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公共施設の計画・維持管理にかかる 防犯環境設計の研究開発
公共施設の計画・維持管理にかかる 防犯環境設計の研究開発 Research and development of CPTED(Crime Prevention Through Environmental Design) for planning, operation and maintenance of communal facilities 前川裕介 *1 Yusuke MAEKAWA Ken YONEYAMA 米山賢 *1 花原英徳 *1 星野渉 *1 Hidenori HANAHARA Wataru HOSHINO 近年、犯罪発生の抑止と犯罪発生への不安感を低減していくことが、重要な課題となっている。 ここでは、防犯環境設計に係る研究開発として、公共施設における利用実態に係る情報と犯罪発生 への不安感について分析し、周囲からの見守り状況、地域内の情報、公共施設周りの土地利用現況 が、利用実態や不安感発生に繋がる要因となることを明らかにした。 キーワード:防犯環境設計、犯罪発生への不安感、公共施設、周囲からの見守り状況、土地利用 1.研究の背景 近年、道路や公園といった身近な公共施設におけ る犯罪発生が多発していることや防犯上の不安感の 増加が課題となっている。不安感の増加には、犯罪 発生の実態だけではなく、徒歩等による外出機会の 減少、整備維持管理にかかる公共負担枠の減少、公 共施設周辺における民間開発等の経済状況の悪化が さらなる影響を与えている。 これに対し、我が国において、いわゆる「防犯ま ちづくり」の取り組みが本格的に進められるように なったのは、旧建設省・警察庁による「安全安心ま ちづくり実践手法調査」以降である。特に市街地整 備に関しては、全国都市再生の緊急措置の一環とし て「防犯まちづくり関係省庁協議会」にて検討した 「安全で安心なまちづくり~防犯まちづくりの推進 ~」が、現在の 防犯まちづくりの大枠を示してい る。その後、「犯罪から子供を守るための対策に関 する関係省庁連絡会議」より「犯罪から子どもを守 るための対策」も示されている。 各自治体では、防犯まちづくりに係る計画を策定 し、小学校区単位を中心とした防犯まちづくりの取 り組みが積極的に進められており、今後も防犯環境 設計に係る整備・維持管理を積極的に進めていくこ とが必要である。 被害対象の強化・回避 2.研究の目的 本研究開発では、新たな計画・再整備時、維持管 理時において、公共施設管理者による防犯環境設計 の積極的な採用と維持管理にかかる地域協働体制の 構築を目的とし、公共施設単位の現状把握と分析整 理、防犯環境設計にかかる業務の展開手法の検討が 必要となる。 そこで本研究開発では、公園や道路に代表される 身近な公共施設の利用実態、犯罪情報、不安感・安 心感の要因などを詳細に分析整理した。 また、具体的な公共施設の維持管理にかかる運 営体制として、どのようなビジネスモデルが考えら れるかについて、セキュリティ会社とのワークショ ップを通じて、考察を行った。 3.平成21年度の研究内容 平成21年度の研究テーマは以下の4点とした。 ①公共施設の利用・犯罪情報・不安感等に係る 実態把握 ②不安感・安心感に寄与する要因分析 ③今後のトレンドに係る調査分析 ④具体的なビジネスモデルの考察 ①では、街区公園規模を中心とした公園や主要生 活道路を中心とした道路を対象とし、現状を把握す るための住民アンケートを実施した。②では、アン ケートデータを基に、不安感・安心感とその要因の 関係について分析・整理を行った。③では、今後の 防犯分野のトレンド検証として、近年の全国の公園 における犯罪発生を例とし、新聞記事の収集整理を 行い、記載された犯罪の特徴を分析・整理した。④ では、セキュリティ会社や不動産開発事業者・学識 経験者との意見交換・ワークショップを行った。 ①~④の研究を通じて得られた知見から、今後の 研究開発や業務への反映について、提案事項を整理 した。 接近の制御 犯罪企図者 被害対象者 ・対象物 監視性の確保 領域性の強化 地域住民等 (目撃者) 図-1 防犯環境設計の4原則 *1 東京本社 社会システム部 防災室 Community Affairs - Research & Analysis Division,Disaster management Division, Tokyo Office - 65 - わかりやすいアンケート設計と学校経由の配布回収 により、回収率は、83%(693世帯)に達し、地域の生 の声を把握できた。 3.公共施設の利用・犯罪情報・不安感に係る実 態把握・分析・・・① ・公園における利用実態・犯罪情報・不安感 に係るアンケート調査(松戸市) ・道路における利用実態・犯罪情報・不安感 に係るアンケート調査(小山市) 4.不安感・安心感に寄与する要因整理 ・・・② 防犯上の不安感・安心感にかかる考察 (3)調査票の構成と分析 アンケート調査票は配布対象とした世帯を単位と 6.具体的なビジ する個票であり、公園の特性を分析するために、公 ネスモデルの考 園単位の回答数を集計した。 察・・・④ 表-1 アンケート調査票の構成 CSP、森ビル、 東大との意見交 換・ワークショ 設問項目 1.利用 状況 内 容 ・よく利用する、あまり利用しない、利用しない ップの開催 2.防犯上 の評価 5.公共空間犯罪のトレンド分析・・・③ ※5カ所 まで記載 全国の公園における犯罪記事の収集分析 2.1 安心できる 2.2 危険情報がある 2.3 不安を感じる 2.4 子どもだけで 利用させない →①安心できる理由※ →②危険な情報内容※ →③不安を感じる・ 利用させない理由※ ・自宅に近接、徒歩 5 分未 満、徒歩15 分未満、徒歩 15 分以上 ・自由記載 ※①~③で回答した 公園までの距離 3.防犯に係る要望 「危険な情報内容」については、認知犯罪だけで なく、未遂からヒヤリハット情報も積極的に対象と し、潜在的な犯罪発生情報と公園利用状況、住民の 安心感・不安感等との関連性について多角的に分析 した。 7.今後の研究開発や業務への反映についての提案 図-2 研究のフロー 4.公共施設の利用・犯罪情報・不安感に係る実態 把握 4-1 公園における利用実態・犯罪情報・不安感に係 るアンケート調査(松戸市) (1)調査対象公園 新旧の住宅地や商工業地が混在する千葉県松戸市 内の10小学校周辺地区内の124箇所(プレ調査校:1 校・18箇所、本調査校:9校・106箇所)の公園等※ を対象にアンケート調査を行った。(※街区公園を 中心とする) 警察認知データ 学校安全指導に 係る情報 認知犯罪 ・未遂 今回の調査 で得た情報 潜在的な犯罪発生情報 潜在的な犯罪発生 潜在的な犯罪発生情報と公園利用状況、 住民の安心感・不安感等との関連性に ついて多角的に分析 図-4 今回の調査で得た犯罪情報 (4)公園に対する防犯上の評価 「おおむね安心」 ・ 「不安を感じる」の評価がなさ れている公園が9割以上( )、 「防犯上の理由で、 子どもだけでは利用させない」が7割以上( )、ま た、 「危険情報がある」 が6割以上( )となっている。 表-2 公園に対する防犯上の評価 回答項目 図-3 松戸市内 10 小学校周辺地区における 調査対象公園(124 箇所<本調査 106 箇所>) (2)アンケート調査の実施 アンケート調査は、幅広い犯罪情報、公園利用状 況、住民の安心感・不安感等の実態を詳細に把握す るため、児童のいる833世帯へアンケートを実施した。 - 66 - ■防犯上安心 できる ■危険情報が ある ■防犯上不安 を感じる ■防犯上の理由 で、子どもだ けでは利用さ せない 公園単位の回答数 本調査:106 箇所 参考:のべ回答者数 本調査:2,954 人 100 箇所/94.3% 1,336 人/45.2% 66 箇所/62.3% 385 人/13.0% 96 箇所/90.6% 836 人/28.3% 79 箇所/74.5% 397 人/13.4% (5) 「危険な情報内容」の内容 危険な情報内容については、 「露出・わいせつ行為」 情報がある公園が約4割( )、 「声かけ・追いかけ」 情報がある公園が約3割( )となっている。 「その他」の情報は、 『少年・大人のい集』や『未 成年の喫煙』 、 『不審者・ホームレス』 、 『見通しの悪 い箇所』が中心となっている。 表-3 危険な情報の内容 回答項目 ①暴行やけんか ②大人による恐喝 ③子どもや少年に よる恐喝 ④ひったくり・置 引き ⑤自転車盗 ⑥声かけ・追いか け ⑦露出・わいせつ 行為 ⑧その他 公園単位の回答数 本調査:106 箇所 表-4 危険な情報の内容 参考:のべ回答者数 本調査:391 人 9 箇所/8.5% 8 箇所/7.5% 11 人/2.8% 10 人/2.6% 10 箇所/9.4% 18 人/4.6% 8 箇所/7.5% 13 人/3.3% 5 箇所/4.7% 6 人/1.5% 31 箇所/29.2% 111 人/28.4% 39 箇所/36.8% 100 人/25.6% 43 箇所/40.6% 122 人/31.2% 不安を感じる・ 子どもだけでは 利用させない理由 公園単位の回答数 公園単位の回答数 回答項目 本調査:106 箇所 本調査:106 箇所 ■公園にたどりつくまで~公園の周囲について 75 箇所 1)公園にたどり着くまでの通 59 箇所 り道の安全性 /55.7% /70.8% 66 箇所 2)公園の周りで犯罪・不審者な 46 箇所 /62.3% どの情報の有無 /43.4% 57 箇所 3)公園の周りの路上駐車等の 53 箇所 /53.8% 有無 /50.0% 81 箇所 4)公園の周りの建物等からの 59 箇所 /76.4% 人目の有無 /55.7% 77 箇所 61 箇所 5)公園の周りの人通りの有無 /72.6% /57.5% 81 箇所 6)公園の周りから公園内への 55 箇所 /51.9% /76.4% 見通し ■公園内について 67 箇所 7)公園内の犯罪・不審者などの 42 箇所 /63.2% 情報の有無 /39.6% 75 箇所 8)公園内へバイク等の進入の 36 箇所 /70.8% 可否 /34.0% 83 箇所 49 箇所 9)公園内での見通し /78.3% /46.2% 33 箇所 55 箇所 10)公園内の照明により夜間の /31.1% 明暗 /51.9% 72 箇所 49 箇所 11)公園内の昼間の暗がりの有 無 /67.9% /46.2% 安心できる理由 (6) 「安心できる理由」と「不安を感じる ・子どもだけで利用させない理由」 本アンケートでは、 「安心できる理由」と「不安を 感じる・子どもだけで利用させない理由」について、 22項目の選択肢(要因)を設定し、結果を整理した (表4参照) 。 なお、22項目の選択肢は、以下3つの視点を踏ま え、設定を行った。 25 箇所 /23.6% 12)公園内のトイレや倉庫等の 位置やデザイン 46 箇所 13)公園内の遊具などの位置や /43.4% デザイン 59 箇所 14)公園内の樹木や植栽の位置 /55.7% や高さ ■その他、公園の利用や維持管理の状況などについて 70 箇所 15)公園の利用者数 /66.0% 66 箇所 16)公園利用者の知り合い有無 /62.3% 17)公園内のトイレ・倉庫・遊 47 箇所 具などの補修などの手入れの /44.3% 状況 63 箇所 18)公園内の樹木や植栽などの 手入れの状況 /59.4% 69 箇所 19)公園の施設に落書きや破壊 /65.1% 行為、ゴミの投棄の有無 20)地域住民による清掃や花壇 47 箇所 の管理等の自主的な活動の有 /44.3% 無 44 箇所 21)地域住民による防犯パトロ /41.5% ール活動の有無 43 箇所 22)その他 /40.6% ■ 公園までのアクセス(自宅~公園周囲) ■ 防犯環境設計の4原則(図 1 参照) ■ 公園の利用や維持管理状況 「安心できる理由」 ・ 「不安を感じる・子どもだけ では利用させない理由」に共通して「周囲の建物か らの人の目」 、 「公園の周りから中への見通し」 、 「公 園内での見通し」 、 「利用者数」 、 「夜間の暗がり」と いった『監視性の確保』に係る要因が多い( )。 一方、 「公園内のトイレや倉庫の位置・デザイン」 、 「公園内の遊具の位置・デザイン」と『デザイン』 に係る要因は少ない( )。 また、 「公園内施設の補修・手入れ」 、 「清掃・美化 活動」 、 「防犯パトロール活動」等の『維持管理状況』 が他の項目に比べ要因として、少ない( )ことが明 らかになった。 松戸市では、街区公園の仕様(遊具・トイレ・樹 木植栽の設置)が概ね統一されており、自由度の少 ない空間構成となっている。 一方、子どもの遊び場は、時限的な遊び場である ため、特別な設えがなく、規模や仕様も統一される ことなく、球技等の広場として積極的に暫定利用さ れている。 34 箇所 /32.1% 26 箇所 /24.5% 48 箇所 /45.3% 55 箇所 /51.9% 45 箇所 /42.5% 32 箇所 /30.2% 33 箇所 /31.1% 39 箇所 /36.8% 27 箇所 /25.5% 42 箇所 /39.6% 46 箇所 /43.4% (7) 具体例にみる防犯環境設計上の課題 ①「露出・わいせつ行為」の情報が多い公園 図-5の公園は、調査対象小学校において、回答者 の4割が「利用する」とし、公園内及び周囲からの見 通しもよい公園であるが、 「露出・わいせつ行為」の 情報が多く寄せられた。 - 67 - (2)アンケート調査の実施 アンケート調査は、子ども一人での外出の許容や 道路の利用実態、安心感・不安感とその要因を詳細 に把握するため、小学校3年生児童のいる255帯へ、 アンケートを実施した。松戸市の調査同様、わかり やすいアンケート設計と学校経由の配布回収により、 回収率は、85%(217世帯)に達し、地域の生の声を把 握できた。 表-5 露出・わいせつ行為の情報が多い公園 内 容 ■男の子、女の子が腕を捕まれた ■女の子がつれこまれそうになった ■小学生が大人に声をかけられた ■女の子が写真を撮られた 場 所 公園内、植え 込みの近く ②「声かけ・追いかけ等」情報が多い公園 図-5の公園は、調査対象小学校において、回答者 の8割が「利用する」とし、公園内及び周囲からの見 通しもよい公園であるが、 「声かけ・追いかけ等」 、 「子どもによる恐喝」の情報が多く寄せられた。 (3)調査票の構成と分析 設問項目には、子どもの外出に関する許容、外出 の行動範囲、防犯上の評価(不安感・安心感)とそ の理由を設定した(表7参照) 。 表-7 アンケート調査票の構成 設問項目 1.保護者の 考え方 2.利用状況 図-5 声かけ・追いかけの情報が多い Y 公園 3.防犯上 の評価 4-2 道路における利用実態・犯罪情報・不安感に係 るアンケート調査(小山市) (1)調査対象道路 新旧の住宅地を含む栃木県小山市内の2小学校周 辺地区内の道路等(表6・図6参照)を対象とした。 表6 対象地区の特性 ・子どもの外出に関する保護者の許容度 ・帰宅後子どもが外出する目的・圏域(250m 区分) ・安心できる・不安 →①安心できる理由、 を感じる道路 ②不安を感じる理由 (4)子どもの外出にかかる保護者の許容度 前提条件として、保護者の考え方・指導が子ども の外出に影響を及ぼすと考えられるため、保護者の 属性として、5段階の評価を行った。 「行き先によっては、一人だけ(又は複数人数で あれば子どもたちだけでも)でも外出してもかまわ ない」と回答が、88%となっている。 言い換えれば、目的地や到達距離・経路によって は、子ども(たち)の外出を許容する機会が増える ことが十分見込まれることが明らかとなった。 小学校区 土地利用・主要生活道路等の特徴 ・新たな戸建住宅開発が進む区画整 小山市小山城 理事業区域 南小学校区 ・コミュニティ道路、歩行者専用道 路が整備済み ・老朽建物を含み開発年次の古い住 小山市旭小学 宅地 校区 ・歩者分離箇所は幹線道路沿いのみ 内 容 ■男性の下半身露出 ■男性の小便行為 内 容 [207件] 場 所 砂場、滑り台周辺、公園中央、 トイレ以外の場所 12件, 6% 3件, 1% 子ども一人だけで外出しても良い 行き先によっては、子ども一人だけで 外出しても良い 69件, 33% 複数人数であれば、子どもだちだけで 外出しても良い % 112件, 55% 旭小学校 11件, 5% 行き先によっては、複数人数であれ ば、子どもだちだけで外出しても良い 子ども(一人でも・複数でも)だけでは 外出させない(大人が一緒でなければ 外出させない) 図-7 子どもの外出に関する保護者の許容 [択一回答] (5)子どもの外出圏域について 外出の目的地は、校区内を中心とした店舗や公園 が多く、校区外等、遠方への外出については、回答 がなかった。 [のべ回答294件] 小山城南小学校 図-6 小山市内調査対象小学校区(2 校)と土地利用現況 - 68 - 学校区・周辺の店舗、公園等 学校区・周辺の友人宅等 学校区・周辺の習い事 放課後の学校(校庭・体育館) その他 学校区外・遠方 0 20 40 60 80 100 120 140 160 図-8 子どもの外出の目的 [複数回答] 外出圏域は、250m未満が約半数を占めており、自 宅近傍の限定的な範囲であることが明らかになった。 26件, 7%10件, 3% 250m未満 52件, 13% 175件, 43% 250m以上 500m未満 500m以上 750m未満 750m以上 1km未満 1km以上 図-11 防犯上の道路評価<城南小> ②不安感・安心感につながる主な要因 「防犯上危険な情報や経験の有無」については、 不審者情報の要因が不安感に寄与している。 「見守り状況」については、通行量が少ないこと や車のスピードが速いことが不安感につながり、通 行料が多ければ、安心感にもつながる。また、地域 の大人がよく利用していることが安心感に寄与して いる。 「視線をさえぎるものの有無」については、直線の 道路線形が安心感に寄与している。「見知らぬ人の 存在」については、見知らぬ人の通行料が不安感に 寄与している。「車と子どもの接近」については、 歩車道の分離が安心感につながっており、分離され ていない場合は、不安感につながる。 「管理の状態」については、見通しにかかる植栽の 手入れ等の維持管理が安心感につながっている。 136件, 34% 図-9 子どもの外出圏域 [複数回答] (6)道路空間における不安感・安心感の評価と要因 ①防犯上「安心できる道路」 「不安な道路」の評価 道路における防犯上の評価を、子ども一人での外 出の可否に基づき「防犯上安心できる道路」、「防 犯上不安な道路」として評価した。 また、2つの小学校区については、建物の築年数や 道路等の基盤整備状況、通過交通が異なることから、 校区別に集計を行い地図上にプロットし、評価の分 布から、以下の評価特性が明らかとなった。 □ 安心感は学校からの距離に依存せず、通過交 通の実態に寄与する □ 鉄道敷沿いや主要幹線沿いは、不安感が高い □ 同じ道路構造でも、沿道の土地利用(土地・ 建物の用途、配置、外構等)により評価が異 なる 図-10 防犯上の道路評価<旭小> [赤線=不安、青線=安心] [赤線=不安、青線=安心] - 69 - 5.不安感・安心感に寄与する要因整理 身近な公園及び道路空間における不安感や安心感 に寄与する要因を、防犯環境設計の視点から、以下 に整理した。 (1)「接近の制御」 公園では、バイク等の侵入抑止策の有無が安心感 や不安感に寄与しないが、道路空間においては、歩 車分離の有無が安心感・不安感に寄与する。 (2)「監視性の確保」 公園では、公園内の見通しでなく、周囲からの監 視性が安心感・不安感に大きく寄与する。また、建 物からや道路の人通りによる見守りは、公園、道路 ともに寄与する要因となっている。 (3)「領域性の強化」 公共空間の駐車については、公園、道路空間とも に大きく寄与しておらず、維持管理活動についても 寄与が少ない結果となった 表-8 道路空間の安心感・不安感につながる要因 安心を感じる理由 回答数 不安を感じる理由 回答項目 ■防犯上危険な情報や経験の有無 1)不審者が出たなどの危険な 情報がある 2)危なさそうな人がいる ■見守状況 32 件/14.7% 3)通行量 35 件/16.1% 回答数 29 件/13.4% 17 件/7.8% 47 件/21.7% 4)地域の大人の存在の有無 16 件/7.4% 4 件/1.8% 5)車の速さ(遅い←→速い) 59 件/27.2% 20 件/9.2% 6)沿道の建物の人気の有無 13 件/6.0% 7)その他(→空地がある) 8)その他(←パトロールの人が 6 件/2.8% いる) ■視線をさえぎる物の有無 11 件/5.1% 9)路上駐車の有無 5 件/2.3% 6 件/2.8% 0 件/0.0% 10)植栽の手入れ状況 20 件/9.2% 3 件/1.4% 11)塀の有無 7 件/3.2% 27 件/12.4% 12)道路の線形(←直線) ■見知らぬ人の存在 13)通行量 14)アパートの有無 ■車と子どもの接近状況 40 件/18.4% 0 件/0.0% ■管理の状態 3 件/1.4% 1 件/0.5% 1 件/0.5% 6 件/2.8% 検索において、対象犯罪は刑法犯・特別法犯にわけ て、以下のキーワードで検索を行った。(検索条件 は、対象期間「2004.10.1~2009.10.1」・地域版「す べて」・分類「すべて」とした) □ 刑法犯 (2745件 → 記事の重複により、2285件に統合) 公園 AND ( 殺人 OR 強盗 OR 放火 OR 強姦 OR 暴行 OR 傷害 OR 脅迫 OR 恐喝 OR 凶器準備集合 OR 窃盗 OR 詐欺 OR 横領 OR 偽造 OR 汚職 OR 背任 OR 賭博 OR わいせつ OR 公務執行妨害 OR 住居侵入 OR 逮 捕・監禁 OR 器物損壊 ) □ 特別法犯(8件) 公園 AND (道路交通法違反 OR 覚せい剤取締法違反 OR 軽犯罪法違反 OR 廃棄物処理法違反 OR 入管法違 反 OR 保管場所法違反OR 銃刀法違反 OR 自動車損害 賠償法違反 OR 風営適正化法違反 OR 大麻取締法違 反) (2)検索結果に見る公園での犯罪情報の特徴 検索により、明らかに「非該当」となる記事以外 にも、「公園に関連する記事」や「公園周辺におけ る犯罪発生記事」が検索された。 特に、「公園に関連する記事」については、以下5 種類の記事があげられた。 ①犯罪は別の場所で起きたが、犯罪者の検挙や検挙に つながる証拠物の発見は公園だった記事 ②複数の犯罪者が公園で意気投合して事件を公園外 で行ったケース(公園内では犯罪を行っていないが、 犯罪者が公園で蝟集していたことは事実となる) ③犯罪者が普段公園で寝泊りしていた、居場所にして いた等公園にいたケース(公園で犯罪者が蝟集して いたことは事実となる) ④実際は別の場所で犯罪を行ったが、事前に公園でも しようとしていた又は公園で犯罪のきっかけが生 じたケース ⑤犯罪者からの逃げ込み先が公園だったケース これらの記事は、公園内の犯罪情報ではないが、 公園が犯罪発生過程の一部となっていることを示し 記事として取り扱うことができる。 表-9 公園における記事の分類 15)歩道と車道の分離状況 7 件/3.2% 28 件/12.9% 11 件/5.1% 26 件/12.0% 16)大きな駐車場の有無 3 件/1.4% 17)清掃状況 5 件/2.3% 18)建物や外構の新しさなど 19)公園や空地に花が植えられ ている 20)その他 1 件/0.5% 23 件/10.6% (4)「対象者(物)の強化」 公園や道路空間はオープンスペースであり、特定 の防犯設備等の設置や利用制限を行わない限り、公 共施設に対する対象者(物)の強化とならず、対象 者の防犯ブザーの携帯などに限定される。しかし、 保護者等の同伴や友人等との集団行動を対象者の強 化と捉えれば、保護者や子どもの利用頻度の高い公 園や道路空間も評価の対象となりうる。 6.公共空間犯罪のトレンド分析 本研究では、特定の自治体・地域を対象とした調 査を行うことにより、公園や道路の特徴を踏まえた 防犯上の課題を整理した。 ここでは、公園に代表される公共空間犯罪の全国 的な犯罪発生情報を把握することで、公園に関連す る犯罪の特徴や、罪種、内容等を近年の新聞記事を 検索し、トレンドを分析した。 (1)対象記事と検索手法 一定量の様々な犯罪情報等を把握するために、地 域版の記事を含み、検索方法においても、より多く の記事が網羅できる「読売新聞社 ヨミダス文書館」 の検索サービスデータを用いることとした。 区分集計 記事区分 *公園内 該当 非該当 - 70 - ① ② ③ 公園関連 ④ ⑤ TOTAL 公園周辺 該当TOTAL 非該当 非該当TOTAL TOTAL データ原本 (刑法犯) 1,144 62 3 30 23 4 122 72 1,338 947 947 2,285 データ原本 (特別法犯) TOTAL 7 0 0 0 0 0 0 0 7 1 1 8 1,151 62 3 30 23 4 122 72 1,345 948 948 2,293 (3)発生箇所や犯罪種別の特徴 新聞記事には、具体的な公園内の発生箇所が記載 されており、その特徴をつかむことができる。 警察庁の統計データは異なり、新聞記事への掲載 は社会的な関心度にかかる指標として扱うことがで きる。 記事では、駐車場やトイレ等の個別施設、周辺道 路や通路等の空間において、傷害・窃盗・器物破損 といった犯罪が社会的な関心を集めており、これら の犯罪に対する防犯環境設計のあり方や指針を示す こともトレンドに沿った研究開発のテーマといえる。 12件, 3.3% 4件, 1.1% 1件, 0.3% 14件, 3.8% 90件, 24.4% 18件, 4.9% 30件, 8.1% 34件, 9.2% 37件, 10.0% 89件, 24.1% 駐車場 個別設備 道路空間 建物施設(周辺含む) 個別施設 その他 遊具・遊び場 出入口 水辺空間 広場空間 水辺空間、道路空間 8.今後の研究開発や業務への反映 本研究では、防犯分野の中でも、①犯罪弱者である 子どもを対象とした犯罪、②基礎自治体が管理する 身近な公共施設である街区公園や主要生活道路、③ 犯罪情報と不安感による評価を中心に基礎的な調 査・分析を行った。 今後は、研究対象施設の枠組みを広げ、手法開発 についても、社会的なニーズとの整合を計るため、 以下の視点から研究開発を進め、既往の計画設計業 務への応用や防災・防犯・危機管理分野のプロポー ザル等の提案事項に反映できることを目指す必要が ある。 □ 河川管理者や道路管理者をターゲットとし たCTI独自の計画設計・整備・維持管理指 針の作成 □ 都市整備分野における上位計画策定時の新 たな視点の導入 □ 施設整備や地区レベルの整備課題に対応し た防災防犯分野に共通する分析ソリューシ ョンツール開発 □ 民間事業者との連携による都市分野での合 意ツールの開発 40件, 10.8% 図-12 公園内の場所分類(刑法犯:369件) 傷害 窃盗 器物損壊 わいせつ 強盗 その他(盗難) その他(法条例違反) その他 その他(不審火) 殺人 その他(公園周辺の犯罪) 強盗,傷害 その他(放火) 暴行 その他(犯人検挙) その他(公園で寝泊り) 恐喝 傷害(業務上過失) 暴行,傷害 詐欺 その他(死体遺棄) その他(破壊) ているが、防犯分野の環境評価ツールとしても応用 することが可能である。 (2)防犯・防災に共通する業務分野開拓 (民間警備会社:セントラル警備保障株式会社) 非住宅・、住宅をターゲットとした防火管理や防 災対策のサービス提供を行い、警備サービスとのパ ッケージを図ることで契約継続を図る必要がある。 (3)土地利用の制限・誘導の指標の提言 (研究機関:東京大学大学院明石研究室) 都市施設の計画設計や市街地の土地利用の誘導等、 都市計画分野において、防犯環境設計の視点から、 設計ガイドラインの作成や既往のまちづくりにかか る制度(地区計画等)へ定量的な提案を行うことが 可能である。 156 150 128 107 72 71 63 57 52 50 40 38 36 35 33 28 19 13 12 10 8 8 図-13 犯罪種別(刑法犯:上位20位まで) 7.具体的なビジネスモデルの考察 本研究では、防犯分野における業務開発や具体的 なビジネスモデルの考察を行うため、下記関連事業 者・研究機関との意見交換やワークショップを実施 した。 研究開発から業務までの展開について、各主体の 考え方は以下の通りである。 (1)都市開発事業の合意ツールへの応用 (民間都市開発事業者:森ビル株式会社) 再開発等の合意ツールとして、VRの開発を行っ - 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