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運動が認知機能へ及ぼす影響

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運動が認知機能へ及ぼす影響
2008年度
修士論文
運動が認知機能へ及ぼす影響
Effects of exercise on cognitive function
早稲田大学 大学院人間科学研究科
スポーツ科学専攻 スポーツ医科学研究領域
5007A041-9
寺本
圭子
Teramoto, Keiko
研究指導教員: 内田 直 教授
運動が認知機能へ及ぼす影響
Effects of exercise on cognitive function
スポーツ科学研究領域
指導教員
5007A041-9 寺本
内田 直 教授
Ⅰ.序論
運動経験者は、運動後、頭がスッキリする感覚
や気持ちが晴れやかになる感覚を一度は体験し
たことがあると思う。この時に認知機能がどのよ
うに変化しているかを調べた先行研究は数多く
ある。これまでの研究では、中強度有酸素運動直
後には認知機能向上(P3 振幅の増大)が認められ
るが、低強度あるいは高強度の運動直後には認知
機能にポジティブな影響がみられないことが報
告されている (Nakamura et al. 1999 ; Kamijo et al.
2004) 。 その他にも運動強度や運動時間の組み合
わせによって、運動後の認知機能の改善や低下が
示される (Hillman et al. 2003) など、様々な結果が
得られている。しかし、これらの研究では主に運
動直後の認知機能のみを調べており、その後の経
時変化について検討されていない。そこで、本研
究では運動強度を中強度に設定し、運動後の認知
機能の経時変化を明らかにすることを目的とし
た。また、課題の難易度の違いによって脳内情報
処理過程に対する運動の影響が異なるという先
行研究 (Kamijo et al. 2007) を参考に、本研究では、
Color word stroop test、Go/no-go test、Wisconsin card
sorting test の 3 種類の難易度の異なる視覚的認知
課題を用いて認知機能を検討した。
Ⅱ. 方法
被験者は、週 3 日以上の運動習慣がないこと、
喫煙習慣がないこと、普段の睡眠状況が朝型(朝
型夜型スケールによる)であること、過去に精神
疾患・循環器疾患の既往歴がないことの条件に当
てはまる健康な男子大学生 10 名を対象とした。
被験者の平均年齢は 23 ± 2.4 歳であった。すべて
の被験者に対して、事前に実験の目的、方法など
を詳細に説明し、実験参加の同意を得た。
本実験は、10 名の被験者を 2 人1組とし、2008
年 9 月 11 日~2008 年 10 月 24 日の期間、計 5 回
実施した。被験者は、運動条件(60% VO2max の
自転車こぎを 35 分間、視覚的認知課題)と安静
条件(運動なし、視覚的認知課題のみ)を Fig.1
に示したとおり行った。各条件は視覚的認知課題
に対する慣れの影響や、運動による疲労を考慮し、
1 週間以上の間隔をあけて実施した。被験者は、
実験開始 1 週間前に最大酸素摂取量の測定および
視覚的認知課題の練習を行った。その日から実験
当日まで運動をしないことを指示し(自転車通学
圭子
も含む)、身体活動量を測定する為にアクチウォ
ッチ(フジ・レスピロニクス社製 アクチウォッ
チ AWL)を非利き手に装着、身体活動日誌を記
入してもらった。また、測定前夜からカフェイ
ン・アルコールの摂取を禁止した。測定前夜、被
験者は 19 時に早稲田大学所沢キャンパスフロン
ティアリサーチセンターに集合し、22 時に視覚的
認知課題 1 回目を実施、23 時に就寝した。測定当
日は、6 時に起床し、6 時 30 分に視覚的認知課題
2 回目を実施、7 時に運動もしくは安静を開始し
た。運動条件では、自転車エルゴメーター(COMBI
WELLNESS 社製 エアロバイク 75XLⅡ)を使用
した。一方、安静条件では、運動条件と同じ時間、
座位で安静に過ごした。運動・安静の前後に指先
から少量の血液を採血し、血中乳酸値(ARKRAY
社 製 Lactate Pro ) と 血 糖 値 ( NIPRO 社 製
FreeStyle)を測定した。運動もしくは安静終了後
5 分以内に視覚的認知課題 3 回目を実施し、その
後 3 時間ごとに視覚的認知課題を行った。また視
覚的認知課題前には、体温、血圧、心拍、VAS(眠
気・疲労)を測定した。実験中の食事内容を統一
するため、すべての食事を検者が用意した。実験
環境は 25 ℃に設定した。測定前夜、当日のスケ
ジュールを Fig.2、Fig.3 に示す。
統計処理には二元配置分散分析を行い、交互作
用が認められたものに関しては、条件ごとに時間
を要因とした一元配置分散分析を用いて多重比
較検定を行った。有意水準は p<0.05 とした。ソフ
トは SPSS Ver.15 を使用した。
Fig.1
実験スケジュール(全体)
☆:体温・血圧・心拍・VAS 測定、視覚的認知課題
Fig.2 実験スケジュール(測定日前夜)
6:00 6:30 7:00 7:40
8:10
起床
朝食
☆ 軽食
★
☆
10:40 11:40 13:40 16:40
☆
昼食
☆
☆
☆:体温・血圧・心拍・VAS 測定、視覚的認知課題
★:運動もしくは安静
Fig.3 実験スケジュール(測定日)
Ⅲ. 結果
血中乳酸値、血糖値、体温、心拍、VAS(眠気・
疲労)において運動条件と安静条件の間で有意な
差がみられた。視覚的認知課題については Color
word stroop test の課題遂行時間と正解時反応時間
に、両条件とも有意な短縮がみられた (p<0.05)
(Fig.4,5)。また、条件間で運動条件の方が短縮し
たという有意傾向がみられた (Fig.4,5) 。しかし、
Color word stroop test の課題遂行時間と正解時反
応時間に運動の影響を示す持続的変化はみられ
な か っ た (Fig.6,7) 。 Go / no – go test 及 び
Wisconsin card sorting test については、運動による
一過性の影響及び持続的変化はみられなかった。
Fig.4 課題遂行時間(運動・安静前後)
*: p < 0.05 #: p = 0.087
Fig.5 正解時反応時間(運動・安静前後)
*: p < 0.05 #:p = 0.071
Fig.6
課題遂行時間(経時変化) *: p < 0.05
Fig.7
正解時反応時間(経時変化) *: p < 0.05
Ⅳ. 考察
本実験では、早朝に 30 分間の中強度有酸素運
動を行ったとき、認知機能にどのような変化が生
じるのかを 9 時間にわたり、3 種類の視覚的認知
課題を用いて検討した。30 分間の中強度有酸素運
動直後、Color word stroop test の課題遂行時間と正
解時反応時間の短縮が安静条件よりも大きい傾
向がみられた。従って、先述した先行研究の結果
(Nakamura et al. 1999 ; Kamijo et al. 2004) と同様
に、30 分間の中強度有酸素運動を行うことによっ
て認知機能が改善される傾向が示されたと考え
られた。しかし、運動による一過性の影響がみら
れた Color word stroop test の課題遂行時間と正解
時反応時間について、運動の影響を示す持続的変
化はみられなかった。このことから早朝に行う 30
分間の中強度有酸素運動は、認知機能に一過性の
影響を与えるが、持続的な影響は与えないと考え
られた。また、課題難易度の高い Color word stroop
test では、運動後の変化がみられたが、その他の
課題ではみられなかった。このことから、30 分間
の中強度有酸素運動の影響を検討するために Go /
no – go test 及び Wisconsin card sorting test は適さな
いと考えられた。
Ⅴ. 結語
本実験の結果から、30 分間の中強度有酸素運動
は認知機能に一過性の影響を与えること、また、
運動の効果は持続しないことが明らかになった。
従って、早朝に行う 30 分間の中強度有酸素運動
は、認知機能に一過性の影響を与えるため、一時
的に気分が良くなり、頭がスッキリする感覚が得
られるかもしれないが、それは持続しないと考え
られた。
私たちの日常生活において早朝に 30 分間の中
強度有酸素運動を行うことは、一時的に気分が良
くなり、集中力が増すという現象については期待
できるが、認知機能そのものを向上させるという
ことに効果はなく、仕事能率が上がるという期待
や、持続的に良い気分を維持できるということを
証明する結果にはいたらなかった。しかし、運動
を実施するタイミングを変えたり、習慣的にこの
運動を行ったり、運動内容を変化させることによ
って、私たちの日常生活に好影響を及ぼす結果が
得られる可能性はある。今後、これらの点につい
て研究を続け、運動の有益性をより明らかにして
いきたい。
目次
第1章 緒言
1
第1節
認知機能
2
第2節
認知機能の評価方法
4
第3節
視覚的認知課題
6
第4節
運動と認知機能
9
第5節
認知機能の日内変動
14
第6節
本研究の特徴と目的
15
第2章 方法
16
第1節
対象
16
第2節
実験手順
17
第3節
運動負荷
21
第4節
視覚的認知課題
23
第5節
その他の測定項目
26
第6節
統計処理
27
第3章 結果
28
第1節
運動
28
第2節
体温・心拍・VAS
32
第3節
視覚的認知課題遂行能力の急性運動効果
37
第4節
視覚的認知課題遂行能力の経時変化
48
第4章 考察
59
第1節
運動の認知機能に対する急性効果の評価
59
第2節
運動の認知機能に対する経時変化の評価
62
第5章 結論
第6章 謝辞
参考文献
64
66
67
第 1 章
緒言
最近、テレビや本などの多くの場面で『脳』という語を目にするよう
になった。脳機能を活性化させる方法や、脳機能を低下させてしまう事
例など、様々な報道がされている。これほどにも、脳機能に注目される
ようになったのは、高齢社会になり老人性認知症が増加したことや、ス
トレスによる社会人のうつ病の増加、また学校現場においてキレやすい
子供が増加したという時代背景が理由の一つであると思われる。いずれ
にしても、今まで複雑難解で敬遠されていた脳機能がメディアを通して
私たちの身近な言葉の一つになったように感じる。私自身、脳機能につ
い て 注 目 し た の は 、あ る 記 事 を 読 ん だ こ と が き っ か け で あ っ た 。
「運動を
す る と 脳 が 活 性 化 す る 」 と い っ た 内 容 で あ っ た ( 内 田 . 2 0 0 6 )。 確 か に 、
運動をした時には頭がすっきりしたり、気持ちが晴れやかになるという
感 覚 は 、運 動 を し た こ と の あ る 人 は 誰 も が 一 度 は 経 験 し た こ と が あ ろ う 。
この時、脳ではどのような変化が起きているのであろうか。気持ちや感
情を司る認知機能はどのような変化をしているのか。一般的には運動は
身 体 に 良 い と さ れ て い る が 、そ れ は 認 知 機 能 に と っ て も 同 じ で あ る の か 。
運動が認知機能に与える影響はどの程度持続するのか。そういった様々
な疑問を抱いた。興味を持ったきっかけは、たった一つの記事であった
が、運動が認知機能に何らかの影響を及ぼすということが明らかになれ
ば、日本を支える社会人・若者、そして高齢者にも認知機能を最大限有
効利用するための運動処方を示せるのではないかと考えた。このような
背景により本研究を始めることにした。
1
第 1 節
認知機能
認知機能とは人間が内的環境・外的環境のある事実・事象を認識して
いく過程のことをいう。感覚器における知覚と、それを記憶し知識とし
て蓄え、記憶された事象を合成して様々な問題を解決したり、物事の理
由づけを行ったり、言語を話したりといった一連の情報処理を行ってい
る。そして、この過程には記憶・判断・注意といった多くの能力が関わ
っている。すなわち認知機能は日常生活に密接に関係し、ヒトにとって
非常に重要な機能である。
また、認知機能の要素についてさらに細かく着目してみる。情報は、
感覚器官を通して視覚、聴覚、身体感覚、嗅覚、味覚の刺激が脳に入っ
てくる。嗅覚と視覚の刺激は前脳から、聴覚と味覚の刺激は後脳から、
身体知覚は後脳と髄脳から中枢神経系内に入り、その感覚性ニューロン
を興奮させることから、認知機能の最初のステップが始まるのである。
興奮活動の主たる流れは、脳内を上行して前脳レベルの上位中枢にまで
達するものと、後脳レベルの下位中枢に向かうものとに分かれる。前者
が大脳の認知機能に、後者は小脳の運動機能に関連しているものと考え
られている。嗅覚系を含めてすべての感覚系の刺激・興奮は視床核を経
由して大脳に至り、そこでそれぞれ特定の皮質感覚野に伝えられる。こ
の伝達様式は、個別の感覚が一般に模式的に考えられているように、直
列 的 に 第 一 次 、第 二 次 の 皮 質 領 野 へ と す べ て の 興 奮 が 伝 わ る の で は な く 、
皮質への入力は並列的になっている。すなわち、それぞれの皮質感覚野
は視床皮質繊維が終止する異なる複数の領域をもっているのである。大
脳皮質のうち、感覚野および運動野としてその機能が末梢刺激の知覚あ
2
るいは効果器への作用と対応する領域はむしろ小さく、大脳皮質には非
常に大きな皮質連合野と呼ばれる高度な情報処理機能を有する領域が、
高等動物ほど発達している。上記の皮質感覚野からは皮質連合野へ連合
繊維が送られている。感覚と知覚とを、どちらも刺激が感覚器官へ直接
に働きかけて発生する。この両者を区別すると、外界の事物または現象
の 個 別 的 で 要 素 的 な 性 質 が 反 映 さ れ た 映 像 が「 感 覚 」で あ る の に 対 し て 、
これらの感覚を基礎にしながら、体験される諸感覚が孤立したものでな
く総合的に意味のあるものとして反映されたものが「知覚」である。さ
らに、知覚と認知の関係について、現時点で知覚している対象の知覚像
を、記憶している一般的表象と照合し、判断することを「認知」すると
言 う 。こ れ ら の 事 象 が 大 脳 皮 質 の 感 覚 野 お よ び 連 合 野 で 起 こ る の で あ る 。
大脳皮質連合野には、前頭前野と後連合野があり、後連合野はさらに頭
頂連合野、後頭連合野および側頭連合野に分けられる。各々の感覚皮質
野と皮質連合野との間およびこれら複数の皮質連合野間の結合様式はた
いへん複雑である。いわゆる大脳の高次機能といわれるものは、神経回
路網の上に成立する興奮伝達ないし神経活動の総合的な所産であると示
唆 さ れ て い る ( 川 村 光 毅 . 1 9 9 3 )。
3
第 2 節
認知機能の評価方法
認知機能を評価する際にもっとも多く使用されている方法は、行動指
標 を 用 い た 方 法 で あ る 。身 体 運 動 と 認 知 機 能 の 関 係 を 検 討 し た 研 究 で は 、
古くから視覚的認知課題を行った際の反応時間や正答率などの行動指標
が用いられてきた。行動指標は簡易に測定できるという大きな利点があ
る。しかしその反面、様々な末梢要因を含み上位中枢における認知処理
過程のみを検討するには限界がある。
D a v r a n c h e e t a l . ( 2 0 0 5 ) は 従 来 の 行 動 指 標 に 加 え て 、刺 激 の 提 示 か ら 筋
電図出現までの時間を測定する筋電図反応時間を用い、筋活動の開始か
ら 実 際 の 運 動 開 始 ま で の 時 間 (motor time) を 除 い て 検 討 で き る 分 だ け 、
中枢性の要因を区分して評価する方法を用いている。しかし、筋電図反
応時間もあくまで最終的に出力された結果であり、それに要した時間か
らヒトの脳内で進行している認知処理過程について分離しているにすぎ
ない。このため、認知処理過程の要因と反応処理過程の要因を明確に分
離することができず、研究間の矛盾する見解につながっていると考えら
れ て い る ( 紙 上 . 2 0 0 8 )。
ま た 、 Hillman et al. (2002) や Kamijo et al. (2007) は 事 象 関 連 電 位 を
用いて認知・脳機能を直接評価する研究も数多く行っている。事象関連
電位は、何らかの事象(光・音・自発的な運動や、これらに関連したタ
スクなど)に関連して一過性に生じる脳電位である。事象関連電位は、
いくつかの振れをもった波のような形状をしており、それらの振れは成
分として分離され、それぞれの成分が別々の脳内活動(感覚処理・認知
処理・運動処理)に対応していると仮定されている。つまり、事象関連
4
電位から行動指標のみでは、推測することが難しい身体が脳内のどの処
理過程に影響を及ぼすのかを明らかにすることができるとされている。
しかし、事象関連電位の測定は、加算平均法を用いて測定されるので 1
回限りの事象に対しては対応できないことや脳以外から発生する電位の
混入を防ぐために参加者の動きを制限しなければならないことなどの短
所 が 挙 げ ら れ る ( 紙 上 . 2 0 0 5 )。
こうして見ると、それぞれの測定方法が一丁両端であるのがよく分か
る。そこで、本実験では、先行研究で事象関連電位によって評価された
ことのある視覚的認知課題を使用し、簡易に測定できる行動指標によっ
て運動効果を評価することにした。
5
第 3 節
視覚的認知課題
前節で説明したように認知機能を測定する方法は数多くある。本節で
は、本実験で用いた行動指標をもとに認知機能を評価する視覚的認知課
題について記す。
( 1 )
Color word stroop test
Color word stroop test は 、 John Ridley Stroop (1935) が 発 見 し た ス ト ル
ープ効果を利用した課題である。ストループ効果とは、注意・切り替え
に関する機能、つまり情報処理過程における視覚情報(色)と言語情報
(文字)の間に干渉が起き、発音や指摘をする場合に妨害が起こるとい
うものである。例えば、色単語と色単語自体の色が不一致のとき、色単
語と色単語自体の色が一致しているときに比べて反応が遅くなるという
ことである。被験者は、色と文字の違いに惑わされずに色を答え、それ
を一定数繰り返す。検者は、被験者の回答にかかった合計時間(課題遂
行 時 間 )、 刺 激 に 対 す る 反 応 時 間 ( 正 解 時 ・ 誤 反 応 時 )、 誤 反 応 数 等 を 評
価する。
こ の 課 題 中 に 活 性 化 さ れ る 脳 部 位 は 、 山 本 ら (2007) に よ っ て 左 前 頭
前 野 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。 ま た 、 Color word stroop test は
難 易 度 の 高 い 課 題 で 、テ ス ト - 再 テ ス ト に よ る 尺 度 の 安 定 性 が あ る と さ
れ、信頼性は種々の研究によって示されている。
6
( 2 ) Go / no – go test
Go / no-go test は 、 ロ シ ア の ノ ー ベ ル 賞 科 学 者 パ ブ ロ フ が 最 初 に 開 発
した課題である。自己制御能力を調査するため幅広く使われている。
「青い丸が出たらボタンを押し、赤い丸が出たらボタンを押さないで下
さ い 」 と い う 指 示 を 被 験 者 に 与 え 、 ボ タ ン 押 し の 反 応 (go response) と
ボ タ ン を 押 さ な い 反 応 (no-go response) を さ せ 課 題 の 選 択 を 行 わ せ る 。
検 者 は 、 被 験 者 の 刺 激 に 対 す る 反 応 時 間 ( 正 解 時 )、 反 応 時 間 の S D 、 誤
反応率を評価する。
こ の 課 題 は 、 前 頭 連 合 野 の 統 合 機 能 を 反 映 し 、 特 に no- go 刺 激 に 対 す
る反応は前頭葉の主たる機能の一つである制御機能を反映すると考えら
れ て い る 。 渡 邉 ( 2 0 0 3 ) は 、事 象 関 連 f - M R I に よ っ て 、 n o - g o 刺 激 時 は 両
側前頭回、左背側運動前野、左頭頂間溝後部の皮質、右後頭側頭葉が関
与 し て い る こ と を 示 唆 し て い る 。難 易 度 は 先 述 し た C o l o r w o r d s t r o o p t e s t
よりも易しいとされ、視覚的認知課題全体の中でも比較的容易である課
題とされている。
( 3 ) Wisconsin card sorting test
Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g t e s t ( G r a n t & B e r g . 1 9 4 8 ; H e a t o n . 1 9 8 1 ) は 、 仮 説 生
成と反応切り替え機能のためにしばしば使用されている課題である。
赤 ・ 緑 ・ 黄 ・ 青 の 1~ 4 個 の 三 角 形 、星 型 、十 字 型 、丸 か ら な る 図 形 の カ
ードを示しながら、被験者の反応をみる課題で、検者は被験者に対して
7
色・形・数の 3 つの分類カテゴリーのいずれかに従って 1 枚ずつカード
を示す。被験者は、それがどのカテゴリーに属するのかを自分自身で類
推し、反応カードを示す。検者は、検者の分類カテゴリーと被験者のそ
れとの一致、不一致のみを答え、被験者は、検者の正否の返答のみを手
がかりとして、検者の考えている分類カテゴリーを推測し 4 枚のカード
のいずれかを選択する。検者は、被験者の連続正答が決められた数に達
したら、被験者に予告なしに分類カテゴリーを変更する。これを一定回
数続ける。検者は、被験者によって達成された分類カテゴリー数、誤反
応数、保続性誤反応数によって評価する。
船 橋 ( 2 0 0 5 ) は 、Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g t e s t の 実 行 に は ワ ー キ ン グ メ モ
リが不可欠であり、前頭連合野がワーキングメモリに密接に関わってい
ることを示唆している。視覚的認知課題の中でも難易度の高い課題であ
る。
8
第 4 節
運動と認知機能
運動は、種類、頻度、継続時間、強度、漸進性等を変えることによっ
て身体に様々な影響を及ぼす。それは認知機能に対しても類似した知見
が報告されており、長期的な運動を習慣的に行うことによって加齢に伴
う 認 知 機 能 の 衰 退 を 抑 制 で き る (Hatta et al. 2005) こ と や 習 慣 的 運 動 は
作 業 記 憶 の 向 上 に 貢 献 す る (Themanson et al. 2005) と い う 報 告 等 、 運 動
と認知機能に関する先行研究は数多く行われている。
American College of Sports Medicine (ACSM) に お い て 、 運 動 は 有 酸 素
運動と無酸素運動に大別されている。有酸素運動は、持続的で律動的な
運 動 で あ り 、心 血 管 疾 患 、糖 尿 病 、高 血 圧 、肥 満 な ど の 慢 性 疾 患 の 治 療 ・
予防効果が数多く証明されている。また、強度の調節が比較的容易であ
り、かなり低い強度から高強度まで処方が可能である。そこで、身体に
良いとされている有酸素運動に運動内容を限定し、運動期間や運動強度
等、運動処方と認知機能の関係を調べた。また、運動の結果として変化
する認知機能を評価するための視覚的認知課題と運動の関係についての
先行研究も調べた。
( 1 ) 運動実施期間と認知機能の関係
運動期間は、月~年単位にわたり継続して運動を実施する長期的な運
動と数時間~1 日単位でおこなう一過性の運動に大きく分けることがで
きる。
9
長期的な運動が認知機能へ与える影響について調べた先行研究は、
Dustman et al. (1990) が 運 動 を 継 続 す る こ と に よ り 、 認 知 機 能 や 課 題 遂
行能力を促進させ、加齢に伴う認知機能の低下を抑制することを明らか
に し た 。 Harada et al. (2004) は 習 慣 的 な ジ ョ ギ ン グ が 前 頭 連 合 野 の 機 能
を 促 進 す る こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 秋 山 ら (2000) は 、 長 期 的 な 運
動経験のある被験者は刺激情報の認知処理が優れている可能性があるこ
とを示唆する報告をした。このように、長期的な運動が認知機能に与え
る影響についての研究は、運動経験者と日頃あまり運動をしない被験者
を比較する横断的研究から運動介入を用いた縦断的研究まで多岐にわた
り盛んに行われている。そして、日常的な身体運動が認知機能を改善さ
せるといった見解でほぼ一致している。
次に一過性の運動が認知機能へ与える影響について調べた先行研究
で は 、 Khatri et al. (2001) が 高 齢 者 の 鬱 病 患 者 が エ ア ロ ビ ク ス に 参 加 し
た時、抗鬱剤を用いた患者に比べ認知機能が改善したことを明らかにし
た 。 ま た 、 Lee et al. (2007) は 30 分 間 の 持 久 的 運 動 後 、 認 知 機 能 が 改 善
す る こ と を C o l o r w o r d s t r o o p t e s t を 用 い て 明 ら か に し た 。 To m p o r o w s k i
(2003) は 、一 過 性 の 運 動 は 中 枢 神 経 系 に 直 接 影 響 し 、注 意 過 程 を ス ム ー
ズ に す る と い う こ と を 報 告 し て い る 。H i l l m a n e t a l . ( 2 0 0 4 ) は 運 動 能 力 の
高 い 被 験 者 は 低 い 被 験 者 に 比 べ て 3 0 分 間 の 有 酸 素 運 動 後 、運 動 能 力 が 高
い被験者の方が認知課題に対する注意力がよりあることを明らかにした。
紙 上 (2008) は 、 一 過 性 の 運 動 に お け る 研 究 に つ い て い ま だ 不 明 瞭 な 点
が多く、系統的な建久による今後のデータ蓄積が期待されるとまとめて
いる。以上のように一過性の運動が認知機能へ与える影響を調べた研究
も数多く行われてきているが、運動直後の運動効果のみを調べたものが
ほとんどであり、運動後の経時変化を調べたものはない。そのため、運
10
動が認知機能に与える影響はどれほど持続されるのかを調査することは
非常に重要であると考えられる。本実験ではこれらの背景をもとに一過
性の運動後、認知機能の経時変化を調べることにした。
( 2 ) 運動強度と認知機能の関係
有酸素運動の運動強度は主観的運動強度や客観的運動強度として表
す こ と が で き る 。 具 体 的 な 運 動 処 方 は 、 米 国 ス ポ ー ツ 医 学 会 (American
College of Sports Medicine : ACSM) な ど か ら 指 針 さ れ て い る 。 運 動 に 対
する生理的・感覚的反応や、意欲、運動への適応速度・程度には各個人
間 で 差 が あ り 、運 動 へ の 効 果 や 障 害 の 現 れ 方 も 異 な る 。1 9 9 5 年 時 点 で の
A C S M の 指 針 で は 、成 人 の 健 康 や 体 力 増 強 に は 中 強 度 の 有 酸 素 運 動 を 3 0
分 間 、週 に 3 ~ 5 日 行 う こ と だ と さ れ て い る 。有 酸 素 運 動 に は 一 定 の 強 度
を容易に維持でき、エネルギー消費量の差が個人間で比較的少ない身体
活動が期待できる自転車エルゴメーターが良いとされている(山本
ら . 1 9 9 9 )。
運動強度は、高強度にすることによりエネルギー消費が増えるが、整
形外科的障害が増加しやすい上、低強度の時よりも運動に対する意欲が
薄れがちである。一方、低強度は、長時間運動を継続することが可能で
あるが、脱水による疲労感や時間的拘束もあり、日常で実践する上で困
難なことが多い。従って、一般的には中強度で持続の長い運動が推奨さ
れている。
その運動強度の指標とされているものは幾つかあり、運動と認知機能
に 関 す る 研 究 で は 、最 大 酸 素 摂 取 量 V O 2 m a x や B o r g の 主 観 的 運 動 強 度 尺
11
度 RPE が 多 く 用 い ら れ て い る 。
Nakamura et al. (1999) は 快 適 な 自 己 ペ ー ス で の ジ ョ ギ ン グ 後 に P300
振 幅 の 増 大 を 示 し 、 そ の よ う な 運 動 は P300 に 関 連 す る 認 知 機 能 を 促 進
さ せ る こ と を 示 唆 し て い る 。 紙 上 ら (2005) も 自 己 調 節 運 動 後 に は 課 題
に対してより多くの注意処理資源が配分され、それとともに刺激評価時
間 も 短 縮 し た こ と が 考 え ら れ る と 述 べ て い る 。 客 観 的 指 標 VO2max に 基
づ く 運 動 強 度 設 定 を 用 い る 研 究 ( G r e g o e t a l . , 2 0 0 4 ; Ya g i e t a l . , 1 9 9 9 ) に お
いても、運動と脳内情報処理過程の間にポジティブな関係があることが
示されている。認知機能と快適感の関係を調査した研究が様々な分野で
行われており、それらは認知機能と快適感の間にポジティブな関係が示
さ れ て い る (Bell et al.,2003;Nunneley et al.,1982) 。
先行研究を参考に、本実験では身体に好影響を与えるとされている中
強度有酸素運動を行うことにし、被験者の運動強度を客観的に示すこと
が で き る VO2max 測 定 を 用 い て 運 動 処 方 を し た 。
( 3 ) 運動と視覚的認知課題
Hillman et al. (2003) は 、 中 強 度 で の ペ ダ リ ン グ 運 動 後 に P300 潜 時 が
より困難な試行では短縮したが、比較的容易な試行では変化しなかった
こ と を 明 ら か に し た 。 Chodzko – Zajko (1991) は 、 よ り 多 く の 注 意 処 理
を必要とする課題は、あまり必要としない課題に比べ運動による影響を
受 け や す い と し て い る 。 ま た 、 Kamijo et al. (2007) は 課 題 の 難 易 度 の 違
いによって脳内情報処理過程に対する運動の影響度は異なるが、中強度
運動後は課題の難易度に関係なく、脳内情報処理過程が常に至適レベル
12
に近いことが示唆されると報告した。
以上のように先行研究において、運動後は注意処理を伴う課題で認知
機能の変化が見られることが報告されている。しかしながら、課題の難
易度の違いによって、運動の影響がどのように異なるかを調査した先行
研究は数少ない。そこで、本実験では難易度の異なる課題を複数用いて
運動後の変化を調べることにした。
13
第 5 節
認知機能の日内変動
地 球 の 自 転 に 伴 っ て 明 暗 は 24 時 間 周 期 で 交 代 す る 。 そ れ を 受 け て 私
たちは日が昇ると目覚め、明るい間に食事をとり活動する。一方、日が
沈むと眠りに落ち、休息をとる。このように 1 日を周期とするリズムを
日内変動という。私たちの認知機能にも日内変動があるとされている。
樋 口 ら (1999) が 脳 の 覚 醒 水 準 お よ び 認 知 機 能 の 日 内 変 動 に つ い て 調 査
したところによると、脳の認知機能を反映する脳電位である事象関連電
位 P 3 0 0 の 潜 時 は 午 前 8 時 と 午 後 2 時 に 長 く 、 午 前 11 時 と 午 後 8 時 に 短
か っ た 。P 3 0 0 潜 時 は 弁 別 課 題 時 の 刺 激 に 対 す る 脳 内 情 報 処 理 速 度 を 反 映
し て お り 、す な わ ち 午 前 1 1 時 と 午 後 8 時 は 他 の 時 刻 に 比 べ て 脳 内 情 報 処
理能力が良好であったことが考えられると示している。このような脳の
電気生理学的指標を用いて、日中の作業能率の変動を明らかにした研究
は 他 に も あ る も の の( 後 藤 . 1 9 9 5 ; 岡 村 . 2 0 0 7 )、認 知 機 能 の 日 内 変 動 に つ い
ては未だ十分に明らかにされていないことが多い。
14
第 6 節
本研究の特徴と目的
以上のように運動が及ぼす認知機能への影響を調べた先行研究は数
多くおこなわれている。しかし、一過性の運動による認知機能への影響
は未だに一致した見解が得られていない上に、課題難易度の違いに対す
る見解も一致していない。また、先行研究において運動が認知機能に何
らかの影響を与えるということには見解が一致しているものの、その影
響がいつまで持続するのかを示したものはない。
そこで、本研究では、これまでの研究において認知機能にポジティブ
な影響を与えると考えられている一過性の中強度有酸素運動が認知機能
に与える影響について、①難易度の異なる認知機能検査を用いて評価す
る ②認知機能に与えられた影響が何時間後まで持続するのかを調べる
という2つの目的を設定して行った。
15
第 2 章
第 1 節
方法
対象
過 去 1 年 間 に 週 3 日 以 上 の 運 動 習 慣 が な い こ と 、喫 煙 習 慣 が な い こ と 、
普段の睡眠状況が朝型(朝型夜型スケールによる)であること、過去に
精神疾患・循環器疾患の既往歴がないことの条件に当てはまる健康な男
子 大 学 生 10 名 を 対 象 と し た 。 被 験 者 の 身 体 的 特 徴 に つ い て は Table 1 に
示 す 。 す べ て の 被 験 者 に 対 し て 、事 前 に 実 験 の 目 的 、方 法 な ど を 詳 細 に
説明し、実験参加の同意を得た。
被験者は実験に先立ち朝型・夜型を調査するためのアンケートに回答
した。アンケートを用いて被験者が朝型であることを確認した上で実験
に参加してもらった。
Ta b l e 1 .
被験者特徴
平 均 ±SD
年 齢 (age)
23.0±2.4
身 長 (cm)
174±4.3
体 重 (kg)
66.6±7.7
16
第 2 節
実験手順
本 実 験 は 、1 0 名 の 被 験 者 を 2 人 1 組 と し 、2 0 08 年 9 月 11 日 ~ 20 08 年
10 月 24 日 の 期 間 、 計 5 回 に 分 け て 行 っ た 。 (Table 2)
実 験 内 容 は 、 運 動 条 件 (60% VO2max を 35 分 間 、 視 覚 的 認 知 課 題 ) と
安 静 条 件 (運 動 な し 、 視 覚 的 認 知 課 題 の み ) か ら な る 。 Table 2、 Fig.1 に
示したとおり、各条件は視覚的認知課題に対する慣れの影響や、運動に
よる疲労を考慮し、1 週間以上の間隔をとった。被験者は、実験開始 1
週間前に最大酸素摂取量の測定および視覚的認知課題の練習を行った。
その日から実験当日まで運動をしないことを指示し(自転車などの交通
手 段 も 含 む )、身 体 活 動 量 を 調 査 す る 為 の ア ク チ ウ ォ ッ チ( フ ジ ・ レ ス ピ
ロ ニ ク ス 社 製 ア ク チ ウ ォ ッ チ AW L ) を 非 利 き 手 に 装 着 、 身 体 活 動 日 誌
( F i g . 4 ) を 記 入 し て も ら っ た 。ま た 、測 定 前 夜 か ら カ フ ェ イ ン ・ ア ル コ ー
ル の 摂 取 を 禁 止 し た 。測 定 前 夜 、被 験 者 は 1 9 時 に 早 稲 田 大 学 所 沢 キ ャ ン
パ ス フ ロ ン テ ィ ア リ サ ー チ セ ン タ ー に 集 合 し 、 22 時 に 視 覚 的 認 知 課 題 1
回 目 を 実 施 、 23 時 に 就 寝 し た 。 測 定 当 日 は 、 6 時 に 起 床 し 、 6 時 30 分 に
視 覚 的 認 知 課 題 2 回 目 を 実 施 、7 時 に 運 動 も し く は 安 静 条 件 を 開 始 し た 。
運 動 条 件 で は 、自 転 車 エ ル ゴ メ ー タ ー( C O M B I W E L L N E S S 社 製 エ ア ロ
バ イ ク 75XLⅡ ) を 使 用 し た 。 一 方 、 安 静 条 件 で は 、 運 動 条 件 と 同 一 の
時間、座位で安静に過ごした。運動条件・安静条件の前後に指先から少
量 の 血 液 を 採 血 し 、 血 中 乳 酸 値 ( A R K R AY 社 製 L a c t a t e P r o ) と 血 糖 値
( NIPRO 社 製 FreeStyle) を 測 定 し た 。 運 動 も し く は 安 静 条 件 終 了 後 5
分以内に視覚的認知課題 3 回目を実施し、その後 3 時間ごとに視覚的認
知 課 題 を 行 っ た 。 ま た 視 覚 的 認 知 課 題 前 に 毎 回 体 温 、 血 圧 、 心 拍 、 VA S
17
を測定した。実験中の食事内容を統一するため、すべての食事を検者が
用 意 し た 。 測 定 前 夜 、 当 日 の ス ケ ジ ュ ー ル を Fig.2、 Fig.3 に 示 す 。 実 験
環 境 は 25 ℃ に 設 定 し た 。
Ta b l e 2 .
①
②
③
④
⑤
実験被験者参加期間
実験日程
実験内容
参加被験者
9月 4日
事前説明 & 最大酸素摂取量測定 & 視覚刺激課題練習
1・2
9 月 11 日 12 日
実験 1 回目
1 ( Ex ) ・ 2 ( Cont )
9 月 18 日 19 日
実験 2 回目
1 ( Cont ) ・ 2 ( Ex )
9月 8日
事前説明 & 最大酸素摂取量測定 & 視覚刺激課題練習
3 ・4
9 月 14 日 15 日
実験 1 回目
3 ( Ex ) ・ 4 ( Cont )
9 月 21 日 22 日
実験 2 回目
4 ( Ex )
9 月 22 日
事前説明 & 最大酸素摂取量測定 & 視覚刺激課題練習
5・6
9 月 28 日 29 日
実験 1 回目 ( C のみ実験 2 回目 )
3 ( Cont ) ・ 5 ( Ex ) ・ 6 ( Cont )
10 月 5 日 6 日
実験 2 回目
5 ( Cont ) ・ 6 ( Ex )
9 月 26 日
事前説明 & 最大酸素摂取量測定 & 視覚刺激課題練習
7・8
10 月 2 日 3 日
実験 1 回目
7 ( Ex ) ・ 8 ( Cont )
10 月 9 日 10 日
実験 2 回目
7 ( Cont ) ・ 8 ( Ex )
10 月 10 日
事前説明 & 最大酸素摂取量測定 & 視覚刺激課題練習
9 ・ 10
10 月 16 日 17 日
実験 1 回目
9 ( Ex ) ・ 10 ( Cont )
10 月 23 日 24 日
実験 2 回目
9 ( Cont ) ・ 10 ( Ex )
※注:被験者 3 は体調不良のため、運動条件後 2 週間後に安静条件を実
施した。
18
実験 1 週間前
VO2max
測定
課題練習
Fig.1
実験 1
1 週間
アクチウォッチにて観察
1 週間
アクチウォッチにて観察
運動
or
安静
実験スケジュール(全体)
☆ : 体 温 ・ 血 圧 ・ 心 拍 ・ VA S 測 定 、 視 覚 的 認 知 課 題
Fig.2
実験スケジュール(測定日前夜)
6:00 6:30 7:00 7:40
8:10
起床
朝食
☆ 軽食
★
☆
10:40 11:40 13:40 16:40
☆
昼食
☆
☆
☆ : 体 温 ・ 血 圧 ・ 心 拍 ・ VAS 測 定 、 視 覚 的 認 知 課 題
★:運動もしくは安静
Fig.3
実験スケジュール(測定日)
19
実験 2
運動
or
安静
Fig.4
身体活動日誌
20
第 3 節
運動負荷
実験開始(運動条件もしくは安静条件)の一週間前に被験者の最大酸
素 摂 取 量 ( 以 下 VO2max) を 測 定 し 、 60% VO2max を 算 出 し た 。
VO2max の 測 定 は 負 荷 70 W で 運 動 を 開 始 し 、 2 分 毎 に 負 荷 を 35 W 上
げ た 。負 荷 増 加 毎 に R P E と 心 拍 を 測 定 し 、R P E 2 0 以 上 、心 拍 2 0 0 拍 / 分
以 上 、 呼 吸 商 1.1 以 上 、 VO2 が プ ラ ト ー に 達 す る と い う 条 件 い ず れ か 2
つが当てはまった段階で被験者の最大酸素量に到達したと判断し運動を
中 止 し た 。 60% VO2max の 負 荷 算 出 方 法 は 、 30 秒 平 均 で VO2 を 出 力 、
V O 2 m a x 値 を 確 認 し 、 V O 2 ・ Wo r k l o a d ( W ) 間 の 1 次 回 帰 式 を 求 め 、 目 的
と な る 6 0 % V O 2 m a x 時 の Wo r k l o a d ( W ) を 算 出 し た 。
実 験 当 日 の 運 動 は 、 無 負 荷 で 3 分 間 の ウ ォ ー ミ ン グ ア ッ プ 後 、 60%
VO2max 強 度 の 自 転 車 エ ル ゴ メ ー タ ー 運 動 を 30 分 間 行 っ た 。 そ の 後 、 再
び 無 負 荷 で 2 分 間 の ク ー ル ダ ウ ン を 行 っ た 。回 転 数 は 6 0 r p m で 一 定 と し 、
5 分 毎 に RPE と 心 拍 を 測 定 し た 。
RPE は Borg (1970) の 主 観 的 運 動 強 度 尺 度 (Fig.5) を 用 い て 評 価 し た 。
21
Fig.5
主観的運動強度尺度
22
第 4 節
視覚的認知課題
本実験では 3 種類の視覚刺激を用いた視覚的認知課題を行った。検者
はのべ 3 名で行い、検者間で教示の差がでないように台本を作成し、被
験 者 に 対 す る 視 覚 的 認 知 課 題 の 教 示 を 統 一 し た 。 測 定 装 置 は 、 C RT モ ニ
タ ー 、 パ ソ コ ン 、 キ ー ボ ー ド (Color word stroop test 用 ) 、 1 つ 押 し ボ タ
ン (Go / no – go test 用 ) を 使 用 し た 。
( 1 ) Color word stroop test
被 験 者 は 、 ブ ー ス 内 の 椅 子 に 着 席 し 、 約 8 0 c m 前 方 に 設 置 さ れ た C RT
モニターに表示される課題を見ながら、手元にある色のついたキーボー
ドによって回答した。回答時、被験者は両手の中指・人差し指をキーボ
ードの上に乗せた状態を保ち、手元を見ないように、刺激に対してでき
るだけ速く、できるだけ正確に反応をするように課題を行った。表示さ
れ る 文 字 は 「 あ か 」「 あ お 」「 き い ろ 」「 み ど り 」 の 4 種 類 と し 、 文 字 に 使
用 さ れ る 色 も 同 4 色 と し た 。 文 字 と 使 用 さ れ る 色 が 一 致 し な い 試 行 12
パ タ ー ン ( 例 、「 あ か 」「 あ お 」「 き い ろ 」「 み ど り 」) を 作 成 し 、 そ れ ら が
ラ ン ダ ム に 計 96 試 行 ( 12 パ タ ー ン ×8 回 ) 表 示 さ れ る よ う に 設 定 し た 。
Color word stroop test は キ ー ボ ー ド 操 作 の 練 習 が 必 要 な た め 、 実 験 の 1
週 間 前 に 96 試 行 ×4 set の 練 習 を 行 っ た 。 ま た 測 定 日 前 夜 は 練 習 も 含 め 、
96 試 行 ×4 set を 2 回 行 い 、測 定 日 は 96 試 行 ×4 set を 1 回 ず つ 行 っ た 。課
題 遂 行 時 間 は 1 回 に つ き 約 4 分 間 で あ っ た 。 課 題 作 成 に は presentation
23
ソ フ ト ( Neurobehavioral Systems 社 製 ) を 使 用 し た 。
( 2 ) Go / no – go test
被験者は、ブース内の椅子に着席、イヤホンを装着しその上に防音用
の イ ヤ ー カ フ を 装 着 し た 。約 8 0 c m 前 方 に 設 置 さ れ た C RT モ ニ タ ー に 表
示される刺激に対して利き手側に置いてあるボタンを用いて反応した。
青 い 丸 が 1500 ms 間 隔 で 表 示 さ れ る 単 純 反 応 課 題 を 50 試 行 ×1 set を 実 施
した。その後、青い丸でボタンを押し、赤い丸ではボタンを押さないも
の と し た 青 い 丸 80 試 行 ・ 赤 い 丸 20 試 行 が ラ ン ダ ム に 表 示 さ れ る 刺 激 弁
別 課 題 を 行 っ た 。 刺 激 弁 別 課 題 は 100 試 行 ×2 set 行 っ た 。 被 験 者 に は 、
刺激に対してできるだけ速く、できるだけ正確に反応をするように教示
を 行 っ た 。課 題 遂 行 時 間 は 全 て の 課 題 を 合 わ せ て 約 1 0 分 間 で あ っ た 。課
題 作 成 に は presentation ソ フ ト ( Neurobehavioral Systems 社 製 ) を 使 用
した。
( 3 ) Wisconsin card sorting test
被験者は、ブース内の椅子に着席、イヤホンを装着しその上に防音用
の イ ヤ ー カ フ を 装 着 し た 。約 8 0 c m 前 方 に 設 置 さ れ た C RT モ ニ タ ー に 表
示 さ れ る 刺 激 を 見 て 課 題 を 行 っ た 。イ ヤ ホ ン か ら は 課 題 の 指 示 が 出 さ れ 、
被験者はその指示に従い、利き手側にあるマウスを動かし回答した。練
習課題を数回行ってから本番課題を行った。課題遂行時間は、全ての課
24
題 を 合 わ せ て 約 2~ 3 分 間 で あ っ た 。課 題 は 小 林 祥 奏( 島 根 医 科 大 学 第 3
内 科 教 授 ) が 作 成 し た 慶 應 F-S version ウ ィ ス コ ン シ ン カ ー ド ソ ー テ ィ
ングテストを用いた。
以上の順番で視覚的認知課題を行った。
課 題 全 体 の 遂 行 時 間 は 課 題 間 の 休 憩 も 含 め 約 25 分 間 で あ っ た 。
25
第 5 節
その他の測定項目
血 圧 ・ 心 拍 の 測 定 は HEM–1000 OMRON を 使 用 し 、 体 温 の 測 定 は
We l c h A l l y n T h e r m o S c a n P R O 4 0 0 0 Ty p e 6 0 2 1 B R A U N を 使 用 し た 。眠 気 や 疲
労 の 評 価 は 、 視 覚 的 ア ナ ロ グ 評 価 尺 度 ( Vi s u a l a n a l o g s c a l e : VA S ) を 使 用
し た 。 VA S は 1 0 0 m m の 直 線 の 左 右 両 端 に 単 語 を 記 し て お き 、 今 の 状 態
に近いと思われる位置に垂直線を引いてもらう方法であり、本実験では
Fig.6 を 使 用 し た 。
Fig.6
VA S ( 眠 気 ・ 疲 労 )
26
第 6 節
統計処理
統計処理には二元配置分散分析を行い、交互作用が認められたものに
関しては、条件ごとに時間を要因とした一元配置分散分析を用いて多重
比 較 検 定 を 行 っ た 。 有 意 水 準 は p < 0 . 0 5 と し た 。 ソ フ ト は S P S S Ve r. 1 5
を使用した。
27
第 3 章
第 1 節
結果
運動
( 1 ) 運動負荷・運動中の変化
被 験 者 の V O 2 m a x 、6 0 % V O 2 m a x 、WAT T 数 を Ta b l e 3 に 、運 動 中 の 心 拍 、
R P E の 変 化 ・ 平 均 を Ta b l e 4 に 示 す 。
Ta b l e 3 .
V O 2 m a x 、 6 0 % V O 2 m a x 、 WAT T 数
平 均 ±SD
VO2max
2932±526.6
60% VO2max
1759±315.9
WATT数
129.7±38.6
28
Ta b l e 4 .
心 拍 、 RPE の 変 化 ・ 平 均
平 均 ±SD
HR start
75.5±16.7
HR goal
145±13.6
HR max
145±13.5
RPE start
7.70±2.63
RPE goal
14.3±1.70
RPE max
14.5±1.58
( 2 ) 乳酸値
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
運動の有無(運動条件・安静条件)と乳酸値測定時刻を二要因として
二元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認められた。各
要因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても時間に関
する有意な単純主効果が認められた。また、運動・安静後に条件に関す
る有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、いずれの条件
においても時間の経過とともに乳酸値が有意に増加した。また、運動・
安 静 後 に 、 運 動 条 件 の 乳 酸 値 が 有 意 に 高 か っ た 。 (Fig.7)
29
Fig.7
乳酸値
*:p<0.01
( 3 ) 血糖値
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
運動の有無(運動条件・安静条件)と血糖値測定時刻を二要因として
二元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認められた。各
要因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても時間に関
する有意な単純主効果が認められた。また、運動・安静後に条件に関す
る有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、いずれの条件
においても時間の経過とともに血糖値が有意に増加した。また、運動・
安 静 後 に 、 安 静 条 件 の 血 糖 値 が 有 意 に 高 か っ た 。 (Fig.8)
30
Fig.8
血糖値
*:p<0.01
31
第 2 節 体 温 ・ 心 拍 ・ VA S
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
( 1 ) 体温
運動の有無(運動条件・安静条件)と体温測定時刻を二要因として二
元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認められた。各要
因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても時間に関す
る 有 意 な 単 純 主 効 果 が 認 め ら れ た 。ま た 、運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 に の み
条件に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、い
ずれの条件においても、時間の経過とともに体温が有意に変化した。ま
た 、 運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 の み 、 運 動 条 件 の 体 温 が 有 意 に 高 か っ た 。
(Fig.9)
32
Fig.9
体温
*:p<0.05
( 2 ) 心拍
運動の有無(運動条件・安静条件)と心拍測定時刻を二要因として二
元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認められた。各要
因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても時間に関す
る 有 意 な 単 純 主 効 果 が 認 め ら れ た 。ま た 、運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 に の み
条件に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、い
ずれの条件においても、時間の経過とともに心拍が有意に変化した。ま
た 、 運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 の み 、 運 動 条 件 の 心 拍 が 有 意 に 高 か っ た 。
(Fig.10)
33
Fig.10
心拍
*:p<0.05
( 3 ) VA S
a. 眠 気
運 動 の 有 無 ( 運 動 条 件 ・ 安 静 条 件 ) と VA S 測 定 時 刻 を 二 要 因 と し て 二
元配置分散分析をおこなった結果、時間に関する有意な主効果が認めら
れ た 。 多 重 比 較 検 定 の 結 果 、 眠 気 は 、 運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 よ り 13:40
の 方 が 有 意 に 高 か っ た 。 ( F i g . 11 )
34
F i g . 11
VA S 眠 気
*:p<0.05
b. 疲 労
運 動 の 有 無 ( 運 動 条 件 ・ 安 静 条 件 ) と VA S 測 定 時 刻 を 二 要 因 と し て 二
元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認められた。各要
因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても時間に関す
る 有 意 な 単 純 主 効 果 が 認 め ら れ た 。ま た 、運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 に の み
条件に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、い
ずれの条件においても、時間の経過とともに疲労が有意に変化した。ま
た 、 運 動 ・ 安 静 直 後 の 7:40 に の み 、 運 動 条 件 の 疲 労 が 有 意 に 高 か っ た 。
(Fig.12)
35
Fig.12
VA S 疲 労
*:p<0.05
36
第 3 節
視覚的認知課題遂行能力の急性運動効果
( 1 ) Color word stroop test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. 課 題 遂 行 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題測定時刻を二要
因として二元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認めら
れた。各要因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても
時間に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、い
ずれの条件においても、時間の経過とともに課題遂行時間が有意に短縮
した。また、運動・安静後に、運動条件の課題遂行時間が有意に短縮す
る 傾 向 が み ら れ た 。 (Fig.13)
37
Fig.13
課題遂行時間
* : p<0.05
# : p=0.087
b. 正 解 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題測定時刻を二要
因として二元配置分散分析をおこなった結果、有意な交互作用が認めら
れた。各要因の単純主効果を検討したところ、いずれの条件においても
時間に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結果、い
ずれの条件においても、時間の経過とともに正解時反応時間が有意に短
縮した。また、運動・安静後に運動条件の正解時反応時間が有意に短縮
す る 傾 向 が み ら れ た 。 (Fig.14)
38
Fig.14
正解時反応時間
* : p<0.05
# : p= 0.071
c. 誤 反 応 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.15)
39
Fig.15
誤反応時反応時間
d. 誤 反 応 数 ( 回 )
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.16)
40
Fig.16
誤反応数
( 2 ) Go / no – go test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. 正 解 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.17)
41
Fig.17
正解時反応時間
b. 正 解 時 反 応 時 間 SD
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、有意な交互作用が
認められた。各要因の単純主効果を検討したところ、運動・安静条件前
にのみ条件に関する有意な単純主効果が認められた。多重比較検定の結
果 、運 動 ・ 安 静 条 件 前 に の み 、安 静 条 件 の 方 が 有 意 に 低 か っ た 。 ( F i g . 1 8 )
42
Fig.18
正 解 時 反 応 時 間 SD
*:p<0.05
c. 誤 反 応 率 (%)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.19)
43
Fig.19
誤反応率
( 3 ) Wisconsin card sorting test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. カ テ ゴ リ ー 達 成 数 (CA)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.20)
44
Fig.20
カテゴリー達成数
b. 誤 反 応 数 (回 )
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.21)
45
Fig.21
誤反応数
c. 保 続 性 誤 反 応 数 (PEM)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.22)
46
Fig.22
保続性誤反応数
47
第 4 節
視覚的認知課題遂行能力の経時変化
( 1 ) Color word stroop test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. 課 題 遂 行 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、時間に関して有意
な 主 効 果 が 認 め ら れ た 。 多 重 比 較 検 定 の 結 果 、 課 題 遂 行 時 間 は 、 6:30 の
測 定 よ り 7:40 以 降 全 て の 測 定 が 有 意 に 短 縮 し た 。 (Fig.23)
48
Fig.23
課題遂行時間
*:p<0.05
b. 正 解 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、時間に関して有意
な 主 効 果 が 認 め ら れ た 。 多 重 比 較 検 定 の 結 果 、 正 解 時 反 応 時 間 は 、 6:30
の 測 定 よ り 7:40 以 降 全 て の 測 定 が 有 意 に 短 縮 し た 。 (Fig.24)
49
Fig.24
正解時反応時間
*:p<0.05
e. 誤 反 応 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.25)
50
Fig.25
誤反応時反応時間
d. 誤 反 応 数 (回 )
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.26)
51
Fig.26
誤反応数
( 2 ) Go / no – go test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. 正 解 時 反 応 時 間
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.27)
52
Fig.27
正解時反応時間
b. 正 解 時 反 応 時 間 SD
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.28)
53
Fig.28
正 解 時 反 応 時 間 SD
c. 誤 反 応 率 (%)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.29)
54
Fig.29
誤反応率
( 3 ) Wisconsin card sorting test
運 動 条 件 (exercise) 10 名 と 安 静 条 件 (control) 10 名 の 平 均 を 以 下 に 表
す。
a. カ テ ゴ リ ー 達 成 数 (CA)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.30)
55
Fig.30
カテゴリー達成数
b. 誤 反 応 数 (回 )
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を要因
として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主効
果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.31)
56
Fig.31
誤反応数
c. 保 続 性 誤 反 応 数 (PEM)
運動の有無(運動条件・安静条件)と視覚的認知課題実施時刻を二要
因として二元配置分散分析の統計をおこなった結果、両要因に有意な主
効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。 (Fig.32)
57
Fig.32
保続性誤反応数
58
第 4 章
考察
本 実 験 で は 、早 朝 に 3 0 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 を 行 っ た 場 合 、そ の 直
後及びその後の日中の認知機能にどのような変化が生じるのかを 3 種類
の視覚的認知課題を用いて評価した。
第 1 節
運動の認知機能に対する急性効果の評価
本 実 験 で は 、 Color word stroop test の 課 題 遂 行 時 間 及 び 正 解 時 反 応 時
間 が 3 0 分 間 の 運 動 ・ 安 静 前 後 で 有 意 に 短 縮 し た 。ま た 、運 動 条 件 で は 安
静 条 件 よ り も 課 題 遂 行 時 間 (p=0.087) と 正 解 時 反 応 時 間 (p=0.071) が
より短縮する傾向がみられた。しかし、その他の課題では、運動、安静
前 後 に も 、条 件 間 に も 有 意 な 差 は み ら れ な か っ た 。こ の C o l o r w o r d s t r o o p
test で 運 動 の 影 響 が み ら れ 、 Go / no – go test で は 運 動 の 影 響 が み ら れ な
かったという結果については、難易度の高い視覚的認知課題が運動の影
響 を よ り 受 け や す い と 論 じ て い る 先 行 研 究 ( C h o d z k o – Z a j k o . 1 9 9 1 ) や 、難
易 度 の 高 い 試 行 で は P300 潜 時 が 短 縮 し た が 、 比 較 的 容 易 な 試 行 で は 変
化 し な か っ た こ と を 示 し た 先 行 研 究 (Hillman et al.2003) に 一 致 す る も
の で あ る。し かし、本 実験にお いては課 題難易度 が高いと される
Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g t e s t で 運 動 の 急 性 効 果 は み ら れ な か っ た 。こ れ は 、
課 題 特 性 か ら 生 じ た 結 果 だ と 考 え ら れ る 。 Color word stroop test は 、 注
意・切り替えに関する機能、つまり情報処理過程における視覚情報
( 色 ) と言語情報 ( 文字 ) の間に干渉が起き、発音や指摘をする場合
59
に妨害が起こる。被験者はこの妨害が生じている上で刺激に対する反応
をするので、課題難易度は高く、テストー再テストによる尺度の安定性
が 高 い と さ れ て い る 。 こ の こ と か ら 、 Color word stroop test は 子 供 か ら
一 般 成 人 ま で 幅 広 く 使 用 さ れ て い る 。 一 方 、 Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g t e s t
は、前頭連合野の損傷を評価するために医療分野で幅広く使用されてい
る課題である。前頭連合野が損傷していることにより課題の成績が著し
く低下するものであり、前頭連合野に損傷を受けていない健康な一般成
人では、運動前後での成績の変化がみられなかったと考えられる。この
ように本実験及び先行研究の結果から、同じ難易度の高い課題であって
も、その課題の特性によって、運動の影響を受けやすい課題と受けにく
い 課 題 が あ る こ と が 考 え ら れ る 。G o / n o – g o t e s t と Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g
test は 短 時 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 後 の 認 知 機 能 の 変 化 を 測 定 す る 上 で 、
感度の高い課題ではないということが考えられる。
ま た 、本 実 験 で は 、運 動 終 了 後 5 分 以 内 に 視 覚 的 認 知 課 題 を 開 始 し た 。
乳 酸 値 、 体 温 、 心 拍 、 VA S ( 疲 労 ) は 、 運 動 条 件 の 方 が 安 静 条 件 よ り も
有 意 に 上 昇 し て い た 。こ れ ら の こ と か ら 、3 0 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 の
影 響 下 で 、視 覚 的 認 知 課 題 を 行 っ た と 考 え ら れ る 。従 っ て 、30 分 間 の 中
強 度 有 酸 素 運 動 直 後 は 、 一 時 的 に 身 体 及 び 脳 へ 影 響 を 与 え 、 Color word
stroop test の 結 果 に 影 響 を 及 ぼ し た の で は な い か と 考 え ら れ る 。
To m p o r o w s k i ( 2 0 0 3 ) は 、 運 動 が 脳 に も た ら す メ カ ニ ズ ム に つ い て 調 査 し
た 結 果 を ま と め 、 60 分 間 ま で の 最 大 下 運 動 は 認 知 機 能 を 促 進 さ せ る が 、
脱水症状を生じさせるようなきつい運動は認知機能を低下させるとまと
めている。さらに、運動は脳内情報処理過程全体に影響を及ぼすのでは
なく、初期の知覚過程には影響を及ぼさず、それ以降の意志決定、反応
準 備 過 程 に 対 し て 選 択 的 に 影 響 す る こ と を 推 測 し て い る 。ま た 、L e e T e t
60
al. (2007) は 、 血 清 BDNF が 運 動 後 の 認 知 機 能 の 変 化 に 関 与 し て い る こ
と を 示 唆 し て い る 。 血 清 BDNF は 標 的 細 胞 表 面 上 に あ る 特 異 的 受 容 体
Tr k B に 結 合 し 、 神 経 細 胞 の 生 存 ・ 成 長 ・ シ ナ プ ス の 機 能 亢 進 な ど の 神 経
細胞の成長を調節する脳細胞の増加には不可欠な神経系の液性蛋白質で
あ る 。 血 清 BDNF と 運 動 に 関 す る 先 行 研 究 は 、 ヒ ト に 対 し て 行 わ れ て い
る も の は ま だ 数 少 な い 。 し か し 、 短 期 間 運 動 に よ っ て 血 清 BDNF の 上 昇
が み ら れ た と い う 先 行 研 究 が あ る (Gold et al.2003)。 今 後 、 運 動 の 影 響
を よ り 明 ら か に す る た め に 、 血 清 BDNF 等 の 新 た な 指 標 を 取 り 入 れ る べ
きであると考えられる。
61
第 2 節
運動の認知機能に対する経時変化の評価
経 時 変 化 に つ い て 、 Color word stroop test の 課 題 遂 行 時 間 及 び 正 解 時
反 応 時 間 が 運 動 ・ 安 静 条 件 と も に 6 : 4 0 の 1 回 目 の 測 定 に 比 べ 、そ れ 以 降
全ての測定が有意に短縮した。これは、眠気による覚醒度の影響が示さ
れたものだと考えられる。
森 国 (2006) は 、 眠 気 と 注 意 力 に は 強 い 相 関 が あ り 、 眠 気 が 強 い と 注
意力は低下すると述べている。また、眠気と注意力の日内変動は明け方
(4 時 ~ 6 時 ) と 昼 食 後 の 1 日 2 回 低 下 す る と 示 唆 し て い る 。 本 実 験 で は
視覚的認知課題実施時間に食事の影響がでないように昼食時に視覚的認
知 課 題 を 行 っ て い な い が 、起 床 後 3 0 分 で 行 っ た 課 題 で は 最 も 成 績 が 悪 い
結果であった。このことから先行研究に一致している。
先 述 し た 樋 口 ら ( 1 9 9 9 ) は 、P 3 0 0 潜 時 と 眠 気 の 調 査 を し 、P 3 0 0 と 眠 気
の 変 動 が 対 応 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。P 3 0 0 は 事 象 関 連 電 位 で 、脳
の認知活動を反映する脳電位であることから、認知機能と眠気の変動が
一 致 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。P 3 0 0 の 潜 時 は 午 前 8 時 と 午 後 2 時 に 長
く 、 午 前 11 時 と 午 後 8 時 に 短 か っ た 。 こ の 先 行 研 究 で は 午 前 8 時 か ら
P300 を 測 定 し て い る が 、 経 時 変 化 は 本 実 験 の 結 果 と ほ ぼ 一 致 し て い る 。
本 実 験 で は 、 注 意 力 を 要 す る 課 題 難 易 度 の 高 い Color word stroop test
において早朝の測定に比較し、他のすべての測定時刻の課題遂行時間と
正解時反応時間が短縮した。しかし、運動条件と安静条件間には差はな
か っ た 。 ま た 、 VA S の 眠 気 調 査 も 運 動 ・ 安 静 直 後 に 最 も 低 く 、 日 中 に 最
も高くなったが、運動条件と安静条件で有意な差はみられなかった。そ
の後の測定でも運動条件と安静条件間に差はみられなかった。先行研究
62
による認知機能や覚醒水準の日内変動と本実験の認知機能及び眠気調査
の 結 果 が ほ ぼ 一 致 し て お り 、早 朝 に 行 っ た 3 0 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 は 、
認知機能及び覚醒に持続的な影響を与えることがなかったと考えられる。
従って、今後の実験では、①運動時間を長くすること②運動強度をあ
げること③一過性の運動効果を調査するのではなく、長期的に運動を行
ったときの認知機能への影響をみることなどの改善点が挙げられる。
63
第 5 章
結論
本実験で明らかになったことを以下に示す。
( 1 ) 30 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 は 、 Color word stroop test に 関 連 す る 認
知機能に一過性の影響を与える。
( 2 ) 3 0 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 は 、認 知 機 能 に 一 過 性 の 影 響 を 与 え る が 、
その効果は持続しない。
( 3 ) G o / n o – g o t e s t 、 Wi s c o n s i n c a r d s o r t i n g t e s t は 、 短 時 間 の 中 強 度 有
酸素運動が認知機能に与える影響を評価するのには適さない。
本 実 験 の 結 果 か ら 30 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動 は 、 認 知 機 能 に 一 過 性
の 影 響 を 与 え る こ と が 明 ら か に な っ た 。ま た 、30 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運
動は、認知機能に持続的な影響を与えないことも明らかになった。この
こ と か ら 、私 た ち の 日 常 生 活 に お い て 早 朝 に 3 0 分 間 の 中 強 度 有 酸 素 運 動
を行うことは、一時的に気分が良くなり、集中力が増すという現象につ
いては期待ができるものの、認知機能にそれほど大きな影響はなく、仕
事能率が上がるという期待や、持続的に良い気分を維持できるというこ
とを証明する結果にはいたらなかった。しかし、運動を実施するタイミ
ングを変えることによって、私たちの日常生活に好影響を及ぼす結果が
得られるかもしれない。また、運動強度や運動内容を変えることで新た
な知見が得られるかもしれない。いずれにせよ、身体に良いとされてい
64
る運動が認知機能にも好影響を与えることを証明し、世の中の人々に運
動の有益性をより明らかにしていきたい。
65
第 6 章
謝辞
本論文を執筆するにあたり、多くの方々にご指導、ご協力して頂きま
した。心より感謝しております。
終始暖かくご指導して下さった内田直教授、宮崎先生、後藤先生、関
口先生、飯田さん、小川さん、副査を快諾して下さった山崎先生、彼末
先生、有難うございました。
そして、実験に快く手を貸してくれた修士課程の仲間たち、学部生の
皆さん、有難うございました。
最後に、陰ながら支えてくれた家族に深く感謝します。
平 成 21 年 1 月
寺本圭子
66
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