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簡易検流計つき電極を用いて溶液の導電性を 調べる個人実験
中学第一分野 簡易検流計つき電極を用いて溶液の導電性を 調べる個人実験 山形県山形市立第一中学校 吉 田 佐智子 * 目 的 教材・教具の製作方法 Ⅰ.個人実験の効果 Ⅰ.“ 簡易検流計つき電極 ” の作り方 個人実験は、自分のペースで進めることができ、自 由に追加実験を行うことができる。また、机間指導で つまずきを把握し支援することができるため、一人一 人が実感を伴いながら思考し、確かな技能を身につけ ることができる。個人実験を実現するため、自作実験 器具の開発を目指した。その結果、「普段使っている 器具を作ることができる」という意外性と、「身近な ものを使って作ることができる」驚きによって、生徒 の興味・関心を高めることを目指した。 Ⅱ.定量的測定の実現 中学校 3 年の化学変化とイオンの単元は、「いろい ろな水溶液で、電流が流れるか調べよう」の実験で始 まる。電源装置・電流計を使うため、班実験を行うの が一般的である。化学の実験に関心が高い生徒達だ が、班実験となると、操作していない生徒が受け身に なることがあり、全員が意欲的に取り組むためには工 夫が必要であると感じてきた。更に、電解質水溶液は イオンによって電流が流れることを学習するため、定 量的に測定し考察することができれば、探究心を高め る学習になると考えた。そこで、2 年の「電流と磁界」 の学習で作らせた、手作り方位磁針(平成 20 年度第 40 回東レ理科教育賞受賞作品)にヒントを得て、簡 易検流計つき電極を作ることにした。 概 要 市販の安価な材料であるタレビン、小型磁石(ピッ プエレキバン)、プッシュバイアルビン、アルミ板(ま たは銅板) 、乾電池などだけを用いて、生徒自ら携帯 可能な簡易検流計つき電源装置を組み立てる。指針 は、電流を流したコイルに生じる磁界と、永久磁石の 磁界を組み合わせて動かすようにした。生徒がこの装 置を自分で作ったあと、それを用いて興味をもった食 品や飲料、洗剤など身近にある水溶液を調べたり、食 塩水の電気の流れ方の食塩濃度依存性を調べたりする など、自発的に実験を進めることを目指した。 1.用意するもの(一人分) ・プッシュバイアルビン(1) (1)…ア ・アルミ板(または銅板)1 cm × 10 cm 1 cm × 2 cm (1)…イ 1 cm × 8.5 cm(1)…ウ ・エナメル線 ・単 3 乾電池(2) ・タレビン(1) ・六角ナット M2.6(1) 、M2(1) ・ピップエレキバン 130(2) ・ステンレス釘 19 mm(2) ・白上質紙 ・分度器 ・瞬間接着剤 ・きり ・セロテープ(または絶縁テープ) ・カッター ・はさみ ・紙やすり 2.作り方 ⑴ プッシュバイアルビンの底に、円形に切ったアル ミ板(または銅板)をしく。 ⑵ プッシュバイアルビンに単 3 乾電池 2 個を、+と -を逆にして入れる。 ⑶ エナメル線を、単 3 乾電池に 15~20 回巻いて乾 電池からはずし、両端を巻きつけてエナメルをはが し、コイルを作る。 ⑷ 図 1 のように、アルミ板(または銅板)3 枚を、 乾電池に 2 枚(ア・イ) 、プッシュバイアルビンに 1 枚(ウ) 、それぞれセロテープ(または絶縁テープ) で固定する。 図 1 アルミ板(または銅板)の固定の仕方 (注)吉田佐智子教諭は平成 28 年 4 月 1 日付で山形県山形市立第三中学校に転任された。 * よしだ さちこ 山形県山形市立第三中学校 教諭 〒 990-0828 山形県山形市双葉町 2-1-10 ☎(023)644-3903 25 ⑸ 検流計を作る。 ①タレビンに縦 17 mm ×横 20 mm の窓をつける。 ②外側の側面に、分度器をコピーした上質紙を貼る。 ③窓の下辺の真ん中から 5 mm くらい下にステンレス 釘を通し、タレビンを貫通させる。後ろから少し出 る程度になる。 ④六角ナット大小 2 個と釘を瞬間接着剤で接着する。 ⑤図 2 のように、釘をつけていない方の六角ナット大 の両端に、エレキバン 2 個を磁力でつける。 ⑥タレビンの中に入れ、六角ナット小を③のステンレ ス釘に通して、タレビンにセットする。 ࡇࡇࢫࢸࣥ ࣞࢫ㔥ࢆ㏻ࡍࠋ ᥋╔ࡍࡿࠋ Ⅱ.電極に使用した原理 電極の指針の振れが、流れる電流の大きさで変わる ようにするため、1 年の身近な物理現象の単元で学習 した「磁石の力」と、2 年の電流とその利用で学習し た「右手の法則」を使った。具体的には、図 3 のよう に、電流を流したコイルに生じる磁界と、永久磁石の 磁界を組み合わせた。流れる電流が大きいほどコイル の磁界は強まり、永久磁石との引き合う・反発し合う 力が大きくなって針が大きく振れる。 ᣦ㔪 N ᴟ N ᴟ S ᴟ Ⓨࡋྜ࠺ S ᴟ ᘬࡁྜ࠺ N ᴟⓎ⏕ N ᴟ ࢥࣝ S ᴟⓎ⏕ S ᴟ 㟁ὶ 図 2 電極の指針 ⑹ プッシュバイアルビンの乾電池の上にコイルをの せ、その上に検流計のタレビンを差し込んで完成。 写真 1 コイルをセットしたところ 図 3 指針の動きの大小を決める原理 Ⅲ.材料と保管の仕方 1.材料 ⑴ 単 3 乾電池 100 円ショップで売っている 6 個で 100 円の乾電池 を使う。一般的な乾電池を使うと、タレビンをプッ シュバイアルビンにセットしただけで指針が振れるこ とがあるので気をつける。 ⑵ 指針につける磁石 今回は、ピップエレキバンを鉄の六角ナットに磁力 でつけて使用した。収納時に簡単に取り外しができる ので、保管の時に周りへの磁力の影響を心配する必要 がない。しかし、より簡単に指針を作る方法として、 100 円ショップの「超強力マグネットミニ 2800 ガウ ス 8 個入り」1 個に釘を瞬間接着剤でつけて指針を 作る方法もある。強力磁石なので感度が高く、指針の 振れの大小を比べるのは難しいが、導電性を調べるこ とはできる。 写真 3 100 円ショップの強力磁石をつけた指針 写真 2 完成した簡易検流計つき電極 26 2.保管の仕方 水溶液につける電極の先端の金属板どうしがつかな いようにするため、100 円ショップで購入したケース に、写真 4 のように一つずつ収納する。 学習指導方法 3 年「身近な水溶液の性質を調べよう」 写真 4 1 クラス分の電極 Ⅳ.指針の振れと電流の大きさ のりのキャップ(単 3 乾電池より少し大きい)にエ ナメル線を 15 回巻いたコイルの上に簡易検流計を セットし、電源装置と電流計をつないで電流を流す と、1 目盛り振れるのに 160 mA 流れた。この簡易検 流計をつけた電極を用いて 20 %食塩水に 3.0 V の電 圧をかけたところ(写真 5 の構成)、指針が 2 目盛り 振れたことから、電流の大きさは約 320 mA と計算さ れた。一方、既存の電流計に電源装置と金属板を組み 合わせて同様の測定をしたところ(写真 6 の構成)、 340 mA の電流が流れた。この結果から、今回製作し た簡易検流計を電流測定の実験に用いることが可能で あると判断した。 単 3 乾電池に 20 回巻いたコイルの場合には、指針 が 1 目盛り振れるときの電流の大きさは 200 mA で あった。そこで、1 目盛り 0.2 A として指針の振れ幅 から電流の大きさを計算し、電流の大小を定量的に調 べることにした。 単元末に、学んだことを活かす発展学習として個人 実験を行う。調べる方法として、「におい、電流が流 れるか、BTB 液・フェノールフタレイン液・リトマ ス紙の色の変化」などが出された。 1.学習の流れ ⑴ 身近な水溶液(こんにゃくを浸している液、胃薬、 ヤクルト、グレープフルーツやダイコンの絞り汁、 重曹、固形石けん、台所用洗剤、手洗い用ビオレ、 スポーツドリンク、酢など)の性質を調べる方法を 確認する。水溶液でないものは水に溶かす。 ⑵ 調べる方法と準備するものを確認し、結果を予想 する。 ⑶ 見通しをもって、興味のある水溶液から個人実験 を行う。提示したものだけでなく、調べてみたい水 溶液も準備してきて追究する。 ⑷ 班の人と結果を共有し、班用ボードにまとめる。 ⑸ 班用ボードを黒板に貼り、結果や気づいたことを 全体で発表し、考察する。 2.実験結果 食塩水は、自分で水に溶かして作らせた。食塩水の 濃度によって電流の大きさが違うのではないかという 点に着目した生徒がおり、 「10 %食塩水では 1 目盛り、 20 %食塩水では 2 目盛り針が振れた」と実験レポー トにまとめていた。 表 1 「電流が流れるか」の実験結果 水 溶 液 電極の指針 電 流 石けん水 0.8 目盛り 0.16 A 食 塩 水 1.5 目盛り 0.30 A グレープフルーツ 0.6 目盛り 0.12 A 重 曹 0.8 目盛り 0.16 A 入 浴 剤 0.5 目盛り 0.10 A スポーツドリンク 1 目盛り 0.20 A 酢 1 目盛り 0.20 A 注)電流の小数点以下 2 桁目は参考値 写真 5 簡易検流計つき電極を使った実験の構成 写真 6 電源装置・電流計・金属板を使った実験の構成 写真 7 食塩水 27 なお、塩酸で試すと針が振り切れた。 写真 8 塩酸 実践効果 Ⅰ.学習活動における生徒の様子 1.1 時間目:電極作り ・導入で、2 年の電流と磁界で使用した手作り方位磁 針を再び組み立ててみて、磁界の影響で簡単にくる うことのない方位磁針を作れたことを振り返った。 何度もくるくる手で回して夢中になって操作する姿 が見られた。その後、それまで台数が限られていて 班実験しかできなかった状況を踏まえ、「検流計を 一人一人持てたらたくさん実験できるね」「作って みよう」という展開で意欲を高めた。方位磁針の時 と同じ永久磁石(エレキバン)を使うことで、2 年 の時の学習とつなげて考えようとする意識が見られ た。特に今回は、右手の法則と生じる磁界について 指針の振れとつなげて考えさせることで、苦手な生 徒が多かった学習についてもあわせて復習でき、深 まる学習になった。 2.2・3 時間目:身近な水溶液の性質を調べる 実験・考察 ・日常生活の体験などをもとに予想し、一人一人が意 欲的に個人実験を行った。実験途中に結果を共有す る様子や繰り返し実験を行う姿も見られた。また、 予想とは違う結果になったものについて、意見交換 する姿が見られた。 ・個人実験なので、自分の調べてみたいものから時間 のある限り調べるように言ったが、全員が全部調べ たいと必死に実験をしていた。生活に広がる考察ま で話し合いが進んでいたため、時間を延長しての活 動となった。 28 Ⅱ.生徒の実験レポートより(抜粋) 1.針の振れについて ・結構勢いよく針が振れたので、見ているだけで楽し くなった。 ・最初はなかなか針が振れなかったが、エナメルを しっかりはがしたら針が振れた。勢いよく針が振れ たとき、とても感動した。 2. 「わかったこと」について ・身のまわりにある水溶液は、多くのものが電解質水 溶液だということがわかった。 ・石けん水に電流が流れると思わなかった。こんにゃ くの液にも少し電流が流れた。流れる電流の大きさ には違いがあり、イオンの数に関係あると思った。 3.3 時間の授業(電極を作って実験したこと)を 通して、学んだこと・わかったこと・考えたこと ・理科の実験で使っている道具は、身近なものでも組 み合わせることで簡単に作ることができるというこ とに驚いた。また、検流計のしくみも知ることがで きた。意外と単純な構造でできているのだと思っ た。まわりの電化製品や道具も、いろんなものが組 み合わさってできているのかなと思った。 ・私は検流計つき電極を作ってみて、自分で身のまわ りにあるものを使ってこんなものが作れるのだなぁ と驚きました。科学はこんなにも生活に役立ってい るのだなと思いました。科学がなければ私達は便利 な生活ができないと思います。今日の実験で改めて 実感しました。これから、高校に行っても理科はあ るので、いつまでも新たな発見をする気持ちで高校 の理科もがんばりたいと思います。 ・化学は身近なもので実感することができるのだとわ かった。身近なことからエジソンとかニュートンと かは偉大な発明・発見をしたかと思うと、誰でも科 学者になれると思った。改めて理科って面白い。一 つのことから、様々に枝分かれして成り立っている からだ。今後も、もっと理科のことをたくさん知っ ていきたい。 Ⅲ.授業を終えて 自分で作った電極を水溶液に入れて針が動いた瞬 間、「うわぁ、すごい!見て、見て!」という喜びの 声があちこちから聞こえ、単元の最初の班実験とは違 うにぎやかさだった。自分が作ったものが動いて、実 験に使えることがうれしいようで、自分の電極に愛着 をもっているようだった。既習の原理を活かして役立 つものを作って理解を深めることができ、理科の有用 性を感じたようである。何より、 「今日の実験楽しかっ た」という声が聞こえてきたことがうれしかった。電 流以外に調べた液性と関連付けて、イオンという視点 でまとめようとする生徒や、イオンについてもっと知 りたいという生徒、日常生活に広げて考えようとする 生徒が増えたことが大きな成果である。