四・五二一二家
︵19︶ 森口静一匪鈴木経夫﹁監護権者でない親と子の面接﹂ジュリス上三四号七五ー七六頁︵一九六五年︶、東京高決昭和四こ・
条・家審法九条一項乙類一号とする。
は馨9過芭超
子﹁現代離婚法の課題としての子の権利の保障﹂法学政治学論究一一号一一五頁︵一九九一年︶。
﹁離婚後の子の監護−面接交渉と共同監護の検討を中心としてー﹂﹃家族法改正への課題﹄二五六頁︵一九九三年︶、山脇貞司﹁離
︵24︶ 石川稔﹁離婚による非監護親の面接交渉権﹂﹃家族法の理論と実務﹄別冊判例タイムズ八号二八六頁︵一九八O年︶、棚村政行
婚後の親子の面接交渉﹂﹃ゼミナール婚姻法改正﹄二六二頁︵一九九五年︶、山口國夫﹁面接交渉権﹂﹃二一世紀の民法﹄︵小野幸二
き、子の監護義務を全うするために親に認められる権利である側面があるとともに、人格の円満な発達に不可欠な両親の愛育の享
教授還暦記念︶四五〇頁︵一九九六年︶。なお大阪家審平成五・ニマニニ家月四七巻四号四五頁は、面接交渉権の法的性質につ
受を求める子の権利としての性質も有するとの立場をとる。
︵25︶ 梶村太市﹁子のための面接交渉﹂ケース研究一五三号九四頁︵一九七六年︶、島津一郎﹃親族・相続法﹄一〇三頁︵一九八○
年︶、鈴木禄弥n唄孝一﹃人事法1﹄二二頁︵一九八○年︶。なお、梶村太市﹁﹃子のための面接交渉﹄再論﹂﹃一二世紀の民法﹄
批准との関係でも、子の情緒的安定を害するという抽象的な理由で一切認めないという運用は許されないが、あえて実体法上の権
︵小野幸二教授還暦記念︶四二五頁︵一九九六年︶以下では、面接交渉の審判を申し立てる手続的権利はあり、子どもの権利条約
利とまで言う必要はないとされる。
︵26︶ 有地亨﹃家族法概論﹄二四〇頁︵一九九〇年︶等。
︵27︶ 若林昌子﹁離婚後の面接交渉権その一﹂﹃講座現代家族法第三巻親子﹄二二六頁︵一九九二年︶は、抽象的面接交渉権と具体
定しても、子の利益にならないときは制限されるわけであるし、権利性を否定して調停条項にした場合その効力が疑問だとされ
的面接交渉権に分け、協議・調停による形成が望ましいが、家裁による審判によることも認める立場にたつ。そして、権利性を肯
る。
︵29︶ 石川・前註︵24︶所掲論文二八八頁。
︵28︶ 棚村・前註︵24︶所掲論文二四〇頁。
︵3
1︶ 寺戸由紀子﹁離婚後の面接交渉権その二﹂﹃講座現代家族法第三巻親子﹄二四三頁∼二六五頁︵一九九二年︶。なお、谷川克闘
︵30︶ 佐藤千裕﹁子の監護事件における面接交渉﹂家裁月報四一巻八号二一二頁注︵15︶︵一九八九年︶参照。
篠田悦和﹁子の親権・監護をめぐる紛争処理の実情と課題﹂家族︿社会と法﹀二号九九∼一〇二頁︵一九八六年︶は具体的に離婚
後における親子交流の条件を提示しているが、面接交渉・共同監護を含む離婚後の親の監護責任法を形成するうえできわめて有益
子の監護調停の実務指針 三二九
早法七二巻四号︵一九九七︶ 一二一二・﹂
︵3
2︶ 爪生ロ山口・前註︵8︶所掲論文一〇頁以下。
である。
所の調停者︵8二辞BΦ島簿○邑の資格として、心理学、ソーシャル・ワーク、結婚・家族カウンセリング、児童カウンリング等
参考までに、アメリカにおける子の監護調停と調停者の役割について触れておきたい。たとえば、カリフォルニア州では、裁判
上の実務経験を有することが要求されている︵9﹃ρく●雰99目吻嵩ホ︵詣Φ馨ω8Pお3︶︶。ミディエーターには、家庭問題の
の行動科学の修士号、児童発達、児童虐待、精神病理などとカリフォルニア州の家族法や司法制度についての知識を有し、二年以
調停援助者としてこのような最低限の資格が定められているが、調停手続での調停者の役割の重要性を考えると、これでさえも決
二五日に同委員会は、子どもの監護紛争の調停者のための倫理コード、事件処理の均一性を維持するための知的基礎︵知識︶、援助
して十分なものではない。そこで、カリフォルニア州では、裁判所の調停者のための資格認定委員会が設置され、一九八四年三月
技術などを報告書にまとめ勧告した。これらは、調停者の資質や援助介入技術の水準が実際の調停の成功不成功に大きな関係をも
つことを前提としている。以下、概略のみを紹介する。まず、倫理コードの前文︵ギ$ヨ霞Φ︶として、
1 調停者は、すべての人間の個人の尊厳、価値、自己決定権︵匡讐茸o器〒α9R邑p呂9︶を信頼する。
2 調停は、公正な第三者が当事者たちの同意にもとづいて紛争に介入し、紛争の対象となっている問題の納得のいく解決のた
3 調停は、目標志向的︵αQO巴6践①算9︶である。調停は、仲裁、鑑定評価、裁判、治療とも異なる。当事者たちは、これら
めの交渉を援助する紛争解決手続である。
の手続の区別や他の解決手段をとりうる権利があることを知らされなければならない。調停者は、当事者に調停手続の範囲
及び限界を伝えなければならない。
4 調停は、ダイナミッタな社会での変化する個人の二ーズに対して柔軟かつ適合的なアプローチである。
する責任をもつ。調停者は、当事者の紛争解決を援助するに際して、学際的なアプローチでのぞまなければならない。
5 調停は、資格ある専門家すべてに開かれた特別な専門的技術の領域である。調停者は高度な職業倫理基準にしたがい実践を
6 調停者は、つねに高度な能力を維持する責任を承認しなければならない。
の倫理コードとして、公正中立性︵囲ヨ冨岳呂昌︶、秘密保持︵Oo菖こ窪猷巴一蔓︶、調停手続の目標︵08一︶1調停者が初回
7 調停での合意は裁判所の適切な法的基準にしたがって、取り決められなければならない。子どもの監護紛争のための調停者
期日に調停手続について説明し、調停の目標が関係者すべての最善の利益になる合意をめざす、とくに子どもたちの最善の
利益はなにかを主たる考慮事項とすることを明らかにする、回付︵襯8惹一︶ー調停者は調停手続の進行や履行の確保のた
い、研修と教育︵↓3巨轟きα閃身8試8︶1調停者は調停手続に関連する技術、知識、情報をつねに向上させる責任を
め心理的、教育的、医療的財政的、法的措置が必要な場合には、いつでも適切な専門家や専門機関に回付しなければならな
為をしてはならないなどの厳格なコードを定める。また、確認されるべき知的基礎及び技術能力として、たとえば、法律的
有する、不正︵一ヨ虞o寝冨昌︶1自己の地位を濫用して不相当な利益を得てはならない、利益相反や職業倫理に違反する行
の監護に関する裁判例、家庭内暴力や性的虐待に関する法律や手続、さらに、家族の動態的把握の視点から、結婚離婚にお
には、子どもの監護訪問に関する法律、調停手続、家庭調整裁判所、離婚や子どもの監護をめぐる司法手続、離婚や子ども
ける個人、夫婦、家族のライフ・サイタル、家族問題、家庭生活に関する社会的文化的要因、子どもの生活における拡大家
響、子どもの監護や養育についての選択肢、離婚後の家族再編成の諸段階、離婚した親と継親との葛藤、再婚家庭の特色と
族のメンバー、介入に対する折衷的アプローチ、大人にとっての離婚の感情的段階、子どもに対する親の別居や離婚の影
の親の養育プランと子どもへの影響調査、成人の発達、離婚の影響、調停のために紛争解決︵08旨9ω因89旨一9︶理論、
実情、家庭内暴力、児童の発達︵子どもの年齢に応じた特色と行動、子どもの発達に対する父母の役割、さまざまな離婚後
こと、怒りを処理すること、訴訟のコストや調停のメリットを強調すること、創造的な解決の選択肢をイメ⋮ジさせるこ
交渉技術、コミュニケーション理論、危機介入技術︵9醒ω冒8宅①暮凶8↓①畠乱ε8︶、調停者の技術として、信頼をうる
と、コミュニケーション技術︵よく聞くこと、明確にすること、的確に質問すること、意味論や言語の活用︶、自已認識と
衡、ストレスの減少、危機管理、診断評価技能、合意の起案など広範な点検、チェック項目をならべている︵ω接R、冒畠−
対向転移︵分析者が治療中に自分の抑圧された感情や願望を患者に向けること︶、現実に焦点をあてたテクニック、力の均
ρ乞○●G。︶零−認︵一〇〇。㎝y︶。
三三一
の・pω①葭欝p閃①鼠。犀︶=。<ω①冨pO巽gp節ぎ一冨拝韓ミミし。躰§§ミGり誉\Gミ“−9§ミ&ミ§§声ω罫舅↓一・z
子の監護調停の実務指針
早法七二巻四号︵一九九七︶
三 子の監護調停の実務指針
三三二
まず、従来の﹃改訂家事調停備忘録﹄、﹃家事調停実務のポイント﹄などとアメリカでの実務指針を参考にしなが
ら、家事調停一般に共通する部分と面接交渉に特有の部分に関し、以下のような一応のマニュアル作りを試みた。
1 調停委員による導入的説明︵調停の趣旨説明︶
当事者のほとんどははじめて調停を経験するため、調停がどのような制度で、裁判とどのようにちがうのか理解
していないことが多い。その結果、裁判所に呼び出されて、﹁裁かれる﹂というイメージがつよく、かなり緊張し
先入観をもってしまっている。かりに、調停委員のほうから簡単な説明を受け、このような紛争解決方式について
知ったあとでさえ、多くの人は調停について不安を感じたり、はたしてうまく話合いが進むのか、自発的な合意で
紛争が解決できるか自信をもてない状態にある。そのため、最初の段階での調停委員による導入のための説明と話
し合いの雰囲気作りがきわめて重要な意味をもつ。導入のための説明の目的は以下の点にある。①当事者たちに調
停がどのように行われるかを説明すること、②対立する当事者たちに緊張をほぐして気楽な気持ちになってもらう
こと、③自分たちの問題を自分たちで解決することができるという自信をもてるよう援助すること、④合意が成立
した場合に当事者たちだけが合意を実効的にできるということを認識してもらうことなどである。オリエンテーシ
ョンは、当事者に調停という場をうまく活用してもらい、共同作業を進めるうえで大切な役目を果たす。
ω 調停導入のための雰囲気作り
そのため、初回に留意すべきことは、最初に当事者たちに会うとき、打ち解けた感じで友好的に接すること、当
事者の一方や代理人と親しそうにしすぎて不公平感を抱かれないようにすること、時間を厳守し一〇分前くらいに
︵33︶
は調停室にいるようにすることなどが指摘される。ちなみに、ロサンゼルスの研修用マニュアルでは﹁自己紹介を
したら握手して、相手さえ受け入れてくれればファースト・ネームで呼び合うようにしたらどうか﹂と勧めて
転罷・日本では当事者に調停委員の氏名を明らかにすべきでないといわれる。しかし、事件手控えに出頭の確認で
当事者に署名してもらうとき、調停委員の印鑑が捺してあるためそれで委員の姓を知ったり、最終的に調停が成立
すれば調書に調停委員名も記載され、早晩調停委員の氏名は明らかになろう。調停委員がコ・・、ユニケーションの促
進役としての役割を果たすべきものなら、せめて、姓くらいは名乗ってもいいのではなかろうか。ロサンゼルス郡
の研修用マニュアルでは﹁近くにソフトドリンクでもあれは、これを勧め、気楽な気持ちになってもらい、調停の
︵35︶
期日には当事者たちの﹃しあわせ﹄に関心があることをつねに示しなさい﹂となっている。
ω 調停制度の趣旨説明
調停制度のあらましを伝える場合に、裁判との相違点を明らかにしつつ、以下のような簡潔な説明がよいと思わ
れる。①裁判所とはいっても、普通の裁判とちがって、当事者双方の言い分を裁判官や調停委員が聞いて白黒をつ
けるものではないこと、②あくまでも、公正中立な立場で裁判所、調停委員が間に入り、当事者双方の話し合いに
よる円満な解決をめざすこと、③当事者自身が思っていること、考えていることを自由に言い、納得ができるまで
話し合いをもつこと、④調停の席で話したことの秘密は守られ、後で不利になったりプライバシーが漏れたりしな
子の監護調停の実務指針 三三三
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三三四
いこと、⑤調停は、双方の譲り合いの精神で解決を図るが、内容が法律にかなっていることも必要で、足して二で
割るようなものでないこと、⑤もし、双方に合意ができ調書に記載されると確定した判決と同じ効力をもつことな
どを説明する。
︵36︶
ロサンゼルスの研修用マニュアルでは、﹁紛争解決のための訴訟に代わる手続として、調停を選択するための積
極的意見を提供しなさい。むずかしい専門用語を使わず、できるだけ簡潔に調停というものがどういう仕組みかを
説明する。調停の任意的性格といかに当事者が主役で主体であるかを強調しなさい。当事者たちに調停期日で言わ
れたことは全部秘密が守られ、裁判や訴訟で不利に扱われないことを明らかに説明しなさい。当事者たちの感情的
対立が激しかったり、開きがありすぎて調停が行き詰まったときは各当事者と別々に話し合う可能性があることを
確認する。調停者は、あくまでも中立の立場であり、一方の立場を擁護したり弁護する立場にないこと、合意を強
︵37︶
制する裁判官や警察官でもないことを確認しなければならない。﹂と同様の配慮をしている。
⑥ 調停の進行方法、各当事者への時間配分等
今後の調停の進行の仕方、各当事者の時間配分、合同対席面接方式か個別単独面接方式でいくかなど、当事者た
ちの意見や希望を聞きながら、当事者が解決の主体となって積極的に参加するように働きかけることが必要であろ
う。なお、意見を徴する場合も、発言の多い一方に偏ることなく、発言の少ない当事者に対しても、意見が言える
よう促すなど、バランスをとる役割も調停委員としては重要である。
当事者たちによる最初の事情説明
2
ω 当事者による事情説明を聞く目的
初回の当事者たちの事情説明の目的は三つある。①当事者それぞれが紛争につきどのように見ているかを説明す
る機会を与えること、②当事者それぞれに相手方の紛争の見方を伝えること、③調停委員や裁判所に紛争の性格や
当事者たちの関係を十分知らせること。
この手続段階での重要性は、調停委員が、当事者たちに最初の事情説明をする目的を理解させ、調停委員自身が
積極的に耳を傾ける技術を使い︵︾&話ロ器巨轟ω巨一ω︶、一定の基本ルールを示すことにあるといってよい。ま
ず、対席面接方式による場合には、各人が相手の話をさえぎることなく、十分に話しができ、相手方は注意深く聞
きメモをとするように調停委員が促してはどうか。個別面接方式では、多少、冗長でもできるだけ当事者の言いた
いことを積極的に聞くよう努めるべきであろう。調停委員は、あくまでも、話を聞くことに徹し、本人の言うこと
を整理しつつ必要な範囲でのみ質問をすることが肝要と思われる。
調停委員は、紛争の範囲、これまでなされた合意の範囲、紛争当事者たちの相互関係、表明される感情、当事者
たちの力関係の性質、採りうる選択肢を検討するに際しての当事者の柔軟性などに注意しておかなければならな
い。合同対席面接方式を原則とする場合には、﹁どうしても、最初の事情説明の段階で、強い感情的不満や異論が
表明され、相手方は途中から話しを中断させざるをえない場合もでてくる。このような中断や妨害への対策として
五つの方法がある。①当事者に邪魔しないよう求める、②妨害する当事者から椅子を離してみる、③手続を中止し
て妨害しないことの重要性と理論的根拠︵自由な話し合いコミュニケーション︶につき十分話し合う、④それでも妨
害が続くときは、妨害する当事者とだけ話し合い、相手方を含む双方の話を十分に聞くことの重要性を訴える、⑤
子の監護調停の実務指針 三三五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三三六
その当事者に、明らかにすべきポイント、付け加えるべきこと、争うべきことを注意してメモしてもらうよう求め
︵38︶
る。﹂以上が、対席面接方式を原則とするロサンゼルスでの実務上のポイントとして指摘される事項である。
③ 事情説明と事情聴取との違い︵対審構造の手続にならないために︶
これまでは、裁判所による事情聴取ということで、まず申立人側から、①氏名、住所、年齢︵生年月日︶、職業、
学歴などを聞き、つぎに②申し立ての趣旨、事件の経過、紛争の実情、事件の解決方法についての意見などについ
て述べてもらい、それから③相手方の年齢、氏名、職業等の確認、④相手方から申立人の主張に対する答弁、相手
方の事情、事件解決への意見述べてもらうことになっていた。しかし、気をつけなければならないのは、導入説明
︵39︶
で、裁判とのちがいや話し合い重視と言っておきながら、事情聴取のやり方いかんで、警察の﹁取り調べ﹂のよう
に圧迫感を与えないともかぎらない。そのため、調停委員の役割は、当事者が事情の説明をし易いように適切な質
問を発することに徹し、決して調停委員主導の当事者追及型の質問にならないよう注意しなければならない。ま
た、迅速で簡潔な説明を求めたい場合でも、当事者が言いたいことを遮ったり、中断させたりすると、当事者の中
には萎縮したり言いたいことが十分に言えなくなったりする者もいる。ロサンゼルスの家庭裁判所のマニュアルは
あくまでも、対席面接方式を前提としているため、直ちに日本に導入できない部分もあるかもしれないが、相手方
の気持ちや立場になって、じっくり話を聞くこと、真意をくみ取り、うまく話ができるよう援助すること、相手方
の要旨やポイントを確認しながら進めることなどは重要であろう。
㈹ 合同面接方式と個別面接方式
日本では、これまでなんとなく個別面接方式が原則とされてきた。したがって、実務上は当事者双方を同席さ
せ、調停に関する一般的説明をし、時間配分などをしたうえで、申立人側から事情を聞き、ついで相手方から事情
を聞いて、双方の主張の一致点と相違点とを確認し争点にしたがって調整を図り、最後に合意がまとまると合同対
席面接方式で締めくくるというのが一般的であった。確かに、個別単独面接方式は、相互の不信感や感情的対立が
激しく、当事者が自由かつ遠慮せずものを言うことができない事情があるような場合には、気兼ねなく当事者が話
をでき、調停委員や裁判所としても真意が聞けるメリットをもつ。しかし、他方で、相手方の主張や事実の説明に
食い違いがでて、些細なことで紛糾しやすく、疑心暗記に陥ったり紛争をさらにエスカレートさせる可能性もあ
る。別々に事情を聞くため、かなり時間がかかり、また、調停委員から相手方の意向や気持ちを間接的に聞いても
ピンとこないケースもある。むしろ、このようなケースでは、多少の摩擦は生じても、当事者どおしが直接コミュ
ニケーションをとることで、自分たちの現実を認識できることもある。アメリカでは、むしろ合同対席面接方式が
原則で、当事者双方が直接相手方の発言や話を聞くことができ、事実の確認もし易く、コミュニケーションの促進
を図るメリットもある。そこで、わが国でも、個別面接方式と合同対席面接方式とを、ケースにより当事者により
柔軟に使い分けていくことが必要ではなかろうか。
なお、個別面接方式を実施する場合、当事者の一方は待っている間、調停委員会のほうから、こういう事情につ
いてお聞きしたいという﹁質問要旨﹂後掲の﹁お尋ねしたいこと︵面接交渉︶﹂の紙を渡し、メモを取りながら考
えておいてもらうというのはどうであろうか。調停の進行を効率化するとともに、当事者にもメモをとってもらう
ということで、紛争解決のため積極参加を促す効果が期待できる。また、待ち時間にメモを書くことで、自分の気
持ちや主張を整理する機会にも使える。
子の監護調停の実務指針 三三七
早法七二巻四号︵一九九七︶
3 コミュニケーションの促進
三三八
すでに互いに反目し合っている当事者にコミュニケーシンを容易にさせようとすることはきわめて困難な作業で
ある。当事者がきわめて感情的になっているため、ちょっとした言葉の使い方で相手を刺激することも多い。有益
な話し合い︵コミュニケーション︶を促進するための示唆として、ロサンゼルスの研修用マニュアルでは、
よく聞くこと︵︾&話口の8三紹︶
問題の立て方を変える︵菊9声邑畠︶、再構成してみること
①言葉
関 心︵Zo薯R3二具RΦ豊 頷いたり、関心あるというゼスチャーをしたり、ほほ笑んだりする
以
外
で
の
と示さなければならない。
双方の見
聞 い て 、 十分に理解していること、あるいは理解しようとしていることを態度ではっきり
方
や
意
見
を
よ
く ニケー シ ョ ン を 促 進 す る た め の 共 感︵Φヨ℃9ξ︶を作る技法といわれる。調停委員として、自分たちは当事者たち
ここで
、 まず第一によく聞くことと問題の立て方を変えることに焦点をあてたい。熱心に聞くことは、コミュ
は 熱心に聞くこと
手続を運営す る ︵ ∪ 冨 & 躍 甚 ① 即 8 霧 ω ︶
︵40︶
現状について披露する︵9巴o巴轟魯o旨跨Φ零8霧ω︶の6項目の留意点を挙げている。
一休みしたり、沈黙を活用する︵評参一鑛Rdω一轟普窪oΦ︶
自由な質問の活用︵d巴轟○℃8出区80まωけご霧︶
(1)654321
ことが含まれる。言葉以外に紛争解決につよい関心と熱意をもっていることを示す必要があろう。ロサンゼルスの
研修用マニュアルでは、調停者による言い直しを非常に重視している。②言い直し︵墨R興野良︶ つまり、当
事者が言ったことを、調停委員が彼らの見方からも見てあげていることがわかるように、自分の言葉で簡潔に表現
し直すことが求められる。③相手の気持ちへの配慮︵ぎ85自頴9茜ωV そして、調停委員は、相手方の気持ち
や感情の動きを配慮し推し量ることをつねに忘れてはならない。④話したポイントを明確に また、当事者が良く
聞いてもらっていると感じるように、話し手の主要な力点に焦点をあてて、言ったことの要点を明らかにする作業
も重要である。⑤要約する 調停委員は、できるだけ、覚え書きを詳細に作成し、事件手控え︵諾曾量︶作成の準
備としてポイントを整理し要約しておくべきであろう。⑥議論したり、モラルを押し付けたり、判断をしたり、忠
告や約束することを避ける 調停委員は、質問することが相手方への威圧と受け止められることがないように、
﹁なぜ﹂というような聞き方でなく、﹁どんなふうに﹂、﹁いつ﹂、﹁何を﹂と相手方が答え易いような聞き方に努める
べきであろう。熱心に聞くことは、調停にとって大切な信頼と率直さを生み出すというのが、ロサンゼルスの研修
︵姐︶
用マニュアルでも強調されている。
⑭ 問題の立て方を工夫すること︵肉駄轟邑轟Hωω奉ω︶
問題の立て方を変えるというのは、問題に対して新しい視点からみるとか、出来事や動機付けについて新しい観
点を与えることをいう。これにはいくつかの方法がある。
㈲合意を強調すること 調停がなされている間、すでになされた合意を力説することはとても重要である。調
停をするという合意に対して、両当事者を褒めて歓迎することからはじめるとよいと言われる。調停を開始するこ
子の監護調停の実務指針 三三九
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三四〇
とへの同意、前回記録の確認と話合われた内容への同意、これまでの合意点などを強調することが次のステップの
ためには重要である。たとえば、﹁現在、お母さんとしては子どもを父親に会わせたくないようですが、プレゼン
トや手紙を渡すことについてはかまわないということでしたね。﹂、﹁いつ、どこで、どのようにして子どもと会わ
せるかという合意はできていませんが、そのための話し合いをするという合意はしたでしょう。﹂︵調停委員︶
㈲対立する問題点に対して積極的に触れる 争いがある問題に対して解決をしうるように肯定的問題を取り上
げることが重要である。﹁父親と会うと高価な玩具を買い与えたり、甘やかすので困る﹂との母親のクレームに対
して、﹁父親に子を会わせることが問題なのではなく、父親の玩具の与え方、父親の会い方に問題があるようです
ね。﹂﹁久しぶりに会う父親は、子どもへの愛情を玩具や食べ物を与えることでしか表現できないのかもしれません
が、これから、節度をもって面接してもらうためのルール作りをしませんか。﹂︵調停委員︶。
@否定形は避ける 解決されるべき問題点に当事者たちが的を絞れるようにする。たとえば﹁あんな母親のも
とで子どもが暮らすのでは、可哀相だ﹂という父親の主張に対して、﹁母親は確かに夫婦問題のゴタゴタでかなり
感情的になっているかもしれません。しかし、もう少し落ち着いてコミュニケーションがてきるようになれば、彼
女は、もっといいところが沢山でてくるのではないでしょうか。﹂︵調停委員︶
⑥一般論や標準化して話す あくまでも、当事者たちの主張にそのまま同調するのではなく、一般論に置き換
えて話を進める。たとえば、母親が﹁あの人は、子どもに﹃母親は非常識な人間で﹄﹃妻として失格だ﹄などと悪
口を言って、子を混乱させる。﹂と訴えるのに対して、﹁あなたが憤慨する気持ちはよくわかります。もし、子ども
からそんな話を聞いたとしたら、皆さんいい気持ちはしないでしょう。﹂﹁子どもに親の悪口や片方の人格攻撃をす
ることがないよう、お互いに気をつけないといけませんね。﹂︵調停委員︶
㈲基礎にある意思を肯定的に再編する 当事者たちが問題を解決したい気持ちであることに焦点をあて、肯定
的に双方の立場を言い直す。たとえば、﹁あなた方がこの問題で争ってきたことはわかっていますが、これを進ん
で解決したいと思っていることも良く知っていますよ﹂。﹁あの人は、いつも口先ばかりで調子がいいんです。子ど
ものためと言いながら、子どものことなんか本当は全く考えていません。﹂という母親の主張に対して﹁あなたが
望んでおられるのは、子どものために父親に誠実に行動して欲しいということですね。﹂﹁それでは、父親に本当に
子のためになるようきちんと協力してもらいましょう。﹂︵調停委員︶。
あるいは、父親が子どもを可愛がらないため、面接交渉させる必要がないと母親が主張するケースで、﹁自分ひ
とりだけで、子どもの世話教育すべてをやろうと考えているでしょう。だけどへあなたにも父親が本当に良いお父
さんになれて、子どもたちとのいい関係を築けるよう支援してやる大きな責任がありませんか。﹂︵調停委員︶
要するに、問題の立て方を変えるというのは、当事者たちが新しい目で紛争の実相を見れるように援助すること
であるといってよい。
⑥ そ の ほ か の 有 益 な 方 法
㈲自由闊達な質問 話合いが停滞したり、行き詰まったとき、調停委員がする質問が抽象的で一般的なもので
あると、なかなか答えがかえってこない恐れがある。たとえば、﹁離婚後の親子関係についてどう考えています
か。﹂とか、﹁子どもの最善の利益とはなんですか﹂などの一般的質問では、かえって答えにくい。﹁休みの日にお
子の監護調停の実務指針 三四﹂
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三四二
父さんは、子どもとキャッチボールやサッカーをすることがありましたか﹂﹁夏休みには、家族で一緒に旅行に行
くことがありましたか﹂﹁そのときは、どんな風でしたか。子どもはどんな感じでしたか。﹂など具体的でしかも、
自由に答えられる質問をしたほうがよい。二つに一つを選択させるような質問の仕方は適切ではない。自由に答え
られる質問のほうが、当事者から多くの生の情報を引き出すことができる。
㈲一時的に休んだりする ﹁沈黙は金なり︵望窪8。き幕讐崔聲︶﹂という格言にもあるように、一休みする
ことで、コミュニケーションを促進することもある。ときには重大な局面に達したときには、少々の時問をおくこ
とも必要なときがある。調停委員は、決して焦らず、当事者を﹁急かさない﹂よう配慮する必要がある。激しいや
り取りの後、当事者に喫煙室で一服するとか、水やお茶を勧める余裕があってもよいかもしれない。
◎手続を運営し指示する 調停委員は、あくまでも調停の結果を決定したり管理するわけでなく、調停の進め
方や運営をまかされているにすぎない。当事者の一方がしゃべりすぎている場合、他方にも話をするよう促すと
か、話しがし易いよう仕向ける役割がある。一つの話題が解決しそうもないときは、取りあえず別の話題に移るこ
とも必要であろう。
@行き詰まった場合の開示 いろいろな経験について披露したり、現状を率直に明らかにすることが、コミュ
ニケーションの困難を解消するうえで役立つこともある。当事者が重要な点で相譲らず混乱したり暗礁に乗り上げ
たときは、調停委員は率直に平行線にあり調整が困難な状態にあることを伝えたほうがいい。行き詰まりを率直に
明かす必要がないと思えば、休みをとることも考えられる。
4 覚え書き︵9ゆσq雪盆︶の作成
カリフォルニア州のマニュアルのように、当事者たちが最初に話をしている間、調停委員は、当事者たちから提
起されたすべての事実に関する問題、感情的問題、細かい派生的問題を書き留めるようにすべきである。そして、
言い終わったら、調停委員は、当事者に協力をお願いして、共通の覚え書き、話し合いの対象となって、調停で解
決すべき問題点の一覧表を作成したらどうであろうか。覚え書きは、当事者たちの今後の交渉を組み立てるときに
ひじょうに役立つ。この覚え書きは、新しい問題が起こり、挙げられた問題が重要でなくなったり、もはや争いが
なくなったときは、調停の進行に合わせて訂正されることになる。覚え書きの作成中、調停委員の役割は、調停で
解決されうる問題と他の方法で処理されるべき問題を区別して当事者に熟慮させることであろう。調停委員は、当
事者たちが覚え書きの作成に積極的に参加するよう促したらよい。ロサンゼルスでの研修用マニュアルによると、
覚え書き作成手続で、調停委員が留意すべきガイドラインは以下のとおりである。
i 二人の積極的な参加を促すために、当事者の面前で紙片、または黒板に、覚え書きの項目の概要を書く。
2 当事者たちが問題点を明確にし、解決すべき問題の優先順位を決められるよう援助するにつき積極的役割を
果たす。
3 可能なかぎり、覚え書きの事項が当事者双方の共通の関心事であることを中立かつ穏やかな言葉で表現す
る。
4 当事者たちにとって重要なすべての問題、派生的問題も全部取り上げる。
子の監護調停の実務指針 三四三
5 覚え書きの事項として、﹁コミュニケーションの改善﹂を具体的な言葉で話し合い解決すべき問題に含める。
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三四四
6 以下のことを考慮しながら、覚え書きの事項の優先順位をつける。
@当事者たちの緊急の二ーズ
㈲もっとも簡単に解決でき、当事者たちが早期に合意や解決感を味わえる問題
⑥その問題の解決が他の問題の解決に有益である重大かつ中心的問題
⑥一方にとって重要な問題とされることを話し合い、ついで他方の重要と思う間題に移る
7 事者たちが潜在的な問題について今後の話し合いや交渉をする間、後に覚え書きに追加されたり、単独個別
面接で論ずる問題にも注意する。
︵42︶
8 当事者たちの話したい問題点の表明に対して積極的な後押しをしてあげる。
子との面会交流で重要な問題となりうるのは、後掲の﹁お尋ねしたいこと︵面接交渉︶﹂での子の心身の状況︵健
康、精神状態、発育状況︶、子の生活歴︵出生時の状況、過去の家庭状況等︶、子の現在の生活状況︵家庭、学校、友人、
地域社会︶、子育てのプラン︵監護の実績、交流の実績、教育的関心、配慮等︶、面会交流をめぐる双方の希望︵可能
性、時期、回数、具体的方法、条件等︶であろう。これに、別居や離婚に伴う家族関係の変化︵再婚や養子縁組等︶、
養育費や婚姻費用の分担、離婚給付の支払いなどが複雑に絡んでくる。当事者が問題にしたい事実上の問題点、こ
れに関連する法律上の問題を整理し区分することが調停委員には何よりも求められる。
5 調停合意の形成︵Oo昌8号σq︶
合意形成の目標は、自主的な紛争解決手続として、 調停をしましょうと当事者たちが自発的に合意し、合意した
基本的な調停運営のルールにしたがうことであろう。最初のガイダンスの段階で調停委員は、調停がどのようなも
ので、調停手続の基本的ルールを十分説明し、当事者たちが十分納得して調停手続に参加できるようにしなければ
ならない。
調停について明確にされるべき基本ルール
①調停は任意のものである。当事者は手続をいつでも中止したり、提案された妥協案や合意案を受け入れることも
できるし、拒否する権利もあることが明らかにされていなければならない。当事者が主役で、いつでも﹁ノー﹂と
いえる権利をもっている。調停委員の中には、審判との連続性、移行を背景に権威的に合意を迫る向きもあると聞
く。しかし、調停委員に、合意を強制したり押し付ける権限はないことは、最初にきちんと説明しなければならな
い。
②調停委員は中立でなければならない。調停委員は、公正中立な立場で、コミュニケーションを促進し、当事者た
ちの感情に流された問題提起に含まれる問題点を析出し明確にする技能を備え、当事者双方の利益が考慮されるよ
う手続を運営しなければならない。
③調停は誠実な交渉の場である。信頼の基礎は、両当事者が誠実であり信用できると感じられることにある。この
ことは、紛争に関連する重要な情報を完全かつ誠実に開示することを要請している。そのためには、重要情報の共
有と開示が不可欠である。また、調停委員は、誠実かつ率直に話し合いが進むようコーディネーターとならなけれ
ばならない。
④調停では秘密が守られる。調停でなされたいかなる話も、後の手続で一方に不利に使われたり、外部に漏れたり
子の監護調停の実務指針 三四五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三四六
することはない。調停委員は、すべての当事者の同意がないかぎり、調停の席で知り得た情報を漏らしてはならな
いし、たとえ、裁判になっても一方のために証人として法廷で証言することはすべきではないだろう。もちろん、
裁判所が真実発見のために必要で、かつ証言が必要不可欠と判断した場合はこのかぎりではない。
︵43︶
⑤当事者の代理人である弁護士は本人の話しを遮っていならない。ロサンゼルスの家庭調整裁判所の調停では、原
則的に代理人弁護士は調停期日に出席しない。かりに弁護士が出席したときでも、クライアントのために弁護した
り反対尋問をすることはできないとされる。調停期日での弁護士の役割は、依頼者へのアドバイスに限られる。当
事者たちは調停中も、弁護士に相談することは許され、調停での暫定的な合意は弁護士に検討してもらうよう勧め
られる。アメリカの調停者は、一方当事者のための特定の法律相談はできず、法律問題を一般的に説明するだけで
ある。日本では、代理人である弁護士は、当事者に代わりまた当事者とともに、調停に出席して意見や主張を述べ
るが、折角本人が出頭して話をしているのに、遮ったり、弁護士がまくしたてたりするケースも見られる。弁護士
にも、調停は、対審構造の裁判とはちがい、自主的に合意点を探る手続であることを理解してもらわなければなら
ない。
⑥合意は自発的に行わなければならない。日本では、調停で成立した合意は確定判決と同一の効力をもつ。したが
って、自由かつ任意に形成された合意でなければならず、強制されたり押し付けられたものであってはならない。
⑦調停へのその他の参加者 学校の教師、保育園の担任、医師等の専門家、家族のメンバーなど当事者以外の
者も他方の同意があれば、個別的でも合同でも話し合いに参加できるようにすべきであろう。もちろん、当事者以
外の第三者が不必要に介入することでかえって紛糾し、当事者のプライバシーが侵される危険もある。したがっ
て、参考人や利害関係人となり、正式に手続への参加が認められる者の範囲は限定されなければならない。しか
し、子どもの面会交流については、必要に応じて、子どもと直接関わりをもつ祖父母、継親等広い意味で事実上の
利害関係をもつ者にも参加してもらう必要があろう。これは、第一次的には当事者の合意によるが、最終的には、
調停委員会の許可︵裁判官と調停委員との評議︶が必要となろう。
調停参加への合意は、事実上相手方が出席することだけで、書面によっているわけではない。しかし、少なくと
も、調停委員の冒頭の導入的説明やオリエンテーションで行われているとみてよい。今後は、調停に参加しその基
本ルールを遵守するためにも、調停の基本ルールは書面化して、当事者に渡してから、合意をとって調停を開始す
ることが望ましいと思われる。
6 事実の確定と争点の絞り込み
調停委員会は、当事者双方から紛争の実情や原因、紛争の背景などを十分に聞き取りながら、事件の解決にとっ
て重要な客観的事実の確定と法的な争点の絞り込みを行う。とくに、裁判官との評議や進行についての打合せは十
分かつ綿密にする必要があろう。その際に、家庭裁判所調査官の事前包括調査、基礎的事実調査が実施され、調査
報告書がある場合、または調査官が立会している場合はその意見が実情を把握するうえで大変役立つ。必要があれ
ば、調停委員会は利害関係人、参考人などからも事情を聞くことができる。ただし、子ども自身から調停委員会が
直接意見を聴取することには慎重でなければならない。よく、当事者から面接交渉等に関する子どもの手紙や作文
などで﹁お父さんと会いたくない﹂という趣旨のものが提出される場合がある。しかし、子どもの様子を知るうえ
子の監護調停の実務指針 三四七
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三四八
で手紙や写真等の資料も有効であるが、子どもが両親の問に挟まれてロイヤルティー・コンフリクト︵忠誠心の葛
藤︶を起こしているケースもみられる。したがって、子どもの様子や状況、気持ちを確認することは、家庭裁判所
調査官を活用してその専門的アドバイスのもとで行われるべきであろう。監護親で﹁10歳以上の子どもを直接裁判
所に連れてくるから直接聞いて欲しい﹂と調停委員会に訴えることもあるが、子どもが緊張し傷つく可能性もある
ことを忘れてはならない。
︵44︶
子どもの監護者の指定、引渡し、面接交渉等の子の監護に関する処分事件では、①当事者の双方の主張 ②紛争
の経過と現状︵結婚生活の実情、監護者指定や面接交渉のいきさつ等︶、③当事者の状況︵生活歴、心身の状況、家庭状
況、住居、経済状況、子どもとの関わり方、態度、教育への配慮等︶、④子どもの状況︵成育歴、生活状況、心身の状況、
︵45︶
父母そのほかの養育者、養育環境、兄弟姉妹との関係、本人の意向等︶等から、解決案を検討することになっている。
カリフォーニア州では、①父母の身体的物質的状況︵年齢、健康、障害、家庭環境、住まいなど︶、②父母の精神的状
況︵精神状態や行動、思考方法、相手方の親に対する感情子の発達段階に応じた二ーズを認識する能力、問題解決能力、個
人的問題と子どもの問題を分離できる能力、精神医学的病歴等︶、③父母の社会的事情︵犯罪歴、経歴、社会的孤立の程
度、子どもへの十分な監督能力、教育への配慮、地域への関与、新しい家族を形成する能力、レジャー時間の活用、躾けの
方針など︶、④子どもの年齢、身体の発達成長、健康、障害等の事情⑤子どもの精神状態、行動、判断力、人格
︵46︶
的特性、精神年齢、合理的な選択などの事情が重要とされる。子どもの問題では、子どもと親との情緒的むすびつ
きやこれまでの養育関係や接触交流の実績がかなり重要な要素になってくる。
7 合意の交渉にあたっての調停委員会の役割
調停の交渉段階は、各当事者の二ーズや希望を確認し、その優先順位をつけ、比較検討をすることに関わる。そ
の内容は、双方の共通の利益となる明確な解決に達するために必要な事項の交渉と問題解決である。論争の多く
は、双方の希望と関係者各人の二ーズを区別しておらず、それぞれを通した場合のコスト・ベネフィットを検討し
ていない。この段階で調停委員は、率直かつ柔軟な姿勢を示すことが重要であるといわれる。調停委員の率直性、
解決への柔軟性により、当事者も率直かつ柔軟になることが促される。当事者がはじめに調停の場に来たとき、大
抵は激しく相手を非難したり、自分の要求のみに固執する交渉態度か、無理をしてきわめて柔軟そうな温和な交渉
態度のいずれかをとる。交渉段階に入るころは、調停手続への漢然とした不安感や恐怖感もなくなり、両極の交渉
態度をとることは少なくなるだろう。しかし、当事者たちはもともとの自分たちを守る、あるいは子を含む現在の
生活を守るという立場に戻り、お互いの立場から見た﹁子の利益﹂論を展開することになる。もし、調停委員が当
事者間の顕著な力の不均衡を感じたりする場合、調停委員は、﹁熱心に聞く技術﹂で弱い当事者が自己の二ーズを
主張し確認できるよう援助すべきであろう。力の不均衡︵℃o薫R目σ巴き8︶は、当事者たちに役割の交替︵8一①
お<R錺一︶を演じてもらうよう求めることである程度まで対処できるといわれる。力の強い当事者に弱い当事者の
立場になってもらうことで、強者も自己の主張を和らげることになるかもしれない。たとえば、対席合同面接を原
則とするカリフォルニァ州では、﹁部屋の物理的配列を変え、お互いを対面させるのでなく、隣どおしに座らせる
などで、気持ちのうえでの均衡をとり、チームとして協力する感じを促すこともありうる。力の不均衡が存在し、
︵47︶
上記の技法でうまく解消しないときは、調停委員は個別面接を行うこともできる。﹂としている。
子の監護調停の実務指針 三四九
1 (1)
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三五〇
交渉段階での基本原則
当事者からどんな妙案、珍案でもよいから、ともかく解決案を出してもらうようにする。自由にいろいろな
まざまな解決方法の可能性に道を閉ざし、狭くしていることに案外気づいていない。そこで、調停委員は、
共通の利益のための複数の選択の可能性 当事者たちは、お互いの立場や利益に固執することで、実はさ
できるだけ早く双方の共通の利益や親と別の﹁子の利益﹂に目を向けさせることが重要であろう。
﹁恨みつらみ﹂などが解消できずに、反対をしたり、過度に子に執着するケースもみられる。調停委員は、
面接交渉の事件でも、お互いに﹁子の利益﹂を口にしながら、実は別れた相手方への﹁こだわり﹂﹁未練﹂
りを思い起こさせ、自分たちの立場を主張し合うだけでないことを気づかせなければならない。たとえば、
立場ではなく、利益と目標に焦点をあてる 調停委員は、当事者たちに共通の目標、目的、手続への関わ
階で、どんな点が子のプラスになり、マイナスになるかに中心がある。
前者は主としてどのように決めるかの問題で、後者はどんな具体的な面会交流が実際に可能で、また、現段
面会交流の決め方など手続的問題と、内容の間題を分ける必要があろう。両者はもちろん密接に関わるが、
い﹂﹁再婚家庭でやっと平穏に暮らしているから余計な干渉はやめて欲しい﹂と主張する場合、調停委員は、
一方的すぎる﹂﹁約束を守らずルーズだから信用できない﹂﹁女性関係にだらしなく、子どものためにならな
分自身の価値観や感情を維持するよう援助できるであろう。たとえば、母親が﹁申立人︵父親︶は独善的で
題と中身の問題である内容的問題を区別し、これによって原則では合意できるが、単なる妥協ではなく、自
手続の問題と内容の問題とを切り離す 交渉の間は、調停委員は、問題の出し方や決め方という手続的問
2
3
可能性や解決案を示してもらうことで、当事者たちは自ら選択肢︵解決案︶を創造する権限を与えられ、主
役として主体的に働くようになる。調停におけるエンパワーメント︵国B8矩霞ヨの邑の考え方は、自分た
︵48︶
ちで自分の問題を自分なりに解決する力を基底にする。どんな解決案が最善かを自分で決定するよう援助す
ることで、問題解決を通じた自己の発展や向上にまで展開できれば、理想的ではなかろうか。他律的に、調
停委員会や裁判所が当事者の主張しない特定の解決案を押し付けるのは好ましいことではない。
4 提案された解決案を改善し検討する 当事者たちによる全ての解決案が提示されたら、調停委員は自分の
考えを付け加えたいと思うかもしれない。調停委員は、当事者の考え方を尊重して援助すべきだし、批判を
促し、当事者自身の生活や子どもの生活に無理のない柔軟かつ具体的で実行可能な取り決めへ向けて、でき
るだけ関係者の利益や二ーズを満たした解決案へ達するよう促す必要があろう。
右の原則によりながら、調停委員は、当事者たちが小さい範囲での部分的段階的な合意形成ができるようる調整
をする。合意が得られるたびに、調停委員は、肯定的に問題を捉え、当事者たちの協力を得ながら、一つでも問題
点の合意ができるよう努めるべきであろう。争点の一括同時解決がむずかしいときは、部分的段階的解決でゆけば
よい。
図 行き詰まりを打開する技術︵↓Φ9議88目卑8ζ話H旨葛霧Φ︶
調停事件では、当事者の話しを聞き、事実や争点が浮彫りになって、ある程度の解決の方向性が見えてくれば、
後は、交渉、説得を根気づよく繰り返しながら調整する作業に移る。しかし、自律的調停のプロセスでは、行き詰
まりや停頓を経験することが多い。当事者たちは、自分たちの合意による解決能力に限界を感じたり、感情的な行
子の監護調停の実務指針 三五一
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三五二
き違いが表面化したり、どうしても譲歩できない当事者のために、話し合いが進まなくなることがある。しかし、
多くのケースでは、この行き詰まりを解消するため調停委員が積極的に介入しなければならない場合が起こる。そ
のときの、テクニックとして、ロサンゼルスの研修用マニュアルでは、以下の諸点をあげている。
1 問題をさらに細分化してみる 最も困難な問題や交渉の進まない問題を切り離して、これらを後回しにす
る。
2 当事者たちになぜその解決案が受け入れられないのか理由を聞く そして、挙げられた理由にぴったりく
る、個別的具体的な解決案を探る。
3 別の問題へ進む 休みをとって当事者たちにさまざまな提示された解決案について考えてもらう。そし
て、合意し易い点に焦点を絞って話し合う。
4 当事者たちの優先順位と共通の利益を検討する どの問題を最初に解決したいか、共通の利益になる点は
なにかを検討する。
5 専門家のアドバイスを求める 必要な事実の調査やアドバイスを受けるため、期日間調整ということで、
家庭裁判所医務室技官である精神科医や調査官によるカウンセリング、子の意向調査、関係者の状況調査な
どを勧めるか、裁判官等と評議する。
以下、合同対席面接方式で行う場合に、カリフォルニア州のマニュアルでは、
6 隠された問題や妥協する意思を探るため、各当事者と個別に面接する
7 仲違いを分ける
8
当事者たちが当初期待していた解決案がなにかについて合意を得るようつとめる
9
可能な取引、取り決めやサービスの交換を探す
0
それぞれ相手方の見方を承認するように奨励する
1
1
行き詰まりにあることを伝え考え方を聞く
1
2
当事者たちに合意に達したり、調停の合意に戻ると何が変わりどうなるか聞く
1
3
関係する第三者に対するさまざまな解決案の影響を考える
1
4
相手方の言うことにしたがった場合に何を得るかを聞くことにより、一定の結果における感情的投入を試す
1
5
これまでの合意に達したことや妥協する気持ちがあることを褒め、完全な合意に達するよう奨励し、この紛
1
争を解決させる
6 各人が負けるとこだわっているものが解決されないと、どうなるか注意を促す
1
7 問題点、気持ち、優先順位、採り、フる解決案、柔軟性、隠れた主張、妥協したくない気持ち、互いの憤慨な
1
どについてもっと質問する
8 期日が終わるときに当事者たちが次回までに準備すべき宿題を課す
ー
,ー9 ゼのような解決案が公正で、なぜいいかを当事者たちに知らせる
︵49︶
⑳ 訴訟でなく、最後の手段として拘束力ある仲裁を示唆する
なども提案されている。合同対席面接方式によるか、単独個別面接方式によるかは、当事者の意向、紛争の内
容、性質、程度等とも関係するため、適宜使い分ける必要があろう。しかし、とくに個別面接方式を原則化する必
子の監護調停の実務指針 三五三
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三五四
要はないし、合同面接方式については、対話促進機能と当事者の問題解決能力の向上、公平感の醸成等多くのメリ
ットがある。
︵50︶
わが国では、実務上、調停委員会は当事者からの事情聴取にもとづき事実関係が明らかになった段階で、紛争の
︵51︶
自主的解決のための法的社会的解決案︵調停判断Vを示し、その受諾を促すよう説得︵合意の斡旋︶という作業をし
てきた。しかし、調停委員会があまりにも主導的に調停判断という解決案の受諾を強く勧めると、当事者として
は、かえって反発し、調停自体を不調にしたり、不本意な内容の合意形成にもなりかねない。したがって、法的に
も社会的にもまた当事者の立場からも、納得できる公正な合意案、解決案はむしろ当事者から提案された合意案や
解決案をべースに考えるべきではなかろうか。とくに、離婚するかしないか、子どもをどのように育てるかなどの
問題では、財産分与、慰謝料、婚姻費用の分担、養育費、遺産分割などの経済的問題の紛争とちがって、裁判所主
導型、調停委員会主導型の調停によると、将来に大きな問題を残しかねない。面接交渉なども、当事者双方から過
去の実績を踏まえて、具体的な実施方法、連絡方法、面接のし方につき提案をしてもらい、子どもの二ーズや兄弟
姉妹の関係、祖父母等との人間関係などにも広く配慮して、実行可能で、部分的段階的な調整が必要になってこよ
う。時間がかかるからといって、当事者を強引に説得して、性急で無理な内容の合意をさせても、合意内容の履行
がなされず、紛争の根が解消されていないため最終的な解決をみないことも少なくない。
⑥ 感情的問題を表面化させ処理する
調停は精神的な治療や心理療法ではない。実際、紛争当事者がどのような法的な解決を望んでいるかに焦点があ
てられなければならない。多くの調停では、紛争当事者間で合意の締結を妨げる感情的問題が残る。面接交渉の事
件でも、父母間に激しい感情的対立が存在して、夫婦の不和、葛藤の影響が子との交流接触という問題にも及んで
いることが少なくない。その意味で、判決や審判という判断型の解決手続では、過去の事実の認定とこれに対する
法の適用による裁断がなされ、感情的情緒的問題の処理ができない。調停という調整型手続では、法律判断にのら
ない人間関係の調整機能が含まれる。ここでは、カリフォルニアでの研修用マニュアルを参考にして、具体的な調
停手続での感情的問題を処理する技法を扱う。
﹁1 中立であり続けなさい。 いずれかの当事者の肩をもってはならない。
そうすれば、当事者はあなたに信頼を寄せ自分の感じていることをもっと話してくれる。
2 議論や感情の爆発が起こると、しばらく深く座って彼らに言わせなさい。
恐らく、顔を合わせて争うような関係をそれほど多く経験しておらず、第三者の前で議論するなら安心かも
しれない。ときとして、気分転換をして頭を冷やすことができれば、合意に達することもできる。
3 当事者たちに﹁あなた﹂というより﹁わたし﹂という言い方で話をするように勧めてみる︵たとえば、﹁あな
たは、子どもたちの扶養をすることさえ気にできない惨めな父親だ﹂と言うのではなく、﹁きちんと、子どもの扶養
料を払ってくれないと私も困ります。﹂というように︶。
4 対立が激しく、相互の話し合いを止め、熱心に聞くとか問題の立て方の技術を用い、各人の見方を要約して
みる。
5 他方の感情や見方、感情の理解を勧めてみる。
6 感情的問題を覚え書き事項の中に入れる。︵たとえば、家族的事業紛争で妹が兄から、自分と自分の夫を侮辱し
子の監護調停の実務指針 三五五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三五六
たことの謝罪及び互いを尊重する合意を求める︶
7 感情的問題がすぐには分からない場合、それぞれの立場や視点から、どんなことが問題解決となるかを聞い
てみる。そして、仮定的に、あることが行われて問題解決がされるとすれば、どうなるか聞く。
8 感情的問題が表面化してそれについて話し合った後も、合意を妨げるときには、
a 調停によって話し合いをするという合意をしたことに戻るー調停での合意への関わりを探る
㈲ 紛争解決に自己の利害を結びつけさせる。︵たとえば、扶養料を支払うことで、あなは自分が望むように、子
どもの生活に関わっているという気持ちをもてる︶
◎ 葛藤を続けさせる期日内外での当事者の行動に気づかせ、それを続けるかどうかを当事者が決められるこ
とにも気づかせる。
⑥ 特定問題の争いの解決のために推奨できる仲裁を検討させてみる。
9 調停を申し立てたカップルや家族と協力するセラピストの利用する他の多くの技法があり、訓練を積んだ家
︵52︶
族心理療法士に相談することもできる。﹂とカリフォーニァ州のマニュアルで定める。しかし、日本では、
家庭裁判所調査官による期日間の心理調整、家庭問題情報センターなどでのカウンセリングなどの援助を活
用すべきであろう。とくに、この種の事件では、子どもの面接交渉をめぐって、じつは夫婦間の相互的不信
感や憎悪などマイナスの感情が表出しているにすぎないケースが目立つ。その意味で、安易な取り決めは後
日の紛争の再燃につながり、夫婦の対立が子どもの場に持ち越されたという場合も多い。面接交渉の問題や
乎の奪い合いが夫婦の紛争の第ニラウンドといわれるのもこのためである。
8 合意案の作成︵O蛋彗の芸Φ>σQ﹃8ヨ雪一︶
ω 面接交渉の合意のための留意事項
調停手続がうまく進んだ場合、次のステップは当事者たちの紛争解決を最終的なものにするため、調停条項にま
とめなければならない。当事者双方に弁護士の代理人がついていれば、合意条項を法的な言い回しで書面化するこ
とに問題はないかもしれない。しかし、調停での合意が調書に記載されると、確定判決と同一の効力をもつため
︵家審法二一条︶、調停での合意は、内容的にも違法なものであったり、適正妥当性を欠くものであってはならない
︵家審規二二八条参照︶。つまり、裁判所という司法機関が関与して合意を斡旋する以上、明確性、実行性、特定性
︵53︶
をもち︵将来の紛争を招くようなことがなく﹀、公序良俗等にも反しないものでなければならない。
わが国でも、具体的な調停条項では、﹁子の監護親は、子の意向、子の福祉を考慮して非監護親が子に面接する
ことを認める﹂というものが多く、月一回、二回、週一回などが過半数を占める。中には、﹁年に二回それぞれ休
4︶
み中に一週間程度の旅行にいく﹂などの旅行条項、宿泊条項をおく場合もある。そして、具体的な面接の場所、方
︵5
法、回数、交通手段等は、﹁当事者間で協議して決める﹂という一般的内容のものが多い。当事者間に合意ができ
ればあえて、明文の条項化せず、合意ができなければ無理に説得して形式的な条項を入れないともいわれる。
したがって、面接交渉の調停において、面接交渉の可能性をじっくり考え、面接交渉が可能な親かどうか︵冷静
に相手方の環境を考えながら連絡を取り合えること、両親の教育方針、人生観価値観で著しい違いがないことこと等︶、子
どもの二ーズに関心を寄せていること、早期に面接交渉のガイダンスをし、実行可能なスケジュール作りを促進す
子の監護調停の実務指針 三五七
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三五八
ることが望まれる。その際、後掲の﹁お子さんと面会交流をされる方へ﹂というパンフレットが役に立とう。
︵55︶
③ 調停での合意の在り方
アメリカでの古くからの格言﹁分かり易くする︵囚Φ8淳ωぎ巳Φ︶﹂は、日本の調停のこの段階にもあてはまる。
合意は、分かり易く、簡潔かつ明確に書かなければならない。合意は、当事者の意思及び紛争解決の条件に対する
相互理解を法的にも反映するものでなければならない。繰り返すことになるが、合意は双方の利益と紛争について
の相互の利害を反映している。調停での合意は、これを履行する各当事者の権利、義務、責任について疑問を残す
ようなものであってはならない。どの条件も、いつ、どこで、どのように行為が行われるべきか明確でなければな
らない。調停で話し合われた事項のみが合意の内容とされるべきであり、それ以外のものは含まれるべきではな
い。日本では、調停条項はきわめて専門的法律的表現になって定型化されている。この点で、ロサンゼルスの研修
用マニュアルでは、﹁専門用語、法律用語はできるだけ避けるか、必要最小限にすべきである。当事者でない者も
どんな紛争が解決をみ、各当事者が相互的解決を実行するため何を求められているか理解できるように起案されな
ければならない。﹂としているのは注目に値する。
︵56︶
⑥ 調停条項案の実例と問題点
すでに述べたように、親権者や監護権者とならなかった親に、未成年の子︵ほとんどが中学生以下︶との面接交
渉︵面会交流︶を認めるケースが増えている。そして東京家庭裁判所の履行勧告にあらわれた調停条項例でも、
﹁相手方︵母親︶は、申立人︵父親︶に対し、親権の行使に支障をきたさない限度において、申立人は、長男︵中学
三年︶及び長女︵小学三年︶と年に二回くらい面接することを認め、面接の日時、場所等については双方で協議し
て定める﹂﹁相手方︵母親︶は、申立人︵父親︶に対し、二児︵六歳女児、二歳男児︶を年二回︵一月と入月︶○○市
の○○方において面接させることを認める。面接の具体的日時については、OOを通じて双方が事前に連絡して定
めるものとする。申立人は、二児に面接する際には、飲酒したり、暴力行為は一切しないこと。もし、これに違背
したときは、爾後の面接を拒否されても異論がないこと。﹂﹁相手方︵母親︶は、○○年から向後三年間毎年九月
に、当家庭裁判所において、申立人︵父親︶が、当事者間の長女︵六歳︶と面接することに協力する。なお、その
面接においては、当裁判所調査官が関与するものとする。三年経過後は、当事者間の協議により、あらためて面接
︵57︶
方法を定める﹂というふうに、年、月、週の単位で回数を定め、具体的な日時、場所、方法等は双方で協議して定
めるという例が多い。履行確保のために解怠条項として損害賠償の予約をしておく方法もあるが、あまりに過当な
金額を定めることは適切ではない。
最近では、面接交渉の日時、場所、方法等をあまりに細かく定め、とくに夏冬の長期の旅行を規定したため、子
どものスケジュールや大人の予定が合わず、それがトラブルの原因になっているものさえ見られる。子どもの年
齢、健康、友達や塾など日常生活のぺース、休みの日程など、当事者や子のスケジュール等を十分に聞いて、無理
のない柔軟な取り決めを勧める必要がある。ちなみに、最近筆者が関与して成立した面接交渉の調停事例を三つ紹
介する。①は、離婚した父母間で一一歳︵小学六年︶の長女との面接交渉が問題になった。離婚後親権者とならな
かった父親が申立人となり、再婚した母親を相手方として、離婚時に協議で定めた﹁月一回の面接、年三週間程度
の旅行﹂を履行するようにという調停の申し立てがなされたが、相手方は子どもが中学受験で忙しいこと、子ども
が父親と会いたがらないなどと主張したケースであった。結局、七回の調停を行い、その間に調査官による期日間
子の監護調停の実務指針 三五九
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三六〇
調整、子の意向調査等をしてもらいながらつぎのような調停が成立した。
﹁1 相手方は、申立人に対し、申立人と長女が春休み期間中の平成○年○月○日より三泊四日間泊がけの旅行を
含む面接交渉をすることを認める。
2 相手方は、申立人に対し、長女が中学を卒業するまで月一回、申立人と長女が面接交渉することを認める。
相手方は面接交渉を妨害してはならないものとする。
3 申立人と相手方は、長女が中学卒業後の面接交渉について、泊まり掛けの旅行を含む回数、日時、場所、方
法について、本人の意思を尊重して双方協議のうえこれを定める。﹂養育費の支払いなどと関連し、親同士
の不信感が強く、しかも子の年齢が高くなって自立し親離れの時期を迎えているケースだけに調整が困難で
あった。しかし、双方の弁護士、裁判官、調査官、調停委員の協力により、右のとおり間もなく中学生とな
る﹁本人の意思を尊重して﹂無理のない面接交渉をすることで決着をみた。自己の見解をまとめる力をもつ
子に対して、意見表明の権利を保障する児童の権利条約一二条の趣旨に照らしても、年齢や判断力、成熟度
︵58︶
に応じて、子どもの意向が正当に評価され尊重されなければならないのは言うまでもない。
②は、妻の新興宗教への入信をめぐり夫婦関係が破綻し別居した父母間で、長男︵九歳︶長女︵七歳︶の親権及
び面接交渉が争われた事例であった。妻が申し立てた離婚調停が不調となり、妻が地裁に離婚訴訟を提起している
間、申立人︵父親︶から子の監護に関する処分として面接交渉が申し立てられた︵民法七六六条、家審法九条項乙類
四号︶。このケースも調査官が期日間調整を数回行い、子の状況、意向調査も実施された。父母間で性格、考え方
の不一致、とくに宗教への入信をめぐり激しい確執があり、完全に子どもも巻き添えになって、相当なストレスを
もっている難しい事案であったが、調査官の精力的な働きかけや双方弁護士の協力、また地裁で和解が成立したこ
ともあり、調停五回でつぎのような合意が成立した。
﹁1 相手方は、申立人に対し、申立人が両名間の長男及び長女と、少なくとも毎月第二第四土曜日の夕刻に、二
時間程度面接交渉することを認める。
2 前項の場合において、相手方は、第一義的に申立人と長男、長女との円満な親子関係を妨げないよう努める
ものとする。﹂
このケースでは、訴訟関係書類などを長男が見るなどの事情があって、申立人である父親との関係に不信や亀裂
が入りかけており、申立人の強い希望もあって、第二項のような条項になった。離婚後の親子の接触交流を成功さ
せるためには、夫婦など大人の問題を子どもの問題に持ち込んではならないのが鉄則であろう。
③は、離婚した父母間で三歳の男子との面接交渉が問題になったケースであった。申立人︵父親Vは、子どもの
養育にかなり関与しており、子も相当程度懐いていた。しかし、事件本人である子は、相手方である母親の再婚相
手と養子縁組をしており、再婚家庭の安定性、父親が二人いるのはおかしいなどとして、相手方は面接交渉を拒否
している。離婚後も月一回は申立人との面接交渉は合意され継続されてきたが、面接後子どもが﹁帰りたくない﹂
と泣いたので迎えに行った新しい父親︵養父、相手方の再婚相手︶がショックを受けたのが面接交渉拒絶の直接的理
由であったようである。この事例も、裁判官から期日間調整を命じられた調査官の精力的活動、双方の代理人であ
る弁護士の協力により、調停五回でつぎのような調停が成立した。
﹁1 相手方は、申立人に対し、申立人が長男︵三歳︶と少なくとも二か月に一回面接交渉することを認める。
子の監護調停の実務指針 三六一
第一回目の面接交渉は、平成○年○月○日午後○時より二時間程度、○区○○公園にて行うものとする。
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三六二
ノ
や日時、場所等の具体的な実施方法もさまざまな弾力的な処理が可能であり、親族や弁護士、家庭裁判所調査官を
話や手紙のやりとり、絵や写真、プレゼントを送るなど直接、間接さまざまな交流の方法が含まれる。また、回数
交渉を認めることが子の利益や福祉に反するということにはならない。面接交渉には、訪問や面会だけでなく、電
すでに述べたように、同居親の強い反対や当事者双方に激しい感情的対立があるからというだけで、直ちに面接
ないかぎり、双方の一致した意思表示と扱うことはできない。たとえ、当事者双方が期日外に合意をしていたり、
︵59︶
不出頭で合意書を期日に提出したとしても、それだけでは合意したものとして調停を成立させることはできない。
当事者が調停の席に同席して︵やむをえない事由があるときには代理人だけでもよい︶調停に記載すべき条項に合意し
恐らく、調停にとってもっとクライマックスといえるのは、合意が成立するかどうかという最終段階であろう。
9 調停の終了
うな条項での調停が成立した。
断絶すべきと考えていたようであるが、子どもの利益、父子関係の実績等を考慮してもらうことで、右のよ
接交渉の大きな障害となっていた。再婚した母親は、交流の継続性によって強い絆をもっている父子関係を
い子の記憶は消すことができる﹂と信じていたこと、父親への強い不信感、再婚相手への気遣いなどが、面
に双方協議してこれを定める。﹂このケースでは、母親自身が父母の離婚により親戚の養女となって、﹁小さ
申立人と相手方は、第二回目以降の面接交渉の時間を半日程度とし、その日時、場所、方法については事前
32
関与させるなど第三者の援助や監視等を条件とする方法もありうる。したがって、全く面接交渉を認めないという
︵60︶
のは、子の利益に反することが明らかな場合に限定すべきであろう。たとえば、覚醒剤中毒で実刑判決を受けた
り、暴力を振るう父親が、離婚後母親との面会の機会を得るための口実として面接交渉を利用し、母親らに金銭の
要求をし、子の幼稚園にも多大の迷惑をかけるなど子の福祉を著しく害する事情があるときは、面接交渉は全面的
︵61︶
に認められない。
調停委員会は、評議にもとづいて、これ以上調停を行っても合意成立の見通しがたたないことが明らかになった
か、調停を継続できない事情が明らかになった場合、不成立、取り下げを勧めなければならない。家事審判法九条
一項乙類審判事件について、調停をした場合︵家審法一七条︶、調停が不成立で終了したときには、当然に審判手続
に移行することになる︵家審法二六条︶。しかし、面接交渉などの子の監護に関する処分事件では、かりに審判に移
行しても履行確保が困難で、当事者の関係を決定的に悪化させてしまい、ひいては子どもと親との継続的交流や接
触を断絶させてしまうことが少なくない。そこで、できうるかぎり一部合意でもよいし、子どもの福祉や利益を強
調して、暫定的な合意でも、合意による最低限度の協力関係の形成を促さなければならない。
以上のようにして、当事者間で合意が成立するか、成立の見込がないことがはっきりすると調停は終了すること
になる。調停終結で、当事者たちが出ていく前の時間でさえ、調停委員や裁判官の配慮で敗北感を勝利感に変え、
当事者たちの憤慨りの気持ちを相互の尊重へと変えることができるのではなかろうか。たとえば、当事者たちは、
真正面から問題に取り組み、お互いの立場に耳を傾け、譲歩し、重要な点についても妥協したこと、訴訟を避け、
抑制を働かせ責任ある行動をとり、困難なときにも、手続に参加して誠実で寛大であったこと、調停という解決方
子の監護調停の実務指針 三六三
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三六四
法を選択した賢明さ、調停での拘束力ある合意に達したことなどをきちんと再確認しておくことが重要であろう。
最後になって、﹁御苦労さまでした。﹂﹁お世話様でした。﹂という言葉が当事者からもでてくることが少なくない
が、合意の成立の際にも、今後の履行確保やコミュニケーションの促進の意味でも﹁お疲れさまでした。気をつけ
て頑張ってください。﹂﹁今後も、よく話し合いをすれば自分たちでも解決できますよ。﹂といった言葉をかけてあ
げ、悪化した当事者の関係が少しでも改善されるよう配慮すべきであろう。もっとも重要なことは、調停委員が当
事者たちの将来、相互の基本的尊重、関係の重要性、改善の可能性などを肯定的に評価すべきことである。ユーモ
アと好意、少なくとも相互の尊重でもって、喜びと明るい見通しのうちに調停を終了するようにしなさいとカリフ
ォルニア州のマニュアルでは、説かれている。﹁もちろんこれが、調停実務の全てではない。他の分野と同様、大
抵の知見は、実践を通じ、紛争の過程にある当事者の観察、当事者たちの合意達成能力へあなたの行動や言葉が与
︵62︶
えた影響を観察することで得られる。﹂とされている点も大切であろう。
なお、調停成立の場合に、調停委員会としては、調停で成立した面接交渉の合意についても、履行されないとき
は、調査官による履行状況の調査、家庭裁判所による履行勧告などの履行確保制度があることも伝えなければなら
ない︵家審法一五条の五︶。
︵一九八七年︶等。
︵33︶ 日本調停協会連合会編﹃改訂家事調停備忘録﹄五頁︵一九九三年︶、東京家裁参調会編﹃家事調停実務ハンドブック﹄一三頁
↓閃≧z豪o]・
︵3
4︶ い○。
・︾2爵田ωOO窪譲ω亀男一〇菊OO第﹂問>霞F<Oo舅↓ω男≦畠ω︸竃冒ヲ目oz↓幻≧zHzoN︵一〇〇一︶。[ぎ鳶愚築亀臥&禽]≦目ヲ目Oz
︵35︶ 一≦曽>目z↓閑≧蜜zo魯N9
︵36︶
沼邉愛一﹁家事調停の進め方﹂﹃新家事調停読本﹄一四二頁︵一九八八年︶、小田八重子﹁離婚調停の進め方﹂判例タイムズ七
は、詳細に調停の進め方のモデルを示している。
沼邉﹁家事調停の進め方﹂一四三頁。
匡目>目身↓召呂暴蝉鼠●なお、伊藤博﹁夫婦関係調整調停の基礎技術﹂家月四六巻三号四頁以下︵一九九四年︶も、調停へ
︵2
4︶
︵41︶
。・棚村政行﹁アメリカにおける子の監護調停の動向﹂﹃現代家族法の諸相﹄二三二頁︵一九九三年︶参照。
箋。簿。
︼≦同∪一>↓δZ↓悶≧Z壱O餌け8
困両O一>目OZ↓閑≧≡ZO9け伊
佐藤千裕﹁子の監護事件における未成年者調査の基本問題﹂調研紀要四六号五八頁︵一九八四年︶、爪生武﹁親の離婚と子ど
東京家庭裁判所﹃家事調停事件・乙類事件処理要領︵抄︶﹄五一頁︵一九八八年︶参照︶。
︼≦国O一>目O Z ↓ 閃 ≧ Z 豪 ○ 鋤 叶 O I 一 〇 ●
の禽田8凶噂ミ幾賊ミミげ≧ミ鳴bo8奪肉匙鳴ミ§。・§、ミミミき曝肉餐ミ肉ミ讐ミミ鳴ミ§織肉ミミ鳴ミ§冴誉\專ミ§”U一く身8
子の監護調停の実務指針 三六五
竃国日>
目
O Z勺
”男ω田o目く臣oz↓臣コ田uお”OO︵一〇〇〇㎝︶●
︵48︶
︵47︶
の
福
祉
に
つ
い
て
﹄
一頁以下︵一九八七年︶等参照。
とな っ た 事 件 に お け る子
︵46︶
禽=誘冒冨P≦o&節ωg﹄mヨ旦OミミG器む昼肉魁ミ§誉基るN安罫俸9琴9●勾宰Zo卜&①−。。。︵一。逡y佐藤千裕﹁子
の監 護 事 件 に お け る 未 成 年 者 調 査 の 基 本 問 題 ﹂ 調 研 紀 要 四 六 号 五 六 頁 以 下︵一九八四年︶、石原潔ほか﹁子の監護事件における調
査官 活 動 の 実 証 的 研 究 ﹂ 調 研 紀 要 四 一 号 五 二 頁 以 下︵一九八二年︶、家庭裁判所調査官研修所編﹃親権︵監護権︶の帰すうが問題
︵44︶
心
理
・
社
会
的
背
景
﹂
ケース研究二四八号四四頁以下︵一九九六年︶参照。
もの 心 i 面 接 交 渉の
︵44︶
︵43︶
、 面接の技法説得の技術について、簡潔に要領よくまとめられている。
の機能
面
接
法
・説得の技術﹂﹃家族法の理論と実務﹄別冊判例タイムズ八号一〇〇頁以下︵一九八○年︶も、調停における面接
の当 事者
の
仕
方
か の導入
ら 、 質問の仕方、コミュニケーシ.ンの促進のための技法を詳細に説いており大変参考になる。望月崇﹁調停委員
匁鐙鐘琶年
九
六
頁
︵一九九一年︶参照。梶村太市﹁夫婦関係調整事件の調停の進め方﹂ケース研究二四五号一三三頁以下︵一九九五
四七号
禽寓問O一>目Oz↓閃≧z毫Oω●
§象轟● /
もり
』
90
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三六六
︵49︶ ︼≦冒雰目○之↓召毫壱○鋤什一一−園.
︵駐︶ 沼邉・前註︵36︶所掲一四六−一四八頁。
︵50︶ 石山勝巳﹃対話による家庭紛争の克服⋮家裁でのケースワークの実践﹄二二七頁以下︵一九九四年︶、伊藤博・前註︵40︶所
掲論文二六頁参照。
︵2
5︶ ]≦胃一>自Oz↓勾≧z蒙o讐一bo山ω。
︵
5︶ 寺戸・前註︵31︶所掲論文二五四頁参照。
4
︵53︶ 安倍正三.石川稔.梶村太市﹃家庭紛争と家庭裁判所﹄一五五頁︵一九八二年︶、上村多平﹃注解家事審判規則[改訂]﹄四三
六頁︵一九九二年︶参照。
︵56︶ 竃9ヲ目Oz↓召壱毫○跨一恥●
︵55︶ 寺戸・前註︵1
3 ︶所掲論文二五六頁。
定判決と同一の効力をもつ点であろう︵家審法二一条︶。したがって、当事者が金銭の支払いや物の引渡をする義務を定めている
アメリカにおける裁判所での家事調停と日本の家事調停との大きな違いは、日本では調停で合意が成立し調書に記載されると確
場合には、任意に履行しない当事者に対して、調停調書にもとづいて強制執行が可能になる。これに対して、アメリカでは、調停
とづいて当該内容を離婚判決に組み入れてもらうか、子の監護や面接交渉の決定として言い渡してもらうための争いのない裁判手
で合意が成立しても、裁判所から判決を出してもらわないかぎり、確定判決と同じ効力は認められない。そのため、調停合意にも
続を踏まなければならない︵棚村政行﹁アメリカ合衆国における離婚調停の展開ー裁判所における必要的調停プログラムの検討を
中心にー﹂アメリカ法[一九九四,二二四頁参照︶。そこで、このような構造的な違いのため、ロサンゼルスの調停研修用マニュ
アルでも、以下のように指針を定めている。
書面による合意
一般的に言って、ほとんどの当事者が解決に達した作業を明らかにし、出来上がった成果の明白なしるしとするため書面による
表現を押さえた︵一〇零−犀2a︶控えめな非形式性を維持するために形式ばらない口頭の合意を選ぶ。当事者双方で決めることだ
合意を好む。書面による合意は、調停のあらゆる段階の中で最も形式的なものであろう。多くの当事者たちは、調停手続の感情や
が、一方が書面による合意を望めば、書面にすべきであろう。書面による合意の第一の部分は、手続に参加し合意に拘束される当
れた基本的事実、当事者たちが合意に至った理由を書く。これらの事実は当事者双方が合意した事実に限られる。第三の部分は、
事者の氏名を挙げなければならない。住所、職業、地位、関係なども適切な範囲で記載される。第二の部分は、紛争となり解決さ
らない。条件ごとに適切な場合は日時、場所が明らかにされなければならない。合意全体の調子は、すべての関係者にとって﹁い
当事者たちが履行すべき合意条項や条件である。各条項や条件は新しい段落や番号、アルファベットをふって区別されなければな
ずれも勝者﹂でなければならない。草案は当事者たちが訂正したり、直したり、付け加えたりできなければならない。一般に合意
は調停終結時に署名される。もし、納得できない点があれば、その躊躇の理由を話し合い、必要ならば一週間くらい署名を延ばし
口頭の合意
たり、法律の専門家のアドバイスを受けるよう勧める。
続の概略を含む。書面による合意も口頭の合意も誠実に合意を履行すべきで法律上の効力は変わらない。
口頭の合意も書面による合意と同様の構成にしたがう。しかし、全体の格調はそれほど高くなくてよい。一般に調停者による手
合意を作成する調停期日
一般に、長期の複雑な調停のあと、当事者たちは最終的な合意案にいたるまでに合意のための努力を重ねる。調停者によって、
合意が終局的なものとされるべきである。ときとして、複雑な会計、財政的書類や記録の検討が必要なときは、調停委員は合意案
当事者は暫定的なプランや仮の合意をなすべきである。合意を最終的な書面とするための調停期日が決められるか、一定期日以降
作成前に書類資料の検討の機会を与えられる。文言、言い回し、合意の意思などに関するすべての決定は、当事者によってなされ
どうか再検討する当事者にも開かれてなければならない︵霞匿>目身↓召髪審餌叶易︶とする。
るべきである。当事者たちは最終的合意をするかどうか決める機会を与えられなければならない。調停手続は最終のものとするか
林・前註︵27︶所掲論文二三〇頁以下では、面接交渉の事件はほとんど調停で解決し審判に移行するものは少ないとする。また、
︵57︶ 東京家庭裁判所履行係調査官室﹁履行勧告にあらわれた面接交渉の実態﹂ケ!ス研究一五五号六八⊥ハ九頁︵一九七六年︶。若
1︶所掲論文二五四頁では、昭和六〇年代からは、﹁子の監護親は、非監護親が子に面接することを認める﹂、その際
寺戸・前註︵3
﹁子の意向を尊重して﹂﹁子の福祉を考慮して﹂という条件を付す条項が増え、具体的な面接の回数・場所・方法等は当事者の協議
︵58︶ 鈴木隆史﹁子どもの権利条約における﹃意見表明権﹄︵総論︶﹂早稲田法学六九巻四号コ一二頁以下︵一九九四年︶、同﹁子ど
にゆだねるとするものが大半と指摘する。
子の監護調停の実務指針 三六七
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三六八
もの権利条約における﹃子どもの権利行使主体性﹄の意味﹂児童青年精神医学とその近接領域三五巻二号五三頁以下︵一九九四
年︶、喜多明人﹁家庭環境のもとで育つ権利﹂﹃現代家族法の諸相﹄一三一頁︵一九九三年︶、若林昌子﹁家事事件における子の意
思﹂﹃家族法改正への課題﹄二九五百ハ以下︵一九九三年等参照。なお、家事審判規則五四条では、子が一五歳以上であるとき、家
問題につき思慮ある判断ができる子の意思は、尊重しなければならない。それ以下の年齢の子でも、その子の素直な声に耳を傾け
庭裁判所は子の監護処分事件で子の意向を聴かなければならないとする。子の福祉や子の利益を中心に考える以上、自らの監護の
る必要があろう。アメリカ国籍の父から日本で生活する日本人の母を相手に、子との面接交渉が申立てられたケースで、一三歳の
子が会いたくない旨の意思を明確にしている以上、本人の意に反して面接交渉を認めることは子の利益に明らかに反するとして認
︵59︶ 上村多平﹃注解家事審判法﹄六八二頁︵一九八七年︶参照。
めなかったケースがある︵東京家審平成七二〇・九家月四八巻三号六九頁︶。
︵60︶ たとえば、京都家審昭和五七・四・二二家月三五巻九号一〇五頁は、別居中の父母間で母親と暮らす子どもにつき、調査官の
関与のもとで確執の強い父母間で協議して日時方法場所等を定めるとしている。若林・前註︵27︶所掲論文二三三頁では、調査官
は、裁判所の調査官に相当する専門官が面接交渉や監護の問題でアフターケアをしたり、調整や援助するシステムをもつ。わが国
の関与を要件とすることは理論上問題でもあり、最近の実務ではこのような運用はなされていないといわれる。しかし、欧米で
すべきではないのではなかろうか。もし、家庭裁判所で無理なら、民間の機関や適切な専門家︵たとえば、家庭問題情報センター
でもそのような二ーズはあると思われるし、調査官の不足や調停成立後の関与を認めるシステムになっていないというだけで否定
など︶を紹介するなり、適切な対応が望まれよう。なお、岐阜家大垣支審平成八・三・一八家庭裁判月報四八巻九号五七頁は、ビ
デオや写真を送付するなど近況を知らせることを面接交渉の概念に含めていないようであるが、このような間接的交流、電話での
照︶。
コ、・、ユニケーションなど多様な接触交流の在り方がある︵﹁面接交渉申立事件﹂ケース研究二四三号二一八頁︵一九九五年︶参
︵伍︶ 浦和家審昭和五七・四二一家月三五巻八号一〇八頁。また、子どもの奪い合いの危険性がたかいようなケース、虐待、暴力等
のおそれのあるケースでの面接交渉も慎重にならざるをえない。面接交渉排除事由については、松倉耕作﹁面接交渉を全面的に否
︵62︶ 冒曽ヲ目oz臼菊≧多暴簿一①●
できるか﹂判例タイムズ五五一号二七七頁以下︵一九八五年︶に諸外国の動向を含め詳しい検討がなされている。
によれば、以下のとおりの指摘がある。カリフォーニア州での離婚訴訟の一一%から一五%は、子どもの監護をめぐる争いを伴っ
カリフォルニア州での子どもの監護をめぐる紛争と家庭裁判所に関して、前家庭裁判所サービスの部長ヒュー・マタアイザック
ている。子どもの監護をめぐるトラブルは六二%は父母自らが解決し、弁護士の手によって二七%が処理されているという。つま
り、ほとんどの離婚は裁判外での当事者たちの交渉を通じて解決されている。ロサンゼルスでも、監護の問題が裁判になるのは二
%以下で、財産上の問題でも一〇%以下だといわれている︵=窪讐ζoHωきPG蕊蕊○霧む昌妹ミト黛ミ黛ミ§織寒ミ§G§轟
留這魯舞ε曽︵おo。㎝︶●︶。しかし、どのようにして交渉がなされているか、どのような運営原理がよい成果をあげているかなどに
はほとんど関心が払われてこなかった。最近では、カリフォーニア州の家庭裁判所サービスでの監護調停の申立件数は増大し一九
︵棚村政行﹁カリフォーニア州における子の監護調停の実情﹂﹃続現代民法学の基本問題﹄六二冒ハ︵一九九三年︶参照︶。
九一年で六万五四九四件となり、利用者の八○%以上が子の監護養育プランを作成するうえで役立ったときわめて評判がよかった
マタアイザッタは、離婚のプロセスについてつぎのように説く。つまり、結婚と離婚は連続するもので、時間の経過の中で起こ
る一つのプロセスである。結婚が突如として破綻し離婚がはじまるのではない。離婚には、少なくとも三つのレベルがある。一つ
は心理的離婚︵評胃ぎ一〇鰍8一9ぎ器①︶で、夫婦の一方または双方が問題があるとみて、愛情による結び付きの喪失から関係を
ら開始することが多い。監護紛争を激化させる要因の一つは、夫婦双方が心理的離婚を達成しておらず、いまなお夫婦としての関
解消しようかと考えはじめるときに始まる。お互いに話し合いをしなくても、心理的離婚は起こり、法律上の離婚のずいぶん前か
わりを引きずる︵9ヨ①鴇8︶ことであろう。第二が社会的離婚︵ω8巨9<興8︶で、七段階での離婚プロセスを経る。第一段
る。第三に、家族は厳しいストレスに曝され、コミュニケーションも崩壊している。この段階になると多くの家族は専門家の援助
階で、父母は同居し子どもたちと暮らす。第二が、家族システム内での変動、関係の変動によりもたらされた緊張期間を経験す
の研究結果によると、離婚を経験した子どもの八○%はある朝目が覚めて、最も大切な人の一人である親が居なくなっていた経験
を求め、第一、二段階に戻ろうとする。第四段階では、一方が家を出るなど現実の別居が行われる。ワーラーシュタインとケリー
をしている。誰も心の用意ができないし、何があったのか言ってくれなかったという。第五段階では、子どもたちは心構えができ
ずに、突然のためひどいストレスを被る。当事者の一方または双方がこの段階でようやく弁護士に相談する。第六段階は、適応の
い。離婚をめぐる法制度的構造や法的概念は五段階か六段階に焦点をあてているにすぎない。七段階は、父母が再婚し落ち着きを
開始である。法的手続は終了するが、二つの家庭ができ、多くの実験が行われる。この期間が最も離婚の過程で葛藤と混乱が激し
子の監護調停の実務指針 三六九
早法七二巻四号︵一九九七︶
三七〇
取り戻して、生活に満足し親としてのエネルギーを取り戻す段階である。残念ながら多くの家族はこの最終段階に到達しない
︵ミ,讐ε器︶。第三の法律上の離婚︵い畠巴9<含8︶は、夫婦相互の関係を解消し、離婚後の親としての養育プランを決め、財
産の配分を定める。
問題︵9の貸一9江く①加雲霧︶、もう一つは当事者の継続的な責任、とくに子どもの監護養育という統合的問題︵ぎ$鷺簿貯①房雲窃︶
そして、マタアイザッタによれば、離婚には大きく分けると二種の問題があるという。︼つは、財産の分割や扶養という配分的
である。財産をどう分けるか、お金をどうとるかという配分の問題で、弁護士は不利な立場の依頼者のために訴訟を起こして多く
シュタインとケリーによれば、父母双方と継続的な関係や良好な接触を維持できた子どもは安定しており、離婚によるダメージも
をとる。しかし、第二の統合的問題では、弁護士と精神衛生の専門家は協力して家族の援助にあたらなければならない。ワーラー
課題や目標の達成のためのビジネスの関係に転換することだという。親密な関係に戻ったり友人的関係になることは精神的には困
少ないという。これまで、父母が友好的な離婚をすれば子どもは傷つかないといわれてきたが、離婚がうまくいくことは、共通の
者が離婚プロセスのどの段階にいるのか知れば、有効に家族に対する援助や介入を行うことができる。
難で現実的な話でもない。離婚のプロセスはショッタ、憤慨、適応、成熟という段階を経る。弁護士や精神衛生の専門家も、当事
そこで、マタアイザッタは、監護紛争を評価するに際して、家族を援助するすべての専門家にとって重要な質問事項は以下のとお
りだと説く。
①誰が重要な担い手・役者なのか
監護をめぐる紛争では、紛争の当事者は父母とはかぎらない。祖父母や継親、その他子どもとの利害関係をもつ者であることも少
らざるをえない。だから第一に、誰が重要な役割を演じている人たちかを聞かなければならない。
なくない。関係する全ての者が確認され、それぞれの人の役割が明確に理解されないかぎり、監護紛争の解決は限定的なものとな
② 基礎となっている動機はなにか
いのか。子どもの監護権をとりたいのは面子を守りたいからではないのか。
当事者たちが本当に子どもの幸せや利益を配慮しているのか。子の紛争は単に別れた配偶者と接触をもちたい無意識の方法ではな
③ 基礎にある二ーズはどんなものか
権利が子の二!ズと評価されたり結果が大人にも子どもにも悪いということもある。父母は他方が十分に良い親でありうる適格性
紛争当事者の基本的二iズを確認することは極めて重要である。二iズに対する態度を誤ってはならない。さもないと、父母の
や資格について現実的な不安を抱いているか。家族が離婚の再編を経るときに、個人的にまた集団的に、子どもたちの二ーズはど
うなるか。この答えはどのような態度をとるか、どんな解決策をとるかということではない。むしろ基本的な二iズを確認するこ
て上から順番に充足されなければならないとされる︵ミ﹄叶一8ε。
とであり、霞器δ≦によれば、身体的二iズ、安全、帰属、愛情、尊敬、自己実現︵のΦ〒霧ε讐鋸泣8︶であり、優先順位とし
④解決や合意成立の可能性はどのくらいあるか
決が不可能か好ましくない場合もあり、子どもの最善の利益を譲る解決はされてはならない。
当事者たちがどのくらい紛争過程で緊密であり、合意成立の可能性はどのくらいかにも注意しなければならない。合意による解
子どもをベッドに寝かせるのは誰か。子どもを学校に連れていくのは誰か。父母双方はどのように子どもの生活に関わっている
⑤ 家族の中で現実になにが起こり、家族システムとして家族はどのように機能しているのか
マクアイザッタの分類するクレーマー対クレ!マー型、三角関係型、子どもの選択型、欠陥家族型、複雑家族型、三世代家族型、
か。どのような養育計画が離婚後も子どもに両親との最大限の継続の可能性を与え、成功する親子関係を続けさせてくれるのか。
大変貴重である︵ミ9簿ε謡山80
。。︶
事情変更型など各種監護紛争類型ごとにとにふさわしい援助の在り方を模索すべきだとの提言は、わが国にも通ずるものがあり、
四 おわりに
ところで、最後に、カリフォルニア州上位裁判所ロサンゼルス郡での面接交渉を含む監護調停手続についてみて
おくことにしたい。まず、事実認定︵訂g占曇品︶の段階が最初にある。ロサンゼルスの家庭裁判所サービスの調
子の監護調停の実務指針 三七一
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三七二
停者︵ミディエーター︶は、まずはじめに双方の弁護士に会う。ロサンゼルス郡のように、当事者の弁護士に会う
のは、どんな問題点があり、どのような解決策がありうるかを知るために有益であることが多い。弁護士は、とく
に依頼者に現状を理解させるのに効果的である。二人の弁護士が中心的問題を確認し、弁護士と調停者が協力する
とき、有効な離婚後の監護養育プランを父母が作れるよう援助する協力関係が成立する。ロサンゼルスでは、監護
調停での裁判所や調停の役割、子どもの二iズなどを理解してもらうオリエンテーション・ビデオを見てもらうな
ど、視聴覚教育を取り入れた父母教育プログラムが充実している。カリフォルニァ州のすべての家庭裁判所では当
︵63︶
事者の教育啓蒙活動に力が入れられているが、注目すべき現象といってよい。最初のオリエンテーションや弁護士
との協議後、調停者は当事者双方に対して問題点を確認し、父母が紛争解決手続に関与するよう話しをする。調停
者は合同対席面接方式で当事者双方を交えた話し合いをするが、必要かつ適切と感じたときは個別単独に面接する
こともできる。
つぎに、子ども本人とも面接するが、多くの場合子どものインタビューは有益である。子どもとの面接の目的
は、子どもがいずれの親について選択するかどうかではなく、養育プランはどんなものでも、子どもの二ーズを中
心に形成されるように子どもの二ーズを把握するためである。調停者は、子どもと面接することで家族への多くの
洞察を得る。利点は、子ども自身もプロセスの一部であると痛切に感じることといわれている。調停者と会うこと
は、子どもたちが現状がどうなっているのか理解する助けともなる。調停者は、子どもをもつ父母とも会うが、子
どもの最善の利益となる合意に達するのに不可欠な子どもの成長発達についてのデータ、調停者への特別な信頼感
を得ることにも資する。子どもにとって重要な関係にある継親、祖父母そのほかの人にも面接することも行われ
る。
第二段階として、問題点や二ーズの確認、双方の利益のための選択肢の形成の段階に移る。当事者たちは問題点
を出し合って話し合いをし、予備的な合意を形成する。争いのある点を検討して、調停者は子どもへの影響を基礎
にこれらの問題点を解決する採りうる方法を当事者たちの話しや提案の中から分析する。調停手続で最も有用な手
段は、ひとたび問題点が確認されると、共通の利益となる選択肢を探すことである。たとえば、子どもが一方の親
と暮らしているとき、その親が休暇や仕事の都合で遠くへ行っているとき、子どもは他方の親と一緒に過ごす。こ
れはすべての大人にとって共通の利益となり、子どもが両親と接触でき子どもの世話を別の人に頼まないでもす
︵64︶
み、お金の節約にもなる。
第三段階は、合意の形成のプロセスである。当事者にとっても、子どもにとっても利益となる合意に達すると.
調停手続は最終段階に入る。合意案の実施と検討の段階に入り、ロサンゼルスでは、調停者が合意を書面化し、そ
の合意のゴピーをそれぞれの弁護士に検討してもらうよう渡す。そして、それでよければ、裁判官に裁判所の命令
という形で審査し出してもらう。決定書に署名がなされると、弁護士のところへ送付され、ロサンゼルスでは送達
の日から一〇日間異議の申し出がないかぎり、決定が確定する。ロサンゼルスでは、将来この合意を変更すること
ができるとされる。合意が成立しなければ裁判所に戻り、新しい訴訟として別個の決定を求めなければならない。
第四に、父母教育プログラムの充実が重要である。ロサンゼルスでは、父母の養育プラン形成援助のための夕刻
からのプログラムがあり、毎月第一水曜日の七時から、さまざまな監護養育プランを探り、離婚プロセスヘの情報
を提供する﹁監護オプション﹂セミナーが無料で開催されている。また、第二週目の水曜日も、午後七時から結婚
子の監護調停の実務指針 三七三
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三七四
のためのセ、、、ナーが開かれ、離婚セ、、、ナーなども家庭裁判所サービスの主催で行われ、平均三〇〇人以上の人が参
加して勉強している。
︵65︶
員にはどのような役割が期待されているといえるだろうか。
ところで、カリフォルニア州の監護調停の実情を参考にして、日本を考えてみるときに子の監護紛争での調停委
第一に、わが国の調停委員にも、裁判官との評議にもとづき、調停手続の管理役・マネジャーとしての役割が求
められる。つまり、子どもの監護をめぐる紛争を担当した調停委員は、裁判官や調査官等と事前に相談して、調停
手続の進行や手続管理のプランをたてなければならない。紛争の複雑性、当事者双方の敵対性︵ぎω豊蔓︶の程度、
弁護士と依頼者との性格パターン、監護養育能力、協力の可能性その他の事情にもとづき、異なった戦略や関与方
法のプランが立てられなければならない。このようにして、子の監護事件の調停委員は、当事者の葛藤を減少させ
協力を促進するたに、基本的に調停手続をコントロールし交渉を管理する権限と役割が与えられているといえる。
第二に、調停手続の導入役としての役割も重要である。すなわち、調停委員は、司法制度の一環としての調停手
続やその運営状況について、当事者に対してオリエンテーションをしなければならない。また、調停委員は、導入
の段階で、当事者の信頼や協力が得られるように、効果的な交渉スタイルや紛争のエスカレートを積極的に防止す
べく、父母を教育することに力を入れる。当事者たちがしだいに慣れてくるにつれて、調停委員は、当事者の自発
的発言を促し整理役に徹することになる。
第三に、調停委員は、事実の認定役及び問題点の引き出し役もしなければならない。つまり、調停委員は、調停
手続の初期段階では、紛争の基礎となる事実やその背景、原因を確定し、争点を明確化するよう援助する。とく
に、当事者の心理的調整や子どもの意向、生活状況等で調査が必要な場合には、裁判官と評議して、調査官の関与
を求め、調停委員は当事者が紛争を解決するのに必要な情報を得るための援助やアドバイスを求めることができる
よう努めなければならない。ロサンゼルス郡では、子どもの監護評価者︵9まeω8身Φ毒冨讐旦が、書面での報
告書を作成するまえに家族や調停者と会い事実認定や勧告すべき監護養育プランの説明をするフィードバックプロ
セスを活用するケースが多くなっている。
︵66︶
第四に、子どもの利益の推進役として、調停委員に期待される役割も大きい。子の監護事件での調停委員は、子
どもの最善の利益になるプランを引き出す責任を負っている。この責任は、調停委員会に、当事者の利益だけでな
く、子どもの利益を解決の中心におくことを要請する。ロサンゼルスで解決される紛争の約四〇%は、子どもが面
接されている。子どもの面接の目的は、誰と暮らしたいか、その選択を聞くのではなく、調停者が子どもの二ーズ
を知り、調停手続で子どもの二ーズが守られるようにするためである。わが国の調停委員は、裁判官とともに、調
査官の協力をえて、子どもの最善の利益となるような合意の成立に努めるべきことになろう。
第五に、調停委員の役割は共通の利益のための解決案の確認役にも及ぶ。子どもの監護事件の調停委員の最も重
要な役割は、当事者の共通の利益になるための解決案を引き出し提案することかもしれない。調停委員はたくさん
の紛争を処理するため、類似の状況下での解決例に詳しいかもしれないが、個々のケースはそれぞれの特殊事情に
よって規定されていることを忘れてはならない。
︵67︶
第六に、調停委員が、裁判官との評議により、心理療法や治療的プロセスの推進役となる場合もある。つまり、
調停委員会は、面接交渉や子の監護紛争を効果的に処理するため、あるいは調停による話し合いを進める前提とし
子の監護調停の実務指針 三七五
早法七二巻四号︵一九九七︶ 三七六
て、当事者が極度に精神的混乱状態にあったり、専門医の診断や治療が必要とされるケースでは、カウンセリング
調査官、医務室技官である精神科医に必要な措置をとるよう求めることになる・
第七に、調停委員会は、合意の起案役としての役割を果たす。つまり、調停委員会は、当事者双方の意向や二ー
ズ、子どもの利益に合致した合意案を起案する。この合意案は、具体的事件における個々の家族の二ーズや利益を
しなければならない。
反映したものでなければならず、合意条項が標準的合意から選択された定型的合意で安易に作成されないよう注意
このように子の監護紛争を担当した調停委員ないし調停委員会には、調停手続の管理役、調停手続の導入役、事
実の認定役、問題点の引き出し役、子どもの利益の推進役、共通の利益となる解決案の確認役、カウンセリングや
治療へ回す役、合意の起案役など、他の関係者とともに協力しつつ、多用な役割が期待されている。しかし・現状
では、裁判官、調停委員、調査官、弁護士、当事者などの明確な役割分担と相互協力関係について、個別的事件類
︵68︶ ︵69︶
型ごとに必ずしも統一的に整理されているとはいいがたい。そこで、本稿では、こうした子の監護に関する処分事
件、とくに面接交渉の調停事件の実務指針につき、カリフォルニア州の研修用マニュアルを参考にしつつ、全くの
素案として、手続のはじめから終わりまでの時間的経過をフローチャートのように提示してみた。現在、子の面接
交渉をめぐる調整困難な事件が家庭裁判所に多く係属しつつあるが、今回の実務指針は全くの叩き台にすぎない。
マニュアルの必要性や有効性自体に対する疑問を含め、これを機に、裁判官、調停委員、調査官、弁護士、当事者
用のマニュアルのようなものについて、大いに議論され、多くの試案が示されることを期待して、ここではひとま
ず欄筆する。
︵64︶ の禽竃o一ωきP。り愚ミ8け①ON︶讐一〇ωρ
︵63︶ 棚村政行﹁子の監護調停における父母教育プログラム﹂ケース研究二四三号二四頁以下︵一九九五年︶参照。
︵65︶ 脳黛鉢
詳しい。
︵66︶ 小林正夫﹁子の監護事件を巡る調査の在り方ーアメリカのさまざまな試みi﹂家月四七巻八号一八九頁−一九三頁︵一九九
子の監護調停の実務指針 三七七
いる。しかし、当事者の復讐心や憎悪を煽ったり、一時的な二ーズに依拠したりするのではなく、冷静に当事者が離婚の過程で協
る。弁護士の中には、依頼者が自分の利益になると主張することは何でも最大限追及することが義務であると感じて行動する者も
過度な期待を抱いていたりすることがしばしばある。弁護士は、実現可能なこととそうでないことを依頼者に理解させる必要があ
弁護士は、依頼者に現実を認識させる役割も果たさなければならない。つまり、依頼者は現状を正しく認識していなかったり、
でなく、夫婦としての役割や地位に関して不利にならないよう活動しなければならない。
弁護士の役割で重要なのは、財産の分割や離婚後扶養などの配分的問題で当事者の利益を代弁することであり、親としての役割
ができよう。
れないことが多い。紛争に感情的に関わっていない弁護士なら、依頼者の立場から、何が大切な問題か明確かつ的確に述べること
立葛藤が激しいため、問題点を明快に提示できず紛争の性格や子どもの監護養育のために利用できる能力等について十分に伝えら
弁護士は、調停者が紛争の問題点を理解する手助けとなるため、事実確定のプロセスで重要な役割をはたす。父母は感情的な対
くれる人ですよ﹂というのが最も良いと言われている。
のには、﹁この人は、あなたと相手方とが、離婚後どんなふうにして子どもの親として振る舞ったらよいか合意の形成を援助して
を認識する必要があり、そうでなければ、正式な裁判か鑑定評価によらざるをえない。弁護士が調停者の役割を依頼者に説明する
面は、依頼者のために調停の準備をするところからはじまる。父母は監護訪問に関する自分たちの合意を形成する場所として調停
︵69︶ なお、子の監護調停における弁護士の役割はきわめて重要である。ロサンゼルス郡では、弁護士が調停手続に関わる第一の場
えよう。
︵68︶ 名古屋家庭裁判所の調査官による共同研究の成果である、永田ほか前註︵10︶所掲論文89頁以下は大変参考になり、必読とい
︵6
7︶ 野田愛子﹃ファミリー・カウンセリング﹄二盲ハ︵一九九〇年︶参照︶。
五年)に
早法七二巻四号︵一九九七︶
三七八
どもの監護養育のためにどの部分で協力することができるか、合意作りを促進することが弁護士の重要な役割ではなかろうか。
力すべき点は認め紛争を適切に処理する二ーズにも注目しなければならない。いたずらに対決や相違点を主張するのではなく、子
役、依頼者の説得役、適正な手続の監視役、合意履行の監督役などきわめて重要な役割を期待されている。
したがって、調停手続においても、弁護士は、調停手続の紹介役、事実の確定・争点の提示役、共通の利益となる解決案の提示
出席についての選択権を認めている。しかし、ディラウェア州の経験では、子の扶養料の調停をする当事者は一般にこの選択権を
アメリカでの調停期日への弁護士の参加についても多様である。ディラウェア州、メイン州、オレゴン州は当事者達に弁護士の
ヨ!タ州の改革提案は調停者に弁護士の出席を認めるかどうかの選択権を認め、メイン州ではむしろ調停期日への弁護士の出席を
行使しない。キャンザス州、コネティカット州は弁護士の出席を一切認めないし、カリフォルニア州、ウィスコンシン州、ニュー
奨励しているといわれる。このように調停期日への弁護士の出席をめぐっては賛否両論がある。賛成論は、調停者は法律的意見や
アドバイスをしないため、弁護士が頼りになる情報源となるとか、弁護士がいることで依頼者は安心したり心強いという心理的効
果があるとか、あるいは、対審構造の訴訟への非現実的な期待をもつ依頼者のため弁護士が現実性のチェック機能をはたすとも言
う。しかし、他方で実際に調停に弁護士が出席することで依頼者の弁護士費用の支払い額は増加するし、別な人間が入ることで集
あるとの批判もある。弁護士の中には論争的な人もいたり、また依頼者に前もって調停中協力しないよう指示するものもいるし、
団心理や相互関係が錯雑化することもある。弁護士が出席すると、調停手続が対審構造的になり、当事者が対決姿勢になる傾向が
ることがかえって当事者達のコミュニケーションを阻害することにもなりかねない。ときとして、調停者は当事者達ではなく、む
依頼者がいるにもかかわらず、弁護士が依頼者の代弁をするといってまくしたてる人もある。このような場合、結局、弁護士が出
スをとるのに苦労したり秘密保持やプライバシー保護という面からもマイナスに働くことさえあるといわれる︵棚村政行﹁アメリ
しろ弁護士への対応で追われることにもなる。また、一方の弁護士しか出席していないときは、調停者は当事者の力関係のバラン
カ合衆国における離婚調停の展開﹂アメリカ法[一九九四⊥]一四頁参照︶。森有子﹁夫婦・親子関係調停に関与する弁護士の在
り方﹂判例タイムズ七四七号五三〇頁以下︵一九九一年︶は大変参考になり、わが国でも弁護士用マニュアルの必要性は大きい。
お子さんとの面会交流をされる方へ
子
の
監
藷
房 スムーズに交流を深めてゆくためのルール (試案)
実
ドロロコラロロリリコリドドロリコ ドロロロ コロしドロ ロリリコドロロ ドロ ハヨ ロマト コドドドロロロロロコロドロヘロ コドドロドリココリロドドド コ
務: :
指11.一緒に暮らせないお父さんお母さんと子どもとの面会や交流を :
針置 丘
ヒ し
i 維持することは,ひじょうに大切です。 i
I I
し一一一一一一一一一噌一一一一一一一嫡一一一一一一一一一一一一一一一一層一一一一一一一鞠一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一』
お子さんは,お父さんお母さんの一方と会えなくなった事情がわから
ず,捨てられたという喪失感に悩んだりします。また,自分自身が悪い
子だったから,父母が離れ離れになったと思い込んだりして自分を責め
る子もいます。お子さんに,こんな切ない気持ちを味あわせないめに
も,一緒に暮らしていないお父さんお母さんとの適切な交流は必要でし
ょう。また,お子さんのためばかりでなく,お父さんお母さん双方の再
出発のためにも,面会交流の機会を積極的に活用したらいかがでしょう
か。
「一一一一一一一一r一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一隔一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一層一一一一一一一r一一一一一一一一一「
ド し
コ ヒ
:2.夫婦問のもめごとや過去のゴタゴタを,子どもの面会交流の機 :
『 1
し ヒ
i 会に,持ち出すことだけは避けてください。 i
I l
L一_一_一__一唱一_____一r_____一一一____一一__一_一一一___曙_一______一___一___一一一一_一一一一_一一一___旧一」
とくに,子どもに相手方の悪口を言ったり,欠点を指摘するようなこ
とはしないでください。子どもたちは,自分の親の悪口を言われて楽し
いはずもありません。お父さんお母さんに対する非難や攻撃を自分たち
に対する攻撃や非難と受けめがちです。憎しみや否定的評価の中から,
モ人間への信頼や愛情は育ちません。夫婦だったときの争いは棚上げし
九
て,お子さんのまえでは,感情的になったりすることは控えてほしいも
のです。
「
し
13.小さなことでも,お互いの約束したことはきちんと守りましょう。 i
どんな些細なことでもお互いの約束を守ることカ㍉相互の最低限の信羨
七
頼につながります。たとえ小さなことでも,約束を守らなかったりする 二
巻
と,そこから不信感が生まれてきます。あなたがもし約束を守れないと 四
号
きには,できだけ早くそのことを相手方に知らせなければなりません。 一
相手方に伝えないでいると,不誠実だと疑われたり,また,子どもたち究
七
から見ても,会いたくないのかと誤解されたりします。 )
r 一一 冊 一一 一 一 冊 一 一一 『 一一一 『胃卿一一一ア 圃一 一 一 一一r一 一 一一 r 騙冒冒雪一 一 一一 r一一一層一 一一− 一一 冊一 一_ 開冒雪幽_ _一 一一 _冒 一 一一甲冒一 一 _
:4.子どもとの面会や交流の日程は無理のないように。子どもの希 i
ロ
ド
i 望やべ一スを第一に考えましょう。 :
し一一一一一一一一一一一一一一一一一一_一一_一___一一一__一_一___一一一_一__一一___一____一__一一_________一_一_一一__」
面会や交流の時期,方法,場所などについては,自分の都合ばかりで
なく,相手方や子どものスケジュール等も配慮する必要があります。お
子さんの年齢や健康,お友達や塾などの日常生活の状況やお休みの日程
などを知らせてもらい,お互いに無理のないスケジュールを立てなけれ
ばなりません。一方的で無理な取り決めは,決して長続きはしません。
子どもの希望や体力,ぺ一スを第一に考えて,よく話し合う必要があり
ます。
:5.子どもをいろいろな人に合わせるのは馴れてきてからにしま i
i しょう。 1
コ
L一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一__一一一__一一一_一一__一___一一____一_一___一一___一一一一__一__一一_____一一_」
この機会にと,子どもをグループ旅行に連れ出したり,祖父母や親族
とも会わせることがあります。しかし,面会交流は,親と子が互いに一
緒に時間を過ごし,心身の交流をする大切な時間ではありませんか。大三
八
勢の人が入ることで,父母とのせっかくの交流の時間が少なくなり,子○
どもが気をつかってくたびれてしまうこともあります。
r一一一一一一一一一一一一一一一層囁一一一一騨一一一冊門『一一一P一一雪噛一一一一冊一一一田柵一一一一一一一需一一一一一一一冒一層一『一『一一一一一一,}■
i6.相手方の生活や様子をねほりはほり聞き出すのは止めましょう。 :
勇 他方の親の様子を調べるために,子との面会交流の機会を利用すべき
ぽ
護ではありません。子どもを小さなスパイに使ってはいけません。子ども
調
停が双方の親に過度に気を使い,双方の板挟みになったりするからです。
の
実子どもが話したいこと,楽しかったことだけ聞いてあげてください。
務
才旨 r一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一”””一曹”一一一”一”冒一””””1
針l l
l7.他方との面会交流を積極的に支えてあげてください。 、
子どもが普段暮らしていない親と会って帰ってくると,楽しく一部始
終を報告したりします。でも,お母さんが嫌な顔をしたり,楽しそうに
聞いてくれないと,子どもも何か後ろめたい気持ちをもったりします。
また,子どもたちは面会や交流の後,昔のことを思い出したり,「なぜ,
お父さんとお母さんが別れたの?」と詰め寄ったり,精神的混乱や不安
定さを示すことがあります。このような問題は避けられず,子どもたち
自身が現実を肯定的に受入れられるよう温かく包み援助するようにして
あげてください。そして,離れて暮らすお父さんお母さんとの交流をで
きるだけバックアップしてください。
一一再一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一隔一一一一一一一隔一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一1
r
i8.相手の教育方針や躾けなどを混乱させないように注意してくだ:
1 さい。 l
L一一_一一__,_一_一一_____一__一一一一__一___一__一一__一一__一一__一一__一__一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一」
とかく,一緒に暮らしていない親は,子どもへの申し訳なさから,つ
いつい甘くなり,プレゼントでも,行き先でも子どもの言いなりになっ
てしまいます。相手方の教育方針や躾けと衝突するような面会交流は,
三 トラブルのもとになります。高額な金品を与えたり,行き過ぎたサービ
八
一 スをして子どもの御機嫌をとるのはやめましょう。新しいお父さんお母
さんがいる場合も,新しい家庭での子育てが混乱しないよう十分配慮す
る必要があります。
r − − 一 一 『 一 一 曹 } 一 一 噂 一 一 胴 一 田 } 一 一 一 一 一 一 一 一 『 一 一 一 一 冊 一 一 一 − 甲 r 一 一 圏 r 噌 糟 一 甲 冒 一 一 _ ¶ 一 響 一 一 _ _ _ 冊 田 一 一 F _ _ } 一 一 一 _ 鼎 層 一 一 _ 層
「
:9.子どもについての大切な情報は,できるかぎり伝えておきま i
i しょう。 :
I l早
L””一一”一一一一一一一一一一…一一一…一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一一一一」法
七
お子さんとの面会交流は,ただ会って食事をしたり話したりするだけ 一
悪
ではありません。普段から,子どもの様子,健康,学校での勉強など大 四
号
切なことは,できる限り伝えるようにすることが大切です。それによっ一
て・離れているお父さんお母さんも子どもと糸匿続的に接していると感じ究
七
ることができます。また,両者で協力して子どもの問題を適切に処理す)
ることも可能になってきます。たとえ,写真一枚,葉書一枚,電話一本
でも,心さえこもっていればお互いの心は通じるのです。
r 一 一 『 一一 一 一 『 一 一 一 一 一 層 雪 薗 一 甲 一 髄 一 一 冒 一 一 臼 ” 一 一 一 祠 一 一 一 甲 層 一 一 闇 冒 一 一 響 一 一 一 r 一 一 一 一 胃 一 一 一 r 隔 一 一 一 r 卿 一 一 一 胃 一 一 _ 一 需 一 一 一 甲 一
「
に
:10.子どものために何が幸せかをつねに考えてみてください。 i
I
問題が起こってきたりうまく行かないと,ついつい何もかも相手方の
せいにしがちです。落ち着いて,自分自身の二一ズとは違うお子さんの
二一ズや利益を考えてみてください。夫婦としては良い夫婦になれなく
ても,親として子どもにとって良い親であり続けられるようにお互いを
尊重する必要があります。どうしたら,子どものためになるか,子ども
のためにそれぞれ何ができるかを二人でじっくり話し合ってみてくださ
いo
八
お尋ねしたいこと(面接交渉)
(試案)
勇 1.申立人・相手方
監
氏名
本籍
住所
護 2.本籍・住所
調
停 ⑰
の
実
明・大・昭 年月 日生 満 歳
務3.生年月日
指
職業
針 4.職業・勤務先
5.連絡先
勤務先
費
6.子の氏名等男・女子の氏名
男・女子の氏名
男・女子の氏名
7.子の心身の状況
(1)健康状態はP
(2)精神状態はP
(3)発育状況は?
8.子の生活歴
(1)出生時の状況はどうでしたか?
(2)家族との生活関係はP
(3)現在までの監護状況はP
9.子の生活状況
(1)家庭での生活はP
(2)学校での生活は?
ム10.子育てのプラン
(1)監護の実績はどうですかP
(2)子との交流接触はP
年月日生 歳
年月日生 歳
年月日生 歳
(3)教育的関心は?
(4)子育てのへの配慮についてはP
早法七二巻四号︵一九九七
11.面会交流への希望
(1)面会交流をしたい理由はP
(2)面会交流をさせたくない理由はP
(3)時期・回数はP
(4)具体的方法・条件についてP
12.子のスケジュール
(1)一週間の予定
月曜
火曜
水曜
木曜
金曜
土曜
日曜
(2)一年間の予定
1月
7月
2月
8月
3月
9月
4月
10月
5月
11月
6月
12月
(3)子どもの誕生日
その他特別な日
・3・その他(親のスケジュールなど重要と思われることを書いてください)命
絞り込み
事実の確定と争点の
交渉・解決案の析出
④↓
当事者 の 事 情 説 明
↓
⑤↓
③↓
調停参加の合意
画
↓
↓ ⇒ ↓
↓
⑦↓園閣圖
調停条項案の作成
⑥↓ 合意成立の可能性
↓
裁判官との評議≒調査官の関与
②↓
↓
園剛圓 .
↓ 儲燦等一
↓ ク⋮の性力.
二始争暴⋮
↓ イ爾性急⋮
⇒ け 翻 覇 翫
子の監護調停の実務指針
調査官による期日立会・期日間調整・意向調
査・面接交渉の試験的実施等の関与
調査官による
事前調査・導入
調整
①一園圏㎜
子の監護(面接交渉)調停事件の進行(調停委員用
裁判官との評議
三八五
Fly UP