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国際農業・食料レター

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国際農業・食料レター
国際農業・食料レター
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2014年 月(№176)
全国農業協同組合中央会
〈今月の話題〉
・米国の政治情勢とTPAの議論から探るTPP交渉の行方
☆国際農業・食料レターのバックナンバーは、下記
インターネットホームページをご覧ください。
<「国際農業・食料レター」に関する問い合わせ先:JA全中 農政部 WTO・EPA対策課
〒 100 - 6837 東京都千代田区大手町1-3-1 JAビル 03 - 6665 - 6071 >
インターネット・ホームページ:http://www. zenchu-ja. or. jp
米国の政治情勢とTPAの議論から探るTPP交渉の行方
はじめに
5月、本年2度目となるTPP閣僚会合が開催され、各国は「交渉を妥結させる
ために何が必要かについて共通の見解を確立」し、「今後数週間に渡り、集中的な取
り組みの道筋を決定」したこと等を旨とする共同プレス声明を発表した。こうした
なか、6月20日、オバマ大統領は、年末までに実質的な合意を目指すとともに、11
月のアジア訪問までに議会と協議ができるような一定の成果を得たいとの意向を示
した。
7月に行われる首席交渉官会合を前に、TPP交渉の当面の目標を中間選挙直後の
政治日程にあわせた格好だが、今後のTPP交渉の展開を占ううえで留意しなければ
ならないのは、オバマ政権がいまだ議会から大統領貿易促進権限(TPA)を得られ
ていないという点と、議会側では既に各地で激しい予備選挙が進められており、11月
4日の中間選挙までほとんど議会の審議日程が残されていないという現実だ。
オバマ政権は、TPP交渉で良い成果が得られれば議会からTPAが得られるとの
説明を繰り返してきたが、5月以降、通商関係の共和党議員は「TPAが無いなかで
妥結したTPPは支持できない」との主張を急速に強めている。一部には中間選挙が
近づくなかでの政治的戦略と見る向きもあるが、今年の中間選挙では議会側の勢力図
が変わる可能性も指摘されており、今後の米国の政治展望を慎重に見定める必要があ
る。
そこで今回は、あらためて米国との通商交渉においてTPAが果たす役割を確認す
るとともに、現時点までの予備選挙の状況なども踏まえながら当面するTPP交渉の
見通しを探ることとしたい。
1.4月の日米首脳会談以降、強まる農業団体・共和党の強硬論
2月末に行われたTPP閣僚会合以降、TPP交渉全体の進展のためには交渉国の
なかで突出した経済規模を持つ日米二国間での交渉の進展が不可欠との流れが形作ら
れ、4月末の日米首脳会談まで閣僚級を含めた集中的な日米二国間協議が行われた。
こうした過程で、甘利大臣とフロマン通商代表は、重要品目については関税、関税
割当、セーフガードなどの様々な要素を組み合わせて決着を図るとした「方程式」に
よる交渉方式に合意したものとみられる。例えば5月8日に行われた上院財政委員会
での公聴会において、通商代表部(USTR)次期首席農業交渉官に指名されたダ
ルシ・ベッター候補は、すべての農産品の関税撤廃という表現を避け、「最大限意味
のある、野心的で可能な市場アクセスを獲得する」との証言を行った。
これらの動きに対し、米国内では畜産関係の農業団体を中心として、「すべての関
-1-
税の撤廃」を求める等の声明1 が相次いで発出されるなど、オバマ政権が「すべての
関税・非関税障壁の撤廃」との目標を断念し、妥協しているのではないかとの警戒感
が広まっているように見える。
通商関係に通じている共和党議員は、かねてよりTPPなどの重要な通商交渉をま
とめあげるためにはTPAが必要との主張を行ってきた。たとえば上院財政委員会の
共和党側の筆頭であるハッチ理事(共-ユタ)2 は「米国が約束を果たせると分かる
までは相手国側は可能な限り最良の提案を行わない」、「議会がTPAを更新できなけ
れば、ほぼ間違いなくTPP交渉は失敗するだろう」等と繰り返し述べてきた。だが、
特に5月のTPP閣僚会合以降、下院歳入委員会のキャンプ委員長3(共-ミシガン)
やヌーネス下院歳入委員会貿易小委員会委員長(共-カリフォルニア)などの主要な
通商関係の共和党議員を中心に、「TPP交渉を妥結させる前にまずTPAを可決す
べき」、「議会からの支持を得るためには、完全な市場アクセスが確保されなければな
らない」、「TPAが無いなかでまとめられたTPPは、相手国側から最良の譲歩を引
き出したものではなく、そのようなTPPは議会で支持が得られない」等とする見解
を示し、一段と圧力を強めている。
下院歳入委員会の共和党側主要議員の最近の発言
キャンプ委員長(ミシガン州)【6月 18 日】
○ 日本が農産物の関税を完全に撤廃すると約束するまでは、これ以上(日本と)TPP交渉
を行うことができない。
○ オバマ政権はTPP決着の前にTPAを成立させなければならない。
ヌーネス貿易小委員長(カリフォルニア州)【6月 11 日】
○ 関税維持に固執する国を抜きにして交渉をまとめるべき。
○ 議会からの支持を得るためには、完全な市場アクセスが確保されなければならない。
○ TPPをまとめ上げる前にTPAを可決しなければ、協定実施法案が廃案になるのは明ら
か。
ブースタニー議員(ルイジアナ州)【6月 25 日】
○ 米国交渉官ができうる限り最良の合意を得るためにはTPAが必要。
○ 今までのところ(米国に)必要な譲歩が得られておらず、TPP交渉を妥結させるために
は超党派の支持によるTPAが絶対に必要。
1
5月23日全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)など米国、カナダ、豪州、NZの牛肉生産者団体
による共同声明 http://www.beefusa.org/newsreleases1.aspx?NewsID=4229
5月28日全米豚肉生産者協議会(NPPC)、国際乳製品協会、全米小麦生産者協会、USAコメ連
合会、米国小麦協会による共同声明
http://www.nppc.org/2014/05/agriculture-groups-urge-tpp-deal-without-japan/
2
2月上院本会議でのハッチ理事の演説(2014年2月4日:上院財政委員会によるプレスリリース
http://www.finance.senate.gov/newsroom/ranking/release/?id=12ab52b7-8688-4e23-90550c34f7c55106)、上院財政委員会公聴会におけるハッチ理事の演説(2014年5月1日:上院財政委員
会 に よ る プ レ ス リ リ ー ス http://www.finance.senate.gov/imo/media/doc/5.01.14%20Hatch%20
Opening%20Statement%20on%20Administration's%20Tradey%20Policy%20Agenda.pdf)
3
キャンプ委員長の講演(2014年6月19日:下院歳入委員会によるプレスリリース
http://waysandmeans.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=385085)
-2-
2.TPAの役割
⑴ 米国における通商交渉の責任の所在
ここで、米国における通商交渉の責任の所在について触れたい。明確に行政府
と立法府が分かれている米国では、アメリカ合衆国大統領に行政権 4 や、(上院
の助言と承認を得て)条約を締結する権限 5 が与えられている。一方で、関税、
輸入税等を賦課し、徴収する権限や諸外国との通商を規制する権限は連邦議会 6
に与えられている。すなわち通商協定に規定された合意内容を実施するための措
置としての立法権は議会にある。
⑵ 複雑な米国の立法プロセス
米国ではすべての立法権は連邦議会に付与されており、日本の内閣提出法案の
ように行政府が法案を提出することはなく、すべて議員立法である。通常、上下
両院それぞれで法案の審議が行われるが、法案の審議過程では所管委員会および
本会議ともに多くの修正が行われる。そしてそれら修正の結果、最終的に上下両
院で法案が異なった場合には、両院協議会により再修正が行われるなど、法案の
成立までに法案は非常に複雑かつ多くの修正過程を経る。
また、本会議で法案の審議を行うかどうかは、それぞれ上下両院の多数党側指
導者(現在は上院では民主党院内総務、下院では議長)の意向に大きくゆだねら
れており、両党の政治的駆け引きによっては本会議で審議にすら付されないこと
がある。
⑶ 立法府(議会)と行政府(政権)を調和させるTPA
米国の交渉相手国側からすれば、政権と議会とが一枚岩でなければ、仮に厳し
い政府間交渉を経て通商協定に合意をしたとしても、その実施法案の立法段階で
議会から無制限に審議と修正にさらされる、あるいはそもそも審議すらされずに
棚上げされる可能性が懸念される。さらに「米国内の事情」の結果、合意済みだっ
たはずの協定内容からもう一段の譲歩を行わない限り通商協定が実施される見込
みは無いとの事態を引き起こしかねないとすれば、政府間での交渉で政治的に困
難な課題の決着を目指すのはあまりに政治的リスクが高い。
米国側でも、このような条件下ではそもそも交渉相手国政府は最大限の譲歩案
を提示しないだろうとの点が指摘されていたため、こうした堂々巡りの問題を解決
するための仕組みが考え出された。すなわち、立法府(議会)は予め行政
4
米国憲法第2章第1条 原文 Article2, Section1, Clause1:「The executive Power shall be vested in a
President of the United States of America.(以下略)」
5
米国憲法第2章第2条 原文 Article2, Section2, Clause2:「He shall have Power, by and with the Advice
and Consent of the Senate, to make Treaties, provided two thirds of the Senators present concur;
(後
略)」
6
米国憲法第1章第8条 原文 Article1, Section8, Clause1:「The Congress shall have Power To lay and
collect Taxes, Duties, Imposts and Excises,(後略)」、Clause3「To regulate Commerce with foreign
Nations,(後略)」
-3-
府( 政 権)に対して通商交渉の目的や議会への通知、協議等にかかる様々な条
件・手続きを指し示すことで通商交渉に対する関心事項を設定し、一方政権がそ
れら諸条件を遵守・遂行した限りにおいて、議会側は通商協定の実施法案を一定
の期間で審議し、
かつ修正を行わず賛否のみの採決を行う(ファースト・トラック)
との立法手続きである。これらの仕組みを定めている法律を総称しTPA法と呼
んでいる。
ただし注意すべき点は、TPAによる議会の迅速な審議手続きは、今のところ
あくまで協定の実施法案が議会に提出されてから後のプロセスであることだ。か
つて米韓FTAは、TPAのもとで政府間署名がなされたにも関わらず、その後
の政権交代により議会の理解が得られないとして、数年にわたり協定の実施法案
提出が棚上げにされ、その間に政府間で再交渉が行われたという事態を引き起こ
した経過がある。
3.TPA・TPPをめぐる民主党と共和党
⑴ 2014 年TPA法をめぐる経過
昨年7月末、オバマ大統領は初めて公に議会にTPAを求める意向を示した。
しかしながらその後、財政問題をめぐる民主党・共和党の対立、シリア問題、医
療保険制度改革関係での技術的トラブルなど国内外に様々な政治問題を抱え、オ
バマ大統領は急速に支持率を低下させていった。
一連の政治的混乱が冷めやらぬなか、米国での首席交渉官会合の開催を前にし
た 11 月、自由貿易に懐疑的な労働組合や市民団体の支持を受ける形で下院民主
党議員の約4分の3にあたる議員がTPAに対する否定的な立場を表明した。さ
らに一般的に自由貿易志向の共和党内からも、議会の権限を制限するとして一部
の議員がTPAに反対の立場を表明した。
こうしたなか、年が明けた本年1月初旬、通商を所管する上院の財政委員会お
よび下院の歳入委員会それぞれに、新たなTPA法案(2014 年超党派議会貿易
優先法)が提出された。同法案は、上院財政委員会のボーカス委員長(民-モン
タナ:当時)とハッチ野党筆頭理事、そして下院歳入委員会のキャンプ委員長ら
が長らく協議を行い、両党・両院案として提出したものである。
だが、オバマ大統領の一般教書演説(1月 28 日)を翌日に控えた 27 日、民主
党の主要な支持基盤である労働組合、環境団体、消費者団体など 550 以上の組織
がTPA法案への反対を求める書簡を全連邦議会議員あてに送付し、TPAへの
反対姿勢を明確にした。そして翌 28 日に行われた一般教書演説では大統領はわ
ずかに「TPAに取り組む必要がある」との言及にとどまった。
この時点ですでに民主党側唯一のTPA法案共同提出者であり、同法案の強力
7
ボーカス議員は既に今期限りでの引退を表明していたが、2013年末、オバマ政権により新たに在中国
大使へ指名されることが明らかとなった。翌1月28日の上院外交委員会での公聴会を経て、2月6
日、上院本会議で正式にボーカス上院議員の在中国大使への就任が承認された。
-4-
な推進者でもあったボーカス上院議員の在中国大使への転出 7 が決定的となって
いたこともあってか、直後、上院を取り仕切るハリー・レイド上院民主党院内総
務(民-ネバダ)が 2014 年TPA法案に対して否定的な見解を示した。そして
翌2月には下院の民主党トップであるナンシー・ペロシ下院民主党院内総務(民
-カリフォルニア)も公式に同法案を否定する見解を示すに至り、この時点で中
間選挙前にTPA法案の審議が進められる可能性が事実上消えた。
⑵ 今後の交渉展開に大きく影響を及ぼしかねない中間選挙の結果
6月 20 日、オバマ大統領は年末までのTPP妥結に向け、11 月のアジア訪問
(APEC首脳会議が開催される 11 月 10 - 11 日頃のこととみられる)までに実
質的な合意を得たいとの意向を示した。仮に中間選挙まで両院において法案審議
が進まないとすれば、11 月4日の中間選挙後には、両院の所管委員会でそれぞ
れ公聴会、逐条審査会(マークアップ)、採決といった手順を踏んだうえで、本
会議での採決にこぎつけなければならないことから、少なくともAPEC首脳会
議時までにオバマ政権がTPAを手にしている可能性は無い。
次なる可能性は、中間選挙以降年末までのレームダック・セッション 8 中に
TPAを取得してTPP交渉をまとめあげるというシナリオだが、この場合は
11 月の段階ではTPA無しで大筋合意にこぎつけ、その成果をもってクリスマ
ス休暇前までの約1ヶ月で議会を説得しTPAを取得するという極めて厳しい時
間軸での作業 9 となる。ここでポイントとなるのは中間選挙の結果、どちらの党
が多数派を握るのかという点である。現時点では今年の中間選挙は民主党側に厳
しいとみられており、下院では共和党が引き続き多数派を維持するのは確実な情
勢にあると言われている一方、上院では民主党が多数派を失う可能性が指摘され
ている。
① 上院で共和党が多数派となった場合
この場合、TPAを含めTPP交渉への対応が実質的に大きく変わる可能性
がある。本稿でみてきたように、共和党は「TPPの妥結前にTPAを可決さ
せるべき」との進め方を明確にしている。だが、多数派を握る1月からの新た
な議会を前にして、わざわざレームダック・セッション中に現行のTPA法を
可決させようとするかどうかは疑問が残る。
仮に年明けに審議を進めようとする場合、現行のTPA法案は年内に可決さ
れない限り廃案となる運命にあるため、新たな議会で再度法案の提出からやり
直しとなる。ここで下院歳入委員会のキャンプ委員長は今期限りで政界を引退
することから、新たな議会では、上院財政委員会、下院歳入委員会ともに新た
8
9
レームダック・セッション:日本の選挙制度と異なり、中間選挙で落選した議員も、翌年1月に新た
な議会が招集されるまでは、議員資格を保持する仕組みとなっている。この期間を「レームダック・
セッション」と呼んでいる。
米国議会では、議案は一議会期(2年)を越えて審議されることは無いため、現在提出されている
2014年TPA法案は、年末までに可決されない限りは廃案となる。
-5-
な委員長のもとでスタートすることとなる。もちろん現行法案が再提出される
という可能性も否定はできないが、両党・両院案として調整を行った法案共同
提出者のうち2人を欠くなかでは、新たな委員長のもとで内容が見直された法
案が提出されるものとみる方が自然であろう。
いずれにしても、共和党が上下両院の多数派を握った場合、これまで民主党
大統領の下で進められてきたTPP交渉の内容をすんなり認めるとは考えにく
く、むしろ民主党との違いを明確にするためにもこれまでの交渉内容を「手ぬ
るい」と一蹴し、新たなTPAを梃子に、各国に対し一層の譲歩を求めてくる
可能性がある。
② 上院で引き続き民主党が多数派を維持した場合
この場合、現状から政治地図が大きく変わるわけではないが、年内のTPA
成立に対する疑問は時間的な制約だけではない。そもそも上院財政委員会のワ
イデン委員長(民-オレゴン)は、「ファースト・トラック」ではなく、より
透明性などを高めた「スマート・トラック」10 が必要だと述べており、少なく
とも現行法案を修正なく通そうとするとは考えにくい。さらに下院側でも歳入
委員会の民主党側の筆頭であるレビン理事(民-ミシガン)は、「TPAを設
定するにはTPP交渉は進み過ぎている」、「議会はTPAではなくTPPの中
身に焦点をあてるべき」等と主張している。ワシントンの専門家からは、選挙
が終わったからといって民主党の抱える課題が解決するわけではなく、そう簡
単にTPAの議論が進むということにはならないのではないかとの指摘もあ
る。
おわりに
これまでみてきたように、TPAは米国独特の政治体制において権限を整理するた
めに極めて重要な役割を果たしており、単に「鶏が先か卵が先か」と言った問題では
ない。特に中間選挙の結果によっては、憲法上の権限のみならずイデオロギーとして
も行政府(大統領)と立法府(議会)が完全な対立構造となる可能性があるなかでは
決定的な要素である。
さらに政治的不確定要素としては、既に中間選挙とあわせて2016年の大統領選に向
けた駆け引きも始まっている点に留意しなければならない。政治的時間軸で見れば、
来年の下半期には大統領選に向けた動きが本格化してきている可能性もあり、中間選
挙以降の議会勢力図によっては、TPAやTPP交渉の展開に影響を及ぼす可能性も
否定できない。
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ワイデン委員長の講演(2014年4月9日:上院財政委員会によるプレスリリース
http://www.finance.senate.gov/newsroom/chairman/release/?id=9b1a4ab7-59f2-4ce0-87454022726b0e70)
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先日、豪州のロブ貿易・投資大臣は、「今年中の妥結は難しい」、「来年上半期に機
会がある」と述べたと報じられているが、こうした複雑な政治情勢が一定見通せるよ
うになるまでは動くタイミングにはないということを示唆しているように思われる。
米国通商代表部は、当然今後想定されるあらゆる政治的可能性を頭に入れながら交
渉を進めているだろう。中間選挙前に詰めるだけ詰めておいて、その後政治状況が一
変したらそこを再出発点としてさらに猛プッシュをかける用意があると見たほうが自
然だ。オバマ政権は、あえて十分な議会日程が見込まれないなかで11月との日程を示
し、各国の譲歩を誘っている可能性すらある。
だが本稿でみてきたように、11月の中間選挙で上下両院とも共和党が制することと
なれば、TPA法案を含め、これまでの交渉内容すら一から再吟味されるおそれがあ
る。これは、日本のみならず、各国の共通認識となっているのではないか。そうであ
るとすれば、今後の米国の政治的展望が明らかになるまではどの国も、政治的な決断
を要する譲歩を行おうとはしないと考えるのが順当である。7月にカナダ・オタワで
首席交渉官会合が開催されるが、わが国だけが、他国が追随しない譲歩を行うことは
あり得ないと言えるのではないだろうか。
以 上
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