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2008 年 12 月 10 日 JPO 土岐 啓道 国際開発援助動向研究会 第 82 回 議事録 1.日 時:平成 20 年 11 月 28 日(金)12:00~14:00 2.場 所:FASID 第一研修室(千代田会館 5F) 3.発表者:星野 俊也 氏 (大阪大学大学院国際公共政策研究課教授 / 前・国際連合日本政府代表部公使参事官) 4.議 題:国連平和構築委員会(PBC)のビジネスモデル 5.出席者:23 名 6.議 事: 6.1 開発援助情報システム「DAKIS」(http://dakis.fasid.or.jp) 文献紹介:開発援助の新しい潮流 ・ No.75 簑原茜(FASID 国際開発研究センター JPO) 「The United Nations Development Programme (2008) Creating Value for All: Strategies for Doing Business with the Poor」 ・ No.76 松枝研介(FASID 国際開発研究センター JPO) 「 International Development Committee, House of Commons, United Kingdom Parliament (2008) “The World Food Programme and Global Food Security”」 Journal Express ・ 最新の主要援助動向を各種英語新聞・雑誌・シンクタンク情報から抜粋・編集し、 簡単な邦訳付き英語で毎週水曜に発信中。 6.2 本日のプレゼンテーション 2005 年の国連改革の具体的な成果として新設された国連平和構築委員会(PBC)は、紛争 から抜け出した脆弱国における復興と平和の定着に向けた統合的な取組を目指している。 本講演では、国連の政治ダイナミクスのなかにPBCを位置づけるとともに、PBCの開 発してきたビジネスモデルの可能性と課題について議論する。 脆弱国家と平和構築委員会(PBC) 脆弱国家は、深刻な貧困に悩まされているだけでなく、紛争の影響を大きく受けている場 合が多い。そこには、開発の視点に加え、平和と安全、人権・人道を含む様々な政治的な 課題があり、ポスト紛争国の復興では、多面的な取組が求められる。PBCは、2005 年の 国連首脳会合(世界サミット)において設置が決定され、紛争を経験した脆弱国家の支援 に取り組んでいる。日本は創設メンバーであり、第 2 会期である 2007 年の 6 月以降、議長 国を務めている。 PBC設立の背景 近年、和平合意を結び、内戦を抜け出したはずの国が再び戦闘に舞い戻ってしまうケース が多く見られることから、紛争の再発防止を含む平和構築のニーズが高まっている。他方、 平和構築のために実際に活動する主体は、現地政府はもとより、国連の平和活動や関係機 関、国際金融機関、各ドナー国やその援助機関、地域機関、NGOと広がっているが、個 別に動きがちだった。そこで、これらの関係主体の活動に整合性を持たせ、平和構築ギャ ップを埋めていく必要から、関係主体が共同で「平和構築統合戦略」を策定し、効率的な 平和構築プロセスを導く場として平和構築委員会(PBC)が設立された。 PBCの役割 PBCは、同日に採択された国連の総会決議60/180と安保理決議1645 1 によって 正式に設立され、総会と安保理の両方につながる下部機関との位置づけとなっている。右 の2決議は技術的な点を除き全く同文で、PBCが援助実施機関ではなく「政府間諮問機 関」であり(主文パラ1)、その目的は、ポスト紛争後の平和構築と復興のため、全ての関連 するアクターを結集させ、資源を動員し、統合戦略を策定・提案すること(主文パラ2(a))、 復興と平和構築に取組む国が国際社会から忘れられた存在 (Aid Orphan)にならぬよう関 心と支援を向けて持続可能な開発の基盤を作ること(同2(b))、そして、国連内外の全関 係機関(当事国、関係国、国連機関、世銀・IMF、地域機関、NGO等)でベスト・プラクテ ィスの収集や予測可能な財源の確保、関心の持続化に努めること(同2(c))等とされてい る。 PBCの「政治」 総会と安保理の両方につながる下部機関はPBCだけだが、これは、平和構築を「国際の 平和と安全」の問題と捉える安保理のメンバー(特に5常任理事国)と、これを開発や、 経済社会の問題と捉える総会の多数派(G77ないし非同盟諸国といわれる開発途上国) の政治的な綱引きの結果といえる。だが、実際問題として、平和構築を促すためには平和・ 安全、開発、人権・人道のすべてを見ていく必要がある。 1 安保理決議1645は、http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/N05/654/17/PDF/N0565417.pdf?OpenElement より入手可能である。本文において“主文パラ1”、 “主文パラ2”とある箇所は、上記URLの文書からの引用である。 「国連平和構築アーキテクチャー」とPBC PBCは、平和構築支援事務局(PBSO)、平和構築基金(PBF)とともに「国連平和構 築アーキテクチャー(UN Peacebuilding Architecture)」を構成する。PBSOは国連事務 総長に直結し、PBCの支援、PBFの運営とともに、平和構築に関する国連システム内 の関係機関(政治局、PKO局、UNDP等)との調整を行う。PBFは、平和構築に取 組む国の資金ギャップに対応する「呼び水」的な財源である。ただし、初期段階にはPB Cによるブルンジ、シエラレオネの平和構築戦略の検討プロセスの進捗状況とは無関係に 事務局(事務総長及びPBSO)が恣意的に両国に対するPBFの支出を発表したため、 PBC=PBFとの誤解や戦略策定プロセスへの支障を招いたこともあった。PBFはP BCから独立した基金とはいえ、一定の調整が必要な所以がここにある。他方、分担金か ら財源が確保されるPKOと異なり、任意拠出に基づく平和構築段階の活動への財源の予 測可能性の増進は重要な課題である。 PBCの構成 -組織委員会 組織委員会は、PBCの最高意思決定機関であり、組織委員会の議長は、平和構築委員会 全体の議長となる(第1会期はアフリカのアンゴラ、第2会期はアジアより日本が議長国 となった)。組織委員会は31カ国からなり、安保理(15 カ国)より7カ国、ECOSOC(経 済社会理事会、54カ国)より7カ国、総会(192カ国)より7カ国、そして PKO への 主要要員派遣国から5カ国と主要財政貢献国5カ国が選ばれる。総会枠は地域的衡平性を 担保するための調整枠とされている。なお、PBCメンバーに残りたい、なりたい、との 意思表示をする途上国は多く、それが第3会期に向けたメンバー再編作業を困難にした。 それは、平和構築への貢献に意欲をもつ国が多いとの理由もあるが、安保理には容易には 入れない途上国でもPBCのメンバーであれば手が届き、存在感を表す機会となりうるか らである。 -国別会合 特定の国がPBCの検討対象国となると、その国に対する国別会合が設立される。現在、 シエラレオネ国別会合、ブルンジ国別会合、ギニアビサウ国別会合、中央アフリカ共和国 国別会合が存在する。 PBCの「ビジネスモデル」 PBCでは、特定国の平和構築支援に向けて、一定の「ビジネスモデル」といえるような プロセスが作られつつある。まず、PBCの議題となり、平和構築支援を得たいと希望す る国からリクエストを受ける(したがって、「要請主義」であり、これは当該国のオーナー シップとともにアカウンタビリティを確認する上で重要) 。もっとも、その要請は、PBC に 直接出されるのではなく、決議の規定に基づき、まずはPBCの上位にある国連の主要機 関(特に安保理)に出され、そこからPBCに当該国のケースが付託される(これまでの 4例はすべて安保理からの付託)。当該国の平和構築に関する検討がPBCに付託されると、 組織委員会が新しい国別会合を立ち上げる(その際、安保理からの「言いなり」になるこ とを嫌うPBCの途上国メンバーがPBCでの当該国の取り上げ方に一定の指摘や提案を する場面がよく見られる)。新規の国別会合の立ち上げにあたっては、その会合をリードす る国別会合議長国の選出が重要だが、組織委員会の議長国として日本はギニアビサウ、中 央アフリカ共和国に関する国別会合の立ち上げ時に、安保理と当該国と国別会合議長候補 国との間で目配りのきいた水面下の調整を迅速に行い、感謝された。各国別会合では、そ れぞれの国の状況にあった統合平和構築戦略の策定に向け、当該国政府、関係国、市民社 会、国連システム、IFI、地域機関等が集まって、優先分野を特定し、既存の戦略との 調整を行い、政治意思の確認を行う。そして戦略の実施をモニタリングするためのメカニ ズム(MTM:Monitoring and Tracking Mechanism)も作り、半年ごとにレビューを行 っていく、といった流れである。 前述の通り、現在 4 つの国別会合が存在し、ブルンジ国別会合の議長国はスウェーデン、 シエラレオネ国別会合の議長国はオランダ、ギニアビサウ国別会合の議長国はブラジル、 中央アフリカ共和国国別会合の議長国はベルギーが務めている。国別会合の議長国には旧 宗主国ではない先進国が選ばれることが多いが、ギニアビサウついては新興経済国のブラ ジルが手を上げた。これは、ギニアビサウがヨーロッパと南米を結ぶ麻薬取引の中継地点 となっており、自国の安全保障とも密接に関係するためでもあるが、南の新興経済国によ る南のポスト紛争国支援という「南南協力」の一つの例として、注目される。 日本が議長国としてPBC強化に向けてできること -国連主要機関(安保理、総会、経済社会理事会、事務総長)との連携の強化。特に平和 構築の問題では安保理の役割が大きいので、日本は毎月変わる安保理議長との協議の定例 化を進めた。同時に総会、経社理の議長、事務総長との意思疎通も意識的に行った。これ により、国連内で平和構築の議論の際にPBCの存在感は高まったといえる。 -主要関連機関との関係の強化。国際金融機関(世銀、IMF)、欧州委員会(EC)やア フリカ連合(AU)等とハイレベルでの意見交換を進めた。 -PBCが国別会合を作って支援している国は上記の 4 カ国だけだが、PBCはこれら4 カ国のためだけにあるのではない。PBCの議題に載っていない国や政治的に議題化され ない国に対しても助言や支援ができるように、ビジネスモデルの改善や平和構築の規範的 な要素の整理も進めている。「戦略・政策討論」を推進し、平和構築に関わる共通理解の促 進を試みているのもそうした関心からである。 効果的な平和構築の推進のための9つのポイント 高須国連大使はPBC議長として第2会期の終わりに「戦略・政策討論」等での議論を集 約し、効果的な平和構築の推進に向けたチェックリストとなる9つのポイントを提起して いる 2 (詳細はプレゼンテーション資料参照)。 -平和構築はそれぞれの国の状況にあわせて行われているか。 -オーナーシップ、アカウンタビリティが確保されているか。 -平和構築活動が、継ぎ目なく実行されているか。 -平和の定着に向け、建設的な政治プロセスを前進させるための努力がとられているか。 -能力と説明責任を伴った国造りを促すための、適切な支援策を提供できているか。 -人々の目に見える平和の配当が、迅速に行われているか。 -国際的な努力と国内の努力がインテグレイトされているか。 -持続的な関与を促すために、予算面、政治的意思の側面も含め、長期的に平和構築を考 える体制になっているか。 -国際社会の関心を求める声に我々一人一人が応え、援助孤児を作らないという心構えが あるか。 新たな動き -安保理公開討論(2008 年 5 月 20 日) 英国のイニシアチブで開催。紛争後の平和構築と早期復興について討論を行った。来年の 5 月までに、事務総長報告が提出される予定。 -3rd High Level Forum on Aid Effectiveness Roundtable 7: Aid Effectiveness in Situations of Fragility and conflict (2008 年 9 月 2-4 日) ガーナのアクラにて開催。平和構築と国家建築の共通理念の作成に取り組む。 -これらの動きは、PBCの今後の活動や発展にも大きく関係する。 質疑応答・コメント OECD/DACと日本との関わり 日本はPBCに力を入れているにもかかわらず、OECD/DACとはかかわりが薄い。 OECD/DACでは、脆弱国家の議論について、最初は開発と紛争ということから始ま り、現在はより政治化し、脆弱国家の国づくりという議論になっており、脆弱国家とは何 か、国家とは何か、といった根源的な話になっている。その議論の中に日本は積極的な参 画をしておらず、年に 2 回春と秋に、OECD/DACにおいて開催される平和と開発、 脆弱国家グループの会合にも、日本からは閣僚レベルは参加していない。日本はもっと脆 弱国家の議論に、組織的に、活発に、関わっていくべきである。 2 高須大使の、効果的な平和構築の推進に向けた9つのポイントについての提言の全文は、 http://www.un.int/japan/jp/topics/080623_Note%20on%20Peacebuilding.pdf より入手可能である。 PBCと現場とのリンケージ PBCの議論はニューヨークで行われているが、それがどれだけ現場にインパクトを与え られるのか、という課題は最も重要なものの一つである。そのためにはまず、議論の内容 について、平和構築の現場から参加している世銀やIMFのディレクターレベルの現場責 任者にとっても興味を引くような、クオリティーの高いものにする必要がある。 他方、ニューヨークにおいて議論されたということ自体が、国際的な注目を得る、という インパクトを現場に与えており、それにより資源の動員にも好影響を持つことがある。ま た、PBCが大使級で現地訪問ミッションを行うことが慣例化されてきているが、これは 現地に国際社会の関心を印象付ける機会にもなっている。 人間の安全保障との関係 日本外交において、平和構築は、平和の定着と国づくりに重点を置いている。国づくりは 平和構築の中において極めて重要であり、ガバナンスを含め、新しい国の制度を立て直す ことが求められている。しかし、平和定着のためには、人と人との心を和解させ、人々が 平和の到来を感じられるようにすることも必要である。そのために、平和の配当を人々に 実感させるなど、社会経済的な面も考える必要性がある。人間一人一人を見ることは、平 和構築を新しい観点から見るうえで、不可欠な部分である。 平和構築の知識の集約 PBCにも様々な得意分野があると思うが、それを、総合調整をするメカニズムが必要で はないか。日本国内においても、様々な専門家が持つ各々の得意分野や知識を集約できる ようなメカニズムがあるべきである。そして、オールジャパンで、平和構築は日本の援助 外交の中で重要な要素だという認識を共有する機会を作っていくべきである。2006年 5月に「平和構築フォーラム」を立ち上げた経緯があるが、その活動を発展させていきた い。