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予測の話し - 立教大学

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予測の話し - 立教大学
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
予測の話し
1
福祉ニーズの予測
(1)福祉ニーズ予測の困難
社会福祉事業の計画では、事業のターゲットとなる集団の将来の大きさを予測して、目
標を立てたり対策を考案することになる。老人介護施策の 10 年計画を立案するには、10
年後に要介護高齢者が何人になるかを予測しなければならない。同じ様に、保育所整備計
画を立てるには、目標年次に要保育児童が何人いるかを予測することになる。そうでなけ
でば、計画書の記述は「老人介護施策を一層充実する云々」といった表現が多用される曖
昧なものになりかねない。
ところで、人口や経済指標のように、長い年月にわたって定期的に計測された数量的デ
ータの系列、すなわち時系列データが確保されている分野では、多様な統計的方法を利用
できる。しかし、福祉ニーズの時系列データは皆無に近い。このため、予測の方法も制限
される。
既存統計を利用したニーズ予測を考えてみると、なかなか難しい面がある。老人福祉で
は 65 歳以上の者、保育では6歳未満児を対象にすると決めて、
『国勢調査』
(総務庁統計局)
に基づいて政府が発表する『将来人口推計』
(厚生省人口問題研究所)をみると、該当する
年齢集団の将来の推計数が示されている。これによって、当該年齢集団が将来増加傾向に
あるのか減少傾向にあるのかをつかむことができる。つまり、問題状況のきわめて大まか
な診断は可能である。それらは、福祉ニーズを一定の確率で持つ可能性のある集団という
意味でリスク集団(population at risk)と呼ぶが、その集団に属するすべての人が福祉ニ
ーズを持つわけではない。ましてや、貧困問題や障害者問題のように年齢と関係なくニー
ズが現れる施策分野では、年齢別人口推計からリスク集団の大きさをつかむことはできな
いから、人口推計がどのように役に立つのかさえ判然としないのである。
(2)福祉ニーズの発生率
福祉ニーズをもつ集団(population at need)が人口の何パーセントを占めるのかを表す
発生率(prevalence rate)がわかっていれば、将来も現状と同じ発生率が続くと仮定して、
将来の推計人口にその率を掛けて予測数を割り出すことができる。
『国民生活基礎調査』
(厚
生省統計情報部)では、65 歳以上の寝たきり者数の全国推計値が発表されているから、こ
の数を『国勢調査』の 65 歳以上人口で割れば発生率が求められる。しかし、介護ニーズを
もつのは寝たきり者だけではないとすると、これもまた不十分である。しかも、同調査の
計数は全国値であるから、地域福祉計画の策定では、すべての地域のニーズ発生率が全国
値と同じと仮定して推計せざるをえない。既存統計を利用した予測は、該当するデータが
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
得られたにしても仮定のうえに仮定を重ねたものにならざるをえない。
次に利用できる既存統計として、
『社会福祉行政業務報告』
(厚生省統計情報部)がある。
これは、ホームヘルパー利用人員の統計など、地方自治体が実施した社会福祉行政の1年
間の実績のうち、厚生省の指定する調査項目を集計したものである。ホームヘルプを必要
とする者全員がサービスを利用できたと仮定すれば、利用者数を人口で割ればニーズ発生
率が求められる。しかし、必要でありながらサービスを利用していない不充足ニーズ(unmet
needs)のあることが明らかな場合は、その率をもってニーズ発生率とすることはできない。
同統計には、身体障害者手帳の交付者数という数字もある。これを人口で割ると、身体障
害者の発生率が求められそうだが、身体障害者手帳の交付を受けていない障害者が数多く
存在するともいわれており、これも適切な情報とはいえないことになる。
結局は、計画のねらいにかなったニーズ発生率を既存統計から割り出すことは難しく、
独自に社会調査を実施しなければならないことが多い。
(3)スクリーニング調査
①標本調査
ニーズの出現率を知るには、人口の中からニーズをもつ者をスクリーニン
グしなければならない。人口規模の小さな自治体であれば、住民の悉皆調査を行ってニー
ズ集団を割り出すことも不可能ではないだろう。しかし、人口が数万、数十万に及ぶ規模
の大きい自治体では人口全体のなかから一部を取り出して行う調査、すなわち、標本調査
に頼らざるを得ない。標本は母集団を代表し、かつ、誤差の計算が可能なものでなければ
意味がない。そのためには、無作為抽出法などの確率抽出法によって標本抽出(サンプリ
ング)を行う必要がある。標本を大きくすれば誤差も小さくなるが、誤差を半分にするに
は標本の大きさを4倍にする必要がある。標本の大きさは費用と効果の見合いで決めるべ
きであり、むやみに大きくすればよいといったものでもない。また、母集団からの抽出率
よりも標本の大きさの方が誤差に与える影響は強い。したがって、一概に抽出率の高い方
が誤差が小さいとはいえない。
②特異性と感度
スクリーニングに用いる調査項目にどの程度のニーズ選別能力がある
かは極めて重要な問題である。ニーズのないものを除外する能力を特異性(selectivity)
といい、ニーズのある者を選びだす能力を感度ないし感受性(sensitivity)という。一つの
指標でこの2つの特性を両立することはなかなか難しく、特異性を上げれば感度は下がり
やすい。痴呆性老人を選びだそうとして、家族に「○○さんは、最近、物忘れが多いです
か」といった質問をしてみる。この質問は「物忘れが多くない」者を除外できるが、残っ
た者のうち老化による記憶力の低下と病気としての痴呆の区別がつかない。ニーズのない
ものを除外するという意味では特異性の高い指標であるが、選びだされた人々全員にニー
ズがあるかというと、正常老化の人を多く含むのだから、感度は低いわけである。
一つの指標で特異度と感度を兼ね備えることが難しい場合は、特異性を重視した簡単な
指標で第1次的にスクリーニングを行い、その結果選びだされた集団に対して第2次調査
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
を実施して感度の高い詳細な調査項目によってニーズ把握を行う方がよい。こうした方法
については9章を参照されたい。
ニーズ発生率が時系列データとして確保されていれば、変化の傾向が把握できる。その
ためにはスクリーニング調査を定期的に実施する必要がある。しかし、現実にはそうした
ことが行われるのはまれであり、現在の発生率が将来も変わらないものとして将来推計人
口に掛け算するのが一般である。そこで、次に将来人口の推計方法を学ぶことにしたい。
2
人口の予測
厚生省人口問題研究所が発表している将来推計人口は、国全体のものと都道府県のもの
があるだけだから、市町村の人口については、独自に推計しなければならない。将来人口
の予測では、時系列データのトレンドに回帰式やロジスティック曲線などをあてはめて、
シミュレーションを行う方法もあるが、一般にはコーホート要因法ないしそれを簡便化し
たセンサス変化率法が用いられる。この2つをまとめてコーホート法という。この方法は、
年齢別ないし年齢階級別の人口推計を行うのに便利な方法である。総人口の推計値は、年
齢別ないし年齢階級別の推計人口の総和として求められる。くわしくは、
《参考文献5》を
参照されたい。
(1)コーホート法
同じ年に生まれた人口集団を出生コーホートという。または、年齢が同じであることか
ら年齢コーホートとも呼ぶ。必ずしも 1 歳刻みの年齢集団である必要はなく、例えば5歳
刻みのような一定幅の年齢階級に属する人口であってもよい。
人口変化の背景には、農業技術の革新による食料増産とか、家族計画法の普及による人
口抑制のような要因、さらにはさまざまな社会経済文化的要因が絡んでいるわけである。
しかし、コーホート法では、そのような究極の原因を考慮するのではなく、人口変動と直
接の関りをもつ出生、死亡、移動のデータを用いて推計する。コーホートの年齢は、5年
後には5歳、10 年後には 10 歳というように年齢が上昇していく。年齢階級では、0∼4
歳人口は、5年後には5∼9歳人口になる。年齢が上昇する間には、途中で死亡するもの
や、他地域へ転出するものもある。反対に、他地域から転入するものもある。コーホート
法では、このように、年齢の上昇とともに発生する人口の変化要因に着目して将来推計を
行うのである。
コーホート法には、コーホート要因法とそれを簡便化したセンサス変化率法の2つがあ
る。例えば、「20∼24 歳」人口が5年後に「25∼29 歳」人口になる過程を細かくみると、
コーホート要因法では、『地域別生命表』(厚生省統計情報部)からこの年齢階級の生残率
(1−死亡率)を明らかにし、それを「20∼24 歳」人口に掛けて5年後の生残り人口を求
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
める。次に、その生残り人口に純移動率(転入率−転出率)を掛けて5年後の人口を求める
という2段階の手順になる。センサス変化率法では、各コーホートの過去の変化率が将来
も続くものと仮定して、その率を基準年の人口に掛けて将来数を求めている。つまり、セ
ンサス変化率には死亡と移動が合計されている。
『地域別生命表』は都道府県別しか発表さ
れていないから、市町村の人口推計を行うためには生残率や移動率を用いるとしてもその
属する都道府県のデータで代用するか、国勢調査データのみを使って実行できるセンサス
変化率法を用いるのである。
(2)コーホート法の手順
ここでは、5年後の人口を推計する場合の手順を説明することにしたい。作業は、パソ
コンの表計算ソフトを使うと便利である。
①年齢不詳の按分
『国勢調査』から基準となる年とその5年前の年齢階級別男女別人
口を求める。
『国勢調査』では、年齢不詳となっている人口があるが、これをそのままにし
ておくとその分が推計不能になるので、年齢不詳人口を補正係数により各年齢階級人口に
按分する。補正係数は、男女別人口総数÷(男女別人口総数−男女別年齢不詳人口)によ
り求められるので、これを男女それぞれの年齢階級別人口に掛けることで按分される。
②出生児数
5年後に0歳から4歳となるまだ生まれていない人口の予測は、女子の年
齢別出生率を用いる場合と、婦人子ども比を用いる場合がある。婦人子ども比は、出生数
の統計が得られない場合や、その信頼性が乏しい場合に用いられるもので、一般に 15 歳か
ら 49 歳の女子人口に対する0歳人口または0∼4歳人口の比によって表す。女子の年齢別
出生頻度の高い 25∼34 歳人口に分母を限定することもある。
こうして予測される出生数を男女に振り分けるためには、0∼4歳児の子ども性比(女
子に対する男子の率)を用いて、出生数を(1+子ども性比)で割れば女子の数が得られ
る。男子はその残りとなる。
③生残率
すでに生まれている人口の将来推計は死亡と移動を考えればよい。
『地域別生
命表』に記載されている定常人口(静止人口ともいう)から男女別5歳階級別の生残率を
計算する。例えば、0∼4歳人口が5年後に5∼9歳人口になる生残率は、生命表の5∼
9歳定常人口を0∼4歳の定常人口で割ることにより求められる。ただし、最後の年齢階
級である 80 歳以上が 85 歳以上となる生残率については、85 歳以上定常人口を 80∼84 歳
定常人口と 85 歳以上定常人口の和で割り算して求めることになる。
④純移動率
出生死亡のみよって変化すると仮定した人口を封鎖人口という。封鎖人口
と実際人口が一致しない場合、その不一致分は移動によるものである。したがって、5年
前のコーホートに生残率を掛けて封鎖人口を求め、これと基準年の実際人口との差である
純移動数(実際人口−封鎖人口)を5年前のコーホートの実際人口で割ると純移動率が求
められる。
⑤将来推計人口の計算
生残率と純移動率を足したものを人口変化率として、これを年
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齢階級別に求める。人口変化率と階級別人口を掛け合わせて5年後の1階級上の階級の予
測数とする。これを、すべての階級で計算し、それを合計して総人口の予測数を求める。
なお、センサス変化率法では、上記の③生残率と④純移動率の代わりにセンサス変化率を
用いることはすでに述べた通りである。
同様の計算方法を繰り返せば、10 年後、15 年後、20 年後とというように5年間隔の人
口推計を続けて行うことが可能である。ただし、手順からもわかるように、生残率、純移
動率、婦人子ども比および男女児性比が将来も変わらないものと仮定した予測方法なので、
新しい『国勢調査』が出るたびに修正しなければ、現実と予測値には大きな落差が発生す
る。また、市町村のなかには、新しい地域開発計画によって従来のパターンと違った人口
移動を見込むことができる場合には、関連する年齢階級の純移動率をやや高めに設定する
といったシミュレーションを行うことも意義あることである。
3
社会福祉資源の予測
(1)時系列分析
福祉ニーズと違って、社会福祉資源については『社会福祉行政業務報告』の他に『社会
福祉施設調査』(厚生省統計情報部)や『財政統計』(大蔵省主計局)や『地方財政統計年
報』
(自治省)など行政官庁による調査が比較的よく行われており、長期にわたる統計数値
の把握が可能である。地方自治体においても、業務統計が毎月あるいは毎年取りまとめら
れている 。数年、数十年にわたる統計を時間の順序に並べたものを時系列データ(time
series data)という。時系列に安定的な変動パターンがみいだされた場合、それが同じ形
で将来も変動しつづけるものと考えて引き伸ばしてみる(外挿シミュレーション)予測の
方法がある。本節では時系列分析の大まかな概要を述べるだけであり、《参考文献1、4》
を参照されるよう希望する。なお、本節のタイトルは「社会福祉資源の予測」としたが、
福祉ニーズであっても人口であっても、時系列データが存在すれば同じ方法を適用できる。
時系列を構成する統計数字には観察結果のなまの数字の場合もあれば、比率や平均値の
ように、それから計算された数字の場合もある。いずれにしても、時系列分析の目的は系
列を構成する統計数字の時間的変化の観察であるから、各項は互いに比較できる性質のも
のでなければならない。すなわち、各項の数字が同じ定義と同じ方法で調査されたもので
あること、また、同じ間隔の数字であることが必要である。
時系列を分析するときは、まず最初にグラフを描いてみて、そのグラフの形から適当な
分析方法の見当をつけることが大事である。時系列のグラフは横軸に時間、縦軸に系列の
数字をとって折れ線グラフを描くのが普通である。縦軸の目盛りには普通目盛りと対数目
盛りの2種類が使われる。普通目盛は等間隔等差であるが、対数目盛りは等間隔等比の目
盛りであり、数が大きくても小さくても、同じ倍率は対数ではいつも等差で示される。対
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
数グラフでは、毎年同じ割合で数が大きくなる系列は右上がりの直線の形になる。変化の
割合をみるのが目的の場合とか、長期にわたって大幅に変化している時系列をグラフに描
くときや、絶対値に大きな開きのあるいくつかの系列の変化を同じグラフで比較するとき
などには、対数目盛りが多く使われる。なお、対数目盛りの用紙は市販されている。
(2)時系列変化の構造
時系列の変化は、いくつかの性質の違った変化が重なり合ってできているものと考えら
れており、図1に示すように、通常次の4つの要素変動に分けられる。
①傾向変動(トレンド) これは、長期にわたって連続的に上昇の方向に変化するとか、
逆に下降の方向に変化するといった規則的な変化。
②循環変動(サイクル)
景気変動のように上昇、下降を繰り返す変動で、周期はかな
らずしも一定しない。1循環の長さは、普通数ヵ年である。
③季節変動
1年周期で繰り返す規則的な変動。1ヵ月、1週間などの一定周期の変動
も季節変動に準じて考えられる。例えば、生活保護の被保護人員の月次統計には、季節変
動が認められる。
④不規則変動
上記三つの型の変動のほかに取り残された変動部分。突発的な原因によ
る不時の変化とか、原因を明瞭に定めることのできない小規模の不規則な変動である。
現実に観察されるのは全体としての変化があるだけだが、分析の便宜上、このような要
素変動に分けるのである。これら4つの変動要因の関係は2つの構造モデルに区分される。
すなわち、加法モデルと比例モデルであり、
加法モデルは、
時系列=傾向変動+循環変動+季節変動+不規則変動
で示され、4つの要素変動の和として時系列を仮定している。
図1
時系列変動のモデル(加法モデル)
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
森田優三・久次智雄『新統計概論・改訂版』日本評論社, 1993 年, p.106 より引用
比例モデルは、
時系列=傾向変動×循環変動×季節変動×不規則変動
で示され、4つの要素変動の積として時系列を仮定している。
どちらのモデルでも変動の中心は傾向変動である。加法モデルではすべての要素は時系
列と同単位の変数であるが、比例モデルでは傾向変動だけが時系列と同単位で、他の要素
は傾向変動に対する比率として表される。循環変動や季節変動のような上下運動の振幅は
傾向変動の高さに比例することが多く、一般論としては比例モデルが適当である。なお、
年次系列では季節変動を考慮する必要がなく、また、小規模の不規則変動も無視して扱う
ので、傾向変動と循環変動のみの簡単なモデルになる。
(3)移動平均法
傾向変動は時系列の長期間にわたる基本的な変化の方向を示す部分である。原系列から
傾向変動部分を取り出す方法には、大別して①移動平均法と②最小2乗法による傾向線の
あてはめがある。どちらも、パソコンの表計算プログラムを使うと簡単に実施できる。
移動平均法を理解するには、まず、期間別平均を考えてみるとよい。時系列の項をいく
つかの期間に分けて、期間ごとの平均値を時系列グラフの各期間の中央に打点し、その点
を連結してみると、時系列変化の大きな形がわかるだろう。しかし、それだとわずかな数
の平均値しか得られない。そこで、期間別平均の計算期間を部分的に重ねあわせながら順
次移動させて平均値を計算するのが移動平均法である。
例えば、児童相談所の相談件数を 1960 年から 1995 年の 35 年間について検討する場合に、
最初に 1960 年から 1964 年までの5年間の平均値をとって 1962 年の値とする。次に、1961
年から 1966 年までの平均値をとって 1963 年の値とする。以後順次、5年分の平均を1年
ずつ期間をずらしながら計算する。これを5項移動平均という。このようにすると、年に
よる細かな変動を無視して長期間の大きな変化の方向を明らかにできる。
移動平均の計算を行う項数の決めかたには特別の規則はないが、奇数であれば期間の中
央に対応項存在するので便利である。また、原系列の短期変動に明瞭な一定周期がみられ
るときは、その周期を移動平均の項数に選ぶと、短期変動を除去できて便利である。
(4)最小2乗法による傾向線のあてはめ
図2
主な傾向線の型
(1)直
線
(2)2次曲線
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
(3)指数曲線
(3)ロジスティック曲線
傾向変動は時系列の基本的変動方向を示す線であるから、一般に単純な形をしていて、
簡単な関数式で示すことのできる場合が多い。傾向変動の線として計算に使われる主な数
学曲線には、傾向変動を T、時間を t とした次の関数がある。
①直線(T = a + bt)
長期変動が毎年同じ速さで増加または減少している場合。
②2次曲線(T = a + bt + ct2)
変化の方向が最初増加で後減少に転ずるか、逆に最初
減少で後増加に変わる場合。
③指数曲線(T = abt, または logT = A + Bt)
複利曲線ともいい、長期変動が毎年同じ
割合で増加または減少する場合。
1
④ロジスティック曲線(T = -----------)
増加率が次第に減少して一定の極限値に接
a + bct
近していく場合。
これらの曲線の典型的な形は、図2のとおりである。グラフの変化がこのうちどの型に
あてはまるかをみて、時間を独立変数として最小2乗法により曲線のパラメータである a
や b や c の値を求め曲線の数式を決定する。式の形が決まったら、時間 t に予測期間の時
間変数の値を代入して傾向変動 T の値を求めることにより、予測が行われる。短期間の傾
向分析では一番簡単な直線傾向線で間に合うことが多い。また、長期にわたる成長過程で、
初期発展の段階から躍進過程を経て、安定ないし飽和状態につづく全過程を含む系列の場
合は、ロジスティック曲線が適当である。
最小2乗法とは、あてはめようとする曲線と原系列との差の2乗の総和が最小になるよ
うにパラメータを定める方法であり、一般の回帰分析と同じであるので、どの統計学の教
科書でも解説されている。また、パソコンの表計算ソフトには、こうした曲線のあてはめ
機能が内蔵されている。
(5)循環変動(サイクル)
年次系列では、小規模の不規則変動は無視してよいし、季節変動を考える必要がない。
したがって、加法モデルの場合は時系列から傾向変動を引き算すれば循環変動が求められ
る。循環変動が傾向変動の上方に現れるか下方に現れるかによって、性または負の値とな
る。比例をモデルを採用した場合は、時系列の数字を傾向変動で割れば循環変動が分離さ
れる。このとき循環変動は傾向線に対する比率の形、通常傾向線を 100 とする指数の形で
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
表される。
関数式に時間変数を代入して将来に延長した傾向値に、加法モデルの場合は循環変動を
加え、比率モデルの場合は循環変動を掛け合わせることで将来予測を行うことができる。
この方法を社会福祉財政の予測に適用した事例として《参考文献2》を参照されたい。そ
こでは、国の社会福祉費が 1960 年度から 1980 年度まで指数曲線トレンドにしたがって成
長しながらも、その回りで 10 年ないし 12 年周期のサイクルを描いていることが示されて
いる。
4
未来への想像力
(1)予測の総合性
統計的な方法を用いた予測では、活用できる数量的データが存在する分野に予測の対象
が限定される。定量的な予測にばかりこだわると、福祉ニーズにしても、発生率が既知の
ものばかりが予測されて、発生率が未知のものはもちろんのこと、将来現れるかもしれな
い新しい重要なニーズを予測する余地がなくなってしまうし、社会福祉をとりまく環境の
大きな変動を見過ごすことになりかねない。
予測は往々にして過去からのトレンドの延長になる傾向がある。しかし、長期予測にお
いては、過去のトレンドの延長を考えるばかりではなく、変化や新しい傾向の出現を考え
た想像力に富むアプローチが求められる。それは、定量的に予測可能であることばかりを
重視するのではなく、定性的な見通しも含めて総合的に将来社会の姿を眺望するというこ
とでもある。こうした課題に対するアプローチとして、シナリオ・ライティング、デルフ
ァイ法およびクロス・インパクト法などさまざまな方法が提案されている。詳しくは《参
考文献3、7》を参照されたい。
(2)シナリオ・ライティング
シナリオとは、将来の環境を描写したものであるが、主観的な言葉による描写から、複
雑な動態的モデルによるものまでいろいろな種類のものを含む。シナリオ作成の重要な特
徴は、複数のシナリオを考えることである。不確実な将来を予測するのにたった1つのシ
ナリオに賭けるというのは不合理であり、実際には3つのシナリオを作るのが普通である。
基本となるシナリオは、現在のトレンドが大きな乱れなしに将来まで維持されたらどうな
るかというシナリオである。これを「平穏シナリオ(surprise-free scenario)」という。
平穏シナリオを出発点として、より急激に変化するシナリオとより緩やかに変化するシナ
リオといった具合に、平穏シナリオの両サイドに代替シナリオを設定して、最終的な結果
はある幅の間で実現すると期待するのである。平穏シナリオを作成するには時系列の傾向
分析を用いることができるし、代替シナリオの条件の設定にはデルファイ法を用いること
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
ができるし、クロス・インパクト法を用いた分析も有効である。
(3)デルファイ法
デルファイ法では、10 人ないし 30 人程度の有識者・専門家のパネルに対して、例えば
未来の社会福祉の姿について匿名を原則にアンケート調査を実施する。その集計結果をパ
ネルの人々に提示したうえで、アンケートを反復して実施することによって、意見の集約
を行う。ちなみに、デルファイ法の名前は、古代ギリシアのアポロ神殿のあった地デルフ
ァイにちなんで名付けられた。こうした手法を用いる理由は、委員会、専門家パネルその
他のグループによる意見集約過程で、一人あるいは少人数の意見が支配してしまうこと、
大勢に従う圧力が働くこと、意見対立が個人間の敵対感情に発展することが多いこと、上
位の者に対して公然と反対しがたいことなどの、冷静な議論にとって好ましくない問題点
を解決するためである。
デルファイ法は、未来予測ばかりでなく、意見の食い違う問題についてコンセンサスを
求める方法としても用いられる。また、グループ討議を活用した方法にはノミナル・グル
ープ法、フォーカス・グループ法、ブレイン・ストーミングなど多様な方法があるので、
状況にあわせて組み合わせて用いてもよい。
(4)クロス・インパクト法
ところで、在宅福祉サービスの将来の動向を過去の傾向から推し量る場合に、施設福祉
サービスの動向がどのような影響を与えるかを考慮する必要がある。また、在宅福祉サー
ビスの内部でもサービスの種類別の相互関係を考慮しなけばらなない。さらに、財政動向
がこれらすべての関係にどういった影響を与えるかといった問題がある。つまり、Aとい
う事象が発生したらBという事象は発生しなくなるのか、それとも一層促進されるのかと
いう問題である。また、目的間には一方を達成すれば、他方は達成できないといったトレ
ード・オフの関係もある。社会福祉の将来に影響を及ぼす変数は極めて多数のものがある
わけであり、これらを交通整理しなくては総合的な予測は不可能である。こうした交通整
理のための方法が、クロス・インパクト法である。この方法では、予測に関連する変数の
マトリックスを作成し、それらの生起確率をもとに、予測される複数の項目間に存在する
可能性のある相互促進的あるいは相互排他的な関係が分析される。
【演習問題】
1
市町村老人保健福祉計画では、予測の問題がどのように取り扱われたか、数ヵ所を調
査してレポートせよ。
2
身体障害者のリハビリテーションに対する 10 年後のニーズを予測する研究計画を立
案せよ。また、その研究計画のもつ限界を明らかにせよ。
3
自分の居住する市区町村の男女別年齢5歳階級別人口を 1990 年を基準年として5年
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科社会福祉学専攻特殊研究2
後
および10年後について予測せよ。また、予測結果の誤差を 1995 年国勢調査結果
と比
較して検討せよ。
4
過去 30 年間の国の社会福祉予算の年次系列を調べ、普通目盛りのグラフと対数目
盛
5
りのグラフをかき、どのような傾向線がよくあてはまるか検討せよ。
社会福祉計画にかかわる予測を総合的に行う場合の留意点を、具体例を設定して説明
し、活用できる技法を述べよ。
《参考文献》
1
仮谷太一『予測の知識』初等情報処理講座4, 森北出版, 1971 年
2
坂田周一「社会福祉財政の予測」(社会保障研究所編『社会福祉改革論Ⅰ』東京大学
出版会, 1984 年)
3
宮川公男『政策科学の基礎』東洋経済新報社, 1994 年
4
森田優三・久次智雄『新統計概論・改訂版』日本評論社, 1993 年
5
「市町村将来人口の推計について」(『老人保健福祉計画策定マニュアル』中央法
規,1993 年)
6
Molnar, D. and Kammerud M., Developing Priorities for Improving the Urban Social
Environment: A Use of Delphi, in Gilbert, N. and Spect, H., Planning for
Social Welfare,
7
Prentice-Hall, Inc., 1977, pp. 324-332.
Sage
Witkin, B. R. and Aistschuld, J. W. Planning and Conducting Needs Assessments,
Publications, Inc., 1995.
坂田周一
11
Fly UP