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英語イマージョン・ルーム - 愛知教育大学学術情報リポジトリ
愛知教育大学教育実践総合センター紀要 第13号,pp. 37~ 44(February,2010) 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 「英語イマージョン・ルーム」の開設 ― プロジェクトの役割と今後の可能性 ― 稲 葉 みどり (愛知教育大学日本語教育講座) An Introduction of English Immersion Room and its Effective Use Midori INABA (Department of Teaching Japanese as a Foreign Language, Aichi University of Education) 要約 本稿では,平成21年度より愛知教育大学内に開設した「英語イマージョン・ルーム」の目的と概要,及び, これまでの活動状況を報告し,英語イマージョン・ルームの今後の充実の方策や可能性を探る。このプロジェ クトは,「ピア・サポーター」として英語を話すことのできる留学生,帰国子女,留学経験者などの協力を得 ながら,英語を使ってコミュニケーションをすることにより,学生の英語運用力の向上とともに相互交流を促 進するものである。また,学生が教材や資料を自主的に活用して主体的に学ぶ場を提供し,将来,学校現場や 地域において指導的役割を果たす人材養成に寄与する。平成21年7月に活動を開始し,10月まで模索しながら 実施してきた。参加者した学生の感想からは,英語を使ってコミュニケーションする際に,本学学生が身につ けるべきことは何か等が明らかになり,今後の英語イマージョン・ルームの内容の整備,充実に関する糸口が 見つかった。 Keywords:イマージョン・ルーム,国際交流,ピア・サポーター,英語,コミュニケーション 1.はじめに 年度大学教育研究重点配分経費の助成を受けて開設, 本稿では,平成21年度に愛知教育大学内に開設した 運営している。主に以下のような実施計画で推進して 「英語イマージョン・ルーム」の目的と内容,これま いる。 での活動や利用状況,事業計画などを紹介し,英語イ 前期においては, マージョン・ルームの今後の充実の方策や可能性を探 1)イマージョン・ルーム開設に必要なアイディアの る。 ブレーン・ストーミング 英語イマージョン・ルームとは,簡単に言えば,そ 2)参加者ニーズの集約 こに来た人たち同志で「英語を使って交流をする部 3)交流場所(部屋)の確保 屋」である。学生や教職員等がキャンパス内で英語に 4)英語リソースの整備 親しむ機会を提供し,英語を使ってコミュニケーショ 5)ピア・サポーターの募集と確保 ンすることに慣れるための場として開設した。 6)学内への広報活動 英語イマージョン・ルームでは,「ピア・サポー などから始め,学内の協力を得て7月には英語イ ター」として,英語を話すことのできる留学生,帰国 マージョン・ルームをオープンすることができた。 子女,留学経験者などに来てもらい,彼らを交えて参 後期においては, 加者が英語を使ってコミュニケーションをすることに 7)英語イマージョン・ルームの交流活動の継続 より,相互交流を促進することも可能である。 8)異文化交流事業の企画・運営 また,学生が教材や資料を自主的に活用して主体的 9)小学校へのボランティア学生派遣のための人材バ に学ぶ場を提供し,英語運用力の向上をめざすととも に,将来,学校現場や地域において指導的役割を果た ンクの登録準備 10)参加者やピア・サポーターなどからの感想や意見 す人材の養成に寄与する。 の収集 ここでは,このプロジェクトの実施の概要や交流活 11)プロジェクトの振り返り 動の様子,参加者の感想などを紹介するとともに,今 12)報告書の作成と来年度の準備 後の整備・充実を考える。 などを予定している。 2.プロジェクトの概要1 3.プロジェクトの目的と役割 英語イマージョン・ルームは,「『英語に親しむ』場 本学では,平成17年度教育改善推進経費の助成研究 を提供するキャンパス内イマージョン・ルームの開設 「キャンパスの国際化とグローバル・リテラシーの向 (代表者:安武知子)」というテーマの下で,平成21 上(代表者:安武知子)」の下に,キャンパスのさら 37 稲葉:「英語イマージョン・ルーム」の開設 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 ― プロジェクトの役割と今後の可能性 ― なる国際化と学生の英語運用力の向上をめざしていく つかの企画・実施をしてきた。その一部として,日本 人学生をアメリカの国際交流協定校に派遣し,日本語 や日本文化を英語で紹介するプログラムの開発と実施 (稲葉 2005),また,協定校から留学生を招聘して本 学で日本語・日本文化の短期研修を行うプログラムの 開発と実施(稲葉 2006a, 2006b, 2009)がある。これ らのプログラムは,稲葉(2008)で分析した結果,幾 分ではあるが,本学の日本人学生のグローバル・リテ ラシーの向上に効果があったと認められる。 平成21年度よりはじめた当該プロジェクトは,先の プロジェクトの流れをくむもので,教員を志望する学 生を中心に,国際感覚を磨き,英語コミュニケーショ ン力を養成する機会を授業外でも設けようというのが ねらいである。特に小学校で英語教育が本格的に始ま ると,小学校教員には少なからず英語のコミュニケー ションスキルが求められる。また,児童英語教材等へ の知識も必要であろう。英語教師の下で行う授業での 学習とは別に,これらのスキルや知識を学生が主体 的,かつ,自律的に学習する機会を提供するものでも ある。 さらに,留学生や留学経験者をピア・サポーターと して起用することにより,海外の知識や異文化体験を 共有できる機会を作ることができる。また,留学生が 図-1 英語イマージョン・ルームの紹介 学内の教育活動に携わることにより,国際交流活動が 推進も期待できる。 4.プロジェクトの実施状況 4.1 英語イマージョン・ルーム開設と運営 英語イマージョン・ルームは,学内の協力を得て, 第2人文棟1階のセミナー室Eに開設することができ た。 部屋の設備は今のところ机,椅子,洗面流し台,エ アコンである。今後カーテン,パソコン等を入れる予 定である。英語のリソースとして,一般の英語教材や 児童英語教材が少し置かれている。また,ここでは, 参加者が和やかな雰囲気で歓談できるように,開催日 には飲み物等を用意している。 英語イマージョン・ルームの参加対象者は,本学学 生,留学生,教員,職員,教職員の家族等で,本学の 関係者ならだれでも参加できる。 英語イマージョン・ルームは,毎週水曜日の13時30 分~15時30分,金曜日16時30分~18時30分に開催する ことにした。水曜日午後は学生を中心に参加者を募 り,金曜日が教職員や本学関係者も業後に参加できる ような時間帯に設定した。 開設に伴い,図-1,図-2に示すようなポスター を掲示した。また,図-3(次ページ)は留学生対象 に英文でも参加を呼びかけた2。 図-2 英語イマージョン・ルームの開催案内 38 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 今後は,以下のような予定で実施する。ここには, 現在ピア・サポーターと日程が決まっている分につい て記しておく。尚,ピア・サポーターには,最低2回 以上の担当を依頼している。 ―――――――――――――――――――――――― 第9回 10月30日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:米国からの留学生Hさん 第10回 11月4日(水)13:30~15:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Mさん 第11回 11月6日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Tさん 第12回 11月11日(水)13:30~15:30 図-3 英文による参加呼びかけ ピア・サポーター:香港からの留学生Mさん 第13回 11月13日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:米国からの留学生Hさん ―――――――――――――――――――――――― 4.2 英語イマージョン・ルームの実施状況 英語イマージョン・ルームの活動は,平成21年10月 11月後半と12月の初旬には異文化交流事業(次章で 末までで,8回実施した。その日時,ピア・サポー 述べる)の実施を計画している。 ター担当者,参加者数は以下の通りである。 図-4は,香港のJさんと学生の交流風景である。 Jさんが香港の地形,社会,教育制度などについて説 ―――――――――――――――――――――――― 明している様子である。図-5~図-7も交流風景で 第1回 7月8日(水)13:30~15:30 ある。 ピア・サポーター:香港からの留学生Jさん 参加者:学生7名 第2回 7月10日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Jさん 参加者:学生1名 第3回 7月15日(水)13:30~15:30 ピア・サポーター:米国からの留学生Dさん 参加者:学生5名 第4回 7月17日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:米国からの留学生Dさん 参加者:学生3名 第5回 10月16日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:米国からの留学生Hさん 図-4 香港のJさんと学生の交流風景 参加者:学生3名 職員1名 第6回 10月21日(水)13:30~15:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Kさん 参加者:学生2名 教員1名 第7回 10月23日(金)16:30~18:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Tさん 参加者:学生7名 第8回 10月28日(水)13:30~15:30 ピア・サポーター:香港からの留学生Kさん 参加者:学生6名 ―――――――――――――――――――――――― 図-5 学生が香港のKさんに説明している様子 39 稲葉:「英語イマージョン・ルーム」の開設 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 ― プロジェクトの役割と今後の可能性 ― 国の大学生活についても,日本と比較しながら話して もらう。また,ボールステート大学に関する留学情報 も提供してもらい,留学を希望する学生からの質疑応 答の場も考えている。 第3回 インドネシア文化の紹介(2月中旬予定) インドネシアからの留学生による,インドネシアの 気候,人種,宗教,社会等の紹介のプレゼンテーショ ンを実施する。教育制度や学校生活,また,インドネ シアの道徳の教科書の内容を紹介してもらい,日本と 比較しながら参加者とディスカッションをする。 図-6 香港のKさんが質問に答えている様子 6.参加者とピア・サポーターからの感想 6.1 活動に参加した学生の感想 これまでに英語イマージョン・ルームに参加した 学生に感想やコメントを聞いてみた。感想は,プロジェ クトの実施,参加のメリット,参加人数に関することの 他,話題の設定や広報やプロジェクトへのコメントなど が含まれていた。ここでは,それらを順に紹介する。 (1)英語イマージョン・ルーム開設に関して まず,このプロジェクトに関しては,英語を話すよ い機会であるという旨の肯定的なコメントを得た。以 下にそれを紹介する。 図-7 香港のKさんと学生が歓談している様子 5.異文化交流事業の実施計画 ◦手軽に英会話ができるという点でとてもいい活動だ このプロジェクトでは,英語イマージョン・ルーム と思う。 の開設だけでなく,異文化交流事業の実施を計画して ◦自分で英会話スクールなどに入らない限り,このよ いる。英語イマージョン・ルームでの交流を発展さ うに英語を話す機会はなかなかないのでいいと思う。 せ,留学生や留学経験者などに自国紹介等のプレゼン ◦学内に留学生はいても,話しかけるチャンスがなか テーションをしてもらう。具体的には,以下のような なかつかめない。このような機会をつくってもらえ 事業を計画している。 ば,話しやすい。 第1回 香港文化の紹介(11月下旬予定) これらの感想から,参加者は英語を話す機会を求め 香港教育学院(本学国際交流協定校)からの留学 ていることが分かり,少しではあるが,ニーズに応え 生3名による香港の社会や文化等に関するプレゼン ることができたと言えよう。 テーションを実施する。発表では,香港のポップカル チャーなど若者が関心のある分野に焦点を当てる。テ (2)参加することへの躊躇 レビ番組,アニメや音楽など日本から香港にどのよう 参加することに関しては,以下のように,最初は入 なものが入っていき,どのように関心をもたれている ることに多少のためらいがあったということである。 かにも言及してもらう。また,この機会を利用して, 香港教育学院についても紹介してもらい,留学に関す ◦はじめは部屋に入るのに勇気がいる。 る情報提供の場とする。 ◦はじめは部屋に入りにくかったが,一回来たら慣れた。 ◦遅れてくると,すでに先に来た人たちが話してい 第2回 米国文化の紹介(12月中旬予定) て,部屋に入っていいのかどうか分からなかった。 ボールステート大学(本学国際交流協定校)からの 留学生による米国のクリスマスの祝い方とクリスマス はじめは部屋に入りにくい,遅れてくると躊躇する 休暇の過ごし方等に関するプレゼンテーションを実施 などの感想があったので,入り口に, する。発表では,米国のクリスマスの様子や家族での 「ご自由にお入り下さい」 過ごし方等,写真等を見せながら紹介してもらう。米 「途中からでも歓迎します」 40 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 などを入り口に掲示し,入りやすくする工夫をする予 れていることを初めて知ることができた。 定である。 活動内容に関しては,テーマを決めた方がよいとい (3)参加人数に関すること う意見もあった。 これまでの参加者数は一番多いときで7名,少ない ときで2名であり,今のところそれほど多くはない。 ◦もう少しテーマをはっきりさせた方がいいと思った。 人数については,少ない方がよいという意見,反対 ◦ピア・サポーターによって話が違っておもしろい。 に,多い方がよいという意見があり,学生によって感 ◦人数は4人でも十分楽しめるテーマを決めるのもお 想が分かれた。少ない方がよいとする理由は以下の通 もしろい。 りである。 (5)コメント,及び,提案・その他 ◦7人だと多すぎる。ずっとピア・サポーターが話し 参加者からのコメントや提案等には,以下のような ていた。 ものがあった。 ◦人数が少ない方が直接話しやすい。 ◦人数が少ないからよい。 ◦全員がまんべんなく話す手立てはないか。 ◦パーティーなどの企画もあればおもしろい。 また,もっと多い方がよいと言う意見では,以下の ◦情報交換(国際交流会館におけるパーティーへの参 ようなものがあった。 加など)ができるといい。 ◦エンカウンターゲームをしてみるのもよい。 ◦あまり人数が多いと発言しにくい。 ◦知らない友達と会えるのは楽しい。 ◦もう少し人数が増えた方が楽しいと思う。 ◦ポスターだけでは,わかりにくいが,活動の内容を ◦他の人の話も聞けるので,多い方がよい。 知ったら,たくさんの人が興味をもって参加すると ◦英語でどう言ってよいか分からないとき,他の人が 思う。 助けてくれたり,知恵を出し合うことができる。 ◦学務ネットで流してもらうといい。 ◦毎月はじめに,開催情報を学生にメールで知らせる。 その他, 「しゃべる人とそうでない人がはっきり分か ◦今日,言えなかった表現の確認をしてもおくのもいい。 れていた」という感想もあった。また,人数が多い場合, 途中で帰ってしまった参加者もあったようだ。多分,自 活動は参加者同士で相談して決め,自律的に進めて 分が話す機会が回ってこないからであろう。いずれにせ いくことが理想と考えている。以下に,学生からの感 よ,学生が話す機会を求めていることは確かである。 想のいくつかを紹介しておこう。 (4)活動内容や話題について 感想1 活動の内容は,その日の人数や参加者の興味等にも あまり英語を話す機会が最近なかったので,これに 左右される。交流状況を見ると,自由に話したとき 参加できてよかった。ピア・サポーターから香港の話 と,ピア・サポーターが選んだテーマに沿って紹介し がきけて,とても楽しかった。異文化について学ぶ良 たときの両方があった。特に,教員側からは指示して い機会だった。ピア・サポーターがずっと話してくれ ないので,参加者同志で話し合って進めてきた。これ ていたので,大変だったかなと思った。他にも留学生 に関しては,以下のような感想やコメントが得られた。 がいたら,一人一人が話す機会が増えると思うので, もし他にも留学生がいたら,もっと良くなると感じた。 ◦香港のことを図に書いて説明してくれたので,分か 感想2 りやすかった。 ◦楽しかった。香港のことを聞けてよかった。例え プチ留学したみたいでした。異文化をお互いに話し ば,出生率は0.9ぐらいで非常に低い。働く女性が 合えて面白かったです。今日は,香港から来た留学生 多いからだというような話は興味深かった。 と話してみて,香港についてたくさん知ることができ ◦日本の以外なことに興味をもつことが分かった。例 てよかったです。中国,台湾,香港から来た日とは, えば,Kさんの場合,日本の子どもに興味を持ち, おしゃべり好きだと知っていたけど,英語でもペラペ 日本の子どもはかわいいと言っていた。香港では子 ラはなしてしまうので,とても感銘を受けました。私 どもがおとなびているのだそうだ。 も,もっと積極的に話せたらいいなと思います。ス ◦日本に関するいろいろな感想を聞けたのがよかった。 ピーキングに対するモチベーションが上がるとてもよ ◦香港では日本のテレビドラマやアニメなどが放映さ い機会だったと思います。 41 稲葉:「英語イマージョン・ルーム」の開設 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 ― プロジェクトの役割と今後の可能性 ― 感想3 留学生の中には,まわりに日本人はいるが,友達に 初めて参加しましたが,皆がとても気さくで話し なる機会がないという話をよく耳にする。よって,双方 やすく,楽しい時間を過ごすことができました。ピ にとって面識をつくる良い機会でもあると考えられる。 ア・サポーターが香港のこと(学校制度,日本食, レストラン,ルームメイトの話)をたくさん話してく 7.今後の活動と充実の方策 れ,日本との違いなどとても新鮮で面白かったです。 7.1 本学学生が身につけるべく国際性 英語でコミュニケーションをとるという貴重な機会が 参加した学生の感想から,英語イマージョン・ルー とてもよいと思います。ありがとうございます。ま ムの今後の方向性や可能性のいくつかが見えてきた。 た,参加したいです。 また,内容の充実に向けて糸口が見つかったように思 われる。ここでは,英語を使ってコミュニケーション 感想4 するのに,本学学生が身につけるべきことは何かなど 手軽に英会話ができるという点でとてもいい活動だ を具体的に探ってみよう。 と思う。もう少し人数が増えた方が楽しいと思うの 前章で,この部屋に入ること,または,参加するこ で,宣伝に力を入れて規模を大きくしたら,もっと有 と自体にためらいや不安があったと言う感想を紹介し 意義な時間になると思う。この時間だけにとどまら た。これから分かることは,学生がこの部屋に堂々と ず,それ以外の時間でもお互いに示し合わせて話す場 入ってきて,英語で挨拶や自己紹介をしながら,会話 を作れたら,それもまたおもしろいと思う。 の中に上手に入っていくことに慣れていないというこ とである。 6.2 ピア・サポーターの感想 欧米の社会では,社交上手であることが大切であ ピア・サポーターにも担当した感想を聞いた。まず, る。パーティーなどでは,先にいる人は,後から来た アメリカ人からは以下のような感想を得た。 人を閉め出さないように上手に仲間に入れることが大 切で,また,後から来た人も,上手に挨拶し,初対面 ◦何を話したら良いか分からず,最初はとまどった が,日本人と話してみたら,楽しかった。 の場合は自己紹介しながら,話の輪の中に入っていく ようにする。いつも仲間同志だけで話す傾向のある日 ◦初めてだったので,要領もわからず何も準備してい かなかった。次回からは,準備していきたい。 本人とは異なる。これらの点を機会があれば,学生た ちにも話し,啓蒙していく必要があるであろう。 ◦話していて,日本人学生がアメリカのことを知らな そして,このような英語を話す社会のコミュニケー いことが分かった。例えば,日本人学生は,アメリ ション・スタイルを知り,慣れることが海外経験のな カの学校制度について知らないことが分かった。 い学生や英会話に不慣れな日本人学生に先ず身につけ ◦説明や日本人学生とのやりとりを通じて,アメリカ てほしいことである。 の大学と日本の大学では,いろいろな違いがあるこ 海外経験が豊富な学生はこのようなコミュニケー とが,自分も分かってよかった。 ションのスタイルを経験しており,心得ていることが ◦はじめは,知らない人同志の集まりで,日本人学生 多い。それが,自分が英語を話す機会を得ることにも は何も言わずに黙っているので,アイス・ブレイ つながる。日本にいて,それを体験し,こういう能力 カーが必要だと思った。何かゲームなどをするのも を身につけるのに英語イマージョン・ルームを活用し いい方法であると思う。次回はやってみたい。 てもらいたい。 実際に海外に行ったとき必要なことは,人々の中に また,香港からの留学生からは,以下のような感想 飛び込んでいって,最初は知らない人の中で上手にコ が聞かれた。 ミュニケーションすることである。英会話のクラスで は,英語を話すスキルは養成できても,初めての会っ ◦興味深い時間であった。 た人たちと上手に話し,社交をする力をつけることは ◦友達と話すように話せた。 難しい。しかし,この英語イマージョン・ルームの活 ◦話を通じて異文化を知ることができた。 動は,それを体験することができる。 ◦自分の経験を参加者と共有でき,とてもうれしかった。 ◦参加した学生は,香港にとても興味をもっているこ とが分かった。 7.2 多様な場面への対応力の育成 次に参加者の人数に関して考えてみよう。少ない方 がよいという意見と,多い方がよいといる意見があっ これらの感想から,一方的に情報を提供するだけで た。また,話す人と話さない人に分かれていたという報 なく,ピア・サポーター自身にも日本を知る機会に 告から,英語を話すのに慣れている人が多く話し,そう なったことが分かる でない人は,聞く方にまわっていたことが推測される。 42 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 人数が多い方がよいと思う人と,そうでない人がい (1)活動の目的と意義の理解 ることは,予想通りである。どちらもそれぞれにメリッ 特に,留学生の場合,日本へ日本語の勉強に来てい トがあるので,このままで問題はないと考えられる。 る場合も多いので,「日本へ来て,日本語を勉強して 広報活動をして,多くの人に参加,利用してもらう いるのになぜ英語を話さなければいけないのか」など ことは大切だが,参加者が多いときや少ないときがあ の疑問を抱く人もいる。 り,その場に合わせてコミュニケーションがとれるよ そこで,英語を話すことで,本学の英語を学びたい うになることが必要である。実際のコミュニケーショ と思っている学生のニーズに応えることができ,留学 ンでも,人数の多いときもあれば,少ないときもある 生としての本学への貢献につながる旨を説明して理解 からである。一対一のコミュニケーションにも慣れ, してもらう。今のところどのピア・サポーターも英語 グループでのコミュニケーションにも慣れることが重 を話すことを快く引き受けてくれ,順調に進んでいる。 要である。 また,ピア・サポーターからは,英語で話すこと で,これまで日本語ではできなかったコミュニケー 7.3 学生へのアドバイスと啓蒙 ションがとれで楽しかったというの感想を得ている。 本学で開設した英語イマージョン・ルームは,一定 また,英語のネイティブスピーカーからは,いつも日 の形があるのはなく,毎回ピア・サポーターの考え 本語で話していて,十分に話せないとか,詳しく伝え や,参加者の性格や個性によって,多様なスタイルで られないと残念に思うことも多いが,母語で話すこと のコミュニケーション能力を養成することを目的とし で,自分の言いたいことが伝えられてうれしく,また, ている。 交流が深まったと感じたという感想を述べている。 英会話のクラスなどでは,ほとんどの場合,メン バーが毎回決まっているが,この英語イマージョ (2)自分の国や大学に関する資料の持参 ン・ルームの活動では,毎回だれが来るかわからない 大抵の場合,英語イマージョン・ルームに来る学生 ところが特徴である。よって,日本人でも初対面の人 は,ピア・サポーターと初対面のことが多い。そこ と話したり,交流したりする機会が増え,社交上手に で,ピア・サポーターには,自分の国や大学の資料を なる。多様な場面に対応できる能力とつけるには,メ 持参してもらい,それについて説明する準備をしてお リットがあると考えている。 いてもらうことを依頼している。また,趣味や興味のあ 今後,英語イマージョン・ルーム利用のガイダンス るものなど,手持ちの資料があれば,用意してもらう。 の機会を設け,活動の意義や特徴,身につけるべく国 際感覚などを理解してもらえるような配慮をするつも (3)日本人への質問の準備 りである。そうすれば,人数が多いとか少ないとかい 日本人学生に聞いてみたい事等があれば,考えてお うことが不満というような形では現れなくなるだろ く。だたし,どのような学生が来るのか分からないの う。また,この活動をより有効に活用してもらうこと で,この限りではない。ピア・サポーターにとっても, もできると考えられる。 情報があり,啓蒙される場になることが望ましい。 本学学生は英会話に耐える基本的な英語力は十分に 備えている。彼らがその能力を会話で十分活かせるよ (4)自由な雰囲気での交流 うになるかどうかは,運用の機会があるかどうかと, 交流は,自由なリラックスした雰囲気で行ってほし 英語を使った社交性を身につけられるかどうかであ い旨を伝える。お茶やお菓子を用意しているので,適 る。これを身につけることができれば,きっと学校教 宜利用してもらう。 育の現場でも,指導的役割を果たすことができるよう 8.プロジェクトの整備・充実計画 になるだろう。 8.1 設備の整備 7.4 ピア・サポーターの事前研修 交流活動は,英語で話すことを基本とするが,写真 ピア・サポーターになってくれる留学生の中には海 や資料などが参照できれば,より具体的に話が進めら 外に出るのが初めての人もいる。日本人学生とどのよ れ,コミュニケーションも深まる。 うに話したらよいのか,不安を持つ場合もある。ま ピア・サポーターには,あらかじめ資料を持参して だ,来日間もない留学生の場合,日本人学生がどのよ もらうように依頼してあるが,話の流れによっては, うなことに興味を持つのか見当もつかないだろう。 随時調べる必要がある。言葉に関しては,大半の学生 そこで,事前に簡単な研修の機会を設け,当日を迎 が電子辞書を持参しているが,情報面ではそれでは間 えてもらうようにしている。研修の主な内容は以下の に合わないこともある。コンピュータやインターネッ 通りであるが,今後,必要に応じて充実させていく予 トを使ってその場で検索できれば,知識も構築できる 定である。 であろう。よって,コンピュータとインターネット設 43 稲葉:「英語イマージョン・ルーム」の開設 愛知教育大学教育実践総合センター紀要第13号 ― プロジェクトの役割と今後の可能性 ― 備を早急に設ける。 ションをするのである。内容は文化や社会に関するも の,自分の考えや体験に関するもの,自分の研究など, 8.2 リソースの充実 留学生が聞くのにふさわしいテーマなら何でもよい。 現在,英語リソースとして,児童英語の教科書や教 日本語教育コースの学生は,「日本語・日本文化紹介 育に関わる書籍が中心に置いてあるが,今後は利用状 ワークショップ」(稲葉 2005)で毎年春休みを利用し 況や交流の様子等を参考にして,リソースを厳選し, て米国ニューヨーク州立大学フレドニア校に出かけ, 増やしていく予定である。 現地の人を対象として,英語でワークショップを実施 学生とピア・サポーターのやりとりを見ていると, しているが,日本にいても,同じようなことをする機 学生の側にピア・サポーターの国に関する基本的な知 会になり,特に発信型の英語運用能力の向上につなが 識が不足している様子がうかがわれた。例えば,香港 る点で有意義だと考えられる。英語イマージョン・ の大学の位置等を説明する場面があっても,学生は香 ルームの活動は様々は方向へ発展させられる可能性が 港の地形や地理に関する知識が乏しく,ピア・サポー ある。 ターは説明に苦慮していた。お互いの交流によって知 識を得るのだから,知らないこと自体に問題はない 9.おわりに が,リソースとして,世界地図などは必要であると感 このプロジェクトはまだ始まったばかりで,その効 じた。逆に,学生がピア・サポーターに自分の出身地 果的な運営を模索中である。本稿ではその内容をでき を教えているのだが,ピア・サポーターの方は地名を るだけ具体的に紹介ことによって,読まれた方々か 聞いただけでは,全く理解できず,誤解等が生じてい ら,ご指導,ご教示いただければと考えている。 た。日本地図もやはり必要であると感じた。 また,交流に話題を提供できるような,日本文化に 関する資料や協定校の大学の資料などもあれば,より 注 コミュニケーションを活発にするのに役立つだろう。 1 本報告書は「『英語に親しむ』場を提供するキャ ンパス内イマージョン・ルームの開設(代表者:安 8.3 学内への広報活動と周知の拡大 武知子/共同研修者:稲葉みどり・A.ロビンス・ 現在,英語イマージョン・ルームの周知は学内のポ A.ライアン)」の平成21年度大学教育研究重点配分 スター掲示により行っている。また,部屋の窓ガラス には,ポスターを何枚も張って,当該教室が英語イ 経費要求書をもとに執筆している。 2 ポスターは安武知子氏が作成したものである。 マージョン・ルームであることをわかりやすくしてい る。さらに,毎回,ピア・サポーターを担当してくれ 謝 辞 る留学生の簡単な紹介と写真を掲示して,広報活動に 本稿をまとめるにあたっては,参加した学生の方々 努めている。 やピア・サポーターの方々から貴重な感想やコメント しかし,英語イマージョン・ルームについては,さ をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。 らに周知していく必要がある。特に,ポスターだけで は,活動内容や利用のしかた等が十分には伝わりにく 参考文献 くいかもしれない。今後は学務ネットで周知する運び 稲葉みどり(2005).「米国における教育実習プログラ である。 ムの成果と充実の方策」 『教育実践総合センター紀要』 また,英語イマージョン・ルーム活動や意義につい 8号. pp. 145-156. ても理解を広められるように,ガイダンス等を積極的 稲葉みどり(2006a).「日本語・日本文化短期研修プロ に進める。学生に直接紹介する機会を増やし,参加へ グラムの開発と実践」『教育実践総合センター紀要』 の不安等がないようにしたいと考えている。交流事業 の折にも,説明する予定である。 9号. pp. 35-42. 稲葉みどり(2006b).「自己発信型の日本語力の養成 ― 体験密着型のオリジナル教材を活用して」 『教養と 8.4 異文化交流事業の企画 教育』6号. pp. 17-26. 今年度企画している三つの異文化交流事業について 稲葉みどり(2008).「国際交流と学生のグローバル・ は,第5章に記したが,今後はプレゼンテーションの リテラシーの向上 ― アンケート調査による効果の 内容や方法についても適宜アドバイスをして,より良 いものにしていく。 分析」 『教育実践総合センター紀要』11号. pp. 33-40. 稲葉みどり(2009).「『日本語・日本文化短期研修プロ また,日本人学生にもプレゼンテーションをやって グラム』の整備・充実と今後の方向性 ― 試行4年 もらう機会も設けたいと考えている。留学生がオー 間を振り返って」 『教育実践総合センター紀要』12号. ディエンスとなり,日本人学生が英語でプレゼンテー pp. 87-94. 44