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鋼構造骨組の局部座屈挙動を予測する部材要素モデルの開発

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鋼構造骨組の局部座屈挙動を予測する部材要素モデルの開発
鋼構造骨組の局部座屈挙動を予測する部材要素モデルの開発
久家 明子
1. 序
鋼構造骨組では部材の局部座屈が早期の耐力劣化及
び骨組の不安定をもたらす原因の一つとなる.本研究
では角形及びH形断面部材と骨組の局部座屈挙動を表
現できる部材要素モデルを開発することを目的とした.
解析方法はファイバーモデルを用いた梁柱一次元有
限要素解析で詳細は文献1)に譲る.
解析モデルを図1に
 8.7

=
− 1.2 ⋅
 e

bu
b
= −0.014 ⋅
素モデル長さは全て断面せいに等しいとした.断面の
− 0.005
(3)
+ 0.81
(4)
降伏歪,k:全塑性状態においてウェブの中で圧縮を受
ける部分の面積の,
ウェブ断面積に対する割合である.
H 形断面部材の場合:
2
 b
=  ⋅
t
f
(5)
y
2
bu
部分を順次消費していくものとする.但しバウシン
ガー部分の取扱いとスケルトン部分の移動量は大井等
e
(2)
y
ここで, e:基準化幅厚比,B:断面幅,t:管厚, y:
分割はフランジ部分を1,ウェブ部分を6とした.応力
歪関係の繰返し則は図2の秋山等に従い,スケルトン
e
Rspm = −0.079
示す.局部座屈後の挙動では材長分割の方法によって
解析結果に影響が出るので,ここでは塑性域部分の要
2
 k ⋅ d
=
 ⋅ y
 tw 
 0.5 5.7

+
− 4.0 ⋅
= max 
 f
w

(6)
w
2
− 0.0046 ⋅
 0.18
y, 

2
+
2.6
f
w

+ 0.3 ⋅


y

(7)
(8)
− 0.0005
= −0.57 ⋅
f
に従うこととする.
局部座屈は山田等2)の提案に従って
Rspm = −0.56
f
スケルトン部分で考慮する.そのモデルを図3に示す.
ここで, f , w:フランジ及びウェブの基準化幅厚比,
歪が
に達したとき局部座屈する.局部座屈後の劣化
bu
は2本の直線で表される.
b
− 0.062
w
w
(9)
+ 0.98
B:断面幅,D:断面せい,tf:フランジ板厚,tw:ウェ
ブ板厚,b=B/2,d:ウェブ内法長さである.
2.既存の予測式
3. 角形断面部材
山田等2)は既往の短柱圧縮試験の結果より局部座屈挙
山田等の予測式を利用して,津田等 3) が行った角形
動をモデル化する実験式を提案した.局部座屈発生歪
断面部材の試験に対する解析(単調15体,繰返し6体)
bu
=
0
⋅
で除した値を歪塑性率
y
y と表す.歪が
と定義し,
0
の時の応力を座屈応力
bu
bu
と定義する.鋼材の種類によらず第二劣化勾配 bE は 0.005Eとしている.モデルは,局部座屈発生点の歪
第一劣化勾配係数 b,第二劣化開始点の応力
応力
bu
,
bu
を座屈
ps
で除した値 Rspm で決定される.これらは以下の
を行い,適用可能性を検討した.試験体図面(図3)と代
表的な試験体の諸元(表1)を示す.表中の y は降伏応力
で,
4. H形断面部材の局部座屈に関する予測式
文献4)において山田等の予測式を利用してH形断面
表 1 角形断面部材繰返し載荷試験体の諸元
B/t B(cm) t(cm) n σy(t/cm2) σu(t/cm2)
331C
0.1
333C 33.3 15.0 0.45 0.3
4.49
5.12
335C
0.45
角形断面部材の場合:
H
e
=
1+ k 2  B  2
⋅
⋅
2  t
P
(1)
y
σ
a part of skeleton curve
p
p
skeleton
curve
ε
図1 解析モデル
は引張強さである.図5に解析結果と実験結果
を示す.解析結果は実験結果によく一致している.
式によって表される.
u
P
σbu σ
σy
σps
bE
H
b2E
E
Rspm= ps/ bu 0
unloading and
Bauschinger curve
図2鋼材の履歴則
εbu
εbu'
y× 0
図3スケルトンモデル
36-1
ε
Hinge
L=75cm
bu
を降伏歪
B
t
B
固定端
図4角形断面試験体図面
曲げ部材の実験結果を解析した結果,局部座屈発生時
した.ここで,歪塑性率の予測式を示すために,基準
期が早すぎる傾向にあった.これは山田等の予測式が
化幅厚比を次式で表す.
2
曲げ試験でなく短柱圧縮試験に基づいているためと考
えられる.従って,本研究では,曲げを受けるH形断
f
 b
=  ⋅
 tf 
2
y
 d
 ⋅
 tw 
,w =
式中の y は降伏歪である.以下にf 0 と w 0 の式を示す.
面部材の局部座屈を表現できるような式を提案する.
f<0.16かつ
ここで提案する式は, bu, b,Rspm の3種類である.本
=w
<1.0の場合:
1
1
+
=
wY w
fY f
w
研究では,三谷5) の曲げ試験結果に基づいて求める.試
f
験体には一定軸力及び水平力を載荷させている.フラ
その他の場合:
0.56
0.7
f 0 = Y + Y
f
f
w
w
0.2
4
w 0 = Y + Y
f
f
w
w
ンジ幅厚比は8∼16,ウェブ幅厚比は17∼30,軸力比
は0.0,0.3,0.6である.
4.1 局部座屈発生歪
局部座屈発生歪
bu
= min[ f
0
⋅
bu
bu
は以下の式により求めるとする.
,
y w
0
⋅
y
計算した
た三谷等に従った.ウェブは急に耐力が低下した点と
-1.0
-1.0
-1.0
の値を図6に
f 0
5
5
10
15
(新提案式)
(a) フランジ
f
20
0
20
(実験値)
-1.0
0
10
15
10
5
-0.5
-0.5
≤ 1.25]
15
3.0
0.0
0.0
w
w 0
0.5
M/Mpc
0.5
M/Mpc
1.0
の値と実験結果から求めた
00
-1.5
-1.5
-3.0 -1.5 0.0 1.5
-3.0 -1.5 0.0 1.5 3.0
θ/ θ pc
/
θ θ pc
(a)333C解析(既存) (b)333C実験
1.5
1.5
1.0
≤ 0.35] ,[0.3≤
20
-0.5
-0.5
(14)
示す.
0.0
0.0
0
(実験値)
0.5
M/Mpc
0.5
M/Mpc
1.0
(13)
ンジ降伏比,wY:ウェブ降伏比である.
(12)∼(14)式から
値の比が1.5以上になった点または歪が反転した点とし
1.0
f
(12)
tw:ウェブ板厚,b=B/2,d:ウェブ内法長さ,fY:フラ
フランジの局部座屈発生点は,表と裏のゲージの測定
1.5
0
ここで,B:断面幅,D:断面せい,tf:フランジ板厚,
f 0:フランジ歪塑性率,w 0:ウェブ歪塑性率
1.5
0
適用範囲:[0.09 ≤
(10)
]
(11)
y
00
-1.5
-1.5
-3.0 -1.5 0.0 1.5
-3.0 -1.5 0.0 1.5 3.0
θ/ θ pc
θ/ θ pc
(c)336C解析(既存) (d)336C実験
図5角形断面部材モーメント回転角関係
3.0
5
10
15
(新提案式)
20
w 0
(b) ウェブ
図6 (12)∼(14)式の計算値と実験値の比較
D
2b
反曲点
(b)フランジ
Lb
1
2
3
4
N2
1
u
N3
3
2
L
N
6 5
4
3
2
1
N1
N2
(a)
(c)ウェブ
(a)概形
図7局部座屈変形
N3
N4
4
B/8
tf
tf
lb
lb/2
N4
lb'=lb/2
N1
N
反曲点 反曲点を
ピン支点と考える
ことができる
(b)
(a)
図8フランジの分割
36-2
図9棒材の変形
(b)
4.2 第一劣化勾配 bE
本研究で仮定したH形断面部材の局部座屈発生状態
4.3 第二劣化開始点の応力を座屈応力で除した値 Rspm
を図7に示す.水平力が作用し,フランジの縦線部分
フランジ部分の Rspm は(23)式で表される.
が局部座屈し,網掛け部分は塑性域に入っても耐力が
フランジの bE は(15)式で表される.
b
E=
(15)
但し,
'= 0.026 − 0.008⋅ b /t f
(17)
b”=0.015(SM520から)
(18)
(24)
y
(25)
bu
の代わりに
y
を用いて計算をした.Rspm’ と
Rspm’は図12(a)に示した近似直線である.Rspm”は局部座
(16)
b”=0.005(SN490まで)
(23)
Rspm” は図7(b)の縦線部分と網掛け部分の Rspm を表す.
り, b” は黒い部分の劣化勾配係数である.
b
Rspm '+Rspm "
bu
(15)式中の b’ は図7(b)の縦線部分の劣化勾配係数であ
(22)
2
Rspm '= 0.701− 0.016⋅ b /t f
b "×E × 0.015 +
Rspm "=
座屈するとした.
'+ b "
E
2
= 0.022 − 0.003⋅ d / tw
Rspm =
劣化しないとした.ウェブについては縦線部分が局部
b
b
屈を無視した場合の値である.
ウェブ部分の Rspm は(26)式で求まる.
Rspm = 0.665 − 0.013⋅ d /tw
である.b:フランジ半幅,t:フランジ板厚である.
(16)
f
(26)
(23)式はフランジのRspm’ と同様にして求めた.図12(b)
式の導き方を以下に述べる.図8 に示す様に局部座屈
に示したこの近似直線を示す.
するフランジ半幅を4等分し,それぞれを圧縮力を受
5.H形断面部材
ける棒材と考える.局部座屈する部分の軸力N はそれ
本提案式の適用可能性を調べるためにH形断面部材
ぞれの棒材に作用する軸力の和である.但し図8(b)の
の解析を行い,その結果を実験結果及び山田等の予測
N4は断面耐力とした.棒材は断面が tf ×B/8 の矩形断
式を利用した解析結果と比較した.表 2 には解析を
面であり,材長を lb' とする.一つの棒材は図9のよう
行った全てのH形断面部材及び骨組の諸元をまとめた.
に湾曲すると考えられる.反曲点から反曲点までの距
短柱圧縮試験を106体,単調曲げ試験を41体,繰返し
離はlb/2であり,反曲点をピン支点と考えることができ
曲げ試験を18体行った.括弧内は骨組試験体の数であ
る.局部座屈後は図9(b)のように変形すると仮定する.
る.図13に加藤等 6),松井等7)が行った軸力と曲げを受
図9(b)の崩壊機構を図10に示す.矩形断面の曲げモー
けるH形断面部材試験体を,表2に試験体諸元を示す.
メントと軸力の相関耐力式は次式で表される.
2
M  N 
M +  N  = 1
(19)
表中の
p
は降伏応力を
u
は引張強さを表しており,前
の文字のf とw はそれぞれフランジとウェブを表して
いる.図14に代表的な解析結果と実験結果を表してい
p
ここで,Mp は全塑性モーメント,Np は降伏軸力である.
る.図中のMp は軸力を考慮した全塑性モーメント, p
棒材中央の塑性ヒンジにおける釣り合い条件は
M = N = Nlb ' /2
y
2
(20)
である.この条件から,以下の式が示される.
−k + k + 12 N p
(21)
=
N
2
ここで,k=2-8lb’u/tf2 である.式を用いて軸方向変位と
n =
τb
-0.06
6
8
た応力歪関係を二本の直線に近似した.本研究ではフ
10 b/t 12
f
14
10
16
15
ランジの第二劣化開始点の歪を局部座屈発生歪より約
0.5
0.6
0.4
R
R
spm
spm
'
0.7
0.4
30
(b)ウェブ
図11第一劣化勾配係数
0.5
ウェブ部分の bE は,図7(c)に示すように分割し,フラ
20 d/t 25
w
(a)フランジ
た.
B/8
-0.04
となる.三谷の曲げ試験についてこのようにして求め
3.0%後とした. b' とフランジの幅厚比 b/tf の関係を示
tf
-0.02
-0.04
のが応力であり,軸方向変位u を lb' で除したものが歪 -0.08
したものが図11(a)である.この図より式(16)が得られ
N
図10塑性崩壊機構
τb '
軸力の関係を求める.軸力を棒材の断面積で除したも
u
v
lb'=lb/2
N
2
6
ンジの b’ と同様に図11(b)に示す(22)式で与えられる.
36-3
8
10 12b/t14
f
16 18
0.3
0.2
10
15
20 d/t 25
w
(b)ウェブ
(a)フランジ
図12第二劣化開始点の応力を座屈応力で除した値
30
は全塑性部材角である.QLBC6-40において,本提案式
6. 結論
を利用した解析結果の方が実験結果より劣化開始時の
角形及びH形断面部材と骨組の局部座屈挙動を予測
回転角が大きい.これは,実験では横座屈など局部座
する部材要素モデルの開発を行い,その予測式の適用
屈以外の劣化挙動が生じているからだと思われる.そ
可能性を検討した.その結果次のことが言える.
の他の試験体では良く一致している.本提案式を利用
1)角形断面部材と骨組においては,山田等の既存の
した解析結果では負勾配は非常によく一致している.
予測式を利用した解析で,
実験結果を充分予測できる.
一方,山田等の予測式を利用した解析結果では,負勾
2)H形断面部材においては,本提案式の方が山田等
配が解析結果より緩やかである.繰返し載荷について
の予測式より局部座屈挙動を精度良く表現している.
は耐力を低く評価する傾向にある.これは解析プログ
但し繰返しを受ける部材については検討の余地がある.
ラムにおいて,応力歪関係モデルが局部座屈後も引張
参考文献
1) 河野昭彦,松井千秋,清水るみ:SRC 構造多層ラーメン架構の全体崩壊
機構形成に要求される柱梁耐力比の基礎的性質,構造系論文集, No.505,
1998.3,pp.153-159.
2) 山田哲,秋山宏,桑村仁:局部座屈を伴う箱形断面鋼部材の劣化域を含
む終局挙動,日本建築学会構造系論文報告集,第444 号,135-143,1993.2,
および,局部座屈を伴うH鋼部材の劣化挙動,日本建築学会構造系論文報告
集,第 454 号,179-186,1993.12.
3)津田恵吾,軸力と水平力を受ける鉄骨系柱材の弾塑性挙動に関する研究,
九州大学博士論文,1993
4)久家明子,河野昭彦:鉄骨系骨組の局部座屈による耐力劣化挙動を予測す
る部材要素モデルの開発,九州支部研究報告書,第 41 号,2002.3
5)三谷勲,不安定現状を伴う鋼構造部材及び骨組の繰返し弾塑性変形性状に
関する研究,九州大学博士論文,1980
6)加藤勉,中尾雅躬,高性能鋼柱の耐力と変形能力に関する実験的研究-そ
の2-実験結果の検討,日本建築学会大会学術講演梗概集,1991,pp.1261-1262.
7)松井千秋,河野昭彦,津田恵吾,吉住孝志,堺純一,鉄骨骨組の変形能力
に及ぼす鋼材の降伏比の影響に関する研究,平成2年度科学研究費補助金
(一般研究(C))研究成果報告書,1991.3.
に反転すると,剛性が局部座屈がなかった場合と同じ
値に復帰するように仮定されているが,ここでは両フ
ランジの歪が圧縮側に急速に移行することになり,そ
の結果曲げ抵抗が急減したと考えられる.
表2 H形断面試験体諸元のまとめ
曲げ
単調
繰返し
5.37∼18.0
6.1∼16.0
8.3∼12.5
14.4∼40.0 19.6∼50.0 25.0∼31.0
2.78∼5.36 2.78∼5.36
2.78∼3.9
3.61∼6.03 4.09∼6.48 4.45∼4.77
106
41(16)
18(6)
* ( )門形ラーメン
短柱圧縮
b/tf
b/tw
σy
σu
総数
P
表3 H形断面部材試験体諸元
B
N
t
f
N
L
D
L
t
w
Y863
150×150×6×6
2
2
2
1.5
1.5
1.5
1
M/Mp
b/t f d/tw
M/Mp
t
f
断 面
200×144×9×12
202×192×9×12
205×241×9×12
291×143×9×12
379×143×9×12
M/Mp
図13試験体図面
試験体名
QLBC6-20
QLBC8-20
QLBC10-20
QLBC6-30
QLBC6-40
0.5
0.5
0
1
0
5 θ/θp10
15
(a)QLBC6解析(本提案式)
QLBC6-20
QLBC6-30
QLBC6-40
0
0
15
0
2
1.5
1.5
1
M/Mp
5 θ/θp10
(b)QLBC6実験
1.5
0.5
0.5
0
0
QLBC6-20
QLBC8-20
QLBC10-20
0
12
8
4
0
-4
-8
-12
-6 -4 -2 0 2 4 6
R(%)
(g)Y863解析(本提案式)
75
3.90 3.90 4.77 4.77 31
w
f u
σ
w u
σ
N
6.38
6.38
6.38
6.38
6.38
6.48
6.48
6.48
6.48
6.48
67
84
99
79
90
σy
4.70
4.70
4.70
4.70
4.70
5 θ/θp10
15
(c)QLBC6解析(既存)
1
5 θ/θp10
(e)QLBC-20実験
15
0.5
0
0
5 θ/θp10
(f)QLBC-20解析(既存)
12
8
4
0
-4
-8
-12
H(t)
H(t)
12
8
4
0
-4
-8
-12
1
5 θ/θp10
15
(d)QLBC-20解析(本提案式)
13 25
σ
15
H(t)
0
4.45
4.45
4.45
4.45
4.45
0.5
M/Mp
2
f y
105
125
135
105
105
1
M/Mp
2
0
L
20
20
20
30
40
6
8
10
6
6
-6 -4 -2 0 2 4 6
R(%)
(h)Y863実験
図15 H形断面部材モーメント回転角関係
36-4
-6 -4 -2 0 2 4
R(%)
(i)Y863 解析(既存)
6
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