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PZT圧電セラミックスにおける静荷重下でのき裂伝ぱ挙動

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PZT圧電セラミックスにおける静荷重下でのき裂伝ぱ挙動
平成 18 年度
修士論文
PZT 圧電セラミックスにおける静荷重下でのき裂伝ぱ挙動
Crack growth behavior of PZT under static loadings
高知工科大学大学院
工学研究科
知能機械システム工学コース
1095232
三崎
1
基盤工学専攻
材料強度学研究室
高裕
目次
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-1 疲労と静疲労・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1-2 圧電セラミックス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-3 誘電体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1-4 分極処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2. 材料および実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3. 評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
3-1 き裂伝ぱ速度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
3-2 応力拡大係数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
4. 実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
4-1 dc/dt-K 関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
4-2 電界負荷の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
4-3 破面観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
5. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
6. 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
7. 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
8. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2
1. 緒言
近年、半導体製造時などにおける加工精度はミクロンオーダーからサブミクロンオーダー
以下へと求められるようになっている。また、光学分野では温度や振動といったノイズを制
御するための微小変位制御素子が必要とされている。こういった要求をみたしうる材料とし
て圧電セラミックスが注目され、広く使用されている。
圧電セラミックスは、Fig.1 に示すように外部から応力を加えると電界を発生する圧電現象
を示し、逆に電界を加えるとそれに応じて歪む圧電現象の逆効果を示す材料である。機械電
気エネルギー相互変換の効率が良い、応答性が高い、駆動力が大きい等の特性から圧電アク
チュエーター、センサーなどに広く利用されている。この中でも、チタン酸ジルコン酸鉛
(PZT)は圧電特性が特に優れていることから最も一般的に用いられている。しかし、本材
料は脆性材料であり、微小欠陥やき裂を起点として破壊が生じることがあるため、実際の使
用においては注意を要する。
静疲労は一定の荷重負荷下でもき裂が進展し、ついには破壊に至ってしまうセラミック
ス特有の現象であり、この特性を十分把握しておくことも重要である。さらに、PZT は電気
的負荷を受けることも多く、この影響も十分考慮しておく必要がある。
本研究では以上のような状況に鑑み PZT 圧電セラミックスにおける静荷重下での微小き
裂伝ぱ挙動につい調査した。2 種類の PZT について3点曲げ負荷下試験を行い、ビッカース
圧痕からの微小き裂伝ぱ速度と応力拡大係数の関係を求め、さらにソフト材については分極
方向に正と負の電界を負荷し、き裂伝ぱ挙動に及ぼす電界の影響についても検討した。
圧電現象
機械的エネルギー
電気的エネルギー
圧電現象の逆現象
Fig.1 圧電効果
1
1-1 疲労と静疲労
疲労とは、物体が断続的もしくは連続的に繰返し応力が負荷され続けた場合に起こる破
壊のことである。一般に繰返し応力を受けた金属が破壊する金属疲労のことをさすが、温
度変化による熱疲労も存在する。18 世紀から 19 世紀にかけての産業革命時に、疲労が原因
の事故が多発し研究が盛んになったが、それから 150 年以上たった現在でも疲労が原因で
ある事故はなくなっていない。Table 1 に近年の主な事例を挙げる。
Table 1
近年の主な疲労事故
発生日
事例
原因
1998 年
高速列車 ICE の脱線転覆
車輪外側の車輪が金属疲労
2000 年
合成ゴム製造施設の火災
2000 年
2002 年
2002 年
インペラーが
金属疲労により破損
原子力美浜発電所 2 号機
高サイクル疲労が
一次冷却水漏えい
エルボ溶接部に発生
中華航空機空中分解事故
整備後の継ぎ当てから
疲労と腐食割れ
大型トレーラーからタイヤ
トレーラーのタイヤのハブ
が外れる
が金属疲労により破損
金属の繰返し疲労は十分小さい応力でも繰返し荷重を受けることにより転位群が移動し、
複雑に絡み合い入り込み、突き出しなどの応力集中源から、き裂が発生、伝ぱすることで
ある。しかし、セラミックスの繰返し疲労はこれらとは別のメカニズムを持ち、静疲労も
存在する。
セラミックスの繰返し疲労は、Fig.2 に示すような架橋と呼ばれる破断面上下に存在する
引っ掛かりが、繰返し荷重により磨耗し破壊するために起こるものである。さらに、この
破壊の場合、繰返し依存型と時間依存型に分かれる。また、セラミックスは繰返し疲労す
るものとしないものが存在し、窒化ケイ素やアルミナ、PZT などの粒界をき裂が伝ぱする
ものは繰返し疲労し、ガラス、炭化ケイ素、ムライトなど粒内を伝ぱするものは繰返し疲
労が起こらないとされている。
静疲労は、一定荷重を負荷し続けるだけで破壊に至るもので、金属における応力腐食割
れと類似の現象とされる。対して金属にも一定の荷重を負荷し続けると破壊するクリープ
現象が存在するが、これは主に融点以下での高温で荷重を負荷した場合に、転位の移動が
活発になり破壊するもので、静疲労とは区別される。
Table 2 にセラミックスと金属の主な疲労と類似の現象について示す。
2
架橋
力
き裂
Fig.2 き裂伝ぱを妨げる架橋効果
Table 2 セラミックスと金属の主な疲労と類似の現
疲労の種類および類似の現象
セラミックス
金属
繰返し疲労
繰返し数依存型
主な原因
繰返し荷重による架橋の損傷
時間依存型
静疲労
大気中の水分などによる腐食
繰返し疲労
繰返し荷重による転位の移動
応力腐食割れ
侵食環境下での腐食
クリープ破壊
融点以下の高温での転位の移動
3
1-2 圧電セラミックス
圧電セラミックスはソフトとハードの 2 種類に大きく分けられ、キュリー点が 200℃以下
のものをソフト材、300℃以上の物をハード材としている。キュリー点とは強誘電相と常誘
電相の境界であり、それ以上の温度に達すると自発分極が消滅し圧電特性を示さなくなる
温度である。
一般的に同じ原料から作られたものであれば Table.3 に示すような特性の違いが表れる。
機械的品質係数が高いハード材は超音波モータや圧電トランジスタ、またはキュリー点の
高さからエンジンの点火プラグなどの高温部に利用される。ソフト材は機械的損失よりも
圧電定数を重視し圧電アクチュエータやセンサーに利用される(1)。
Table .3 ソフト材とハード材の主な性質の違い(1)
Soft
Hard
キュリー点
200
300
抗電界
1~10kV/cm
10kV/cm 以上
圧電定数
大
小
誘電率
高
低
圧電歪定数
低
高
圧電出力係数
低
高
機械的品質係数
低
高
4
1-3 誘電体
誘電体とは常誘電体、圧電体、焦電体、強誘電体の 4 種類を総称したものである。Fig.3
にその包含関係を示す。圧電体は構成原子がある程度正および負に帯電しており、電界を
負荷した場合に電気的絶縁体として働くとともに、圧電体内部に電気双極子が生じ材料表
面に電気を蓄えることができる。この性質を利用して、コンデンサーの電極間挿入材やセ
ンサー、光ファイバー、ジャイロスコープ等に利用されている。
圧電体とは圧電効果を有するもので、焦電体は圧電体のうちで圧力をかけない状態でも
自発分極を生じているものである。焦電体は赤外線が照射されると結晶表面に電位差が生
じる。この現象を焦効果といい赤外線センサーなどに利用される。
強誘電体は焦電体の自発分極を電界を加えることにより任意の方向に変化させることが
できるものである。常誘電体はこれら 3 つ以外の誘電体であり、焦電体が強誘電体の特性
を示すことや、圧電体が焦電体の特性を示すことはない。
常誘電体
圧電体
焦電体
強誘電体
Fig.3 誘電体の種類
1-4 分極処理
通常、圧電セラミックスを圧電体として使用するためには分極処理が必要になる。圧電
体の結晶はそれぞれ小さな分域(ドメイン)に分かれているが、自然発生的におきた分極
はすべてバラバラの方向を向いており全体として打ち消し合った状態になっている。この
方向を任意の方向にそろえることを分極処理といい、100℃前後の熱を加えながら直流電流
を流すと電界を取り去ったあとも双極子モーメントが残った状態になる。Fig.4 に分極処理
時のドメインの変化と、そのときの原子構造の変化を示す。
5
結晶
分域
― ― ― ― ―
L+⊿L
L
+ + + + +
粒界
(a)分極処理前
(b)分極処理後
L+⊿L
L
(c)分極処理前
(d)分極処理後
Fig.4 分極処理
6
2. 材料および実験方法
実験に用いた材料は市販の圧電セラミックス分極材(フルウチ化学株式会社)で、ハー
ド材とソフト材の2種類である。材料特性を Table 4 に示す。今回用いた材料ではソフト材
の圧電定数がハード材よりも 3 倍程度大きい、ハード材の粒径がソフト材の粒径よりも 2
倍程大きいという特徴がある。納入材はそれぞれ約 40×24×13mm の直方体で、これより
6×13×2mm の試験片をダイヤモンドカッターにより切り出した。このとき試験片長手方
向を分極方向とした。試験片の概要を Fig.5 に示す。
Table 4
材料特性
Soft
Hard
PZT
PZT
51.8
69.6
1700
510
215
112
Mean grain size (μm)
3.4
6.0
Density (g/cm3)
8.0
8.0
Young’s modulus
(GPa)
Piezoelectric coefficient d33
(10-12 m/V)
Dielectric permittivity ε33
(×10-10 C/Vm)
Fracture toughness
C // P
1.17
1.4
(MPa・m1/2)
C⊥P
0.31
0.57
42:58
44:56
Zr:Ti mol ratio
7
分極方向
観察面
6 mm
2 mm
13 mm
Fig.5
試験片の寸法
観察面はダイヤモンド研磨シート 1500、2000、3000 番で研磨した後、回転研磨機を用
いてバフ仕上げをした。研磨剤には1μm のアルミナを用いた。その後、Fig.6 に示すよう
に試験片中央にビッカース試験機で圧入し予き裂を入れた。負荷条件は 9.8N、30sec であ
った。圧電セラミックスは分極方向に垂直方向と水平方向で破壊じん性値が違うことが知
られている。これは、分極処理時に圧電誘起歪が起こるためである。ビッカース圧入後の
予き裂を Fig.7 に示す。
ビッカース圧子
圧子点
3 mm
6.5 mm
Fig.6
微小表面き裂寸法
8
予き裂
分極方向
Fig.7 予き裂の顕微鏡写真
100μm
試験には Fig.8 に示すようなスパン 10mmの三点曲げ試験機(自作)を用いた。てこを介し
て一定荷重を試験片に負荷することができる。この3点曲げ負荷をかけた状態で、所定の
時間ごとに荷重を負荷したまま試験片表面のき裂のレプリカを採取した。採取したレプリ
カは両面テープでプレパラートに貼り付け、これをレーザー顕微鏡を用いてき裂長さを測
定した。試験に用いたロードセルは C2G1-15K(ミネベア株式会社、定格容量 147.1N
定
格変位量 0.42)である。ひずみアンプには動ひずみ測定器 DSA-605C(ミネベア株式会社、
感度
100×10-6 ひずみ入力にて 2V 出力)を用いた。このシステムにおける荷重とアンプ
出力電圧の関係を Fig.9 に示す。この校正関係より、試験における負荷荷重を調節し、試験
中常時モニタリングを行った。
9
Roller bearing
Lever
Loading weight
Specimen
Load cell
Balance weight
Screw jack
H.V.DC power supply
Fig.8 三点曲げ試験機
6
出力電圧(V)
5
4
3
2
1
0
0
10
20
30
40
荷重(N)
Fig.9 ロードセル検定結果
10
50
60
レプリカ法は、Fig10 に示すようにアセトンを用いて軟化させたアセチルロースシートを
試験片観察面上に貼り付け、硬化したところで剥がし、観察面上のき裂や腐食ピットなど
の凹凸の形を転写させる方法である。非破壊検査でき裂を観察する方法としては最も確実
な方法の一つとされ、マイクロオーダーでの測定が可能である。しかし、金属などの微小
な凹凸の転写は可能であるが、極端に大きな凹凸の転写はすることはできない。本試験で
は、このレプリカ法によりき裂の観察ならびにその長さの測定を行った。
硬化後、剥がす
軟化したアセチルロース
凹凸
Fig.10 レプリカ法
また、ソフト材については分極方向と同じ方向(正)、逆方向(負)に 0.1kV/m の電界を負荷
し、同様の試験を行った。電界負荷には、高圧直流安定化電源(マクセレック製、定格 50kV、
9mA)を用いた。また、試験後、破面を電子顕微鏡(SEM)により観察した。
静疲労微小き裂伝ぱ挙動試験の三点曲げの支持負荷部の簡易図を Fig.11 に、支持部を
Fig.12 に示す。予き裂を入れた観察面が上となるように試験片を取り付ける。このとき試
験片長手方向が分極方向となる。三点曲げ支持部上部の鉄球は、試験片に力が方あたりに
ならないようにするためである。ばねをつけることにより鉄球と試験部を任意の角度をつ
けることができる。鉄球下にある空間からレプリカを採取した。
11
10
き裂観測面
力
電極
Fig.11
支持負荷部の簡易図
バネ
鉄球
試験片
ムライト
ロードセル
Fig.12
三点曲げ負荷部
12
3. 評価方法
一般にセラミックスの静疲労き裂伝ぱ速度 dc/dt はき裂先端での応力拡大係数 K と関係
付けられる。本材料でも応力拡大係数 K とき裂伝ぱ速度 dc/dt を用いて静疲労の評価をし
た。応力拡大係数とはき裂を有する部材に応力が作用したとき、き裂先端近傍に生じる応
力分布の強さを表すもので、き裂先端付近の力の大きさの尺度となるものである。
3-1 き裂伝ぱ速度
き裂伝ぱ速度には式(1)を用いた。
⊿(2c) / ⊿t / 2
(m/s)
(1)
Fig.13 に示すようにある時点でのき裂長さの全長を 2c とし、そこから⊿t 後のき裂の両
端の増加量を合わせて⊿(2c)とした。
ある時点でのき裂
⊿t
2c
⊿(2c)
Fig.13 き裂伝ぱ量の模式図
13
実際のき裂測定結果の一例を Fig.14 に示す。ソフト材負電界の(a)10 時間後(b)11 時間後
のものである。粒界に沿ってき裂が伝ぱしていることが分かる。
(a)10 時間後
50μm
12μm
(b)11 時間後
Fig.14 き裂測定結果の一例
14
3-2 応力拡大係数
応力拡大係数 K は応力にき裂長さの 1/2 乗をかけたもので表され、単位は MPa√m とな
る。Fig.15 に示す試験片断面図の模式図から、き裂は 3 次元半楕円き裂とし、き裂先端で
の曲げを応力拡大係数になおすために式(2)(2)を用いた。MBC は全表面補正係数で参考文
献から 1.1 とした。σB は公称曲げ応力、a はき裂深さ、E(k)は第二種楕円積分を表し
ており、式(3)に示す。a/c はき裂が半楕円としたときのアスペクト比である。アスペク
ト比は 0.5 として計算した。
公称曲げ応力σB は式(4)を用いて求めた。ここで、M0 は試験片にかかるモーメント、
t は試験片厚さ、W は試験片の幅である。
2c
a
Fig.15 試験片断面図
M B σB πa
E (k )
C
KⅠ =
⎛a⎞
E (k ) ≅ 1 + 1.464⎜ ⎟
⎝c⎠
σB =
1.65
= 1 + 1.464(1 − k 2 )1.65 / 2
M 0 t 3M 0
=
2I
Wt 2
15
(2)
(3)
(4)
4. 実験結果
4-1
dc/dt-K 関係
電界負荷のない条件下における微小き裂(2c<1.2mm)のき裂伝ぱ速度 dc/dt と応力拡大係
数 K の関係を Fig.16 に示す。いずれの材料についても dc/dt-K の関係は大きく 2 つの領域
に分けることができる。すなわち,伝ぱ速度に 1 桁以上の大きなばらつきがあり,これが K
に依存しない領域,K の増加に伴い伝ぱ速度が急激に増加する領域である。後者の領域で
は dc/dt-K 関係が直線でありほぼ指数則で表すことが可能である。この伝ぱ挙動が変化する
K の値はハード材,ソフト材でそれぞれ 0.43 および 0.6MPam1/2 付近であった。また材料
間で伝ぱ速度を比較すると,ハード材の伝ぱ速度はソフト材のそれよりも大きくなった。
4-2
電界負荷の影響
ソフト材に電界を負荷したときの dc/dt-K 関係を Fig.17 に示す。正電界を負荷した場合,
K≦0.6MPam1/2 での伝ぱ速度が K に依存しない領域では,電界なしの場合と大きな違いは
見られず,それより K が大きい領域で若干伝ぱ速度が低下した。負電界を負荷した場合,
K≦0.6MPam1/2 において伝ぱ速度の増加が顕著となることがわかった。
16
Crack growth rate dc/dt (m/s)
10 -6
Soft PZT
Hard PZT
10
-7
E=0 kV/mm
10 -8
10 -9
10 -10
0.3
0.5
1
Stress intensity factor K (MPam 1/2)
Fig 16 電界無負荷時のハード材とソフト材のき裂伝ぱ速度 d2c/dt と応力拡大係数 K
17
10 -6
Crack growth rate dc/dt
(m/s)
Soft PZT
E = +0.1 kV/mm
E = - 0.1 kV/mm
10 -7
10 -8
10 -9
da/dt - K relation
(No field)
10 -10
0.3
0.5
Stress intensity factor K
1
(MPam )
1/2
Fig 17 正負の電界を負荷した際のソフト材のき裂伝ぱ速度 d2c/dt と応力拡大係数 K
18
4-3
破面観察
試験終了後 SEM を用いて破面観察を行った。Fig.18 にその一部を示す。破面は材料にか
かわらず粒界割れが支配的であり,粒内割れが観察されたのはごく一部であった。
5μm
(a)ソフト材-無電界
(b)ソフト材-正電界
5μm
(c)ソフト材-負電界
(d)ハード材-無電界
Fig.18 破面の電子顕微鏡図
19
また、ビッカース圧痕にも変化が見られた。いずれも時間とともに損傷が拡大している。
Fig.19 に例として、ソフト材負電界負荷時のビッカース圧痕を 10 時間後とに連続に示す。
30 時間を越えた辺りから損傷が飽和状態になっていることが分かる。
(a)
(b) 10 時間後
0 時間
(d) 30 時間後
(c) 20 時間後
(f) 50 時間後
(e) 40 時間後
Fig.19
ソフト材-負電界負荷時のビッカースの損傷
20
50μm
Fig.20 にビッカース圧痕の損傷について、各材料の 40 時間後を示す。ソフト材は無電界、
正電界、負電界の順に損傷が大きいことが分かる。また、ソフト材とハード材ではソフト
材のほうが損傷の大きいことが分かる。
(a)ソフト材-無電界
(b)ソフト材-正電界
(d)ハード材-無電界
(c)ソフト材-負電界
50μm
Fig.20
40 時間後の比較
21
5. 考察
セラミックスにおける静疲労き裂伝ぱは,一般的に応力腐食割れによるものとされてい
る(3)。特に粒界にガラス層を含むセラミックスでは Fig.21 に示すように Si-O-Si の結合に
水分が結合し,Si2O の結合が切断されるため,静疲労が生じやすい。
H
H
O
応力
―Si―O―Si―O―Si―
―O―Si―O―H
H―O―Si―O―
Fig.21 ガラス層を含むセラミックスの応力腐食割れ
PZT のような酸化物系セラミックスにおいても空気中に存在する分子化学吸着により結
合力の低下が生じ,静疲労が生じることは考えられる。このような考え方で Wang ら(4)は
PZT の SCC について考察を行っている。本研究でも類似の現象が起きたと考えられる。
Fig.22 にそのメカニズムを示す。実験結果に見られるように伝ぱ速度が K に依存しない K
が十分に小さい領域では,大気環境中の水分子などがき裂先端に達し,そこで結合力が低
下するためき裂が伝ぱすると考えられる。すなわちき裂伝ぱが材料因子に主に支配される
ために,伝ぱ速度が K に依存しない。また、非力学的なことが主な原因であるために K の
みで考えることは非常に困難である。しかし、K が十分に大きい場合連続体的き裂として
考えることができ、き裂先端での応力場が支配的になり力学的に K に依存する領域ができ
たのではないかと考えられる。
22
大気中の水分子
(a) K が十分に小さい場合
(b) K が十分に大きい場合
Fig.22
き裂先端での応力腐食割れのメカニズム
23
ここでの伝ぱ速度の大きなばらつきには,Fig.23 に粒界に沿ってき裂が伝ぱしているこ
ともその原因の一つである。今回試験したハード 材の粒径はソフト 材のそれの 2 倍以上
大きいため、同じ長さき裂が伝ぱしても、粒径の小さいソフト材の方がより多く屈曲を繰
り返すことになる。よって相対的にハード材における伝ぱ速度が大きくなったと思われる。
ソフト材
ハード材
Fig.23
粒径の影響
PZT に負の電界を負荷すると,巨視的には材料に圧縮の圧電歪みが生じる。この圧電逆
効果は微視的には格子内イオン間の相対変化によるものであるが,結晶内のドメインを単
位としてその向きは異なる。負の電界負荷より各ドメインには圧縮歪みが生じる,これに
よる粒界でのミスマッチが,巨視的に分極方向に垂直に伝ぱするき裂の加速に作用したと
思われる。Fig.24 に模式的に表す。
24
粒界
L
結晶
(a)電界無負荷
L+⊿L
電界
(b)正電界
電界
L-⊿L
(c)負電界
Fig.24 格子イオン内の相対的変位
25
6. 結言
(1) 微小き裂伝ぱ速度と K の関係には,K に依存する領域と K の増加に伴って伝ぱ速度が
増加する領域とが存在した。
(2) ハード材の伝ぱ速度はソフト材のそれよりも高くなった。これは主に粒径の違いによる
ものである。
(3) 分極方向に負の電界を負荷した場合,K に依存しない領域での伝ぱ速度が加速した
7. 参考文献
(1) 北川
賀津一,医用マイクロマシンのための新材料開発,石川県工業試験場,
入手先<http://www.irii.go.jp/theme/2001/study11.htm>
(2) 国尾
武
(3) 淡路
英夫,セラミックス材料強度学,コロナ社,2001,P,74
他編,破壊力学実験法,朝倉書店,1984
(4) Y.wang,et al.,Mat.Letter,57(2003),PP,1156-1159
(5) 内藤
研二
他編,圧電/電歪アクチュエータ,森北出版,1986
(6) 岡田
明,
セラミックスの破壊学,内田老鶴圃,1998
(7) 曽我
直弘
著,新版
(8) 北田
正弘
著,初級金属額,アグネ承風社,1978
(9) 平成 15 年度
初級セラミックス,アグネ承風社,1993
高知工科大学
材料強度学研究室
修士論文
知能機械システム工学コース
宝田
雅樹
8. 謝辞
本研究、および修士論文作成を進めるにあたり、ご指導くださいました楠川量啓教授に深
く感謝いたします。また研究室諸君にも同時に感謝致します。
26
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