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道東地方の小・中学校における 毎月測定値を用いた発育の基礎的研究

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道東地方の小・中学校における 毎月測定値を用いた発育の基礎的研究
道東地方の小・中学校における毎月測定値を用いた発育の基礎的研究
道東地方の小・中学校における
毎月測定値を用いた発育の基礎的研究
岡
安
多香子
山
田
玲
子
西
川
武
志
荒
島
真一郎
(北海道教育大学札幌校)
度は体重の変化を中心に報告したが,今年度は身長の季
.は じ め に
節変動を中心に報告する。
発育の評価は集団の年齢毎の平均値を求め,個人が母
集団の中でどの位置にいるかで判断されてきた。私達は
.対 象 者
発育の個性差を踏まえて,児童・生徒の個々の身長・体
重を縦断的に解析してきた )。本研究では頻回の測定か
対象は道東地方に住む,
年
年生まれの小学
生(男子 人,女子
人)と中学生(男子
の年一回の測定では見逃される季節変動等を,毎月測定
人)の計
年間以上の毎月の身長・体重の測
値の北大大型計算機を用いた時系列解析により明らかに
定値が揃っている児童・生徒である(表
らその個人の現在の発育レベルを縦断的に評価し,従来
した。
年間以上にわたる成長のパラメーターの季節変
動パターンを求め,標準的な児童・生徒と肥満群の児
人で,
人,女子
)。対象の体
格は各学年とも文部科学省発行の学校保健統計調査報告
書 )の全国平均の
の範囲内にあった(表
)。し
童・生徒の発育における季節変動の差を明らかにし,学
かし,測定終了年度の肥満度分布(表 )に示すように,
校保健の現場に有用な肥満指導と健康教育の方法を考案
肥満群の割合は
する事を最終目標とする。また小規模校だから出来るき
あった。
%を占め,全国平均より高い割合で
め細かい健康教育の実践に役立つ事が期待できる。昨年
表
(
中
中
中
中 学 計
小
小
小
小
小
小
小 学 計
小 中計
) (
) (
) (
) (
年度別対象者数
) (
) (
) (
) (
) (
)
計
岡安多香子・山田
表
身長(
小 学
小 学
小 学
小 学
中 学
中 学
中 学
体重
(
小 学
小 学
小 学
小 学
中 学
中 学
中 学
)
年
年
年
年
年
男子
全国平均
)
女子
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
( )
( )
)
年
年
年
年
年
年
男子
全国平均
女子
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
( )
( )
男子
全国平均
表
肥 満 群
(
肥 満 度
非肥満群
小学男子
小学女子
中学男子
中学女子
計(%)
(
%
%)
%
(
%)
(
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
( )
( )
全国平均
%
%)
%
(
%)
(
%
%)
%
%)
(
(
計
%)
%
(
%)
(
%)
計
%)
)で処理した )。センサス局法では原時
法
系列は循環傾向成分(トレンド成分)(
時系列解析について
成分( )・不規則成分(
身体発育値から季節変動を抽出する際は,発育スパー
ト・日内変化・測定誤差などの影響を少なくするため
に,移動平均法に基づく時系列解析を用いて,
年を周
(
に含まれる時系列解析,センサス局法(
)
)の
)・季節変動
つの成分からなって
いるが,ここではそれらの積を仮定する乗法モデルを用
いた。
原系列
なお,トレンド成分(
期とする季節変動成分を求めた。
対象者のデータを
女子
測定終了時の肥満度分布
%以上
小学男子
小学女子
中学男子
中学女子
計(%)
全国平均
( )
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
( )
( )
肥 満 度
全国平均
( )
( )
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
( )
年
肥満度
(%)
年
小 学
小 学
年
小 学
年
小 学
年
中 学
年
中 学
年
中 学
年
.方
武志・荒島真一郎
測定終年度 月時の身体的特徴(平均
(人数)
( )
( )
( )
( )
( )
年
年
玲子・西川
)は原時系列を移動平均によっ
て平滑化した成分であり,季節変動成分( )は
比
(原時系列とトレンド成分の隔たり)の中で 年間の周
道東地方の小・中学校における毎月測定値を用いた発育の基礎的研究
期を持つ成分で,
比の月別移動平均によって求めら
れる。不規則成分(
)は
比の中で季節変動成分以
外のすべての変動が含まれる。
ターンを比較した。男女全体を最高月はともに
%,非肥満群
満群
(%)は,傾向成分を
季節変動成分
次に,肥満群と非肥満群に分けて身長の季節変動パ
とした比率
で表現される。季節変動は分散分析により %未満水準
月は肥満群が
月(
非肥満群が 月(
月(肥
%)で一致し,最低
%)次いで
月(
%),
%)と似た傾向であった(図
)。
で有意性を検討した。
(%)
(
)
(
または
図
)
.身長季節変動の平均的パターン
肥満度の求め方
対象者の小・中学校の健康診断の身長,体重値をもと
才の肥満度を月別に計算した。肥満
に,個人別の
)
度は村田光範 の性別年齢別身長別標準体重の算出方法
により新しい係数(平成 年版)で総合計算ソフトに組
み込み計算した。その結果から,最終測定時肥満度
%
以上の肥満群と %未満の非肥満群に分けて比較した。
実測体重 標準体重
標準体重
肥満度
(%)
検定について
のスタンダードバージョンを使い,
検定は
独立サンプルの
検定,
一元配置の分散分析と多重比較,
二元配置の分散分析と多重比較,同等性の検定を行い,
以下を有意とした。
有意差は
.結
果
有意性について
時系列解析による季節変動で有意差があったのは,身
人中
長で
人(
(
%),体重で
人中
人(
% ), 肥 満 度 で
人中
人(
人中
%),
人
で
%)であった。
身長の季節変動月平均について
有意性のある人のみの身長の季節変動成分のを月毎に
月(
平均すると,男女全体では最高月が
いで 月(
%)
,最低月が
月(
%)次
%)であり,
。
夏・冬に高く,春に低くなるパターンを示した(図 )
小学男子では最高月は
(
%),最低月は
%),小学女子では最高月は
低月は
(
月(
月(
%),最
% ), 中 学 男 子 で は 最 高 月 は
%),最低月は
高月は 月(
月(
月(
%)
,最低月は
月
月
%),中学女子では最
月(
た。これを同時に解析した体重・肥満度・
%)であっ
と比較
すると,後者は春に高値,冬に低値となる似たパターン
であったが,身長は夏・冬に高値,春に低値となり,他
項目とは異なるパターンを示した。
図
肥満群と非肥満群の身長季節変動パターンの比較
岡安多香子・山田
玲子・西川
月増加量
武志・荒島真一郎
道東のみ最低値をとる特異なパターンであったが,身長
年の測定値を必要とするため,学校
時系列解析には
に関しては春に低いという点で共通した傾向があった。
現場で手軽に応用できるように,身長の毎月の増加量を
解析してみた(図
)。最高月は
月(
最低月は
月(
月(
),肥満群では最高月は
),最低月は
月(
月(
肥満群と非肥満群の比較
),
身長の季節変動を群別に比較すると,月平均の最高月
),非肥満
月であり,最低月も両群とも
月であった。体重に関しては,肥満群のみ夏休み中に
)であった。最高月・最低月ともに群差はなかっ
季節変動が増加するという傾向があり,これは長崎 )・
た。体重は昨年報告したように,肥満群と肥満群で有意
東京 )の報告と一致していた。身長に関してはこの傾向
な差のあるパターンであった事から身長の季節変動は肥
は見られず,夏期の肥満増加の原因として身長増加の低
満の発展とは異なった機構で行われていることが示唆さ
迷等は関与していない事が示唆された。
(
),最低月は
は肥満群・非肥満群とも
月
群では最高月は
れた。
図
.お わ り に
肥満群と非肥満群の身長月増加量の比較
道東地方の小・中学生
人(男子
人・女子
人)
年以上にわたる毎月の身長測定値を時系列解析し
の
て,次のような結果が得られた。
.
身長の季節変動が有意だった児童の割合は
道南地方(
(
%で,
%)よりも有意者が少なく,札幌市
%)よりも多い値であった。
.身長の季節変動は夏と冬に高く春に低くなる季節変
動をとり,これまで報告されている他地域とは似たパ
ターンを示した。これは体重が特異なパターンをとっ
.考
たのに比べ大きな違いであった。
察
有意者数について
.肥満群は夏休み中やその後に体重の季節変動の増加
道東地方の小学生では
人中
人(
%)に有意
)
差がみられた。一方,道南地方の小中学生 では
人(
人中
の不規則な生活には影響されない事が示唆された。
%)に有意差がみられ,道東に比べて道南は
高い値であった。札幌の小学生を対象とした研究 )では,
人中
が見られる傾向があったのにくらべ,身長は長期休み
人(
今回の
人の児童の体重発育を個別に時系列解析し
%)に有意差がみられ,道東より少な
た結果は,肥満の早期発見法や発育の基礎的なデータと
い値であった。トらの報告 )によると東京の保育園児で
しても大変意義深いと考えられる。現場の養護教諭の協
人中
は
人(
人(
%),札幌の保院園児では
人中
力の元に,その結果を児童・生徒とその親および教師に
%)で身長の季節変動が有意であった。東郷ら
フィードバックし,児童・生徒を健やかに育てる教育と
は緯度の高いほうが身長の季節変動が顕著であると報告
発育の基本的相互関係を深めて,無理のない肥満対策と
しているが,該当するのは道南地方のみであった。
に役立てたい。今後も研究を継続し,例数や測定項目を
増やしたり,具体的な健康教育の施策も検討する考えで
地域の特質性について
ある。
身長の季節変動の平均を地域比較すると,道東地方は
夏・冬に高く春に低いパターンであった。道南では春に
低いのは共通であったが最高月となるのは小学生男子で
月,小学生女子で
月,中学生男子で
月,中学生女
子で 月と一定の傾向が無かった。札幌の小学生では,
春に低く秋冬に高いパターンであった。
体重季節変動に関しては他地域で最高値となる冬に,
.参 考 文 献
)岡安多香子,綾博子,小原真由美,岡部明子,荒島
真一郎
児童・生徒の肥満に関する縦断的解析,学
校保健研究,
)文部省
,
学校保健統計調査報告書,大蔵省印刷局,
道東地方の小・中学校における毎月測定値を用いた発育の基礎的研究
平成
年度
平成
年度,文部科学省,学校保健統
年度
計調査報告書,財務省印刷局,平成
平成
年度
)
(日本語)
)村田光範
年版
プロシジャー
ポケット・コンピューターによる肥満度
,
の計算について,小児科診療,
)岡安多香子,向井田紀子,武岡道子,萩野悦子,西
川武志,荒島真一郎
南北海道に住む児童・生徒に
おける成長の季節変動,学校 保健研究,
,
)貝塚優子・大和田ゆかり・西川武志・荒島真一郎・
岡安多香子
札幌市小学生の身体組成・身長・体格
指数の季節変動パターン研究,学校保健研究,
,
)ト昭明・小林正子
東京と札幌の保育園児の身長体
重の時系列解析,
東京大学大学院教育学研究科紀要,
,
)物部博文・鈴木路子・東郷正美
はだか保育園
園児の身長・体重の季節変動に関する研究,健康・
ス ポー ツ 科 学 , 東 京 学 芸 大 学 紀 要
部門,
,
)戸辺秀之
体重発育における季節変動とその地域性
に関する研究,民族衛生,
,
)小林正子,竹本秦一郎,田原靖昭,田川宣昌,東郷
正美
小学生の肥満は夏休みに始まる,民族衛生,
,
)荒居和子,小林正子,田中茂穂,東郷正美
小学生
における体重の季節変動と肥満度との関係,民族衛
,
生,
.謝
辞
本研究の測定に際しては該当小学校の養護教諭の先生
を初め生徒・教官・保護者の方に,また測定値の入力・
解析に際しては小松和子さんを初め研究室の学生さん
に,多大な協力を得ました。この場をお借りして感謝し
ます。
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