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分岐管を用いた新しい気泡除去技術の基礎研究

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分岐管を用いた新しい気泡除去技術の基礎研究
日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 20 No. 1 2003 (38)
特集JAMIC の成果
(解説)
分岐管を用いた新しい気泡除去技術の基礎研究
石川
仁A・望月
修B
Basic Research of a New Bubble Removal Technique by a Branching Pipe
Hitoshi ISHIKAWAA and Osamu MOCHIZUKIB
Abstract
Bubbles in the pipe ‰ow cause ‰ow unsteadiness, noise and vibration. Common bubble removal technique makes use
of the buoyant force. However, under microgravity condition, the buoyant force doesn't act on the bubbles. In this
paper, we performed a basic research for a novel bubble removal technique using a branching pipe with a pressure diŠerence. The microgravity experiment was performed in the underground microgravity experiment center ( JAMIC) in
Kamisunagawa-cho, Hokkaido. Bubble behavior in a branching pipe under a microgravity condition was investigated
by an air-water loop system installed in a free fall capsule. As a result of the experiments, the number of bubbles ‰owed
into the branching pipe increased as the bubble diameter increased. When the mean diameter of bubble was over 3.0
mm, 80 of the bubbles were able to ‰ow into the branching pipe. This is because a bubble with a large diameter experiences the large body force caused by the pressure diŠerence between the main and the branching pipe. This pressure
diŠerence was generated by the ‰ow separation, which occurred in the entrance of the branching pipe. This tendency was
more intensiˆed under a normal gravity condition.
.
気液二相流の管内における流動様式は,気相と液相の流
はじめに
量割合によって,環状流,スラグ流,プラグ流,気泡流等
燃料や冷却水等の輸送配管に気泡が混入すると,騒音・
に分類される1).管路分岐部でのそれぞれの流れの様子に
振動や輸送効率の低下を引き起こすことがある.混入した
ついては,嵩2),Azzopardi et al.3,4), Hwang et al.5),
気泡は,おもに浮力や旋回流を利用した気泡除去装置によ
Saba6),浅野ら7)の研究があり,重力に対する分岐管の設
って取り除かれる.スペースモジュールのような宇宙構造
置方向や分岐の角度,気液二相の流量割合によって,その
物内においても,気泡の除去は問題となると予想される
特性が異なることが報告されている.また藤井ら8)は,微
が,そこでは浮力を利用した除去装置を使用することはで
少重力空間において T 字分岐管の片側に完全に液相のみ
きない.また,そのような空間では省スペース,省エネル
が分離される状態が実現できることを明らかにし,T 字分
ギーが求められるので,旋回流を利用する除去装置は装置
岐管が気泡除去装置として有効であることを示している.
の大型化や動力の増大が伴い不向きである.浮力や旋回流
藤井らの実験は,気相の流量が比較的多いプラグ流を対
を利用しない,新たな気泡除去装置の開発が望まれるとこ
象としたものである.本報では,気相の流量が,それより
ろである.
も少ない気泡流を対象とする.落下塔を用いた微少重力実
ここでは,微少重力空間でも使用可能な,分岐管を用い
験を行い,気泡に働く浮力と管壁からのせん断力を取り除
た新しい気泡除去装置の可能性について述べる.これは気
いた状態で,管路分岐部での気泡の分配特性を調べた.そ
液二相流が管路分岐部を通過する際,気相と液相の分配割
の結果,気泡直径が大きくなると,ほぼすべての気泡が枝
合が分岐の本管と枝管で異なる性質を利用したものであ
管側に流れる場合があることを明らかにした.この性質を
る.分岐管の構造自体は,普通の字型なので至ってシン
利用した新しい気泡除去装置開発の可能性について述べ
プルであり,既存の配管系にも設置が容易である.
る.
A
B
北海道大学大学院工学研究科機械科学専攻 〒0608628 札幌市北区北13条西 8 丁目
Division of Mechanical Science, Graduate School of Engineering, Hokkaido University N13W8, Kita-ku, Sapporo 0608628, Japan
(E-mail: ishi@eng.hokudai.ac.jp)
東洋大学工学部機械工学科 〒3508585 埼玉県川越市鯨井2100
Department of Mechanical Engineering, Faculty of Engineering, Toyo University Kujirai 2100, Kawagoe, Saitama 3508585, Japan
(E-mail: osamu@eng.toyo.ac.jp)
― 3 ―
3
石川
.
仁・望月
修
向は,通常重力場で重力方向に対し水平であり,浮力によ
実験 装置
って気泡が分岐管の片側に流れてしまうことはない.
株 地下無重力実験セ
微少重力実験は,北海道上砂川町の
落下実験の手順を以下に述べる.液相は水であり,水ポ
ンター( JAMIC )の落下塔を用いて行った. JAMIC の
ンプによってループ内を駆動される.管内の平均流速 U
落下塔は,約10秒間の微少重力状態を利用することができ
は約0.3 m/s,流量 Q =5.65×10-3 m3/min である.U と D
る.微少重力状態下では,気泡に浮力が働かない.さらに
に基づくレイノルズ数 Re(=UD /n,n動粘性係数)は約
気泡は管の中心付近を流れるので,管内壁に発達する境界
3,000 であり,管内の流れは乱流である.気泡は空気で,
層からのせん断力をあまり受けないことになる.よって,
エアポンプによりニードルバルブを介して管内に注入され
微少重力状態は,気泡流の実験に好都合であるといえる.
る.注入位置は,分岐管直前の直管部分である.微少重力
Fig. 1 に JAMIC の落下カプセルに搭載した実験装置を
実験で自由落下が開始された時に,気泡が定常状態で流れ
示す.大きさは長さ 900 mm ,幅 430 mm ,高さ 400 mm で
ているよう,気泡注入のタイミングを落下10秒前に設定し
あり,ちょうどカプセルの 1 / 4 ラックのサイズに相当す
た.注入タイミングはリレーと電磁弁の組み合わせで制御
る.総重量は約25 Kg である.
する.気泡直径はニードルバルブの調整により,0.6~3.0
Fig. 2 に実験装置の構成図を示す.装置はおもに,分岐
mm まで変化させることができる.分岐管を通過した気泡
管,水ポンプ,水タンク,気泡注入用のエアポンプの気液
は,水タンクにより回収される.気泡の注入により,タン
相ループ系と,デジタルビデオカメラ,鏡等の可視化系で
ク内圧力が高くならないよう減圧弁を設置し,圧力を一定
の T 字管である.管内
構成される.分岐管は分岐角度90 °
に保てるようにしてある.
での気泡の挙動を可視化できるように,透明アクリル製の
.
円管を組み合わせて作られている.管の内壁は滑らかで,
管直径 D = 20 mm である.気泡の挙動は鏡を介し,デジ
実験結果
. 微少重力実験
タルビデオカメラによって撮影される.この際,2 本の
分岐管を流れる気泡の挙動を,Fig. 3 に微少重力状態を,
字管を左右対称に並べて,一度の落下実験で異なる二つの
Fig. 4 に通常重力状態をそれぞれ示す.通常重力場におい
条件の実験を行えるよう工夫されている.分岐管の設置方
て,重力の方向は紙面に向かって垂直である.流れの方向
は左から右である.今後,分岐管の真直な部分を本管,上
側の部分を枝管と呼ぶことにする.
まず Fig. 3 の微少重力状態において,気泡直径が大き
くなるにしたがい,枝管側に流れる気泡の数が多くなるこ
とがわかる.Fig. 4 の通常重力状態では,この傾向がより
顕著となり,気泡の平均直径 d̃ が 3.0 mm 以上で,ほとん
どの気泡が枝管側に流れている.枝管側流入直後の領域
に,気泡の滞留が見られた.滞留した気泡は,他の気泡と
合体し,大きな気泡を形成した後,枝管下流に流れ去って
いく.この気泡の滞留の原因は,後に考察する.
このような静止画を同じ気泡を扱うことがないよう抽出
し,分岐管を流れる気泡の数と直径を定量的に求めた.
Fig. 5 を用いて,その解析法を説明する.分岐管の曲面に
Fig. 1
Air-water loop system for microgravity experiment.
よる画像の歪みは補正してある.まず図に対し,分岐前の
本 管 上 流 領 域 ( Region 1 ), 分 岐 後 の 本 管 下 流 領 域
( Region 2 )を定義し,各領域内での気泡の数と直径を求
める.変形している気泡に対しては,直径が一定の球に換
算して直径を求める. Region 2 の解析結果から本管側に
流れた気泡の数と直径が求まり, Region 1 の気泡のデー
タから Region 2 のデータを差し引くことによって,枝管
側に流れた気泡の数と直径が求められる.直接に枝管側に
流れた気泡を数えない理由は,先に述べた気泡の滞留や合
体があるためである.このようにして得られて本管・枝管
への気泡直径ごとの分配割合を Fig. 6 に示す.Fig. 6 はあ
る平均直径 d̃ となる気泡の分布ごとに,横軸に気泡の直
Fig. 2
4
Schematic diagram of the air-water loop system.
日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 20 No. 1 2003
径,縦軸に球に換算した体積割合をとって整理したもので
― 4 ―
分岐管を用いた新しい気泡除去技術の基礎研究
Fig. 3
Fig. 4
Bubble behavior in the branching pipe under microgravity condition.
Bubble behavior in the branching pipe under normal gravity condition.
ある.ここで V1 は Region 1 ,すなわち本管上流の直径ご
かる.微少重力状態において,気泡の平均直径が小さい場
との気泡総体積, V 2 は本管下流に流れた気泡総体積であ
合には,枝管側に流れる気泡は少ないが,d̃>3.0 mm にな
る.すなわち,V 1 と V2 の差が,枝管側に流れた気泡の総
ると,多くの気泡が枝管側に流れるようになる.先に述べ
体積となる.また,各気泡直径での体積は分岐管に注入さ
たように,この傾向は通常重力状態でより顕著で,d̃>3.0
れた空気の総体積 Vtotal で無次元化してある.図より,ま
mm では,ほぼすべての気泡が枝管側に流れている.ここ
ず気泡直径の分布が,ほぼ正規分布となっていることがわ
で興味深いことは,平均直径が異なる条件でも,おなじ直
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径の気泡を比較してみると,その分配割合が異なることで
. 数値計算による流れ場解析
ある.例えば微少重力状態において,d̃=1.6 mm のときの
前節で述べた枝管側での気泡の滞留や合体のように,分
d=0.1 mm の気泡は,そのほとんどが本管下流に流れてい
岐管での気泡の挙動は,分岐管内の流れ場に強く影響され
るのに対し, d̃ = 3.0 mm の d = 0.1 mm では,約 20 が本
る可能性がある.そのことを調べるために,数値シミュ
管側に流れているにすぎない.このことは,気泡直径の分
レーションを行い分岐管内の流れ場を求めた.解析コード
布が気泡挙動に影響を及ぼすことを示唆している.
には汎用熱・流体解析コード FLUENT を使用した.Fig.
7 にシミュレーションに使用したメッシュ図を示す.各部
寸法は微少重力実験の分岐管と同一であり,四面体の非構
造格子約 131,700 で構成される.境界条件には入り口側に
一様流入,本管と枝管の出口では流出流量を 6 4 に設定
した.気泡を注入した場合の計算を行う場合には,二相流
を取り扱うことのできる Discrete Phase モデルと異相間で
のすべり速度を導入できる Algebraic Slip Mixture モデル
を採用した.Fig. 8 に気泡を入れない状態での,流れ場の
速度分布および静圧分布を示す.図は管中心を通る断面の
ものである.まず,本管の流れ方向の速度成分 x の分布に
おいて,分岐管の直前に加速領域が見られる.速度成分 y
の分布には,枝管側に大きな低圧領域を伴う逆流領域が存
在する.この逆流領域は,流れのはく離によるものであ
り,可視化写真に見られた気泡の滞留は,このはく離領域
に気泡がトラップされたために起こったと考えられる.
ここで,d̃>3.0 mm の直径の大きな気泡が,ほぼ枝管側
に流れた理由を考えてみる.管内の気泡は,おもに主流に
Fig. 5
Still picture of close-up view of the branching pipe.
Fig. 6
6
よる抗力と流れ場の圧力勾配による力を受けると仮定す
Volume ratio distributions of bubbles ‰owed through the branching pipe.
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る.主流による抗力は面積力で直径の 2 乗に比例し,圧力
圧力勾配となるため,質量が小さく慣性力の小さい気泡
勾配による力は体積力であり直径の 3 乗に比例する.すな
は,本管下流への逆圧力勾配に打ち勝つことができず枝管
わち直径が大きくなるにつれ,圧力勾配による力が支配的
側に流れやすくなると説明している.
となる.そこにはく離によって生じた枝管側の低圧領域が
また,通常重力場で気泡が枝管側に流れる傾向が強くな
さらに圧力勾配を増大させた結果,直径の大きな気泡が枝
ることは,次のように説明できる.通常重力場では,気泡
管側に引き込まれやすくなると考えられる.この現象は
に浮力が働くので気泡は管の上壁面近くを流れることにな
嵩2)によっても指摘されており,本管上流から枝管にむか
る.壁面近くには発達した境界層が存在するので,速度が
っては順圧力勾配,本管上流から本管下流にむかっては逆
遅く,主流から受ける抗力が小さくなる.よって,枝管側
からの圧力勾配による体積力がより支配的になり,気泡の
多くが枝管側へ流れると考えられる.
Fig. 9 に,気泡の分配割合を気泡直径ごとにまとめたグ
ラフを示す.気泡直径 d が大きくなるにつれ,枝管側に流
れる気泡の割合が大きくなる傾向が明らかである.気泡直
径 d が3.0 mm の場合には,約 80 の気泡が枝管側へと流
れている.実験と数値シミュレーションの結果は概ね同じ
傾向を示しているが,気泡直径が小さい場合にはその値が
一致していない.例えば数値シミュレーションでは,気泡
の分配割合が液相の分配割合 6 4 に近づいている.気泡
直径が限りなく小さくなると,その分配割合は液相と同一
になると考えられるので,数値シミュレーションの結果は
妥当である.しかし実験結果は,小さな気泡のほとんどが
本管下流に流れることを示しており,数値シミュレーショ
ンと一致しない.このことは画像処理による誤差か,ある
Fig. 7
Computational domain of the branching pipe.
Fig. 8
Distributions of (a) static pressure; (b) x-velocity component; (c) y-velocity component, simulated by FLUENT code.
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いは直径の小さな気泡の分岐管での挙動に,なんからの非
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のはく離により形成される低圧領域に引き寄せられ,その
ほとんどが枝管側に流れる状態があることが明らかになっ
た.すなわち直径が大きな気泡や,あるいは直径の小さな
気泡でも,なんからの方法で直径の大きな気泡に合体させ
ることができれば,この分岐管を用いた装置で除去できる
可能性がある.
最後に,本研究は北海道マイクログラビティ研究会の援
助を受けて行われた.ここに感謝の意を記す.
参考文献
Fig. 9
1 ) 日本機械学会編機械工学便覧(基礎編,A5 流体工学)第
20章 混相流,p. 153.
2 ) 嵩 哲 夫  日 本 機 械 学 会 論 文 集 ( B 編 ), 54 508 ( 1988 )
3521.
3) B. J. Azzopardi and P. B. Whalley: Int. J. Multiphase Flow, 8
(5) (1982) 491.
4) B. J. Azzopardi, A. Purvis and A. H. Govan: Int. J. Multiphase
Flow, 13(5) (1987) 605.
5) S. T. Hwang, H. M. Soliman and R. T. Lahey JR: Int. J. Multiphase Flow, 15(6) (1989) 965.
6) N. Saba and R. T. Lahey JR: Int. J. Multiphase Flow, 10(1)
(1984) 1.
7) 浅野 等,藤井照重,竹中信幸,迫田健吾日本機械学会論
文集(B 編),67654 (2001) 46.
8) 藤井照重,中澤 武,浅野 等,竹中信幸,山田浩之日本
機械学会論文集(B 編),62594 (1996) 447.
Volume ratio distribution of bubbles ‰owed through the
branching pipe.
線形性が存在するためと考えられる.
.
おわりに
管路分岐部における気泡流の挙動を,微少重力実験を行
い調べた.その結果,直径の大きな気泡が,枝管部に流れ
8
日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 20 No. 1 2003
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(年
月日受理)
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