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Ⅰ 生活のアドバイス 術後 1 カ月まで

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Ⅰ 生活のアドバイス 術後 1 カ月まで
1.がん
Ⅰ 生活のアドバイス 術後 1 カ月まで リハビリテーションについて 医学の進歩にともない、手術後の入院期間が 1 週間
前後のことが多くなりました。しかし、退院しても完全に
体が元通りになっているわけではありません。おおむね
1 カ月間のリハビリテーションが必要でしょう。前半のリ
ハビリテーションは、朝夕の散歩を自分のペースでゆっ
くりとしましょう。そして暴飲暴食や偏食をさけて、美味
しいものを少しずつ、いろいろな種類のものを無理なく
食べるようにしましょう。術後にこれを食べなければな
らない、これを飲まなければならないという食事の推奨
や逆に食事の制限もありません。従来どおりに健康に
良いと思う食生活を送ってください。 後半のリハビリテーションは積極的に外に出て体力
を養いましょう。お出かけの距離を少しずつ伸ばし、心
身ともにリフレッシュしましょう。温泉などもよいのでは
ないでしょうか。やさしく体を鍛えることが良いでしょう。 4
139
1.がん
入浴について 手術後は清潔に することが肝
シャワーや入浴
心です。毎日必ずシ
をしましょう。創部もこ
こわがらずに洗
い流しましょう。 大腸がん
創などの感染につい
いて 手術から30日以内には手術での創などが膿んだり
イト イン
することがあります。手術後のサージカル サイ
いいます。傷口はもちろんお
おなかの
フェクション(SSI)とい
中の感染も含めて SSI と言います。SSI の場所に
により表
の 3 つに分けます。表層の SSI
S では、
層、深部そして腔内の
創部の表面が赤くは
はれだし、やがて膿が出てき
きます。
多くの場合はシャワー
ーで洗浄することで自然に治
治ってき
ます。深部もしくはお
おなかの中の SSI では高熱が
が出てく
ることが多く、ただちに主治医に診てもらいまし
しょう。入
必要になることもあるでしょう
う。 院や新たな治療が必
5
140
1.がん
Ⅱ 生活のアドバイス 全般
排便習慣の変化について 大腸がんの手術を受けると、大腸は短くなっていま
す。ですから理論的には下痢になりやすい状態です。し
かし、実際には便秘となることも下痢になることもありま
す。術後から数カ月の間は不安定となりがちです。術
後の排便習慣の変化は、入院による環境の変化や大
腸の切除に伴うおなかの生理的環境変化のあらわれ
かもしれませんがいまだ明らかなことは分かっていませ
ん。ただこの時期に下剤や止痢剤をむやみに使うこと
はお勧めできません。体が治ろうとする自然の経過を
見守ることも大切ではないでしょうか。お困りの時はぜ
ひ主治医に相談してください。 直腸を切除した手術を受けられた方は、便を出そうと
すると 1 度にすべてを出すことができず便が残った感じ
がするため 1 時間ほどのあいだに数回トイレに通うこと
がしばしばあります。この場合は手術後約 1 年で安定
6
141
1.がん
化するとされ、1日に
に6回以内の排便回数であ
あればお
おむね社会生活は可
可能で良好な排便回数であるとされ
ています。 大腸がん
腸閉塞について おなかが張って痛
痛い、気持ちが悪く吐く、おな
ならも便
もでない。この 3 つの症状は典型的な腸閉塞の
のときに
医療機関に受診してくださ い。多く
出現します。直ちに医
の腸閉塞は突然に起
起こります。ただ、おなかが張
張ってあ
7
142
1.がん
まり食欲がないという状態が数日前に先行することもあ
ります。調子の悪い時には無理に食べず、1 食抜くぐら
いの気持ちで腸管を休めてあげましょう。早い段階で腸
閉塞の芽をつみとっておくことが予防につながる可能
性があります。残念ながら術後の腸閉塞の予知や予防
にあまり効果的なものがありません。一方で、漢方薬に
より改善効果があるとする報告もあり期待されていま
す。 腸閉塞の治療には、はじめに絶食にして点滴で治す
保存的療法、さらに鼻から長い管を入れて腸管の中を
減圧する方法が行われます。そして保存的療法に抵抗
する頑固な腸閉塞に対して癒着 離術などの手術療
法が選択されます。時として
腹膜炎を合併し緊急手術を要
することもあり激しい痛みの
ある時は注意が必要です。 8
143
1.がん
Ⅲ 大腸がん手術後の広がり 大腸がんを手術でとりのぞいた後も、 再発がおこるこ
とがあります。大腸がんのために手術を受けた患者さ
ん全体の 80%で癌を取りきることができるようになって
きましたが、 残念ながらそのうち 20%で再発がありまし
大腸がん
た。また大腸がんの再発について、再発の 80%が手術
後3年以内に生じ、 5年以内に 95%が見つかっていま
す。このため手術後5年を節目と考え、 5年生存率を手
術などの治療効果の目安としています。早期がん (が
しんじゅん
んの浸潤が粘膜下層まででリンパ節転移のない場合)
では再発することは少ないため5年生存率は高く、 がん
の進行度に伴い再発率は上昇し5年生存率は低下して
いきます (ステージ別の5年生存率はステージⅠ、Ⅱ、
Ⅲ、Ⅳでそれぞれ約 90%、 80%、 60%、 10%です)。で
すからステージ別に科学的に検討された検査法や治療
法があり、それに従い転移や再発の予防や早期発見を
することが推奨されます。 9
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1.がん
Ⅳ あなたの手術後のステージを知りましょう
深達度(がんが浸潤する壁の深さ)、リンパ節転移の
有無、遠隔転移(もともとがんのあった場所から離れた
場所に飛んでいくこと)の有無によりステージが決まり
ます。特に手術で取り出した大腸(標本)を顕微鏡で調
べた病理結果が大切なデータとなります。手術や病理
結果による最終的ステージにより5年生存率や化学療
法の追加など今後の治療と観察の方法が決まります。 あなたの最終的ステージを主治医に聞きましょう。
ステージ
がんの広がり
□
0 粘膜の中にとどまっている。
□
Ⅰ
大腸の壁(固有筋層)までにとどまっている。
□
Ⅱ
大腸の壁(固有筋層)の外まで浸潤している。
□
Ⅲ
リンパ節に転移がありました。
□
Ⅳ
遠隔転移(肺や肝臓など)がありました。
10
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1.がん
Ⅴ ステージ別にこれからの検査や治療が違
います
ステージからの今後 主治医にあなたの状況から該当する方針を示しても
らいましょう。 今後の治療方針
0
→ □
早期がんでした。検診を受けましょう。
Ⅰ → □
早期がんでした。検診を受けましょう。
→ □
進行がんのため、定期観察をすすめます。
→ □
進行がんのため、定期観察をすすめます。
→ □
□若年者
□低分化腺癌
□穿孔
□腸閉塞
Ⅱ 大腸がん
ステージ
□他臓器浸潤
によるハイリスクの
ため、術後化学療法をすすめます。
Ⅲ → □
術後化学療法と定期観察をすすめます。
Ⅳ → □
術後化学療法など定期観察をすすめます。
11
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1.がん
定期観察について 大腸がんの再発や転移を早期に発見することが最
大の目的です。診察や血液検査といった受診すること
で比較的簡単にできるものから、大腸内視鏡検査、超
音波検査、X 線検査、CT 検査など大きな病院で予約を
してから後日に行われる画像検査があります。特に CT
検査の進歩は目覚ましく、6 か月ごとに胸部から骨盤ま
での CT 検査をすることが推奨されます。また血液検査
では、CEA や CA19‑9 といった腫瘍マーカーというもの
を定期的(3‑6 か月ごと)に測定します。大腸がんにとっ
て腫瘍マーカーは完全なものではありませんが、異常
に上昇することで再発や転移を画像検査より早く教え
てくれる可能性があります。 欧米のガイドラインに比べて日本のガイドラインでは
頻回の診察や検査を推奨しています。それは早期発見
や治療法の進歩で、切除不能であった転移巣が切除
可能となることも経験されるようになったからとされてい
ます。しかし、どの程度の間隔で検査することが安全で
12
147
1.がん
効果的であるかはい
いまだ不明で、この分野に関
関する今
後の研究が望まれて
ています。 術後化学療法につい
いて 大腸がんには、5F
FU と
いう抗がん剤が主に
に使わ
大腸がん
れます。5FU は、が
がん細胞
の細胞分裂を抑制す
することで
がん細胞の増殖を抑
抑えたり、死滅
させたりする働きをし
します。使い方として、飲み
み薬や点
滴による方法があり
ります。生活のしやすさから
ら日本で
は飲み薬が多く用い
いられています。また、複数
数の抗が
ん剤を使用する多剤
剤併用療法もあり、携帯ポン
ンプを使
って持続的に抗がん剤を注入する方法もあります。 者さんでは術後に化学療法
法を追加
ステージⅢの患者
することで、手術単独に比べて約10パーセントの5年
生存率の向上が期待
待できるとされています。しか
かしステ
ージⅡではそれほど
どの効果は期待できないとさ
されてい
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