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第5章 アフリカを反面教師に北海道産業を見直す~ケニア産業の抱える4

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第5章 アフリカを反面教師に北海道産業を見直す~ケニア産業の抱える4
特集 地域の力―北海道に学ぶ,地域活性化のヒント
第5章
アフリカを反面教師に
北海道産業を見直す
∼ケニア産業の抱える4つの課題∼
北海道支部
3年前,さいたま市から札幌市へ3
5年ぶり
堀口 敬
【実例1】欧州企業が印刷する教科書
に U ターンした。道外からみると,北海道
モンバサ市の印刷工場を訪問した。欧州か
は農産物を出荷する拠点であっても,加工食
らは学校教育のために,多くの援助が行われ
品や工業製品をつくる製造業からはほど遠い
ている。しかし,つくる教科書には援助する
イメージがあった。とはいっても,この3年
側からさまざまな規制がかかっている。たと
間はケニア共和国の産業振興のために現地で
えば,「上質紙にカラー写真を印刷しなけれ
活動していたので,北海道の産業振興には何
ばならない」といった具合だ。しかし,ケニ
の貢献もしていない。3代前に屯田兵で北海
アにはそんな印刷技術はない。結局,援助金
道に来た曾祖父に会わせる顔もない。
はケニアに落ちることはなく,欧州に舞い戻
そこで,今まで取り上げられなかった,
り,そこの印刷会社のポケットに入る。
「アフリカでは,どうして製造業が伸びない
のか?」という話題を,3年間のアフリカで
の経験の中から紹介する。アフリカが抱えて
いる課題を反面教師とし,北海道および同じ
状況にある地域の方々が,地元の産業振興を
考えるためのヒントにしてほしい。
1.北海道への反面教師
1
モノカルチャー経済
製本工場
多くのアフリカ諸国は,1
9
6
0年以前,欧米
諸国の植民地として1次産品の輸出を行う
「モノカルチャー経済」だった。その文化を
【実例2】マレーシア産の紅茶
今でも引きずっているため,農産物の生産量
ケニアの紅茶生産量は,世界3位を誇る。
は多いが,農産物加工は輸出先の欧米諸国が
しかし,ナイロビで売られている紅茶のペッ
行い,それを再輸入している。
トボトルを手にとると,マレーシアなどでボ
要は,付加価値が高い「おいしいところ」
トリングされている商品が多い。つまり,船
は,欧米諸国が握っている。アフリカ諸国は,
で茶葉をケニアからマレーシアまで運び,そ
付加価値が低い1次産品をコツコツと生産し
こで加工とボトリングを行ってから,また船
ているのだ。
でケニアに運んでいるのだ。
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1
0.
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特集
2
安易に海外から部品を買う
3
ケニアでは,工場間で仕事を融通し合わず,
外国企業が進出しない
ケニアに日本企業が進出することは,めっ
安易に海外から部品を輸入することと,海外
たにない。訪問した日本の大手家電メーカー
に加工を依頼することが非常に多い。これで
では,以前は冷蔵庫などをノックダウン生産
は,いつまで経っても,国内に部品メーカー
していた。しかし,今では修理だけを行い,
が育つわけがない。
唯一の日本人は,工場が閉鎖されて日本に帰
れる日を心待ちにしていた。
【実例3】南アフリカ製の缶
ケニアでは,政府の調査担当者が自分の背
コンビーフの缶詰をつくっている工場を訪
広や靴を汚してまで製造現場に行き,実態を
問した。工場の周りで牛を放牧し,毎朝その
調査することはめったにない。私が調査のた
牛を工場まで追い立て,と殺してひき肉にし
めに工場を訪問したときにも,担当者が同行
ている。牛のジャストインタイムに感心しな
してきたのは,訪問した1
1
0社中1
0社だけだ
がら,肉を缶に詰めている現場に行くと,
った。
「缶はケニアでは製造できないので,南アフ
リカからトラックで運んでいる」という。
産業の実態がほとんど把握されていないた
め,外国企業がケニアに工場をつくろうとし
ても,部品メーカーの裾野がわからず,進出
を躊躇している。
【実例5】足で稼いだ情報がない
ケニアに初めて行ったとき,担当者にケニ
アにある金型メーカーの数を聞いた。返って
きた答えは,「まだケニアには金型メーカー
は育っていない!」というそっけないものだ
った。
しかし,工場を訪問し始めると,1ヵ月間
で金型メーカー4社をみつけた。たぶん,ま
コンビーフ工場
だまだ多くの金型メーカーがあるだろう。こ
しかし,数週間前に近くの製缶工場を訪問
し,トマト缶詰用の缶をプレス加工している
のように,ケニアでは,足で稼いだ「使える
情報」がきわめて少ない。
現場をみていた。ナイロビ・ケープタウン間
は3,
0
0
0km,千歳・羽田間8
0
0km の約4倍あ
る。とてつもないムダである。
【実例4】インド製の金型
プラスチック製のバケツなどを成形加工し
ている工場を訪問した。金型の購入先を聞く
と,「インドの金型メーカーから輸入し,金
型が傷むとインドまで運んで修理している」
という。しかし,その数週間前に近くの金型
メーカーを訪問し,社長から「仕事が減って
きたので,工場をたたんでインドに帰るつも
りだ」と聞いていた。
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金型メーカー
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第5章 アフリカを反面教師に北海道産業を見直す
【実例6】守られない最低賃金
ーパーマーケットで火災が起き,5
0人が焼死
ケニアの最低賃金は,月額8,
2
0
0ケニアシ
した。この火事では,アフリカ系ケニア人に
リング(約1万円)
。しかし,実態を調べて
よる略奪を恐れたインド系ケニア人の経営者
みると,最低賃金を守っている企業はほとん
が店の入口を閉じたため,逃げ場を失った多
どない。スラムから通っている労働者は,
くの人が焼け死んだといわれている。夜間の
5,
0
0
0ケニアシリング(約6千円)以下で働
盗難を恐れて,非常口はコンクリートで封鎖
いていた。
され,窓には鉄格子がはまっていた。
4
2.今後の取組み
ハコモノ行政
ケニアというと,街にはアフリカ系ケニア
人(いわゆる黒人)ばかり歩いている光景を
ケニアでは,ここまで紹介した4つの課題
思い浮かべるかもしれない。しかし,ビジネ
が絡み合って産業発展を妨げている。しかし,
スの世界では,英国の植民地時代に連れてこ
ここ数年,アフリカ系ケニア人の中にも起業
られた鉄道労働者の末裔である「インド系ケ
家が出始めている。
ニア人」に圧倒的な存在感がある。
私が訪問した1
1
0社中9
0社は,インド系が
【実例9】風力発電機メーカー
社長だった。東南アジアでビジネスパワーを
大学を卒業後に風力発電機を設計し,家の
握っているのが華僑であるのと同じ構図を,
裏の空き地で製造したものを,タンザニアの
ケニアではインド系(印僑)がつくっている。
高地に輸出しているアフリカ系の起業家に出
ただし,インド系が経営する会社では,ア
会った。
フリカ系を単純労働者として使っている。そ
ブレードは鉄板を曲げてつくった型にグラ
のために,アフリカ系が中心の政府は,民間
スファイバーを流し込み,軸受は「使えなく
企業支援よりも,道路などのハコモノ行政を
なった中古パジェロのハブ」を流用するとい
中心に行っている。
う,かなり思い切った設計だ。
【実例7】タンクローリーの爆発
ケニアでは,リベートが期待できる外国企
業に道路建設を発注しても,地元企業による
道路補修には金が回らない。そのため,でき
た道路は数年で穴だらけになる。そんな道路
を夜中に車で走ると,穴にはまってコロッと
横転してしまう」
。
ナイロビ滞在中には,横転したタンクロー
リーに穴をあけてガソリンを抜きとろうとし,
付近の住民が大勢集まったところで大爆発が
起き,1
1
0人が死亡する事故があった。ガソ
風力発電機メーカー
リンの抜きとりを取り締まっていた警官が,
住民に賄賂を要求したため,腹を立てた住民
の1人が火をつけたともいわれている。
1
企業診断
このような起業家を確実にみつけて育てる
【実例8】スーパーマーケットの火災
ナイロビ滞在中,ときどき買い物に行くス
ために,ケニア政府に提案した産業振興策は,
私がケニアで行った「専門家による企業診
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0.
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特集
断」だ。専門家が,ケニア全国の製造業をみ
ケニア人経営者や学生たちを集めて,プリン
て回り,実態を調査する。その結果をもとに,
タや掃除機などの分解を行った。
政府が民間企業へのサポートと,企業間で仕
この施策は,道外企業がどんな部品メーカ
事を融通し合うためのネットワークづくりを
ーを探しているかという「ニーズ」を把握す
行う。これにより外国の企業がケニアに進出
るために有効だろう。また,「大企業でのモ
するときの不安をぬぐえ,国内企業が協力し
ノづくりの実態」を知る機会が少ない北海道
て新商品を開発できる。
の学生にとっても,製品を分解してその構造
この施策は,北海道でも道外企業の誘致と,
産業クラスターづくりに有効だろう。ただし,
や使われている部品をみるのは,とても有意
義だろう。
企業を訪問した専門家が,財務分析や経営分
析といった「ありきたりの診断」を行うので
は,まったく意味がない。訪問した工場の製
造現場を隅々までみて回り,その企業の強み
と弱みを「ものづくりベース」で把握する。
また,9
0年代に日系企業の技術者が東南アジ
アで行ったように,一方的な調査ではなく,
その場で改善指導を行うことが,企業との
Win―Win の関係につながる。
ナイロビでのティアダウン研修
ケニア人コンサルタントと
2
製品の分解・分析
もう1つの振興策として,海外から輸入さ
れている製品の分解・分析(ティアダウン)
を提案した。
ケニアの企業は,プリンタなどの電気製品
は電子部品の塊で,自国で製造できる部品は
なく,企業誘致しても自分たちの出番はない
と考えている。しかし,プリンタ原価の7
0%
は,プラスチック部品や板金部品が占めてい
る。このことは,現物をみないとなかなか理
解してもらえないため,ケニアの各都市で,
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堀口
敬
(ほりぐち
たかし)
1
9
9
7年中小企業診断士登録。2
0
0
1年まで,
プリンタメーカーでタイの部品メーカー
6
0社を指導する。独立後はコストダウン
専門のコンサルタントとして自動車メー
カー,半導体設備メーカーなど4
2社への
コストダウン指導,1
6
4社への企業診断
を行う。
札幌市北区北8条西3丁目3
2番2
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h―[email protected]
URL : http://www.consulparty.com
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